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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#19「おやすみ」

Report#19「おやすみ」 作:ランペル


人殺し…。
快楽殺 人。
殺されても文句言えないよね…。
随分と乗り気だな?楽しもうぜ殺し合いをよ…。

「ぅ……うぅ………」

梨沙…父さんは、梨沙が人を殺す子だなんて思ってなかったよ…。

「ち、が………」

人殺しの面倒は見切れない。裏切られた気分だ…。

「おと、さん………」


さようならだね。


「お父さん…!」


体が飛び跳ね、辺りを見渡す。周囲は、薄暗く明かりが灯されていて何もない黒い壁と床が見える。

「ゆ、め……?」

最悪な夢だ。
体はものすごい脱力感に包みこまれており、床で寝ていたからか体中が痛い。

「体が…重たい……。
そうだ…おじいさんは……」

おじいさんが居た方へと視線を向けるとそこにはおじいさんが先ほどまでと全く同じ状態でそこに居た。

「やっぱり……私が…」

夢であって欲しかった。悪夢で終わる事を切に願ったが、現実はそれを許さない。
どれだけ見つめても、どれだけ待っても、おじいさんが居なくなることも、動き出す事もなかった。

「お父さん…私…どうしたらいいの…?
私…デュエルで…おじいさんの事、殺しちゃったよ………」

救われない悲鳴を零す。
後悔、懺悔、苦痛、失意、悲嘆…
ありとあらゆる負の感情が梨沙を取り巻く。

「(あのおじいさんとなら、話し合えたかもしれなかったのに。
私と同じように何も知らなかったかもしれないのに。
あんなに楽しそうにデュエルをしていたのに)」

ああしていれば、こうしていれば。
戻らぬ過去を悔やみ続け、自分を責め続ける。

自己嫌悪を続けていると、突然アナウンスから機械気質の声が聞こえてくる。


ザザッ
「裏野梨沙様、対戦相手の方が死後12時間が経過した為、こちらにて回収を行います。
次回以降、申請が12時間以内に行われなかった場合、ペナルティとして2000DPが発生します。ご注意ください。」


淡々と行われた説明の後、扉が開く音がする。

ピーガチャ

扉が開かれると、外から緑色の歪んだスコップを引きずりながら、緑色の小柄な生物が入って来た。
その明らかに人ならざる容姿と、この環境から何かしらのモンスターのリアルソリッドビジョンという事は容易に想像がついた。
モンスターはおじいさんの足を掴むと、そのまま引きずって扉から出ていこうとする。

「あ……」

何をする訳でもないが、どうしたらいいのか分からず声が漏れる。
モンスターは聞こえているのか聞こえていないのか分からないが、こちらを無視しそのままおじいさんと共に外へと出て行ってしまった。

「12時間…」

どれだけ眠ってしまっていたのか分からなかったが、かなりの時間意識を失っていたようだった。そして、その間ずっとおじいさんは放置されていたのだ。

「(私…おじいさんの命を奪ってしまったのに…手を合わす事すら…)」

そんな権利がない事は分かっていた。
だが、どんな形であれ自分が関わった人の死を弔う事さえ出来ず、連れていかれてしまった。
それが、どれだけ失礼な事だっただろうか。自分を擁護する訳ではないが、意図していない殺 人だ。
身勝手だがきちんと謝ることだって出来ていない。最低限それぐらいは出来たはずなのだ。
その命を奪ってしまった者を尊び、その者へ手を合わせる。
それが、自ら殺めてしまった者へのせめてもの礼儀ではないのか?

おじいさんが居た場所に何かが落ちているのを見つける。

「あれは…」

重たい体を何とか引きずりながら、そこへと向かう。
そこには、おじいさんがかけていた眼鏡が落ちていた。
レンズは割れてしまっており、フレームも熱と衝撃で変形してしまっている。

「駄天使の爆発で…」

歪んだ眼鏡を手に取り、おじいさんが受けたであろう衝撃を想像する。

「お名前は…確か、佐藤さん…でしたか?」

おぼろげな記憶の中からおじいさんが名乗った名前を思い出す。

「私…佐藤さんにはとてもひどい事をしてしまいました…。
でも、私は家へ帰らないといけません」

許されないことをした。もし、外へ出てこのことが誰にもバレないとしても。
悔やんでも悔やみきれない自らの蛮行。
恐怖で佐藤と向き合えなかったこと、薬で得た快楽のままにデュエルをしたこと、
たとえそこに魂が既に残っていないとしても、死者を前に何も出来なかったこと。

「佐藤さんとはもっとちゃんと話をするべきでした…。でも、恐怖に負けて話をするという選択肢が取れませんでした。
ごめんなさい…。
外に出て必ず罪を償います。
自分のしたことを隠してしまったら…もうお父さんの前で娘を名乗れなくなってしまいます。
だから…」

息を飲み、そこにはいない老人と自分へ決意と意志を告げる。

「少しだけ待っていてください…。
必ず、家へ帰ったら佐藤さんの家族を必ず見つけて、これを渡します。
佐藤さんの最期を誰も知らないなんてことに、ならないように…」

前へ進まないといけない。
もう、何も知らない子供では通らない。
過程はどうであれ、人ひとりの命を奪ってしまったのだ。
恐らく自分を襲いに来たのではなく、誰かにデュエルするように指示された何も知らない人を。
諦めてはいけない。諦めてしまっては彼の最期を語るものが居なくなってしまう。
おじいさん、佐藤さんの死を無駄には決してしてはいけない。
それが、私に出来る最大限の贖罪になるはずなんだ。



「(食欲は一切ないけど…何か食べないと体が思うように動かないね…)」

新たな背負った使命を前に、自分の体が空腹を訴えている事を察知する。
デュエルディスクの端末から、一番安い食事を頼む。
ご飯に味噌汁、焼き魚、煮物に漬物…と、久々に目にする温かい食事だったが、先ほどまでの事もあり全く惹かれない。
何なら吐き気さえあるが、無理やり食べ物を口に押し込む。

食事を済ませ、改めて体を休めることにする。
固い床では、あまりに体の疲労が抜けない為、買えそうな寝袋を購入し、寝袋の中へ入り込む。

「しっかり休んで…もう一度外に出てみよう…。
何とかして、アリスさんと合流していろいろ情報を聞かない事には始まらない…」

何にしても足りないのは情報。
現在、一番友好的なアリスさんの居場所さえ分かっていない。チュートリアルが終わってから会う事を考えて、もっといろいろと聞いておくべきだったと後悔する。

「(寝袋…柔らかい…床とは大違い…)」

久々に味わう布団に近しい柔らかな感触の中で、梨沙は眠りにつく。





 -----





「くっ…そ…」

無機質な白い通路をボロボロになった桃色の服を着た茶髪の少女が、頭から少し血を流しながら歩いている。
少女は歩みを段々と緩め、壁にもたれかかりながらその場へと座る。

「もう、動けない…シェルターまで無理…(鼓膜がやられてるのかな…右耳が完全に聞こえない…)」

少女は肩で息をしながら、焼けただれた右腕を左手で押さえている。

「(もう…逃げ回ってたから疲れて、動けない…。
夜になったら…《夜襲》が…でも…シェルターまで行けない…)」


ピンポンパンポーン


【ただいまより就寝時間となります。約9時間フリーエリアの各機能に制限が掛けられ、各フロアの扉がロックされます】


アナウンスの後、フリーエリアの照明が1つ置きに消され、点々と照明が照らされている様になった。

「もうか…(どっちみち、動けないし…少しだけ休んでシェルター目指さないと…)」

疲れた体を休めるべく、少女は意図せず目を閉じる…。


 ---


じりりりりりりりりりりりりりりrrrrrrrrrrrr

「は!?」

突如として左耳に鳴り響いた目覚ましの様なけたたましいベルの音に少女はたたき起こされた。

「ひっひっひ、おはよう彩香ちゃん」

声のする右側へ目を向けると、そこにはたくさんのアイスクリームとアイスコーンで組み上げられ、肩の位置でベルを鳴らす巨大な怪物がいた。

「な、なん…!?」

余りに突然の事に状況を把握できない。
そのアイスの怪物は口にびっしりと並んだコーンの牙をかみ合わせる。
本来であれば、すぐに粉々になってしまいそうなその牙はしゃりしゃりと音を立てるだけで、その形状を保っている。

そして、その後ろにはチョコレートを纏った狼男の様な怪物と、クリームに身を包んだ獣の様な怪物がひっそりと佇む。
その2体の怪物の間に、派手な真珠のネックレスを着けた、黒いボブヘアーの中年女性がこちらを見てにやにやと不愉快な笑みを見せている。

「寝起きドッキリは大成功だねぇ。ここに来てこれだけが愉しみなのよねいつも!」

ひひひと笑う女を前に桃谷は、自分が窮地に追いやられている事に気づく。

「くっそ…!?」

「桃谷 彩香ちゃんって言うのよねぇ?あんまりに可愛らしく寝息を立ててるもんだから、おばさん起こすの忍びなくって勝手に始めちゃってたわぁ」

「なんで私の名前…」

「ちょっと画面を見させてもらったのよぉ!見た目だけじゃなくて名前まで可愛いのねぇ」

フリーエリアにおいては、就寝時間になってもデュエルが出来ない訳ではない。たとえ、片方が寝ていた場合でも双方のデュエルディスクさえ起動すれば、デュエルは開始される。
ターンプレイヤーの意識がなくとも、時間さえ経過すれば強制的にターンエンドに移行してターンが相手へと移る。就寝時間の弊害で、強制ターンエンドの警告もアナウンスされない。

自身のデュエルディスクを確認すると、間違いなく起動しているのが分かる。

「ふざ、けんな…(いつの間に寝てた?右耳が聞こえなくて気づくのにまで遅れたの…?最悪だ…)」

「ひっひ、その反応が見たかったんだよ!
それじゃぁ起こしたばっかりで悪いんだけど、また寝てもらうわよ。
手札から魔法カード《野生解放》を発動。獣族の《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》を対象として、その攻撃力を自身の守備力分上昇させるわ。代わりにターン終了時に破壊されてしまうけれどね」[攻5000]
手札:6枚→5枚

魔法が発動されると、アイスの怪物が巨大な雄叫びをあげ、それと同時にベルがけたたましく鳴り響く。

「(攻撃力5000…まずい!?)」

攻撃力の数値に顔が自然と引き攣る。
騒音に耐えながら、急いで現在のターン数を確認し、デッキからカードを引く。

「(3ターン目…今あいつのターンだから手札は6…!)」
手札:0枚→6枚


「今更カードを引いてもどうにもならないわよぉ!
バトルフェイズ!」

「まだ!手札の《エッジインプ・サイズ》を相手メインフェイズに見せて効果発動…!」

「なんですって?」

「手札のこのカードを含めたモンスターを素材にデストーイ融合モンスターを融合召喚する。
私は手札の《エッジインプ・サイズ》と《ファーニマル・ペンギン》で融合…
融合召喚!

切り裂け、《デストーイ・クルーエル・ホエール》!」[攻2600]
手札:6枚→4枚

フィールドへと柔らかそうなシャチのモンスターが、地面から水しぶきをあげて飛び出してくる。そして、飛び出したシャチを地面へと叩きつけるように3枚の刃が空から降り注ぎ、シャチの体バラバラに引き裂く。
引き裂かれた体を縫い合わせるように切り裂いた刃がシャチの体を繋ぎとめ、お腹の切り口から赤い目が怪しく光る。

「あらあら、可愛い顔して随分とおっかないモンスターを扱うのねぇ」

「クルーエル・ホエールの融合召喚成功時に効果発動。さらに、素材に使った《ファーニマル・ペンギン》の効果も発動。
デッキからカードを2枚ドローして、手札1枚を捨てる。私は手札の《ファーニマル・ウィング》を捨てる。
手札:6枚→7枚

そして、クルーエル・ホエールの効果で自分と相手フィールドのカード1枚ずつを選んで破壊できる!私は、クルーエル・ホエール自身と攻撃力5000のモンスターを破壊する!」

「せっかく出したのに、自分から破壊するのかしらぁ?」

「いや、墓地の《エッジインプ・サイズ》は、自分のデストーイ融合が破壊される場合に代わりに墓地から除外する事が出来る。これで破壊されるのは、あんたのモンスターだけ!」

中年女性は焦るでもなく、薄く微笑みながら両の掌を合わせて手を叩く素振りをする。

「それは奇遇ね。私も永続魔法《ネムレリアの寝姫楼》の効果でネムレリアが破壊される場合、代わりにEXデッキから裏側のカード1枚を除外できる」

「な…!?」

クルーエル・ホエールが尾を振るい、二つの刃を上空へと飛ばす。
1枚はホエールの元へ向かい、尾の残った刃で払いのけられ、レヴェイユへと向かった刃は途中でぐにゃりとゆがみ、紫色のシャボン玉となって弾けた。

「ひひ!残念彩香ちゃん、攻撃力5000のレヴェイユをどかせられなかったね?」

「くそ…」

桃谷の手札で、他に使えるカードは残っていない。相手フィールドには攻撃力5000のモンスターの他にも2体のモンスターが控えている…。

「(手札はよかった…寝てる所さえ狙われなければ…)」

危険性は十分把握していた。その上で意識を飛ばしてしまった己の浅はかさを悔やむ。

「これで打ち止めみたいね?ならバトルに入るわよ!」

このまま攻撃が通れば負ける。この状況で他の2体のモンスターの攻撃力が低いなんてことはあり得ない…。
ならば…


「おばさん…私がなんでクルーエル・ホエールを攻撃表示で出してるか分かる?」

「あら、それは何故かしら?」

「クルーエル・ホエールには、EXから別のデストーイを墓地へ送ることで、自身の攻撃力をその元々の攻撃力分アップさせることが出来る効果があるからよ…」

「なっ…ということは…」

「そう…実質攻撃力は倍になって《デストーイ・クルーエル・ホエール》の攻撃力は5200になる。おばさんの攻撃力5000じゃ足りないよ……」

「………」

「さぁ、どうするの?攻撃しても意味はなくなった訳だけれど」

「彩香ちゃん…寝込みを襲われたって言うのに随分とおばさんに優しいじゃない?」

「……私だって、別に人殺したい訳じゃないし…。
私が死なないなら、見逃すって言ってるだけ………」

「んふふ…そう、優しい、優しいのねぇ…」

女は俯き肩を震わせる。

「攻撃しないなら…私のターンってことでいい?」

「あたしねぇ、嘘言ってる人ってすぐ分かるのよね~」

俯く女はこちらも見るでもなく、冷ややかに言い放つ。

「な、なにを…」

「嘘つく人ってね。平然と嘘をつくの。
まるで当たり前、それこそが真実の様に嘘を語る。
でも、視野を広く持ったら嘘って言うのはどこかしらにほころびが生まれてくるのよ。
彩香ちゃんの名前までは知らなかったけれど、噂は聞いてるわ~」

女は顔をあげ、薄気味の悪い笑顔を桃谷へと向ける。

「(う…)」

「巧みに相手を話術でハメ落とす、刃物で身を包んだモンスターを使うデュエリストが最近台頭してきてるってね。そのモンスターでよーく分かったわ。
彩香ちゃんの可愛らしい見た目や語りは全部見せかけ。
性根はその、残虐なモンスター。
そういうことなんでしょ~?」

まるですべてを覗き込んできているかのように、暗い瞳でこちらを見遣る女を前に、桃谷は背筋に寒気が走る。

「何をいってるか…」

「この状況でわざわざ自分のモンスター効果を相手に教えて、攻撃する意味がない?
それ、彩香ちゃんが生き残るための苦し紛れの言い訳でしょ~?」

「な、なら試してみればいいじゃん…。攻撃してくるなら、次のターンあなたを殺す…」

明確な殺意を放ち、相手を威嚇する。
だが…

「まだ分からないのね…夜襲された恐ろしさを…」

女は不気味に笑い始める。

「寝ていた彩香ちゃんの情報なんて、寝ている間にすべて丸裸よ!
《デストーイ・クルーエル・ホエール》の攻撃力の上昇値は攻撃力の半分だけ!
つまり…攻撃力は3900止まり…そうよね?」

「な……もしか、して…」

「もしかしなくとも、そうよ!
彩香ちゃんが寝ていた間にあなたのデッキのカードは全て確認済み!
そうとは知らずに、丸裸となった嘘を赤裸々に語るあなたの姿は滑稽でしかなかったわ!
ひひ、ひっひっひ!!!」

全て知られていた。桃谷の喋る事が嘘だったと。
女は口元が裂けんばかりににんまりと口角をあげ、しわくちゃの顔で嫌らしく笑い出す。

「わるいわるいうそつきさんには、お仕置きが必要…よね?」

「ま、まって…私、死にたくなかっただけで…」

笑っていた女は突如、怒りの表情を見せ語気を荒げてモンスターの攻撃宣言を行う。

「だまりな売女。あたしゃ、嘘つくやつが一番嫌いなんだよ。
バトルフェイズ、《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》で、《デストーイ・クルーエル・ホエール》を攻撃!」[攻5000]

「ぐ…《デストーイ・クルーエル・ホエール》の効果で、デッキから《魔玩具厄瓶》を墓地に。攻撃力を…アップさせる」[攻3900]

「ならこっちもよ。《ネムレリアの夢守り-オレイエ》の効果を発動。
エクストラから裏側カード1枚を裏側で除外し、オレイエの攻撃力はターン終了時まで相手フィールドのモンスターの数×500アップする!」[攻3000]

フィールドへ鋭い刃で生み出された禍々しいガシャポンが現れる。
それをクルーエル・ホエールが尾の刃で切り裂く。すると、中に閉じ込められていた赤い目の光るカプセルが大量に飛び散る。
また、チョコレートにまみれた獣は、クルーエル・ホエールを見つけると瞳を黄色く光らせながらどこから取り出したか分からないクッキーのようなものをバリバリと食べ始める。

「墓地へ送られた《魔玩具厄瓶》の効果発動!
《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》を対象に攻撃力をターン終了時まで半分にする!
(デッキに1枚だけのこのカード…扱いにくいメイン効果に隠れてクルーエル・ホエールとのコンボまで気づきにくいはず…!)」

「はったりだけではなかった訳ね…。
でも残念。《ネムレリアの夢守り-クエット》の効果発動!
ネムレリアを対象とする効果を、エクストラデッキから裏側カード1枚を裏側で除外する事で発動を無効にするわ!」

アイスの怪物の元へと転がって行った1つの怪しいカプセルが、膨張し弾けそうになる瞬間、
レヴェイユの背後にいた白いクリームを纏った獣がそれを口へ頬張りもぐもぐと食べてしまう。

「な…っくそ…!」

レヴェイユが巨大なアイスクリームの塊をクルーエル・ホエールへと投げつける。ホエールの姿を覆い隠したそのアイスクリームをレヴェイユがコーンの牙でバリバリと音を立てながら、全て平らげた。
食べ終えたレヴェイユは咆哮をあげると共に、肩にあるベルをけたたましく鳴り響かせる。

「うぅ…!あ…あたまが……」

桃谷LP4000→2900


聴力の生きている左耳を、巨大なベルの音が襲う。頭まで響き渡るその轟音に耐えられず、手で左耳をふさぐ。

「ひぃっひっひっ!永遠の眠りにつかせてあげるわ!
《ネムレリアの夢守り-オレイエ》でダイレクトアタック!」[攻3000]

「ゆ、ゆるしてよ…あたしだってやりたくてやったわけじゃ…」

体からチョコレートを滴らせる巨大な怪物が甘い匂いをさせながらのそのそと近づいてくる。
着実に歩み寄る死に、体が強張り体を引きずるように後ずさる。

「や、やだ…!死ぬのだけは…!」

死を知覚した瞬間、肉体は限界を超えて逃避行動に移る。
迫りくる怪物から、体が動く限りの全速力で無機質な廊下を駆け出す。

「(就寝時間はシャッターも降りてない…何とか逃げ出せさえすれば…)」

「往生際が悪い子だねぇ…」

桃谷が走る前方に突然、頭にエクレアの角を生やしたクリームの怪物が現れ、勢いを殺せず怪物の体へと飛び込んでしまう。

体中が甘い匂いと、柔らかな感触に包みこまれる。

「あま……(うそ、やだ…うごけない…!?)」

怪物のクリームに体を取られ身動きが出来ず、必死にもがく。
何とか顔を外に出す事ができたが、目の前にはチョコレートの怪物が先ほどまでの、のそりとした動きからは考えられない速度でこちらへと走り寄って来ているのが見えた。

「ひっ…!?や、手と足が…!?」

手と足はまだ怪物のクリームの中で全く動かせない。

「や、やだ…!助けて…!だれか、たすけてぇぇぇぇ!!!」

大声をあげる桃谷の口の中へ何かが押し込まれる。

「んぐっ!?」

口の中にエクレアのチョコとクリームの甘い味わいが広がる。

「女の子がはしたなく大声あげるもんじゃないわよぉ?」

唯一自由に動かせる目は、まっすぐこちらへ向かって来るチョコレートの狼男に釘付けになる。

「んん!?んんんんん…!!!」

避けようのない攻撃、
間近まで迫る死、
恐怖で目から味気ない雫が頬を伝う。


グシャ


「んぉぁ……!!??」


怪物の鋭い爪の生えた腕は桃谷の腹部を貫通し、茶色のチョコレートへ赤黒い血が混ざり込む。
胃から逆流してきた血液が口内へと到達し、甘い味わいと鉄の味が一緒くたになる。
壮絶な痛みを前に桃谷は目を大きく見開くが、それを境に視界は暗転する。


「おやすみ、彩香ちゃん」


女の声を最後に、桃谷の五感と意識はクリームとチョコレートの甘く柔らかな感触の中へと沈んで行った………。

桃谷LP2900→0

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