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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#59「蝕みの鱗粉」

Report#59「蝕みの鱗粉」 作:ランペル

「僕のターン、ドロー!」
手札:4枚→5枚

白神が勢いよくデッキよりカードを引き抜く。
梨沙の父親である裏野 晃啓を打倒すべく、白神の展開が始まる…。



白神-LP:8000
手札   :5枚
モンスター:なし
魔法&罠 :なし

ーVSー [ターン2]

裏野-LP:8000
手札   :3枚
モンスター:《大騎甲虫インヴィンシブル・アトラス》[攻]、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》[攻]
魔法&罠 :伏せ×1



「まずは、その蝉から消えてもらう」

左手で手に取った手札1枚を裏野に向けて掲げる。
その瞬間、ローカスト・キングの真上からウミガメを思わせる巨大な怪獣が現れ、ローカスト・キングを踏み潰してしまう。

「何…?」

「あんたのフィールドから《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》をリリースする事で、手札から《海亀壊獣ガメシエル》をあんたのフィールドへ特殊召喚」[攻2200]
手札:5枚→4枚

蹂躙されたモンスターの上でガメシエルが高い咆哮をあげた。
その迫力に気圧されながらも、梨沙が白神の好調を悟る。

「効果を発動していないから…ローカスト・キングの効果では止めれない!」

「そう。だから、彼の伏せてるであろうカウンター罠も反応できない。
《ギャラクシー・サイクロン》を発動だ。
相手のセットカード1枚を対象に破壊する。その伏せカードを破壊させてもらうよ」
手札:4枚→3枚

裏野の目の前に突如として星屑の竜巻が巻き起こり、伏せられたカードが宙に浮かび上がったかと思えば、そのまま星屑と共に消え去った。

「破壊したのは《騎甲虫空殺舞隊》!」

「………」

瞬く間に用意した妨害の手数を削り取られた裏野は、冷たい目で白神を睨むばかりだ。

「これで、安心して展開できる。
手札の《フィッシュボーグ-ハープナー》と水属性である《ドリーム・シャーク》をあんたに見せて効果発動。
見せたうちの一方を捨て、もう一方を特殊召喚できる。
僕は、《ドリーム・シャーク》を捨て、チューナーモンスター《フィッシュボーグ-ハープナー》を特殊召喚だ」[守400]
手札:3枚→1枚

水槽を模した機械のモンスターが銛を地面に突き刺しフィールドへと飛び込んで来る。
その水槽の中ではカジキらしき魚が鋭く尖った上顎を振り回した。

「《揺海魚デッドリーフ》を召喚。
召喚時効果により、デッキから魚族である《フィッシュボーグ-プランター》を墓地へ送る事が出来る」[攻1500]
手札:1枚→0枚

水面となった地面より青い目を光らせながら骨だけの魚類が浮上してくる。
その効果により、飛び出したデッキのカード1枚を白神は手に取り、墓地へと送り込む。

「チューナーとそれ以外が揃いましたか…。
このままシンクロ召喚に繋げるつもりですか」

「いいやまだだ。
墓地の《フィッシュボーグ-プランター》の効果を発動。
デッキトップを墓地へ送り、それが水属性なら自身を特殊召喚できる」

白神がデッキトップを引き抜き、チラリと確認したそれをフィールドにへと放る。
放られたカードは突如地面より這い出してきた機械触手に掴まれたかと思うと、地面より触手を生やした水槽のモンスターが花開く。
その出現により、デッキトップが水属性モンスターだったことを梨沙も理解した。

「デッキトップは…水属性モンスターだったんですね!」

「そ、水属性《白曼波》が墓地へ送られたことで、墓地から自身を特殊召喚だ」[守200]

特殊召喚したプランターを即座に掴み、さらにもう1体の水槽のモンスターハープナーをも手に取った。

「(あれ…もう1体は素材に使わない…?)」

フィールドの合計レベルは10だが、彼が手に取ったのはレベル4と2のモンスターだけだった。

「レベル2の《フィッシュボーグープランター》に、レベル4の《フィッシュボーグ-ハープナー》をチューニング。
シンクロ召喚。

来い、《白闘気砂滑》」[攻2000]

地面から水しぶきと共に白く丸みを帯びたモンスターが飛び上がった。

「このモンスター…初めて見ます。
鯨みたいな…イルカみたいな…」

どこか可愛らしいそのモンスターはきゅーきゅーと鳴き声をあげる。
その瞬間、水面より《フィッシュボーグ-ハープナー》が飛び出したかと思えば、手に持っていた銛が裏野のインヴィンシブル・アトラスに向けて放たれた。

「これは…」

「ポーポイズのシンクロ召喚成功時、手札か墓地からレベル4以下の魚族…《フィッシュボーグ-ハープナー》を特殊召喚できる。さらに、シンクロ素材として墓地へ送られたハープナーの効果により、相手モンスター1体の効果をターン終了時まで無効にする」

放たれた銛がインヴィンシブル・アトラスの背負う城砦へと突き刺さる。
その瞬間に、青白く輝いていた3つの角の光が失われていく。

「無効効果…」

「インヴィンシブル・アトラスの耐性が消えた…。
チューナーも蘇生出来てる!」

白神と2度のデュエルを経験している梨沙は直感で、彼のエースモンスターの内の1体が頭に浮かんだ。
それが的中したように、デュエルディスクから2体のモンスターが慣れた手つきで墓地へと送り込まれ、EXデッキの収納されている部分が勢いよく解放される。

「レベ4《揺海魚デッドリーフ》に、レベル4の《フィッシュボーグ-ハープナー》をチューニング。
シンクロ召喚。

来い、《白闘気白鯨》」[攻2800]

「やっぱり!」

白神の背後より大きな水音と共に巨大な白鯨が白神と梨沙を飛び越える。

「シンクロ召喚時、ホエールの効果で相手の攻撃表示モンスターを全て破壊させてもらう。
さらに、シンクロ素材で墓地へ送られたハープナーの効果も一応使っておく。今度は、《海亀壊獣ガメシエル》の効果をターン終了まで無効にしておくよ」

地面より銛が飛び出し、それがガメシエルに突き刺さる。
そして、白神の眼前へと着水した白鯨により引き起こされた津波が裏野のフィールドのモンスター全てを飲み込んだ。

「これで私のフィールドのカードはなくなってしまいましたね」

実に冷静に淡々と状況を述べる裏野。
梨沙はその態度に何かを隠しているような気配を感じとる。

「お父さん…何か状況を好転させるカードを持っているの…?」

「彼からすれば僕にダメージさえ与えられれば勝てるんだ。
ある程度余裕があるのには納得だけどね。
でも、攻めないと勝てないよ。バトルフェイズ。
《白闘気白鯨》であんたにダイレクトアタックだ」[攻2800]

地面へと潜行し、裏野の元へと向かうホエール。
その攻撃宣言に合わせて裏野が手札の1枚を手に取ったのが二人には見えた。

「相手の攻撃宣言時に手札から《ジャイアント・メサイア》の効果を発動。
このカードを手札から特殊召喚します」[守1500]
手札:3枚→2枚

裏野の目の前の地面が突如として沈んでいき、アリジゴクが形成される。

「特殊召喚した《ジャイアント・メサイア》の効果により、墓地の《共振虫》を攻守500アップの装備カード扱いとしてこのカードに装備します」[守2000]

流砂の底より巨大な昆虫が赤い口を広げて現れた。
鈴虫を思わせるモンスターが既に口の中へ飲み込まれており、緑の目が怪しく光る

「破壊効果持ちか…。
関係ない、攻撃は続行。ホエールで《ジャイアント・メサイア》を攻撃だ」[攻2800]

地面に潜っていた白鯨が、引き起こされた流砂の底より飛び出し中に居た《ジャイアント・メサイア》を上空へと弾き飛ばす。
天井にべちゃという音共にぶつかった赤い体のアリジゴクは破壊された。

「《白闘気白鯨》は守備モンスターを攻撃した時に貫通ダメージを与える。
800ダメージをくらってもらう」

飛び上がった白鯨が流砂の中へと着地すると、大量の砂が裏野にへ向けてマシンガンのように飛び散る。

「う…げほっ……」

裏野LP8000→7200


粉塵を巻き起こしながら、裏野の周囲に砂屑の山が出来る。
咳き込みながらも、裏野はデッキから飛び出した1枚を手札にそっと加えた。

「げほっ…墓地へ送られた《共振虫》の効果です。
デッキからレベル5以上の昆虫族である《マザー・スパイダー》を手札に加えます」
手札:2枚→3枚

「(《マザー・スパイダー》…。)
続けて《白闘気砂滑》でダイレクトアタック」[攻2000]

丸みを帯びたポーポイズは頭を見せたまま潜水し、裏野の元へと突っ込んでいく。
水しぶきと共にポーポイズの体当たりを喰らった裏野は、後ろの砂屑の山まで吹き飛ばされる。

「うぉぁ…!?」

裏野LP7200→5200


弾き飛ばされる衝撃で、裏野の右足の義足からギシギシと軋む音が聞こえてくる。

「…お父さん」

ゆっくりと体を起こし立ち上がった裏野は、荒い呼吸をしながら白神のターンを急かす。

「私は…死ぬわけにはいきません…。
どうしたんですか?もうやる事がないなら…早くターンエンドを…」

無表情を装う父の姿はひどく弱弱しく、左足が震えているのが見えた。

「お父さん…もうやめてよ。
ダメージでそんなにボロボロなのに…。
お願い!私の事を娘だって信じられないなら…信じなくてもいい。
でも、私がお父さんに危害を加えるつもりがないって事だけは信じて…!
お父さんを騙して殺すつもりなら、なんで私は今もこうやってお父さんを説得しようとしてるの?私はいつまでお父さんを騙そうとしてるの?」

懸命にこちら側に攻撃の意思がない事を示す。
その必死の訴えかけに裏野は、顔を歪めたかと思うと即座に視線を梨沙から外し、拒絶を吐き出す。

「聞きたくない。あなたの言う事は聞きたくない。
聞きたくないんだ。
知りたくも見たくも記憶に留めたくもないんだ。
外に出る…ただその為に…私はデュエルをする…」

父親の苦しそうな嘆きを聞き、梨沙は再び胸を締め付けられるような気分になる。
どうすれば彼に救いの手を示す事が出来るのか。
そして、彼にその手を取ってもらえるのか。
必死に頭を巡らせていると白神が、呆れたような口調で父親へと話しかけた。

「外に出る為に必要だから、この子を殺すって?」

再び冷徹な目に戻った父親が白神を睨む。

「そうです…。
私は外に出ないといけない。その為に、騙される訳にはいかない。
疑わしきは罰するなんて言葉がありますが、その通りです。
ここに真実なんか存在し得ない。してるはずもないし、してはいけません」

「その割に、あんたずっっっとここに引きこもってるよな」

突如、裏野は目を見開き唇を震わせ始めた。

「な…に…??」

「そんなに外に出たいならもっと早くに出れたんじゃないの?って聞いてる」

「もっと早く…外に?」

梨沙も白神の話す内容が飲み込めず疑問を抱く。
視界の端に裏野を捉えたまま白神が梨沙の方を向き話を続ける。

「だってそうでしょ?
デュエルでダメージを与えるだけで相手を毒で動けなく出来る。
こんなの僕は事前に聞いてたからある程度対策をしているけど、初見じゃまず避けようがない。そして、倒した相手はデュエルが続行できずに殺される。
つまり、たった二人罠に嵌めるだけでお父さんは外に出る権利を手に出来るんだ。
僕が来るよりもずっと前からあんたはここに居るのに、何故その方法を実行していないのか…」

視界の隅で裏野が口をぱくぱくと動かすが、それから言葉が発されることはない。

「あんたは死ぬのが怖いんだよ。
娘に会うために死ぬわけに行かないんじゃない。ただ死ぬことを恐れているだけだ。
実際、娘が目の前に現れてもあんたはそれを拒絶している」

「ち”ぃ”があ”あ”あ”あ”あああああああああああああああああうぅ!!!!!」

フロア内に絶叫が響き渡った。
父親の声で響く心の底からの叫び声…。
温厚で優しかった父親のそんな一面に遭遇した梨沙は、一瞬怯んでしまう。

「お父…さん……」

「ち”がう!!!ちがうんだ!!!そんなわけないだろ!!!
私は娘に会う!梨沙に会うんだ!だから死 ねない!!
その為なら誰だろうが殺せる…。私は何人も殺して来たんだぁぁ!!!!!」

「でも、あんたはここを出ようとしていない。
噂じゃあんたが誰かなのかもフロアの外には出回ってやしない。
あんたが言ってる娘に会うために死ぬわけに行かないってのも体のいい言い訳だ。
死 ねないから外に出ようとしない。娘に死ぬ気で会いに行こうとはしていない!」

白神が淡々と無慈悲に裏野を言葉で追い詰める。
それは裏野が首を横に振りながら、顔をぐちゃぐちゃに歪めつつ、地面に崩れ落ちていくことから容易に想像がつく事だろう。

「ちがう…ちがう…ちがう…。
娘に会いたくない訳ない…会いたい…会いたいに決まってる……」

か細く弱り切った男の口から零れ落ちる言葉達。
その様を見た白神は、頭を掻いた後ため息とともにバトルフェイズの終わりを宣言した。

「はぁ…バトルフェイズ終了…。
《白闘気白鯨》と《白闘気砂滑》でリンクマーカーをセット。
リンク召喚。

来い、LINK2《アビス・オーパー》」[攻1500]

召喚されると共に、釣り竿のウキが水面に浮かんでいる様に明るい何かが水面に姿を見せる。

「墓地の《揺海魚デッドリーフ》を除外し、墓地から魚族3体をデッキに戻して1ドローできる。墓地から《白闘気砂滑》、《白闘気白鯨》、《白曼波》の3体をデッキに戻して1枚ドロー」
手札:0枚→1枚

デッキとEXデッキへカードを戻し、デッキトップからカードをドローする。
一連の処理を終えてなお、裏野は地面に崩れ落ちたままだ。

「僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ。
どうするかはあんたが決める事だ。いろいろ失ったものもあるんだろうけど…あんたが大事にしてるもんはまだ残ってるだろ?
でも、それを自分で捨てようとしてることに気づきなよ」

「うるさい………黙れぇっ!!?」


白神-LP:8000
手札:0枚


 [ターン3]


「ドロー!!!
手札から《電子光虫-ウェブソルダー》召喚!」[攻500]
手札:4枚→3枚

突如立ち上がった父親は、怒りに身を任せ乱暴にデッキからカードを引きモンスターを召喚する。
それにより、フィールドへ電子部品を思わせる蜘蛛のモンスターが出現した。

「昆虫族レベル3の召喚時ぃ、《電子光虫-レジストライダー》の効果!
このカードを特殊召喚して2体のレベルを7に変更だ!」[守1000]
手札:3枚→2枚
《電子光虫-ウェブソルダー》:☆3→☆7
《電子光虫-レジストライダー》:☆3→☆7

地面をすいすいと滑る電子のアメンボが出現する。レジストライダーの走った地面は、電子の光が流れ、その光がウェブソルダーの元にも届くと蜘蛛の巣の様な電子の光がウェブソルダーの足元を走った。

「昆虫族3体を墓地から除外して、《騎甲虫アームド・ホーン》特殊召喚!
さらに、除外された《共振虫》の効果でデッキから《パラサイト・フュージョナー》を墓地に送る!」[攻1000]

怒りのままに早口でまくし立てる裏野の前に蘇ったアームド・ホーンの体が刃で貫かれる。

「アームド・ホーンをリリースし、手札から《マザー・スパイダー》をアドバンス召喚する!」[攻2400]
手札:2枚→1枚

巨大な蜘蛛のモンスターがのそりと裏野の頭上より現れると、8本の足が地面へと深く突き刺さった。

「デュエルも雑になったらいよいよ勝ち目はないよ。
罠発動《激流葬》!モンスターの召喚に反応して、フィールドのモンスターをすべて破壊だ!」

「なぁ…!!?」

発動された罠カードより激流がフロア内に流れ込む。
勢いのある激流が水面に浮かぶ明かりを、そして裏野のフィールドのモンスター全てを飲み込み破壊した。

「あ…が…ぁ、ぃ…がぁ…」

両手で頭を抱えた裏野が錯乱し、言葉にならない声を上げ始める。

「終わりだね…」

白神がそう口にする。
展開したそのすべてが《激流葬》により奪い取られた。父親はもうデュエルする気力などないだろうと梨沙も感じた。

しかし、裏野は頭を抱えたまま一瞬固まると口を開いた。

「………ターンエンド」


裏野-LP:5200
手札:1枚


 [ターン4]


「…それはまだやる気があるって事?
それとも、もう諦めたって事か?」

白神の問いに裏野は答えない。
放心した顔で己の右手に握られた手札を見ているだけだ。

「お父さん…ごめんなさい。
さっきは少しびっくりして、黙っちゃった……。
お父さんが苦しんでること…それだけは分かるよ…」

目元に涙をためた梨沙が、ゆっくりと放心した父親に言葉を贈り続ける。

「私…本当に悔しい。
お父さんがこれだけ追い込まれて苦しんでるのに、私にはなんにも出来ない…」

どれだけ寄り添い言葉を贈ろうともそれが父親の耳に入ることはない。
顔をしかめた白神が梨沙を制止し、デッキからカードを引く。

「梨沙さん、あの人は今全部が上の空だ。
今はこのデュエルを終わらせよう。
僕のターン、ドロー」
手札:0枚→1枚

「翔君…」

ドローしたカードを確認した白神が、梨沙に確認を取った。

「このデュエルが終わってからだ。
だから、僕はこのデュエルを終わらせる。
いいね?お父さんは殺さないが攻撃するよ」

白神が口にする攻撃の宣言。
デュエル上では、ただ相手のライフを減らす手段に過ぎないが、ここでは相手を傷つける事になる。
息を吸い込んだ梨沙は覚悟を再び決め込む。

「お願いします…。
あんなに苦しそうなお父さんを…これ以上…見ていられません……」

「よし…。
僕は手札から《ダブルフィン・シャーク》を召喚」[攻1000]
手札:1枚→0枚

尾が二つに分かれた紫の皮膚の鮫のモンスターがフィールドを回遊する。

「召喚時効果で、墓地からレベル4の魚族《フィッシュボーグ-ハープナー》を特殊召喚」[守400]

ダツの入った水槽の機械モンスターが、何度目かのフィールドへと浮上してくる。

「《フィッシュボーグ-プランター》の墓地効果を発動。
デッキの上からカードを墓地に送りそれが水属性なら特殊召喚できる。
デッキトップは……っ!?」

プランターの効果によりデッキトップをめくる。
しかしそれは、蘇生の条件を満たす水属性ではなかった。

「(このターンでは決めきれない…。)
…デッキトップは魔法《禁じられた一滴》だ。
でも、レベル4の《ダブルフィン・シャーク》にレベル4の《フィッシュボーグ-ハープナー》をチューニング。
シンクロ召喚。

来い、《白闘気白鯨》」[攻2800]

再び白神の元へ真っ白な皮膚の巨大な鯨が呼び出される。
その大きなモンスターの出現にも、裏野は反応を示さず己の手札を見つめたままだ。

「バトル、《白闘気白鯨》でダイレクトアタックだ」[攻2800]

白神の警戒していた残された手札が攻撃に反応して使われることもなく、白鯨の起こした津波が裏野を飲み込んだ。

裏野LP5200→2400


「(お父さん……)」

父親が津波に飲み込まれる瞬間目を逸らしてしまいそうになる。
だが、逃げる訳にはいかない。父親が理性を保てていない以上…。

「(私が助けないといけないんだ!!)」

水が引いていくと裏野の姿が見えてきた。
全身が濡れており、髪の毛の先端から水が地面にぽたぽたと滴り落ちている。

「…僕はこれでターンエンドだ」


白神-LP:8000
手札:0枚


 [ターン5]


「ドロー、モンスターとカードをセットして…ターンエンド……」
手札:1枚→2枚→0枚


裏野-LP:2400
手札:0枚


 [ターン6]


即座に返された白神のターン。
しかし、カードを伏せている事からまだデュエルを続ける気ではいる様だ。

「…まだ何か狙ってるの?」

「梨沙はいない。
私を憶えているはずもない。
ははっ……会いに行ったって……父親としてみてくれる訳でもないじゃないか…。
私は人殺しで、もう人間でもないんだろう……?」

裏野は白神の言葉に返事することなく、彼の頭の中で浮かんだであろう言葉がそのまま声として外界に放たれる。
虚空しか映していないその目。左の口角だけが釣り上がり、抑揚も感情なく乾いた笑い声がそれから漏れていた。

「はは、ははは、生きる意味なんてもの…もう私はないんだろうなぁ…はは」

「…くそ。
もう終わらせるぞ。
ドロー」
手札:0枚→1枚

自嘲気味に笑う男の姿に嫌気がさした白神がデッキからカードを引き、確認したそれを即座に召喚する。

「僕は《鰤っ子姫》を召喚。そして、召喚時に自身を除外して、レベル4以下の魚族…《揺海魚デッドリーフ》をデッキから特殊召喚」[攻1500]
手札:1枚→0枚

黄色い鰤のお姫様がフィールドに現れウィンクを披露した。それと共に、地面より青い目がフィールドへと浮かび上がる。
骨だけのデッドリーフが浮上すると、《鰤っ子姫》はヒレでバトンタッチして潜って行った。

「デッドリーフの特殊召喚時、デッキから《フィッシュボーグ-ランチャー》を墓地に送る。そのままバトルに入るよ」

デッドリーフの乾いた鳴き声により飛び出したカードを墓地へと送り、バトルフェイズに移行する。

「(…出来る事なら伏せを除去して攻撃したかったけど…そうも言ってられない。)
《白闘気白鯨》でセットモンスターを攻撃」[攻2800]

白鯨が地面へ潜り、裏野の伏せモンスターに襲い掛かるべく移動を開始した。
その瞬間、正気を失ったはずの男の右手が動いた。

「……《次元障壁》…」

「なに…?」

発動された罠カード。
それにより白鯨がその姿を水面に出しゆっくりとセットモンスターに迫って行く。

「シンクロモンスターの効果を無効か…。
(ホエールの貫通ダメージが入らない…まだ引き伸ばす気なのか…)」

時間を稼がれてしまったことにほんの少しの不快さを憶えながらも、白鯨の攻撃を見守る白神。
そして、白鯨がセットモンスターを攻撃した瞬間。
爆発が起こり毒々しい煙が白神の元まで一気に流れ込んで来る。

「な!?なんだこれ…!?」

「あなたが言うように私は臆病者なんだろう…。
だがだからこそ…死にたくなどない。叶わぬ願いと分かっていても私は生きて梨沙と会いたい。
《アリジバク》リバース効果。互いに1000ダメージを受ける。
げほっ、はは…ははは」[守1000]

裏野LP2400→1400


毒の煙に包まれ咳き込みながらも、裏野の乾いた笑い声だけが響く。

「勝ちを諦めてなかった訳か…。
でも無駄だよ。僕に効果ダメージが発生した時、墓地から《ドリーム・シャーク》を特殊召喚!これにより、その効果で僕が受けるダメージは0になった」[守1600]

毒々しい煙を喰らうように紫色の鮫のモンスターが、水面より飛び出しもくもくと煙る毒の煙をわたあめのように食べてしまう。

「あんたの悪あがきもそこまでだ」

白神は《アリジバク》の自爆を墓地からのモンスター効果により防いだ。
しかし、デュエルディスクに映し出された《アリジバク》のテキスト…。
それを確認した時には既に、煙に紛れて彼の足元にドクロマークの描かれた爆弾が転がって来ていたのだ。


「…くそっ!!?」


 =====
《アリジバク》
地 ☆3 昆虫族/リバース 攻1000 守1000 
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがリバースした場合に発動する。お互いのプレイヤーは1000ダメージを受ける。
②:このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動する。相手に1000ダメージを与える。
 =====


白神LP8000→7000


爆発が起こった。
紫の毒素を含んだ爆発の煙は白神を瞬く間に包み込む。

「翔君…!?」

幸い爆弾の威力は大したことはなかった。
しかし、その中に詰め込まれていた煙の量は膨大であり、白神が煙の中から姿を現すのには十数秒の時間を要した。

「ごほっ!?げほっ…。
う…ぐ……」

煙から抜け出してきた白神は体をふらつかせるが、すぐに倒れ込む。

「危ない!」

何とか地面に倒れる前に梨沙が体を支える事が出来た。

「翔君!?
大丈夫ですか…」

「はぁ…はぁ……。
くそっ…油断…したな……」

不規則な呼吸をしだす白神。
たかが1000のダメージだが、その攻撃に含まれた毒素は確実に白神の体の自由を奪っていく。

「これでいい。これでこれでこれで。
これが正しい。やっぱりこんな所に居る人の言う事を真に受ける事の方がどうかしているってものですよね?私としたことがどうかしていましたよ」

裏野が向こう側から喋り始める。
まともに言葉を繋げているが、その声は弱弱しく震えており、冷静さを欠いたままの様だ。それを察知した白神が、再び裏野に言葉をぶつける。

「げほっ…。
あんたは今、唯一自分を助ける道を…ぐ……捨てた!
娘が目の前に居るのに……なんで、それを拒否するんだ…」

「梨沙はもういません。もう会えない。
そう…会えない………。
ここから……出ることなど…叶わない…。
たとえ出られても…私は梨沙に会ってはいけない…。
あぁぁぁ…梨沙ぁぁぁ……」

「お父さん………」

梨沙の中に渦巻く感情。
白神を傷つけられた事への怒り、しかしそれと同時に苦しむ父親を救いたいという想いが強くあふれ出す。

「とにかく…デュエルはもう終わらせる…。
げほっ…梨沙さんどいて…」

「翔君…」

体を支えてくれている梨沙を自分から引き離すと白神はデュエルディスクを構える。

「《揺海魚デッドリーフ》で……はぁ…はぁ…。
ダイレクト…アタックだ…!」[攻1500]

デッドリーフが骨だけとなったヒレを翼の様に広げたかと思うと、ヒレを勢いよく振るった。すると、そこから無数の小さな骨が飛ばされ、弓矢のように裏野へ襲い掛かる。

「う…ぁあああ!!」

裏野LP1400→0


骨の雨に体を打たれた裏野の体中に小さな傷が出来、皮膚の至る所から出血し始める。



ピーーー



「裏野様のライフが0になりました。勝者は白神様です。」


「はぁ…はぁ……く、そ……」

ドサッ

アナウンスがデュエルの勝者を告げた。
しかし、アナウンスを聞き終えた勝者はその場に倒れ込んでしまう。

「翔君!」

倒れた白神の元に駆け寄り、容体を確認する。

「待っててください。
今直せる薬を探しますから…」

そう言いながら、デュエルディスクの《人体スキャン》を準備する梨沙。
しかし、彼女に忍び寄るカチカチとした義足の足音。

振り返った梨沙の目線の少し先に…彼女の父親である裏野 晃啓が立っていた。

「どきなさい。
彼を殺さないといけない」

静かにそれだけを伝えた父親。
その塗れた体は、傷から流れ出る血の勢いを増していく。

「そんなことさせないよ。
翔君がひどい目に遭うのも、お父さんがひどいことするのも…どっちも許さないから…」

そう言い放ち真っすぐと父親の目を見据える梨沙。
それに耐えきれなかった父親が目線を外した瞬間に、梨沙は父親へ飛びつき懐へと入り込んだ。

「何を…!?」

勢いよく飛びつかれバランスを崩した裏野は、後ろに倒れ込む。
そのまま上へ跨った梨沙が、父親の目を見ながら言い放つ。

「お父さん言ってたよ!!
人の話を聞く時は相手の目を見なさいって!!!
悪い事をしたら、きちんと謝りなさいって!!!」

緑の光が淀むフロア内で…望みをかけた少女の声がこだまする。
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コングの施し
読ませていただきました。

この親父!!やってくれる!!!!自分が敗北してもなお、相手の命を狙いにくる執念、そしてLPにダメージすら与えてしまえば命に関わる戦い方、やっぱり強力ですよね。しかしここまで実の娘である梨沙さんから目を背け、そして外に出ることもなくここにいた男と、その娘がついに再び面と向き合いました。確か、前に二人がちゃんと向き合った時は両者ともに動揺し、精神的に衰弱していた状態だったでしょうか。しかし今は違い、梨沙さんはここに来てからの父を知り、仲間と共にここにいます。

彼女が見せてくれるものは何か、非常に楽しみです!!次回の更新も楽しみにしております!! (2024-04-26 16:03)
コンドル
全話読ませていただきました。

毎話の命のやり取りを見る(タイトルにある「実験」風に書くなら「観察する」でしょうか?)と最初は「残酷」とか「むごい」と考えていましたが、だんだんと、あ、被験者の数が1つ減ったなーくらいには生命の価値観が作中の価値観と同化してきて、表現力の高さに身震いしてしまいました(笑)

さて、白神さんとお父さんとのデュエルがついに決着!今まで表に出てこなかった理由が「死にたくない」という人間らしいもので驚きましたが、こんな環境に入り込んだら、普通の人間ならそうなるよな、と腑に落ちました。だからと言って今までの所業が許される訳ではありませんが。

次回は、待ちに待った対話の時がやってくるのでしょうか?どうか何ごとも起きないように祈らせていただきます。 (2024-04-27 11:56)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

父親当人はデュエルが得意と言う訳ではないですが、執念で見出した毒を用いた盤外戦術…。デュエルの腕が立つ者も、1ダメージも喰らえないというのは実際初見殺しであります。特に必中のピンの様な200バーンなどを、わざわざ防ぐ人はいないでしょうからね。
白神もドリーム・シャークでバーン対策していましたが、1枚で2回バーン効果を持つアリジバクを防ぎ切る事は出来ませんでした…。

梨沙が根気よく父親と向き合う事で、半ば強制的に向かい会う事になった父親。二度目となる再会は、最初の時とは違います。梨沙が明確に父親を正気の世界に引き戻すべく臨んだ今回。自分も仲間に助けられたからこそ、父親にも手を差し伸べる梨沙!
果たして彼女の想いは父親の届くのでしょうか?
次回もお楽しみにでございます! (2024-04-29 23:07)
ランペル
コンドルさん閲覧及びコメントありがとうございます!

気付けば60話となっていましたが、1からの閲覧まことにありがとうございます。
仰るようにこの物語を見て頂けている皆様も、この実験での観察者に該当するかもしれません。
死が身近にありすぎると、それさえも段々と慣れていってしまうものですねぇ。被験者達も殺してしまえば死ぬほどに、人の死に対して無頓着になっていくことでしょう…。観察側も基本的に、被験者が1つ減ったなーのスタンスで観察していますので、観察者の適性が高いと言えるかもしれませんw

彼はパープル、レッドに続く3番目の古参勢でありながら、死の恐怖を憶えているという人間らしい側面がありますね。しかし、その上で狂気に走った彼の所業は到底許されるものではないのは事実です…。

梨沙の説得で和解する事は出来るのか?
次回も楽しみにしていただけると幸いです! (2024-04-29 23:07)

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