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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#67「悪夢の始まり」

Report#67「悪夢の始まり」 作:ランペル

渚より呼び出された梨沙達はついにレッドフロアへと到達する。
彼女達を迎え入れた渚は、3人の男女と共に姿を現した。

「鳥のお姉ちゃん、久しぶり」

「こうして会うのも、もう丸一日ぐらい空いてますかね?」

「そうなるはずだ。
穂香君に梨沙君、無事で何よりだよ。
アリス君とは、顔合わせが初になるね。
…そっちの彼とは初対面だ」

再開した梨沙と穂香に挨拶すると共に、初対面となるアリスと白神の存在を認知した渚が、アリスと白神に向けて改めて自己紹介をする。

「元《情報屋》こと、新しくレッドフロアのフロア主になった福原 渚だ。
仲良くしてもらえると助かるよ」

軽くお辞儀しながら、渚は小さく笑みを見せた。
無言を貫く白神を差し置いて、アリスが返事する。

「こちらこそ、仲良くして頂戴ね渚ちゃん…。
こっちの子はホワイトフロアのフロア主の白神ちゃんよ。《情報屋》さんならある程度知ってたりするのかしら?」

アリスの紹介を受け、渚は少し驚いた様な顔をして白神へ声をかけた。

「これは驚いたね。
行方が唯一掴めなかったからどこに行ったのかと思っていたけど、まさか白神君も梨沙君たちと行動していたとは」

「行方が掴めなかった…?
僕の事を探してたのか?」

ようやく反応を見せた白神が、警戒した目つきで渚の発言へ言及する。
渚が両手を少し上げ、掌が見えるようにしながら質問へ答えた。

「あまり警戒しないで欲しいな。
クラスⅢになる為の情報収集段階で、懸念になり得る他のフロア主の動向を抑えておきたかったというだけなんだ。
白神君だけ行方が掴めなかったから、どこに行ったのかなと思っていた訳さ」

ほんのり口角を緩め、左目で白神を見据える渚。
視線を避ける様に、白神の目線が渚の後ろの人物達へ向けられる。

「後ろの人達は誰?」

その言葉に白衣を着た男性が、おどおどしながら反応を示した。

「わ、私は河原と言う…。
彼女に、助けられて…ここにいる……」

彼が自己紹介したことで、渚が他の人物を紹介し始める。

「彼らも紹介しないといけないね。
ボクの協力者のみんなだ。
こちら、先ほど自己紹介された河原さん。
外では脳科学の研究をしてたそうだ。素人には良くわからないけど、すごく頭がいいんだろうね」

指先を揃えて伸ばした左手で河原の方を示した渚は、続けざまに他の二人も紹介する。

「こっちの彼は、久能木君。
少し耳が悪いけど、みんなの口の動きで何を言ってるか分かるから、面と向かっての会話に支障はないと思うよ。
喫煙者だから、タバコが苦手な人は近づきすぎないように!」

「………」

久能木は横目に梨沙達を見遣るもすぐに視線を外す。

「最後に彼女は近久君。
お兄さんを探しにここへ来たようだよ」

「………」

浴衣を着こなす近久は、虚ろな目で力なく梨沙達の方を見ているだけだ。
彼女を紹介した渚は、そのまま白神へと話を振る。

「白神君は、一度会ったことがあるはずだよ。
覚えてるかな?」

「え、翔君あの人知ってるの?」

「……ホワイトフロアの実験要請で来た人だ。
デュエルはしたけど…僕が会った時にはあんな暗い目はしていなかった……」

梨沙の問いに答えた白神だったが、彼が出会ったであろう過去の彼女との違いから目つきが鋭くなっていく。
依然として警戒を解かない白神に対して、渚は頬を指で掻きながら苦笑いした。

「う~ん、まぁここはすぐにいろいろな事が起きてしまうからね…」

双方に一時の沈黙が訪れる。
赤い光も相まってか、より一層空気が重苦しくなる。

「えっと、私は裏野 梨沙です。
渚さんとはいろいろな情報を交換したりしてました。
よろしくお願いします!」

その沈黙を打ち破るべく梨沙も自分が何者かを明かす。
それに続き、穂香とアリスも自己紹介をした。

「ほのかだよ」

「アリスよ。
ここでは渚ちゃんと同じクラスⅢで、ブルーフロアに在籍してるわ」

「……白神 翔」

自己紹介が一通り済んだことで、渚が護衛を頼んだはずの人間について触れた。

「みんな丁寧な自己紹介感謝するよ。
所で、護衛を頼んだ貫名君は一緒じゃないのかい?
グリーンフロアで合流したという報告自体はボクの方にも届いていたんだが…」

「貫名さんの事で、渚さんに聞いておきたいことがあります…」

「ん?
なにかな」

話題に上がったことで、梨沙も彼を送り込んだ渚の真意を探る。

「貫名さんがグリーンフロアに迎えに来てくださったタイミングで、私は彼にデュエルを挑まれました」

「デュエル…を……!?」

言葉を詰まらせながら驚きの表情を見せた渚。
自らの左肩に右手を置きながら、梨沙は続ける。

「幸い大きなダメージは負いませんでしたけど…突然デュエルを仕掛けてくる人が護衛役として私達のところへ来ました。
このことについて、渚さんはどう思いますか?」

梨沙なりの言葉にした渚への追及。
それを読み取った渚は、心苦しそうな顔を浮かべる。

「本当に申し訳ない……。
それは彼の本性を見抜けなかったボクの失態に他ならない…」

そういった彼女は静かに頭を梨沙達へと深く下げ始める。
アリスが静かに言葉を重ねた。

「疑いたくなんてないけど、あの人を私達の所へ向かわせたのは渚ちゃんよ。
本当は本性を見抜いてて、その上で梨沙ちゃんを襲わせたんじゃないかって考えてしまうわ…」

さらなる追求へ、渚が頭を下げたまま、懸命に謝罪を口にする。

「それを疑われるのも無理のない話だ…。
だが、本当に彼の本性を見抜けなかった…君達を危険に晒してしまった事を深くお詫びしたい……」

梨沙とアリスもその真摯な様から、悪意を感じ取れずにいた。

「鳥のお姉ちゃん。
悪い事しようとした訳じゃないの?」

穂香が梨沙達の傍でそう口にした。
頭を上げた渚は、穂香の目をまっすぐに見つめて答えた。

「ああ。
梨沙君たちに危害を加えるつもりはない。
協力を申し出る上でこんな結果になってしまったのが、口惜しくてならないよ…」

まっすぐにそう言いのけた渚。
梨沙はその言葉を受けて、目を閉じる。

「私は渚さんが悪意で人を貶めるような人には思えません」

目を開けた梨沙は、渚を見据えてほほ笑む。

「信じますよ。
貫名さんがデュエルをして来たのは、渚さんの指示ではなかった事!」

「梨沙君…」

その笑みで受け止められた渚も、下がった眉のままに自然と口角が緩む。

「感謝するよ…君の器の広さに」

「ほのかも信じるよ。
鳥のお姉ちゃんも悪い人じゃないよ」

穂香もそう答えた事で、張り付いていた空気がさらに緩和されていった。


しかし…


「あんたに…確認したいことがある」

白神の鋭く低い声が再び空気を律する。

「翔君…?」

「貫名って人はあんたの依頼を問題なくこなしてきたと言っていたけど、あんな性格の人間が素直に依頼に応じたとも思えない。
いったいどんな報酬を用意してあいつに依頼して来た?」

「白神君…君にはまだ信用してもらえる程の関係がない事は理解している……。
だが、どうか信じてはくれないだろうか。
貫名君の件は、ボクにとっても想定外の事なんだ」

「質問に答えろ。
今までの依頼にはどんな報酬を用意した。
覚えてないって言うなら、今回の護衛を依頼した時には何を報酬として提示した」

話をはぐらかそうとする渚を跳ね除ける白神。
その違和感を察知したのか、アリスも白神に同調し渚へと質問を投げかける。

「確かに気になるわね…。
あんな人間が何故渚ちゃんのお願いを引き受けてくれたのか。
そして、こんなにあっさり裏切ったやつが、今まではあなたの信頼を得られるほどにお願い事を聞いてくれたのかも…」

アリスからも言及され、頬を引き締めなおす渚。
唇を噛みしめながら、自らの無力さを嘆いた。

「…ボクにも彼の全ては分からない。
今回の護衛役の依頼に関しては、彼が無償で引き受けてくれたんだ。ボクの提示する報酬も必要ないと言い張って、護衛を引き受けてくれた。
今にして思えば、この時に何か裏があると考えるべきだっただろう…。
蓄積された信用に慢心したボクのミスだ。そこを言い逃れるつもりはない」

重苦しい表情で、俯く渚。
だが、白神は執拗に彼女を問い詰める。

「僕が噂に聞いていた《情報屋》は、用心深い人間だ。レッドフロアのクラスⅢになる為に、他のクラスⅢの情報を収集して、リスクを少しでも減らそうとしていたと言ってたね。
そんな人間が、依頼した人間の突然報酬はいらないという今までにない言動を素通りしたって?リスクを嫌って情報を集めていたあんたが、この異例は見逃した…。
どう考えても不自然だと感じるのは僕だけなのかな?」

「……反論は…出来ないかもしれない…。
事実、君達を危険に晒してしまったのだから…」

実に冷静で違和感を突き詰めていく白神。
それに圧され、渚の口数も減っていく。

「あくまでも、貫名の行動は予想外だったって言い切るんだね」

「ああ……。
言い訳をしたい訳じゃないが、ボクもクラスⅢになったばかりで冷静さを欠いていた部分はあったかもしれない…」

渚に見えるように人差し指を立てた白神が1つの説を提唱する。

「なら、僕の予想を話してみようか。
あんたは何らかの目的で、梨沙さんにデュエルをさせる為に貫名を送り込んだ。もし、報酬が本当に発生していないなら、梨沙さんとデュエルすること自体が貫名にとって報酬になっていたんだ。
だから、貫名は無報酬で護衛を引き受けた」

「なにを……そんなバカなこと…」

懸命に否定する渚に白神が、推測を畳みかけていく。

「貫名の性格を考えれば、そんなにおかしな予想でもない気がするけど?
格がどうとか気にしていたあいつなら、あんたから強いデュエリストと聞いて飛びつく様は想像に難くない。現に、梨沙さんにデュエルで負けたらどこか満足そうに完全降伏する始末だ。
…《情報屋》のあんたが、あんな露骨に自分の価値観をひけらかす人間の本性に気づいていなかったと?
それとも、あいつが梨沙さんとデュエルする為だけに、今日まであんたに本性を隠し続けてきたとでも言うのかな。
つい数日前にここへ来たばかりの梨沙さんとデュエルする為にさ」

「………」

白神の追及に遂に渚は黙り込んでしまった。

「鳥のお姉ちゃん…?」

「渚さん…」

口を閉ざす渚に、梨沙が柔らかな声色で寄り添う。

「……翔君の話が、突拍子のない話とも思えません。
もし、渚さんが私と貫名さんがデュエルすることを狙っていたんだとしても、私は渚さんと協力したいって考えてます!渚さんが悪意で染まった人に思えないって言ったのも本心です。
だって、最初に穂香ちゃんを守ろうとしていたのは、渚さんなんですから」

「梨沙、君……」

自らの胸へ手を置いた梨沙。
まっすぐに渚を見据え、静かに渚へと語りかけていく。

「渚さん。
もし、何か隠していることがあるなら教えてくれませんか?
渚さんが私達を味方と言ってくれたことが、嘘だと思えませんし嘘にもしたくありません。もし、協力したいと思ってくれてるなら、話してくれませんか……?」


「………」


梨沙の問いかけへ、すぐ様返事を返さない渚。
少し俯きかけの彼女の表情は、赤い照明の影響もあり詳細に把握しきれない。

「どうなの、渚ちゃん。
私達と協力するつもりは…」

「ふふ…」

反応を見せない渚へ、回答を促したアリス。
しかし、返ってきたのは彼女の小さな笑い声。

「渚…さん……?」

渚は巻かれた髪の毛を自らの耳にかけると、梨沙へ自らの表情を晒す。

「ふふふ、君は本当にすごい人だね梨沙君。
たった数日で、こんなにも優秀な人に囲まれてさ……。
ボクなんかとは比較にならない程に、人の心を掴む才能に溢れているじゃないか…!」

彼女はにこやかに笑っていた。
つい先ほどまでの神妙な面持ち…謝罪していた事など忘れてしまったかのような笑顔。

その笑みが、フロアの赤い光に照らされて不気味に輝いた……。





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千秋-LP:3700
手札   :6枚
モンスター:なし
魔法&罠 :なし

ーVSー [ターン2]

朱猟-LP:4000
手札   :1枚
モンスター:《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》[守]、《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》[攻]、《捕食植物ダーリング・コブラ》[守] 全モンスターに捕食カウンター有
魔法&罠 :《種砲連射》[表]、伏せ×2



朱猟のフィールドに並ぶのは、禍々しい瘴気を散布する毒牙竜と三つ首の華竜。
そこに存在しているだけで、閉鎖された空間内の空気が汚染されていく。

「おっぞましいモンスターを使うじゃないか…」 

「クハハ!
オラ!威勢のいい事抜かしてやがったんだ。こんな盤面ぐらいかるーく突破してくれるよなぁ!?」

不愉快な笑い声と共に、朱猟が眼前の千秋を挑発する。
ひひとこちらも耳障りな笑い声を漏らす千秋が手札からカードを発動する。

「言われずともさね…。
あたしゃ《強欲で貪欲な壺》を発動するよ。デッキの上から10枚を裏側で除外し、2枚をドローさせてもらう」
手札:6枚→5枚

デッキトップから一気にカードを掴み取った千秋はそれを周囲へとばら撒く。
カードは地面に落ちることなく、そのまま泡となって消えていった。

「お手並み拝見だな!
捕食カウンターの乗った《捕食植物ダーリング・コブラ》をリリースして、《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》の効果発動だ!
その発動を無効にさせてもらうぜぇ?」

フィールドを這いずる双頭の花蛇。巨大な毒牙竜の広げた翼が、悍ましく変形すると袋のような形になり、ダーリング・コブラを飲み込む。
そして、口を広げた毒牙竜が発動された魔法に向けて、腐蝕液を放った。

「いいのかい?こんなに早く妨害を吐いて」

瞬く間に溶け落ちるカードの向こうで、千秋が嫌らしい笑みを浮かべる。

「言ったろ?お手並み拝見だってな。
お前は足掻いて抗って、その上で俺に殺されるってんだから心配するこたぁねぇよ!クハハハ!!」

「ひひひ…あんたみたいに余裕ぶってる奴だってねぇ、寝てるときは無邪気なもんさね。どうやら、まだ寝ぼけてるみたいだから、おばちゃんがもう一回寝かしつけてやるよ。
スケール8の《夢見るネムレリア》をPスケールにセッティング!さらに、その効果を発動させる!」
手札:5枚→4枚

透明な円柱状の空間へ寝巻の少女が8の数字と共に浮かび上がってくる。
そして、即座に寝がえりを打った彼女はPスケールから落下していく。その落下を防ぐように、パンケーキのタワーが突如地面から生えてきてネムレリアをてっぺんに乗せたままタワーが積み重なる。

「んあ?
んだそりゃ」

「ネムレリアの効果により、あたしはデッキから永続魔法《ネムレリアの寝姫楼》をフィールドへ置き、自身をEXデッキへと加える。」

「ハハ!
いい歳したババアがなんつうメルヘンなデッキ使ってやがんだ!」

嘲笑する朱猟を他所に、出現したパンケーキのタワーの内2枚が突如消失する。

「夢なんていくつになろうが、ふわふわして曖昧なもんさね。
だから、恐怖を正常に認識すら出来ない…面白いもんさ。
《ネムレリアの寝姫楼》の効果により、EXデッキから2枚を裏側で除外し、デッキから獣族レベル10を2種、手札へ加えることが出来る。
あたしゃ《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》と《ネムレリアの夢守り-クエット》の2体を手札へ加えるよ」
手札:4枚→6枚

デッキより飛び出した2枚のカードを手中に収めると共に、再びパンケーキタワーから3枚のパンケーキが消失する。それと共に、空間内に突如鳴り響くベルの轟音。

「EX3枚を裏側除外し、《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》を特殊召喚!」[攻2500]
手札:6枚→5枚

フィールドへ現れたのはアイスクリームの怪物。じゃりじゃりとコーンの牙をすり合わせながら、肩に備えたベルの音を閉鎖空間内で反響させた。

「俺が聞きてぇのは、うるせぇ目覚ましじゃなくて、おめぇの悲鳴だって言ってんだろ~?」

「聴診器でもつけてそこに叫べば、あんたの耳も自分の悲鳴で満たされるんじゃないかい?」

煽り合いの最中、デュエルディスク上に千秋が2枚のカードを叩きつける。
レヴェイユを挟み込むように新たな怪物2体が出現した。

「《ネムレリアの夢守り-オレイエ》、《ネムレリアの夢守り-クエット》をそれぞれ特殊召喚だ」[攻2500][攻2000]
手札:5枚→3枚

チョコレートの体を持つ狼男に、クリームの体を持った羊が、地面にチョコとクリームを滴らせながら現れる。

「オレイエはEX1枚を裏側で除外することで、自分の攻撃力を相手モンスターの数×500アップさせることが出来る。あんたのフィールドにモンスターは2体、つまり攻撃力が1000アップさね!」[攻3500]

パンケーキタワーから1枚のパンケーキを掴み取ったオレイエが、それをむしゃむしゃと食べ始める。食べ終わると共に、咆哮を上げ黄色い星の目がくるくると回転した。

「《野生解放》をレヴェイユを対象に発動。
攻撃力が守備力分上昇し、エンドに自壊する」[攻5000]
手札:3枚→2枚

オレイエの咆哮に共鳴するかのように、レヴェイユが再び肩のベルを鳴り響かせた。

「3500に5000か。
おっかねぇな~おい?」

「ひひ、これで仕上げだよ。
《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》召喚だ」[攻?]
手札:2枚→1枚

二対の角、翼の紫に染まった飛膜、そして全身を塗りたくる紅蓮の赤。
鋭い爪を振るいながら、紅蓮の魔獣が朱猟を見据えながら、フィールドへと解き放たれた。

「ダ・イーザの攻撃力は、あたしの除外されているカードの枚数×400となる。除外されている枚数は16枚。つまり、攻撃力6400さね!!」[攻6400]

「クハハ!バカみてぇな攻撃力だな。
初手の《強欲で貪欲な壺》もこれが狙いだった訳か」

一気に10枚ものデッキを失うカードを無力化したものの、それさえもダ・イーザの攻撃力の上昇に活用されてしまう。
力を得た紅蓮の魔獣はその体が巨大化していく。

「そういう事さ。
ひひひ…あたしは命乞いは聞かない主義だからねぇ、覚悟しなよ」

「そりゃ奇遇だ。
俺様も獲物の命乞いは耳心地良くて好きだが聞いたこたぁねぇな?
だが、俺のトリフィオ・ヴェルトゥムの攻撃力をダ・イーザも超えられてねぇみてぇだぞ~?」[攻6600]

これだけの攻撃力のモンスターを並べられても、微塵も恐れる素振りを見せない朱猟。それは、自身効果によりプレデター・フュージョン・ドラゴンの攻撃力を吸収したトリフィオヴェルトゥムの存在から来るものだろう。

「バトル、《ネムレリアの夢守り-オレイエ》で《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》を攻撃するよ!」[攻3500]

しかし、そんな事知らぬと言わんばかりに、バトルへ入った千秋がオレイエへと攻撃を命じた。
チョコレートの狼男が、のそりのそりと三つ首の華竜へと近づいていく。

「あ?先にこっちから殴んのか。
てこたぁ3000以上の攻撃力アップを狙ってる訳か~~」

目元を左手で覆った朱猟が、しばらくしてゲラゲラと笑い始め、右手の指で勢いよくデュエルディスクの画面を弾く。

「クハハハ!
てこたぁ、俺がサーチしたこのカード効果を把握してねぇって事だなぁ!?
罠発動《捕食計画》!デッキより《捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ》を墓地へと送り、フィールドのモンスター全てに捕食カウンターを置く!」

地面より生えた口を開いた緑の植物が、花粉を勢いよく放出する。
それにより、周囲へ飛び散った小さな口を持ったトゲが、フィールドに存在するすべてのモンスターへと噛みついた。

《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》:☆3→1
《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》:☆10→1
《ネムレリアの夢守り-オレイエ》:☆10→1
《ネムレリアの夢守り-クエット》:☆10→1

「これにより、捕食カウンターが置かれたモンスターの元々の攻撃力の合計分トリフィオヴェルトゥムの攻撃力はアップする!」[攻13600]

三つ首の華竜が、周囲に飛び散る花粉を吸収し、翼を大きく広げていく。すると、翼に備わったつぼみが花開き、怪しい紫の花が開花した。

「ダ・イーザの分は換算されてねぇか。
オラ、なんか使えよ!攻撃力上げて来いよ!
この攻撃力を超えられるんならなぁ!?
クハハハ!!!」

蔑み笑う朱猟。
それに対して、千秋が静かに手札を1枚を掴み取る。

「あたしがオレイエで攻撃したのには理由があるのさ……。
他の高攻撃力の2体とは属性が違うから、こいつが使えなかったからだよ。
ダメージ計算前に手札の《オネスト》を捨てて効果発動!
光属性であるオレイエの攻撃力は、戦闘する相手の攻撃力分攻撃力がアップだよ!」[攻17100]
手札:1枚→0枚

「オネストだと!!?」

段々と華竜へと加速しながら向かって行くチョコレートの狼男を光のオーラが包み込む。

「ダメージ計算時、墓地の《捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ》の効果!墓地よりダーリング・コブラを除外し、そのチョコ野郎の攻撃力を500ダウン!」

「無駄さぁ。
EX1枚を裏除外し、《ネムレリアの夢守り-クエット》の効果でネムレリアを対象とする効果の発動を無効にする」

「ちぃ…!?」

鋭い爪で切りかかるオレイエ、トリフィオヴェルトゥムは三つ首から毒と瘴気で構成された3本の槍を放つ。
しかし、その槍はオレイエの爪に光と共に吸収されてしまい、勢いよく振るわれた剛腕と共に三つ首の華竜が、引き裂かれる。

それと共に、放たれたのは光の槍。
トリフィオヴェルトゥムが耐えきれなかったダメージがコントローラーである朱猟へと、向かっていく。

「ぐ………!?」

朱猟LP:4000→500


左腕を掲げ、デュエルディスクで槍の直撃を防ぐ朱猟。
右腕も加勢するも、威力が抑えきれず、軌道が逸れ朱猟の胸部に向けて槍が向かっていく。
瞬間、自らの右腕を胸の前に突き出し、光の槍が腕へ突き刺さる。

「ひひひ…もう1体あんたの場にモンスターが居てくれたらこれで決まってたんだがねぇ?
まぁ、どちらにしろもう終わりさね」

「くく…くくく……」

ぼたぼたと赤黒い血を右腕から流しながら、朱猟が静かに笑う。

「こりゃ見上げたもんだねぇ。
死ぬって瞬間になっても、笑ってられるなんてね。坊やを殺した時と違って、あたしゃあんたが死ぬのを笑顔で見送ってやるさね。
《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》で、《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》を攻撃だよ」[攻5000]

ベルの轟音を響かせながらアイスの怪物が、毒牙竜へ向かっていく。

「疼くねぇ、久々にヒリヒリするもんを感じられるじゃねぇか。
こんな楽しいのここで終わるなんざ勿体ねぇだろうが!?
罠発動《捕食発芽》!!」

「…!
もう1枚の伏せかい」

「《捕食発芽》の効果により、この戦闘で俺の闇属性は戦闘破壊されず攻撃モンスターを破壊だ」

地面より小さな植物が芽吹くと、レヴェイユを地面に引きずり込もうとする。

「無意味だよ。
レムレリアが相手の効果で破壊される時、《ネムレリアの寝姫楼》の効果で代わりにEXから1枚を裏側で除外できる」

芽がレヴェイユに触れる直前、突如現れたパンケーキが代わりに地面へ引きずり込まれた。

「意味ならあるさ。
これでお前は俺を殺し損なったんだからなぁ?
さらに、《捕食発芽》の追加効果!俺のフィールドへ《捕食植物トークン》3体を特殊召喚だ」[守0][守0][守0]

「く…」

レヴェイユとスターヴ・ヴェノムは互いに拮抗し、両者破壊には至らなかった。
そして、地面に新たに芽吹いた3つの小さな植物が口を開いた。

「(まずい…トークンまで生成されちゃ殺すのはおろかライフを0にすることも…。)
《ネムレリアの夢守り-クエット》で《捕食植物トークン》を、《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》で《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》をそれぞれ攻撃するよ」[攻2000][攻7200]

守備表示であるプレデター・フュージョン・ドラゴンにはダメージを与えられない。しかし、当然残して置ける訳もなくダ・イーザとクエットで毒牙竜と小さな捕食者を砕く。

ダ・イーザの爪に引き去れた毒牙竜はしぼむ様に破壊されていった。

「《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》が相手によって、墓地へ送られたことで効果発動!!」

「なに!?」

意識していなかったモンスターの効果発動に、驚く千秋。
すると、先ほど毒牙竜を倒したはずの地面に1つのつぼみが芽生えた。

「俺様の墓地から闇属性1体を特殊召喚させてもらうぜ。
当然、指定範囲には自身も含まれている。

飢えを満たせ…レベル10…全てを喰らう毒牙竜《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》!」[攻3600]」

芽吹いたつぼみが突如破裂すると、破壊したはずの毒牙竜が悍ましきうめき声と共にフィールドへと舞い戻る。体の至る所が餌を求めるように口開き、警戒色で不気味に光る関節部。
口と翼、尾の全てが餌を追い求め、腐蝕性の涎を滴らせる。

「蘇生…だって…!?」

「さっきからの様子を見るに~俺のカードを把握する術を持ってねぇみたいだなぁ?」

「(クソ…ここで詳細を見れないのが響いてくるのかい…)」

《夜襲》として、寝ている人間に襲い掛かっていた千秋。
そんな彼女は寝ている間に直接相手のカードを確認することが出来ていた、または確認せずともデュエルが終わっていた。
だからこそ、相手のカードを閲覧する機能を購入していなかったのだ。

「貧乏性が祟ったなぁ!!?
クハハハハ!!」

「(ひとまず…最低限守りを…。)
レベル10の《ネムレリアの夢守り-クエット》を墓地へ送り、《ネムレリアの夢喰い-レヴェイユ》の効果…を……?
なんで、墓地へ送れないんだい……」

デュエルディスクが操作を受け付けない事に困惑する千秋。
朱猟が右腕に突き刺さり貫通した光の槍を腕から抜き取りながら、その現象を説明し始めた。

「捕食カウンターが置かれたモンスター全てはレベル1となる。
お前の可笑しなバケモンどもは既に全員レベルが1になってんだよな~」

「く…」

トリフィオヴェルトゥムの攻撃力を上げるために発動された《捕食計画》が使われた段階で、既に千秋が守りを固める術は断たれていたのだ。

「そっちのアイスは攻撃力上げた反動でエンドには自壊する。
永続魔法の耐性も自分で使ったカードの反動までは防げねぇ」

「…あたしはターンエンドだよ」

その宣言と共に、レヴェイユの体を構成するアイスクリームが溶けだし、フィールドから居なくなる。


千秋-LP:3700
手札:0枚


 [ターン3]


「さーてさてさてさて。
痺れさせてもらったお礼をしねぇとな?」
手札:1枚→2枚

朱猟が血だらけの腕を見せつけるようにしながら、デッキからカードを引き抜く。
防御の術を封じられた千秋だったが、まだ希望を捨てた訳ではない。
千秋のフィールドのモンスターを倒せる攻撃力を持ったモンスターは、《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》だけである。一番攻撃力の低い、《ネムレリアの夢守り-クエット》に攻撃されたとしても1600のダメージで済むのだ。

「(このターンさえ耐えきれば……)」


しかし、印をつけられた獲物が長く生き延びることなど出来るはずもない。


紅蓮魔獣が、突如地面より出現した緑の植物に地面へと引きずり込まれて姿を消してしまう。

「な…」

「捕食カウンターが置かれた《紅蓮魔獣 ダ・イーザ》をリリースし、墓地から《捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ》を特殊召喚」[守2300]

朱猟のフィールドへ、粘液性を持った緑の植物が生えてくる。至る所に生やされた赤い粒が目に見え、まるでヒュドラを思わせる様に、無数の丸まった蔦を伸ばし、口を持った蔦が千秋を見定めた。

「ぐ…なら《ネムレリアの夢守り-オレイエ》の効果を発動!
EXから1枚を裏除外することで、こいつの攻撃力を相手モンスターの数×500…つまり2000アップさせるさね!」

発動を宣言すると共に、チョコの狼男がパンケーキタワーから1つを抜き出し喰らい始める。
しかし、そのパンケーキごとオレイエが瞬く間に何かに食べられてしまう。

「な、なんだい…!?」

「お前のチョコレートを食って、《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》の効果発動だ。
その発動を無効にさせてもらうぜ?」

捕食機能を有したプレデター・フュージョン・ドラゴンの翼からは、捕食されたであろうオレイエのチョコレートが滴り落ちていく。

「バカな……。
あたしのモンスターを使って発動を無効だって…!?」

「んなもん、テキスト読めば書いてあんだろ!
クハハハ!ま、それが読めねぇからおめぇは負けるんだがな!!」

瞬く間に2体のモンスターを失った千秋が、残されたクエットの方に視線を向けた。
しかし、そこに居たのはクエットではなく、ぎょろぎょろと不気味に目玉を動かす、クリームを付着させた茶色く巨大な木の実のような何かであった。

「な、なんで……」

「お前のフィールドの捕食カウンターが置かれたクリームをリリースして、手札から《捕食植物バンクシア・オーガ》を特殊召喚させてもらったぜ」[攻2000]
手札:2枚→1枚

まるで口のように穴の開いた木の実の目玉が一斉に千秋を見やったかと思えば、バンクシア・オーガが朱猟のフィールドへとふわりと戻っていく。

気が付けば、千秋のフィールドに居たモンスターの全てが朱猟のモンスターに喰らいつくされてしまった。

「(ここまでだね……)」

負けを悟りだらんと腕から力の抜けた千秋。
その様を朱猟が嫌らしい目つきと不敵な笑みを浮かべながら、罵倒する。

「お?どうした?
もうおしまいかぁ~???」

「ひひ…そうさ。
あんたの勝ちだよ。
あんたみたいなクズに殺されるのがあたしの最期。
ま、自業自得ってことさねぇ……」

死を前にして、千秋もまた不敵な笑みを浮かべ始める。
その死を恐れない姿に朱猟が、不機嫌そうに睨みつける。

「お前も筋肉ダルマと同じだってか?」

「さぁねぇ…。
ここでは好き放題したし、もういい夢を見れる時間が終わったってだけの事さね。ひひひ……」

どこか寂しそうに見えたその笑い。


そんな些細な情緒の揺れ…それは眼前の狩人にとって願ってもない隙であった…。


口角の吊り上がった朱猟が、デュエルディスクを叩く。

「バトルだ!
《スターヴ・ヴェノム・プレデター・フュージョン・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!!!」[攻3600]

攻撃が宣言された毒牙竜は、瘴気を振りまきながら千秋の元へと飛び掛かる。
その巨大な体が放つ威圧感は自然と人間の恐怖心を煽った。

「ひ…ひひ……?」

毒牙竜は、腐蝕性を多分に含んだ涎と共に千秋の肩へ鋭い牙で勢いよく食らいつく。

「ぐぎぃっ……!!?」

瞬間的に焼かれるような壮絶な激痛が千秋を襲う。
その痛みがまだ新しい内、体を引き裂かれる痛みが与えられた。
毒牙竜が肩の肉を勢いよく喰い千切ってしまう。

「ぎぃやぁああああああああああああ!!!!!!」

千秋LP:3700→100


迸る鮮血。飛び散る肉片。染み込む毒液。
生きてきた中で味わえる事などないであろう苦痛が一片に千秋の脳内へと送り込まれ続け、それが途絶えることはない。

「がぁ、あ”あ”がぁぁああ”あ”あ”、がぁあ”あ”あ”あ”あ”!!?」

喉が千切れんばかりの絶叫と共にその場に倒れこんでもがき苦しむ千秋。
たくさんの血液が毒液と混ざり、無機質な白い床を朱に染めていく。

「クソババア、目ぇ覚めたかぁ~?」

意識が飛びかねる激痛。
しかし、えぐり取られた体が危険信号を脳に送信し続け、覚醒を促す。

「思ったとーーーりだ。
お前は人生に満足なんざしていねぇ。本当は生きていたいし、もっと幸せな何かを得たかったんだ。
満足そうに死にやがったあの筋肉ダルマとは何もかも違うんだよ!
くく、クククク……クハハ!」

地面で痛みに苦しみ続ける千秋へ、朱猟が耐えきれず笑いだしながら話しかけ続ける。

「夢だと思ったろ?夢なら何してもいいやと思ったんだろ?
やりたいように好きなようにな!!!
でも残念、夢じゃねぇんだよ。これがお前の人生で、お前の人生の終わり。
幸せになれやしねぇ。過程がどうであれお前の終焉はこれさ!化け物に体喰い千切られて死ぬ!
良かったな~死ぬ寸前で夢から目…醒めれてよぉ?
目覚めた先が悪夢だったなんてオチだがな?
くく、クヒャハハハハハハハハハ!!!」

痛みしか知覚していないであろう千秋にも構わず話しかける朱猟。
例え、彼の言葉が彼女に聞こえていなくとも関係のない事だ。
なぜなら、千秋の目が、顔が、声が。
それらの全てが、彼女がまだ生きていたかったことを朱猟へ証明し続けているのだから…。

「その痛みのままに死 ねたら楽だっただろうな。
悪いな~俺は性格悪くてさ~。
2回連続勝ち逃げなんかされちまったらおかしくなっちまうよ。
あの筋肉ダルマの分までお前で遊ばせてもらうぜぇ?」

フィールドに残された攻撃表示の《捕食植物バンクシア・オーガ》から目を反らし、朱猟はデュエルディスクへ触れた。

「ああ”ぁぁぁ…が…は……あぁぁ………」

「メイン2に入るぜ~?」

「ぁぁ……あ…?」

年老いた喉はすぐさま限界を迎え、まともな声を発せなくなった頃。
痛みと痛みの狭間。
慣れたくもない絶望的痛みにほんの少し慣れてしまった脳が、朱猟の言葉を拾った。

「(メイン…2…?)」

何故、バトルを終えられたのだ?
こんなに苦しいのに、いつまで経っても悪夢が終わらない。
痛くて苦しくて助けてほしいのに……。

「すぐ殺してもらえると思ったろ?ざんね~~ん。
俺様優しいからさ、生き物殺すとかそんな物騒な事出来ないんだよなぁ。
ほら、可哀そうじゃん?」

男が嘲笑を隠そうともせずに、訳の分からないことを言っている。
しかし、それもすぐに体の痛みが塗りつぶし、頭の中まで入ってこない。

「あぁ…ぁぁぁぁ……」

ただただ痛みに喘ぎ、しわがれたうめき声を漏らす千秋。
眼前まで歩いてきた朱猟がしゃがみ込んできた。

「ほら、やっぱ死にたくないだろ?
言ってみろって。幸せになりたかったって、まだ生きていたいってさ」

髪を鷲掴みにし、千秋の顔を無理やり上げさせた朱猟。
苦痛に歪み涙を流す千秋が、言葉にしたのは……


「ご…ろぉ……じ……え………」


枯れ果てしわがれた声…何かへ縋るように絞り出された最期の願い。
朱猟の口角が歪な程に歪む。

「おめぇ、愛くるしいなぁ?
クヒャハハハハ!!!」

狂気の笑い声を千秋へ吐き捨てた朱猟が、まるでゴミでも捨てるかのように、掴んでいた髪の毛を乱暴に地面へ投げつける。

「んなに死にてぇならよぉ、自分で死 ねや!!
俺様に人殺しの罪を着せる気か?あぁ?
オラ、今サレンダーすれば3000ダメージ喰らえるぞ?死 ねるぞ?
頑張ってサレンダーしてみろって」

まともな呼吸も難しくなってきた千秋。
注入された腐蝕を伴う毒液が体を蝕んでいき、痛みがどんどんと広がり増していく。

「ぅ、あ………」

痙攣する手を無理やり動かしデュエルディスクの画面に指を触れさせる。
千秋が今求めているのは、この苦しみから解放されたい。
ただ、それだけ……。

切れた喉から溢れる血が、口の中を鉄の味で満たす。
残された意識を最大限指先に向け、デュエルディスクのサレンダーの画面へ向かっていく。

それを朱猟がデッキからカードを1枚取り出しながら、眺める。

「あと少しだぞ、あと少し……」

指先がデュエルディスクにもう少しで触れる。


終われる。


直後に、千秋自身の指先から感覚が消えた。

「………?」

千秋LP:100→0


「《種砲連射》の効果発動。
デッキから《捕食植物ビブリスプ》を墓地に送って、お前に300バーーーン!」

遠方より放たれた種子の弾丸。
それが、デュエルディスクに触れるはずだった千秋の指先を吹き飛ばしたのだ。

「がぁ……らぁぁぁぁぁぁぁ」

千秋が漏らした声。
口内の血液が混ざり、まるでうがいでもしているかのように呑気な音が奏でられる。

それが悲鳴だったのか、怒号だったのか、絶望の叫びだったのかさえ、もう誰にも判別をつけられない。

「クァヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

朱猟の笑い声だけが、明瞭に響き、
無機質な空間内を邪悪さで彩っていく。
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