第7話：竜を超える竜　作：光芒

　フェルグラントの剣が守備モンスターを引き裂いた。セットされた守備モンスターはその姿を現すが、戦闘破壊されたことで断末魔の叫びを上げて消えていく。そのモンスターは遊希が知らないモンスターだった。
　そのモンスターの姿は一見するとドラゴンのようだが、身体には虎柄の模様が刻まれており、ドラゴンというよりも様々な生物の特徴が合わさったキメラのようなものに近い存在であると言えた。

「破壊された“地竜星-ヘイカン”の第一の効果が発動するわ」


※地竜星-ヘイカン
効果モンスター
星3/地属性/幻竜族/攻1600/守0
「地竜星-ヘイカン」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「地竜星-ヘイカン」以外の「竜星」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
(2):1ターンに1度、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。自分フィールドの「竜星」モンスターのみをS素材としてS召喚する。
(3):このカードをS素材としたSモンスターは戦闘では破壊されない。


「竜星……？」
「自分フィールドのこのカードが戦闘か効果で破壊され墓地に送られた時、デッキからこのヘイカン以外の竜星1体を守備表示で特殊召喚するわ。現れなさい“炎竜星-シュンゲイ”！」


※炎竜星-シュンゲイ
効果モンスター
星4/炎属性/幻竜族/攻1900/守0
「炎竜星-シュンゲイ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「炎竜星-シュンゲイ」以外の「竜星」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
(2):1ターンに1度、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。自分フィールドの「竜星」モンスターのみをS素材としてS召喚する。
(3):このカードをS素材としたSモンスターは、攻撃力・守備力が500アップする。


「また新しいモンスターが……」

　この効果を見る限り、綾香が使うモンスターは皆共通のリクルート効果を持ったモンスター群であることを遊希は理解した。
　リクルーターの役割を持つモンスターは大半が戦闘破壊か効果破壊どちらか一方にしか対応してないものであるが、綾香の使うこの【竜星】なるカテゴリーは戦闘・効果双方に対応したリクルート効果を持っている。そのため1体のモンスターの攻撃では倒しても倒しても次のモンスターをフィールドに呼んでしまうことになるのだ。

「驚きを隠せないようね。それもそうか、この竜星というモンスターは皆新しい種族“幻竜族”なのだから」
「幻竜族？」

　幻竜族、という聞き慣れない言葉に遊希は首を傾げる。だが無理もない。この種族は遊希がデュエルから離れている間に新しく登場した種族なのだから。

「……もしかして新しい種族が出来たというの？」
「ええ、幻竜族はその姿こそドラゴンに似たモンスターだけど、幻竜族はドラゴンが更なる高みに昇華した種族。言うなればドラゴンを超えたドラゴンというところかしら？」
―――ドラゴンを超えたドラゴンか、なるほど。

　墓地の銀河眼が綾香の言葉に小さく頷く。

（なるほどって……何がなるほどなのよ）
―――あの娘の父・竜司はドラゴン族デッキを使うデュエリストだ。その父を超えんがためにドラゴンから昇華した幻竜族という種族のデッキを使っているのだろう。

　銀河眼のその言葉を聞いて遊希はその幻竜族、というモンスターのデッキについてあることを理解した。それは新興のカードにありがちなことであった。

「でも出たばかりのカテゴリーだったら……まだカードプールは少ないのよね？」
「……だから何よ」
「そう、じゃあその最新テーマの実力を見せてほしいものね。私はバトルフェイズを終えてメインフェイズ2に移行。カードを1枚セットして、ターンエンドよ」
「待って、エンドフェイズにセットしていた“サイクロン”を発動するわ！」


※サイクロン
速攻魔法
(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。


「あら、エンドサイクね。よくできました」
「っ……」

　遊希のセットしたカードが何も出来ずに破壊される。カードの詳細は綾香には見えなかったが、カードの色がピンク色だったため、罠カードと思われた。


綾香　LP8000　手札2枚
デッキ:34　モンスター:1（炎竜星-シュンゲイ）　魔法・罠:1　墓地:2　除外:0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ:33　モンスター:1（神竜騎士フェルグラント ORU:2）　魔法・罠:0　墓地:3　除外:0


☆TURN03


「私のターン、ドロー！……その人をバカにしたようやる気のない眼……気に入らないわ」
「いや、これは生まれつきでなんだけど」
「そんなのどっちでもいいわ、あなたを絶対に倒してみせる。私はチューナーモンスター“カメンレオン”を召喚！」


※カメンレオン
チューナー・効果モンスター
星4/地属性/爬虫類族/攻1600/守1000
このカードは自分フィールド上にレベル5以上のモンスターが存在しない場合のみ召喚できる。
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の守備力0のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
この効果を発動するターン、自分はエクストラデッキ以外からモンスターを特殊召喚できない。


「チューナーモンスター……あなた、シンクロ召喚使いなのね」
「ええ、そして竜星はシンクロ召喚を多用するテーマでもあるわ。召喚に成功したカメンレオンの効果発動！ 自分の墓地に存在する守備力0のモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚するわ！」
「そんなことさせると思ったの？ カメンレオンの効果にチェーンして神竜騎士フェルグラントの効果を発動！ オーバーレイ・ユニットを1つ消費することで選択したモンスターの効果を無効化し、このターンフェルグラント以外のカードを効果を受けなくする。これで墓地のヘイカンを蘇生することは出来ないわ！」

　遊希がヘイカンの蘇生を阻害したのには理由があった。ヘイカンを蘇生されてしまうと綾香のフィールドのモンスターのレベルの合計は11となり、大型のシンクロモンスター“星態竜”の召喚を許してしまうことになる。
　強力な効果を持つフェルグラントではあるが、自身を攻撃力で上回るモンスターとの戦闘には滅法弱い。星態竜の攻撃力は3200であり、その力は銀河眼すら上回る。そのようなモンスターの召喚を許すわけには行かなかったのだ。しかし、遊希のこの判断は対する綾香には予想済みだった。

「星態竜のシンクロ召喚を阻止したつもりだけど……それでも私はレベル8のシンクロ召喚が出来るわ！ 私はレベル4の炎竜星-シュンゲイに、レベル4のチューナーモンスター、カメンレオンをチューニング！」

　シュンゲイの身体が宙に舞い上がり、カメンレオンの身体は4つのリングへと変化する。そしてそのリングを潜ったシュンゲイの身体から4つの星が現れ輝き出す。
　シンクロ召喚はチューナーモンスターとそれ以外のモンスターのレベルの合計のレベルを持ったシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚扱いとして特殊召喚出来る召喚方法だ。エクシーズ召喚との違いはチューナーモンスターの有無であるが、エクシーズモンスターと違って効果に使用制限がないため、強力なモンスターが多い。

「双剣を携えた真紅の騎士よ、その斬撃で全てを制圧せよ！ シンクロ召喚！ 現われなさい！ レベル8“クリムゾン・ブレーダー”！！」


※クリムゾン・ブレーダー
シンクロ・効果モンスター
星8/炎属性/戦士族/攻2800/守2600
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、次の相手ターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚する事ができない。


「クリムゾン・ブレーダー……フェルグラントと攻撃力は互角よ？」
「互角じゃないわ。シュンゲイをシンクロ素材としたシンクロモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする！！」

クリムゾン・ブレーダー　ATK2800→3300　DEF2600→3100

「攻撃力3300……」
「行くわ、バトルフェイズ！ クリムゾン・ブレーダーで神竜騎士フェルグラントを攻撃！“レッド・マーダー”！！」

クリムゾン・ブレーダー ATK3300 VS 神竜騎士フェルグラント ATK2800

遊希 LP8000→7500

「くっ……！」
「相手モンスターを戦闘破壊したその瞬間、クリムゾン・ブレーダーの効果が発動する。次のターンあなたはレベル5以上のモンスターを召喚および特殊召喚することが出来ないわ」
―――つまり私のようなモンスターをフィールドに出すことが出来なくなる、ということか。
「あなたのデッキのエースは最上級モンスター。銀河眼の光子竜さえ封じてしまえばあなたなんて敵じゃないわ！ 私はこれでターンエンドよ」


綾香　LP8000　手札2枚
デッキ:33　モンスター:1（クリムゾン・ブレーダー）　魔法・罠:1　墓地:4　除外:0
遊希　LP7500　手札5枚
デッキ:33　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:6　除外:0


☆TURN04


「私のターン、ドロー」

　カードをドローした遊希の表情は何処か冴えない。対峙する綾香はドローカードが狙い通りのものではないと推測する。

「ドローカードがいいものじゃなくて落ち込んでいる、なんて思っているのかしら？」
「……違うの？」
「さっきも言ったでしょ、私は元々こんな顔なの。まあいいわ、私は墓地の銀河新星の第2の効果を発動。墓地のこのカードをゲームから除外し、墓地のギャラクシーモンスター1体を手札に戻す。戻すのは銀河悪魔よ」
「特殊召喚できる銀河悪魔をサルベージ……レベル4ならクリムゾン・ブレーダーの効果をすり抜けられるわね」
「そういうこと。私は銀河悪魔を特殊召喚。そして自身の効果で2枚目の銀河新星をサーチし……今回はこのカードを通常召喚する！」

　遊希のフィールドにはレベル4のモンスターが2体並ぶ。綾香がシンクロ召喚を得意とするならば、遊希もまた自分の得意とするエクシーズ召喚で対抗するまでだ。

「私はレベル4の銀河悪魔と銀河新星でオーバーレイ！ 2体の光属性モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！ 光を纏って現れなさい、ランク4！“輝光子パラディオス”！！」


※輝光子パラディオス
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守1000
光属性レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力を0にし、その効果を無効にする。
また、フィールド上のこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、デッキからカードを1枚ドローする。


「エクシーズモンスター……レベルを持たないエクシーズモンスターもクリムゾン・ブレーダーの効果の対象外ということね。でも攻撃力2000のパラディオスでは3300に強化されたクリムゾン・ブレーダーには太刀打ちできないわ」
「エクシーズモンスターは己の命たるオーバーレイ・ユニットを消費してその本領を発揮する。パラディオスの効果、オーバーレイ・ユニットを2つ消費し、相手モンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターの攻撃力を0にし、その効果を無効にするわ！」
「なんですって！？」

クリムゾン・ブレーダー ATK3300→0

「更に私は手札から装備魔法“ニトロユニット”をクリムゾン・ブレーダーに装備する」


※ニトロユニット
装備魔法
相手フィールド上モンスターにのみ装備可能。
装備モンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。


「クリムゾン・ブレーダーに装備……一体何の意味が！？」
「さっきのお返しよ。バトルフェイズ、輝光子パラディオスでクリムゾン・ブレーダーを攻撃！“フォトン・ディヴァイディング”！！」

輝光子パラディオス ATK2000 VS クリムゾン・ブレーダー ATK0

綾香 LP8000→6000

「くっ、でも2000のダメージくらい……」
「あら、この私が2000ダメージ程度で済ませてあげるとでも思った？ とんだロマンチストね、あなた」
「なっ……」
「ニトロユニットを装備したモンスターが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、その装備されていたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与えるわ！」
「ええっ、そ、それじゃあ……」
「クリムゾン・ブレーダーの元々の攻撃力分、2800のダメージを合わせて受けなさい！」

綾香 LP6000→3200

「きゃあああっ！！」
（……なんて切れ味。これが……プロデュエリスト……）

　綾香は倒れそうになる身体を必死に押しとどめる。ここで倒れてはいけない。何としても目の前にそびえ立つ遊希という壁を乗り越えなければならなかった。