アフターストーリー：陽川 千夏編・4　作：光芒

「誰って……私は陽川 千夏だよ？ あなたと仲良しの」
「確かにあたしは千夏さんとは仲良くさせてもらってる。でも、あんたはあたしの知ってる千夏さんじゃない。デッキだってHEROのはずなのにいつの間にか別のにすり替わってるし」
「……あら、意外とおバカな子だと思ってたけど意外と鋭いのね。そうね……この子はとても純粋で清らかな心を持ってる。だからちょっと体を借りているのよ？」

　身体を借りる、という千夏（？）の言葉をそのまま受け取れば、美夏の信じたくないことが事実であるということの証明にもなる。美夏の信じたくないこと、というのは千夏が所謂霊的なものに憑依されてしまったということだ。
　この京都は歴史の深い地でもあるが、その歴史は決して煌びやかなものではない。血で血を洗う政争や飢餓疫病、親子で殺し合う戦乱において幾度となく無垢な命が奪われてきた場所だ。故に現代の今となっても怨霊の類を信じる人間は少なくない。
　しかし、だからといってそんなものが本当に存在し、それが自分にとって身近な人間に憑りつくというのはなんとも苦々しい話である。

「あんたがなにを考えているかなんて興味ないけどさ、あたしの大事な人に変なことしたらただじゃおかないから！ 悪いこと言わないからさっさと出てってくんない？」
「……この子の身体を返して欲しかったら、このデュエルに勝ってからにしてちょうだい。最もあなたが勝てたらの話だけど。さて、特殊召喚に成功した翼の魔妖-波旬の効果を発動するわね」

※翼の魔妖-波旬
効果モンスター
星1/風属性/アンデット族/攻600/守400
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「翼の魔妖-波旬」以外の「魔妖」モンスター1体を特殊召喚する。
(2)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は「魔妖」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

「デッキから同名カード以外の魔妖モンスター1体を特殊召喚するわ。特殊召喚するのはチューナーモンスターの“麗の魔妖-妲姫”」

※麗の魔妖-妲姫
チューナー・効果モンスター
星2/炎属性/アンデット族/攻1000/守0
(1)：「麗の魔妖-妲姫」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2)：このカードが墓地に存在し、「魔妖」モンスターがEXデッキから自分フィールドに特殊召喚された時に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分は「魔妖」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

「さっきから聞いていて不思議に思ったけど何、その魔妖って。なんか見た目の割におどろおどろしさを感じるんだけど」
「私の魔妖はまさに百鬼夜行。様々な力を持った妖怪が幾度となく現れては相手を呪う。ではその力を見せてあげるわ。私はレベル1の翼の魔妖-波旬に、レベル2のチューナーモンスター、麗の魔妖-妲姫をチューニング。“惨めに敗れし者の怨念よ。無垢なる車に宿りて妖として転生せよ。” シンクロ召喚。レベル3、“轍の魔妖-朧車”」

※轍の魔妖-朧車
シンクロ・効果モンスター
星3/地属性/アンデット族/攻800/守2100
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：「轍の魔妖-朧車」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2)：このカードが墓地に存在し、元々のレベルが5の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。
(3)：このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターン、自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

「コモンメンタルワールド、ハイパー・ライブラリアン、そして墓地の妲姫の効果を発動」

チェーン3（千夏）：麗の魔妖-妲姫
チェーン2（千夏）：TG ハイパー・ライブラリアン
チェーン1（千夏）：コモンメンタルワールド

「チェーン3の妲姫の効果。自分フィールドにEXデッキから魔妖と名のついたモンスターが特殊召喚された場合、このカードを墓地から特殊召喚。そしてハイパー・ライブラリアンの効果で1枚ドロー、更にコモンメンタルワールドの効果で美夏に500のダメージ」

美夏　LP7500→7000

「っ……チューナーモンスターがまた出てきた。あんたまさかこれで複数回のシンクロ召喚しようとか思ってない？」
「私はレベル3の朧車にレベル2の妲姫をチューニング。“大いなる力によって貶められた者よ。その恨みを以て妖として転生せよ。” シンクロ召喚。レベル5、“毒の魔妖-土蜘蛛”」

※毒の魔妖-土蜘蛛
シンクロ・効果モンスター
星5/地属性/アンデット族/攻2000/守1800
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：「毒の魔妖-土蜘蛛」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2)：このカードが墓地に存在し、元々のレベルが7の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。
(3)：このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。お互いのデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。

「妲姫、ライブラリアン、コモンメンタルワールドの効果が発動。チェーンは妲姫、ライブラリアン、コモンメンタルワールドの順で組むわね」

美夏　LP7000→6500

　わずか500のダメージではあるが、塵も積もれば山となる。シンクロ召喚で失った手札もライブラリアンの効果で補える。そしてバーンと手札補充をしながら戦線を整えていく。もしこれが千夏に憑依した何者ではなく、千夏本人とのデュエルであれば―――と美夏は内心悔やんだ。

「私はレベル5の土蜘蛛にレベル2の妲姫をチューニング。“深き山に潜みし修験者よ。道を究め妖となりて転生せよ。” シンクロ召喚。レベル7、“翼の魔妖-天狗”」

※翼の魔妖-天狗
シンクロ・効果モンスター
星7/風属性/アンデット族/攻2600/守1500
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：「翼の魔妖-天狗」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2)：このカードが墓地に存在し、元々のレベルが9の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。
(3)：このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する。

「……またっすか」
「ええ、またよ。墓地の妲姫を蘇生し、ライブラリアンの効果で1枚ドロー、コモンメンタルワールドの効果も受けてもらうわ」

美夏　LP6500→6000

「ちなみに今のドローで2枚目のコモンメンタルワールドを引いたから発動。この効果は重ね掛けできるわ。レベル7の天狗にレベル2の妲姫をチューニング。“傾国の美女よ。妖となりて世に混迷の炎をもたらせ。” シンクロ召喚。 レベル9、“麗の魔妖-妖狐”」

※麗の魔妖-妖狐
シンクロ・効果モンスター
星9/炎属性/アンデット族/攻2900/守2400
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：「麗の魔妖-妖狐」は自分フィールドに１体しか表側表示で存在できない。
(2)：このカードが墓地に存在し、元々のレベルが11の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。
(3)：このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

「墓地の妲姫を蘇生、ライブラリアンの効果でドロー、コモンメンタルワールド2枚の効果でダメージ」

美夏　LP6000→5000

「さて、これで最後よ。レベル9の妖狐にレベル2の妲姫をチューニング。“打ち棄てられし亡霊の骸よ。妖となりて生者の魂を貪り喰らえ。” シンクロ召喚。レベル11、“骸の魔妖-餓者髑髏”」

※骸の魔妖-餓者髑髏
シンクロ・効果モンスター
星11/闇属性/アンデット族/攻3300/守2600
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：「骸の魔妖-餓者髑髏」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2)：このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターン、表側表示のこのカードは他のカードの効果を受けない。

「妲姫の蘇生は……やめておくわ。さすがに攻撃対象を残しておく必要はないわね。ライブラリアンの効果でドロー、そしてコモンメンタルワールドの効果2枚分を受けてもらうわ」

美夏　LP5000→4000

「っ……シンクロ召喚を繰り返しただけで5枚ドローに4000バーンって訳わかんないんだけど！！」
「それも戦術よ。いい勉強になったんじゃないかしら。私はカードを3枚セットしてターンエンドよ」


千夏　LP8000　手札4枚
デッキ：23　モンスター：2（骸の魔妖-餓者髑髏、TG ハイパー・ライブラリアン）魔法・罠：5（コモンメンタルワールド×2）墓地：10　Pゾーン：赤/青　除外：1　エクストラデッキ：9（0）
美夏　LP4000　手札5枚
デッキ：30　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：5　Pゾーン：赤/青　除外：0　エクストラデッキ：15（0）


☆TURN02（美夏）

「攻撃力3300の餓者髑髏に3伏せとか……インチキ効果もいい加減にしろってのっ！ ドロー！」

　後攻1ターン目であるにも関わらず、美夏の戦況は決して芳しいものではない。だが、美夏はあの頃のままの美夏ではない。完全に場をひっくり返すには至らなくとも、反撃のための準備は整っていた。

「行くよ！ あたしは手札の“真竜皇アグニマズドV”の効果を発動！」

※真竜皇アグニマズドV
効果モンスター
星9/炎属性/幻竜族/攻2900/守1900
「真竜皇アグニマズドV」の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分メインフェイズに発動できる。このカード以外の手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、炎属性モンスターを含むモンスター2体を破壊し、このカードを手札から特殊召喚し、炎属性モンスター2体を破壊した場合、相手のフィールド・墓地からモンスター1体を選んで除外できる。
(2)：このカードが効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から炎属性以外の幻竜族モンスター1体を選んで手札に加える。

「手札の炎属性モンスター、陽炎獣 サーベラスと炎王獣 バロンを破壊してこのカードを手札から特殊召喚！ そして炎属性モンスター2体を破壊したことであんたのフィールドまたは墓地のモンスター1体をゲームから除外する！ 除外するのはあんたの墓地の麗の魔妖-妖狐よ！」
「なるほど、妖狐の効果の強さを見抜いたか。だったらその効果のチェーンしてリバースカードを発動するわ。墓地の妖狐を対象に罠カード”戦線復帰”を発動よ」

※戦線復帰
通常罠
(1)：自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

チェーン2（千夏）：戦線復帰→麗の魔妖-妖狐
チェーン1（美夏）：麗の魔妖-妖狐

「チェーン2の戦線復帰の効果で墓地の妖狐を守備表示で特殊召喚するわ」
「対象不在によってチェーン1のアグニマズドVの効果は不発に終わる」

　アグニマズドVの放った炎が千夏の墓地を焼き払おうとするが、先に蘇った妖狐はその炎をかわし、フィールドへと舞い戻る。

「ちっ、あんたの魔妖ってモンスターの効果ってさ、破壊されることで他のモンスターが蘇るんだよね。その中でも妖狐の破壊効果は対象を取らない破壊。あたしのデッキにとっては都合がだーいぶ悪いんだよね……」
「そういえばあなたのデッキは【陽炎獣】だったわね」
（……知ってるってことは千夏さんの記憶は残ってるんだ。完全に千夏さんの意識は乗っ取られてないってことなのかな？）
「さて、では墓地から特殊召喚された妖狐の効果を発動するわ。相手フィールドに存在するモンスター1体を選んで破壊する」
「だったらあたしは破壊された陽炎獣 サーベラスの効果を発動！」

チェーン2（美夏）：陽炎獣 サーベラス
チェーン1（千夏）：麗の魔妖-妖狐

「サーベラスのデッキからヘイズと名のついたカード1枚を手札に加える！ あたしが手札に加えるのは陽炎獣 ペリュトンよ！」
「妖狐の効果でアグニマズドVを破壊。アグニマズドVには破壊されることで墓地の炎属性以外の幻竜族を手札に戻すことができるけど……」
「あたしの墓地に幻竜族モンスターはない。手札から永続魔法、陽炎柱を発動！ このカードがフィールドに存在する限り、あたしは陽炎獣モンスターの召喚に必要なモンスターの数を1つ減らすことができる！ ということであたしはレベル6のペリュトンをリリースなしで召喚！」

　牡鹿の頭と脚、鳥の翼と身体を持つペリュトンが高らかな嘶きを上げる。その嘶きはもちろん美夏にとっての反撃の狼煙であった。





＊





「……駄目です、何処にもいません」
「千夏も美夏ちゃんもどこ行っちゃったのよ！」

　一方で遊希たちは二手に分かれて千夏と美夏を探していた。しかし、人混みも相まって捜索は難航。いなくなってしまった二人を見つけられずにいた。

「これはいわゆる神隠しというものでしょうカ……ここまで探して見当たらないとなると……」
「むぅ……あまり頼りたくなかったけど琉枝たちにも手伝って貰うしか……」
（神隠し……霊的なものだとしたらもしかしたら）

　待って、という言葉と共に電話をかけようとした遊貴を止める遊希。何か秘策があるのだろうか、と思った遊貴は遊希の言葉に従ってその場を離れた。人混みのない静かな場所に移動した五人。

「……こんなところに来てどうするの？」
「ねえ、宮戸さん。今からあなたは常識では信じられないものを目にすることになるけど……心の準備はいいかしら」
「えっ……？」

　きょとん、と首を傾げる遊貴の前で遊希は指にはめていた指輪を外した。2頭の龍が絡み合うかのような特殊な形状をした指輪が外れた瞬間である。



「えっ」



　目の前に立っていた遊希から角と翼と尻尾が生えていたのは。