第79話：覇王黒竜の目覚め　作：光芒

　エクシーズ召喚されたのは地の銀河眼こと銀河眼の重力竜だった。攻撃力は光子竜にこそ及ばないものの、この状況においては最も活躍できるモンスターの1体と言えるモンスターだった。

「銀河眼の重力竜の効果発動。1ターンに1度、このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、自分フィールドの「ギャラクシー」1体を選択して発動できる。選択したモンスターはこのターン2回まで攻撃ができる！」
「攻撃力2800の2回攻撃……」
「ドラゴサックのトークンを使ってしまったのは間違いだったようね。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行！ 銀河眼の重力竜1回目の攻撃！ 攻撃対象は幻獣機ドラゴサックよ！！“重圧のグラビティ・ストリーム”！！」

銀河眼の重力竜 ATK2800 VS 幻獣機ドラゴサック ATK2600

綾香 LP4000→3800

「ぐっ……！！」

　幻獣機ドラゴサックを含む幻獣機モンスターはフィールドにトークンが存在する限り破壊されない、という効果を持っている。そのトークンの種類こそ問われないが、トークンが存在しなければその破壊耐性も意味はない。
　ドラゴサックの効果で生成されたトークンはトリシューラのシンクロ召喚のための素材として消費されてしまっているため、ドラゴサックを守る壁はない。重力竜の一撃でドラゴサックは強烈な重力に押しつぶされる形で撃墜されてしまった。

「次！ 2回目の攻撃対象は氷結界の龍 トリシューラ！！“重圧のグラビティ・ストリーム”！ 第二打！！」

銀河眼の重力竜 ATK2800 VS 氷結界の龍 トリシューラ ATK2700

綾香 LP3800→3700

「たかが100のダメージなんて痛くもかゆくもないわ！」
「でも、その100のダメージで泣くことになる。それがデュエルよ。バトルフェイズを終えてメインフェイズ2へ移行。私は墓地の銀河眼の掩蔽竜の第二の効果を発動！」
「掩蔽竜の……第二の効果！？」
「掩蔽竜は自身を除外することで相手の墓地に存在するカードを2枚まで選択してゲームから除外できるのよ。もっともこっちは対象を取る効果なんだけど」
「墓地で対象に取られないカードはそもそもそんなに存在しないからその差は皆無に等しいわね……で、どれを除外するの」
「再利用されて困るカード。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと竜穴の魔術師の2体を除外させてもらうわ！」

　掩蔽竜は自らの身体を犠牲にし、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと竜穴の魔術師の2体を亜空間へと引きずり込む形で消えていった。ペンデュラムモンスターは基本破壊されることでエクストラデッキに送られ、ペンデュラム召喚で再利用することができる。
　しかし、オーバーレイユニットとなった場合はエクストラデッキではなく、普通に墓地に送られてしまう。まだ手札に引き入れられていないので発動できないのだが、綾香のデッキには墓地のペンデュラムモンスターを特殊召喚できるカードが入っているが、そのカードであっても除外されてしまえば再利用は特定のカードを使わない限り難しくなってしまうのだ。

「私はこれでターンエンドよ」


遊希 LP3800　手札0枚
デッキ：33　モンスター：1（銀河眼の重力竜 ORU:1）魔法・罠：1　墓地：12　除外：2　エクストラデッキ：14
綾香 LP3700　手札2枚
デッキ：27　モンスター：1（オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン）魔法・罠：1　墓地：9　除外：2
Pゾーン：青　赤　エクストラデッキ：14（11＋Pモンスター：3）


☆TURN06


「私のターン……ドロー！！」

　綾香がデッキからカードをドローした瞬間である。遊希と光子竜の身体に「ドクン！」という衝撃が走った。

（！？）
―――今のは……！！

　遊希と光子竜は見逃さなかった。綾香がカードをドローした瞬間、彼女の後ろには見たこともない漆黒のドラゴンがその瞳を怪しく輝かせていたのを。

（……何、今の。凄く嫌な感じがしたんだけど……）
―――クリアウィング・シンクロ・ドラゴン？ ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン？ それらのモンスターがまるで子供のように思える。そんな威圧感だな……
（まさか、綾香のデッキにはそんなモンスターがまだ……？）

　もし光子竜のその予想が当たっていたとしたら。そのモンスターこそが綾香を支配するモンスターの可能性が高い。遊希としては引きずり出して撃破したいところであるが、そのモンスターから感じられた力は今まで感じたことのないようなものであった。

「私は手札から貪欲な壺を発動。墓地のダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、トリシューラ、ドラゴサック、慧眼の魔術師、ドクロバット・ジョーカーの5体をデッキに戻しシャッフル。そして2枚ドローする」

　そんな遊希の気持ちを知ってか知らずか、綾香の発動した貪欲な壺によって5枚のモンスターがデッキへと戻される。しかし、5体のうちメインデッキに戻されたのは2体のため、2枚戻しての2枚ドローとなり、普通にメインデッキにモンスター5体を戻すより望むカードを引く確率は高くなる。
　しかし、この時の綾香の狙いはドローではなかった。彼女の本当の目的―――それはダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンをエクストラデッキに戻すことだった。

「私は手札からEMドクロバット・ジョーカーを召喚！」
「っ、今のドローで戻したカードを引いたというの……？」
「まあこのカードは3枚入ってるから貪欲な壺で戻したカードとは限らないけどね。ドクロバット・ジョーカーの効果を発動、そしてその効果にチェーンして手札の“EMヘルプリンセス”の効果をも発動するわ！」


※EMヘルプリンセス
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1200
(1)：自分が「EMヘルプリンセス」以外の「EM」モンスターの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。


「EMモンスターが召喚されたことでヘルプリンセスを特殊召喚！ そしてドクロバット・ジョーカーの効果でデッキから“相生の魔術師”を手札に加える！ そして私は【スケール3】の相克の魔術師と【スケール8】の相生の魔術師でペンデュラムスケールをセッティング！！」

　綾香のフィールドには三度ペンデュラムスケールが形成される。しかし、相生の魔術師はデメリット効果を持っており、自分フィールドのカードの総数が相手フィールドのカードの総数より多い場合、スケールが4に減ってしまう。そのためこの時点では綾香はペンデュラム召喚をすることができなくなるのだ。
　一見すると無意味なペンデュラムスケールのセッティング。だが、この2体のペンデュラムモンスターの存在こそが綾香の持つ最強のモンスターを呼び覚ますために必要なモンスターなのだ。

「そして私はレベル4のドクロバット・ジョーカーとヘルプリンセスでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！ 今一度反逆の咆哮を上げよ！ ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン！！」

　綾香のフィールドには貪欲な壺で戻されたダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンがまたしてもエクシーズ召喚される。この瞬間、遊希の脳裏には詩織とのデュエルの一場面がフラッシュバックする。

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動！ オーバーレイユニットを2つ取り除き、相手モンスターの攻撃力を半分にし、その減らした数値分自分の攻撃力をアップさせる！！ “トリーズン・ディスチャージ”！！」

銀河眼の重力竜 ATK2800→1400

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500→3900

「そしてペンデュラムゾーンの相生の魔術師の効果を発動！」


※相生の魔術師
ペンデュラム・効果モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻500/守1500
【Pスケール：青8/赤8】
(1)：1ターンに1度、自分フィールドの、Xモンスター1体とレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。そのXモンスターのランクはターン終了時まで、そのレベル5以上のモンスターのレベルの数値と同じになる。
(2)：自分フィールドのカードが相手フィールドより多い場合、このカードのPスケールは4になる。
【モンスター効果】
(1)：このカードの戦闘で発生する相手への戦闘ダメージは0になる。
(2)：1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時までそのモンスターと同じになる。


「自分フィールドのエクシーズモンスター1体とレベル5以上のモンスター1体を対象として発動。このターンの終了時までダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンのランクはオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのレベルと同じ7になる！」

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン　ランク4→7

「さらにペンデュラムゾーンの相克の魔術師の効果も発動！！」


※相克の魔術師
ペンデュラム・効果モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守500
【Pスケール：青3/赤3】
(1)：1ターンに1度、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。このターンそのモンスターは、そのランクと同じ数値のレベルのモンスターとしてX召喚の素材にできる。
【モンスター効果】
(1)：1ターンに1度、フィールドの光属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。


（ダーク・リベリオンのランクを変化させた……一体なにを？）
「さあ、これで最後よ。メインフェイズ1からバトルフェイズに移行！ オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで銀河眼の重力竜を攻撃！“螺旋のストライク・バースト”！！」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500 VS 銀河眼の重力竜 ATK1400

「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの効果。戦闘で相手モンスターを破壊した時、戦闘ダメージは2倍になる！」
「なんですって……」
「今こそその真価を発揮せよ！ “リアクション・フォース”！！」

遊希 LP3800→1600

「ぐうっ……！！」
「これで終わりよ！ ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでダイレクトアタック！“反逆のライトニング・ディスオベイ”！！」

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK3900

「相手のダイレクトアタックの瞬間！ 墓地の“ギャラクシー・シールドラゴン”の効果発動！！」


※ギャラクシー・シールドラゴン（オリジナルカード）
効果モンスター
星4/光属性/ドラゴン族/攻600/守2000
(1):相手の直接攻撃宣言時、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。その攻撃を1度だけ無効にする。
(2):1ターンに1度、自分フィールドに存在するこのカード以外の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。このカードのレベルはこのターンの終了時まで選択したモンスターと同じレベルになる。


「墓地のこのカードを除外して相手のダイレクトアタックを1度だけ無効にする！！」
「墓地から発動するカード……いつの間に……」
「2枚目のギャラクシー・トレードで墓地に送っておいたのよ。これでこのターンでは―――」
「―――決まらない、なんて思ってる？」

　綾香がそう言った瞬間。綾香のフィールドにセットされていたリバースカードが明らかになる。


※ワンダー・エクシーズ
通常罠
(1)：自分フィールドのモンスターを素材としてXモンスター1体をX召喚する。


「“ワンダー・エクシーズ”……！？ そんな、あんたのフィールドにエクシーズ召喚できるモンスターなんて……」
「相克の魔術師の効果。このターン、私はエクシーズモンスター1体をそのランクと同じレベルを持ったモンスターとエクシーズ召喚のための素材にできる」

　本来レベルを持つモンスターとレベルを持たないエクシーズモンスターによるエクシーズ召喚は不可能だ。だが、それを可能にする効果を相克の魔術師は持っているのだ。

「……そうか、相生の魔術師の効果でダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンのランクは7。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのレベルと同じ……」
「そういうことよ！！ 私はレベル7のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンとランク7となったダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでオーバーレイ！！ 2体のドラゴン族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！」


　オッドアイズとダーク・リベリオン。2体のドラゴンが真紅と漆黒の光と化して天空へと舞い上がる。そしてその姿は漆黒の禍々しい鎧と翼を纏ったものへと変化する。そのモンスターの姿が露わになった瞬間、このターンの最初に遊希と光子竜が感じた強い衝撃が再び遊希の身体に走った。


（この感覚―――間違いない、あのモンスターの……）
「“二色の眼の龍よ！その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ！”いでよ、ランク7！ 怒りの眼輝けし龍！“覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン”！！！」










＊










「青眼の白龍でダイレクトアタック！“滅びの爆裂疾風弾”！！」

　遊希と綾香が激戦を繰り広げていた頃、屋上へと続く道では竜司たち三人が押し寄せる生徒たちとデュエルに明け暮れていた。
　元プロデュエリストが二人もいるだけあって、発展途上の学生デュエリストたちは三人の前に次々と膝を屈していく。しかし、波のように押し寄せる生徒たちの前にその身体に疲労が貯まっていく。こればかりは年齢ということを考慮してももうどうしようもないことなのだが。

「っ、キリがないわね……」
「だが、ここで我々が倒れるわけにはいかない。早く行かなければ遊希くんが……」

　そうこうしている間にも、奥に控えていた生徒たちがデュエルディスクを展開して押し寄せてくる。このままでは、と三人が感じた瞬間である。「ズドン！」という音が周囲に響き、操られた生徒たちの前で爆発が起きる。何事か、と思った竜司が振り返るとそこには頭部が銃口を模した機械のモンスターが機械的かつ生物的な咆哮を上げていた。

「みんなー！！ アカデミアのアイドル、綾那ちゃんのライブ、はっじまるよーっ！！」

　状況に見合わぬフリフリの衣装を纏った女子生徒がマイクを片手に笑顔を見せていた。

「き、君は2年生の……！」
「はい！ アイドル研究会唯一の部員！ 神内 綾那です！」

　リボルバー・ドラゴンを駆ってその場に現れたのは遊希と予選でデュエルをした綾那だった。彼女は幸運にも黒幕に洗脳されなかった生徒の一人である。

「学生たちには謹慎を言い渡していたはずだ！ 何故君がここにいる！！」
「……1年生の遊希ちゃんやエヴァちゃんが傷つきながら戦っているのに、上級生の私たちが黙って見ている……そんなのアイドルとして、人として、デュエリストとして失格です！ だから私たちも戦います！」
「私たち……？」

　綾那の後ろからは無事だった生徒たちが続々と現れる。ミハエルによって無事だった生徒は皆謹慎を言い渡されていたのだが、それを破って駆けつけたのである。

「僕のカード占いで出たのは“魔導書廊エトワール”の正位置。意味するのは“希望”。僕たちが動くことで希望への道筋が開かれます」
「まあ占いの結果どうこうで私たちの決意は揺らがないわよ。アカデミアの生徒たちは仲間を大事にするの。私はオカマだけど」
「校長先生、娘さんは……星乃 綾香は屋上にいらっしゃるんですわね。お父様を救って頂いた恩返し、今こそ果たす時ですわ！ ここは私たちに任せて行ってください！！」
「藤堂くん……すまない。君たち、くれぐれも無茶だけはしてはいけないよ」

　綾那をはじめ、命、薫、美咲ら駆けつけた生徒たちにこの場を任せ、竜司たちは先へと進んだ。屋上で一人戦う遊希の下へ駆けつけるため。そして行方知れずだった娘を救うため。










＊









　綾香のフィールドに現れた漆黒のドラゴン。このドラゴンこそこのターン、綾香がカードをドローした瞬間に遊希が感じた邪なるドラゴンの正体だった。


※覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン
エクシーズ・ペンデュラム・効果モンスター
ランク7/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
【Pスケール：青4/赤4】
(1)：1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。デッキからPモンスター1体を選び、自分のPゾーンに置く。
【モンスター効果】
ドラゴン族レベル7モンスター×2
レベル7がP召喚可能な場合にエクストラデッキの表側表示のこのカードはP召喚できる。
(1)：このカードがXモンスターを素材としてX召喚に成功した場合に発動する。相手フィールドのレベル7以下のモンスターを全て破壊し、破壊した数×1000ダメージを相手に与える。このターンこのカードは1度のバトルフェイズ中に3回攻撃できる。
(2)：モンスターゾーンのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。自分のPゾーンのカードを全て破壊し、このカードを自分のPゾーンに置く。


「覇王……黒竜……」
「見た？ これが私の力の集大成！！ このモンスターが私の切り札！！ あんたのフィールドは最初から伏せてるセットカードが1枚だけ。その程度の守りでこのモンスターの攻撃は防げない。そして今はまだ私のバトルフェイズ！！ これで最後よ！！」

　オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの身体からは雷撃が発せられ、発達した二本の牙にその力が集約されていく。そしてその牙を字面に突き立てては雷撃と共に地面を切り裂きながら遊希へと突撃してくる。

「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンでダイレクトアタック！！ “反旗の逆鱗 ストライク・ディスオベイ”！！」
「―――リバースカードオー―――！！」
「無駄よ！！」

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン ATK3000

―――遊希の身体を、黒竜の牙が貫いた。

遊希 LP1600→0