第133話：舞い降りる閃珖竜　作：光芒

　星の輝く天空より舞い降りたのは白い粒子のようなものを纏った白いドラゴン。流線形のしなやかな身体に、刻印のようなものが刻まれた美しい蒼い宝珠が散りばめられている。その輝きは美しさのみではなく、優しさに満ち溢れた暖かいものだった。

「これが……綾香の精霊……」
「凄く、綺麗です……」

　綾香とエヴァのデュエルを固唾をのんで見守っていた千夏と詩織はスターダストの美しさに心を奪われていた。そして竜司は精霊を目覚めさせた娘を優しい眼で見つめていた。

「綾香……よく、頑張ったな」



※閃珖竜（せんこうりゅう）スターダスト
シンクロ・効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
(1):1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。



―――閃珖竜 スターダスト……それが……私の名前……

　綾香の脳裏には精霊あらためスターダストの声が響く。彼女は“スターダスト”という名前にまだ混乱しているようだった。

「そうよ。改めて宜しくね、スターダスト！」
―――……うん。

　それでも元気よく、自信たっぷりに話しかけてくれる綾香の笑顔を見てスターダスト自身も意を決したようだった。返事こそ巨大なドラゴンの見た目にそぐわない小さなものであったが、その一言に彼女の決意が現れていた。

「炎竜星-シュンゲイをシンクロ素材にしたことでスターダストの攻撃力・守備力は500ポイントアップするわ！」

閃珖竜 スターダスト　ATK2500/DEF2000→ATK3000/DEF2500

「攻撃力がスカーライトと並びましたカ。ですが、スカーライトの効果は自身の攻撃力“以下”のモンスターまで対応しマス！ そのモンスターでもスカーライトの“アブソリュート・パワーフレイム”の餌食デス！」
「そうね……だからこのターンでスカーライトを倒させてもらうわ！」

　今は綾香のターンであるため、スカーライトの効果は発動できない。そのためスカーライトの効果での破壊を免れるためにはこのターンのうちにスカーライトを撃破しなければならない。スターダストにカードを除去する効果はないため、このターンでスカーライトを倒すならば他のカードの効果および戦闘による破壊しかない。
　ただ仮にブラック・ホールのような除去カードが手札にあるのであればとっくに発動しているし、後から引いたとしても普通ならスターダストの召喚前にそれを発動する。そのため今の綾香にスカーライトをカードの効果で破壊する手段はないと言っていい。それならば取れる手段は1つだけに絞られる。

「ま、まさか……？」
「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズ！ 閃珖竜 スターダストでレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを攻撃！ “流星閃撃（シューティング・ブラスト）”！！」
「ッ……！！ スカーライト、迎撃して下サイ！ “灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”！！」

閃珖竜 スターダスト ATK3000 VS レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

　2体の精霊の攻撃力は同じ3000。精霊といえども攻撃力が互角である以上、相討ちとなる。だがスターダストの周囲にはいつの間にか光のバリアーが張り巡らされていた。

「こ、これは……！」
「閃珖竜 スターダストの効果を発動！ 1ターンに1度、自分フィールドに表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できるわ！ 選択したカードは1度だけあらゆる破壊を免れるのよ！」
「あらゆる破壊……戦闘による破壊も……！？」
「その通り！ そしてその効果の対象にはスターダスト自身も選択できる！“波動音壁（ソニック・バリア）”！ これでスターダストは破壊されない！！」

　灼熱の炎と聖なる力の込められた閃光がぶつかり合う。同程度の力を持った2つのエネルギーはしばらくの拮抗の後、大爆発を起こしフィールドに存在する2体のドラゴンを包み込んだ。
　しかし、2体のドラゴンは自身の持つ力によって明暗を分けた。破壊の力を主とするスカーライトが爆発に巻き込まれて消滅してしまったのに対し、守護の力を持つスターダストは自身の作り出したバリアーによって守られ、破壊を免れたのである。

「っ……！」
「どう、これがスターダスト……私の精霊の力よ！」
―――でも……この効果で守ることができるのは1度だけ。だから……油断しないようにね。

　自身の持つ力を改めて把握したスターダストはその能力を過信しないように、とすかさず釘を刺す。シュンゲイの効果で強化こそされているものの、その効果が無ければスターダストの攻撃力・守備力は最上級モンスターにしては低い方であるため、この効果の使いどころをしっかりと見極めることが綾香には求められるのだ。

（そうね、せっかくあなたと出会えたんだもの。しっかり覚えるようにするわ）
―――うん……よくできました。
（まるで先生みたい……えっ？）

　やれやれ、と呆れる綾香がスターダストを見た瞬間のことである。綾香は目を疑った。ついさっきまでスターダストがいた場所には見たことのないドラゴンの姿があった。
　そのドラゴンからはスターダストと同じ波動を感じるのだが、そのモンスターの外見はスターダストとは全く別のドラゴンだったのである。黄金の輝きを持つそのドラゴンの姿はまるで蜃気楼のようにおぼろげに揺らめいてはすうっと消えていった。

―――綾香？
（……えっ）
―――どうしたの？
（ううん、な、なんでもないわ！）

　気のせいだったのだろうか、と首を左右にぶんぶんと振って綾香はカードを1枚セットしてターンエンドを宣言した。


綾香 LP3600　手札3枚
デッキ：28　モンスター：1（閃珖竜 スターダスト）魔法・罠：1　墓地：14　除外：1
エヴァ LP6700　手札2枚
デッキ：30　モンスター：0　魔法・罠：3（闇氷の霊域）墓地：11　除外：0


☆TURN10


「私のターン、ドローデス！」

　スカーライトを思わぬ形で打ち破られたエヴァがドローしたカードは前のターンにこのカードが来ていればスカーライトを失うことはない、と思えるカードだった。
　また今ドローしたカードはモンスターカードではないため、エヴァのフィールドにスターダストの攻撃を防ぐことのできるモンスターはいない。そのため攻撃力を3000までアップさせたスターダストの直接攻撃を受けることになってしまうのだ。

（ウーン……ついてないデス）
―――まあよくあることだよ。
（そうデスネ。まだライフには余裕があるのでここは……）
「私はカードを1枚セットし、ターンエンドデス！」


綾香 LP3600　手札3枚
デッキ：28　モンスター：1（閃珖竜 スターダスト）魔法・罠：1　墓地：14　除外：1
エヴァ LP6700　手札2枚
デッキ：29　モンスター：0　魔法・罠：4（闇氷の霊域）墓地：11　除外：0


☆TURN11


「私のターン、ドロー！ よし、私は地竜星-ヘイカンを召喚！」

　一方の綾香はドローしたヘイカンをすぐさま召喚する。現状ライフの差は3000以上あり、エースモンスターであるスカーライトがフィールドに存在しない今こそ攻勢に転じてエヴァのライフを削り取らなければならなかった。

（仮にヘイカンなら破壊されても後続を呼べるし……アフターケアはどうしたって効く！）
「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズ！ まずは地竜星-ヘイカンでエヴァちゃんにダイレクトアタック！」

地竜星-ヘイカン ATK1600

エヴァ LP6700→5100

「そして閃珖竜 スターダストで追撃！ “流星閃撃”！」

閃珖竜 スターダスト ATK3000

エヴァ LP5100→2100

「くっ……ライフを逆転されたデス！」
「これなら行ける……！ 私はこれでターンエンドよ！」


綾香 LP3600　手札3枚
デッキ：27　モンスター：2（閃珖竜 スターダスト、地竜星-ヘイカン）魔法・罠：1　墓地：14　除外：1
エヴァ LP2100　手札2枚
デッキ：29　モンスター：0　魔法・罠：4（闇氷の霊域）墓地：11　除外：0


☆TURN12


（このドローに全てがかかっていマス。このドロー次第で私の勝ち負けが決まるんデス）

　自分の命運を決めるのはこの1枚のカード。そう考えると嫌でも武者震いが発生する。最もそれはどんなデュエリストでも体感することであり、決しておかしな話ではない。
　それでも少し前までの自分だったらここのドローで隠せないほどの動揺を見せていただろう。今この状況に落ち着いて臨むことができるのもアカデミアでの数か月があり、遊希たちと様々な出来事を共有したことが大きかった。

（このデュエルを通して綾香サンがどれだけ遊希サンのことを大事に思っているかがひしひしと伝わってきマス。ですが……遊希サンは私にとっても憧れの人であり、ライバルであり、親友デス。遊希サン、もしこのデュエルを見ていてくれるのであれば……私に力を下サイ！）
「私のターン、ドロー！」

　ドローしたカードを見てエヴァの目つきが鋭くなった。

―――エヴァ、いいの引いたね！
「そうデスネ、スカーライト！ 私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動しマス！」
「……死者蘇生！？」
「当然蘇生するのはレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、デス！」

　死者蘇生の効果により、墓地からは灼熱の火柱を噴き上げてレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトが舞い戻った。

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果を発動しマス！ 1ターンに1度、自分以外の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、そのモンスターの数×500ポイントのダメージを与えマス！」
「無駄よ、スターダストの効果でスターダスト自身を守ればその効果で破壊されるモンスターはいないわ！」
「構わないデス！ 全てを力の下に焼き尽くすのデス！ “アブソリュート・パワー・フレイム”！！」
「その効果にチェーンしてスターダストの効果を発動するわ！ 対象はスターダスト自身よ！ “波動音壁”！！」

　レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの燃え盛る拳の一撃を光と波動の壁で防ぐスターダスト。心なしか数ターン前に発動したアブソリュート・パワー・フレイムよりもスカーライトの放つ闘気が高まっているように綾香は感じた。

―――うっ……！
―――どう！ これがあたしの一撃よ！！
―――強い、でも……負けない。

　対峙するスカーライトとスターダストがそんな会話を交わす中、エヴァは1つだけ改めて確認しておきたいことがあった。

「綾香サン、1つ聞きたいことがありマス」
「……？ 何？」
「スターダストの対象になったカードは“1ターンに1度まで”しか守ることができないんデスヨネ？」
「……ええ。そうだけど」
「わかりました！ ではリバースカードオープン！ 墓地の闇氷竜 ウロボロスをゲームから除外し、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトを対象に速攻魔法、イージー・チューニングを発動しマス！」
「イージー・チューニング！？」

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000→4600

　イージー・チューニングは墓地のチューナーモンスター1体を除外することでフィールドに存在するモンスター1体の攻撃力を“永続的に”そのチューナーモンスターの攻撃力分アップさせる魔法カードだ。
　これにより、拮抗していた2体の精霊の攻撃力の差に大きな差が生じる。スターダストの効果で守れるのは1ターンに1度まで。仮に効果による破壊を防げても、攻撃力で上回られた以上、その攻撃を防ぐ手立ては綾香にはない。

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移りマス！ レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトで地竜星-ヘイカンを攻撃！ “灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”！！」

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK4600 VS 地竜星-ヘイカン ATK1600

綾香 LP3600→600

「きゃああっ！！」
―――綾香、大丈夫……？
（う、うん。なんとかね……）
「地竜星-ヘイカンが破壊されたことでヘイカンの効果を発動するわ！ 私はデッキから水竜……」

　綾香はヘイカンが破壊されたことで別の竜星モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。スカーライトの攻撃力の前では無意味な話であるが、どうせ召喚するのであれば守備力の高いビシキの方がいいだろう、とビシキの名を宣言しかける。
　しかし、よくよく考えてみると特殊召喚されたモンスターをスカーライトの効果を破壊されてしまえば表示形式に関係なく500のダメージを受ける。ライフが600しかない綾香からしてみればここで竜星モンスターを呼ぶことは逆に自分を追い込むことになるのだ。

「ヘイカンの効果でモンスターは召喚しないわ」
「フフフ、私のライフを削ることだけを考えて反撃の手を打たれることを失念していまシタネ。まあ、無理もない話デスガ……私はこれでターンエンドデス！」


綾香 LP600　手札3枚
デッキ：27　モンスター：1（閃珖竜 スターダスト）魔法・罠：1　墓地：15　除外：1
エヴァ LP2100　手札2枚
デッキ：28　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：3（闇氷の霊域）墓地：12　除外：1


☆TURN13


「私のターン、ドローよ。そうね……スターダストを守備表示に変えるわ」

閃珖竜 スターダスト DEF2500

「これで……ターンエンドよ」

　逆転のカードは引けなかった。今綾香にできることはスターダストを守備表示にして守りを固めることだけだった。


綾香 LP600　手札4枚
デッキ：26　モンスター：1（閃珖竜 スターダスト）魔法・罠：1　墓地：15　除外：1
エヴァ LP2100　手札2枚
デッキ：28　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：3（闇氷の霊域）墓地：12　除外：1


☆TURN14


「私のターンデス、ドロー！」
―――どう？ いいカード引けた？

　興味津々に尋ねてくるスカーライトにエヴァはドローしたカードを見せた。スカーライトはああ、とあからさまな溜息を吐く。　

（……まだデュエルは終わらないみたいデス）
「スカーライトの効果を発動しマス！ “アブソリュート・パワー・フレイム”！！」
「っ！ “波動音壁”！！」

　エヴァはスカーライトの効果でスターダストを破壊できないことなどわかっていた。むしろそれがエヴァの狙いでもある。デュエルを続けるためには綾香はスターダストの効果を発動しなければならない。
　仮にスターダストの効果を発動しない、もしくはできなかった場合スターダストを失うだけではなく綾香のライフは100まで減らされ、その後スカーライトのダイレクトアタックを受けることとなる。そうなれば綾香のライフが0となり、敗北は必至となるのだ。

「スターダストの守りはもう通用しマセン！ バトルフェイズ！ レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトで閃珖竜 スターダストを攻撃！ “灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”！！」

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK4600 VS 閃珖竜 スターダスト DEF2500

―――きゃあっ！
「スターダスト！？」
―――うう……だ、大丈夫。

　スカーライトの灼熱の炎によってスターダストはあえなく破壊されてしまった。スターダストが守備表示だったため戦闘ダメージこそ受けなかったものの、スターダストを破壊されたことで綾香を守るモンスターはいなくなってしまった。　

「モンスターがいればこれで終わりだったのデスガ……これで私はターンエンドデス」


綾香 LP600　手札4枚
デッキ：26　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：16　除外：1
エヴァ LP2100　手札3枚
デッキ：27　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：3（闇氷の霊域）墓地：12　除外：1


☆TURN15


（どうしようどうしよう……このドローでいいカードを引けなかったら……）

　追い込まれてもなお気丈に振る舞おうと綾香は必死に取り繕うものの、その心中はそう落ち着いてくれない。エヴァに対して綾香はまだエヴァほどの精神面の強さを持ち合わせていなかったのである。

（ここまで来たのに……これじゃ……）

　そんな時、綾香の脳裏にはスカーライトの攻撃を受けた影響からか瞬時に過去の光景がフラッシュバックした。それは夏休みの時の出来事。遊希が綾香に数枚のカードをプレゼントした時のことだった。





＊





「綾香、このカードあげる」
「どうしたのよ突然。明日雪が降るわよ」
「失礼ね、私どれだけケチに思われてるのよ。いや街のカードショップでカードを買ったんだけど、その時に購入額に応じてクジが引けるキャンペーンがやってたの。それでクジ引いたら4等が当たったのよ」

　4等とはまた中途半端な等であるが、ハズレよりかは幾分マシな結果である、と受け止めた遊希が受け取ったのはショップの店員が数枚のカードをまとめたオリジナルの拡張パックだった。
　カードの内容次第では自分のデッキに入れようかと考えていた遊希であったが、パックを開封してみるとそれはどれもシンクロモンスター関連のカードであり、遊希のデッキに合わないカードばかりだったのだ。

「せっかく当たったのにストレージで腐らせるには勿体ないカードだから……あんたにあげるわ」
「これは……確かに私のデッキに合うカードだけど……」
「テキストを見てみたけど、どれも汎用性の高いチューナーモンスターばかりよ」
「……わかったわ。じゃあデッキに入れて今度回してみるね」





＊



（……なんで今あの時のことを……）

　綾香は疑問に思いながらも、デッキからカードをドローするのであった。