第35話：パワー・ボンド　作：光芒

「アイドルのデュエルは夜の部に行くよ！ そして夜の部の一曲目はこのカード！“パワー・ボンド”！！」


※パワー・ボンド
通常魔法
自分の手札・フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、機械族のその融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。
このカードを発動したターンのエンドフェイズ時、自分はこのカードの効果でアップした数値分のダメージを受ける。


「パ、パワー・ボンド！？」
―――……これはまずい。決められたらこちらのライフは大きく削られる。
「前のターンでリボルバー・ドラゴンちゃんを倒せなかったのが失敗だったね！ 私はフィールドのリボルバー・ドラゴンちゃんと手札の“ブローバック・ドラゴン”ちゃんで……」
「させません！ リバースカード、オープン！ カウンター罠“銀河割断”を発動します！」


※銀河割断（ギャラクシー・クリーピング/オリジナルカード）
カウンター罠
(1)：自分フィールド上に「ギャラクシー」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・特殊召喚・反転召喚のうちどれか1つを無効にして破壊する。


「このカードは自分フィールドに「ギャラクシー」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できるカウンター罠です！ このカードの効果でパワー・ボンドの発動を無効にして破壊します！」
「そんなっ！？……せっかくのパワー・ボンドがぁ……」
「そのカードの危険性は機械族をメインに使わない私でも知っていますから」
「だよねぇ……でも、アイドルのライブは予定通り行われるよ！ だって私の手札にはもう1枚パワー・ボンドがあるんだから！」
「2枚目！？」
「今度こそ新メンバーの登場！ フィールドのリボルバー・ドラゴンちゃんと手札のブローバック・ドラゴンちゃんで融合！ 綾那ちゃんのアイドルパワーは止まらない！ みんなを蜂の巣にしちゃって！ 融合召喚！“ガトリング・ドラゴン”ちゃん！」


※ガトリング・ドラゴン
融合・効果モンスター
星8/闇属性/機械族/攻2600/守1200
「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」
コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。


「パワー・ボンドの効果で融合召喚されたからガトリング・ドラゴンちゃんの攻撃力は2倍になるよ！」

ガトリング・ドラゴン ATK2600→5200

「攻撃力……5200」
「でもガトリング・ドラゴンちゃんがいくら高い攻撃力を持っていたとしても銀河眼の光子竜ちゃんの効果で除外されちゃうからバトルで倒すことは出来ないんだよね？ だったらガトリング・ドラゴンちゃんの効果を発動しちゃうよ！」

　ガトリング・ドラゴンの破壊効果はコイントスを3回行い、表の数だけフィールドに存在するモンスターを破壊する効果だ。しかし、今フィールドに存在する3体のモンスターはガトリング・ドラゴンも含めての数である。
　そのため3枚とも表を出してしまった場合はガトリング・ドラゴン自身も破壊されてしまう。仮にそうなった場合、綾那はパワー・ボンドのデメリット効果で上がった攻撃力分のダメージを直接ライフに受けることになる。これは綾那にとっても危険な賭けでもあった。

「私が……綾那ちゃんが……本当のアイドルならここで理想的なコイントスができるはず！ 行くよっ！ まず1回目！」

　綾那の願いを込めた1度目のコイントス。空中に舞ったコインは弧を描き、そして表を向いて綾那の手の中に落ちた。

「1回目のコイントスは表！ そして2回目！」

　そして2度目のコイントス。コインを投げる綾那の手にも微かな震えが見て取れる。しかし、その震えが幸いしたのかコインは2回目の表を導き出した。

「2回目も表！ これで2体のモンスターちゃんの破壊が確定したよ！」
「……ですがまだあと1度のコイントスを残しています！」
「そうだね。でも綾那ちゃんの運命力はこんなもんじゃないんだから！ さあ行くよっ、最後の1回！」

　綾那の手から3度コインが舞い上がる。そのコインの出る目は綾那にも遊希にもわからない。それは神が決めることと言っていいだろう。そして、その神は綾那に微笑んだ。

「3回目は……裏！ よって破壊されるモンスターちゃんの数は2体！」
「……なんて、強運」
「当然破壊しちゃうのは銀河眼の光子竜ちゃんと銀河眼の竜騎士ちゃんの2体だよ！ さあ、ガトリング・ドラゴンちゃん！ 綾那ちゃんのアイドルスマイルを込めた弾丸でみんなを撃ち抜いちゃえ！！」

　2体のギャラクシーモンスターに向けて照準を合わせられたガトリング・ドラゴンの頭部から放たれた銃弾によって光子竜と竜騎士は為す術もなく破壊されていく。光子竜は破壊され、墓地に送られる瞬間、その光景を呆然と眺めていた遊希に最後の力を振り絞って語り掛ける。彼の眼から見た遊希はこの間エヴァに敗れた時に近い顔をしていたからだ。

「光子竜、竜騎士！ そんな、こんなにあっさり突破されるなんて……」
―――ふん、この程度……どうということはない！ いずれ墓地から舞い戻る時が来るだろうさ。その時まで耐え抜け、遊希！
「あ、相手によって破壊され、墓地に送られた竜騎士の効果を発動します！ 相手フィールドに存在するカード1枚を選択して破壊します！ 破壊するのは当然、ガトリング・ドラゴンです！」

　竜騎士の残した剣が投槍のように変化してガトリング・ドラゴンへと向かっていく。しかし、その剣がガトリング・ドラゴンの身体を貫こうとしたその瞬間、ガトリング・ドラゴンの姿がフィールドから消えた。そして彼女のフィールドにはガトリング・ドラゴンの融合素材となったリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンの2体のモンスターが存在していた。

「……ガトリング・ドラゴンが消えた？ まさか！」
「最初のターンからセットしていて正解だったね！ 速攻魔法“融合解除”を発動させてもらったよ！」


※融合解除
速攻魔法
フィールド上の融合モンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す。
さらに、エクストラデッキに戻したそのモンスターの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を特殊召喚できる。


「融合解除！？」
「ガトリング・ドラゴンちゃんをエクストラデッキに戻して、リボルバー・ドラゴンちゃんとブローバック・ドラゴンちゃんを墓地から特殊召喚したんだよ！」


※ブローバック・ドラゴン
効果モンスター
星6/闇属性/機械族/攻2300/守1200
コイントスを3回行う。その内2回以上が表だった場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。


「これで破壊対象となったガトリング・ドラゴンちゃんはフィールドに存在しないから銀河眼の竜騎士ちゃんの効果では破壊されないよ！」
「っ……！」
「それじゃあ少しセットリストは狂っちゃったけどバトルフェイズ！ ブローバック・ドラゴンちゃんとリボルバー・ドラゴンちゃんの効果でダイレクトアタックだよ！」

ブローバック・ドラゴン ATK2300
リボルバー・ドラゴン ATK2600

遊希 LP7700→2800

「がはっ……！！」

　2体のモンスターによるダイレクトアタックは予想以上に響いたらしく、遊希は思わずその場に膝をついてしまった。最もそれはダメージの総量だけではなく、彼女のメンタルがまだ完全に治りきっていない、ということも影響していた。

（……これが2年生のデュエル……だめだ、1年生の私じゃ……）
―――遊希！

　弱気になる遊希に光子竜は墓地から呼びかける。遊希はその声に我に返ってなんとか立ち上がる。

「バトルフェイズを終えてメインフェイズ2に移るよ！……うーん、2枚のセットカードが気になるけど、まっいいか！ このまま綾那ちゃんはターンエンドだよ！」

　綾那がターンエンドを宣告した時、遊希は驚きながら綾那にあることを告げた。

「か……神内先輩？」
「なーに？ 遊希ちゃん。遊希ちゃんのターンだよ？」
「パワー・ボンドのデメリット効果は？」
「えっ、だってパワー・ボンドで融合召喚されたガトリング・ドラゴンちゃんはもうフィールドにいないんだよ？ だからダメージは受けないんだよ！」
「……パワー・ボンドのデメリットはそのモンスターが融合召喚された時点で確定しているんです。仮にそのモンスターがフィールドを離れてもダメージを受けない、なんてことはないんですが……」
「え゛？」

パワー・ボンドによるバーンダメージ 2600

綾那 LP5200→2600

「うわああん！ 知らなかったああ！」


綾那　LP2600　手札0枚
デッキ：30　モンスター：2（リボルバー・ドラゴン、ブローバック・ドラゴン）魔法・罠：1（機甲部隊の最前線）墓地：6　除外：1
遊希　LP2800　手札3枚
デッキ：31　モンスター：0　魔法・罠：2　墓地：7　除外：1


☆TURN05

「いたた……ふええ、普通にダメージ受けるならまだしもこんな形でライフを大きく削られちゃうのは恥ずかしいよぉー！」
「……うっ、くくくっ……！」

　遊希のターンであるが、遊希はデッキからカードをドローするどころではなかった。パワー・ボンドのバーンダメージで顔に煤をつけた状態の綾那がツボに入ったのか、遊希は片手で口を抑えながら必死に笑いを堪えていた。

「か、神内先輩……失礼ですが、お、面白すぎますっ……！」
「もーっ、ひどいよ遊希ちゃん！ でも、やっと笑ってくれたね？」
「えっ……」
「遊希ちゃん、デュエル始めた時からずっと眉間に皺が寄っていたよ？ 女の子なんだからそんなんじゃダメ！ もーっと表情を和らげようよ、せっかく可愛い顔をしてるんだから！」
「神内先輩……」
「ほら、遊希ちゃんのターンなんだからドローして！ まだデュエルは終わってないんだから！」
「は、はい！ では、ドロー」

　このターン、遊希はリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンの2体を処理出来るモンスターを召喚しつつ、さらに破壊効果からそのモンスターを守り、そして万が一の状態からのリカバリーをする必要があった。
　遊希はそれが出来るモンスターを持っている。しかし、そのモンスターを出すには綾那同様自分の運に賭けるしかなかった。

「銀河の冥府竜をコストに魔法カード、ギャラクシー・トレードを発動します。デッキからカードを2枚ドロー！」

　ギャラクシー・トレードでドローしたカードを見た遊希の顔が綻ぶ。彼女の手札に逆転のきっかけとなるカードが揃ったのだ。

「墓地の銀河の冥府竜の効果を発動します！ このカードは墓地のギャラクシーモンスター2体をゲームから除外することで墓地から特殊召喚できます！ 私は銀河騎士と銀河悪魔を除外し、冥府竜を特殊召喚！ そして自分フィールドにギャラクシーモンスターが存在するため、手札から銀河の雷光竜は特殊召喚できます！」

　冥府竜と雷光竜、2体のギャラクシーモンスターが遊希のフィールドに現れた。雷光竜のレベルは自身の特殊召喚時の効果で5から冥府竜と同じ8になっている。

「レベル8のモンスターが2体……今度はどんな子が現れるのかな？」
「今度は神内先輩のステージを盛り上げるにうってつけのモンスターです！ 私はレベル8の銀河の冥府竜と銀河の雷光竜でオーバーレイ！ 2体のギャラクシーと名のついたモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！」


　フィールドには何処からか暖かく優しい風が吹き始める。それは遊希がエクシーズ召喚したモンスターによるものだった。天空からゆっくりと舞い降りるのは4枚の白い翼を持った白鳥のような姿をした美しいドラゴンであった。


「“銀河に舞い踊る白き守護竜よ、優しき光と風で迫る災厄から全てを守り抜け！”ランク8、風の銀河眼！“銀河眼の大気竜（ギャラクシーアイズ・アトモスフィア・ドラゴン）”！！」