第29話：襲撃、闇の銀河眼　作：光芒

　遊希の残りライフは無傷の8000。この数字は一見すればかなり多い数字であるが、デュエルにおいては別だ。デュエルモンスターズはデッキ構築や本人の実力もそうなのだが、一枚のドローカードで全てがひっくり返る。そういったことは珍しいことではない。
　現に今遊希が置かれている状況がまさにそうだ。エヴァのフィールドには攻撃力3200の闇氷魔竜 レヴィアタン、攻撃力2800のレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン、そして攻撃力2500のライトパルサー・ドラゴンの3体が存在し、遊希のフィールドにはモンスターが1体も存在しない。
　この3体の攻撃力の合計は8500となり、遊希のライフを1度のバトルフェイズで0に出来るのだ。これも窮地のエヴァのドローが作り出した状況であった。

「さあ、今度は私が決めますヨ！ まずはライトパルサー・ドラゴンでダイレクトアタックデス！ “ライトニング・パルス・バースト”！！」

ライトパルサー・ドラゴン ATK2500

遊希 LP8000→5500

　遊希のデッキには“冥府の使者ゴーズ”のような相手のダイレクトアタックに反応して特殊召喚されるモンスターは入っていない。
　ゴーズが相手モンスターのダイレクトアタックによってダメージを受けて特殊召喚された場合、受けたダメージと同じ攻守を持つカイエントークンを特殊召喚するため、中級者以上のデュエリストが相手にダイレクトアタックダイレクトアタックをする場合は基本的に攻撃力の低いモンスターから仕掛けるようにするのが常識となっているのだ。
　もっとも今回のケースでは遊希のフィールドにはセットカードがあるため、ゴーズの効果は発動できないのだが。

「次はレッドアイズの攻撃デス！ “ダークネス・メタル・フレイム”！！」

レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン ATK2800

遊希 LP5500→2700

「ぐっ……！！」
（あのセットカードはブラフとみて間違いないでしょうネ。ここは思い切って攻めマス！）
「これが最後の攻撃デス！ 闇氷魔竜 レヴィアタンでダイレクトアタック！ “ブリザード・ジェラウス・バースト”！！」

　レヴィアタンが大きく口を開き、遊希に向けて攻撃を放とうとする。綾香は思わず「遊希！」と遊希の名を叫ぶ。

「……リバースカードオープン！ 速攻魔法“銀河再誕”発動！」


※銀河再誕（リ・ギャラクシー/オリジナルカード）
速攻魔法
(1):自分の墓地に存在する「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を特殊召喚し、このカードを装備カード扱いとして装備する。
(2):このカードを装備した装備モンスターの攻撃力は半分になり、装備モンスターは次の自分のターンの終了時に破壊される。
(3):装備モンスターをX召喚の素材とする場合、装備カード扱いとして装備されたこのカードをX召喚のための素材として使用することができる。


「速攻魔法！？」
「銀河再誕の効果で私は墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚し、このカードを装備する！ 最もこのカードを装備した装備モンスターの攻撃力は半分になり、そのモンスターは次の私のターンの終了時に破壊されるけどね」

銀河眼の光子竜 ATK1500

「私のフィールドにモンスターが召喚されたことでバトルステップの巻き戻しが発生するわ。攻撃する？それともしない？」
「……少し考える時間をクダサイ」
「いいわ」

　エヴァが悩むのにも理由があった。銀河再誕の効果で特殊召喚された光子竜の攻撃力は元々の半分の1500。攻撃力自体は大したことないのだが、肝心なのは光子竜の効果だ。
　光子竜の除外効果は遊希を見てきたエヴァもよく熟知している。そのためここで攻撃を仕掛ければまず光子竜は自身とレヴィアタンを除外してこの戦闘を終わらせるだろう。そして光子竜がゲームから除外されれば装備カードとなっている銀河再誕は破壊され、デメリット効果である攻撃力ダウンと自壊効果は失われる。
　かと言ってここで攻撃を止めれば、次のターンで銀河再誕の3つ目の効果で光子竜と銀河再誕で新たにランク8のエクシーズモンスターを召喚される恐れがある。遊希のデッキには未知のカードが多く、その全容を知るのは他ならぬ遊希ただ一人。それを考えると彼女のエクストラデッキにはこの状況をまたしてもひっくり返すモンスターが眠っているのではないか。
　今、自分の手札は1枚のみで先ほどの速攻のかかしのような直接攻撃を防ぐカードではない。となるとエヴァの取る道はただ一つ。

「……決めマシタ！ レヴィアタンで光子竜を攻撃しマス！」
「この瞬間、光子竜の効果が発動。自身と攻撃モンスターをゲームから除外するわ」

　光子竜の身体が眩く輝き、レヴィアタンを自身と共に亜空間へと飛ばす。これでエヴァのフィールドには攻撃可能なモンスターはいなくなった。

「……バトルフェイズを終わりマス」
「この瞬間、レヴィアタンと光子竜はフィールドに戻ってくる。戻ってきた光子竜の攻撃力は3000よ」
「メインフェイズ2、私はカードを1枚セットしてターンエンドデス」


遊希　LP2700　手札:2
デッキ:35　モンスター:1（銀河眼の光子竜）魔法・罠:0　墓地:8　除外:0
エヴァ　LP5000　手札:0
デッキ:35　モンスター:3（闇氷魔竜 レヴィアタン、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン、ライトパルサー・ドラゴン）魔法・罠:3（闇氷の霊域、リビングデッドの呼び声）墓地:5　除外:2


☆TURN05


「私のターン、ドロー……どうやらこのデュエルはまだまだ混沌としそうね」
「その様子だといいカードを引いたようですネ」
「ええ。自分フィールドにギャラクシーモンスターが存在する時、銀河の雷光竜は手札から表側守備表示で特殊召喚できる！ そしてこのカードが特殊召喚に成功した時、自分フィールドに存在するギャラクシーモンスター1体とこのカードのレベルを同じにする！ これで雷光竜のレベルは5から8になるわ！」

銀河の雷光竜 星5→星8

　遊希のフィールドには光子竜と雷光竜、再び2体のレベル8ギャラクシーモンスターが並び立つ。仮にエヴァが攻撃をせず銀河眼の効果を発動させずともどちらにせよ遊希はこのドローでランク8のエクシーズモンスター召喚に繋げることができたのである。

（……やはり遊希さんは強いデス。一流のデュエリストデス）

　エヴァは遊希の引きの強さに心の中で素直に賛辞を贈る。一方で遊希はここからどのモンスターを召喚すればこの状況を打開できるか考えていた。

（相手フィールドには3体のドラゴン族。レヴィアタンの攻撃は光子竜の効果で防ぐにしても、レッドアイズの攻撃を通してしまえばそれで終わり。このターンでエヴァの攻め手を減らさなければならない。でもライトパルサー・ドラゴンは墓地の闇属性の上級以上のドラゴン族を蘇生させる効果がある以上最初に倒さなければならない……となると……）

　遊希は自分のエクストラデッキを確認する。この学校に来てから使ったのは火の銀河眼と地の銀河眼。これらのモンスターの使用を控えていたのは自分の身体にかかる負担を極力減らすためだったが、この1か月の学校生活を経てだいぶ耐性がついてきた。
　学校に入る前の自分なら使えなかったカードも今なら十分に使いこなすことが出来る。遊希の中には根拠こそないが、確かな自信が芽生えていた。

―――遊希。
（何よ）
―――お前の思うがままに行け！
（……もちろん！）
「私は、レベル8の銀河眼の光子竜と銀河の雷光竜をオーバーレイ！ 2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！」

　光子竜と雷光竜が二つの光となって交わる。そしてその光はやがて闇を生み出し、その中から現れたのは光のドラゴンである光子竜から生み出されたとは思えないおどろおどしい姿をした蛇のような漆黒のドラゴンだった。

「こ、このモンスターは……」
「“銀河に蠢く漆黒の闇、その顎をもって瞳に映る全てを喰らう。命の光、ここに潰やせ！”現れよ、闇の銀河眼！“銀河眼の掩蔽竜（ギャラクシーアイズ・オカルテーション・ドラゴン）”！！」
「や、闇の銀河眼……！？」
「銀河眼の掩蔽竜の効果を発動！！」


※銀河眼の掩蔽竜（ギャラクシーアイズ・オカルテーション・ドラゴン/オリジナルカード）
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/闇属性/ドラゴン族/攻2700/守2800
「ギャラクシー」と名のついたレベル8モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードX素材を2つ取り除き、フィールドに存在するカードを2枚まで選んでゲームから除外できる。この効果を発動したターン、このカードは攻撃できない。
(2):墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。相手の墓地に存在するカードを2枚まで選択してゲームから除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。銀河眼の掩蔽竜の(2)の効果はこのカードが墓地に送られたターンには発動できない。


「このカードのオーバーレイ・ユニットを2つ消費して発動！ フィールドに存在するカードを2枚まで選んでゲームから除外できるわ！」
「除外！？ しかも選ぶってことは対象を取らない除外ということですカ！？」
「ええ、この効果は対象を取らない。ゲームから除外するのはあなたのフィールドのレヴィアタンとレッドアイズよ！ 掩蔽竜、食らい尽くしなさい！！」

　オーバーレイ・ユニットを消費した掩蔽竜の身体はますます大きくなり、そして口を大きく開くとレヴィアタンとレッドアイズの2体を丸飲みにしてしまった。
　飲み込まれた2体のモンスターは掩蔽竜の力によってゲームから除外されてしまう。当然墓地には送られなかったため、ライトパルサー・ドラゴンの効果でも蘇生することは出来ない。

「一気に2体のモンスターが……でもこの効果を発動したターン、掩蔽竜は攻撃できないはずデス！」
「ええ、その通り。でも掩蔽竜はこんななりでも一応“ギャラクシーアイズ”の名を持つのよ？ 私は銀河眼の掩蔽竜でオーバーレイ・ネットワークを再構築！！ エクシーズチェンジ！ 現れなさい、ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン！！」

　オーバーレイ・ユニットを失い、効果を発動できなくなった掩蔽竜はただの攻撃力2700のありふれたモンスターである。しかし、ギャラクシーアイズの名を持つ以上、そんなモンスターでも攻撃力4000のFA・フォトンの素材となりえるのだ。

「攻撃力4000……」
「FA・フォトンの効果を発動！ オーバーレイ・ユニットを1つ取り除くことで、フィールドに表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する！ 破壊するのは当然、ライトパルサー・ドラゴンよ！！ “ギャラクシー・サイド・ワインダー”！！」
「くっ……私のフィールドのモンスターが……」
「あなたの墓地にはレベル5以上の闇属性・ドラゴン族モンスターは存在しないため、ライトパルサー・ドラゴンの蘇生効果は発動できない。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズ！ ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでダイレクトアタック！ “壊滅のフォトン・ストリーム”！！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン　ATK4000

エヴァ LP5000→1000

「バトルフェイズを終えてメインフェイズ2。といっても私はそのまま何もせずターンエンドよ」



遊希　LP2700　手札:2
デッキ:34　モンスター:（ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン）魔法・罠:0　墓地:11　除外:0
エヴァ　LP1000　手札:0
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:3（闇氷の霊域、リビングデッドの呼び声）墓地:6　除外:4


（……エヴァの手札は0。見たところエヴァの闇氷デッキの展開力は普通のデッキを大きく上回っている。しかし、残りライフはわずか1000で、手札1枚からFA・フォトンを攻略できるモンスターはそう簡単には出せないはず。このデュエル……私が貰った）

　遊希は内心でこのデュエルの勝利を確信しつつあった。しかし、その一方で光子竜はそんな遊希の様子を不穏に思っていた。