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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第182話:バースデイ

第182話:バースデイ 作:光芒





「うっ……ううん……あー、もう朝かぁ……」

 窓の外から小鳥のさえずりが響く朝、星乃 綾香は目を覚ました。起き上がった彼女の眼に映るのは反対の二段ベッドですやすやと寝息を立てているルームメイトの陽川 千夏と月宮 詩織の姿だった。
 2人がまだ眠っているのを確認した綾香は枕元に置いてあったスマートフォンのボタンをタッチして時間を確認する。スマートフォンの画面には「AM 5:20」という時間が映し出された。

「……朝の5時……まだまだ冷えるなぁ」

 捲られた部屋のカレンダーは「March」という英語が書いてある。綾香たちが精霊界から帰還したのが12月であるため、早くも3か月近い時が経とうとしていた。寝ぼけ眼の彼女は少しふらふらと覚束ない状態でありながらも器用に二段ベッドの梯子を登ると、自分の上の段で寝ている親友の姿を一目見ようとした。

「あれー?……遊希ー?」

 しかし、綾香が覗き込んだ上のベッドには誰も眠っていなかった。掛布団がきちんと整理されていることからトイレなどで一時的に起きているわけではないことはわかる。ならばこのベッドの主は何処へ行ってしまったのか。すると、綾香は何処からかお腹が空きそうな香ばしい味噌の匂いが漂っていることに気が付いた。
 まさかと思って梯子を下りた綾香は寝ている千夏と詩織を起こさないように足音を極力立てずに部屋を出ると寮の各部屋に備え付けられているキッチンのドアを開ける。人3~4人が入る程度の広さのキッチンの中では長い髪を1つにまとめたエプロン姿の少女が鍋と向かい合っていた。

「っ……なんだ、綾香か……おどろかさないでよ」
「……早いわね。何してんの、遊希?」
「なにって……朝ごはん、作ってるの。その……みんなのぶん」

 一人早起きしてキッチンに向かっていた少女・天都 遊希はもじもじと身体をくねらせながら少し恥ずかしそうに俯いた。綾香はそんな遊希の元に歩み寄ると、その頭を優しく撫でてあげる。

「そっか。ありがと」
「えへへ……」

 傍から見れば親友の少女同士による微笑ましい光景に見えるかもしれない。エプロンを付けた少女―――天都 遊希に角と翼と尻尾が生えていることを除けば。












 時は綾香たちが遊希を精霊界から連れ戻したその日に遡る。人間界から逆流するエネルギーに飲まれかけながらもなんとか人間界に帰還した綾香たちは親友の変わり果てた姿に言葉を失っていた。
 全体的な姿形は遊希そのものなのだが、彼女の頭からは牡鹿のような立派な角が、背中からは水晶のように2枚の美しい翼が、腰からは細長く鋭い尻尾が生えており、癖のついた長く美しい黒髪は白銀に染まっていた。
 遊希の顔立ちには変化はなく、それはそれは美しいままなのだが、耳はまるでエルフのように先端が尖り、両目は右目がサファイアのように、左目が黄金のように光り輝いている。服装もアカデミア指定の制服から肩、腋、胸元、背中を露出したショルダーレスでミニスカートのドレスに変わっており、そのドレスの上からは胴体、手首から肘、太腿から足までを夜空のような漆黒の鎧で覆っている。
 まさにファンタジーを題材にした小説やゲームから飛び出てきたキャラクターのような外見に変貌していたのだ。

「えっ……なに……これ……わたし、どうしちゃったの……なんで、なんで……どうして……?」

 声を震わせながら壊れた次元転送装置に映る自分の姿を見る遊希。ようやく元いた世界に帰ってこれたというのに、何故このように姿が変わってしまったのか。かつて精霊を宿していた遊希にもその理由はわからなかった。
 声にならない声を上げ、嗚咽する遊希。そんな彼女に後ろから駆け寄った綾香はぎゅっと遊希を抱きしめた。突然の感触に訳が分からず、目を白黒させる遊希。そして抱き着いた綾香はまるで子供をあやすかのように遊希の頭を撫で始めた。

「大丈夫。大丈夫だからね」
「綾……香?」
「遊希、おかえり。また、一緒に過ごせるね」
「綾香……あやかぁぁぁ……」

 優しい言葉をかけてくれた綾香の胸に顔をうずめ遊希は泣き続けた。姿形は変わってしまっていたとしても、泣き虫なところを含め遊希は遊希であり、綾香にとってはアカデミアに入学して最初にできた友達であることには変わりはないのだから。
 それから数日して落ち着いた遊希は竜司の伝手で海馬コーポレーションが運営する病院兼研究機関で診察を受けた。元々病院にはいい思い出のない遊希であったが、自分のために動いてくれた竜司の面子を立てることと自身のこの身体のことが解明できるのであれば、と自らそこへと向かった。
 しかし、現代の科学を以てしても遊希のこの身体に関する謎はほとんど解明されず、解明されたこといえば、彼女の身体および精神的な変化程度だった。病院および研究機関から送られてきた回答は以下の通りであった。


・身長は155㎝と以前に比べて10㎝前後縮んでしまっている(備考:角や尻尾を含めると人間時の身長を大きく上回る)
・身長と体重以外の身体数値(視力・聴力・嗅覚・全身の筋力など)は人間時よりも大きく向上しており、握力に関してはメロンやカボチャを片手で潰すことができるレベルにまで上昇。
・爪の硬度はダイヤモンドに匹敵。
・身に着けている鎧やドレスは地球上では確認されていない物質でできている。
・背中の翼で短時間ではあるが、空を飛ぶことができる。
・口から火を噴くことができる(備考:コントロールはできるようだが、くしゃみと同時に出てしまうこともある)
・パンチやキックで厚い鉄板を貫く。
・言語機能および精神年齢にやや退行が見られる(備考:小学校高学年~中学2年生までの女子とほぼ同数値)
・知力やIQ、学力、デュエルの知識は以前より全体的に向上。
・所々の所作に猫や犬など動物的な行動が見られる(備考:片手で顔を洗う仕草を見せる、嬉しいと尻尾を振るなど)
・ドラゴン(爬虫類?)の生態が混じったのか、寒いところにいると冬眠状態になる。日向を好む。


 海馬コーポレーションの研究者からは役に立てず申し訳ない、と謝られた竜司だったが身体的や精神的なことでもこれだけのことがわかったのであれば十分であった。

「なんか凄いわね……ラノベのキャラみたい」
「そ、そうかなぁ……?」
「でもちっちゃくなった遊希サン可愛いデス! 身長が縮んだので頭をなでなでできるデス!」

 最初はその姿に戸惑いを覚えていた千夏・詩織・エヴァの3人であったが、綾香が最初に中身は自分たちのよく知る遊希であると証明してくれたこともあって、すぐに打ち解け、元の親友同士に戻ることができた。

「はい! 私おかしいと思います!」
「何よ藪から棒に」
「なんでちっちゃくなったのに減らなきゃおかしなところはそんなに変わってないんですか! 自然の摂理に反していると思います!」

 千夏が指摘した通り、ドラゴンの姿を得た遊希は全体的に幼くなっていた。だが、それでも千夏の言うある箇所についてはそれほどの減退が見られていなかった。事態が事態だけにそこまで気が回らなかった綾香たちだが、千夏の言葉をきっかけに4人の視線が遊希のその場所に向けられる。遊希はさっと両手でそこを隠した。

「じ、じっと見ないでよ……」
「あ、あまりその辺りのことは触れてあげない方が」
「不公平よ!」
「公平も何も元が元だから仕方ないじゃないの。ちっちゃいあんたが悪い」
「ひどい!」
「どちらにしても遊希サンがとっても可愛いから無問題デス!」

 遊希の身に起きたことにやや暗い空気が漂っていたが、今となってはこのような笑い話もできるようになっていた。これはどんな最先端の技術や科学を以てしても成し得ないことである。そしてそんな科学の力で解明できないことをデュエルモンスターズの精霊と直に触れ合った綾香たちはわかるような気がしていた。
 これはあくまで綾香たちの推測であるが、遊希の身体に起きていることはかつて自分たちの前に現れた遊希の妹・天都 遊望と同じで遊希は「人間とデュエルモンスターズの精霊のハーフ」になっていると思われる。
 遊希は10年近く光子竜をその身に宿しており、かつ一時的に切り離されたとはいえ、精霊を宿した状態で精霊界で2~3か月近くの時を過ごしている。そして光子竜を光子竜皇に進化させ、遊望や精霊皇といった強力な力を持つ精霊と戦っていた。
 精霊界で目覚めた遊希の身体には綾香とデュエルした時に精霊化の兆候が表れ始めていたのだが、精霊として遊希の身体に宿っていた光子竜が離れ、精霊界では激戦を繰り広げた。そして精霊界から膨大なエネルギーが迸るワームホールを通ってきたことが決定打となり、遊希の身体に急速な変化を及ぼしていたのだ。

「でも……なんでこのデッキが私のところに残ったんだろう……」

 そして、そんな遊希の変化はデュエリストの命でもあるデッキにも現れていた。遊希は本来この世界に存在しない【ギャラクシー】というデッキの使い手であったのだが、精霊界から人間界に戻る際にそのデッキの大半のカードを失ってしまっており、精霊の宿るカードではなくなった光子竜や銀河騎士、銀河戦士といったカードに別のデッキとして使っていた【表サイバー】のカードを合わせることでその枠を埋め合わせた。
 元々卓越したデュエルセンスを持ち合わせていた遊希が操るデッキだけあって強力であることには変わりないのであるが、光子竜がいたころと比べるとデッキ事故を起こす割合が上がっており、これまでの絶対的な強さを誇るデッキではなくなってしまったのである。
 最も【サイバー・ドラゴン】の要素を組み合わせたため神竜騎士フェルグラントとサイバー・ドラゴン・インフィニティといった強力モンスターの併用が容易になったために並大抵のデュエリストでは手も足も出ないのであるが。

「このデッキは精霊界から連れてきたってことになるのかしら?」
「うん……私はこのデッキについてあんまり覚えてないんだけど……」
「【玻星光】(グリスタール)……謎だらけデスネ」

 遊希が精霊界で自ら生み出したデッキ【玻星光】。このデッキはギャラクシーと違って欠けることなく遊希の元に残っていた。
 デッキの完成度はかつての【ギャラクシー】と比べても正直に言ってしまえば低いと言わざるを得ない。しかし、遊希はかつてギャラクシーを扱っていた時と同じような馴染みの深さをこの玻星光に感じていた。

「実際相手をしてみるとわかるんだけど、そのデッキって強いことには強いけど今までのギャラクシーほど絶望感を感じない、っていうかね……」
「そうですね。ただそのデッキを使っている遊希さんは今までのギャラクシーデッキを使っていた時の遊希さんと重なって見えることがあります」

 千夏と詩織のその言葉を聞いて遊希は玻星光のカードを使い続けることに決めた。それがいつかこの変化の謎を解いてくれる鍵になると信じて。












 そして月日は流れ、アカデミアは早くも3月を迎えた。長い冬が終わり春の足音が聞こえ始める中、遊希は精霊の兆候をその身体に残しつつも学生生活を送っていた。
 遊希の変貌に関しては竜司、ミハエル、そして先月まで日本に滞在していたジェームズによって生徒たちに説明会が執り行われた。先の異常気象の原因から遊希が精霊界に連れ去られていたことまで、今わかっている全てのことを。
 精霊皇とのデュエルの時に遊希のことを知っていた一部の生徒を除いては当然動揺が見られたが、自分たちの世界を救ってくれた英雄のようなものであり、また精霊化することで何故か以前よりも人当たりの良くなった遊希はアカデミアの生徒に瞬く間に受け入れられた。

「ただいま~」
「おかえり。遅かったわね」
「他の人たちとデュエルをしていたの。玻星光の謎がわかるように、って」

 そう言って屈託のない笑顔を見せる遊希。精神年齢が退行した、というデータが海馬コーポレーションの調査で見られていたが、そのおかげか遊希は家族を失う前の内気ながらも素直で朗らかな性格に戻っており、それが人を惹きつけたようだった。

「それで、玻星光のことについては何かわかりましたか?」
「んー……まだ、わかんないことばかり。でもね、少し感じるの」
「感じる?」
「このカードたち……何かまだ引っかかってるというか……本当の力、を出し切れてないみたいな?」

 綾香が精霊界でデュエルした時点では遊希のデュエルタクティクスも相まって十分すぎるほどの強さを出していた【玻星光】だが、やはりまだ足りない部分がある。実際にそのカードを生み出した遊希がそう言うのであればそうなのだろう。親友ではあるが、この件についてはあくまでも他人でしかない綾香たちにできることは見守ることしかない、と思っていた。

「遊希帰ってきたのー? もし準備できたならお風呂入っちゃってー? 洗濯物が片付かないからー!」
「はーい。あーやかっ」

 夕食の準備をしていた千夏がまるで母親のようにキッチンから呼びかける。遊希は綾香の腕に抱き着いた。

「ん?」
「お風呂一緒に入ろ?」

 この姿になってから遊希は以前以上に誰かに甘えることが多くなっており、度々入浴や就寝を誰かと共に過ごしたりする。また、精霊の力に慣れた彼女は角、翼、尻尾のサイズを変えることができるようになっていたため、日常生活も変わりなく送ることができていた。
 そして遊希は綾香のみだけではなく姉として年少者に対する面倒見のいい千夏、優しく穏やかな詩織や天真爛漫で明るいエヴァにもそれらのことをせがむようになっていた。元々長女であったために甘えたい盛りに両親に甘えられなかった反動がここにきて生じているようだった。

「うん、そうね」

 遊希の事情は皆痛いほど知っている。この時ばかりはまるで姉のように彼女たちは遊希のそれに応えてあげていた。そうすることで何故遊希がこうなったのか知ることができるかもしれない、という一縷の望みにかけて。
 そして綾香は気づいていた。以前に比べて笑顔の増えた遊希であったが、そんな彼女が稀に何処か寂しそうな、悲しそうな顔を覗かせるからだ。綾香はその度に遊希に「辛いこととかない?」とそれとなく聞いてみるが、遊希はすぐに「大丈夫」と言って笑顔を繕っていた。
 そんな遊希の様子に綾香は心当たりがあった。竜司やエヴァに連敗した時もそうだが、遊希は辛い時ほど無理をしたがる傾向があった。また、綾香自身もかつては遊希と同じことをしていた。

「綾香、何か辛いことはないか?」

 綾香が幼い頃、プロとして世界中を飛び回っていた竜司にこう尋ねられたことがあった。しかし、綾香は離れて暮らすことの多かった父に恥ずかしいところを見せたくなかったために辛いことがあってもそれを飲み込んで我慢しては笑顔を作っていた。今の遊希はかつての自分と全く一緒だったのである。

(……遊希……)

 結局綾香はその日も何もすることができなかった。無理に聞き出すことをして遊希を傷つけてしまう、ということを考慮したというのもあったが、改めて自分の無力さにもどかしさを感じてばかりだった。
 いつものように夕食を取り終えると、遊希は今までより早く寝床へとつく。最初はこれも年齢が退行した影響なのかな、と思っていたが、夜中に遊希が窓から外に出掛けていることを知った。

「……みんな、寝てるよね……」
「どこ行くの」
「ひゃっ!」

 そしてこの日も、いや正確に言えば次の日も遊希は夜中にこっそり出掛けようとしていた。窓を開けて外に出ようとした彼女の尻尾を音を立てずに綾香はぎゅっと掴んだ。

「あ、綾香……?」
「夜桜見物にはまだ早いわよ?」
「……」
「ねえ、ちょっと外出ない? 屋上の鍵貸してもらってるからさ」

 綾香はとある目的があって、事前に職員室から屋上の鍵を貸してもらっていた。遊希を先に屋上に行かせ、少し遅れて彼女は屋上へとやってきた。遊希は屋上の壁に背を付けて体育座りで座っていた。

「お待たせ。さすがにまだ冷えるね……」
「うん……」
「隣、いい?」
「うん」


 綾香は自販機で買ってきたホットココアの缶を遊希に渡すと、身体を寄せ合って座った。しばらく沈黙の時間が続いたが、綾香は遊希が自分から何かを言い出すまでじっと彼女の顔を見つめていた。そんな沈黙に耐えきれなくなったのか、遊希は夜空を見ながら独り言を言うかのように話し始めた。


「ねえ……綾香……」
「なぁに?」
「私……みんなに迷惑、かけてるよね?」
「どうして?」
「……アカデミアのみんなはこんな姿になっても今まで通り接してくれてる」
「うん」
「でも、その優しさが……たまに怖くなるの。みんなの気が変わったら私はどうなってしまうのか……」
「うん」
「そして、そんなみんなに対してこんなことを思っちゃう自分が……嫌で嫌でたまらない……なんで、どうしてこんなことを考えちゃうのか……私でもわからないの」

 声を、身体をびくびくと震わせながら自分の正直な気持ちを吐露する遊希。この姿になってから3か月ほど経っており、力の制御もできていた遊希であったが、やはりその心の奥底には自分自身を恐れる心と皆に対する負い目があったのだ。自分の存在が皆に恐怖や不安を与えてしまっているのではないか。優しくしてくれる人たちに対して自分はなんと酷いことを考えてしまうのか、と。
 精霊界から人間界に帰ってきて、ようやく日常生活を取り戻せたと思った矢先にこのようなことが起きてしまったことに遊希は他の誰よりもショックを受けていたのである。

「そっか……話してくれてありがとね。辛かったね」

 そんな遊希の頭を撫でながら綾香は小さく頷いた。

「あのね、私たちが遊希にできることは少ないかもしれない。でも、こうやってあなたの辛い思いを受け止めてあげることはできる。だから、辛いことがあったらぜんぶ1人で抱え込まないでね? 私も、千夏も、詩織も、エヴァも……みんながあなたを大事に思ってくれてるし、負担になんて感じていないからさ?」
「綾香……」
「そういえば、今日は何の日だか知ってる?」
「えっ……?」
「みんな、もういいよ!」

 綾香がそういうと、屋上の影から現れたのはパジャマ姿の千夏、詩織、エヴァの3人だった。何処か緊張した様子の彼女たちを見た遊希は戸惑いの色を隠せない。

「みんな……?」
「いい。それじゃあいくわよ。せーの……」











―――ハッピー・バースデイ! お誕生日おめでとう、遊希(さん)(サン)!!―――
 









「えっ……?」
「忘れたの? 今日は3月24日。あんたの16歳の誕生日じゃない?」
「あっ……」

 そう、今日は3月24日。遊希の誕生日その日である。遊希はよもや自分で自分の誕生日を忘れてしまうとは思っていなかったようで、恥ずかしそうに頬を染めて俯く。
 そんな彼女の前に綾香たちは合図と共に丁寧に包まれた贈り物を差し出した。こんな夜中になるとは思っていなかったが、屋上に呼び出してサプライズを仕掛けようとずっと前から画策していたのだ。

「えっ、えっ、何これ……?」
「何って誕生日プレゼントに決まってるじゃない」
「なんで、なんで……」
「好みがわからなかったので、こちらの主観で選ばせて頂きましたが……」
「受け取ってもらえると嬉しいデス!」

 贈り物は大小さまざまなものがあり、両手で抱えきれないだけのものを貰った遊希は戸惑いを隠せないようだった。

「ねえ、なんで? なんで私にこんな……」
「何言ってるのよ、だって私たち親友でしょ?」
「自分でいうのもなんですが、他の方より私たちの方が遊希さんのことを大事に思っているはずです」
「遊希サンは私にとってスターであり、ライバルであり、親友デス! このことは一生変わらないことデス!」
「みんな、あんたが思っている以上に遊希のこと大好きなんだよ? だから、もう自分のことを卑下するのはやめて。いつだって、みんな、遊希のことを大事に想っているんだから……ね」


 綾香が、千夏が、詩織が、エヴァが。みんなが自分のことを大事に想ってくれている。例え自分がこの世界に存在し得ないような異能の力を持ち、姿形が異形のものに変わっていたとしても、天都 遊希は天都 遊希という一人の少女である。決してこの世界に存在してはいけない存在などではない。
 親友たちの暖かい想いが、遊希の心を縛り付けていた劣等感、絶望感……あらゆる負の感情から遊希の心を解き放った。そして解き放たれた感情は激流となって溢れ出る。





―――みんな、みんな……ありがとう―――






 遊希の心に光が差し込んだ。その時である。アカデミアの屋上に、星の瞬く夜空に数十個の光が舞い始めたのは。突然の事態に慌てふためく綾香たちであるが、遊希はその光の正体を知っていた。
 それはここに来る前に部屋に置いてきたはずの遊希の【玻星光】デッキのカードたちだった。玻星光たちはまるで水を得た魚のように空を飛び回る。そしてデュエルディスクなしにカードから飛び出てきたのだ。

「すごい……綺麗」
「あれは、精霊のカードだったのでショウカ?」

 光りながら空を舞う玻星光たちのその姿は差し詰め光の舞踏会といえる。そんな玻星光たちの玻璃の身体には少しずつヒビが入っていく。何が起きるのか、と5人が身構えると、その玻璃の身体を突き破って龍のようなモンスターがまるで卵から孵化するかのように、蛹から蝶が羽化するように現れたのだ。

「えっ……!?」
「これは……」
「もしかして、これが……玻星光たちの……真の姿?」

 飛び出たモンスターたちは龍を基調に他の生物や他の元素の力を取り入れた姿をしており、そのいずれもが玻璃―――すなわち水晶のような美しさを持っていた。そのモンスターたちは自分たちを見上げる遊希を見て何処か嬉しそうな様子を見せると、元のカードへと戻っていく。そして40枚を超えるカードの束となって彼女の手に戻った。

「遊希、それは……」
「うん。デッキだ……これが、私の……新しい力、本当の力……ねえ、みんなに頼みたい事があるの」










―――玻星光……いや、【星龍皇(ドラグリステル)】。この子たちの力を私のものにしたい。だから……私と、デュエルをして―――















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ター坊
受け入れよった!まぁ迫害されるのは鬱展開で嫌いですが。
姿としてはレヴュアタン(絶対防衛のやつ)みたいな感じでファンタジーになりましたね。しかし小さくなっても体の一部はほぼそのままと言うハイスペックぶり。千夏、2年生で成長しような。
そして姿形が変わっても変わらぬ友情の美しさに拍手。カード運にも親友にも恵まれてる遊希マジ幸せ。
さて、ラストデュエルになりそうなのが土壇場で登場した星龍皇と言う全くの新しいデッキ。果たして生まれ変わったデッキの性能は如何に? (2016-12-17 07:27)
白金 将
遊希の身体に若干の変化はありましたがみんなとの生活が戻って来て嬉しいよぉ……
彼女と綾香さんの間柄も見ててほのぼのしますね。まぁファーストキスの相手だからなぁ(え
遊希の新しいデッキ【星龍皇】……これは楽しそうですねぇ(*´ω`) (2016-12-17 14:42)
光芒
ター坊さん
さすがに精霊とかを目の当たりにしている綾香たちが拒絶したらもう絆(笑)になってしまいますので……

>姿としてはレヴュアタン(絶対防衛のやつ)みたいな感じでファンタジーになりましたね。
そうですね、だいたいあんな感じと思って頂いて結構です。あちらはロングのドレスとお姫様感が増していますが……そして千夏よ、アーメン(え

次回からは玻星光改め星龍皇デッキのお披露目回となります。そしてこのデュエルが当作品本編におけるラストデュエルとなります。こんな作品ですが、あと少しだけお付き合いいただければ幸いです。

白金 将さん
最終的に取り戻したかった生活が形を変えてですが戻ってきました。ファーストキスの相手、というのもそうですがアカデミアに入学して最初にデュエルをした間柄かつ最初に自分の過去を語った相手ということとひときわ強い想いがありますね、もちろんキスもそうですが(殴

(2016-12-17 16:38)

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123 第58話:幻惑、水の銀河眼 1583 3 2016-01-04 -
102 第59話:未知の敵 1577 4 2016-01-07 -
70 第60話:猛攻! スピードロイド 1465 2 2016-01-10 -
94 第61話:親友 1470 5 2016-01-12 -
65 第62話:死闘の果てに 1510 6 2016-01-15 -
87 第63話:二人の少女、そしてライバル 1427 2 2016-01-18 -
50 第64話:激突! 青眼VS真紅眼! 1406 3 2016-01-21 -
107 第65話:光の導き 1316 2 2016-01-24 -
104 第66話:立ち上がる時 1355 4 2016-01-27 -
86 第67話:不滅の戦士! 幻影騎士団 1414 2 2016-01-30 -
121 第68話:不可解なこと 1462 2 2016-02-02 -
77 第69話:千夏との誓い 1300 3 2016-02-05 -
70 第70話:あの日、あの時 1374 4 2016-02-08 -
123 第71話:黒幕との接触 1568 3 2016-02-10 -
138 第72話:決別の時 1652 3 2016-02-12 -
101 第73話:思いを一つに 1380 3 2016-02-15 -
98 第74話:邪なる同調 1459 2 2016-02-17 -
43 第75話:精霊の奇跡 1382 4 2016-02-19 -
108 第76話:星天の再会 1384 2 2016-02-22 -
111 第77話:ペンデュラムの脅威! 1433 4 2016-02-24 -
118 第78話:渾身のドロー 1628 2 2016-02-26 -
99 1万アクセス突破記念企画開催! 1843 0 2016-02-26 -
50 第79話:覇王黒竜の目覚め 1392 4 2016-02-28 -
43 第80話:進化する銀河龍 1478 2 2016-03-01 -
130 第81話:変わらぬ友情 1455 7 2016-03-03 -
106 第82話:集う決闘者 1688 6 2016-03-04 -
131 第83話:小さくたって決闘者 1703 7 2016-03-05 -
96 第84話:決意を秘めた決闘者 1427 9 2016-03-07 -
73 第85話:歩み始めた決闘者 1516 13 2016-03-08 -
114 第86話:真意を告げた決闘者 1571 7 2016-03-09 -
102 第87話:ポンコツ揃いな決闘者 1595 7 2016-03-10 -
61 第88話:とにかく可愛い決闘者・1 1498 10 2016-03-11 -
91 第89話:とにかく可愛い決闘者・2 1535 8 2016-03-13 -
89 第90話:五人五色な決闘者 1435 6 2016-03-14 -
125 遊希たちが4月改訂を語るようです 1469 8 2016-03-16 -
70 第91話:夕刻迎えし決闘者 1371 6 2016-03-16 -
87 第92話:解き放たれた決闘者 1612 6 2016-03-18 -
70 第93話:秘密を打ち明けた決闘者 1734 7 2016-03-20 -
64 第94話:一計案じる決闘者 1256 8 2016-03-22 -
75 第95話:絆深める決闘者 1437 10 2016-03-23 -
73 第96話:矛を交える決闘者・1 1386 9 2016-03-25 -
114 第97話:矛を交える決闘者・2 1311 6 2016-03-27 -
110 第98話:矛を交える決闘者・3 1407 7 2016-03-29 -
70 第99話:矛を交える決闘者・4 1391 7 2016-03-31 -
83 第100話:熱戦の決闘者・1 1366 6 2016-04-02 -
118 第101話:熱戦の決闘者・2 1408 10 2016-04-05 -
77 第102話:熱戦の決闘者・3 1421 11 2016-04-07 -
70 第103話:熱戦の決闘者・4 1376 6 2016-04-09 -
102 第104話:熱戦の決闘者・5 1503 6 2016-04-11 -
94 第105話:熱戦の決闘者・6 1442 6 2016-04-13 -
58 第106話:決戦に臨む決闘者・1 1375 6 2016-04-15 -
117 第107話:決戦に臨む決闘者・2 1446 11 2016-04-18 -
74 第108話:別れの時を迎える決闘者 1444 10 2016-04-20 -
66 番外編前編について遊希たちが語るようです 1471 6 2016-04-21 -
96 第109話:2通の手紙 1555 11 2016-04-23 -
92 第110話:青き眼のアトラクション 1477 6 2016-04-25 -
121 第111話:新時代のデュエル 1427 6 2016-04-27 -
80 第112話:ドラグーン 1341 6 2016-05-01 -
104 第113話:アクセラレーション! 1420 7 2016-05-03 -
105 第114話:熱気溢れしサーキット 1233 6 2016-05-06 -
128 第115話:新たなるブラックフェザー 1291 5 2016-05-10 -
128 第116話:疾走の果てに 1494 7 2016-05-12 -
48 第117話:ノンストップ・ガールズ 1520 6 2016-05-14 -
67 第118話:夏の終わり 1444 9 2016-05-16 -
111 第119話:謎の美少女 1496 4 2016-05-19 -
80 第120話:真・究極 1366 8 2016-05-21 -
54 第121話:遊希の動揺、遊望の微笑 1325 4 2016-05-23 -
58 第122話:聖夜の悲劇 1289 6 2016-05-25 -
51 30000アクセス記念企画を少々。 1214 5 2016-05-27 -
74 第123話:姉として 1333 3 2016-05-29 -
65 第124話:対峙する竜と龍 1373 3 2016-06-01 -
54 第125話:顕現せし遊望の精霊 1408 5 2016-06-03 -
57 第126話:No.(ナンバーズ) 1429 4 2016-06-06 -
101 第127話:届かぬ言葉 1407 7 2016-06-08 -
69 30000アクセス記念企画 1613 4 2016-06-10 -
60 第128話:白紙のカード 1345 6 2016-06-14 -
116 第129話:青空の下で 1239 3 2016-06-17 -
124 第130話:白いドラゴンとの邂逅 1503 4 2016-06-20 -
66 第131話:試練のデュエル 1341 4 2016-06-23 -
60 第132話:第四の精霊 1264 5 2016-06-26 -
106 第133話:舞い降りる閃珖竜 1394 4 2016-06-29 -
62 第134話:親友に託された力 1259 3 2016-07-02 -
96 第135話:涙の誓い 1318 4 2016-07-06 -
96 第136話:次元転送装置 1275 3 2016-07-09 -
91 第137話:新たなる竜星 1430 5 2016-07-12 -
54 第138話:綾香の忘れたもの 1255 4 2016-07-15 -
131 第139話:決闘者たちの選択 1225 5 2016-07-19 -
99 第140話:2人の真意 1282 7 2016-07-24 -
63 第141話:精霊界への旅立ち 1316 4 2016-07-28 -
59 第142話:黒き魔術師と弟子 1260 3 2016-08-02 -
116 第143話:七星将軍の襲撃 1320 3 2016-08-05 -
87 精霊界 登場キャラクター(9/14更新) 1340 0 2016-08-07 -
65 第144話:英雄と炎拳・1 1238 5 2016-08-10 -
70 第145話:英雄と炎拳・2 1209 4 2016-08-14 -
62 第146話:騎士王の覚醒 1216 6 2016-08-17 -
74 第147話:竜姫神と岩の合成獣・1 1291 3 2016-08-21 -
70 第148話:竜姫神と岩の合成獣・2 1256 2 2016-08-23 -
46 第149話:過去への鎮魂歌 1303 7 2016-08-26 -
86 50000アクセス記念企画~短編集・1~ 1327 3 2016-08-28 -
82 第150話:機械の身体に宿る心 1136 0 2016-08-31 -
52 第151話:空を超えて 1107 0 2016-09-03 -
113 第152話:竜と機械の大会戦 1186 0 2016-09-08 -
55 第153話:竜領域のナンバーズ 1209 0 2016-09-13 -
78 50000アクセス記念企画~短編集・2~ 1459 7 2016-09-17 -
102 遊希たちが10月改訂を語るようです 1285 4 2016-09-19 -
78 第154話:望まぬ戦い 1168 2 2016-09-23 -
65 第155話:正しさと過ち 1151 4 2016-09-27 -
55 第156話:少女の決意 1260 2 2016-10-01 -
116 第157話:遊希に起きた異変 1345 4 2016-10-05 -
110 第158話:未知なるデッキ 玻星光 1290 3 2016-10-08 -
111 第159話:玻璃の如く純粋に 1288 2 2016-10-12 -
106 第160話:限界を超えて 1254 3 2016-10-15 -
128 第161話:決戦 1263 3 2016-10-18 -
96 第162話:精神の成長 1234 2 2016-10-21 -
46 第163話:聖なる珖放つ神の竜 1268 4 2016-10-24 -
40 第164話:絆が紡いだ道 1361 6 2016-10-27 -
66 第165話:戦いの終わり 1323 4 2016-10-30 -
58 番外編 Trick or Treat 1197 5 2016-10-31 -
108 第166話:終わりの始まり 1396 9 2016-11-04 -
106 第167話:最期のワガママ 1441 4 2016-11-07 -
117 第168話:声なき再会の誓い 1311 4 2016-11-10 -
89 番外編:11月11日 1201 5 2016-11-11 -
70 第169話:七皇激突 1150 3 2016-11-15 -
48 第170話:怒りに生まれし竜 1122 3 2016-11-17 -
129 第171話:紅き新星竜 1423 5 2016-11-19 -
77 第172話:未来を賭けた戦い・1 1316 4 2016-11-22 -
116 第173話:未来を賭けた戦い・2 1225 3 2016-11-24 -
125 第174話:未来を賭けた戦い・3 1219 4 2016-11-28 -
133 第175話:神の目覚め(修正済) 1227 5 2016-11-30 -
147 第176話:ゴッド・ナンバーズ 1575 5 2016-12-02 -
99 第177話:次元を越える想い 1455 4 2016-12-05 -
138 第178話:天地創造の龍 1447 3 2016-12-07 -
106 第179話:希望への道 1361 3 2016-12-09 -
134 第180話:別れの時 1268 4 2016-12-11 -
104 第181話:少女たちの帰還 1211 5 2016-12-13 -
57 遊希たちが1月改訂を語るようです 1161 7 2016-12-15 -
121 第182話:バースデイ 1412 3 2016-12-17 -
95 第183話:星龍皇覚醒・1 1237 3 2016-12-19 -
102 第184話:星龍皇覚醒・2 1206 4 2016-12-21 -
80 第185話:星龍皇覚醒・3 1120 4 2016-12-22 -
96 番外編:一番のプレゼント 1209 5 2016-12-25 -
117 第186話:星龍皇覚醒・4(修正済) 1318 3 2016-12-26 -
98 星龍皇 設定・カード紹介 1313 0 2016-12-29 -
62 第187話:星龍皇覚醒・5 1215 4 2016-12-30 -
99 番外編:新年 1216 4 2017-01-01 -
75 第188話:星龍皇覚醒・6 1085 2 2017-01-04 -
114 第189話:星龍皇覚醒・7 1209 3 2017-01-07 -
57 第190話:神星龍皇と課せられた運命 1398 3 2017-01-09 -
126 エピローグ:未来 1666 10 2017-01-13 -
91 番外編:2月3日 1165 4 2017-02-03 -
89 番外編:愛と友情のチョコレート 1031 4 2017-02-14 -
80 番外編:桃(色)の節句 1088 4 2017-03-04 -
126 感謝とお知らせ 1258 2 2017-05-04 -
79 番外編:Gift 1109 2 2017-12-25 -
141 ゴブリンと青眼(ブルーアイズ) 1089 2 2018-01-14 -
113 アフターストーリー:星乃 綾香編・1 1746 2 2018-05-24 -
83 アフターストーリー:星乃 綾香編・2 989 2 2018-05-28 -
95 アフターストーリー:星乃 綾香編・3 910 2 2018-05-30 -
122 アフターストーリー:星乃 綾香編・4 1037 2 2018-06-03 -
114 アフターストーリー:星乃 綾香編・5 1077 4 2018-06-06 -
53 アフターストーリー:陽川 千夏編・1 836 2 2018-08-14 -
64 アフターストーリー:陽川 千夏編・2 834 3 2018-08-20 -
103 アフターストーリー:陽川 千夏編・3 865 3 2018-08-23 -
64 アフターストーリー:陽川 千夏編・4 845 2 2018-08-25 -
37 アフターストーリー:陽川 千夏編・5 767 3 2018-08-30 -
62 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・1 904 2 2018-09-01 -
204 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・2 1017 3 2018-09-07 -
94 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・3 741 0 2018-09-09 -
60 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・4 843 3 2018-09-12 -
119 番外編:願う幸福 1423 2 2018-12-25 -

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