１３Turn　波間に揺らめく波止場　作：ジェム貯めナイト

　「思ったより、早く着いたわね……」


　潮風が香る海辺に程近い――住宅街の一角の《波戸場》と書かれた表札の家に留音は到着すると、インターホンを鳴らすとともに、訪れた留音を出迎えようとする足音がゆっくりと近づいてきた。


　「“時雨”さーん！　こんにちはーっ！」


　鍵を開ける音とともに引き戸が開くと、留音の前にはダークブラウンの髪を右肩の位置で結び、お腹を大きく膨らませた２０代後半ほどの女性が、笑みを浮かべて留音の訪問を歓迎する。


　「いらっしゃい留音ちゃん！　……ごめんなさいね。待たせたみたいで――」

　「いえ、そんな事は――時雨さんこそ“お腹の子”の事もありますから、あまり
無理はしないでくださいね？」

　「無理なんてしていないわ。それじゃ……中でゆっくりお喋りしましょ？」


　時雨に招かれて、留音はすっかり慣れ親しんだ――時雨の家族が暮らす家へと足を踏み入れた。

　靴を脱ぎリビングに入ると、壁際の一角に年季の入ったベビーベッドが置かれているのを見て、留音は“新しい命”を迎える準備は万端だと察する。


　「これは――“湊さん”の実家からですか？」

　「そうよ。……留音ちゃんはここに寝ていた時の事、覚えているかな？　このベッド、子を授かった漁協の仲間に代々受け継がれているのよ？」

　「その時のことは覚えていませんが――そうですか、時雨さんの赤ちゃんもこれを使うことになるのですね」


　自分も１０数年前横たわっていたベッドを懐かしげな顔で見つめ、しみじみと感傷に浸る留音を優しげな目で見つめつつ、時雨は食卓の椅子へと腰を下ろす。


　「いい時間だから、お昼ご飯にしましょうか？　今日は天ぷらを作ろうと思っているの」

　「でしたら私が揚げますから、時雨さんは切るのを手伝ってくれますか？」

　「うん、新鮮な白身魚と野菜が冷蔵庫にあるから、それを使ってくれる？」

　「了解です！」


　冷蔵庫から取り出した白身魚の鱗を削ぎ、切り身にするとナスやししとう――しいたけに大葉の下準備を進める留音を眺めて、彼女の手際の良さに時雨は感心しつつ、留音に近況を尋ねた。


　「留音ちゃん、お料理上手になったね。……この子を身籠ってから随分経つけど、みんなは元気にしてるかな？」

　「はい！　みなさんも時雨さんが復帰した時に居場所があるよう、めいっぱい働いていますよ！　私も合唱部の練習が休みの時には、変わらずお手伝いに出ています」

　「……そっか。留音ちゃんはまだ、合唱続けているんだね」

　「時雨さんがコンクールで歌う姿に憧れて、ずっと続けていましたから！　そうだ！　いつかまた、一緒にカラオケに行きませんか？」

　「ありがとうね留音ちゃん。……実はというと、数日中には生まれそうなのよね――」


　大きくなったお腹をさすりながら、時雨がポツリと呟くと留音は包丁を持つ手をピタッと止めて、嘘――と驚きの表情を浮かべて顔を上げた。


　「本当に……！？」

　「ううん――ただの感だけどね？　ごめんなさいね。思わせぶりなこと言って……実はこの前経香ちゃんからも、時雨パイセンは気付いたらポロッと生まれ出てそう。とか言われたり……」

　「せ……先生ったら！　時雨さん！　私週明けには先生に抗議してきます！」


　失礼な言い方だと憤慨する留音を時雨はまあまあ。となだめつつ、ふと思い出したかのように食卓に置かれたＤ・フェースを留音に見せる。


　「経香ちゃんも悪気があって言った訳じゃないだろうし……むしろ元気な子が生まれるようにって、お守りまで探してきてくれたんだよ？」


　時雨の持つＤ・フェースに赤い珊瑚の刺繡が施されたお守りの袋が付けられているのを見て、ムッとしていた留音はたちまち目を輝かせ、手を止めて時雨の元に駆け寄って来た。


　「こ――これって、安産祈願で有名なあのお寺の……！？　先生時雨さんのためにあんな遠くまで行ってくれて……！」

　「留音ちゃん。手は洗ってから触って欲しいかな？」

　お守りを見て興奮気味に目を輝かせた留音が、魚の鱗がこびりついた手で触ろうとするのを見て、時雨は一言注意する。


　「あっ……ごめんなさい」


　すぐさま台所に戻り、手を洗うと留音は時雨以上に経香先生から貰ったお守りに夢中になる。

　しかし彼女とは対照的に、時雨は顔を俯かせると先程までとは異なり、自信なさげに声を震わせて一人語り始めた。


　「ねぇ留音ちゃん……私ってちゃんとお母さん出来るかな？　ほら、私もみんなも優しくて頼りになるお母さんに育てられて――私はほら、あんまり“賑やか”とは程遠いし……自己主張もそんなにうまくないし――」

　「時雨さん……？」


　突然人が変わったかのように卑屈な言動を取り始めた時雨に、留音はどうしたのかと彼女の豹変ぶりに困惑する。


　「留音ちゃんだから言えるんだけど……私――本当は怖いよ。留音ちゃんも含めたみんながこうして、私が元気な赤ちゃんを産めるよう応援してくれてる。私――みんなの期待通りにできるかな？　ちゃんと立派な母親になれるのかな……？」

　「時雨さん――」


　留音は立ち上がると台所に戻り、下準備中の食材を取り出したお皿にまとめると、ラップを掛け冷蔵庫へとしまって、再び時雨の元へと戻って来た。


　「時雨さん……私と久々にデュエルしませんか？」

　「デュエル……？　それはどうして――」

　「時雨さんが無事に赤ちゃんを産めるかを、今分かる人なんて誰もいませんよ？　ただ時雨さんが不安を抱えたままじゃ、本当に具合が悪くなっちゃうかも――」


　時雨の手を握り、伝わる震えを落ち着かせようと優しく語り掛ける留音に、影を落としていた時雨の表情もいくらか軽くなっていく。


　「いつも能天気で、悩みなんて無さそうな人も言っていましたよ？　悩んだ時はデュエルでもすれば気が晴れて、何事も良い方に転がって行くもんだぜ！　って……」


　留音が掛けた励ましの言葉を聞くと、時雨は留音の語り口調から彼女の慕う“彼”の事を思い浮かべて、そういうことなら。とデュエルの申し出を了承した。


　「留音ちゃんが信じる――“未来のお婿さん”からの言葉なら、私も信じてみよ
うかな？」

　「わっ――私と一斗には、そういうのは“まだ”早いですからっ……！」

　「へぇ……一斗君なら“脈あり”っぽいし、案外早いかもよ？　その人の言葉通
り、久々に留音ちゃんとデュエルしてみようかな？」

　「っ……！　はい――分かりました。それでは準備しますね？」


　時雨が座りやすいよう食卓の位置を少しずらして、留音が時雨と向かい合うように座るとお互いに取り出しだデッキをシャッフルして机の上に置き、Ｄ・フェースのデュエルアプリを開く。


　「それじゃあ始めよっか？　いくよ――コイントス！」


　起動したアプリ内のコインが回転したのち、表向きとなり時雨に先行後攻を決める選択権が与えられた。


　「じゃあ私は後攻を選択するよ。久々のデュエルだからって、後輩に気を使おうとはしないからね？」

　「お互いに“後攻が有利”なデッキで先行は少し不利ですね。でもこのくらいの
ハンデなんてものともしませんから……！　いきます！」


　『デュエル――』


　留音LP4000　時雨LP4000。


　「来た――私の「深層環姫」がバトルフェイズに入らなければ、何もできないデッキじゃないことを証明して見せます！　《豊漁の水精》を召喚！」


　豊漁の水精
　効果モンスター
　/水/レベル１/水/攻撃力0。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキの上からカード
　を３枚めくり、その中からレベル４以下の水族モンスター１体を手札に加え
　る。
　(2)：相手スタンバイフェイズにこのカードをリリースして発動できる。
　手札からレベル４以下の水族モンスター１体を特殊召喚し、ＬＰを５００回
　復する。


　「へえ――ちゃんと対策しているんだ」


　留音が場に出した半透明の身体をした妖精のカードの効果により、デッキの上３枚から《深層環姫クリル》を手札に加えた留音は、カードを２枚伏せてターンを終えた。


　「それじゃ私のターンだね。ドロー！」

　「スタンバイフェイズに《豊漁の水精》の効果発動です！　自身をリリースして手札からレベル４以下の水族モンスター１体を場に招集します！　海の歓迎とともに《深層環姫クリル》を呼び出して、恵みを求めて潜らせます」


　留音LP4000→4500。


　「私のモンスターは“相手フィールド”にモンスターがいないと効果を発揮でき
ないからねぇ……」


　時雨のターンに変わってから、場に出した海の妖精と海女を墓地に移動しガラ空きとなった留音のモンスターゾーンを見て、考えたものだと時雨は感心した声を上げた。


　「どうです？　手加減なんて考えていたら、あっという間に負けちゃいますよ……？」


　勝ち誇る留音に対し、何とかなる。と言わんばかりにこの状況をものともせず、時雨は手札から１枚のカードを発動させる。


　「じゃあまずは、フィールド魔法《龍伽藍宮》を発動！　効果は留音ちゃんも知っている通り。そして自分フィールドにモンスターがいない時、手札の《クラッコアーチン》を留音ちゃんの場に特殊召喚するよ」


　海の底に巨大な海草が寺院を形作るフィールド魔法が描かれたカードの発動とともに、時雨は手札からウニの姿をしたモンスターを留音の場に呼び出すと、卓上の瓶に詰められた小さな貝殻を取り出してフィールド魔法の上に目印として置く。

　そしてデッキから、紺碧の宝石を持つラッコが描かれたカードを墓地に送った。


　龍伽藍宮　フィールド魔法
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードのカウンターを任意の個数取り除いて発動できる。
　取り除いた数によって以下の効果を適用する。
　●１つ：このカードに置かれたカウンターの数×３００ＬＰ回復する。
　●３つ：自分の手札・墓地からレベル３以下の水属性モンスター１体を特殊
　召喚する。
　(2)：墓地に水属性モンスターが送られる度に、このカードにカウンターを１
　つ置く。


　クラッコアーチン
　効果モンスター
　/水/レベル２/岩石/守備力1500。
　(1)：自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。
　このカードを手札から相手フィールドに表側守備表示で特殊召喚する。
　その後デッキから水属性・岩石族モンスター１体を墓地に送る。


　「相手フィールドに収獲すべきモンスターがいる――難なく条件を満たして来ましたか」

　「……そして《クラッコア・ルリ》が墓地に存在し、相手の場にモンスターがいる場合、手札から海の七宝を墓地に送り効果発動。墓地から蘇生するよ！」


　大きなホラ貝に口をつけ吹き鳴らすラッコが手札から墓地に重ねられたことで、紺碧の宝石を持つラッコを場に置きホラ貝を持つラッコの効果で新たにカードを引いた時雨は、即座にそのカードを墓地に重ねてその下のホラ貝を持つラッコも墓地から場に移動させる。


　クラッコア・ルリ
　効果モンスター
　/水/レベル２/岩石/攻撃力800。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：相手フィールドにモンスターが存在し、このカードが墓地に存在する場合、
　手札から水属性・岩石族モンスター１体を墓地へ捨てて発動できる。
　このカードを特殊召喚する。
　(2)：このカードが水属性・岩石族の効果で手札から墓地へ捨てられた場合に
　発動できる。自分の墓地の水属性・岩石族モンスター１体をデッキに戻し、カー
　ドを１枚ドローする。


　クラッコア・シャンカ
　効果モンスター
　/水/レベル３/岩石/攻撃力1000。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：相手フィールドにモンスターが存在し、このカードが墓地に存在する場合、
　手札から水属性・岩石族モンスター１体を墓地へ捨てて発動できる。
　このカードを特殊召喚する。
　(2)：このカードが水属性・岩石族の効果で手札から墓地へ捨てられた場合に
　発動できる。デッキからカードを１枚ドローする。


　「今墓地に送った《クラッコア・シャンカ》も、手札から海の七宝を墓地に送ることで蘇生するよ。そして手札から墓地に送られた《クラッコア・メノウ》の効果で、デッキの上３枚の中から新たな海の七宝を手札に加える」


　クラッコア・メノウ
　効果モンスター
　/水/レベル３/岩石/攻撃力1200。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：相手フィールドにモンスターが存在し、このカードが墓地に存在する場合、
　手札から水属性・岩石族モンスター１体を墓地へ捨てて発動できる。
　このカードを特殊召喚する。
　(2)：このカードが水属性・岩石族の効果で手札から墓地へ捨てられた場合に発動
　できる。デッキの上からカードを３枚めくり、その中から水属性・岩石族モンス
　ター１体を手札に加える。


　「これで場にはラッコが２体……！」

　「私はルリとシャンカをリリース！　子孫繫栄――安産祈願、母なる海の力を秘めしパワーストーン……！　“アドバンス召喚”！　命育んで！　《ラックラッコア・バイタリティコーラル》……！]


　時雨は墓地より浮上させた――紺碧の宝石とホラ貝を握った２体のラッコを再び墓地に重ねると、先端が枝状に分かれた赤色の珊瑚を持つ大型のラッコが描かれたカードを手札から場に置いた。


　ラックラッコア・バイタリティコーラル
　効果モンスター
　/水/レベル７/岩石/攻撃力2200。
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分のメインフェイズに自分フィールドの水属性・岩石族モンスター１体と
　相手フィールドのカード１枚を対象に発動できる。そのカードを破壊する。
　(2)：このカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに手札の水属性・岩
　石族モンスター１体を墓地に捨てる事ができる。


　「龍伽藍宮のカウンターは５つ。まだまだ行くよ！　龍伽藍宮のカウンターを３つ取り除いて効果発動！　３つ取り除いた場合、墓地からレベル３以下の水属性モンスター１体を浮上させる。ルリを蘇生！」


　龍伽藍宮の上に置かれた貝殻を３つ瓶の中に戻すと、時雨は墓地から再び紺碧の宝石を持つラッコを場に置いた。


　「このまま攻撃もいいけれど――私はバイタリティコーラルの効果発動！　１ターンに１度、私のメインフェイズに私の場の海の七宝１体と、留音ちゃんの場のカード１枚を選んで破壊する。ルリと――右の伏せカードを破壊！」


　時雨がルリとともに指し示したカード――《過換気潜行（ハイパーベンチレーション）》が破壊され、悔しげに留音が眉間にしわを寄せカードを墓地に重ねる中、龍伽藍宮へと新たにカウンターが１つ置かれる。


　「バトルフェイズに入ったことで、自身の効果で墓地に送られたクリルを蘇生。クリルの効果でデッキの上３枚からレベル４以下の「深層環姫」――《深層環姫アリューシャン》を手札に加えます」


　深層環姫アリューシャン
　効果モンスター
　/水/レベル３/水/攻撃力700。
　このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードが他のカードの効果で特殊召喚した場合、墓地に送られる。
　(2)：このカードが(1)の効果で墓地に送られたターンのバトルフェイズ開始時に発
　動できる。墓地のこのカードを自分フィールドに特殊召喚する。
　(3)：このカードが(2)の効果で特殊召喚した場合、墓地のレベル４以下の「深層環
　姫」モンスター１体を対象に発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。


　「なら私はバイタリティコーラルでクリルを攻撃！　庇護せよ！　揺籃のプロパゲート・クレードル……！」


　赤珊瑚を持つラッコの攻撃により、場の海女が破壊され墓地に重ねられると、更にカウンターが１つ、龍伽藍宮の上に置かれた。


　「先に言っておくよ留音ちゃん。……このデュエルが終わるまで、バイタリティコーラルを“破壊する”ことは不可能だってね」

　「バイタリティコーラルには破壊される場合、手札の水属性・岩石族モンスター１体を代わりに捨てる効果がある。私のコーラル・ナーワルとは真逆の鉄壁の防御を誇る――時雨さんの切り札ですね……」


　そして時雨は２枚の手札を留音に見せつけると、２枚とも場に伏せてターンを終えた。


　「留音ちゃんの“深層環姫”が繰り出す波濤の波に揺られようとも、私のラッコ
達は沈みなんてしないよっ！」

　「……波だけが私の攻め手じゃないですよ？　私のターン！　時雨さんに送られたクラッコアーチンをリリース！　安眠は健康の元、長い昆布には巻かれるのみ！　《深層環姫ケルプ・シーオッター》を“アドバンス召喚”……！」


　海産物のウニが描かれたカードを時雨の墓地へと返して、留音はミイラのように全身を海草で巻いたラッコが描かれたカードを手札から場に置いた。


　深層環姫ケルプ・シーオッター
　効果モンスター
　/水/レベル６/水/攻撃力2000。
　このカード名の(2)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：通常召喚を行っていないターンの自分のバトルフェイズに発動できる。
　手札のこのカードをアドバンス召喚する。この効果でアドバンス召喚する場合、
　自分フィールドのレベル４以下の「深層環姫」モンスターしかリリースできな
　い。
　(2)：１ターンに１度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステッ
　プ開始時に発動できる。その相手モンスターを持ち主の手札に戻す。
　この効果を発動した場合、このカードはもう１度だけ続けて攻撃できる。


　「ほうほう。やっぱそう来るよね――」

　「バトル！　私はケルプ・シーオッターでバイタリティコーラルを攻撃！　ケルプ・シーオッターには相手モンスターに攻撃する時、戦闘を行わずにその相手モンスターを手札に戻す効果があります！　これならバイタリティコーラルも――」

　「でも通さないよ！　罠カード《トラップ・トリダクナ》を発動！　このシャコ貝によって私の海の七宝が戦闘を行う場合、その相手モンスターの攻撃力は私の墓地の海の七宝達１体に付き２００ダウンして、その効果は無効化されるよ……！」


　トラップ・トリダクナ　通常罠
　(1)：自分の水属性・岩石族モンスターが攻撃対象となった場合に発動できる。
　戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を自分の墓地の水属性・岩石族モンスターの
　種類×２００ダウンし、効果を無効にする。
　(2)：このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地の水属性・岩石族モンスター
　２体をデッキに戻して発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。


　ケルプ・シーオッター攻撃力2000→1200。


　「あっ……！？　効果を無効にされちゃ――」

　「そう簡単には除去させないよ？　バイタリティコーラルの反撃……！」


　思わぬ反撃に打つ手もなく、自らのモンスターを墓地に送るとともに、留音はアプリ上のＬＰを変動させる。


　留音ＬＰ4500→3500。


　「宣言通り、このデュエルが終わるまでバイタリティコーラルは破壊させないよ！」

　「くうっ……私はカードを２枚伏せて、ターンを終了します」


　手札にアリューシャンのみを残し、残りのカードを全て場に伏せた留音は、時雨へとターンを渡す。


　「これで終わり？　まあ凪る時もあるよね――私のターン！」


　それ以上仕掛けてくることなく、留音がターンを回したことに時雨は拍子抜けするが、カードを引いて留音の伏せカードに警戒しつつ――確実に彼女を追い詰めようと、まずは伏せてあった罠カードから発動させる。


　「まずは罠カード《岩盤貝獲》をバイタリティコーラルに対して発動！　この効果でバイタリティコーラルのレベル以下となるよう、墓地の海の七宝２体――メノウとシャンカを手札に戻すよ！」


　岩盤貝獲　通常罠
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分フィールドの水属性・岩石族モンスター１体を対象に発動できる。
　そのモンスターのレベル以下となるよう、自分の墓地の水属性・岩石族モンスタ
　ーを２体まで選んで手札に加える。


　「更に魔法カード《貝輝割食》を発動！　手札のシャンカを墓地に送り、このターン私の海の七宝の攻撃力は、墓地の海の七宝の数×３００アップするよ！」

　「時雨さんの墓地には“クラッコア”が３体――」


　貝輝割食　通常魔法
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：手札から水属性・岩石族モンスター１体を墓地に送って発動できる。
　自分フィールドの水属性・岩石族モンスターの攻撃力をターン終了時まで、自分
　の墓地の水属性・岩石族モンスターの数×３００アップする。
　(2)：自分メインフェイズに、墓地の水属性・岩石族モンスター１体を対象に発動
　できる。墓地のこのカードを除外して対象のモンスターを手札に加える。
　この効果はこのカードが墓地に送られたターンには発動できない。


　バイタリティコーラル　攻撃力2200→3100。


　「そして再び龍伽藍宮のカウンターを３つ取り除いて効果発動！　墓地からルリを浮上！　続けてルリをリリース！　貴方を思い流す涙は、白き愛情の雫――《ラックラッコア・マーメイドティアー》を“アドバンス召喚”……！」


　時雨は墓地を漁り、場に戻したばかりの紺碧の宝石を持つラッコを再び墓地に戻すと、手札から艶めくパールを持つ大型のラッコが描かれたカードが新たに場へと置かれた。


　ラックラッコア・マーメイドティアー
　効果モンスター
　/水/レベル５/岩石/攻撃力1900。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：相手フィールドのモンスター１体を対象に発動できる。そのモンスターの効
　果をターン終了時まで無効にし、自分フィールドの水属性・岩石族モンスター１
　体を選んで破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。
　(2)：このカードがカードの効果で破壊され墓地に送られた場合に発動できる。
　このカードを墓地から特殊召喚し、相手フィールドのモンスター１体を選んで破
　壊する。


　マーメイドティアー攻撃力1900→2800。


　「２体もラックラッコアが並ぶなんて……中々に厄介ね」


　時雨の場に並んだ赤珊瑚と真珠を懐に忍ばせる２体のラッコを見て、留音は自らの手札に目を通し、伏せカードを一瞬めくって確認しながらも、対抗する術を考える。

　時雨もまた、場に揃えた２体のラッコに指を触れると、２体のカード名の由来――石言葉の意味を深く噛み締めた。


　「……そうね。私にはこの子達もいる。いくよ留音ちゃん！　この攻撃に耐えられるかな？」


　時雨は場のカードを指で指し示し、赤珊瑚を持つラッコの効果の発動を宣言する。

　留音も３枚の伏せたカードに目を配って、憂いも忘れデュエルに熱中する時雨の攻勢を凌ぎ切るべく、一層気を引き締めるのであった。





　「遊陽と――」

　「遊無の――」

　『二人はビナリウス！』


遊無「カズさんが親交のあるお爺さま達と過ごしている頃、留音さんも先輩の海女さんの元へと訪れていました」

遊陽「でも海女のお姉さん……マタニティブルーってやつか――浮かない様子だったな」

遊無「留音さんはかねがね親交のあるお姉さんを元気づけるべくデュエルを挑みますが、お姉さんの使うラッコ達の強固な守りに苦戦していますね」

遊陽「水属性・岩石族で、無量寿経における七宝の宝石や貝を懐に持つラッコ――クラッコアは、塰里の“深層環姫”と似た性質を持っているな」

遊無「相手の場にモンスターがいなければ墓地から蘇生できず、手札から捨てることで発揮される効果も使いにくくなる。留音さんの先輩というだけあって戦術が似通っていますね」

遊陽「似たタイプのクラックコア――壊核で“貝獲”のラッコが築いた強固な守り
を、塰里は波濤の如き深層環姫の攻撃で切り抜けられるか……？」

遊無「そして決着後、お姉さんと話すうちに留音さんはますます、カズさんへの思いを募らせていきます」


　『次回！　遊戯王Binarius（ビナリウス）　－命育む赤き血汐－　お楽しみに！』