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HOME > 遊戯王SS一覧 > 17Turn 盤上のアーティスト

17Turn 盤上のアーティスト 作:ジェム貯めナイト

 暖かな日差しが窓越しに差し込む境階学園の教室では、遊陽が授業も上の空に、先日遊無が見せたデュエルを脳裏に浮かべていた。


 「……玉藻前に、酒呑童子――」


 遊無が手にした2体の精霊がその攻撃により、八千代と経香――2人の切り札を倒して勝利した光景を、遊陽は鉛筆を握りながら振り返っている。

 そして一日の授業が終わり、部活へと向かう生徒達や、教室で会話に花咲かせる生徒達を眺める遊陽の元に、カズと光希が歩み寄って来た。


 「遊陽ー。しに暗い顔して、大丈夫ばー?」

 「光希――別に、何でもない……」

 「何でもない。……って顔には見えねぇけどな。一回鏡でも見てみろよ」


 悩みを抱えているのは明らかだと指摘すると、カズは遊陽に自覚を持たせるため彼の腕を引っ張り、手洗い場まで連れ出そうとする。

 教室の隅で会話していた留音と歩も2人のやり取りを視界に捉えるとともに、拒否する遊陽を無理やり連れ出そうとするカズの元へと駆け付けた。


 「一斗……! 何やっているのよ!」

 「げっ……!? これは――その……」


 遊陽に腕を振り払われたカズが、やり過ぎた。と彼に謝る中、光希は腕を組みカズを睨む留音へと、先程まで交わしていた会話の内容を説明する。


 「……ってわけで、カズは遊陽にがんじゅーばーって聞いてたんどー」

 「そういうことだったのね」

 「つーかさぁ……男同士でベタベタ触りあって、カズってそっちの趣味があるんじゃねーの?」

 「はぁ!? んな訳あるかぁ……!」

 「ちょっと歩! ……結局遊陽君は何を悩んでいたの?」


 留音からの問いかけに、遊陽は観念したかのようにデッキを取り出すと、机の上に自らのデッキを広げて集まった4人に見せる。


 「なあ……デュエルってさ、どうしたらこれ以上強くなれると思う?」

「強くって……いみくじわからんばー?」

 「この前その竜も手に入れて、今のお前昔よりも強くなっただろ?」


 カズが広げたカードの中からワッショイフェスタのカードを指し示して答えるが、遊陽は首を横に振りそれだけじゃ駄目だと言葉を続ける。


 「あいつは――遊無はデュエルを始めてから一瞬で、石井や経姉すら下す程に強くなった」

 「はぁやぁ……噂に聞くデュエルが強いって新入生ばー?」

 「まぁ確かにな。俺も遊無ちゃんと一度やったけどさ、あれは天才と言っていい腕前だったぜ」


 カズの意見に、初めて遊無とデュエルした相手である留音も納得して頷く。


 「……なんだ。深刻な悩みかと思ったら、勝てない相手だって悔しくて、ただいじけてるだけじゃねぇかよ」

 「何だと……!? どういうことだ双波!」


 歩が1人ため息をつきつつ、付き合ってられないといわんばかりに背を向けて離れようとすると、遊陽は立ち上がり彼女に問いかける。


 「ちょっと歩……流石に言い過ぎじゃ――」

 「なら聞くけどよ――遊陽、お前その子と何回デュエルしたんだよ?」

 「それは……まだ一回も――ない」

 「はぁ!? 話になんねぇよ! 要するにお前は、自分より才能があるから挑むのをやめて愚痴ってるだけ――そうだろうが……!」


 歩の指摘に図星を突かれた様子で、遊陽は悔しそうに顔を俯かせると、歩は再び遊陽の元にやって来るとともに彼の肩を掴みながら語りだす。


 「……オレだって、去年のインターハイで全国の強豪選手に走りで負けて、悔しい思いをした」

 「まさか――陸上部で敵う奴はいない……短距離のエースのお前が……?」

 「世の中自分より強い奴なんて、いくらでもいるんだよ! 光希! お前も去年バレーで同じ悔しさを味わってるだろ……?」


 光希も身に覚えがあると頷いて納得したのを見ると、歩は自分の鞄と体操服の入った手提げ鞄を手にしつつ、遊陽にも鞄と体操服を揃えるように促す。


 「結局天才に勝つには、人一倍努力するしかねぇんだよ! ……ってことで遊陽! ちょっくらオレと一緒に付き合ってもらうぜ?」

 「付き合うって何を――」

 「ほら、鞄と体操服を持て! 特訓だと思って、今日から“体験入部”してみよ
うぜ……!」


 歩に肩を叩かれつつ、遊陽が歩に腕を引かれて陸上部まで連れて行かれるのを、カズ達は呆気にとられながらも眺めつつ、自分達も家の手伝いや部活に遅れると2人に続いて教室を後にするのであった。





 「何でこんなことに……」


 盛んに部活動が行われている学園の校庭では、体操着へと着替えた遊陽が、歩を始めとした他の陸上部員とともに地面に引かれたラインの上に並んで、軽くストレッチをしつつ自らの走る順番が来るのを待っていた。


 「お前のお望み通り――強くなるための特訓だよ」

 「いや……部活体験でどう強くなれと――」

 「次! ……体験生! 早く準備をしなさい!」


 顧問の先生に急かされて、遊陽は歩とともに地面に手を付けると、しばらくして先生の笛の音とともに駆け出し、ゴールを目指して全速力で突っ走る。


 「ハァ……双波――マジで速い……!」

 黄緑色の短髪を振り乱しながら、歩が開始とともに一瞬で先頭に躍り出ると、遊陽達を置き去りに距離を開けていく。

 全く速度を落とさず先頭を進む歩に追い付くため、遊陽も必死に歩の後を追いかけるが、歩がそのまま逃げ切り、他の部員に遅れて遊陽もゴールラインを踏み越えた。


 「ハァ……ハァ――みんな速すぎ……」

 「ふぅーっ、最後の追い上げは根性みせたな! 少しはやるじゃねぇか!」

 「ああ……双波こそ――見事な走りだったぜ」


 その後遊陽は何度も歩と走ったが、彼女に一度も敵うことなく、活動時間が終わり着替え終えた遊陽がスポドリの缶を手に更衣室の前で待っていると、他の女子部員と一緒に着替え終えた歩が女子更衣室から姿を現した。


 「双波! これ、今日誘ってくれた礼だ――」

 「おっ、気が利くじゃーん! サンキューな!」

 「たまには身体を動かすのもいいよな。でもさ……これがどうデュエルに関係するんだよ」

 「……プハーッ! 続けてたら分かるだろうぜ。明日からは光希と留音のところも体験して、自分を見つめ直すこったな」


 遊陽から手渡されたスポドリを飲み干すと、じゃあなと手を振り歩は他の女子部員とともに校門へと足を進める。

 彼女が提案した特訓の意味について考えつつ、遊陽も部員達に続いて学園を後にするのであった。





 「あんしぇー遊陽! 今日は俺達バレー部と練習やろうな!」


 次の日の放課後。再び体操服に着替えて体育館に訪れた遊陽と光希は、早速バレー部の部員とともに試合をすることとなった。


 「なあ光希、いきなり試合するのかよ」

 「しわさんけー! バレーは体力使うやしー、怪我には気を付けろよ?」


 心配するなと光希に言われ、戸惑いながらも遊陽はバレー部員達とチームを組み、光希のいるチームとの試合を開始する。


 「葉柴には気を付けろよ体験生? あいつ攻めに回ると手強いぞ」

 「そうなんですか? って――うわっ……!?」


 先輩部員と会話していた遊陽は、味方のトスにタイミングを合わせて光希が打ったボールが、防ぎきれずに床を跳ねて転がるのを呆然と眺める。


 「うり! ボーっとしてちゃ、点差は埋められないぞ――やーさっさい!」


 続けざまに光希の打ったボールが、今度はコートのラインギリギリを狙い弾んだのを見て、連続失点にこのまま負けてられないと闘志を燃やす。


 「頑張れ体験生! 俺達もいるぞ!」

 「このままで終われない。一矢報いてみせる!」


 顧問の先生が鳴らす笛の音と同時に、再びサーブが打たれると味方の部員が上げたトスを見逃さず、遊陽は高く飛び上がるとボールに手を伸ばす。


 「今のはよかったぜ、体験生」


 しかし相手チームの部員にブロックされ、着地した遊陽は悔しそうな表情を浮かべる。

 そうして試合は進み、最終的に光希のチームが遊陽のチームを下して、勝利を収めた。


 「うたいみそーちー遊陽! これがうちのバレー部よ」


 試合後休息をとっている遊陽の元に光希はやって来ると、遊陽のすぐ隣に腰を下ろす。


 「お疲れ。……確か去年のインターハイで、いいところまで行ったんだろ? カズから聞いたぜ」

 「だーる。卒業後もバレー部のある大学に進学するじらーよ。プロバレー選手になりたいからな!」


 そのために勉強も頑張っていると、片手でボールを回しながら力説する光希を見て、成程と遊陽は相槌を打ちつつ、目指す目標にひたすら進む光希へと羨望の眼差しを向ける。


 「……なら夢を叶えた暁には、“賑やか”なプレイを見せてくれるって、今から
期待しておくぜ」

 「任せとけ! 遊陽も夢に向かってちばりよーな!」


 光希からの応援の言葉に、遊陽は感謝の言葉で答えると、活動時間を終えるとともに着替えを済ませ、光希と分かれて帰路につくのであった。





 翌日の放課後。留音とともに合唱部の練習へと訪れた遊陽は、男子部員とともに自分の入ったパートの練習をしていた。


 「遊陽君! ピッチ合わせて……! そう! 良い調子!」


 顧問の先生が弾くピアノに合わせようと、遊陽は一層声を張り上げて周りとの斉唱に意識を集中する。


 「ハイOK! 次はSパート! 準備して……!」


 ある程度練習したところで、次は留音の担当するパートが先生のピアノに合わせて歌い始めると、遊陽は他の部員とともに留音達の歌う姿を眺める。


 「塰里って――いつもこんな感じに歌っているのか」

 「ああ――この部の中でも、塰里さんが一番上手いんだぜ」


 全くブレずに一番高い音を発声し続ける留音の歌声に、遊陽や他のパートの生徒達が聞き入っている中、隣の男子生徒がヒソヒソと遊陽に耳打ちする。


 「塰里さんは上手い上に中々の美人だし――こいつもベタ惚れするくらいこの部じゃ人気者なんだぜ」

 「ちょっ先輩!? 言わないでくださいよ……」

 「そうだったのか――」

 「でも俺の彼女に聞いたら、塰里さん同じクラスに好きな人いるらしいぜ。残念だったな石田……」


 隣の生徒が留音に好意を寄せる後輩の肩を励ますようにポンポンと叩くと、次のパートと交代した留音が遊陽の元へとやって来た。


 「遊陽君――もう合唱の仲間と仲良くなってる。何話していたの?」

 「ええっと――その、あっ……そうだ俺が歌うここってさ、どう声出せばいいか分かるか?」


 部員と話していた会話の内容を聞かれ、返答に困った遊陽は話題を逸らそうと、楽譜を開いて先程の練習で何度もやり直した部分を指し示す。


 「えっと、ここはね――私が歌ってみせるからしっかり聞いてね?」


 遊陽が示した部分を目で追った留音は、自らお手本とばかりに息を吸うと、遊陽の担当パートをやや高い音で歌ってみせる。


 「おぉーっ! 流石塰里さんだ!」

 「塰里先輩――素敵な歌声っス!」

 「どう? 他の人でも難しいところだし、いっその事遊陽君も正式に入部してこれから毎日練習すればすぐにできるわよ? 他の部員みたいに私が聞いてあげるし――」

 「いや! 大丈夫だから……! あっ、そうだ明日は放課後カズと寄り道するんだった――」


 遊陽が合唱に興味を示したと思ったのか、早口気味に入部を迫る留音に引きつつ遊陽が楽譜で顔を隠すと、留音は残念そうに遊陽から離れて同じパートの部員の元に戻って行く。

 その後合唱部全体で通しの練習をして、その日の活動を終えると遊陽はお礼を言いつつ彼を引き留めようとする留音から逃れて、そそくさと部室を後にするのであった。





 次の日の放課後。手伝いが一段落付いたカズとともに、遊陽は行きつけのカードショップに訪れると、デュエルスペースを見学するカズより少し離れた席に座り、購入したカードパックを開封していた。


 「留音から聞いたぜ。体験と言わず、入部してやればあいつも喜ぶのに」

 「そうは言っても俺、音楽は選択してないし――見ろよカズ! 遂に当てたぜ……!」


 座っている遊陽が驚いた声を上げたことで、デュエルを観戦していたカズは何事かと振り向くと、駆け寄って来た遊陽の手には引き当てたばかりの新たな「氏子」のカードが握られていた。


 「おぉーっ! 良かったな。前から欲しかったカードだろ?」

 「こいつが出るまでに、結構な数剥いたからな」

 「へぇ……遊陽君、新たな“切り札”を手に入れたようだね」


 ハッと遊陽とカズが近付いて来た人物の方を向くと、そこにはスケッチブックを小脇に抱えた須浦と、頭の後ろで腕を組んだ浪花を引き連れた岡が、眉下まで伸びた前髪を鬱陶しそうにかき上げながら歩み寄って来た。


 『先輩達……!?』

 「こんなとこで会うなんてな! 良いカードでも引いたのか? そいつはめで“タイ”こった!」

 「浪花先輩! 遊陽といる時に会うのは珍しいっスね」

 「……よくこの3人で課外活動しているからね。……ところで遊陽君は最近、部活体験しているんだって?」

 「はい。その中でもっとデュエルが強くなる方法を探してて――」


 遊陽がそこまで言いかけた時、おもむろにスケッチブックを開いた須浦は敷地内でのデュエルに目を凝らして、握りしめた鉛筆で目の前で繰り広げられているデュエルをキャンバスに描き始める。


 「先輩――彼は一体何を……?」

 「須浦君は美術部の活動として、デュエルの情景を描きに来たんだよ」

 「……ちなみに浪花は美術部で陶芸をやっていて、僕は石膏彫刻をしている」

 「へぇーっ、そう言えばいつもスケブ持ってるのを見かけるっスね」


 熱心にデュエルを観察しつつ、鉛筆を動かす須浦を眺めるうちに、カズは彼の異変に気付く。

 彼のスケッチブックのページが半分近く描き込まれたところで、突然先程までの集中が切れたかのように動かす手が遅くなっていき、やがて須浦はため息を着くと途中まで描いた絵にバツ印を書いて開いたページを閉じた。


 「……駄目だ。このデュエルも僕の描きたい題材には程遠い……」

 「……彼は今スランプみたいでね。最近良いデュエルと巡り合えていないからだろうか?」

 「そんなに難しいんスかね? 俺には上手い絵にしか見えねぇんだがな」


 須浦の元へと歩み寄ったカズは、彼の取り消した絵を覗き込みながら理解できないと呟くと、やれやれと苦言を言いたげに浪花がカズの前に出て、自らの美術感について力説する。


 「違うんだよなぁ……神作品って言われるもんは、優れた独創性から生まれる物であって――それは観察眼を駆使し、発想の転換を繰り返すうちにようやく生まれる物であって――」

 「あーはいはい。先輩の話長そうなんで流していいっスか?」

 「……なぁ須浦君。僕もやっていることだけど、アイデアに詰まった時は一度別の事に気を向けてみてはどうだろう?」


 岡の言葉に再び小さくため息を付いた須浦は、鞄を探り始めるとスケッチブックをしまうと引き換えに、D・フェースと自らのデッキが入ったデッキケースを取り出した。


 「そういうことなら……最近触ってもいなかったが、誰か僕とのデュエルを受けて貰えませんか?」

 「……確かに人のやっているデュエルで満足できないなら、自分でやるのが手っ取早いよね……」

 「だったら須浦! ここに新しい“切り札”を手に入れて、早く試したそうな奴
がいるぜ! なぁ、遊陽!」


 D・フェースを構えた須浦に合わせて、カズは彼なら適任だと――手に入れたカードをデッキに組み込んだばかりの遊陽を指差す。


 「受けんのか遊陽君? うちの須浦君は学力もデュエルの腕も――あの石井さんよりずっと上だぜ?」

 「双波から言われて気付いた。強い相手に立ち向かってこそ、デュエリストだって――」

 遊陽も鞄から取り出したD・フェースを装着し、店のデュエルスペースが空くとともに須浦と2人でコートの中に入っていき、カズや岡達が見物する中、お互いに向き合って対峙する。


 「このデュエルでお互いスランプを振り払おうぜ! よろしくな須浦!」

 「先輩が持つ色がどんな色か――見定めさせてもらいますよ? よろしくお願いします」

 『デュエル――』


 遊陽LP4000。 須浦LP4000。


 「僕から行かせてもらいます。まずはこの世の真理を収めた写生帖――フィールド魔法《世絵画廻り》を発動!」


 カードの発動とともに、辺りは様々な風景や人物が描かれた絵画が展覧されている――古風な美術館へと様変わりした。


 世絵画廻り フィールド魔法
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):手札から「マスケッチ」モンスター1体を捨てて発動できる。自分のデッ
 キ・墓地から「融合」1枚を選んで手札に加える。
 (2):相手フィールドの元々の属性が異なるモンスターの攻撃力・守備力は500
 ダウンする。


 「この館内じゃ、あまり“賑やか”な振る舞いはできないな」

 「芸術は新たな境地を渇望している。手札の《マスケッチ・グリーンインク》を捨てて《世絵画廻り》の効果発動です。これにより僕がデッキから加えるのは、色を混ぜ合わせるこのカード――」


 マスケッチ・グリーンインク
 効果モンスター
 /風/レベル4/戦士/攻撃力1500。
 このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できな
 い。
 (1):このカードが「マスケッチ」融合モンスターの融合召喚の素材となって墓地
 へ送られた場合、自分の墓地の「マスケッチ・グリーンインク」以外の「マスケ
 ッチ」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
 (2):相手モンスター1体を対象に発動できる。ターン終了時までそのモンスター
 の属性は風属性になる。この効果は相手ターンでも発動できる。


 「そのカードは……!?」

 「そして魔法カード《融合》を発動……! この魔法カードによって、僕は手札から《マスケッチ・レッドインク》と《マスケッチ・ブルーインク》の2色を混ぜ合わせ、未知なる可能性――EXデッキから《ボレーマスケッチ・マゼンタインク》を“融合召喚”します……!」


 須浦の手札からウォーターガンに似たマスケット銃を持ち、背負ったタンクからチューブを通じて手元の銃よりインクを放出する2体の塗師が、1つに溶け合っていく。

 そして場に現れたのは、背中にタンクを2つ背負い、インクの弾丸を放つ二丁合わさったマスケット銃を携えた――己の想像を世界に描く芸術家だった。


 マスケッチ・レッドインク
 効果モンスター
 /炎/レベル4/戦士/攻撃力1500。
 このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できな
 い。
 (1):このカードが「マスケッチ」融合モンスターの融合召喚の素材となって墓地
 へ送られた場合、自分の墓地の「マスケッチ・レッドインク」以外の「マスケッ
 チ」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
 (2):相手モンスター1体を対象に発動できる。ターン終了時までそのモンスター
 の属性は炎属性になる。この効果は相手ターンでも発動できる。


 マスケッチ・ブルーインク
 効果モンスター
 /水/レベル4/戦士/攻撃力1500。
 このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できな
 い。
 (1):このカードが「マスケッチ」融合モンスターの融合召喚の素材となって墓地
 へ送られた場合、自分の墓地の「マスケッチ・ブルーインク」以外の「マスケッ
 チ」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
 (2):相手モンスター1体を対象に発動できる。ターン終了時までそのモンスター
 の属性は水属性になる。この効果は相手ターンでも発動できる。


 ボレーマスケッチ・マゼンタインク
 融合、効果モンスター
 /炎/レベル6/戦士/攻撃力2000。
 「マスケッチ」モンスター+炎属性または水属性モンスター
 (1):「ボレーマスケッチ・マゼンタインク」は自分フィールドに1体しか表
 側表示で存在できない。
 (2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は
 「水」としても扱う。
 (3):1ターンに1度、このカードがモンスターゾーンに存在する状態で自分フィ
 ールドに「マスケッチ」モンスターが召喚・特殊召喚された場合、墓地の「融
 合」1枚を対象に発動できる。そのカードを手札に加える。


 「モンスター同士を“混ぜ合わせる”事で新たなモンスターを生み出す――これ
が“融合召喚”か――」

 「……僕もずっとこの町にいるけど、彼以外の使い手は見た事無いね」

 「都会の方でしか普及していないみたいですね。まあ、牧歌的なこの町の雰囲気も悪くないですが。融合素材となった2体のインクの効果により、青と緑の色を墓地より蘇生させます」


 グリーンインク守備力1500。 ブルーインク守備力1500。


 「マスケッチが現れたことで、マゼンタインクの効果により墓地の融合を手札に戻します。カードを1枚伏せ、僕はターン終了。さあ先輩、僕の創作魂を刺激し、閃きを与える戦術……期待しますよ?」

 「そうだな――後輩のご期待に応えるよう、努めさせてもらうぜ……!」


 引いたカードを確認した遊陽は、最初に引いた5枚と合わせて早速自らが信頼するモンスターへと繋がる道筋を構築する。


 「俺は魔法カード《袴着儀礼》を発動だ! 俺の場にモンスターがいないため、デッキから《ワッショイ・チゴ》をハレの場にお披露目するぜ」


 デッキから選び出したカードを置くと、ヨリマシによく似た赤の狩衣を身に着けた――彼よりも幼い童子がたどたどしい足取りで場に現れた。


 袴着儀礼 通常魔法
 (1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合発動できる。
 デッキから「ワッショイ・チゴ」1体を特殊召喚する。
 (2):「ワッショイ」モンスターをアドバンス召喚した場合、墓地のこのカードを
 除外して発動できる。
 墓地の「ワッショイ・チゴ」1体を特殊召喚する。


 ワッショイ・チゴ
 通常モンスター
 /地/レベル1/魔法使い/攻撃力100。
 祭りを愉快に賑わかす幼き氏子。
 氏神様を依り憑かせる役割を持つヨリマシと比べると年相応の振る舞いを見
 せるが、祭りを楽しむ心意気は彼や周りの大人達にも引けを取らない。


 「……成程、遊陽君は通常モンスターも使うのか」

 「効果の代わりに、そのモンスターの世界観を広げるフレーバーが詰められているカードって訳だ」

 「こいつは効果を持たないが、その代わり呼び出す手段は豊富だぜ。俺はチゴをリリース、政を為すは人にあり、氏神の名の下に祭りを“賑やか”せ! “アドバンス召喚”! 《ワッショイ・グージ》……!」


 ワッショイ・グージ 攻撃力2300。


 「出たな! 遊陽のフェイバリット……!」

 「俺はグージの効果を発動! デッキの上3枚の中から新たな「氏子」を呼び出す。俺が呼び出すのは水辺に潜む大食らいの厄介者――《ワッショイ・グラトニートル》だ!」


 神職者の導きにより、祭りの景品の成れの果てである甲羅に縞模様の入った悪食の亀が、ふてぶてしく場に現れた。


 グラトニートル攻撃力800。


 「このグラトニートルが現れたことで、お前の魔法、トラップカード1枚を平らげる。そしてこの効果でフィールド魔法を破壊した場合、その場に定着して攻撃力を増す効果も得られるぜ」


 美術館へと迷い込んだ悪食の亀は、格式ある絨毯を汚しつつ壁中に飾られた絵画すら額縁ごと剥ぎ取り、収まる限界を知らない胃袋に飲み込んでいく。


 グラトニートル攻撃力800→1800。


 「……迷惑な客もいたものだ。早々に退場を願いたいね」

 「全くだよな! 俺達農家にはいい迷惑だぜ」


 半壊した美術館をため息を着きつつ眺める須浦と、先日家族総出で田んぼに住み着いた害獣を駆除し終えたカズは、2人して目の敵にしている亀を睨みつける。


 「そしてグージをアドバンス召喚したことで、墓地の《袴着儀礼》を除外することでチゴを再び祭り場へと誘い出すぜ」


 辺りに流れる“賑やか”な囃子に提灯ぼんぼり――目に映る全ての物に興味を示
してふらふらと歩く幼いチゴは、神職を司る青年を見つけると無邪気な笑みで彼の下に駆け寄ろうとする。

 その時だった。場の塗師がチューブを伝って手元の銃に青い塗料を充填させ、祭りの神職者に向けて発射すると、チゴの目の前で祭りの神職者は全身に青い塗料を被ってしまう。


 「ブルーインクは1ターンに1度、相手モンスター1体の属性を自身と同じ青に染め上げられる!」

 「俺のグージが――水属性に変更されただと……!?」


 全身から青い塗料を滴り落とす神職者を見て、更に須浦は好機と言わんばかりに、伏せていたカードを発動させようとする。


 「僕の“マスケッチ”達は色を調色し、新たな芸術を描きます。そしてこれが融
合を“更なる高み”へと導くカード! ……先輩に見せて上げますよ。僕が生み出す至高の可能性を……!」





 「遊陽と――」

 「俺、カズの――」

 『ビナリウス回顧録!』


遊陽「この話では遊無が不在のため、俺とカズで今回の話を振り返るぜ」

カズ「これからはお前と遊無ちゃんがいない時に話が進む場合は、俺や他の奴らにも出番が回って来るんだな」

遊陽「そういう事だ。今回俺は2体の強力な切り札を手に入れた遊無に追い付こうと、同学年の仲間とともに特訓に挑んだぜ」

カズ「いわゆる部活紹介ってこった。成り行きで体験入部したけどさ、部活に勤しむ留音達の活き活きとした姿を見てどう感じた?」

遊陽「そうだな……みんな自分の“好き”に真剣で――楽しんで活動していたな」

カズ「……それをお前に見せるのが、歩の狙いだろうぜ」

遊陽「そして俺と須浦のデュエルだが、須浦のモンスターはインクを塗る銃で相手モンスターの属性を塗り替える――某イカのシューティングゲームが元になっているぜ」

カズ「そして融合の魔法カードによってEXデッキから現れる2丁の銃使い――ボレーマスケッチで、融合で消費した手札を回復させる訳だな」

遊陽「それだけじゃなく、最後に須浦が発動させたカード――あれはまさに融合の革新だ。そして光を構成する3色の色が合わさった時、全てを白に染め上げる究極のマスケッチが召喚される!」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -夜空に咲かせよ! “賑やか”な
る華-』

カズ「遊陽の新たな“切り札”は、2人のデュエルを華々しく彩るぜ? 次回も見
てくれよな!」
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42 25Turn 異国からの訪問者 363 0 2023-05-26 -
33 26Turn 天上の採火 251 0 2023-06-02 -
45 幕間 3人の交流生 338 0 2023-06-04 -
72 27Turn 魘夢の魔族 325 0 2023-06-10 -
40 28Turn 羅漢の竜王 281 0 2023-06-21 -
43 29Turn 聖夜のマノン 354 0 2023-06-25 -
37 幕間 もう一人の遊無 295 2 2023-06-28 -
39 第二章 キャラクター紹介 324 1 2023-07-01 -
67 幕間 闘諍の予兆 361 0 2023-07-06 -
36 30Turn 狂課金(ミダース) 282 0 2023-07-10 -
64 31Turn 舞い上がる不死鳥の輪舞 418 0 2023-07-14 -
51 32Turn 巻き上げる関捩 338 1 2023-07-17 -
45 33Turn 夢に堕ちる仲間 393 0 2023-07-22 -
37 34Turn 友を取り戻せ! 294 0 2023-07-30 -
33 35Turn 堕ちた雷と涙雨の天河 321 0 2023-08-03 -
34 36Turn 伝えたい言葉 308 1 2023-08-11 -
31 37Turn 夢を喰らう獏 255 0 2023-08-26 -
31 38Turn 深淵のトモカヅキ 244 0 2023-09-03 -
84 39Turn 最遠のパズズ 332 0 2023-09-11 -
27 40Turn 所縁が結ぶ絆 234 0 2023-09-18 -
26 41Turn 活火激発の鍛人(かぬち) 244 0 2023-09-22 -
27 42Turn 巣林一枝のブルーバード 189 0 2023-09-23 -
32 今までの話が丸分かり! 第二章のあらすじ 291 1 2023-09-24 -
27 43Turn 次の関係(ステップ)へ 256 0 2023-10-20 -
33 44Turn 竜の駒 大洋を統べる 321 0 2023-10-22 -
38 45Turn マグナ ヌメンへの往訪 233 0 2023-10-26 -
31 46Turn 跳躍-精霊世界へ 241 0 2023-10-29 -
45 幕間 強化訓練と異界の住人 289 0 2023-11-02 -
39 47Turn 精霊世界 マースの森で 230 0 2023-11-05 -
35 祝一周年! 今後の展望など 297 0 2023-11-11 -
29 48Turn 精霊長アラウン 187 0 2023-11-15 -
31 第三章 キャラクター紹介 242 1 2023-11-16 -
43 49Turn 下される審判 278 0 2023-11-20 -
23 50Turn 猟犬従えし灰の王 241 0 2023-11-28 -
30 幕間 精霊世界の平生 298 0 2023-12-07 -
24 51Turn 最善の選択 207 0 2023-12-18 -
28 52Turn 立ちはだかる使者達 244 0 2023-12-28 -
27 53Turn 怨嗟積り秘号と成す 218 0 2023-12-30 -
28 54Turn 遊明の力 228 0 2024-01-02 -
27 今までの話が丸分かり! 第三章のあらすじ 278 0 2024-01-03 -
13 お久しぶりです。 74 0 2024-11-10 -
3 お知らせ。 36 0 2024-11-20 -

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