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HOME > 遊戯王SS一覧 > 2Turn 掛け声響く祭りの竜

2Turn 掛け声響く祭りの竜 作:ジェム貯めナイト

 『火ぁ! 逃げようったってそうはい火ねぇぜ? 一度始めたこの闇のデュエル――決着が着くまで終わらねぇ! それともサレンダーして、これ以上の苦痛を受けることなく、炎に飲まれて焼尽しちまう火ぁ……?』


 痛みを堪えつつ、遊陽はこの騒動の発端となる――自らに心配の言葉を掛ける少女に平気だと告げると、再び立ち上がった。


 「ぐっ……誰がサレンダーなんか……! カーカーうるせぇ化け物が――俺に指図するんじゃねぇ! このインチキガラス……!」

 『カラスじゃねぇ! 焦盛はムクドリだ……!』

 「知るかそんなこと――俺のターン! 相手フィールドに俺の場と同じ種族のモンスターがいないことで、手札の《ワッショイ・ハヤシフルート》を新たに呼び出す……!」


 篠笛の澄み渡った音が響き渡ると、白い小袖に赤い袴を身に着けた――肩まで掛かる二つ結びをした巫女装束の奏者が現れた。


 ワッショイ・ハヤシフルート
 効果モンスター
 /レベル2/風/植物/攻撃力800。
 自分は「ワッショイ・ハヤシフルート」を1ターンに1度しか特殊召喚できな
 い。
 (1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドに同じ種族のモ
 ンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
 (2):このカードがリリースされ墓地に送られた場合に発動できる。自分フィール
 ドの「ワッショイ」風属性モンスターの攻撃力をターン終了時までフィールドの
 モンスターが持つ属性の数×500アップする。


 「そして俺は《ワッショイ・ハヤシフルート》をリリースする! 政を為すは人にあり、氏神の名の下に祭りを“賑やか”せ!」


 祭囃子の吹き手が粒子となって、フィールドから消えていく。

 そして入れ替わるかのように文様が入った紫の袴を身に着け、烏帽子を被った祭事を司る青年が現れた。


「“アドバンス召喚”! 現れろ、《ワッショイ・グージ》……!」

 
 ワッショイ・グージ
 効果モンスター
 /レベル6/光/魔法使い/攻撃力2300。
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。
 デッキの上からカードを3枚めくり、その中からレベル4以下の「ワッショイ」
 モンスター1体を特殊召喚する。
 (2):このカードの攻撃力は、自分フィールドのこのカード以外の「ワッショイ」
 魔法使い族モンスターの数×200アップする。


 『次の相手は――少しは手応えがありそうだなぁ……!』

 「アドバンス召喚したグージの効果発動! ……これは! ここはお前に任せるぜ! デッキから《ワッショイ・ヨリマシ》を特殊召喚だ……!」


 デッキの上3枚を見た遊陽は、その中で唯一呼び出せるヨリマシを液晶盤の上に置いた。

 祭祀を司る神職者の導きとともに、神職者とお揃いの恰好をした――神霊を招き寄せる尸童が姿を現す。


 ワッショイ・ヨリマシ
 効果モンスター
 /レベル1/光/魔法使い/攻撃力300。
 (1):このカードがフィールドに存在する限り、レベル7以上の「ワッショ
 イ」モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくできる。
 (2):このカードがアドバンス召喚のためにリリースされた場合に発動でき
 る。
 ターン終了時までこのターンアドバンス召喚された自分フィールドの「ワッシ 
 ョイ」モンスターは相手のカード効果では破壊されない。


 『……!? 焦盛の力に拮抗しているだと!? この軟弱な精霊が……?』


 ヨリマシの登場から、辺りを覆う重苦しい空気も心なしか和らいだ気がする。

 現れるだけで自らの力を抑えられるほどの精霊を目の当たりにして、初めて化け物は動揺を抑えられず、苛立った様子を見せた。


 ――よーし!  ここはおいらのでばんだね!

 「ああ、今こそお前の力が必要な時だ。グージの攻撃力は、俺の場にいる他の“祭祀者”1体に付き、200アップする。氏子と思いを1つに合わせよ! ユナイツ・オブ・サプリケーション……!」


 神職者の青年が手にする笏を掲げると、ヨリマシが祈りを込めるように手を合わせるとともに、その先端に眩い光が灯った。


 ワッショイ・グージ 攻撃力2300→2500。


 「……? あの――立体映像とは、言葉を交わせるものなのでしょうか?」

 ――えっ、えっ……!? おいらのことみえるの!?


 少女に見られていることに気付いたヨリマシが慌てふためくと、遊陽も彼女がカードの精霊が見えると気付いて、驚愕を顔に浮かべた。


 「本当に――ヨリマシが見えているのか……!?」

 ――マスターいがいにも、おいらをみれるひとがいたんだ!


 遊陽とヨリマシの問いかけに、少女はコクリと首を縦に振った。


 「訳の分からないことが沢山起きているが、今はデュエルだ! バトル! 俺はグージで飯綱を攻撃! 祓え! デモン・ピュリフィケーション……!」


 遊陽の攻撃宣言とともに、掛け声を上げた神職者が笏の先端に灯った光を差し向けると、迸った閃光が二又の狐を浄化する。


 『ちぃ! 小癪な……』 ?LP4000→2900。


 ――やった! これがおいらたちのきずなだぁ……!

 「飯綱を撃破! どうだ! 偉そうに胡坐をかいてボーッとしてちゃ、“賑やか”しい祭り場では痛い目にあうぜ?」


 場のグージとヨリマシを見て遊陽は勢いづくと、更にカードを1枚伏せてターンを終えた。


 『火ぁ! このくらいでいい気になるなよぉ……? 矮焦な人間がぁ!』


 化け物は新たに燃料が充填されたのか――全身から勢いよく炎を燃え上がらせながら、即座にカードを引く。

 そして手札に加えたカードを見た瞬間、高笑いを上げて急に態度を一変させた。


 『火ぁ! てめぇらの命運は尽きた……! 焦盛は永続魔法《焚焼坑樹》を発動……! 1ターンに1度、詠唱された魔法カードの使用履歴1回分を墓地から削除――除外する』


 化け物の申し立てを受けて、全身が情報量の塊で構成された山羊が現れた。

 電子の山羊は鳴き声を上げると化け物のカードを置く翼に噛みつき、《妖魔彷徨》のカードを引き抜くとそのままムシャムシャと反芻する。


 焚焼坑樹 永続魔法
 このカードの(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):自分の墓地から通常魔法1枚を裏側表示で除外して発動できる。
 自分フィールドに「焚焼トークン」(サイバース族・炎・星1・攻/守0)1体を
 特殊召喚する。
 このトークンは炎属性モンスターのアドバンス召喚以外にはリリースできな
 い。
 (2):相手フィールドに墓地からモンスターが特殊召喚した場合に発動する。
 自分フィールドの炎属性・サイバース族モンスターの攻撃力はターン終了時
 まで1000アップする。


 『そして《焚焼トークン》を焦盛の場に呼び出す。来援の前に――罠カード《フロックポスト・チャーピング》を発動! 焦盛が従える炎纏いしサイバースの数だけ、このターンてめぇの伏せカードの発動を圧殺する!』


 モゴモゴと反芻する山羊が口から炎を吐き出すと、騒音と言える大音量で掻き鳴らされた鳥の合唱とともに、遊陽の伏せたカードは炎に包まれて発動を封じられた。


 フロックポスト・チャーピング 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分フィールドの炎属性・サイバース族モンスターの数まで相手フィールド
 にセットされた魔法・罠カードを対象として発動できる。ターン終了時までその
 カードは発動できない。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスター
 の効果を発動できない。


 「伏せカードを封じられた……!」

 『火く悟しなぁ! 焦盛に立てついた人間がい火なる末路を迎える火を、その身にたっぷり焼入れしてやるよぉ……! 焦盛は天邪鬼と焚焼トークンをリリース!』
 
 
 フィールドの小鬼と反芻する山羊が炎に包まれ消え去ると、燃え盛る灼熱の炎が逃げ場をなくすかのように、辺りを覆い尽くしていく。


 「この嫌な気配――……っ!」

 ――くうっ! まずいよ! おいらのちからじゃおさえきれない……!


 遊陽が周囲に目を配ると、先程までヨリマシが抑えていた気配まで勢いを盛り返し始めた。
 

 「2人とも……!? くっ――何がが“来る”……!」

 『……憤怒とともに放流される地鳴き声よ! 大合唱となりて怨敵に苛烈な喧騒を浴びせ、焼き焦がせ!』


 やがて炎が弱まると、化け物の高笑いとともに情報量の集合体で構築された炎を纏わせた翼を翻して、“そのモンスター”は境内の上空に向かって羽ばたいた。
 

 『“アドバンス召喚”! 炎上しなぁ! 《スタティック・スターリング》……
!』


 スタティック・スターリング
 効果モンスター
 /レベル8/炎/サイバース/攻撃力3000。
 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードは、レベル8以下のモンスターとの戦闘では破壊されず、レ
 ベル8以下のモンスターの効果では破壊されない。
 (2):このカードがレベル5以上の相手モンスターを戦闘で破壊し墓地に送った場
 合に発動できる。そのモンスターを相手フィールドに特殊召喚する。
 このターンこのカードはその相手モンスターにもう一度攻撃できる。


 「なんだ――こいつは……!?」


 化け物の場に現れし情報量が凝縮された――猛火を纏うムクドリが一度羽ばたくごとに、周囲に火の粉が舞い散って黄昏の空に吸い込まれていく光景は、辺り一面が焦土に思えるほど不気味な有様だった。


 「……このモンスターに襲われていたのです。ここに訪れる者には、今まで誰も“気付かれなかった”というのに……」

 『てめぇまさか、覚えてねぇの火ぁ? この姿が見えているってことは、まだ“あの力”は失っていねぇってこと火ぁ……?』

「力……? 一体何の事だ!?」


 炎纏いしムクドリが翼を羽ばたかせると同時に、舞い散る火の粉に怯えたそぶりを見せる少女をかばうかのように、遊陽は立ちはだかった。


 『だったらてめぇを蘇らせた張本人諸共、今度こそ焼き払ってやる火ぁ! 覚悟しなぁ! 今火ら“我が化身”にその身を焼き焦がされ、焦熱の地獄を味わうんだ火らなぁ……!』

 「くそっ! 好き勝手させねぇ! ここでやられてたまるか……っ!」

 『スタティック・スターリングよ! 義憤を抱き立てつく敵を焼き尽くしなぁ! 燃ゆれ! インフラマトリー・オーバードライブ……!』


 甲高い騒音を搔き鳴らすと、嘴を開けて振り撒いた炎の吐息が襲い掛かり、祭りの神職者は襲い来る炎に全身を焼かれていく。


 「うああぁっっ……!」 遊陽LP2100→1600。


 「そんな……!」

 ――マスター!?


 遊陽達を見下ろすように、炎を纏うムクドリは騒々しく火花が爆ぜるような鳴き声を上げると、更に激しく燃え上がって境内を俯瞰する。


 『火ャハハハ! 1度だけで焦盛が燃やした“祭り”は終わらねぇ! スターリ
ングの効果発動! 燃やした上級以上の相手モンスターを再び引きずり出し、更に陥れることができる! 再度の炎上――リ・スーパーヒーティング……!』

 
 炎が弱まり、一度は燃え上がった祭りの神職者が息も絶え絶えに、全身から煙を立たせながら再び姿を見せた。

 そして浮上した神職者に合わせ、《焚焼坑樹》により炎纏いしムクドリはより激しく燃え上がる。


 スタティック・スターリング 攻撃力3000→4000。


 『火ぁ! 憎悪の炎で焼かれろ!  そして焦熱の海に沈め! バイオレンス・オーバードライブ……!』


 膝をつく遊陽と神職者に、休む間もなく再び上空から激しく燃える炎が襲い掛かった。

 今度こそ祭りの神職者は、骨すら残らないほどの業火で焼かれて、跡形もなく消滅する。


 「ぐわああぁっっ……!?」 遊陽LP1600→100。


 「……っ! “遊陽”さん……!」


 ヨリマシと共に衝撃で吹き飛ばされ、受け身を取る間もなく石畳に背中から落下した遊陽を見て、少女は初めて“初対面のはず”の彼の名を叫んだ。

 そのままターンを終えた化け物は、勝ち誇った様子で眼に涙を浮かべてうずくまるヨリマシと、うつ伏せのまま痛みに苦しむ遊陽の2人を俯瞰する。


 『これで邪魔者は火た付いた! こいつを焼き払えさえすりゃあ……!』


 化け物は再び両手で巨大な火球を生み出すと、神社の本殿に向けてその塊を撃ち出した。

 化け物の放った火はあっという間に本殿へと燃え移り、外壁が炎に包まれていく。


 「――っ……! やめて……」


 燃え上がった神社を見た途端、少女は頭を押さえながらその場に倒れ込んだ。


 「嫌っ……! 熱い……苦しい……」


 少女はまるで目の前で燃える本殿のように、身を焼かれる苦しみを味わっている。


 ――うう……おきて! マスター! このままじゃじんじゃが……! マスター!


 受けた痛みに立ち上がることさえできない遊陽を見下ろして、化け物は高笑いを止めると、再び手に火球を宿して遊陽の頭上に手を伸ばす。


 『所詮てめぇらが、“秘号”(エンクレーブ)たる焦盛に及ぶはずもねぇんだよ
ぉ! このフィールドで戦う意志無き者は消えるのみ――』


 類焼し燃え続ける神社は黒煙を上げて、支えを失った屋根の一部が崩れ落ちた。

 身体に触れれば骨の髄まで焼き払う――化け物が手に宿したこれまでで最も大きい火球を見て、少女は頭を押さえつつ涙を流して助けを願った。


 ――ううっ、このままじゃマスターが――。

 「――っ……! お願い……! 誰か助けて! 私(わたし)がどうなったとしても、この人だけはどうか……」

 『立ち上がれねぇなら――焦盛の炎に焼かれて――何っ……!?』


 その時だった。燃え上がったはずの神社から眩い光が漏れだすと、一瞬にして化け物の手から火球は消え去り、炎を吹き飛ばし何事もなく元通りに佇む神社から発した光は2人を包んでいく。


 『これは……!?』


 遊陽の闇のデュエルでの傷と、遊無が負った肩の痛々しい火傷の後は、光の中で互いに手を取り合い、光を発する神社を眺める2人を癒していく。


 「傷が治っていく――」

 「暖かい光……何が起きたのでしょう……?」


 やがて目の前に光の粒子が集まると、遊陽の手の中でそれは、1枚のカードへと変化する。

 遊陽がそのカードを掴むと同時に、カードに絵柄が浮かび上がった。

 長い胴体を神輿に絡ませ、口元から髭を伸ばした竜――その名前を遊陽は読み上げる。


 「《ワッショイフェスタ・ドラゴン》……!」


 再び立ち上がった2人の元に、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらヨリマシが駆け寄ってくると、遊陽の腕にしがみついて泣きじゃくる。


 ――マ゛ズダァァ! ぶじでよがっだぁぁ……!

 「ヨリマシ……心配かけたな。俺は大丈夫だ」


 何事もなかったかのように無事を喜びあう遊陽達を見て、化け物は信じられない。といった様子で、呆然と開けた嘴から煙を立ち昇らせながら不服そうに呟いた。


 『バ火な……焦盛の炎を火気消されただと!?』


 そして化け物は、再び全身の炎を上空のモンスターとともに、天まで届くほどの勢いで、激しく燃え上がらせた。

 背後から炎が弾ける音を耳にして、遊陽達は振り返ると全員が気を引き締めて化け物を睨み、再び戦いの構えを取る。


 「遊陽さん、貴方にこの神社、そして私達の運命――託してもよろしいですか?」

 「ああ……でもどうして俺の名前を――」

 「貴方のことは、ずっと見ていましたから……」

 「ずっと――君は一体、何者なんだ……?」


 遊陽の問いに、少女は口を閉じ、ゆっくり目を閉じると、再び目を開き自らの名を口にする。


 「私は……遊無、“刹那 遊無”(せつな ゆうむ)と申します。どうか勝って、
この場所を守ってください」

 「任せろ! 俺はあいつを必ず倒す! 2人とも、もう少しだけともに戦ってくれるか……?」

 ――もちろんだよ! かとう! マスター!


 少女――遊無も頷き、再び遊陽はD・フェースを構えて化け物へと向き直る。


 「よし、デュエルを再開するぞ! フィールドのヨリマシは、“氏神”を呼び寄
せる“尸童”となる! 俺は相棒――ヨリマシをリリース!」


 ヨリマシとお互いに頷くと、勝利を誓い合い彼の身体は粒子となって消えていった。

 氏子が神の宿り身としてその身を捧げることで、天を裂いて彼らが奉る“氏神”
は、その姿を降臨させる。


 「無垢なる尸童よ! 神霊を招き、その身に神力を宿し賜りて、御身を顕現せしめよ! “アドバンス召喚”!」


 天の彼方から威光を放ち、地上に降臨した祭りの竜――掛け声響かせる氏子の奉る氏神が、姿を現すと同時に周囲の木々も呼応して、枝を激しくしならせた。


 「現れろ――掛け声響く祭りの竜! 《ワッショイフェスタ・ドラゴン》……!」


 ワッショイフェスタ・ドラゴン
 効果モンスター
 /レベル8/光/幻竜/攻撃力2500。
 このカードの(1)の効果はフィールドに存在する限り1度しか発動できない。
 (1):自分のメインフェイズに発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時ま
 で、自分の墓地のモンスターが持つ属性の種類×500アップする。
 この効果の発動後、相手フィールドのレベル5以上のモンスターの攻撃力はタ
 ーン終了時まで、自分の墓地のモンスターが持つ種族の種類×200ダウンする。


 『ちぃぃ……! 忌々しい――だが攻撃力はスターリングの方が上だ!』


 祭りの竜の出現に苛立ちつつ、化け物は威勢よく祭りの竜を貶め、炎纏いしムクドリはけたたましい鳴き声を上げた。


 「“俺達”は負けない! 2人の思いを託されたからには、憎悪を糧に増長する
悪意になど屈しない……! 墓地のグージを対象に、魔法カード《追善回向》を発動!」


 追善回向 通常魔法
 (1):自分の墓地の「ワッショイ」モンスター1体を対象に発動できる。
 デッキの上からカードを5枚めくり、その中からそのモンスターとは属性の異な
 るレベル4以下の「ワッショイ」モンスター1体を墓地に送り、墓地に送ったモ
 ンスターのレベル×100LPを回復する。
 自分フィールドにレベル7以上の「ワッショイ」モンスターが存在する場合、
 この効果の対象を2体にできる。


 「これにより慰霊したグージと異なる属性を持つ《ワッショイ・手水柄杓》と《ワッショイ・喪服蝶》を墓地に送り、レベルの合計500のLPを回復する!」


 ワッショイ・手水柄杓
 効果モンスター
 /レベル2/水/水/攻撃力500。
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードが墓地に送られた場合、自分の墓地のレベル4以下の「ワッショ
 イ」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを手札に加える。


 ワッショイ・喪服蝶
 効果モンスター
 /レベル3/闇/昆虫/攻撃力700。
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):手札からこのカードと「ワッショイ」モンスター1体を墓地へ捨てて発動で
 きる。捨てたモンスターとは属性が異なる自分の墓地の「ワッショイ」モンスタ
 ー1体を自分フィールドに特殊召喚する。


 遊陽LP100→600。


 「そして墓地に送られた手水柄杓の効果によって、墓地の「氏子」1体を手札に戻す。更に《ワッショイ・喪服蝶》とともに、手札の《ワッショイ華景・ロッキー》を墓地に送り効果発動! この効果で墓地に送ったモンスターとは異なる属性の「氏子」を墓地から蘇らせる! 戻って来い! ヨリマシ……!」


 周辺に漆黒の翅から鱗粉を舞わせた蝶が飛び交い始めると、舞い落ちる鱗粉が子供の形となって、再びヨリマシは場に舞い戻った。

 しかし俯いたまま現れたヨリマシは、祭りの竜を呼び出す前とは明らかに身に纏う雰囲気が異なっている。


 ――この娘……“力の消耗した”我を再び呼び寄せるとは。これほどの思い――
やはりこの少年こそ、“あの時”の――。

 「よ――ヨリマシ……?」


 眼を閉じたままヨリマシは、普段の彼とは違う――老人のようにしゃがれた低い声で呟いている。

 様子がおかしい。と困惑する遊陽へとヨリマシは向き直り、ゆっくりと目を開けた。


 ――那由他遊陽。身を挺して我らが“社”を守り抜こうとするその心意気に、敬
意を伝える――。

 「社……まさか!? ヨリマシ――いや、この神社の神様なのか……!?」


 遊陽は驚き、虚ろな眼をしたヨリマシに乗り移った何者かに問いかけると、ヨリマシは首を左右に振って、ゆっくりと上空の竜を指差した。


 ――我はあの者の炎を打ち払い、霊力を秘めた氏子の身体を借りて顕現した――この社に座する“祀神”の御先を称する――。


 ヨリマシの指差した竜が頭を垂れ、遊陽の顔を覗き込むのを見て、確かに目の前のヨリマシに神性ごと乗り移っていると、遊陽ははっきりと感じた。


 ――我の神力は“嘗て”大きく消耗して以来、未だ満ち足りぬまま。しかし身を
降ろしたこの童子と氏子達の協力があれば、あの者を退ける事も可能だろう――。

 「……分かった。じゃあヨリマシ――いや、ワッショイフェスタ! 協力してあいつから町を守ろうぜ!」


 目の前のヨリマシが頷き、祭りの竜も返事とばかりに咆哮を上げると、遊陽は再び化け物とのデュエルへと意識を向けた。


 『火ぁ! “憑代”を伴わなければ実体化できない耄碌の竜に何ができる! て
めぇの墓地よりモンスターが蘇ったことで、焚焼坑樹の効果によりスターリングの攻撃力は1000上がる……!』


 スタティック・スターリング 攻撃力3000→4000。


 「俺は ワッショイフェスタの効果発動! 招来した際に一度だけ、俺の墓地に眠る属性の数1つに付き、攻撃力を500アップする……!」

 ――墓地には地、風、光、水、闇――そして炎の6種類全てが揃っている。よって我は、この身に森羅万象全ての力を取り込む……!


 効果の発動を宣言するとともに、祭りの竜の周りに6色の球が浮かび上がった。

 6色の球同士はやがて光の帯で繋がって、それぞれが光を発して祭りの竜を照らし出そうとする。


 『攻撃力の上昇火ぁ……し火しその程度、焦盛には効かねぇんだよぉ! リバースカード、《エシックス・ポリューション》を発動だぁ!』


 祭りの竜が起こした行動に対し、炎纏いしムクドリは威圧するように大音量の鳴き声をやかましく搔き鳴らして、祭りの竜が身に宿す力の解放を妨害しようとする。


 エシックス・ポリューション 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分フィールドにレベル5以上の炎属性・サイバース族モンスターが存在す
 る場合、相手フィールドのモンスターが効果を発動した時そのモンスターを対象
 に発動できる。そのモンスターの効果を無効にする。
 その後この効果の対象となったモンスターを墓地に送り、相手の墓地からそのモ
 ンスターよりレベルの低いモンスター1体を選んで攻撃表示で特殊召喚する。


 『このトラップは上級以上の炎纏いしサイバースの存在を条件に、モンスターの能力を火気消して、焦滅させちまう!』

 「あくまでも、やかましく騒ぎ立てるつもりか」

 『所詮人なんざ、力ある者が生み出す流れに逆火らえねぇんだよ! 知恵の泉の水を得られねぇ“枯れた民草”に焦盛が摩擦を加えただけで、民草どもは不満を煽られ火種となり、焦盛の起こした炎を拡げちまうよなぁ!』

 「“枯れた民草”か。確かに――知恵を与える水は皆平等に注がれてはいない。
だが水は器さえあれば掬い取り、分け与えられるものだ! 人が持つ知恵という名の器に貯めた水なら、全ての人にだって分け与えられるはずだ!」

 「遊陽さん……」


 世の中皆が賢い訳じゃない。しかし思慮に長け、民を導くことのできる人がいれば変われると、続けざまに遊陽が放った言葉を聞いて、遊無は感嘆の声を上げる。

 ヨリマシに宿ったワッショイフェスタもその言葉を待っていた。とばかりに腕を組み、重々しげに頷いた。


 「お前のような人の不安に付け込み、他者を傷つける放火魔を、のうのうと蔓延らせたままにするものか! 罠発動、《神輿奉戴》! ワッショイフェスタを対象とした攻撃、効果を無効にする……!」


 場に現れた神輿の上に祭りの竜は陣を構えると、搔き鳴らされ続けるムクドリの鳴き声を一喝するように咆哮を上げ黙らせて、辺りは元の厳かな境内へと戻った。


 神輿奉戴 通常罠
 (1):自分フィールドの「ワッショイ」モンスターが相手の効果の対象となった場
 合、または相手モンスターの攻撃対象となった場合に発動できる。
 そのモンスターへの攻撃、効果を無効にする。
 (2):自分のスタンバイフェイズに自分の墓地のレベル7以上の「ワッショイ」モ
 ンスター1体を対象に発動できる。墓地のこのカードを除外してそのモンスター
 をデッキに戻す。その後、自分の墓地からレベル1「ワッショイ」魔法使い族モ
 ンスター1体を特殊召喚できる。


 「これで効果は有効! 更に墓地の種族の数だけ、相手の上級以上のモンスター全ての攻撃力は、ターン終了まで200ダウンする! “賑やか”な催しで再び活気づけ! リバイタライズ・カーニバル……!」


 6色の球から放出された霊力が周囲に拡散されるとともに、滞留している重苦しい空気も和らいで、霧散していく。

 やがて祭りの竜は全身を豊かさを象徴するかのような黄金色に輝いて、その身から発する威光は悪しき者の力を委縮させる。


 ワッショイフェスタ・ドラゴン攻撃力2500→5500。

 スタティック・スターリング攻撃力4000→2800。


 『だ――だが、焦盛のLPはてめぇの攻撃を食らおうがまだ残る! 本来の神力が消耗したままのてめぇじゃ、焦盛を滅ぼすなど片腹痛ぇなぁ!』

 「なら試してみるか? バトル! 悪いヨリマシ……スターリングを攻撃してくれ……!」

 「……!? どうして――あの鳥に力では敵わないはず……?」


 遊陽の宣言を受け、ヨリマシは小さな手で握り拳を作ると、炎纏うムクドリに向かって行く。


 『火ぁ! 所詮敵わないとみて、自ら焼身する火ぁ……!』

 「……それはどうかな?」

 『……!?』


 ムクドリの間近まで迫った所で、すっかり濃紺の夕闇に包まれた神社の空に、一筋の光線が打ち上がる。

 やがて上空に達すると、パッ――と大輪の華が咲き、辺りは一瞬眩く照らされた。
 
 
 「モンスターが戦闘する時、墓地の《ワッショイ華景・ロッキー》を除外して効果発動。その戦闘で俺が受けるダメージを0にして、お互いに500のダメージを受ける!」


 ワッショイ華景・ロッキー
  効果モンスター
 /レベル2/炎/炎/攻撃力500。
 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
 (1):自分メインフェイズに、自分フィールドの「ワッショイ」炎属性モンスター
 1体を対象に発動できる。このカードを手札から墓地に送り、そのモンスターの
 攻撃力を500アップする。その後相手に500ダメージを与える。
 (2):モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、墓地のこのカードを除外して発動
 できる。その戦闘で自分が受ける戦闘ダメージは0となる。その後お互いに50
 0のダメージを受ける。


 『火ぁっ……!? 焦盛のLPは2900――』

 「ヨリマシの攻撃があと一手を埋めて届かせる! 宿れ! 憑神命(ツキガミノミコト)……!」


 ヨリマシの身体から立ち昇る気力が薄っすらとした竜の姿となり、ムクドリへと襲い掛かるが、逆に翼を羽ばたかせ巻き起こされた炎の旋風に押し戻されて、ヨリマシとともに消滅する。

 だが遊陽へと襲い掛かる炎は、円筒の姿をしたモンスターが発射した火薬玉の破裂とともに、飛び散る火花がその勢いを相殺して次々と華を咲かせ、飛散した火花が2人へと襲い掛かった。


 遊陽LP600→100。 ?LP2900→2400。


 『だ……断じて認められる火ぁ! 焦盛が人間如きに後れを取るなどっ……!?』

 「人々の純粋な思いは、悪意の中傷だって跳ね返すんだ! ワッショイフェスタでスターリングを攻撃!」


 遊陽の攻撃宣言とともに、祭りの竜は夕暮れの空へと飛翔した。

 炎纏うムクドリよりも高く――眼下の町を見下ろせる高さにまで到達すると、金色の鱗がより輝きを増して、開口した口元に力の波動が収束する。


 『火――火ィッ……!?』

 「“賑やか”せ! 隆盛のプロスペリティ・バースト……!」


 撃ち出した光線が炎纏いし怪鳥に直撃すると、爆発が生じてその衝撃が化け物を飲み込んでいく。


 『ぐぉああぁぁっ……!  バ火なぁぁ! この焦盛が敗れるなどぉぉ……!』


 ?LP2400→0。





 デュエルが決着を迎えると、周囲は水を打ったように静まり返り、夜空に煌々と輝く月明りが、すっかり濃紺の夕闇に包まれた境内を明るく照らしている。


 「勝った――のか?」


 既に境内からは嫌な気配が消え去っており、境内が厳かな雰囲気を取り戻したことに、遊陽は安堵の表情を浮かべた。


 ――う……うーん、はっ! マスター!


 再び現れたヨリマシは、憑依が解かれたようで元の静けさを取り戻した境内を見回すと、遊陽を見つけて笑顔のまま彼の元にやって来た。


 「お帰りヨリマシ。何とか勝ったぜ」

 ――よかった! うじがみさまもよろこんでたよ!

 「それは何よりです。――っ!」

 「遊無……!?」


 緊張の糸が切れたのか、突然脱力してその場で崩れ落ちる遊無の元に、遊陽は慌てて駆け寄ると、既の所で彼女の身体を抱きしめるように受け止めた。


 「おい! しっかりしろ! 大丈夫か……!?」

 「遊陽……さん――」


 遊陽に抱きかかえられたまま、遊無はゆっくりと目を閉じる。

 彼女の手首をそっと掴みながら、指を当てた。

 気を失っただけだと分かると遊陽は一安心しつつ、遊無の背中と膝部分を持ち上げるように支えて、横向きに抱き上げた。


 ――ゆーむちゃん、だいじょうぶなの?

 「身体はあの時――傷が癒えたみたいだが、心労がたたっていたみたいだな」


 遊陽は疲れ切った彼女を早く休ませようと、彼女を抱えたまま静まり返った境内を後にして、彼女を自宅へと連れ帰るため再び長い階段を下って行くのであった。





 「遊陽と――」

 「遊無の――」

 『二人はビナリウス!』


遊無「遊陽さん! 神社での戦い――そして私を連れ帰ってくださって、ありがとうございます」

遊陽「改めて言われると照れるぜ。しかしヨリマシの変わりよう――ワッショイフェスタが憑依した姿は普段とは大違いだったな」

遊無「あの場所を守るため、あの場にいたみんなの力により何とか退けましたね」

遊陽「ああ……あの炎を吐くカラスには参ったぜ」

遊無「序盤の“消耗垢”(スローアウェイ)――別名ゴースト・ドメインと妖怪が
元ネタの「幽鬼」と――」

遊陽「途中から使用した“ネット炎上”と静電気のムクドリがモチーフのサイバー
ス族……」

遊無「枯れた民草――ネットリテラシーの低い人々を扇動し、自らが起こした火花によって多くの人を巻き込んで他者を瞬時に“炎上”させ、中傷するムクドリですね」

遊陽「だが水と同じく、知恵や教養は貯め込み、分け与えることができる。みんながリテラシーを高めれば、悪意から発した炎もすぐに“消火”できるって事だな」

遊無「それが遊陽さんの理想ということですね。さて、お楽しみはこの先だ! ということで、次回は読者様的には待ち遠しいデュエルシーンはありません」

遊陽「だがあの後、俺の家に運ばれた遊無のその後に焦点を当てた短編を、もっと世界観や人物描写を掘り下げるために挿入するぜ」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -幕間 亡国の斜狐- お楽しみに!』
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コングの施し
2話拝見させていただきました!
わかりやすい状況描写と各カードやテーマの作りこみに感服です…!オリカのデュエルでここまで細かく設定できるとは!気になる伏線もありましたし、次回も楽しみにしています! (2022-11-12 18:50)
ジェム貯めナイト
コングの施しさん。感想ありがとうございます!

デュエル描写は劇場版DSOD(ダークサイド・オブ・ディメンションズ)にかなり影響されており、言い回しやカード効果の説明の省略等、見る人の読みやすさを意識して執筆しました。

“賑やか”が口癖の主人公遊陽が手に入れた祭りの竜は、より多くの属性や種族といった仲間の力で強くなるところがザ☆主人公な効果で気に入っています。

改めて読み返すと、LP100や攻撃力2500、3000等、お約束もキッチリ入った名デュエルだと自負しています。次回以降も期待を超えるくらいの勢いで頑張ります! (2022-11-12 21:24)

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