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HOME > 遊戯王SS一覧 > 28Turn 羅漢の竜王

28Turn 羅漢の竜王 作:ジェム貯めナイト

 現とマノンがレクリエーション活動によって、クラスの生徒達と交流を深めている頃、遊陽達のクラスに入った日吾も、クラス中から“賑やか”なる歓迎を受けていた。


 「日吾君が選んだのは――5と6だね」

 「そんじゃクラス担当のあたしが《第六感》ゲームを始めちゃいまーす! 何が出るかなっ――何が出るかなーっ!」


 すっかりクラスの生徒と馴染んだ日吾は、黒板の出目に丸を付けたところで、クラスを受け持つ帷先生が巨大なサイコロを転がすと、床を転がるサイコロはやがて4の目を上にして止まった。


 「ありゃりゃ。早速外れたね」

 「……なあ日吾、こういう時って精霊の力で予知できるのか?」


 遊陽がサイコロを拾い上げる帷先生を眺めつつ、小声で日吾へと問いかけるが、日吾は遊陽に顔を向けると首を横に振り、彼の問いに答えた。


 「探知の精霊の力で当てられなくもないけど、折角だから力に頼らず当ててみたかっただけだよ」

 「じゃあ4の目は――日吾君のご家族の話ーっ!」


 黒板に書かれた出目に応じた話の内、4の内容に丸を付けた帷先生が日吾の元へとやって来ると、差し出されたマイクを日吾はジッと見つめて口を開いた。


 「家族ですか。僕の家族は、今は離れ離れで――」

 「離れ離れ……?」


 日吾は自らのD・フェースを取り出すと、フォルダをスワイプして教室中の生徒に見えるよう、病室でベッドから身を起こし、黒髪を2つ結びにした少女と2人で写っている写真を見せる。


 「……僕には病気の妹がいる。父さんは常盤家と入院中の一嘉(いちか)を養うため、出張を繰り返していて、母さんも働きながら一嘉に付き添って――」


 顔を俯かせ、淡々と語る日吾の姿に、先程まで“賑やか”だったクラス中がシン――。と静まり返り、思わぬ反応に帷先生は再びサイコロへと持ち替えた。


 「日吾……」

 「そうなんだーっ! 大変だろうけどあたし達はこれからも日吾君の味方だからねー! それじゃもう1回――」


 帷先生が再びサイコロを振るも、喋りかけの話を遮られたことに不服そうな表情をする日吾へと、遊陽はおずおずと続きの話を問いかける。


 「気にすることじゃないのに……」

 「それで……妹さんは――」

 「妹は……一嘉は支部の人達が寄付を募ってくれたおかげで、無事治療を終えて夏休みには退院できる見込みだよ」


 続きの話を聞かされてホッとした遊陽とともに、出目が6を指し示すと、待ってました。とばかりに拍手が沸き起こり、同時に複数の生徒から手が上がる。


 「6は――そんな事よりデュエルしようぜ。という訳で日吾君、あいつらの中で戦いたい相手は――」

 「僕は……一斗君と戦ってみたい」

 「おっしゃ! 遊陽と遊無ちゃんに負けてから、もう一度デッキを見直したんだ。悪いが勝たせてもらうぜ――日吾!」


 一嘉との写真をスワイプし、D・フェースを変形させた日吾の前にカズがやって来ると、2人は教室の中央へと移動し、5枚の手札を引くとともにD・フェースを構える。


 「俺を選んでくれてありがとな。日吾」

 「久々に本気で行かせてもらうよ? 一斗君――」


 『デュエル――』


 カズLP4000。 日吾LP4000。


 「俺から行くぜ! まずは《複翅水蝎(ドラゴニュンヘ)ハルピンナ》を召喚だ!」


 手札のモンスターを見せつけたカズが早速D・フェースの液晶盤へとそのモンスターを置くと、教室に1匹のヤゴが水飛沫を立てて現れた。


 ハルピンナ攻撃力200。


 「そしてハルピンナの効果! デッキから《複翅キソルティフィッシュ》を墓地に送ることで、エンドフェイズまでハルピンナはソルティフィッシュ扱いとなるぜ!」

 「カード名の変更――いや、墓地に送った“複翅キ”の蘇生が本命か……」
 

 カズの場に現れたヤゴが羽化し、布張りの翼の機体へと生まれ変わるのを見て日吾は思考を巡らせるが、すぐさまカズが発動したカードによりその予想は覆る。


 「正解――と見せかけて、こっちが本命だ! 速攻魔法複翅キ転換(ドラゴニック・コンバージョン)の発動によって“複翅キ”扱いとなったハルピンナをデッキに戻し、こいつを特殊召喚だ! 秋津と猩々交わり現れろ! 《複翅キウォッカー・バロン》……!」


 旋回する羽化したてのトンボが消滅するとともに、新たに赤く塗られた機体の秋津が飛び立つと、機首から鈍く光る銃口を日吾に向け、狙いを定めた。


 ウォッカー・バロン攻撃力2600。


 「来た! 一斗の切り札……!」

 「カードを2枚伏せターン終了。布陣は完璧! さあ来い日吾……!」


 1ターン目からの切り札の召喚に、留音や生徒達が沸き立つ中、日吾は引いたカードを掲げるとともに、そのカードをD・フェースの液晶盤に置く。


 「なら見せて上げよう! これが僕の“羅漢の竜王”達――《梵定竜王(サマーディナーガ)ナンダ》を召喚……!」


 召喚とともに、発動されたカードから1匹のコブラが現れると、その場でとぐろを巻き教室の天井近くを旋回する赤き秋津を見上げる。


 梵定竜王(サマーディナーガ)ナンダ
 効果モンスター
 /光/レベル1/幻竜/攻撃力400。
 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
 (1):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、戦闘を行った
 ダメージステップ終了時に除外される。
 (2):自分フィールドのこのカードが除外された場合に発動できる。
 デッキからレベル6以下の「梵定竜王」モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは次の相手ターン終了時に除外され
 る。


 「日吾君は……幻竜族の使い手なのね」


 召喚されたコブラを見て、留音は同じく幻竜族の“祭りの竜”を操る遊陽へと歩み寄り呟くと、遊陽は頷くとともに留音と現れたコブラを眺める。


 「俺の“ワッショイフェスタ”と同じく――珍しいカードのようだ」

 「水の一滴を目視し、辿り着く“定の境地”――その世界に住まう竜達こそ“梵定竜王”……! そして定の境地に至る霊山――フィールド魔法《修験の霊鷲山》を開闢する!」


 日吾が発動したカードによって、教室は本来の広さを忘れ、どこまでも続く雲海を見下ろす――僅かに草が生えているだけの殺風景な山頂へと様変わりしていく。


 「バトル! 僕はナンダで君のモンスターに攻撃……!」

 「馬鹿な……!?」

 「攻撃力は一斗のモンスターが上なのに……!」


 遊陽達が無謀な攻撃だと戸惑う中、巻いたとぐろをバネのように弾ませ、宙に飛び上がったコブラは急降下する赤き秋津が撃ち出す銃弾に貫かれる。


 「僕の下級“梵定竜王”達は、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない!」

 「だがダメージは受けてもらうぜ……!」


 日吾LP4000→1800。


 「……そしてダメージステップ終了後、ナンダは除外される」

 「えっ――それってただ、LPを減らしただけじゃ……?」

 「いや、あのカードをよく見るんだ。塰里――」


 いち早く日吾の目論見に気付いた遊陽が場を指差すと、撃ち抜かれたコブラが消滅する間際に日吾へと光を降り注がせ、攻撃により削られた日吾のLPは見る見るうちに回復していく。


 「“梵定竜王”の戦闘で僕がダメージを受けた時、発動されている《修験の霊鷲山》によって、その数値分僕のLPは回復する」


 修験の霊鷲山 フィールド魔法
 (1):自分フィールドの特殊召喚された「梵定竜王」モンスターの攻撃力は
 300アップする。
 (2):1ターンに1度、「梵定竜王」モンスターとの戦闘で自分がダメージ
 を受けた場合に発動できる。その数値分だけ自分のLPを回復する。


 日吾LP1800→4000。


 「そして場から除外されたナンダは、デッキからレベル6以下の“梵定竜王”を次の君のターン終了時まで呼び寄せる。現れよ――《梵定竜王(サマーディナーガ)アナヴァタプタ》……!」


 やがて目の前の空間に裂け目が生じ、その中から新たなコブラが地面にスルリと落ちると、再びとぐろを巻いて頭を高く掲げ、カズを威嚇する。


 梵定竜王(サマーディナーガ)アナヴァタプタ
 効果モンスター
 /光/レベル6/幻竜/攻撃力2400。
 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
 (1):このカードの攻撃力・守備力は、除外状態の自分の「梵定竜王」モン
 スターの数×100アップする。
 (2):除外状態の自分の「梵定竜王」モンスター1体を対象に発動できる。
 そのモンスターをデッキに戻し、デッキからそのモンスターとはカード名
 が異なるレベル4以下の「梵定竜王」モンスター1体を特殊召喚する。


 「特殊召喚されたアナヴァタプタは自身の効果により、除外状態の“梵定竜王”1体に付き攻守を100アップし、更に《修験の霊鷲山》によって300アップする」


 アナヴァタプタ攻撃力2400→2500→2800。


 『攻撃力が逆転した……!?』

 「行け――アナヴァタプタでウォッカー・バロンを攻撃! サマーディ・サマーヒタ……!」


 再び身体をバネのように弾ませ、上空の赤き秋津へと飛び掛かったコブラが降りかかる銃弾をかわしつつ、機体に巻き付き締め上げることで墜落させる。


 「くっ……」 カズLP4000→3800。


 「だがウォッカー・バロンが破壊され墓地に送られたことで、罠カード《複翅キ救助(ドラゴニック・シーレスキュー)》を発動だ! ウォッカー・バロンを守備表示で蘇生し、その攻撃力分LPを回復するぜ……!」


 墜落し大破した赤き秋津から巻き付いたコブラが離れるとともに、1匹のヤゴが現れその残骸を喰らっていくと、やがて背中の部分に亀裂が生じ、赤き秋津の複葉機へと羽化して再び空へと離陸した。


 カズLP3800→6400。


 「成程ね――バトルは終了。僕は除外状態のナンダを対象に、アナヴァタプタの効果発動! 転輪因果……!」


 日吾が手のひらをコブラに向けるとともに、背中に亀裂を走らせたコブラが脱皮し、その抜け殻に光の粒子が吸い込まれると、生を得た抜け殻は新たなコブラとなって生まれ変わった。


 「上級“梵定竜王”は、除外状態の“梵定竜王”をデッキという名の輪廻へと送
り返すことで効果を発動する。アナヴァタプタの効果によりナンダは転生し《梵定竜王(サマーディナーガ)ウパナンダ》へと生まれ変わったのさ」


 梵定竜王(サマーディナーガ)ウパナンダ
 効果モンスター
 /光/レベル2/幻竜/攻撃力800。
 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
 (1):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、戦闘を行った
 ダメージステップ終了時に除外される。
 (2):自分フィールドのこのカードが除外された場合に発動できる。デッキ
 からカードを1枚ドローする。


 ウパナンダ攻撃力800→1100。


 「幻竜族の除外を基幹とした戦術――」

 「それが日吾のデッキ――“梵定竜王”ということか」


 遊陽と留音が納得して頷くと、日吾はカードを2枚伏せてターンを終えた。


 「俺のターン! ……今の手札じゃ物足りねぇ。手札の《複翅水蝎(ドラゴニュンヘ)カスタリア》を捕食して、罠カード《複翅キ補給(ドラゴニック・リフューアリング)》を発動! カードを2枚ドローするぜ」


 場に現れたヤゴが砕け散るとともに、引いた2枚のカードを確認したカズの表情が晴れやかに変わるのを視認し、日吾は表情を引き締め身構える。



 複翅キ補給(ドラゴニック・リフューアリング) 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分の手札・フィールドの水属性・昆虫族モンスター1体を選んで破
 壊し、デッキからカードを2枚ドローする。


 「……どうやら、いいカードを引けたみたいだ」

 「俺は百面相が上手いんでな! 破壊されたカスタリアの効果で、デッキの上5枚をめくり――ドロセアとメンテーを加えるぜ!」


 発動した罠と合わせ、4枚ものカードを引き込んだカズは、すぐさま赤き秋津を攻撃体制へと移行させる。

 そして1枚の魔法カードを発動させると、赤き秋津は急上昇するとともに気流を発生させていく。


 「手札のメンテーを捕食して、魔法カード《複翅キ旋回(ドラゴニック・ブレイク)》を発動だ! 巻き起こす風がウォッカー・バロンよりレベルの低いアナヴァタプタを手札に吹き飛ばすぜ……!」


 渦巻く気流が赤き秋津を中心とした暴風へと変化し、機体を旋回させた赤き秋津は頚部を広げ威嚇するコブラへと急接近し追い抜くとともに、巻き上げられたコブラはカードに戻って日吾の手札に加わった。


 「更に破壊されたメンテーの効果で、墓地から“複翅キ”を離陸させる! さあ飛び立て! 《複翅キソルティフィッシュ》……!」


 ハルピンナの効果で墓地に送られていた布張りの翼持つ秋津が現れると同時に、機体下部へと魚雷を吊り下げ、急上昇すると赤き秋津と並んで飛行する。


 ソルティフィッシュ攻撃力2500。


 「バトル! 受けたダメージを無かったことにする霊鷲山の効果は、1ターンに1度きりだけ! 俺の切り札達が交互に襲い掛かればダメージは通るぜ!」

 「……引くことを知らぬ蜻蛉は、あくまで攻めの姿勢を取るか」

 「行けソルティフィッシュ! ウパナンダを攻撃――アップセッティング・トルピード……!」


 先行して速度を上げ、突っ込む布張りの翼の秋津が機体下部の魚雷を投射するとともに、十分に炸薬を詰め込んだ大物喰らいの魚雷がコブラに到達して爆発が巻き起こる。


 「ぐっ――霊鷲山の効果……!」 日吾LP4000→2600→4000。


 「そしてウパナンダは除外されるが、場から除外したためカードを1枚引かせてもらう」

 「だがこれで日吾のモンスターは消え去った! ウォッカー・バロンの直接攻撃――ロートバッフェ・ビッグバイト……!」


 続けて急接近してきた赤き秋津が、日吾へと機首からの銃弾を浴びせるとともに、銃口を引っ込め鋭い大顎で日吾へと噛み付いた。


 「ぐああぁぁっ……!」 日吾LP4000→1400。


 「日吾……!」


 ダメージを与えるとともに、半透明となって日吾を通過した赤き秋津が上昇する中、日吾は吹き飛ばされて地上まで数千メートルの深さがある崖際で止まると、噛み付かれた腹部を両手で押さえる。


 「大丈夫か――日吾……!?」

 「……デュエリストである以上、このぐらいよくあることだよ。一斗君」


 再び立ち上がった日吾は、D・フェースを構え直すことで健在な姿をカズや他の生徒達に見せつつ、指を動かし伏せていたカードを発動させる。


 「君が連続攻撃で打破して来ることは想定済み――罠カード《梵定竜王捨(サマーディナーガ・ウペークシャー)》により、受けたダメージ以下の攻撃力を持つ“梵定竜王”1体をデッキから除外する――」


 デッキが自動でシャッフルし、選択したカードがデッキトップに移動するとともに日吾が引いたカードを掲げると、再び空間の裂け目から除外したばかりのコブラが這い出てきた。


 梵定竜王捨(サマーディナーガ・ウペークシャー) 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる。受けたダメ
 ージの数値以下の攻撃力を持つ「梵定竜王」モンスター1体をデッキから
 除外する。
 その後この効果で除外したモンスターよりレベルの低い除外状態の「梵定
 竜王」モンスター1体を特殊召喚できる。


 「僕は《梵定竜王(サマーディナーガ)タクシャカ》を除外し、除外されたばかりのウパナンダを再び場に導く……!」


 梵定竜王(サマーディナーガ)タクシャカ
 効果モンスター
 /光/レベル5/幻竜/攻撃力2000。
 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
 (1):このカードの攻撃力・守備力は、除外状態の自分の「梵定竜王」モン
 スターの数×100アップする。
 (2):除外状態の自分の「梵定竜王」モンスター1体を対象に発動できる。
 そのモンスターをデッキに戻し、相手フィールドの魔法、罠カード1枚を
 選んで破壊する。


 ウパナンダ攻撃力800→1100。


 「カードを1枚伏せてターン終了だ。カスタリアの効果で手札に加えたドロセアは、手札から捨てることで俺が受ける戦闘ダメージを0にする。迎撃体制に移行した“複翅キ”を捉えられるならやってみろ!」


 1枚のカードが裏側で伏せられるとともに、カズの真横を2機の秋津を模した機体が通り過ぎ、急上昇するのを視界に捉えつつ、日吾は息を整えるとデッキに手を掛けた。


 「……どうやら、出し惜しみする余裕はなさそうだ」

 「カズの場には2体の最上級“複翅キ”――どう来る日吾……」


 遊陽も彼の動向に目を見張る中、カードを引いた日吾はそのカードをカズに見せるとともに、先程手札に戻したコブラが一瞬現れ、日吾へと光の粒子を降り注がせつつ消滅する。


 「僕は手札に戻ったアナヴァタプタを除外して、魔法カード《梵定竜王施(サマーディナーガ・ダーナ)》を発動。その効果でカードを2枚ドローする!」


 梵定竜王施(サマーディナーガ・ダーナ) 通常魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):手札の「梵定竜王」モンスター1体を除外して発動できる。
 自分のデッキからカードを2枚ドローする。


 「ドロー! ……一斗君に――そして遊陽君にも見せてあげよう――」


 引いたカードのうち1枚を日吾が発動させるとともに、再びデッキから選ばれたカードがD・フェース内の領域に移動し、もう1枚の発動したカードによって場のコブラは光の粒子となり、消滅していく。


 「僕は魔法カード《梵定竜王伝承(サマーディナーガ・アーガマ)》によって、デッキから“梵定竜王”を手札に加える代わりに除外し、もう1枚の速攻魔法――《梵定竜王観(サマーディナーガ・ヴィパッサナー)》をウパナンダに対して発動する……!」


 梵定竜王伝承(サマーディナーガ・アーガマ) 通常魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):デッキから「梵定竜王」モンスター1体を手札に加える。
 自分フィールドに「梵定竜王」モンスターが存在する場合、手札に加える
 代わりに除外することもできる。


 梵定竜王観(サマーディナーガ・ヴィパッサナー) 速攻魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分フィールドの「梵定竜王」モンスター1体を対象に発動できる。
 そのモンスターを除外し、除外状態の「梵定竜王」モンスター1体を選ん
 で特殊召喚する。


 「よって対象のウパナンダを除外することで、除外した僕の“切り札”を顕現させる……! 櫛風沐雨より世尊を守護せよ! 定の境地に住まう竜王――《梵定竜王(サマーディナーガ)ムチャリンダ》……!」


 日吾が手に取った“精霊宿りしカード”を液晶盤に置くとともに、丸太ほどの太さをした白い胴体を幾つもの腕釧で飾り立て、広げた頸部の鱗には蓮の花の意匠をした白いコブラが現れると、金色の瞳でカズを見下ろす。


 ムチャリンダ攻撃力3000→3300。


 「これが日吾君の――」

 「精霊のカード……ムチャリンダ――」


 とぐろを巻き、鎌首を上げて威嚇するコブラに遊陽達が思わず後ずさりする中、対峙するカズは逆に一歩足を踏み出し、腕を広げて日吾へと言い放つ。


 「俺は退かねぇ――自慢の切り札の力、ぶつけて来い! 日吾……!」

 「そう来なくては……! ウパナンダが除外されたことで1枚ドロー。更に新たな竜王――《梵定竜王(サマーディナーガ)ヴァスキ》を召喚」


 手札のカードをカズに見せ、再び液晶盤に置くことで新たに1匹のコブラが現れ、地を這いつつ白いコブラの真横で鎌首を上げて並び立つ。


 梵定竜王(サマーディナーガ)ヴァスキ
 効果モンスター
 /光/レベル4/幻竜/攻撃力1600。
 このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
 (1):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、戦闘を行った
 ダメージステップ終了時に除外される。
 (2):自分フィールドのこのカードが除外された場合に発動できる。
 デッキから「梵定竜王」モンスター1体を除外する。


 「そして僕は、ムチャリンダの効果発動――定の境地より異類中行せよ! 四門出遊……!」


 日吾が効果の発動を叫ぶと同時に、空間に生じた亀裂から光が放出され、光の中から1匹のコブラがスルリと抜け落ちると、手札から呼び出したばかりのコブラは半透明の幻となって場から消滅する。


 「この効果により、除外状態のタクシャカを特殊召喚し、ヴァスキを除外した」

 「モンスターを入れ替える効果か――」

 「そして除外されたヴァスキの効果で、デッキから攻撃力3000の《梵定竜王(サマーディナーガ)ウパラガ》を除外し、タクシャカの効果によってウパナンダをデッキに戻す事で効果発動……!」


 一瞬だけ現れたコブラが即座に消滅するとともに、場のコブラが発した光弾がカズの足元に着弾すると、蓮華を中心とした丸状の図柄を描いていく。


 「この効果により、君の伏せカード1枚を破壊させてもらう……!」

 「ちっ――だったら俺は伏せていた罠カード《複翅キ機織(ドラゴニック・ウィーブ)》を発動だ! ソルティフィッシュと手札の《複翅キ(ドラゴニック)マッキアカネ》のポジションを入れ替え、守備表示でマッキアカネを迎撃させるぜ……!」


 完全に展開した曼荼羅が発する光により、飛び交う2機の秋津は失速し、少しずつ地表へと近づいていく。

 だが並列して飛行するもう1機の茜色をした秋津が現れると、布張りの翼を持つ秋津が円の外に離脱するとともに、赤き秋津とともに8の字を描いて再び描かれた曼陀羅の上空を飛行する。


 複翅キ機織(ドラゴニック・ウィーブ) 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分フィールドの「複翅キ」モンスター1体を手札に戻して発動でき
 る。戻したモンスターとはカード名が異なる「複翅キ」モンスター1体を
 手札から特殊召喚する。


 「伏せカードの除去――日吾はこのターンで決める気か……?」

 「バトル――行けムチャリンダ! ウォッカー・バロンを攻撃する――」


 日吾の宣言に反応した白いコブラは、頸部を広げたまま身を起こすと、顔を中心として光の線が宙へと迸り、巨大な曼荼羅を描いていく。


 「ムチャリンダは攻撃宣言時、除外状態の“梵定竜王”を3体までデッキに戻す事で、このターンその攻撃力の合計を得る。ヴァスキ、ウパラガ、アナヴァタプタの攻撃力の合計は7000――」


 梵定竜王(サマーディナーガ)ムチャリンダ
 効果モンスター
 /光/レベル8/幻竜/攻撃力3000。
 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 (1):除外状態の「梵定竜王」モンスター1体を対象に発動できる。
 そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。その後自分フィールド
 の「梵定竜王」モンスター1体を選んで除外する。
 (2):このカードの攻撃宣言時、除外状態の「梵定竜王」モンスターを3体
 まで対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、このカード
 の攻撃力をターン終了時まで戻したモンスターの攻撃力の合計分アップす
 る。


 ムチャリンダ攻撃力3300→10300。


 『攻撃力――10300……!?』


 赤い秋津は雲海の雲間に隠れつつ、白いコブラから距離を取るも、開いた曼荼羅が更なる曼荼羅を開いていき、やがて光の線で描かれた巨大な曼荼羅が浮かび上がる。


 「俺は手札のドロセアを捨てて、この戦闘で俺が受けるダメージを0にするぜ……!」


 カズがD・フェースの墓地にカードを挿入させると、1匹のヤゴが出現し尻から水を噴出させて雲海に飛び込むと、赤き秋津の後方を護衛するかのように飛行する。


 「これでいくら攻撃力が高くても、カズがダメージを受けることは無い」

 「……カウンター罠は、ダメージステップ中でも発動できる。タクシャカを除外して発動した《梵定竜王解脱(サマーディナーガ・モークシャ)》によって、その発動は無効となる――」


 発動したカウンターから放たれた光線が雲間に隠れるヤゴを撃ち抜き、地上へと堕とすとともに、白いコブラが背負う全ての曼荼羅から光の光線が放たれた。


 梵定竜王解脱(サマーディナーガ・モークシャ) カウンター罠
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分フィールドにレベル8以上の「梵定竜王」モンスターが存在し、
 モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した場合、自分フィールドの
 「梵定竜王」モンスター1体を除外して発動できる。その発動を無効にし
 破壊する。


 「マ――マジか……」

 「行けムチャリンダ! サマーディ・チッタイカーグラター……!」


 一面に広がる雲海を吹き飛ばし、到達した光線に焼かれて赤き秋津が空中で爆散するとともに、腕に付けたD・フェースのLP表示が0を指し示すことで、カズがその場で膝をつき自らの敗北を悟った。


 カズLP6400→0。


 「一斗が――日吾君、なんて強さ……」


 立体映像が徐々に消えていき、雲海に佇む山頂が元の教室の風景を取り戻すと、額に浮かんだ汗を拭いながら日吾はカズの下へと歩み寄り、右手を差し出して健闘を称える。


 「いやー、強いな日吾。あんな馬鹿デカい攻撃力受けきれねぇよ」

 「ありがとう一斗君。君だってまだまだ伸びるさ。僕に追いつくほどに――」


 差し出された手を握り返したカズと日吾が拍手で迎えられる中、遊陽の元にジュースを手にした日吾が戻って来ると、壁にもたれつつグラスを傾けて喉を潤す。


 「見事だった。あれが精霊のカードの力――」

 「君の精霊だって、ムチャリンダから強力な力を秘めていると伝えられた――」


 空になったグラスを掲げ、片目をつむり鏡面越しに遊陽を覗き見る日吾へと、それは――。とあの時もう一人の遊無が呟いた言葉を思い出しつつ、遊陽は日吾へと伝える。


 「俺の精霊……ヨリマシは、元は“遊壱”という人間だった――らしい」

 「“らしい”……?」

 「もう一人の遊無――日吾の遠い親戚が言ったんだ。遊壱は生前の友だって――」


 常盤に関わるもう一人の遊無――彼女の名を聞いた日吾は顎に手を当て考え込むと、意を決して遊陽へと提案する。


 「……1度尋ねてみるかい?」

 「どうやって……?」

 「僕の精霊の力で、直接もう一人の遊無さんに尋ねる。僕の力ならそれができる」


 日吾の提案に、遊陽は大きく頷いて約束を交わすと、長く続いたレクリエーションも終わりが訪れた。

 慌ただしく片付けに追われる中、遊陽は日吾と別れ、任された洗い物を手に水道へと向かう中、1人決意する。

 もう一度彼女と会って、聞きそびれた話をしよう。と――。





 「僕、日吾と――」

 「俺、カズが送る――」


 『ビナリウス回顧録!』


カズ「今回は、俺とのデュエルで日吾が使用した“定の境地”に住まう竜達――“梵定竜王”について、早速解説してもらうぜ!」

日吾「僕の“梵定竜王”は、透き通る程清らかな世界に住まう竜達で、除外を基幹としてその効果を発揮するんだ」

カズ「下級“梵定竜王”達はフィールドから除外されることで効果を発動する――千夜ちゃんの“アル=ナジュム”と似た効果だけど――」

日吾「彼女のデッキはモンスターを一定期間だけ場に呼び出したり、除外したりがコンセプトだけど、僕の“梵定竜王”達は除外したモンスターをデッキに戻す事で効果が発揮される」

カズ「除外はあくまで、デッキに戻すためのコストを調達する手段なんだな。そして切り札の“梵定竜王ムチャリンダ”は、3体まで除外状態の“梵定竜王”をデッキに戻す事で、その攻撃力の合計をそのターン得ることができる」

日吾「発動すれば今回のように、一瞬で逆転できる強力な効果だ。そして次回は僕と同じく、学園へと訪れたマノンさんが浪花先輩と最後の交流デュエルを繰り広げる」

カズ「マノンはあれでも、日吾に匹敵――いや、超える程強ぇんだと。お手並み拝見とさせてもらうぜ」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -聖夜のマノン-』


カズ「聖夜と書いて(クリスノーエル)と読む。あれはまさか――特殊な召喚方のモンスター!?」

日吾「次回もお楽しみに待っていてくれ」
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47 1Turn 幽明を賑わす者 566 0 2022-11-11 -
48 2Turn 掛け声響く祭りの竜 461 2 2022-11-12 -
43 幕間 亡国の斜狐 438 0 2022-11-13 -
46 3Turn 幽“零”少女 401 0 2022-11-18 -
46 4Turn 複翅キ テイクオフ! 344 0 2022-11-19 -
39 5Turn 竜舞う花伝 266 0 2022-11-20 -
37 6Turn 還流の海人 410 0 2022-11-25 -
35 7Turn 繋がる異界 429 1 2022-11-26 -
43 幕間 遊楽の休日 368 0 2022-11-27 -
43 8Turn 境階の学び舎 382 0 2022-12-01 -
44 第一章 キャラクター紹介 371 0 2022-12-02 -
44 9Turn  開幕! 影鬼劇場! 368 0 2022-12-03 -
54 10Turn 花形役者と斜国の悪狐 423 0 2022-12-04 -
30 11Turn 陶酔へと誘う酒処 303 0 2022-12-09 -
46 12Turn 特別への自覚 338 0 2022-12-10 -
33 13Turn 波間に揺らめく波止場 336 0 2022-12-16 -
30 14Turn 命育む赤き血汐 401 0 2022-12-17 -
49 幕間 遊無 落第の瀬戸際 387 1 2022-12-24 -
39 15Turn 供養と円寂の儀 419 0 2023-01-14 -
57 16Turn 石の塔が崩れる時 295 0 2023-01-27 -
43 17Turn 盤上のアーティスト 444 0 2023-02-12 -
38 18Turn 夜空に咲く“賑やか”なる華 391 0 2023-02-21 -
45 19Turn タッグデュエル大会 開幕! 456 0 2023-03-09 -
33 20Turn ウフトカビラ&サギラ 386 1 2023-03-15 -
42 21Turn 岡と浪花 花よりたい焼き 317 0 2023-03-21 -
47 22Turn 徹頭徹尾の覚悟 382 1 2023-03-24 -
37 23Turn ビナリウス対バウンティフル 334 0 2023-04-12 -
34 24Turn 決着と新たな予兆 325 1 2023-04-13 -
48 今までの話が丸分かり! 第一章のあらすじ 385 0 2023-04-14 -
35 25Turn 異国からの訪問者 306 0 2023-05-26 -
25 26Turn 天上の採火 194 0 2023-06-02 -
34 幕間 3人の交流生 292 0 2023-06-04 -
62 27Turn 魘夢の魔族 284 0 2023-06-10 -
33 28Turn 羅漢の竜王 244 0 2023-06-21 -
31 29Turn 聖夜のマノン 299 0 2023-06-25 -
29 幕間 もう一人の遊無 256 2 2023-06-28 -
31 第二章 キャラクター紹介 276 1 2023-07-01 -
58 幕間 闘諍の予兆 324 0 2023-07-06 -
31 30Turn 狂課金(ミダース) 246 0 2023-07-10 -
56 31Turn 舞い上がる不死鳥の輪舞 352 0 2023-07-14 -
43 32Turn 巻き上げる関捩 302 1 2023-07-17 -
34 33Turn 夢に堕ちる仲間 325 0 2023-07-22 -
27 34Turn 友を取り戻せ! 253 0 2023-07-30 -
25 35Turn 堕ちた雷と涙雨の天河 280 0 2023-08-03 -
24 36Turn 伝えたい言葉 267 1 2023-08-11 -
24 37Turn 夢を喰らう獏 197 0 2023-08-26 -
22 38Turn 深淵のトモカヅキ 200 0 2023-09-03 -
74 39Turn 最遠のパズズ 282 0 2023-09-11 -
20 40Turn 所縁が結ぶ絆 192 0 2023-09-18 -
17 41Turn 活火激発の鍛人(かぬち) 202 0 2023-09-22 -
18 42Turn 巣林一枝のブルーバード 157 0 2023-09-23 -
26 今までの話が丸分かり! 第二章のあらすじ 244 1 2023-09-24 -
20 43Turn 次の関係(ステップ)へ 213 0 2023-10-20 -
24 44Turn 竜の駒 大洋を統べる 253 0 2023-10-22 -
28 45Turn マグナ ヌメンへの往訪 196 0 2023-10-26 -
25 46Turn 跳躍-精霊世界へ 196 0 2023-10-29 -
36 幕間 強化訓練と異界の住人 257 0 2023-11-02 -
25 47Turn 精霊世界 マースの森で 178 0 2023-11-05 -
25 祝一周年! 今後の展望など 212 0 2023-11-11 -
24 48Turn 精霊長アラウン 164 0 2023-11-15 -
23 第三章 キャラクター紹介 198 1 2023-11-16 -
24 49Turn 下される審判 176 0 2023-11-20 -
17 50Turn 猟犬従えし灰の王 194 0 2023-11-28 -
23 幕間 精霊世界の平生 238 0 2023-12-07 -
17 51Turn 最善の選択 158 0 2023-12-18 -
22 52Turn 立ちはだかる使者達 189 0 2023-12-28 -
18 53Turn 怨嗟積り秘号と成す 166 0 2023-12-30 -
20 54Turn 遊明の力 184 0 2024-01-02 -
22 今までの話が丸分かり! 第三章のあらすじ 194 0 2024-01-03 -

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