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HOME > 遊戯王SS一覧 > 33Turn 夢に堕ちる仲間

33Turn 夢に堕ちる仲間 作:ジェム貯めナイト

 学園の中庭では、空を覆いつくす黒雲と瞳から光が消失した多数の生徒を前に、
生徒達はお互いに顔を見合わせ、戸惑いの表情を浮かべていた。


 「光希……! それに双波さんも……!」


 同じクラスに通う2人の仲間を見つけたカズが、留音とともに2人を指差すも、
2人はカズと留音からの呼びかけに応じず、無表情のまま現を見据えている。

 2人の様子がおかしい――。とカズと留音が戸惑う中、遊陽は目の前で表情を歪
ませ、猟奇的な笑みを浮かべる現へと問い返す。


 「夢枕――お前、一体何を……?」

 「見ての通りだよぉ! てめぇもこいつらみてぇに、俺の“催眠”をかけてやろうかぁ……!?」


 腕を振り上げた現を見て、嫌な予感を察知した遊無は咄嗟に遊陽の前へと飛び出
すと、彼を守るように立ちはだかる。

 すると現の動きに合わせ、宙へと獏のような目を閉じた生物が現れると、長い鼻から紫色に着色された煙が遊無へと吹きかけられた。


 「ヒャハハァ! これで器の女は手に入れ――」


 煙が晴れていくと、そこには遊無に変わって意識を表在化させたもう一人の遊無
が、秘めた力を発現させ血色に変化させた瞳で現を睨んでいた。


 「……其処許の力――奴らの仲間だな……?」


 自らの力の影響を受けず、尚も立ちはだかる遊無の姿に、現は呆気にとられるも
再び邪悪な笑みを浮かべて舌なめずりをする。


 「面白ぇ……! その力の前じゃ、小細工は通用しねぇか――」


 再び対峙する2人だったが、その時校舎の3階から遊陽の名を呼ぶ声が中庭に響
くと、その場にいる全員が上を向くと同時に、3階の窓から1人の男子生徒が飛び
降りてきた。


 「遊陽先輩っ……!」


 右側の校舎から飛び降りた生徒――須浦 藤次(すうら とうじ)は、宙で2回転
しながら地面へと到達し、前回りに受け身を取り衝撃を和らげると、制服に付着し
た土を払い落としつつ立ち上がった。


 「どうした……!?」

 「校舎の中では、誰かによって操られている生徒が、まるでゾンビみたいにデュ
エルを仕掛けにきています」


 飛び降りてきた窓を指差した須浦は、1人取り残された浪花と、彼へと迫る感情
の抜け落ちた表情を浮かべた岡の2人を指差して、校内で起きている現状を伝える



 「皆……!」


 続けて遊陽達の背後で校舎へと続く扉が開かれると、中庭へと訪れた遊無のクラ
スメイトの石井 八千代(いしい やちよ)は、肩で息をしつつ中庭にいる生徒達を
見回す。


 「あっ……あぁっ……!?」

 「どうした石井!? 何があった……!?」


 目的の人物が見当たらないことでその場に座り込み、両手で顔を覆って取り乱す
八千代へと遊陽は近付き問い詰めると、八千代は涙声になりつつ、自分達の身に起
きた出来事を話しだす。


 「千夜と織姫先輩が、自分達より足が速いからと私を逃がしてくれて――」

 「千夜ぁ? それはひょっとして、こいつの事を言ってんじゃねぇのかぁ……!
?」


 現が2人の会話を遮り、上空に浮かぶ獏のような生物を見上げながら叫ぶと、現
の背後で中庭への扉が開き、2人の人物が姿を現す。


 「千――」


 顔を俯かせたまま現れた笑原千夜――そして織姫へと、八千代は駆け寄っていく
が、彼女達の元まで走り寄って伸ばそうとした手を、千夜は払いのける。


 「えっ……?」


 思いもしなかった反応に八千代が呆然と立ち尽くす中、現が2人の間に割りこみ
無理やり髪を掴んで顔を上げさせると、2人も現を取り巻く生徒達と同じく、瞳か
ら光を失い無表情のまま八千代達を睨んでいた。


 「こいつらはなぁ! 俺が催眠した奴らを開放して回ってやがったから、俺が直
々に堕としてやったんだよぉ! 魘々と続く悪夢へとなぁ……!」


 そのまま2人の髪を掴んでいる現は、織姫を後ろに突き飛ばし、千夜の足を蹴って地面へと転倒させると、起き上がろうとした彼女の頭を踏みつける。


 『っ……!?』

 「俺に勝とうと威勢よく挑んできやがったがよぉ! 寝言は寝て言いやがれっ!
 “本気”の俺の前じゃ、2人がかりでも及ばなかったんだからなぁ!」


 千夜の頭を踏みつけながら地面へとめり込ませる現に、表情を歪めて現からの暴
力に耐える彼女の名を叫びながら、八千代は涙を流す。

 そんな八千代の隣を須浦は黙り込んだまま、千夜を見下したまま彼女をあざ笑う
かのように言葉を投げかける現へと、少しずつ歩み寄っていく。


 「おらっ! 何か言ってみろよ! 俺に生意気な態度を取ってごめんなさいと―
―」

 「……おい――」


 完全に千夜へと意識を向けていた現は、いつの間にか目の前に現れた須浦に気付
くも、目の前に飛び込んできた拳への反応が遅れ、頬を殴られて転がりながら数メ
ートル先の地面へと倒れ伏した。


 『っ――でめ゛え゛ぇ゛っ゛……!?』

 「笑原――痛かったか? ……そうだろうな」


 現を殴り飛ばした須浦はすぐさまハンカチを取り出し、千夜を起き上がらせて彼
女の顔や制服に着いた土汚れを拭うと、最後にハンカチを折り返し、光を失った彼
女の瞳から流れた涙を拭き取った。

 そして千夜を抱きしめて優しく頭を撫でると、現へと怒りの表情を向けて振り返
った須浦は、普段の彼からは想像もつかない――心の底からの怒りの声が現へと発
せられた。


 『笑原を――よくも傷つけたな! 夢枕ぁぁっ……!』


 須浦の叫びに、今まで微動だにしなかった獏に似た生物も微かに震えを見せる中
、腫れた頬を押さえながら再び起き上がった現は須浦を睨みつつ、彼を指差し叫び
返した。


 『てめぇっ……! 俺を殴ろうなんざ許せねぇ! 次はてめぇをぶっ潰してやる
っ……!』

 「望むところだ……!」


 激しく睨み合う2人だったが、現から伝わる力を探知した日吾は、咄嗟に2人の
間に割り込んだ。


 「止めろ須浦君……!」

 「先輩――笑原を傷付けたこいつを、僕は許さない……!」

 「……君じゃ無理だ。彼から伝わる力は、常人では太刀打ちできない!」


 怒れる須浦を思いとどまらせるよう日吾は説得しつつ、自らのD・フェースを起
動させて現へと向き合った。


 『風ぅーっ! 見事な吹っ飛びっぷり!』 


 その時だった。中庭から右側の校舎の屋上で、背中から薄い虫の翅を生やし、巨
大な複眼を持つイナゴの頭をした人型の化け物が、現を見下ろしてせせら笑った。


 「何だ――あいつは……!?」

 『親でもない奴に殴られたのかい? イケてないねぇ? 現ちゃん……?』


 突然現れたイナゴの頭をした化け物を見て、何人もの生徒が足を竦ませしゃがみ
こむ中、背中の翅を羽ばたかせて化け物は中庭へと降りて来る。

 そして巨大な複眼で生徒達を見回し、遊陽と日吾、そして遊無を視界に捉えると
、カサカサと大顎を動かして笑うそぶりを見せる。


 「おやおやぁ? 3人も尋常じゃない力の持ち主が――どうするよぉ、トモカヅ
キちゃん……?」


 再び地面から離れ、屋上まで舞い上がったイナゴの頭をした化け物は、頭の付け
根から髪のように触手を生やし、のっぺらぼうの顔に大きく裂けた口を持つ――屋上から眼下を眺めていた黒いドレスを纏った女性型の化け物へと問いかける。


 『どうもこうもありませんわ。全ての敵対する者は“水から”らが排除いたしま
してよ? パズズ――』


 イナゴの頭をした怪物――パズズへと、トモカヅキと呼ばれたイソギンチャクに
似た頭の怪物は答えると、パズズはあ、そう――。と間の抜けた声を発しつつ、屋
上から急降下するとともにトモカヅキも屋上から飛び降りた。


 『なら風肖(ふしょう)はぁ――面倒そうな奴は後回しにしよっかなぁーっ!』

 『でしたら水からは――“遊明の力”の持ち主を倒して“ユーメイ様”に褒めて頂きますわ……!』


 2体がそれぞれ遊陽と遊無の身体を掴み、上空へと連れ去ると、離れていく遊陽
と遊無を日吾やカズ、留音は見上げつつ、2人の名を叫んだ。


 『遊陽(君)! 遊無ちゃん(さん)……!』

 『そんじゃ現ちゃぁーん? 残りは頼んじゃうねぇ……!』


 両腕で遊陽を掴んだまま、パズズは脇下より生やしたもう1対の両腕で離れてい
く現へと手を振ると、両手から大量のイナゴを生み出し放つとともに、校舎へと貼
り付いたイナゴがコンクリートの建物を齧っていく。


 「くっ……! サバスさんと約束したのに……! 須浦君! 君は笑原さんを―
―」


 日吾が言葉を言い終えないうちに、突如ミシミシと嫌な予感しかしない音が響き
始め、日吾達が校舎へと視線を向けると、大量のイナゴ達に外壁が食い荒らされて
いた。

 そして内側のボルトにまで到達すると、数匹のイナゴが建物を支えるボルトを噛
み砕いた瞬間、轟音を立てて3階建ての右側の校舎は一部が崩落し、カズ達の姿は
崩れた瓦礫と舞い上がった土煙に飲まれて消えていく。


 『そんな――』


 遠ざかっていく崩落した校舎を眺めつつ、遊陽ともう一人の遊無を掴んだパズズ
とトモカヅキは校庭の上空から徐々に高度を下げていき、地面に近付くと2人の体
を離した。


 『さあ、水かららによって、精霊の力宿す人間共は、光届かぬ闇に沈めて差し上
げますわ……!』


 受け身を取り、校庭へと着地した2人へと迫る2体の化け物――風と水の“秘号
(エンクレーブ)”に、遊陽ともう一人の遊無はやるしかない――。と、デュエル
の申し出を受ける決意を固める。

 そして崩落した校舎の瓦礫が散乱する中庭では、現に操られている生徒を含め、
ほとんどの生徒は校舎の中へと避難していた。


 「ゲホッ――大丈夫か留音! 日吾……!」


 立ち昇る土煙を手で払いながら、カズはしきりに辺りを見回してすぐ近くに佇ん
でいる留音を見つけるが、彼女と自身の前に立ちふさがる2人を目にして、自らも
D・フェースを構えた。


 「……日吾君は、夢枕君を追って校舎の中に――」

 「大半の奴は無事みてぇだな。そんじゃあ俺達で、光希と双波さんの目を覚まさ
せてやるか……!」


 土煙が立ち昇る人の気配がしない中庭で、カズと留音は現に催眠を掛けられた光希と歩とのデュエルを開始する。


 「……痛ってて――大丈夫っスか? 先生――」


 校舎の一部が崩落する直前、何事かと教室から顔を出した遊陽達の担任を勤める
帷 経香(かたびら きょうか)先生と、催眠された浪花の親友――岡 謙太郎(お
か けんたろう)の2人は、飛び掛かって来た浪花に突き飛ばされた。

 校舎の崩落に巻き込まれず、起き上がった経香先生と浪花は先程まで自分達がい
た場所が崩落したことに背筋を凍らせるも、再び2人へと迫る催眠された岡に気付
くと、彼を正気に戻そうと経香はD・フェースを構えて岡へと向き直る。


 「どうしたんだ岡? 今日は随分と暗いじゃないか……?」

 「……デュエルしろ。それが現様のためとなる――」

 「何だ? 下級生の言いなりってか……? お望み通りあたしがデュエルで目を
覚まさせてやるよ……!」


 お互いに5枚の手札を引いた経香と岡は、LPが表示されるとともに掛け声を上
げ、浪花が見守る中デュエルを開始した。


 『デュエル――』


 経香LP4000。 岡LP4000。


 「あたしから行くよ! 儀式魔法《葬GEARの殯》により、手札からレベル5の《
葬GEAR形象-供物埴輪》2体をリリースし、送葬の儀を執り行う!」


 経香が手札2枚を岡へと見せて墓地に送るとともに、2体の埴輪は場にそびえ立
つ斎場へと取り込まれた。

 やがて喪服を着用し、腕に数本の数珠をかけた葬儀を取り仕切る老紳士が“儀式
召喚”により、経香の場へと手配された。


 「現れて――《送葬GEAR-フューネラル・プランナー》……!」


 フューネラル・プランナー レベル7 攻撃力2500。


 「……それだけか?」

 「ありゃ、反応薄っすいねぇ……墓地の供物埴輪を対象に、フューネラル・プラ
ンナーの効果を使うよ!」


 対象と同名モンスターを墓地から呼び起こす効果によって、葬儀の手配師を降臨
させる際、墓地に送っていた供物として捧げられる埴輪の片方が、経香の場へと再
び焼き固められて現れた。


 供物埴輪攻撃力2000。


 「そしてあたしはカードを1枚伏せて、ターン終了」


 経香が最後の手札を伏せてターンを終えると、引いたカードを確認した岡は、早
速そのカードをD・フェースに挿入して発動させる。


 「……僕はフィールド魔法《髪結い床-理髪工房》を発動し、発動時の効果でデッキから《霊髪の天牛 直刃》を手札に加える」


 発動されたカードによって、辺りは壁面に等身大の丸鏡が張られ、同じ数のスタ
イリングチェアが置かれた理髪店へと様変わりする。


 「“霊髪人形”があたしによって場を離れたら、その攻撃力分のダメージを与えるフィールド魔法に、場に“霊髪人形”がいる時手札から捨てて、相手の場にいるモンスターが発動した効果を無効にする鋏だったか」

 「……そして手札の“霊髪”3種類を見せて、僕の切り札――《霊髪の人形 市松》を特殊召喚する」


 手札3枚を経香へと見せつけることで、岡が手札から引き抜いた1枚をD・フェ
ースの液晶盤に置くと、呼び鈴が鳴るとともに来店したのは、床まで伸びた髪を引
きずり座席へと座る悪魔が憑りつく人形だった。


 市松攻撃力2400。


 「更に魔法カード《髪梳き》を市松に対して発動。悪魔族――あるいはアンデッ
ト族の攻撃力を1200アップさせる」


 市松攻撃力2400→3600。


 「ここまでは、いつも通りの岡美容室――」

 「あたしのフューネラル・プランナーの攻撃力を超えてきた――」

 「バトル! 市松でフューネラル・プランナーを攻撃! 握髪砥砲……!」

 そしてバトルフェイズの開始を岡が宣言すると、魔法カードによって櫛を通され
、髪の束を5つに分けた悪魔宿りし人形が毛先を拳の形状に変えて、葬儀の手配師
へと殴りかかる。


 「墓地の《葬GEARの殯》を除外することで、あたしの“葬GEAR”儀式モンスター
の破壊を肩代わりする!」

 「……だが、ダメージは避けられない……!」


 繰り出される拳が直撃し、よろめく葬儀の手配師だったが、かろうじで踏みとど
まるとともに伸びてきた拳はその横をすり抜け、経香の肩を殴りつける。


 「痛っ……!?」 経香LP4000→2900。


 「先生!? 大丈夫っスか……?」


 殴られた左肩を右手で押さえつつ、普段の立体映像では味わったことのない苦痛
に、経香は薄っすらと目尻に涙を浮かべた。


 「……僕達のデュエルは現様の力により、発生するダメージは現実のものとなる
……!」

 「はぁ!? 何言ってんだよ岡……!?」


 リミッターが外れ、お互いにダメージを受けた際の衝撃が増す“闇のデュエル”に、浪花がデュエルを止めさせるべく岡へと掴みかかろうとする。

 しかし彼のD・フェースから発した黒い閃光が、身体に触れようとした浪花を弾
き飛ばすと、床へと倒れた浪花へと岡は言い放つ。


 「……一度始まった闇のデュエルは、決着が着くまで止められない」

 「くっそ――」

 「浪花……あたしは大丈夫だ」


 肩を押さえていた手を離し、再びD・フェースを構え直した経香を目にして、岡
は表情を変えることなく手札のカード1枚を発動させた。


 「デュエルを諦めず、更なる苦痛を味わいたいなら続けてやる! 速攻魔法《進
髪式》を、手札の“霊髪”2体と市松を墓地に送ることで発動だ!」


 手札2枚と液晶盤に置かれているモンスターを墓地へと挿入させると、デッキか
ら選ばれたカードを手に取り、岡は液晶盤へと置いて新たなモンスターを場に導く



 進髪式 速攻魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分の手札・フィールドから「霊髪」モンスター3体を墓地に送り発動で
 きる。デッキからレベル7「霊髪」モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、1度のバトルフェイズ中に3
 回攻撃できる。


 「そのカードを発動したってことは……!」

 「デッキから新たな“霊髪人形”を特殊召喚する! ……神は稚児へと宿り、悪魔は髪へと宿る――現れよ! 《霊髪の人形 御菊》……!」


 毛先を拳状に丸めた悪魔宿りし人形と、2本のカミキリムシを模した鋏が渦巻く黒い渦へと取り込まれるとともに、鋭い爪や角が生えた巨大な悪魔が現れると、そ
の姿は一気に縮んでいく。

 そして現れた黒髪の人形に悪魔は取り込まれると、人形の髪は宙へと浮き上がり
毛先をかぎ爪のように鋭く尖った形状へと変化させた。


 霊髪の人形 御菊
 効果モンスター
 /闇/レベル7/悪魔/攻撃力0。
 このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(3
 )の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):自分の墓地の「霊髪」モンスターが3体のみの場合、このカードは手札か
 ら特殊召喚できる。
 (2):このカードの攻撃力は、自分の墓地の霊髪」モンスターの種類×800ア
 ップする。
 (3):自分・相手ターン終了時にこのターン墓地に送られた「霊髪」モンスター
 を任意の数だけ対象に発動できる(同名カードは1枚まで)。
 そのモンスターを手札に加える。


 「新たな“霊髪人形”のお出ましか……」

 「御菊の攻撃力は、僕の墓地にいる“霊髪”の種類1体に付き800アップする」


 御菊攻撃力0→2400。


 「だけど先生の儀式モンスターには届かない!」

 「僕は手札に残った《霊髪の天牛 柳刃》を捨てることで、御菊にこのターンあらゆる破壊への耐性を与える。そして墓地に“霊髪”が増えたため、攻撃力はアップする……!」


 御菊攻撃力2400→3200。


 「ちっ――あたしの切り札を上回った……」

 「更に《進髪式》で呼び出した御菊は、このターン3回攻撃できる……! 御菊
で次こそフューネラル・プランナーを撃破だ!」


 人形の髪が3つの束に分かれると、髪の長さの半分までが鋭利な鎌へと変化して
、もみあげから伸びる2束の髪が、葬儀の手配師と埴輪へと向かって行く。


 「2体との戦闘ダメージの合計――1900を受けろ! 突弧鎌首……!」


 そして葬儀の手配師と埴輪の頭は両断され、発生した衝撃が経香を襲うとともに
、床へと倒れた経香は両手で首を押さえ、首を斬り付けられた感覚に苦しむ。


 「が――っ……!?」 経香LP2900→2200→1000。


 「せ――先生っ……!?」


 先程よりも激しい痛みに経香は悶えるも、続く攻撃を受ければ負ける――。と、
自らに迫る鎌状の髪を前に、何とか伏せカードを発動させる。


 「と――罠カード《葬GEAR装飾 遺影》! 供物埴輪が破壊されたことで、3体
目の供物埴輪をデッキから守備表示で特殊召喚――」


 最後の埴輪が現れるとともに経香の身代わりとなって両断され、何とか攻撃を凌
いだ経香が再び立ち上がると、岡は残念そうに自らのD・フェースへと手を伸ばす



 「遺影の効果で、岡――あんたは墓地からモンスター1体を除外しないといけな
い」

 「仕方ない――市松を除外する」


 岡が墓地の“霊髪人形”を除外するとともにターンを終えると、そのまま場の悪魔宿りし人形の効果の発動を宣言し、再びD・フェースを操作すると墓地から2体の鋏のモンスターが彼の手札へと加わった。


 御菊攻撃力3200→2400。


 「御菊はお互いのターンが終わる時に、このターン墓地へと送られた“霊髪”を1体ずつまで手札に加えられる。直刃と笹刃を手札に――」


 御菊攻撃力2400→800。


 「あの2枚はそれぞれ、場で発動したモンスターの効果を断ち切り、自分の“霊
髪”を対象とするカード効果も断ち切られる……」

 「防備は整えた。手札と場にカードが無いあんたなんて、次の僕のターンでケリ
を付けられる……!」


 未だ痛む首筋から手を離し、カードを引こうとする経香へと岡は言い放つと、経
香を庇うように突如浪花は手を広げ、岡の前へと立ち塞がる。


 「もう――止めろよこんなこと! お前っ――いつまで夢枕の言いなりになって
んだ!」

 「……あたしは平気だ――」


 デッキに掛けた手を離し、経香は浪花へと離れて見守るよう告げると、浪花は納
得できないと経香へと向き直り、言いかけた言葉を口にした。


 「だって先生! そのドローで逆転しないと……負けたらもっと苦しむことに―
―」

 「今更辞めるなんてあたしが言うかよ。あんたは自分が助かるために逃げな――



 そして経香はカードを引くと、確認したカードが望みの物だったことに薄っすら
と笑みを浮かべ、岡にそのカードをかざして宣言する。


 「あたしは進んで、全員で助かる未来を手に入れるっ! 魔法カード《葬GEAR讃
題》……!」


 発動された魔法カードにより、デッキから選び出した故人の枕元に備えられる白
飯と団子のモンスターを経香は墓地に送ると、すぐさまその2体を墓地から除外す
る。


 葬GEAR讃題 通常魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):自分の墓地の「葬GEAR」モンスターの種類の数だけ、自分のデッキから「
 葬GEAR」モンスターを選んで墓地に送る。その後この効果で墓地に送った枚数と
 同じ枚数だけ、自分の墓地の「葬GEAR」モンスターを除外する。


 「墓地から除外された枕茶碗と枕団子の効果で、あたしはデッキから“葬GEAR”
2体を墓地に送って、儀式召喚するためのカード2種類を手札に加える」


 枕茶碗、枕団子効果の墓地送り(葬GEAR-供花 葬GEAR-草鞋)


 「たった1枚のドローで、儀式モンスターと儀式魔法を手札に揃えた……!」


 浪花が感心する中、経香が発動した儀式魔法によって、霊安室のような薄暗い場
所に現れた8つの松明へと炎が灯ると、手札の儀式モンスターを液晶盤へと置く。


 「あたしは儀式魔法《葬GEARの盤状集積》によって、リリースの代わりに墓地か
らフューネラル・プランナーと《葬GEAR-草鞋》を除外する! 故人との別れを取
り仕切り、棺へと納める納棺師――《収葬GEAR-フェアウェル・エンコフィナー》
……!」


 霊安室に置かれた棺の上に浮かんだ――故人が旅立つ際に履かせる草鞋を持つ葬
儀の手配師が霊安室とともに消滅すると、4本の腕を持つ葬儀の納棺師が両手を合
わせて場に現れた。


 葬GEARの盤状集積 儀式魔法
 「葬GEAR」儀式モンスターの降臨に必要。
 (1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、自分の手札
 ・フィールドのモンスターをリリース、またはリリースの代わりに自分の墓地の
 「葬GEAR」モンスターを除外し、手札から「葬GEAR」儀式モンスター1体を儀
 式召喚する。


 収葬GEAR-フェアウェル・エンコフィナー
 儀式、効果モンスター
 /闇/レベル8/魔法使い/攻撃力2800。
 「葬GEARの殯」により降臨。
 (1):1ターンに1度、自分フィールドの「葬GEAR」モンスター1体を対象に発
 動できる。そのモンスターのレベル以上となるよう、相手はデッキからモンスタ
 ーを任意の数だけ墓地に送り、墓地に送った数と同じ枚数相手フィールドのカー
 ドを選んで除外する。
 (2):自分の「葬GEAR」モンスターの効果で相手モンスターが除外された場合に
 発動する。ターン終了時までこのカードの攻撃力を300アップし、相手に30
 0ダメージを与える。


 「先生――すげえ……!」

 「墓地から除外された草履の効果で、除外状態の枕団子をデッキに戻し、デッキ
から2枚目の《葬GEAR-供花》を墓地に送る――」


 葬GEAR-草鞋
 効果モンスター
 /闇/レベル3/魔法使い/攻撃力600。
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードが墓地から除外された場合、除外状態の「葬GEAR」モンスター
 1体を対象に発動できる。そのモンスターとはカード名が異なる「葬GEAR」モン
 スター1体をデッキから墓地に送り、そのモンスターをデッキに戻す。


 「そしてあたしは、フェアウェル・エンコフィナーの効果を使う! このカード
自身を対象とすることで、あんたはレベルが8以上となるようデッキからモンスタ
ーを墓地に送って、その数まであんたの場のカードを選んで除外できる……!」

 「だったらここで、手札から直刃を捨てて場のモンスターが発動した効果を無効
にする……!」


 場の悪魔憑りつきし人形が、カミキリムシを模した髪鋏を呼び出すとともに、翅
を広げ飛び掛かったカミキリムシが触覚をかみ合わせ鳴らすことで、発動した効果
を断ち切る。


 御菊攻撃力800→1600。


 「当然、止めざるを得ないよねぇ! だったらあたしは“葬GEAR”儀式モンスタ
ーがいることで、墓地の供花2体を除外して、あんたの墓地から直刃と柳刃を除外
する!」

 「上手い! 墓地から“霊髪”が減れば、御菊の攻撃力はダウンする……!」


 元より御菊と、墓地からモンスターを除外する“葬GEAR”の相性は最悪だと、経
香は勝ち誇って岡の墓地から除外するモンスターを宣言すると、2体が除外された
ことで悪魔宿りし人形の攻撃力は大幅に減少する。


 御菊攻撃力1600→800→0。


 「しかも! フェアウェル・エンコフィナーは“葬GEAR”モンスターの効果で相手モンスターが除外されるたびに、自身の攻撃力を300アップし、あんたに300ダメージを与えるよ……!」


 葬儀の納棺師が4本の腕を曲げて手のひら同士を合わせ、両手の間に黒い球体を
生み出すと、2つの黒い球体が放たれて岡を直撃する。


 「ちっ……」 岡LP4000→3700→3400。 フェアウェル・エンコフィナー攻撃力
2800→3100→3400。


 「まさか――現様の講義を受けた僕が負ける……!?」

 「最後まで生徒を見放さず、全力を以ってあんたの目を覚まさせることが! 教
師であるあたしの勤めだ……! フェアウェル・エンコフィナーの攻撃――」


 ようやく貼り付けた無表情を解き、焦りと悔しさを表情に出した岡へと、経香は
自らのモンスターで彼が従えるモンスターへと攻撃を宣言する。


 「正気に戻れ――岡! 仏納のストゥーパ・プージャナー……!」


 葬儀の納棺師が4本の腕で宙に長方形を描くと、悪魔宿りし人形は自らの周りを
4枚の長方形と2枚の四角形の黒い板で覆われていく。

 そして6枚が合わさり、黒い棺へと人形は取り込まれると、棺は地面へと吸い込
まれて悪魔宿りし人形が埋葬されたことにより、場から消滅する。


 「くっ――うわあぁっ……!?」 岡LP3400→0。


 「岡……!?」


 倒れた岡の元へと浪花と経香は駆け寄り、彼の顔を覗き込むと、再び目を開けた彼の様子を確認する。


 「うっ――浪花に帷先生……」

 「正気に戻ったか! お前は夢枕に操られていたんだよ」


 身を起こす岡に、先程まで先生とデュエルをしていたと浪花が知らせると、そう
か――。と岡は現に操られる直前までの出来事を思い出す。


 「……確か空き教室で、夢枕君から効率よく覚えられる勉強法を教わっていて―
―」

 「その時に催眠されたのか。あいつめ……見つけたらとっちめてやる……!」


 再び立ち上がった岡と経香の2人とともに、浪花は一旦安全な場所に避難しよう
と、崩れた校舎の一部を指差しながら提案する。

 3人は教員室に立ち寄り、異変を伝えようと足を速めるも、夢枕に催眠された生徒達も校舎へと戻り、獲物を求めてさまよい始めた。

 再び現れた催眠された生徒達を前に、3人は再びD・フェースを構え、岡や他の
生徒達を正気に戻すべく奮闘するのであった。





浪花「俺、浪花と――」

経香「あたしが教授する――」

 『ビナリウス回顧録!』


経香「さあ、今回はあたしが使用した新たな“葬GEAR”を解説するよ!」

浪花「先生のデッキって、徹底的に相手の墓地からモンスターを成仏させる戦術が
得意だったッスよね?」

経香「そう――それが“葬GEAR”だ! 新たな儀式魔法で儀式召喚されたフェアウェル・エンコフィナーは、自分フィールドの“葬GEAR”のレベル以上になるよう、相手にデッキからの墓地送りをさせる」

浪花「選ぶのは相手。一見相手に有利に働くが――」

経香「この効果で墓地に送った枚数分、相手フィールドのカードを選んで除外でき
るんだ! そして“葬GEAR”の効果でモンスターを除外した場合、どうなったか答えてみな!」

浪花「フェアウェル・エンコフィナーの攻撃力をそのターン300アップして、更
に300ダメージを相手に与える――」

経香「正解! 相手モンスターを片っ端から除外する戦術で、相手のデッキはガタ
ガタさ。そして次回は、あたしが受け持つ生徒達が転入生が掛けた催眠を解くため
、同時にデュエルを開始するぜ――」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -友を取り戻せ!-』


経香「商本に塰里……2人を元に戻してくれよ。絶対負けるんじゃねぇぞ――」
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