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HOME > 遊戯王SS一覧 > 10Turn 花形役者と斜国の悪狐

10Turn 花形役者と斜国の悪狐 作:ジェム貯めナイト

 「さあ、最終公演の幕開けだ……!」


 八千代と花形役者が仰々しい振る舞いで遊無を指差すと、彼女に寝返った妖達も遊無へと襲い掛かろうとする。


 「まずは鬼人形で遊無さんに直接攻撃……!」


 八千代の指示で、吊り人形は幕の裏に潜む操り師の糸捌きにより、両腕を振りかぶり遊無に接近すると彼女の頬を往復で叩く。


 「……っ!」 遊無LP4000→2700。


 「遊無っ……!」

 「やはり何もない――か。続けて夜雀で攻撃だ!」


 休む間もなく、黒い雀が全身に纏った闇を放出すると、遊無の元に達し彼女に纏わりつく。

 堪らず口元を押さえ遊無が咳き込むと、しばらくしてようやく闇の瘴気が晴れていった。


 遊無LP2700→1000。


 「これで終劇だ! ……この公演の締めくくりは、美しき“斜国の悪狐”によっ
て幕引きとしよう。玉藻前よ! この歌劇を締め括らせよ……!」


 八千代が両手を幕を引いて、閉じるように胸の前で合わせる動作を合図に、正気を失った眼で遊無を睨んだ玉藻前が彼女へと襲い掛かる。


 『遊無(ちゃん)……!』


 迫り来る玉藻前――だが突如として、遊無は胸の前で両手をパチパチと音を鳴らし、規則性のある手拍子を取る。


 「……鬼さんこちら、手の鳴る方へ……!」

 「……!? 一体何を……?」

 「玉藻さんと同じレベルになるよう、墓地の雲外鏡と絡新婦を除外して、墓地の《招鬼拍手》の効果発動です! 鬼を呼ぶ拍子により、玉藻さんは取り戻させていただきます……!」


  身構えた遊無へと襲い来る玉藻前に押し倒され、今にも噛みつこうとする玉藻前の顔を遊無は掴み抵抗を示すと、次第に正気を失った玉藻前の眼に再び光が宿っていった。


 ――ハッ! 貴様……何故、わらわのためにそこまで……?

 「それは……このデッキを授かった時より、私に身を預けた貴女達を責任もって扱うことが、私の責務だからです」

 ――フン……ならばこれ以上、あの娘の奇術に惑わされぬようにな――。


 先に起き上がった玉藻前が腕を組み見下ろす中、遊無は再び立ち上がると花形役者を従えた八千代へと向き直る。


 「……成程。絡新婦はあの時、影鬼興行によって舞台袖に潜ませていたということか――」

 「鬼を呼ぶ手拍子から派生して、更なる鬼を呼び寄せます! 雲外鏡が除外されたことによって、私達はお互いに除外されているモンスターを1体ずつ場に呼び寄せます。現れて、愚男を篭絡する血塗られし糸――《絡幽鬼 絡新婦》を特殊召喚……!」


 宙に浮く鏡の鏡面に浮かぶ鬼の形相をした化け物が鏡から引っ込むと、鏡の中から簪を挿したかのような2本の角と、背中から8本の蜘蛛の足を観音のように広げた麗しい女性が場に降り立った。


 絡幽鬼 絡新婦
 効果モンスター
 /レベル5/闇/アンデット/攻撃力2100。
 このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):相手フィールドの表側守備表示モンスター1体を対象に発動できる。
 ターン終了時までそのモンスターのコントロールを得る。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 (2):相手ターンのエンドフェイズに発動できる。このカードをデッキの一番下に
 戻す。その後墓地からレベル4以下の「幽鬼」モンスター2体を選んで特殊召喚
 する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。


 「では私は、影手技を再び登板させる――」


 鏡の中から境界を越えて、動物を模った影を操る燕尾服の役者も再び場に舞い戻る。


 「玉藻前が遊無の場に戻ったことで、レヴュースターの攻撃力も下がる――」


 レヴュースター攻撃力5000→4000。


 「4000もあれば十分――アンコールに応え次こそ本当の幕引きだ! レヴュースターで絡新婦を攻撃! フィナーレ・オブ・グランドステアーズ……!」


 攻撃の宣言とともに、宙に張り出された壁が段差となってせりだしてくる。

 その最上段から主演男役のスターが階段を駆け下りながら、手にした鞭を美女に化けた蜘蛛に振るおうと腕を振り上げた。


 ――これを通すわけにはいかぬぞ――。

 「心配ありません。絡新婦は1ターンに1度だけ、相手の表側守備モンスター1体のコントロールをこのターン中操ります! 《落暉蹂践》によって守勢を取った唐傘小僧も返していただきますよ? 幻糸誘縛……!」


 蜘蛛の化けた女性は背中から生えた8本の足の先から素早く同時に糸を伸ばして、瞬く間に傘の妖を絡めとると遊無の場まで連れ去った。


 レヴュースター攻撃力4000→3000。


 「魅了された私のモンスターが戻ったことでレヴュースターの攻撃力は落ち、更に絡新婦が破壊される代わりに、墓地の《映幽鬼 影女》をデッキの下に戻すことで破壊を無効にします! う……っ!」


 ヒュン――と風を切る音を立て振るわれた鞭は、女郎の蜘蛛を模した影の妖怪が身代わりとなって霧散するも、攻撃に備え身構えた遊無の腕は鞭の先端で叩かれ、出血こそしなかったものの痛々しい痣が刻まれた。


 遊無LP1000→100。


 「ま……まじかよ――」

 「石井さんの攻撃を防ぎ切ったぞ……!?」


  観戦する岡や浪花といった生徒達は、八千代の猛攻を遊無が耐えきったことに、予想もしなかった。と感嘆の声を上げた。


 「おお! やるなぁ……!」

 「石井の攻撃を――防いだ……!?」


 遊陽達も遊無の思わぬ善戦に、驚きを隠せずにいた。

 このターンで仕留めきれなかったことを八千代は残念そうにしつつも、残った手札2枚のうち1枚を場に伏せ、唐傘小僧が絡みつく糸から解かれ戻ってくるとともにターンを終えた。


 「フフ……久方ぶりだよ。ここまで粘られたのは。最近は気軽にデュエルできる相手に恵まれなかったからね」

 「喜んでもらえたようでなによりです。……このターンは凌げたものの、LPは残り僅か――ですがまだ、デッキにカードが残されている限り、私が勝つ見込みはあります!」

 「その意気だ! 次の遊無さんのターンを凌げば、今度こそ私の勝ちだ! さあ、私にどんなデュエルを見せてくれるのか――かかってくるがいい!」


 次のターンが勝敗の分かれ目となる。八千代が従える華やかな出で立ちの主演役者に対して、身体の自由を奪われ操られた屈辱を思い出し、玉藻前は八重歯を剥いて好戦的な態度を見せる。


 ――フン、わらわも好き勝手操られ、少々虫の居所が悪くてのう。こやつを打ち破れるか……貴様の腕前、見極めようぞ――。


 遊無は祈るように目を閉じ、カードを引く。

 周りの見物する生徒達も固唾をのんで見守る中、カードを確認した遊無は真一文字に結んだ口を緩めて表情を綻ばせた。


 「このターンこそが最後の山場だ! 墓地の《影鬼モギリ》を除外することで、遊無さんの守備モンスターは全て攻撃表示となり、このターン必ず攻撃しなければならない!」


 一瞬現れた入場券に鋏が入ると、玉藻前と女郎の蜘蛛は興奮気味に、八千代の場にいるモンスターを威嚇する。


 「お気遣いなくとも、このターンで決めます! 私は再び絡新婦の効果で唐傘小僧のコントロールを得たのち、絡新婦をリリース! 毒気を撒き散らし人々を貪り食う悪鬼。《蛮幽鬼 牛鬼》を“アドバンス召喚”……!」


 蛮幽鬼 牛鬼攻撃力2200。


 「そして「幽鬼」をアドバンス召喚したことで、再びいでませ! 妖を導く異界回廊……! 小豆研と轆轤首を蘇らせます……!」


 再び指先に灯した炎を空に向け放つと、炎の輪が異界との間に繋いた道から、川辺で小豆を洗う老婆と首を伸ばした花魁が場に舞い降りた。


 小豆研攻撃力500 轆轤首攻撃力1000。


 「役者が勢揃い――雌雄を決する時は近いな!」

 「小豆研が現れたことによって、私の場の「幽鬼」1体に付き200のダメージを受けて頂きます! 研磨反響!」


 老婆が軽やかな手つきで小豆を研ぎ続け、発生した思わず耳を塞ぐほどの不協和音に八千代は顔をしかめる。


 八千代LP2800→1800。


 「更に! アドバンス召喚した「幽鬼」がいることで轆轤首の効果によって、カードを1枚ドローします。……あと1枚――それさえあれば!」


 デッキの上のカードに手を置いて、遊無は勝利に導くカードを引き当てられるよう思いを込め、祈りの言葉を口にすると、カードを引いた。


 「……来た! 魔法カード《咽びの鬼哭》! 私の「幽鬼」1体に付き、全ての相手モンスターの攻守を300ダウンさせます……!」


 玉藻前を筆頭に、5体の幽鬼が搔き鳴らす叫び声によって、八千代が従える3体の団員は委縮して、戦意を喪失する。


 咽びの鬼哭 通常魔法
 (1):ターン終了時まで、相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、自分
 フィールドの「幽鬼」モンスターの種類×300ダウンする。
 (2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地の「幽鬼」モンスター1体を
 デッキの一番下に戻して発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。


 鬼人形攻撃力1300→0。影手技守備力1500→0。 夜雀攻撃力1700→200。 レヴュースター攻撃力3000→1500。


 「……やるね遊無さん。しかしその見通しは甘いと言わざるを得ない! 三度罠カード、《影鬼配役》! 手札の《影鬼団-回灯籠(フラッシュバック)》を裏側守備表示で場に呼び寄せ、更に墓地の《影鬼照明(ライティング)》を除外して効果発動……!」

 「石井もまだ、対抗手段を残していたか――」


 影鬼団-回灯籠(フラッシュバック)
 効果モンスター/リバース
 /闇/レベル3/獣戦士/攻撃力1000。
 このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 (1):このカードがリバースした場合に発動できる。
 自分フィールドの「影鬼団」モンスターを全て裏側守備表示にする。
 この効果を発動したターン、自分フィールドに元々の持ち主が相手のモンスター
 が存在する限り、相手は自分フィールドの裏側表示モンスターを攻撃対象にでき
 ない。


 「スポットの当たった回灯籠のリバース効果によって、全ての団員は一度舞台袖に身を潜め、この幕が上がっている間は飛び入りの夜雀が消えるまで現れることは無い」


 八千代がパチンと指を鳴らすと、劇場内の照明が一斉に操作され、夜雀を除く歌劇の団員達の姿を闇の中に覆い隠してしまう。


 ――《影鬼モギリ》によって、夜雀への攻撃は避けては通れぬ。あの娘……明らかに誘導しようと目論んでおるな――。

 「気になりますが、この場においては突き進むしかありません! 行きます八千代さん……!」


 バトルフェイズへの移行を宣言し、攻撃を予告する遊無に対して、八千代は表情一つ変えることなく佇んでいる。

 遊陽達も彼女を応援しようとより近くへと移動を始める中、まずは小豆を研ぐ老婆が黒翼の雀へと小豆を飛ばした。


 「まずは小豆研で夜雀を攻撃します! ……回灯籠による攻撃の誘導の目論みは、この劇場の効果を発動するため――」

 「だから君は夜雀よりレベルの低い小豆研で攻撃を仕掛けたようだが、残念――私に攻撃を仕掛けることこそが、この舞台の幕引きなのさ……!」


 八千代が場に残した最後の伏せカード――《影鬼幕引(クローズ)》が発動されると同時に、この舞台は終劇だと言わんばかりに舞台袖に潜んだ筈の劇団員達が一斉に舞台へと躍り出てきた。


 影鬼幕引(クローズ) 通常罠
 (1):元々の持ち主が相手のモンスターが相手モンスターの攻撃対象となった場合
 に発動できる。
 その攻撃を無効にし、自分フィールドの元々の持ち主が相手のモンスターの数×8
 00ダメージを相手に与える。
 (2):このカードが墓地に存在する状態で、モンスターが裏側表示になった場合に
 発動できる。墓地のこのカードを自分フィールドにセットする。
 この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。


 「皮肉にも……同胞への攻撃という悲劇でこのデュエルも閉幕と相成った。《影鬼幕引(クローズ)》により、我が歌劇団へと下ったモンスター1体に付き、800のダメージを与える!」

 「回灯籠と影鬼モギリによって仕組まれたコンボ……!?」

 「妖怪“タイ”治の結末は、敵の内乱によって滅びの道を辿ったか」


 その場にいる全員が、決着は着いた。とその場を離れようとする。

 しかしその時だった。突如集まってきた団員を散らすように、牛鬼が乱入すると猛毒の吐息を浴びた舞台の床は腐食し、8本の足で閉じられようとする幕は引き裂かれる。


 「牛鬼はバトルフェイズ中に1度だけ、発動した罠カードの効果を無効にして破壊します……! デュエルは筋書き通りになどなりません。どんでん返しも起こりうるのです!」


  頼みの綱のトラップも突破され、八千代を守る防御は全て崩れ去った。

 2人のデュエルを見る者全てが予想を外れた大番狂わせにどよめく中、夜雀は破壊され影に潜んだ団員は身を隠す術を失い、再び舞台上へと姿を現す。


 「……!?」  八千代LP1800→1500。


 「既に勝利への活路は開きました! あとは突き進むのみ……! 牛鬼で回灯籠を攻撃! この攻撃は唐傘小僧の効果で貫通します! 牛爪裂撃……!」


 ブルル……と鼻息を鳴らすと、牛鬼は伏せられた影の馬が回る灯籠を蜘蛛の足で貫き、勢いよく踏みつける。


 「シャドオペラ・シアターにより、我が「影鬼団」は戦闘では破壊されない」

 「しかしダメージは受けて貰います!」


 「くぅっ……!」 八千代LP1500→300。


 「も……もしかして、八千代ちゃんが負ける……!?」

 「なんだあの転入生……! めちゃくちゃやるじゃねーか!」


 千夜や観客が妖力で宙に浮かび上がる玉藻前を見上げると、この劇に終止符を打つべく、玉藻前は掲げた両手に鉄すら溶かすほどの猛毒を纏わせていく。


 ――わらわの逆鱗に触れた罪、その身をもって償え……!

 「これにてお終いです! レヴュースターを攻撃! 息吹け――」

 『殺生吐附子……!』


 腕を振り下ろし、玉藻前から放たれた猛毒が大口を開けた狐の顔に変化すると、花形役者と八千代を狐の顔をした猛毒が飲み込み、彼女のLPを蝕んでいく。


 「くっ……ああぁっ……!」 八千代LP300→0。


 「ゆ……遊無が、勝った――」


 LPの尽きた八千代がその場にしゃがみ込むのを見て、遊陽がポツリと呟いた。

 デュエルの結末に見入っていた周りの生徒からも、白熱した戦いに割れんばかりの拍手が巻き起こる。


 「いいぞー! よくやった……!」

 「石井さんも素敵だったわ……!」


 鳴りやまない拍手を浴びて、遊無は周りを見回すと自らに向けられる大勢の視線に挙動不審になりつつ、照れ隠しするかのように顔を俯かせる。


 「お疲れさん! 見ごたえのあるデュエルだったぜ」

 「……!? カズさん、それに遊陽さんと留音さんまで……!」


 歩み寄ってきたカズの声を聞き、遊無は顔を上げると彼とともに遊無の勝利を称える遊陽と留音にも、やりました。と言わんばかりに嬉しそうに応じた。


 「凄かったわね遊無ちゃん……私に勝っただけの事はあるわ」

 「……あの石井に勝つなんてな。おめでとう……」

 「遊陽さん……! はい! 私、勝ちました……!」


 D・フェースから取り出したデッキを懐にしまうと、遊無は満面の笑みで遊陽と留音からの賛辞に答える。


 「……フフッ」

 「八千代さん……」


 再び立ち上がった八千代を見て、遊無は彼女の元へと歩み寄った。


 「いやぁ……完敗だな。“ソリットビジョン”とは言え、君とモンスターの絆に
は、どんなに魅力的な役者も形無しだ」

 「いえ――そんなことはありません。八千代さんこそお芝居の世界に没入されて、見事に狂言回しを果たされていたではありませんか」

 「そ……それは言うな! また私――調子に乗ってしまった……!」


 デュエル中の生き生きとした姿を指摘されて、八千代は恥ずかしそうに両手で顔を覆いながら、その話題に触れないよう声を荒らげた。


 「石井、お疲れ様――」

 「遊陽先輩――」


 遊陽に気付いた八千代は再び顔を上げ、2人は一瞬視線を合わせるもそれ以上会話が続かず、互いにすぐ目を逸らし黙り込んでしまう。


 「遊陽さん……一体どうしたのですか……?」

 「いや――石井との問題は、俺の方が悪いはずだから……」

 「……? 八千代さんとの間に一体何が……?」

 「あーっ! ホントお前、今言っちゃえよ……!」


 2人の間に漂う気まずい雰囲気に耐えかねたのか、カズが2人の間に割りこむと逃げ出さないよう2人の腕をガッチリと掴む。


 「石井さんも思うところがあるんだろ? この際だからお互い言っちゃえよ! 
自分の思っていることをさ!」

 「一斗は知っているの? その……遊陽君と石井さんの関係について」


 話の雲行きが怪しくなっていき、周囲の目も2人に釘付けになっていく中、先に遊陽が口を開いた。


 「あーもうっ、分かったよ! ……石井さ、デュエル大会の時俺、今までで一番コテンパンにやられて悔しかったんだよ」

 「……っ?」

 「最後健闘を称え合う握手の時、すっげぇ不機嫌にしててゴメン!」

 「そんな……私もデュエル中、独りよがりな“支配人”モードで煽ったから気を
悪くしてしまったんじゃないかって、ずっと気に病んでいました」


 遊陽と八千代――お互いに相手への謝意を伝えたことで、カズはようやく2人の腕を離し、お互いに許し合ったことで2人の間のわだかまりは解消された。


 「よかったな遊陽! これからは石井と仲良くやれそうじゃん!」

 「お前のおかげでな。……しかし石井って、デュエルになると人が変わったようになるんだな」

 「そうそう! 八千代ちゃん寡黙でクールに見えて、結構はっちゃけたりするんだよねーっ!」

 「千夜っ……! また君は――」

 「あたしは八千代ちゃんの“支配人”モード、好きだけどなぁ……」


 八千代は普段の彼女らしくない――しおらしく俯いて頭から湯気が出そうなくらいに顔を火照らせると、ケラケラと笑う千夜の肩を掴んで前後に揺さぶる。


 「ふふっ……千夜さんに八千代さん――お二人と同じクラスで良かったです。これからよろしくお願いしますね」


 遊無が笑みを浮かべて2人にお辞儀したのを見て、2人も襟を正すと遊無に向き直る。


 「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 「うん! よろしくね!」


 2人も遊無に笑顔で答えると、予鈴ともに中庭に集まった生徒達はそれぞれ教室へと帰っていく。

 戻る途中も談笑は止まず、遊無は2人との会話に応じながらも、これからの生活への期待を胸に抱くのであった。





 「遊陽と――」

 「遊無の――」

 『二人はビナリウス!』


遊陽「今回の遊無は場にカードも無く、絶体絶命の状況からよく持ち堪えたな」

遊無「鬼を呼ぶ手拍子からカードの効果を連鎖させて、何とか八千代さんの攻撃を耐えきり逆転へと繋げることができました」

遊陽「……遊無はもう、俺より強くなりつつある。俺も頑張らないとだな」

遊無「遊陽さんも、八千代さんと仲直りできてよかったですね」

遊陽「ああ……別に俺、石井のアレ結構好きなんだけどさ……あの時は負けた悔しさでつい――これからは気を付けるよ」

遊無「お二人の仲を取り持ってくれたカズさんには感謝ですね。そのカズさんは次回、実家のお得意先へと配達に向かい、幼い頃より懇意にしてもらっているお爺さまとデュエルすることになります」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -陶酔へと誘う酒処- お楽しみに!』
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