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25Turn 異国からの訪問者 作:ジェム貯めナイト
男は微かな蝋燭の明かりを頼りに、地下へと続く階段を下りていた。
病人のようにやせ細った身体に黒いコートを羽織り、頬のこけた顔に不釣り合いなギョロ目の仮面で目元を隠している男は、最後の段差を踏み越えると、冷気でドアノブの凍り付いた部屋へと辿り着く。
『深潭たる奈落の底、光すら拒絶する魔窟の闇、深層領域にて瘡魚は万邦を嗤う』
合言葉めいた呪文を唱えるとともに、目の前の扉は少しずつ消え去り、男が部屋に踏み入ると、辺りは一寸先も見えない暗闇へと様変わりする。
ただ一か所――暗闇の中で発光する4畳半ほどの空間では、衣服を身に付けていない女が巻貝のごとく縦に巻かれた濃青色の髪を、周囲に自生する珊瑚に突っ込み、胡坐をかき座り込んだまま交信していた。
『何故“水から”を言い負かせられなかったか、頭を冷やして考えて来ましてよ……?』
『やあ“トモカヅキ”ちゃん――相変わらずいい身体してんねぇ……!」
ニヤリと口角を上げ、下種た笑みで男は痩せた自らとは対照的に、トモカヅキと呼んだ女の大きく膨らんだ胸や、肉付きのいい肢体を眺める。
『“パズズ”――よくもまあ飽きもせず、この擬態如きに欲情なさってますこと……』
目の部分に無脊椎動物の触手を生やした仮面を付けたトモカヅキは面倒そうに舌打ちすると、発光する珊瑚から髪が引き抜かれ、先端を棘の付いた触手に変化させるとパズズと呼んだ男に差し向ける。
『トモカズキちゃんこそ、風肖(ふしょう)のことは言えねぇんじゃなぁーい? 今日も電脳の海を遊泳かい……?』
『それの何がいけませんこと? こうしてじっくり――人間を煽り悪意を育ませておりますわ……!』
パズズの小馬鹿にした言動に苛立ちながらも、その場で立ち上がった女――トモカズキの身体に暗闇から現れた深海魚がまとわりつき、全身を覆った深海魚がたちまち黒の磯着のような浴衣へと変化する。
『水からの元を訪れたということは――また退屈な会合でありまして?』
トモカヅキの問いにニヤリと笑ってパズズが答えると、トモカヅキが両手を広げるとともに周囲の景色は様変わりし、真っ暗なトモカヅキの部屋から巨大な試験管が柱のようにそびえる――無機質な機械が壁に沿って並ぶ研究室のような部屋へと転移される。
『おや……? これは“スチュパリデス”君……!』
背中から3対の薄い翅を生やしたパズズは、培養液で満たされた試験管の元まで飛んでいくと、中に浮かんでいる四肢が欠け、全身が焼け爛れた鳥の怪物は目の前に現れたパズズをガラス越しに一睨みする。
『ちょっと見ない間に痩せたね? 流行りのダイエットでもした……?』
次の瞬間。研究室の天井が開き、降りてきたリフトに乗っている浅黒い肌をしたバイザーで目元を覆う巨体の老人と、もう一人のフードで全身を隠した老人と思われる人物を見て、パズズとトモカズキは“本来の姿”へと変貌していく。
『控えよパズズ――“この御方”の御前であるぞ』
『ややっ! これは失敬――それとスチュパリデス君の修復ご苦労さん! “ゴルイニチ”部長……!』
身体はそのままに――大顎を携え顔の半分を占める巨大な複眼を持つイナゴの頭に変貌したパズズがお辞儀で答えると、トモカヅキも縦に巻かれた髪が頭を覆い、触手に変化したのち覆い隠した頭を再び晒すと、のっぺらぼうの顔に牙を持つ大きく裂けた口が浮かび上がった。
『……まあよかろう。では宵(よ)が既に送り込んだ“刺客”の件も含め、今回の議題、このゴルイニチが進行を務める』
パズズにゴルイニチと呼ばれた老人もその姿を変貌させ、宙に浮くと硬質の黒い鱗が全身を覆うとともにバイザーが床に落ち、両肩から黒い竜の頭を生やし、棘の付いた尾を伸ばして再び地に足を着ける。
『“ミダース”は、鼠の尋問で忙しい。そう、貴方様の“御子息”が遣わした者
でございます。“ユーメイ”様――』
黒い竜に変貌したゴルイニチがフードの老人に呼び掛けると、ユーメイと呼ばれた老人は頷くとともに、フードの奥からぎらついた金色の瞳を鈍く光らせるのであった。
「……っ――ここは……」
すっかり太陽が一番高くなった時刻。着替えと蒸らしたタオルを手に訪れた看護師は病院のベッドで身を起こした遊無に気付くと、慌てて小走りに医師の元へと駆けていく。
程なくして遊無のいる病室に訪れた遊陽の母は、着替えた遊無とともに担当医にお礼を述べると、お大事に。と看護師共々笑顔で答える医師に見送られ、2人は病院を後にする。
「丸2日も目を覚まさなくて、本当に心配したわよ?」
「…………」
母からの呼びかけに、外の景色を眺めていた遊無はすみません。と短く返事すると、母の運転する車は最近開店したオープンカフェと隣接する駐車場へと停車する。
「遊無……!」
帰宅途中に母からの連絡を受けていた遊陽は、カフェの前の公園から2人の乗った車に駆け寄ると、後部座席に座った遊無の隣へと腰を下ろした。
「お帰り遊陽。アンタ達1日1時間以上のデュエルは体に毒だから、ちゃんと休憩は取りなさいって――」
「はいはい悪かったって……無事でよかった。遊無――」
母からの小言を適当にあしらいつつ、遊陽は再び外の景色を眺めていた遊無へと、鞄から取り出したカードの封入されたパックを手渡す。
「これ、渡せなかった遊無の優勝賞品――」
「…………」
窓の外を眺めていた遊無は、遊陽の呼びかけに気付くと無言のままパックを受け取り、封を開けると中のカードを取り出して眺める。
「あの人達――」
「えっ……?」
再び遊無が向けた視線の先には、テラス席でティーカップに口をつけている橙の髪に顔の輪郭に沿ったワインレッドの前髪をした男と、向かいの席で地肌が見えるほど髪を短く剃り、白の衣に布袍を着込んだ少年が湯呑の温茶をすすっていた。
「いえ……それより“遊陽”――これは貴方が使って……」
遊無は開封したパックへと視線を落とすと、数枚のカードの中から、1枚のカードを遊陽へと差し出した。
そして2人を乗せた車は再び発進すると、テラス席から過ぎ去っていく車を眺めていた男は、もう一人の少年へと振り返る。
「……行っちまったか。あいつらの行動を見通し、先回りとは……これがお前さんが持つ“精霊の力”――」
男が感心しつつ呟くと、少年は湯呑を置き、手を合わせて感謝の言葉を口にする。
「……精霊の力で時空の流れを読み取り、それを辿ることで目的の物や場所を指し示す――僕の家系に代々受け継がれし遺伝子が成せる業ですよ。“サバス”さん」
「流石はヒノモトの歴史ある家柄――悪霊退治の職務に関わる“常盤家”の人間だな」
サバスと呼ばれた男は取り出したD・フェースを操作し、店内に置かれたバーコードの記された看板へと向けることで電子決済による支払いを済ませると、2人は席を立ち店を後にするのであった。
「何はともかく、遊無ちゃんが無事戻ってきてよかったぜ」
タッグデュエル大会から3日が経ち、退院した遊無は昼休みに遊陽達と食堂へと集まり、昼食を共にしていた。
「あの時急に倒れたから、私達ずっと心配していたわ」
「少し前から様子も変だったしな」
「遊陽や貴方達には心配をかけた。ありがとう。私はこの通り快調だから……」
遊陽の母と朝早くから用意した弁当に箸を付けつつ、遊陽にカズ、留音へと礼を述べる遊無の言動に、留音は困惑した様子で隣のカズに問いかける。
「……ねえ一斗、遊無ちゃんって――」
「ああ……復帰してから話し方変わったよな」
2人が顔を寄せヒソヒソと会話を交わす中、遊陽はあのデュエルを通じて遊無が呼び起こした“もう一人の遊無”の姿を脳裏に思い浮かべる。
「私の話し方……失礼だった?」
「遊無は――あれだ、あのデュエルで“内なる自分”に目覚めたんだ」
遊陽の説明を聞いたカズは怪訝な面持ちで答えると、留音も再び学食と手元の袋に入った大量のパンに意識を向ける中、遊無は目の前のやり取りに疑問を浮かべつつ、鮭の切り身を口に運ぶ。
そして放課後。遊陽は体育館と校庭、合唱部の集まりに向かう留音達に別れを告げ、美術部に向かう須浦達とすれ違いつつ、千夜達と会話を交わすカズと分かれて遊無と靴を履き替え、学園を後にしようとする。
「遊陽――」
「どうした……?」
先に遊無が学園の外で待ち構えていた2人の人物を指差すと、気付かれたことで手にした食べかけのパンを飲み込んだサバスと、飲みかけの紙パックのお茶を懐にしまった坊主姿の少年が2人の元へと歩み寄って来た。
「彼女から漂う力――やはり“あの力”に……君達、少しいいかな?」
先に少年が遊陽と遊無に話しかけると、険しい表情をした2人がジリジリと後ずさりするのを見て、サバスは懐からD・フェースを取り出す。
「怪しいもんじゃねぇ。オレ達はこの通り、ESA(ユーロピアン・スピリット・アドレイション)教会――通称イーサ教会の“サバス・バジャダレス”だ」
D・フェースの画面に映し出された――悪霊に憑りつかれた人にサバスがお祓いをしている広告を目にした2人は、足を止めるとサバスへと問いかける。
「……外国の神父さんが何の用だ」
「こんなところでする話じゃねえな。ちょっとばかしお茶会に付き合ってもらうぜ。“ユーメイの力”の関係者さんよ」
「“遊明の力”――」
自らの拳を胸に当て、不安そうに俯く遊無を目にした遊陽は、自らも気にかけていた“遊明の力”の手がかりを掴むべく、背を向け歩き出したサバスを警戒しつつも、2人の後を付いていくのであった。
「オレは……ミルクティを頼むぜ」
再び訪れたオープンカフェで4人はテラス席に座り、それぞれ飲み物を頼むと、ウェイトレスが離れるとともにサバスは改めて、神妙な面持ちの遊陽と遊無へと自己紹介する。
「それじゃ改めて――イーサ教会で守護霊の防人(ゲニウス・カストゥディーズ)を務める、サバス・バジャダレス――」
「僕はヒノモトで害なす精霊を祓っていた名家――常盤家の末裔、常盤日吾(ときわ ひゅうご)だ」
日吾が名乗るとともに、彼の傍らにはとぐろを巻いた巨大なコブラが現れると、2人が席を立ち後ずさりする中、コブラは陽を浴びながら目を閉じ、居眠りをする。
「怖がらなくてもいい。僕の精霊――伝説上の蛇である《梵定竜王(サマーディナーガ)ムチャリンダ》だ」
危害を加えないと聞かされ、再び着席した2人がそれぞれ名乗ると、早速サバスが自らの目的について語り始めた。
「それじゃユーヒにユーム、本題に入らせてもらうぜ……オレ達がヒノモトに訪れた目的は、イーサ教会の主たるイーサ様が探し求める“あの方”の捜索だ」
「あの方とは……?」
「オレ達は謂わば、悪霊から人々を守るヒーローみたいなもんだ」
「僕達は人間の母と精霊の父より生まれしイーサ氏の父親――ユーメイという名の精霊を探している。何か心当たりはあるか?」
日吾の発した“ユーメイ”という単語に、遊陽はあの時もう一人の遊無から聞かされた――町の神社に身を降ろす精霊を思い浮かべる。
「遊明……私を創造し、その力を込めた精霊――」
「精霊の事なら、ヨリマシや玉藻前なら知ってるんじゃないか? なあヨリマシ?」
遊陽の呼びかけに応じ、すぐさまヨリマシが現れると、日吾の精霊を恐れて遊陽の背後に回りつつ、恐る恐ると顔を出す。
――う、うん……それならおいらよりも、あやかしのおねえちゃんのほうがくわしいとおもうよ……?
4人から離れた場所をそこ――。とヨリマシが指差すと、やがて前結びの帯を締め前後の襟を肩から豊かな胸元まで大きく開いた――色鮮やかな着物を身に纏う“斜国の妖狐”が現れる。
――確かにわらわを現界させるは、そこの主を通した“遊明の力”――。
「お前っ! この町にも害なす精霊が……!」
突然サバスが席を立ち、D・フェースを腕に付け鬼気迫る形相をすると、玉藻前も両手のひらの上に猛毒を生成して、2人は激しく睨み合う。
――お? 喧嘩か喧嘩か? 俺様も混ぜろよ――。
「貴方は出てこないで! 話がややこしくなる……!」
2人の争いを察し、腰布に刀と酒瓶を下げた巨大な鬼――酒呑童子が現れるが、遊無が珍しく声を荒らげ日吾もD・フェースを取り出すとともに、うたた寝していたムチャリンダが鎌首を上げて玉藻前に飛び掛かる。
――馬鹿な――。
ムチャリンダは玉藻前に絡みつき動きを封じながら、両手に生み出した猛毒を交互に飲み込むと、目を細めて苦しげに咳き込む。
「精霊の毒すら浄化するムチャリンダが……なんて強力な精霊――」
「2人とも……!? どういうつもりだ!」
「……ユーメイは敵だ。イーサ様によれば、度々ユーメイらしき強大な精霊の反応が現れると、その地に災いが降りかかるってな!」
対峙する2人が互いに睨み合う中、サバスは右目に手をかざすと、彼の右目はグレーから金色へと変化し、顔の右半分には文様が浮かび上がった。
『その目は……!?』
「サバスさん達“守護霊の防人”は、イーサ氏から精霊の力を授けられ、それを行使することで悪の精霊から人々を守っているんだ」
日吾が説明するや否や、サバスの瞳はより輝きを強く放つと、ムチャリンダの拘束から解放された玉藻前と酒吞童子は、苦しみながらその場で膝をつく。
「待て! ……こいつらは秘号(エンクレーブ)とかいう、この町に危害を加えた奴らに繋がる」
「秘号……サバスさん、報告に上がっていたユーメイの手先ですね……」
サバスはD・フェースを下ろすと、昨日と同じくD・フェースを店の立て看板へと向けて支払いを済ませ、2人にバス停近くの公園へと移動するよう促す。
「デュエルか……?」
「それが手っ取り早いだろ? 精霊はデュエルを通じて力を発揮する――」
デュエルで勝てば2体は泳がす。サバスの提案に遊陽は頷き了承すると、言い争いが落ち着いたことでウェイトレスが恐る恐る運んできた飲み物をそれぞれ飲み干し、カフェの向かいにあるデュエル可能な公園へと移動するのであった。
「……お前さんらのデュエルタクティクスは、融点にすら達しねぇ。2人同時に相手してやる」
日吾が見守る中、遊陽と遊無はそれぞれD・フェースを展開すると、5枚の手札を引くとサバスと対峙し、デュエルを開始する。
「何とかサバスさんの誤解を解くぞ、遊無」
「ええ……いざ、参る!」
『デュエル――』
遊陽&遊無LP4000。 サバスLP4000。
「先行はもらうぜ。オレは《秘炉信徒(ヴェリーバー シープ)ラム》を召喚だ……!」
召喚とともに地面から炎が噴き上がると、溶鉱炉によって錬成され現れた羊は体内の炉に火をくべて、全身を覆うスチールウールの隙間から炎を噴き出す。
秘炉信徒(ヴェリーバー シープ)ラム
効果モンスター
/炎/レベル1/機械/攻撃力0。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがフィールドに存在する限り、自分の「秘炉」モンスター
が効果を発動するためにモンスターをリリースする場合、代わりに手札の
「秘炉」モンスター1体をリリースできる。
(2):このカードが「秘炉」カードの効果でリリースされた場合に発動でき
る。デッキから「秘炉信徒ラム」を2体まで選んで手札に加える。
「更に永続魔法《モーン・アルムス》を発動! そして手札の《秘炉精霊(ヴェリーバー スピリット)サラマンダー》は、場の“秘炉”1体をリリースして特殊召喚できるが、ラムの効果によって代わりに手札からリリースできる!」
救貧院の墓標が立ち並ぶ庭が現れるとともに、サバスの手札から“秘炉”1体が消滅すると場へと現れた一基の炉から炎が漏れ出し、炉を中心に漏れだした炎はやがてトカゲの姿を形どる。
モーン・アルムス 永続魔法
「モーン・アルムス」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できな
い。
(1):自分のエンドフェイズに発動できる。このターンリリースされ墓地に
送られた「秘炉」モンスターの種類と同じ枚数、デッキからカードをドロ
ーする。
秘炉精霊(ヴェリーバー スピリット)サラマンダー
効果モンスター
/炎/レベル5/機械/攻撃力1800。
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのレベル4以下の「秘炉」モンスター1体をリリース
して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果で特殊召
喚したこのカードの攻撃力はこの効果でリリースした「秘炉」モンスター
の元々の攻撃力分アップする。
(2):自分フィールドの「秘炉」モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊
した場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破
壊する。
サラマンダー攻撃力1800→2800。
「秘炉……モンスターをリリースして効果を発揮するカード――」
「これが害なす精霊から人々を守る――ヒーローたるオレのカードだ! 更に“秘炉”の効果でリリースされた《秘炉修道女(ヴェリーバー シスター)ビジー・ビー》は、デッキから仲間のシスターを呼び寄せるぜ」
製鉄所でせわしなく働く鋼鉄の蜂は全身が錆びつき機能を停止すると、段階的に還元されて液状に溶け落ち、再び鋼鉄の鎧を形作って内部の動力炉に火を灯す。
秘炉修道女(ヴェリーバー シスター)ビジー・ビー
効果モンスター
/炎/レベル3/機械/攻撃力1000。
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドの「秘炉」モンスター
1体をリリースして発動できる。その攻撃を無効にする。
(2):このカードが「秘炉」カードの効果でリリースされた場合に発動でき
る。デッキから「秘炉修道女ビジー・ビー」1体を特殊召喚する。
「いきなりモンスターが3体も――」
「オレはこれでターン終了。そして“秘炉”がリリースされたエンドフェイズに《モーン・アルムス》の効果によって、リリースされた“秘炉”1種類に付きカード1枚の施しがもたらされる」
サバスがカード1枚を引きターンを終えるのを合図に、遊無は手札5枚を人睨みすると、遊陽と互いに顔を合わせ頷くとともにターンを開始する。
「私から行く――貴方の場にモンスターが2体以上いるため、魔法カード《怪鬼遭逢》を発動! 手札からそのレベル合計よりレベルの低い《鬼幽鬼 酒呑童子》を特殊召喚……!」
遊無がまず発動させたカードによって、彼女の手札から先程現れた悪鬼の精霊――酒呑童子が場に現れ、手にした杯から真っ赤な色の液体を顔を上げて飲み干す。
酒呑童子攻撃力2500。
――プハッ! こいつら本気で俺様達を抹殺する気みてぇだ……頼むぜ主様よぉ――。
「貴方達はあくまで人質。利用価値が無いのなら、本当に抹消しても構わない」
カードを1枚伏せ、遊陽へとターンを渡したばかりの遊無が向けた冷たい目線に、然しもの悪妖怪も思わず口をつぐむ。
「代わりのデッキなんて簡単に用意できない。2人とも協力してくれ。俺のターン! 《ワッショイ・カラードメスチック》を召喚し、効果発動!」
手札の《ワッショイ・奥津竈馬》を捨てることで、場に現れた縁日の雛へとカラースプレーが噴射され、祭りのヒヨコが全身を赤く染めるとともに、遊陽はカードを1枚ドローする。
「そして炎属性となったカラードメスチックを破壊し、手札からこいつを特殊召喚だ! 彩りの造詣深き魔術師の調合により、千紫万紅の華よ――鮮やかに咲き誇れ! 現れろ《ワッショイ・ハナビダマジシャン》……!」
ハナビダマジシャン攻撃力2500。
「2体の最上級モンスターを早速呼び出すとはな……」
「更に装備魔法《霽レ粧飾》をハナビダマジシャンを対象に発動! 属性を参照する効果が特徴の“ワッショイ”モンスターは、このカードがサポートするぜ。光属性を宣言しハナビダマジシャンの属性を変更する……!」
化合物の魔術師は発動された装備魔法によって、宙に舞い上がると白い布地の新しい法被を身に纏い、装いを新しくして場に降り立つ。
霽レ粧飾 装備魔法
「ワッショイ」モンスターにのみ装備可能。
属性を1つ宣言してこのカードを発動できる。
(1):装備モンスターは宣言した属性になる。
(2):モンスターに装備されたこのカードが墓地に送られた場合に発動でき
る。デッキからこのカードの効果で宣言した属性と同じレベル4以下の
「ワッショイ」魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
「カードを1枚伏せ、俺はターン終了」
「そしてこのオレのターンから、ドローと攻撃が認められる。覚悟しな。オレのモンスターが宿す炎は、お前さんらを塵一つ残さず焼き尽くすぜ」
サバスがカードを引くと、早速手札から引いたカードを見せながら発動し、その効果で地面の草をはむ羊1匹が消滅していく。
「これが精霊の“秘跡”たる魔法――《秘炉秘跡 洗礼(ヴェリーバーサクラメントゥム・バプタイズ)》を発動だ! その効果により場のラムをリリースしてカードを2枚ドローする……!」
秘炉秘跡 洗礼(ヴェリーバーサクラメントゥム・バプタイズ) 通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの「秘炉」モンスター1体をリリースして発動でき
る。デッキからカードを2枚ドローする。
「そしてリリースされたラムは、デッキから新たな“信徒”を2体まで手札に呼び寄せる、そしてこの2体を魔法カード《融合》により、1つに再錬成させるぜ……!」
発動された魔法カードにより、サバスの手札からスチールウールを身に纏った子羊2体が錆びつくとともにそれぞれ融解し、融合の渦の中で還元されると、新たに生命の息吹を吹き込まれた錬鉄の翼を持つ機械仕掛けの天使が降臨する。
『《融合》……!?』
「“融合召喚”――天上より舞い降りし、機械仕掛けの天使(アンゲルス・エクス・マキナ)――《秘炉神成(ヴェリーバー ディヴィニティ)エンジェル》……!」
秘炉神成(ヴェリーバー ディヴィニティ)エンジェル
融合、効果モンスター
/炎/レベル7/機械/攻撃力2500。
レベル4以下の「秘炉」モンスター×2
(1):このカードがフィールドに存在する限り、相手は自分・相手のバトル
フェイズにセットされた魔法、トラップカードを発動できない。
(2):このカードをリリースして発動できる。このカードの融合召喚に使用
した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自
分フィールドに特殊召喚できる。
「融合モンスターを使いこなすとは……この人只者じゃなさそうだ――」
「それだけじゃ終わらねぇ。装備魔法《秘炉熾翼(ヴェリーバー・セラフ)》により、エンジェルの翼は新たな息吹で純度を高め、より上位の天使へと昇華する……!」
発動された装備魔法により、渦巻く風が機械仕掛けの天使を包んでいくと、錬鉄の翼は形状を変化させ3対6枚の灼熱の炎を纏った翼へと生成された。
秘炉熾翼(ヴェリーバー・セラフ) 装備魔法
「秘炉」融合モンスターにのみ装備可能。
(1):装備モンスターの攻撃力は、融合素材にした「秘炉」モンスターの種
類×500アップする。
(2):装備モンスターがリリースされたことでこのカードが墓地に送られた
場合に発動できる。自分の墓地から「融合」1枚を手札に加える。
「これによりエンジェルの攻撃力は、融合素材とした“秘炉”の種類1体に付き500アップする……!」
エンジェル攻撃力2500→3000。
「バトルだ! オレはエンジェルでハナビダマジシャンを攻撃……!」
「くっ――俺は罠カードを――」
「無駄だ! エンジェルがいる限り、お前さんらはバトルフェイズ中、セットした魔法、罠カードを発動できねぇ!」
サバスの宣言を聞き、2人は互いに伏せていた《神輿奉戴》と《葬頭河の剥脱》に目をやると、発動を封じられたことで悔しそうにサバスを睨む。
「やれ……神々の聖火――ディエティス・セイクリッド……!」
鋼鉄の熾天使がフィールドの上空に炎の輪を生み出すと、その中から天界で燃え盛る灼熱の炎が化合物の魔術師へと降りかかり、一瞬で焼き尽くすとともに2人へとその余波が襲い掛かる。
『っ……!?』 遊陽&遊無LP4000→3500。
「そしてサラマンダーは、オレの“秘炉”が戦闘で相手モンスターを破壊するたびに、相手の魔法、罠1枚を焼き払う。まずはそのカードを破壊させてもらうぜ……?」
サバスが指差した遊陽の伏せカードは、炉に宿りし元素を司るトカゲが吐いた炎に飲まれ、場から墓地へと焼却される。
「だが装備された《霽レ粧飾》が墓地に送られたため効果発動! デッキから装備モンスターと同じ属性の《ワッショイ・ヨリマシ》を呼び寄せる!」
遊陽のデッキがD・フェースによって自動でシャッフルされると、選ばれたカードがデッキトップへと移動するとともに、そのカードを遊陽は引き場に呼び出す。
ヨリマシ守備力200。
「だったらビジー・ビーでその精霊を攻撃だ!」
――うそ――もうたいじょうしちゃうの……!?
遊陽を慕い現界する精霊――ヨリマシは、羽音を立て接近してきた鋼鉄の蜂が投擲した槍で貫かれ、消滅する。
「悪いヨリマシ……」
「締めにサラマンダーの攻撃! 酒呑童子を焼き尽くせ――カミヌス・エルプティオ……!」
トカゲの中核を成す炉が勢いよく炎を噴き出すと、全身を巡り勢いを増した炎はトカゲの口から火砕流となって吐き出され、刀を構えた酒仙の鬼を飲み込んでいく。
『うっ……』 遊陽&遊無LP3500→3200。
「そして残った伏せカードも破壊だ!」
場に揃えたカード全てを失ったことに2人が愕然とする中、バトルを終えたサバスは更に場の機械仕掛けの天使の効果を発動し、再び天へと描かれた炎の輪の中へと機械仕掛けの天使は消えていく。
『この人――強い……』
「オレはエンジェルの効果で自身をリリースし、融合素材とした2体のラムを再び錬成する。更に装備モンスターがリリースされたことで墓地に送られた《秘炉熾翼(ヴェリーバー・セラフ)》の効果で、墓地の《融合》は再びオレの手札に加わるぜ」
そしてカードを2枚伏せ、《モーン・アルムス》の効果によってカード2枚をドローしたサバスが遊無へとターンを明け渡す。
「どうだ? 所詮お前さんらの腕じゃ――守護霊の防人たるオレとの力の差は覆せねぇこと、十分理解できただろ……?」
再び右目に手を当て、金色の瞳と顔の右半分に浮かんだ文様を2人に見せつつサバスは勝ち誇る。
彼の言う通り2人がかりでも及ばない力の差を遊無は痛感しつつも、カードを引くと遊陽との大会優勝チーム――ビナリウスの誇りにかけて、このまま終われないとD・フェースを構え直し、改めてサバスが見せる余裕を崩すべく挑むのであった。
「遊陽と遊無――」
「僕、日吾の――」
『ビナリウス回顧録!』
遊陽「遂に幕を開けた第2章。不穏な影が暗躍する中、もう一人の遊無の影響を受けた遊無と俺の前に、マグナ ヌメンからサバスさんが来襲する」
日吾「君達が発した“遊明の力”の気配を察した僕は、マグナ ヌメン本部へと報告し、サバスさんと境界町へと向かったが、悪の精霊を従える遊無さんとのデュエルが始まってしまった」
遊無「前説ありがとう。今回は2章最初の相手――サバスさんの使うカードを見てみましょう」
日吾「サバスさんの使うテーマ“秘炉(ヴェリーバー)”は、下級モンスターをリリースして効果を発揮するのが特徴で、イーサ氏の起こす神秘を信仰する信徒がモチーフとなっている」
遊陽「それだけじゃないだろ? “秘炉”はヒーローとも読めるからな」
遊無「悪の精霊をこの世界から追い出す“守護霊の防人(ゲニウス カストゥディーズ)”に所属するサバスさんは、英雄と呼んでもおかしくない人――」
遊陽「相手がどれほど強くとも、俺と遊無の“チームビナリウス”は一歩も引くもんか! 次回は俺が遊無から受け取った新たなカードを呼び出すも、サバスさんは“真の切り札”を降臨させる。そしてもう一人の遊無も……?」
『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -天上の採火-』
日吾「サバスさんはまだ全力を出していない。君達が力に溺れようものなら、僕達が救ってみせる……!」
遊陽「俺達と意見の相違があるようだが、デュエルで誤解を解いて見せるぜ!」
病人のようにやせ細った身体に黒いコートを羽織り、頬のこけた顔に不釣り合いなギョロ目の仮面で目元を隠している男は、最後の段差を踏み越えると、冷気でドアノブの凍り付いた部屋へと辿り着く。
『深潭たる奈落の底、光すら拒絶する魔窟の闇、深層領域にて瘡魚は万邦を嗤う』
合言葉めいた呪文を唱えるとともに、目の前の扉は少しずつ消え去り、男が部屋に踏み入ると、辺りは一寸先も見えない暗闇へと様変わりする。
ただ一か所――暗闇の中で発光する4畳半ほどの空間では、衣服を身に付けていない女が巻貝のごとく縦に巻かれた濃青色の髪を、周囲に自生する珊瑚に突っ込み、胡坐をかき座り込んだまま交信していた。
『何故“水から”を言い負かせられなかったか、頭を冷やして考えて来ましてよ……?』
『やあ“トモカヅキ”ちゃん――相変わらずいい身体してんねぇ……!」
ニヤリと口角を上げ、下種た笑みで男は痩せた自らとは対照的に、トモカヅキと呼んだ女の大きく膨らんだ胸や、肉付きのいい肢体を眺める。
『“パズズ”――よくもまあ飽きもせず、この擬態如きに欲情なさってますこと……』
目の部分に無脊椎動物の触手を生やした仮面を付けたトモカヅキは面倒そうに舌打ちすると、発光する珊瑚から髪が引き抜かれ、先端を棘の付いた触手に変化させるとパズズと呼んだ男に差し向ける。
『トモカズキちゃんこそ、風肖(ふしょう)のことは言えねぇんじゃなぁーい? 今日も電脳の海を遊泳かい……?』
『それの何がいけませんこと? こうしてじっくり――人間を煽り悪意を育ませておりますわ……!』
パズズの小馬鹿にした言動に苛立ちながらも、その場で立ち上がった女――トモカズキの身体に暗闇から現れた深海魚がまとわりつき、全身を覆った深海魚がたちまち黒の磯着のような浴衣へと変化する。
『水からの元を訪れたということは――また退屈な会合でありまして?』
トモカヅキの問いにニヤリと笑ってパズズが答えると、トモカヅキが両手を広げるとともに周囲の景色は様変わりし、真っ暗なトモカヅキの部屋から巨大な試験管が柱のようにそびえる――無機質な機械が壁に沿って並ぶ研究室のような部屋へと転移される。
『おや……? これは“スチュパリデス”君……!』
背中から3対の薄い翅を生やしたパズズは、培養液で満たされた試験管の元まで飛んでいくと、中に浮かんでいる四肢が欠け、全身が焼け爛れた鳥の怪物は目の前に現れたパズズをガラス越しに一睨みする。
『ちょっと見ない間に痩せたね? 流行りのダイエットでもした……?』
次の瞬間。研究室の天井が開き、降りてきたリフトに乗っている浅黒い肌をしたバイザーで目元を覆う巨体の老人と、もう一人のフードで全身を隠した老人と思われる人物を見て、パズズとトモカズキは“本来の姿”へと変貌していく。
『控えよパズズ――“この御方”の御前であるぞ』
『ややっ! これは失敬――それとスチュパリデス君の修復ご苦労さん! “ゴルイニチ”部長……!』
身体はそのままに――大顎を携え顔の半分を占める巨大な複眼を持つイナゴの頭に変貌したパズズがお辞儀で答えると、トモカヅキも縦に巻かれた髪が頭を覆い、触手に変化したのち覆い隠した頭を再び晒すと、のっぺらぼうの顔に牙を持つ大きく裂けた口が浮かび上がった。
『……まあよかろう。では宵(よ)が既に送り込んだ“刺客”の件も含め、今回の議題、このゴルイニチが進行を務める』
パズズにゴルイニチと呼ばれた老人もその姿を変貌させ、宙に浮くと硬質の黒い鱗が全身を覆うとともにバイザーが床に落ち、両肩から黒い竜の頭を生やし、棘の付いた尾を伸ばして再び地に足を着ける。
『“ミダース”は、鼠の尋問で忙しい。そう、貴方様の“御子息”が遣わした者
でございます。“ユーメイ”様――』
黒い竜に変貌したゴルイニチがフードの老人に呼び掛けると、ユーメイと呼ばれた老人は頷くとともに、フードの奥からぎらついた金色の瞳を鈍く光らせるのであった。
「……っ――ここは……」
すっかり太陽が一番高くなった時刻。着替えと蒸らしたタオルを手に訪れた看護師は病院のベッドで身を起こした遊無に気付くと、慌てて小走りに医師の元へと駆けていく。
程なくして遊無のいる病室に訪れた遊陽の母は、着替えた遊無とともに担当医にお礼を述べると、お大事に。と看護師共々笑顔で答える医師に見送られ、2人は病院を後にする。
「丸2日も目を覚まさなくて、本当に心配したわよ?」
「…………」
母からの呼びかけに、外の景色を眺めていた遊無はすみません。と短く返事すると、母の運転する車は最近開店したオープンカフェと隣接する駐車場へと停車する。
「遊無……!」
帰宅途中に母からの連絡を受けていた遊陽は、カフェの前の公園から2人の乗った車に駆け寄ると、後部座席に座った遊無の隣へと腰を下ろした。
「お帰り遊陽。アンタ達1日1時間以上のデュエルは体に毒だから、ちゃんと休憩は取りなさいって――」
「はいはい悪かったって……無事でよかった。遊無――」
母からの小言を適当にあしらいつつ、遊陽は再び外の景色を眺めていた遊無へと、鞄から取り出したカードの封入されたパックを手渡す。
「これ、渡せなかった遊無の優勝賞品――」
「…………」
窓の外を眺めていた遊無は、遊陽の呼びかけに気付くと無言のままパックを受け取り、封を開けると中のカードを取り出して眺める。
「あの人達――」
「えっ……?」
再び遊無が向けた視線の先には、テラス席でティーカップに口をつけている橙の髪に顔の輪郭に沿ったワインレッドの前髪をした男と、向かいの席で地肌が見えるほど髪を短く剃り、白の衣に布袍を着込んだ少年が湯呑の温茶をすすっていた。
「いえ……それより“遊陽”――これは貴方が使って……」
遊無は開封したパックへと視線を落とすと、数枚のカードの中から、1枚のカードを遊陽へと差し出した。
そして2人を乗せた車は再び発進すると、テラス席から過ぎ去っていく車を眺めていた男は、もう一人の少年へと振り返る。
「……行っちまったか。あいつらの行動を見通し、先回りとは……これがお前さんが持つ“精霊の力”――」
男が感心しつつ呟くと、少年は湯呑を置き、手を合わせて感謝の言葉を口にする。
「……精霊の力で時空の流れを読み取り、それを辿ることで目的の物や場所を指し示す――僕の家系に代々受け継がれし遺伝子が成せる業ですよ。“サバス”さん」
「流石はヒノモトの歴史ある家柄――悪霊退治の職務に関わる“常盤家”の人間だな」
サバスと呼ばれた男は取り出したD・フェースを操作し、店内に置かれたバーコードの記された看板へと向けることで電子決済による支払いを済ませると、2人は席を立ち店を後にするのであった。
「何はともかく、遊無ちゃんが無事戻ってきてよかったぜ」
タッグデュエル大会から3日が経ち、退院した遊無は昼休みに遊陽達と食堂へと集まり、昼食を共にしていた。
「あの時急に倒れたから、私達ずっと心配していたわ」
「少し前から様子も変だったしな」
「遊陽や貴方達には心配をかけた。ありがとう。私はこの通り快調だから……」
遊陽の母と朝早くから用意した弁当に箸を付けつつ、遊陽にカズ、留音へと礼を述べる遊無の言動に、留音は困惑した様子で隣のカズに問いかける。
「……ねえ一斗、遊無ちゃんって――」
「ああ……復帰してから話し方変わったよな」
2人が顔を寄せヒソヒソと会話を交わす中、遊陽はあのデュエルを通じて遊無が呼び起こした“もう一人の遊無”の姿を脳裏に思い浮かべる。
「私の話し方……失礼だった?」
「遊無は――あれだ、あのデュエルで“内なる自分”に目覚めたんだ」
遊陽の説明を聞いたカズは怪訝な面持ちで答えると、留音も再び学食と手元の袋に入った大量のパンに意識を向ける中、遊無は目の前のやり取りに疑問を浮かべつつ、鮭の切り身を口に運ぶ。
そして放課後。遊陽は体育館と校庭、合唱部の集まりに向かう留音達に別れを告げ、美術部に向かう須浦達とすれ違いつつ、千夜達と会話を交わすカズと分かれて遊無と靴を履き替え、学園を後にしようとする。
「遊陽――」
「どうした……?」
先に遊無が学園の外で待ち構えていた2人の人物を指差すと、気付かれたことで手にした食べかけのパンを飲み込んだサバスと、飲みかけの紙パックのお茶を懐にしまった坊主姿の少年が2人の元へと歩み寄って来た。
「彼女から漂う力――やはり“あの力”に……君達、少しいいかな?」
先に少年が遊陽と遊無に話しかけると、険しい表情をした2人がジリジリと後ずさりするのを見て、サバスは懐からD・フェースを取り出す。
「怪しいもんじゃねぇ。オレ達はこの通り、ESA(ユーロピアン・スピリット・アドレイション)教会――通称イーサ教会の“サバス・バジャダレス”だ」
D・フェースの画面に映し出された――悪霊に憑りつかれた人にサバスがお祓いをしている広告を目にした2人は、足を止めるとサバスへと問いかける。
「……外国の神父さんが何の用だ」
「こんなところでする話じゃねえな。ちょっとばかしお茶会に付き合ってもらうぜ。“ユーメイの力”の関係者さんよ」
「“遊明の力”――」
自らの拳を胸に当て、不安そうに俯く遊無を目にした遊陽は、自らも気にかけていた“遊明の力”の手がかりを掴むべく、背を向け歩き出したサバスを警戒しつつも、2人の後を付いていくのであった。
「オレは……ミルクティを頼むぜ」
再び訪れたオープンカフェで4人はテラス席に座り、それぞれ飲み物を頼むと、ウェイトレスが離れるとともにサバスは改めて、神妙な面持ちの遊陽と遊無へと自己紹介する。
「それじゃ改めて――イーサ教会で守護霊の防人(ゲニウス・カストゥディーズ)を務める、サバス・バジャダレス――」
「僕はヒノモトで害なす精霊を祓っていた名家――常盤家の末裔、常盤日吾(ときわ ひゅうご)だ」
日吾が名乗るとともに、彼の傍らにはとぐろを巻いた巨大なコブラが現れると、2人が席を立ち後ずさりする中、コブラは陽を浴びながら目を閉じ、居眠りをする。
「怖がらなくてもいい。僕の精霊――伝説上の蛇である《梵定竜王(サマーディナーガ)ムチャリンダ》だ」
危害を加えないと聞かされ、再び着席した2人がそれぞれ名乗ると、早速サバスが自らの目的について語り始めた。
「それじゃユーヒにユーム、本題に入らせてもらうぜ……オレ達がヒノモトに訪れた目的は、イーサ教会の主たるイーサ様が探し求める“あの方”の捜索だ」
「あの方とは……?」
「オレ達は謂わば、悪霊から人々を守るヒーローみたいなもんだ」
「僕達は人間の母と精霊の父より生まれしイーサ氏の父親――ユーメイという名の精霊を探している。何か心当たりはあるか?」
日吾の発した“ユーメイ”という単語に、遊陽はあの時もう一人の遊無から聞かされた――町の神社に身を降ろす精霊を思い浮かべる。
「遊明……私を創造し、その力を込めた精霊――」
「精霊の事なら、ヨリマシや玉藻前なら知ってるんじゃないか? なあヨリマシ?」
遊陽の呼びかけに応じ、すぐさまヨリマシが現れると、日吾の精霊を恐れて遊陽の背後に回りつつ、恐る恐ると顔を出す。
――う、うん……それならおいらよりも、あやかしのおねえちゃんのほうがくわしいとおもうよ……?
4人から離れた場所をそこ――。とヨリマシが指差すと、やがて前結びの帯を締め前後の襟を肩から豊かな胸元まで大きく開いた――色鮮やかな着物を身に纏う“斜国の妖狐”が現れる。
――確かにわらわを現界させるは、そこの主を通した“遊明の力”――。
「お前っ! この町にも害なす精霊が……!」
突然サバスが席を立ち、D・フェースを腕に付け鬼気迫る形相をすると、玉藻前も両手のひらの上に猛毒を生成して、2人は激しく睨み合う。
――お? 喧嘩か喧嘩か? 俺様も混ぜろよ――。
「貴方は出てこないで! 話がややこしくなる……!」
2人の争いを察し、腰布に刀と酒瓶を下げた巨大な鬼――酒呑童子が現れるが、遊無が珍しく声を荒らげ日吾もD・フェースを取り出すとともに、うたた寝していたムチャリンダが鎌首を上げて玉藻前に飛び掛かる。
――馬鹿な――。
ムチャリンダは玉藻前に絡みつき動きを封じながら、両手に生み出した猛毒を交互に飲み込むと、目を細めて苦しげに咳き込む。
「精霊の毒すら浄化するムチャリンダが……なんて強力な精霊――」
「2人とも……!? どういうつもりだ!」
「……ユーメイは敵だ。イーサ様によれば、度々ユーメイらしき強大な精霊の反応が現れると、その地に災いが降りかかるってな!」
対峙する2人が互いに睨み合う中、サバスは右目に手をかざすと、彼の右目はグレーから金色へと変化し、顔の右半分には文様が浮かび上がった。
『その目は……!?』
「サバスさん達“守護霊の防人”は、イーサ氏から精霊の力を授けられ、それを行使することで悪の精霊から人々を守っているんだ」
日吾が説明するや否や、サバスの瞳はより輝きを強く放つと、ムチャリンダの拘束から解放された玉藻前と酒吞童子は、苦しみながらその場で膝をつく。
「待て! ……こいつらは秘号(エンクレーブ)とかいう、この町に危害を加えた奴らに繋がる」
「秘号……サバスさん、報告に上がっていたユーメイの手先ですね……」
サバスはD・フェースを下ろすと、昨日と同じくD・フェースを店の立て看板へと向けて支払いを済ませ、2人にバス停近くの公園へと移動するよう促す。
「デュエルか……?」
「それが手っ取り早いだろ? 精霊はデュエルを通じて力を発揮する――」
デュエルで勝てば2体は泳がす。サバスの提案に遊陽は頷き了承すると、言い争いが落ち着いたことでウェイトレスが恐る恐る運んできた飲み物をそれぞれ飲み干し、カフェの向かいにあるデュエル可能な公園へと移動するのであった。
「……お前さんらのデュエルタクティクスは、融点にすら達しねぇ。2人同時に相手してやる」
日吾が見守る中、遊陽と遊無はそれぞれD・フェースを展開すると、5枚の手札を引くとサバスと対峙し、デュエルを開始する。
「何とかサバスさんの誤解を解くぞ、遊無」
「ええ……いざ、参る!」
『デュエル――』
遊陽&遊無LP4000。 サバスLP4000。
「先行はもらうぜ。オレは《秘炉信徒(ヴェリーバー シープ)ラム》を召喚だ……!」
召喚とともに地面から炎が噴き上がると、溶鉱炉によって錬成され現れた羊は体内の炉に火をくべて、全身を覆うスチールウールの隙間から炎を噴き出す。
秘炉信徒(ヴェリーバー シープ)ラム
効果モンスター
/炎/レベル1/機械/攻撃力0。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがフィールドに存在する限り、自分の「秘炉」モンスター
が効果を発動するためにモンスターをリリースする場合、代わりに手札の
「秘炉」モンスター1体をリリースできる。
(2):このカードが「秘炉」カードの効果でリリースされた場合に発動でき
る。デッキから「秘炉信徒ラム」を2体まで選んで手札に加える。
「更に永続魔法《モーン・アルムス》を発動! そして手札の《秘炉精霊(ヴェリーバー スピリット)サラマンダー》は、場の“秘炉”1体をリリースして特殊召喚できるが、ラムの効果によって代わりに手札からリリースできる!」
救貧院の墓標が立ち並ぶ庭が現れるとともに、サバスの手札から“秘炉”1体が消滅すると場へと現れた一基の炉から炎が漏れ出し、炉を中心に漏れだした炎はやがてトカゲの姿を形どる。
モーン・アルムス 永続魔法
「モーン・アルムス」は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できな
い。
(1):自分のエンドフェイズに発動できる。このターンリリースされ墓地に
送られた「秘炉」モンスターの種類と同じ枚数、デッキからカードをドロ
ーする。
秘炉精霊(ヴェリーバー スピリット)サラマンダー
効果モンスター
/炎/レベル5/機械/攻撃力1800。
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのレベル4以下の「秘炉」モンスター1体をリリース
して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果で特殊召
喚したこのカードの攻撃力はこの効果でリリースした「秘炉」モンスター
の元々の攻撃力分アップする。
(2):自分フィールドの「秘炉」モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊
した場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破
壊する。
サラマンダー攻撃力1800→2800。
「秘炉……モンスターをリリースして効果を発揮するカード――」
「これが害なす精霊から人々を守る――ヒーローたるオレのカードだ! 更に“秘炉”の効果でリリースされた《秘炉修道女(ヴェリーバー シスター)ビジー・ビー》は、デッキから仲間のシスターを呼び寄せるぜ」
製鉄所でせわしなく働く鋼鉄の蜂は全身が錆びつき機能を停止すると、段階的に還元されて液状に溶け落ち、再び鋼鉄の鎧を形作って内部の動力炉に火を灯す。
秘炉修道女(ヴェリーバー シスター)ビジー・ビー
効果モンスター
/炎/レベル3/機械/攻撃力1000。
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分フィールドの「秘炉」モンスター
1体をリリースして発動できる。その攻撃を無効にする。
(2):このカードが「秘炉」カードの効果でリリースされた場合に発動でき
る。デッキから「秘炉修道女ビジー・ビー」1体を特殊召喚する。
「いきなりモンスターが3体も――」
「オレはこれでターン終了。そして“秘炉”がリリースされたエンドフェイズに《モーン・アルムス》の効果によって、リリースされた“秘炉”1種類に付きカード1枚の施しがもたらされる」
サバスがカード1枚を引きターンを終えるのを合図に、遊無は手札5枚を人睨みすると、遊陽と互いに顔を合わせ頷くとともにターンを開始する。
「私から行く――貴方の場にモンスターが2体以上いるため、魔法カード《怪鬼遭逢》を発動! 手札からそのレベル合計よりレベルの低い《鬼幽鬼 酒呑童子》を特殊召喚……!」
遊無がまず発動させたカードによって、彼女の手札から先程現れた悪鬼の精霊――酒呑童子が場に現れ、手にした杯から真っ赤な色の液体を顔を上げて飲み干す。
酒呑童子攻撃力2500。
――プハッ! こいつら本気で俺様達を抹殺する気みてぇだ……頼むぜ主様よぉ――。
「貴方達はあくまで人質。利用価値が無いのなら、本当に抹消しても構わない」
カードを1枚伏せ、遊陽へとターンを渡したばかりの遊無が向けた冷たい目線に、然しもの悪妖怪も思わず口をつぐむ。
「代わりのデッキなんて簡単に用意できない。2人とも協力してくれ。俺のターン! 《ワッショイ・カラードメスチック》を召喚し、効果発動!」
手札の《ワッショイ・奥津竈馬》を捨てることで、場に現れた縁日の雛へとカラースプレーが噴射され、祭りのヒヨコが全身を赤く染めるとともに、遊陽はカードを1枚ドローする。
「そして炎属性となったカラードメスチックを破壊し、手札からこいつを特殊召喚だ! 彩りの造詣深き魔術師の調合により、千紫万紅の華よ――鮮やかに咲き誇れ! 現れろ《ワッショイ・ハナビダマジシャン》……!」
ハナビダマジシャン攻撃力2500。
「2体の最上級モンスターを早速呼び出すとはな……」
「更に装備魔法《霽レ粧飾》をハナビダマジシャンを対象に発動! 属性を参照する効果が特徴の“ワッショイ”モンスターは、このカードがサポートするぜ。光属性を宣言しハナビダマジシャンの属性を変更する……!」
化合物の魔術師は発動された装備魔法によって、宙に舞い上がると白い布地の新しい法被を身に纏い、装いを新しくして場に降り立つ。
霽レ粧飾 装備魔法
「ワッショイ」モンスターにのみ装備可能。
属性を1つ宣言してこのカードを発動できる。
(1):装備モンスターは宣言した属性になる。
(2):モンスターに装備されたこのカードが墓地に送られた場合に発動でき
る。デッキからこのカードの効果で宣言した属性と同じレベル4以下の
「ワッショイ」魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
「カードを1枚伏せ、俺はターン終了」
「そしてこのオレのターンから、ドローと攻撃が認められる。覚悟しな。オレのモンスターが宿す炎は、お前さんらを塵一つ残さず焼き尽くすぜ」
サバスがカードを引くと、早速手札から引いたカードを見せながら発動し、その効果で地面の草をはむ羊1匹が消滅していく。
「これが精霊の“秘跡”たる魔法――《秘炉秘跡 洗礼(ヴェリーバーサクラメントゥム・バプタイズ)》を発動だ! その効果により場のラムをリリースしてカードを2枚ドローする……!」
秘炉秘跡 洗礼(ヴェリーバーサクラメントゥム・バプタイズ) 通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの「秘炉」モンスター1体をリリースして発動でき
る。デッキからカードを2枚ドローする。
「そしてリリースされたラムは、デッキから新たな“信徒”を2体まで手札に呼び寄せる、そしてこの2体を魔法カード《融合》により、1つに再錬成させるぜ……!」
発動された魔法カードにより、サバスの手札からスチールウールを身に纏った子羊2体が錆びつくとともにそれぞれ融解し、融合の渦の中で還元されると、新たに生命の息吹を吹き込まれた錬鉄の翼を持つ機械仕掛けの天使が降臨する。
『《融合》……!?』
「“融合召喚”――天上より舞い降りし、機械仕掛けの天使(アンゲルス・エクス・マキナ)――《秘炉神成(ヴェリーバー ディヴィニティ)エンジェル》……!」
秘炉神成(ヴェリーバー ディヴィニティ)エンジェル
融合、効果モンスター
/炎/レベル7/機械/攻撃力2500。
レベル4以下の「秘炉」モンスター×2
(1):このカードがフィールドに存在する限り、相手は自分・相手のバトル
フェイズにセットされた魔法、トラップカードを発動できない。
(2):このカードをリリースして発動できる。このカードの融合召喚に使用
した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自
分フィールドに特殊召喚できる。
「融合モンスターを使いこなすとは……この人只者じゃなさそうだ――」
「それだけじゃ終わらねぇ。装備魔法《秘炉熾翼(ヴェリーバー・セラフ)》により、エンジェルの翼は新たな息吹で純度を高め、より上位の天使へと昇華する……!」
発動された装備魔法により、渦巻く風が機械仕掛けの天使を包んでいくと、錬鉄の翼は形状を変化させ3対6枚の灼熱の炎を纏った翼へと生成された。
秘炉熾翼(ヴェリーバー・セラフ) 装備魔法
「秘炉」融合モンスターにのみ装備可能。
(1):装備モンスターの攻撃力は、融合素材にした「秘炉」モンスターの種
類×500アップする。
(2):装備モンスターがリリースされたことでこのカードが墓地に送られた
場合に発動できる。自分の墓地から「融合」1枚を手札に加える。
「これによりエンジェルの攻撃力は、融合素材とした“秘炉”の種類1体に付き500アップする……!」
エンジェル攻撃力2500→3000。
「バトルだ! オレはエンジェルでハナビダマジシャンを攻撃……!」
「くっ――俺は罠カードを――」
「無駄だ! エンジェルがいる限り、お前さんらはバトルフェイズ中、セットした魔法、罠カードを発動できねぇ!」
サバスの宣言を聞き、2人は互いに伏せていた《神輿奉戴》と《葬頭河の剥脱》に目をやると、発動を封じられたことで悔しそうにサバスを睨む。
「やれ……神々の聖火――ディエティス・セイクリッド……!」
鋼鉄の熾天使がフィールドの上空に炎の輪を生み出すと、その中から天界で燃え盛る灼熱の炎が化合物の魔術師へと降りかかり、一瞬で焼き尽くすとともに2人へとその余波が襲い掛かる。
『っ……!?』 遊陽&遊無LP4000→3500。
「そしてサラマンダーは、オレの“秘炉”が戦闘で相手モンスターを破壊するたびに、相手の魔法、罠1枚を焼き払う。まずはそのカードを破壊させてもらうぜ……?」
サバスが指差した遊陽の伏せカードは、炉に宿りし元素を司るトカゲが吐いた炎に飲まれ、場から墓地へと焼却される。
「だが装備された《霽レ粧飾》が墓地に送られたため効果発動! デッキから装備モンスターと同じ属性の《ワッショイ・ヨリマシ》を呼び寄せる!」
遊陽のデッキがD・フェースによって自動でシャッフルされると、選ばれたカードがデッキトップへと移動するとともに、そのカードを遊陽は引き場に呼び出す。
ヨリマシ守備力200。
「だったらビジー・ビーでその精霊を攻撃だ!」
――うそ――もうたいじょうしちゃうの……!?
遊陽を慕い現界する精霊――ヨリマシは、羽音を立て接近してきた鋼鉄の蜂が投擲した槍で貫かれ、消滅する。
「悪いヨリマシ……」
「締めにサラマンダーの攻撃! 酒呑童子を焼き尽くせ――カミヌス・エルプティオ……!」
トカゲの中核を成す炉が勢いよく炎を噴き出すと、全身を巡り勢いを増した炎はトカゲの口から火砕流となって吐き出され、刀を構えた酒仙の鬼を飲み込んでいく。
『うっ……』 遊陽&遊無LP3500→3200。
「そして残った伏せカードも破壊だ!」
場に揃えたカード全てを失ったことに2人が愕然とする中、バトルを終えたサバスは更に場の機械仕掛けの天使の効果を発動し、再び天へと描かれた炎の輪の中へと機械仕掛けの天使は消えていく。
『この人――強い……』
「オレはエンジェルの効果で自身をリリースし、融合素材とした2体のラムを再び錬成する。更に装備モンスターがリリースされたことで墓地に送られた《秘炉熾翼(ヴェリーバー・セラフ)》の効果で、墓地の《融合》は再びオレの手札に加わるぜ」
そしてカードを2枚伏せ、《モーン・アルムス》の効果によってカード2枚をドローしたサバスが遊無へとターンを明け渡す。
「どうだ? 所詮お前さんらの腕じゃ――守護霊の防人たるオレとの力の差は覆せねぇこと、十分理解できただろ……?」
再び右目に手を当て、金色の瞳と顔の右半分に浮かんだ文様を2人に見せつつサバスは勝ち誇る。
彼の言う通り2人がかりでも及ばない力の差を遊無は痛感しつつも、カードを引くと遊陽との大会優勝チーム――ビナリウスの誇りにかけて、このまま終われないとD・フェースを構え直し、改めてサバスが見せる余裕を崩すべく挑むのであった。
「遊陽と遊無――」
「僕、日吾の――」
『ビナリウス回顧録!』
遊陽「遂に幕を開けた第2章。不穏な影が暗躍する中、もう一人の遊無の影響を受けた遊無と俺の前に、マグナ ヌメンからサバスさんが来襲する」
日吾「君達が発した“遊明の力”の気配を察した僕は、マグナ ヌメン本部へと報告し、サバスさんと境界町へと向かったが、悪の精霊を従える遊無さんとのデュエルが始まってしまった」
遊無「前説ありがとう。今回は2章最初の相手――サバスさんの使うカードを見てみましょう」
日吾「サバスさんの使うテーマ“秘炉(ヴェリーバー)”は、下級モンスターをリリースして効果を発揮するのが特徴で、イーサ氏の起こす神秘を信仰する信徒がモチーフとなっている」
遊陽「それだけじゃないだろ? “秘炉”はヒーローとも読めるからな」
遊無「悪の精霊をこの世界から追い出す“守護霊の防人(ゲニウス カストゥディーズ)”に所属するサバスさんは、英雄と呼んでもおかしくない人――」
遊陽「相手がどれほど強くとも、俺と遊無の“チームビナリウス”は一歩も引くもんか! 次回は俺が遊無から受け取った新たなカードを呼び出すも、サバスさんは“真の切り札”を降臨させる。そしてもう一人の遊無も……?」
『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -天上の採火-』
日吾「サバスさんはまだ全力を出していない。君達が力に溺れようものなら、僕達が救ってみせる……!」
遊陽「俺達と意見の相違があるようだが、デュエルで誤解を解いて見せるぜ!」
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同シリーズ作品
イイネ | タイトル | 閲覧数 | コメ数 | 投稿日 | 操作 | |
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53 | 1Turn 幽明を賑わす者 | 616 | 0 | 2022-11-11 | - | |
53 | 2Turn 掛け声響く祭りの竜 | 513 | 2 | 2022-11-12 | - | |
49 | 幕間 亡国の斜狐 | 477 | 0 | 2022-11-13 | - | |
53 | 3Turn 幽“零”少女 | 443 | 0 | 2022-11-18 | - | |
54 | 4Turn 複翅キ テイクオフ! | 385 | 0 | 2022-11-19 | - | |
45 | 5Turn 竜舞う花伝 | 312 | 0 | 2022-11-20 | - | |
43 | 6Turn 還流の海人 | 449 | 0 | 2022-11-25 | - | |
41 | 7Turn 繋がる異界 | 499 | 1 | 2022-11-26 | - | |
50 | 幕間 遊楽の休日 | 428 | 0 | 2022-11-27 | - | |
49 | 8Turn 境階の学び舎 | 410 | 0 | 2022-12-01 | - | |
49 | 第一章 キャラクター紹介 | 402 | 0 | 2022-12-02 | - | |
50 | 9Turn 開幕! 影鬼劇場! | 398 | 0 | 2022-12-03 | - | |
60 | 10Turn 花形役者と斜国の悪狐 | 458 | 0 | 2022-12-04 | - | |
36 | 11Turn 陶酔へと誘う酒処 | 352 | 0 | 2022-12-09 | - | |
53 | 12Turn 特別への自覚 | 371 | 0 | 2022-12-10 | - | |
39 | 13Turn 波間に揺らめく波止場 | 372 | 0 | 2022-12-16 | - | |
38 | 14Turn 命育む赤き血汐 | 436 | 0 | 2022-12-17 | - | |
55 | 幕間 遊無 落第の瀬戸際 | 411 | 1 | 2022-12-24 | - | |
48 | 15Turn 供養と円寂の儀 | 451 | 0 | 2023-01-14 | - | |
68 | 16Turn 石の塔が崩れる時 | 345 | 0 | 2023-01-27 | - | |
51 | 17Turn 盤上のアーティスト | 473 | 0 | 2023-02-12 | - | |
43 | 18Turn 夜空に咲く“賑やか”なる華 | 425 | 0 | 2023-02-21 | - | |
53 | 19Turn タッグデュエル大会 開幕! | 512 | 0 | 2023-03-09 | - | |
36 | 20Turn ウフトカビラ&サギラ | 414 | 1 | 2023-03-15 | - | |
48 | 21Turn 岡と浪花 花よりたい焼き | 341 | 0 | 2023-03-21 | - | |
55 | 22Turn 徹頭徹尾の覚悟 | 428 | 1 | 2023-03-24 | - | |
45 | 23Turn ビナリウス対バウンティフル | 375 | 0 | 2023-04-12 | - | |
41 | 24Turn 決着と新たな予兆 | 353 | 1 | 2023-04-13 | - | |
54 | 今までの話が丸分かり! 第一章のあらすじ | 408 | 0 | 2023-04-14 | - | |
40 | 25Turn 異国からの訪問者 | 350 | 0 | 2023-05-26 | - | |
31 | 26Turn 天上の採火 | 234 | 0 | 2023-06-02 | - | |
42 | 幕間 3人の交流生 | 327 | 0 | 2023-06-04 | - | |
68 | 27Turn 魘夢の魔族 | 309 | 0 | 2023-06-10 | - | |
37 | 28Turn 羅漢の竜王 | 270 | 0 | 2023-06-21 | - | |
40 | 29Turn 聖夜のマノン | 342 | 0 | 2023-06-25 | - | |
35 | 幕間 もう一人の遊無 | 284 | 2 | 2023-06-28 | - | |
37 | 第二章 キャラクター紹介 | 313 | 1 | 2023-07-01 | - | |
64 | 幕間 闘諍の予兆 | 352 | 0 | 2023-07-06 | - | |
35 | 30Turn 狂課金(ミダース) | 270 | 0 | 2023-07-10 | - | |
63 | 31Turn 舞い上がる不死鳥の輪舞 | 413 | 0 | 2023-07-14 | - | |
48 | 32Turn 巻き上げる関捩 | 330 | 1 | 2023-07-17 | - | |
42 | 33Turn 夢に堕ちる仲間 | 383 | 0 | 2023-07-22 | - | |
34 | 34Turn 友を取り戻せ! | 282 | 0 | 2023-07-30 | - | |
31 | 35Turn 堕ちた雷と涙雨の天河 | 307 | 0 | 2023-08-03 | - | |
28 | 36Turn 伝えたい言葉 | 287 | 1 | 2023-08-11 | - | |
29 | 37Turn 夢を喰らう獏 | 235 | 0 | 2023-08-26 | - | |
29 | 38Turn 深淵のトモカヅキ | 237 | 0 | 2023-09-03 | - | |
80 | 39Turn 最遠のパズズ | 315 | 0 | 2023-09-11 | - | |
26 | 40Turn 所縁が結ぶ絆 | 228 | 0 | 2023-09-18 | - | |
22 | 41Turn 活火激発の鍛人(かぬち) | 233 | 0 | 2023-09-22 | - | |
23 | 42Turn 巣林一枝のブルーバード | 173 | 0 | 2023-09-23 | - | |
31 | 今までの話が丸分かり! 第二章のあらすじ | 283 | 1 | 2023-09-24 | - | |
26 | 43Turn 次の関係(ステップ)へ | 248 | 0 | 2023-10-20 | - | |
32 | 44Turn 竜の駒 大洋を統べる | 314 | 0 | 2023-10-22 | - | |
35 | 45Turn マグナ ヌメンへの往訪 | 223 | 0 | 2023-10-26 | - | |
29 | 46Turn 跳躍-精霊世界へ | 229 | 0 | 2023-10-29 | - | |
43 | 幕間 強化訓練と異界の住人 | 282 | 0 | 2023-11-02 | - | |
37 | 47Turn 精霊世界 マースの森で | 219 | 0 | 2023-11-05 | - | |
32 | 祝一周年! 今後の展望など | 280 | 0 | 2023-11-11 | - | |
28 | 48Turn 精霊長アラウン | 182 | 0 | 2023-11-15 | - | |
28 | 第三章 キャラクター紹介 | 229 | 1 | 2023-11-16 | - | |
42 | 49Turn 下される審判 | 270 | 0 | 2023-11-20 | - | |
22 | 50Turn 猟犬従えし灰の王 | 234 | 0 | 2023-11-28 | - | |
29 | 幕間 精霊世界の平生 | 291 | 0 | 2023-12-07 | - | |
23 | 51Turn 最善の選択 | 197 | 0 | 2023-12-18 | - | |
26 | 52Turn 立ちはだかる使者達 | 237 | 0 | 2023-12-28 | - | |
25 | 53Turn 怨嗟積り秘号と成す | 205 | 0 | 2023-12-30 | - | |
25 | 54Turn 遊明の力 | 219 | 0 | 2024-01-02 | - | |
26 | 今までの話が丸分かり! 第三章のあらすじ | 258 | 0 | 2024-01-03 | - |
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