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HOME > 遊戯王SS一覧 > 36Turn 伝えたい言葉

36Turn 伝えたい言葉 作:ジェム貯めナイト

 開花した桜の花びらが舞い散る校舎では、入学式を終えた新入生達が教室へと移
動している。

 自らの席に着き、退屈そうに黒板を眺める白髪に赤や青――緑の色が差した男子
生徒の隣の席に、ショートボブの黒髪と前髪をヘアピンで左に流した女子生徒が着
席した。


 ――初めまして! あたし笑原 千夜(えみはら ちよ)だよっ!


 会話を振った彼女の方をチラリと向くと、男子生徒――須浦 藤次(すうら とう
じ)は、彼女に冷めた視線を向けながら自らの名前を短く告げるとともに、興味無
さそうに彼女から顔を背ける。


 ――何その反応!? 傷付くんですけど……!?

 ――僕と話しても、つまらないだけだよ――。


 そう言うと須浦は上を見上げて時計の時刻を確認し、まだ余裕があると自らの鞄
から筆記用具と“愛用するノート”を取り出す。


 ――それって、スケッチブック……?

 ――僕は昔から、人付き合い以外の事は大抵できた。勉強にデュエル――絵だっ
て入賞するくらいに――。

 ――じゃあさ、あたしがここで最初の友達になるっ!


 鉛筆を握りしめる須浦の手を千夜は両手で掴むと、須浦の顔を真っすぐに見つめ
、掴んだ手に目一杯力を込める。


 ――須浦君って別の小学校だったよね? 折角一緒の中学になったんだからさ、
仲良くしようよ!

 ――僕は別に――。

 ――断ったら、今度はあたし泣いちゃうよ!? 入学早々女の子を泣かせちゃっ
ていいのかなぁ……?


 うーっと唸りつつ、涙を絞り出そうと目元に力を入れる千夜に、本当に泣かれた
ら面倒だと須浦は首を縦に動かして、彼女の申し出を了承する。


 ――仕方ないな。もう一度だけ頑張ってみる――。

 ――それでヨシ! じゃあ今からあたしと友達ね?


 今にも泣きそうだった表情を一瞬で笑みへと変えた千夜を見て、仕方ないと言い
つつも改めて彼女の手を握り直し、須浦が友達になることを約束するとともに、担
任の先生が教室へと現れてHRが訪れたのであった。





 「お前達だけじゃない! あたしを裏切る全てを破壊してやるっ! あたしのタ
ーンっ……!」


 劇場指揮者が指揮棒を下ろすとともに、再び男装の麗人が足元の影に吸い込まれ
て裏側表示となったことで、現に掛けられた催眠をより深くまで浸透させた千夜は
自らのターンを開始した。


 カペルマイスター攻撃力2600→2000。 シェニルダック攻撃力4200→2700。


 「あいつの力に飲まれるな。笑原――」

 「黙れっ! お姉ちゃんがあたしを裏切ったのも、全部お前のせいだっ! お前
さえいなければ――」


 催眠が解けかけている織姫の元へと駆け寄った千夜は、彼女に代わって液晶盤に
触れると、獣毛製の不織布を集団で縫い合わせるカササギ達の効果を発動させる。


 「あたしはシェニルダックの効果――交刺千鳥で、全てのモンスターの位置を別
の位置へと移動させ、移動したお前達のモンスターの中でレベルが一番低いモンス
ター1体を除外する!」

 「だったら私も――カペルマイスターの効果発動! 裏側表示のレビュースター
を再びリバースさせる! フリップ・フィルハーモニクス……!」


 場に伏せられたモンスターが裏返り、再び八千代が従える男装の麗人が姿を現す
が、全てのモンスターを絡めとった毛糸が無理やり別のモンスターゾーンへと移動
させる。

 そして毛糸で絡めとられた須浦と八千代のモンスターのうち、男装の麗人が場か
ら消滅した。


  モンスターの位置(変更後)。

 左 空き 空き 空き 空き シェニルダック 右

 左 空き 空き レヴュースター ジェットインク カペルマイスター 右


 「これでレヴュースターは封じた! あたしは魔法カード《タクトゥビーナ・カ
フラバーゥ》で、除外状態のアリ・サイードとイフリートをデッキに戻して、戻し
た枚数と同じ2枚をドローっ!」


 無数の粘土板が納められた記録の保管庫で、御伽噺の王妃が指先から電流を発し
、千夜に渡る物語の一部を粘土板へと刻み記している。

 その様子が描かれたカードの発動により、財宝を手に入れた働き者とランプの魔
神の物語がデッキへと納められたのち、千夜は新たに2枚のカードを引いた。


 タクトゥビーナ・カフラバーゥ 通常魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 (1):レベル合計が7以下となるよう、自分の墓地・除外状態の「アル=ナジュ
 ム」モンスターを任意の枚数対象に発動できる(同名カードは1枚まで)。
 そのモンスターを好きな順番でデッキの一番下に戻し、戻した枚数までデッキか
 らカードをドローする。


 「……!?」


 引いたカードを見た途端、千夜が一瞬だけ動揺を顔に浮かべたのを須浦は見逃さ
ず、あのカードは何かあると睨むも、余程目にしたくないのか千夜は即座に引いた
2枚を場に伏せる。


 「カードを2枚伏せ、手札の“御伽噺の端末”を墓地に送ることで速攻魔法《リ
スニング・サマル》を発動っ……! デッキより“アル=ナジュム”1体を呼び寄
せる」


 デッキからカードが選びだされ、そのカードを千夜が引いて液晶盤へと置くとと
もに、須浦と八千代が身構える中、彼女はもう1枚の切り札を場に導く。


 「嫌疑の者どもは1人残らず、あたしがこの手で断罪してやるっ! 現れろぉっ
……! 《アル=ナジュム・マリク シャフリヤール》っ……!」


 そして彼女の場には、精神の汚染を表すかのような黒い雷が降り注ぐとともに、
毎夜に渡り疑いを抱いた者の命を自ら奪う、疑心に駆られた王が姿を現した。


 シャフリヤール攻撃力2600。


 「遂に来たか――シャフリヤール」

 「用が済んだから、もう裏切り者のカードはいらない。あたしはシェニルダック
をリリースする」


 手札から1体のモンスターをかざすとともに、織姫に対して吐き捨てるように宣
言した千夜が、彼女の液晶盤から切り札のカードを剥がすと、自らの液晶盤にラン
プを手にした商人のカードを置く。


 「織姫先輩のカードが……!?」

 「そこまで堕ちたか――心が痛まないのか……?」

 「あたしが信じるのは、現様とあたしだけだっ! “アドバンス召喚”――《ア
ル=ナジュム・ナラティブ アラァ・アディーン》……!」


 アラァ・アディーン攻撃力1800。


 「シャフリヤールがいる時に“アル=ナジュム”が現れたってことはぁ! もう
分かるだろぉ……!?」

 「っ……! 来るぞ――石井!」


 これから起きることを予測し、身構えた須浦と八千代が従えるモンスター達は、
黒い雷が一周するとともに消失し、雷の輪は中心から黒い雷を発して2人へと降り
注がせる。


 「アハハッ……! 全てのモンスターはこのターンが明けるまで除外され、1体
に付き200ダメージをお前達に与えるっ!」


 黒い雷が2人を次々と貫くとともに、全身に走る電流によって視界が激しく点滅
し、2人の思考を途切れさせると、身体から力が抜けた2人は地面へと倒れ伏した



 『っ……!?』 

「あたしと現様の力に跪けぇっ……! ハッサース・カルブ……!」


 須浦&八千代LP1500→700。


 「痛いだろぉ!? 力が増した今のあたしなら、次に直撃したら命は無いかも
ねぇ……!」


 そして持ち主の除外により、地面へと落ちたランプから雷の霊体となったランプ
の魔神が現れると、バトルを宣言した千夜は倒れたまま身動きできない2人へと攻
撃を仕掛ける。


 「これで終わりだっ! イフリート! 電撃と炎であいつらの息の根を止めろ…
…!」


 千夜の命令を受け、ランプの魔神が手のひらを合わせると、上空に浮かんだまま
の黒雲から、火を纏った黒い雷が倒れた2人へと襲い来る。


 「消えろ――アズィーム・サーイカァァッ……!」

 「……石井の《影鬼楽団(オーケストラ)》の効果――」


 倒れた八千代の元まで這って移動した須浦が、彼女の指をD・フェースの液晶盤
に表示された発動確認に押させる。

 発動しているカードが墓地に送られることで、墓地より蘇った人形遣いが黒い雷
から2人をかばい、焼かれたことで消滅した。


 「お前っ……!? まだ動けるのかよっ!」

 「……笑原や、先輩が受けている苦しみに比べたら、こんなものっ……!」


 満身創痍なはずの須浦は、自らを無理やり奮い立たせて立ち上がると、倒れたま
まピクリともしない八千代に視線を向けつつも、彼のしぶとさに苛立ちを募らせる
千夜へと向き直った。


 「しつけぇんだよお前ぇ! いい加減沈めよぉ……!?」

 「……笑原。僕は君と出会うまで、他人との繋がりなんて軽視していた」


 千夜がターンを終えると、ランプを手にした商人と疑念に囚われた王は彼女の場
に戻り、塗料を撃ち続ける塗師と劇場指揮者が2人の場へと帰還するとともに、須
浦はポツリポツリと語り始める。


 「ずっと自分の世界に籠っていただけだった。でも君と出会って、僕は次第に周
りの人達と打ち解けていった。君と過ごしてきた日々は僕にとって、いつしか大切
な日々となったんだ――」


 デッキからカードを引き、確認した須浦は千夜を見ると、穏やかに微笑んで自ら
が秘めていた“思い”を口にする。


 「僕はそんな君に、次第に惹かれていった――笑原、君の事が好きだ」


 須浦が呟いた言葉に、千夜は放心し瞳の中に“元の自分”を映すが、開いたまま
の口を食いしばり、否定するかのように首を振って須浦へと言い返す。


 「っ……!? そんなの――そんなの迷惑なんだよっ! お前からの好意なんて
不愉快だ! キモいんだよ――とっととくたばれっ!」

 「君に嫌われたままでもいい。だけどこの思いは本物だ。僕はっ――僕はかけが
えのないものを与えてくれた君を、心の底から愛しているっ……!」


 引いたばかりのカードをD・フェースに読み込ませ、発動させるとともに、須浦
の墓地から連結した銃を持つ3体の塗師が薄っすらと現れると、発生した渦に取り
込まれて混ざりあう。


 「魔法カード《アディティブミクスチャー・フュージョン》! 僕の場と墓地からモンスターを除外し“ボレーマスケッチ”を融合召喚する……!」


 アディティブミクスチャー・フュージョン 通常魔法
 このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。
 (1):自分のフィールド・墓地から、「マスケッチ」融合モンスターカードによ
 って決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召
 喚する。


 「よって3体の“ボレーマスケッチ”を融合させる! 階層を塗り潰す並々と注
がれた“バケツの光”! “融合召喚”! 《ボレーマスケッチ・ホワイトインク
》……!」


 ホワイトインク攻撃力2800。


 「そいつは……!?」

 「ホワイトインクがいる限り、場のモンスターは光属性となり、君の場にいる光
属性モンスターの効果は無効化される」

 「だけど――このカードなら、そいつを撃ち抜ける! 罠カード《ハディース・デジタイゼーション》……!」


 自らのランプの魔神と、白い塗料を三連結した銃に充填させた塗師を指差して千
夜が罠の発動を宣言するも、想定内だと須浦は表情を崩さず、残る手札1枚を発動させた。


 「だったら速攻魔法《オポジット・フュージョン》だ! このカードでホワイト
インクを混ぜ合わせる前の色へと分離させる……!」


 オポジット・フュージョン 速攻魔法
 このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。
 (1):自分フィールドの「マスケッチ」融合モンスター(表側表示)1体を墓地
 に送って発動できる。以下のモンスターを1体ずつ墓地から守備表示で特殊召喚
 する。
 ●墓地のそのモンスターと同じ属性の「マスケッチ」モンスター
 ●墓地のそのモンスターと属性が異なる「マスケッチ」モンスター


 「よって僕は、ホワイトインクを元の白と異なる赤――インクチャージャーとレ
ッドインクへと分離させる……!」


 現れた粘土板へとランプの魔神と白の塗師は取り込まれようとするが、塗師へと
向かう黒い雷は対象を撃ち抜けず、ランプの魔神のみを彼女の手札へと戻させる。

 そして宙に浮かぶ白の塗料は、それぞれ白と赤の塗料を詰めたモンスターへと分
離した。


 「ちっ――だが“アル=ナジュム”が場から離れた事でっ! このカード……く
っ、罠カード《千一夜の跋尾》を発動するっ……!」


 千一夜の跋尾 通常罠
 このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 (1):地属性・雷族モンスター(表側表示)がフィールドから離れた場合に発動
 できる。そのモンスターのレベルより高いフィールドのモンスターをエンドフェ
 イズまで除外する。
 (2):相手がモンスターを除外した場合に墓地のこのカードを除外して発動でき
 る。このターンに除外された除外状態の地属性・雷族モンスター1体を自分フィ
 ールドに攻撃表示で特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターはターン終了時まで以下の効果を得る。
 ●このカードの攻撃力は、除外状態のカードの数×100アップする。


 「場から離れたイフリートよりレベルの高いモンスターは、このターンが明ける
まで除外される――。だろ?」

 「お前っ――」


 千夜が躊躇いつつも、発動させた罠によって、須浦の場にいる塗料撃ち続ける塗
師と劇場指揮者――更に疑念に囚われた王は開かれた書物のページに取り込まれ、
ランプを手にした商人のみが場に残される。


 「よく効果を知っている――。と言いたげだが、当然だろう? それは僕が君に
プレゼントしたカードだからだ」


 効果を処理して消滅しつつあるカードを指差しながら、須浦が千夜に答えると、
彼女の瞳の奥に映る元の千夜はハッとして、“あの時”の情景を思い浮かべた。





 ――笑原! ……これ、君にあげる――。


 2人が出会ってから3年近くが過ぎ、卒業を間近に控えた千夜は、教室から最後
の部活動へと向かおうとしたところを須浦に呼び止められた。


 ――これって――。

 ――少し早い卒業祝い――というか、明日は君の誕生日だから――というか――



 明後日の方を向きつつ、しどろもどろに答える須浦から手渡されたカードを千夜
は何度も見返すと、なんとなく須浦が伝えようとすることを察して彼に問いかけた



 ――後はバレンタインのお返し――とか?

 ――もう、それでいいよ――。

 ――なにさーっ? 今までくれなかったのに、どういう風の吹き回し……?


 今まで見た事のないくらい動揺している須浦をからかうように千夜は言い返すと
、取り出した自らのデッキにそのカードを収め、満面の笑みで彼へと言い返した。


 ――まっ、あたしのデッキと相性抜群のいいカードだし、遠慮なく受け取っち
ゃうから……!


 もう返さない――。と、須浦に別れを告げて教室を後にした千夜は、彼から初め
て渡されたプレゼントに自然と表情を綻ばせながら、そのまま演劇部の部室へと向
かって行ったのであった。





 「うっ……あぁっ……!?」


 元の千夜が催眠への抵抗を強めた事で、千夜は頭を押さえて苦しみだすと、彼女
の変化に催眠が解けかけていると須浦は察する。


 「くそっ――こんなカードさえなければっ……!」
 
 「……あの時の事を覚えていてくれて、今も使い続けてくれてありがとう。おか
げで自我が戻り始めた……!」


 墓地から色を混ぜ合わせる塗師を除外するとともに、発生した渦へと呼び出した
2体の塗師は取り込まれていき、カードを液晶盤へと置くことで新たに連結された
銃を持つ塗師が、須浦の場に“融合召喚”された。


 「墓地のインクミキサーを除外することで、再び融合を行う! 現れよ――《ボ
レーマスケッチ・マゼンタインク》……!」


 マゼンタインク攻撃力2000。


 「また融合か――だけどお前がモンスターを除外したことで、墓地から《千一夜
の跋尾》を除外し、このターンに除外された除外状態のシャフリヤールを再び呼び
戻すっ!」


 元の千夜を無理やり抑え込み、千夜が須浦に渡されたカードを墓地から除外する
とともに、開かれた書物の中から怒りの形相をした疑念に囚われた王は舞い戻り、
自らの力を増していく。


 「この効果で呼び戻したシャフリヤールは、このターンの間除外状態のカード1
枚に付き、攻撃力が100アップするっ……!」

 「除外状態のカードは、君が3枚。僕達が10枚――」


 シャフリヤール攻撃力2600→3900。


 「ほら、あたしを取り戻す。だってぇ……!? 寝言は寝て言えよ! このシャ
フリヤールを倒さなければ次のターン、戻ってきたモンスターへの攻撃であたしの
勝ちだ……!」

 「……君は次のターンが待ち遠しいようだが、悪いけどそんな夢見など、僕が覚
ましてやる! 融合素材となったレッドインクの効果で、墓地からグリーンインク
を蘇生!」

 「だったらあたしもぉ! レベル7“アル=ナジュム”が現れた事で、墓地の《
パイレーツ・オブ・クラックダウン》を除外して効果発動だっ……!」 


 怒りの形相をした疑念に囚われし王が、再び黒い雷を発すると、彼女の場からラ
ンプを手にした商人が黒い雷によって消滅し、更に2体の塗師も降り注ぐ黒い雷に
よって場から追放される。


 シャフリヤール攻撃力3900→4300。


 「これでシャフリヤールよりレベルが低い場のモンスター全ては、このターンが
明けるまで除外され、4枚のカードが除外されたことで攻撃力は400上昇したぁ
!」

 「……僕はグリーンインクが現れた事でマゼンタインクの効果により、墓地の《
融合》を手札に戻す」

 「これでお前の場はガラ空き! 手札に握るその融合も、他にカードが無くちゃ
使えないもんねぇ……!?」


 自らの勝利は疑いようもないと、ようやく勝敗は決したとばかりに千夜は安堵す
るとともに勝ち誇るが、残ったカードを須浦は眺めつつ、まだ――。と言葉を発す
る。


 「まだ――終わってはいない……!」

 「っ……!? いい加減諦めなよぉ! あたしはお前を好きにならないし、ここ
から逆転なんてありえないんだよっ……!」


 往生際が悪いと、千夜は須浦を屈させようと言葉を投げかけるが、彼が墓地から
発動させたカードを見て、一瞬たじろぐ。


 「墓地から《アディションズ・リペイント》を除外することで、効果発動。除外
状態のジェットインクをEXデッキに戻す」

 「今更1枚戻したところでっ……!」

 「そして《融合》を発動。《アディションズ・リペイント》によって戻したカー
ド名のモンスターを融合召喚する際、このターンに除外された除外状態の“ボレー
マスケッチ”を融合素材にできる……!」


 D・フェースから取り出したジェットインクを千夜へと見せて、再びD・フェー
スへと戻すとともに、手札から発動した《融合》の魔法が2体の塗師を呼び戻すと
、発生した渦の中で色を混ぜ合わせていく。


 シャフリヤール攻撃力4300→4400→4100。


 「除外融合――だとぉっ……!?」

 「僕は除外状態のマゼンタインクとシアンインクで融合。再び現れろ――《コン
テュニアスマスケッチ・ジェットインク》……!」


 ジェットインク攻撃力3000。


 「だけどっ――シャフリヤールの攻撃力4100には及ばないっ……!」

 「EXデッキからシアンインクを墓地に送って、ジェットインクの効果発動だ!
 ジェットインクはシアンインクのカード名と属性を受け継ぎ、シャフリヤールは
シアンインクと同じ水属性となる!」


 墓地へと送られた2丁合わさった銃を持つ塗師が、塗料撃ち続ける塗師の背後に
うっすらと現れて消滅すると、背負った大容量のタンクから接続された銃に青の塗
料が送り込まれる。

 そして放出された塗料が津波のように押し寄せ、疑念に囚われた王を飲み込むと
、流れる塗料の勢いは背後の瓦礫にまで達して、内部まで浸透していく。


 シャフリヤール(地→水) 攻撃力4100→3600。


 「発動中のフィールド魔法《世絵画廻り》によって、属性の異なる相手モンスタ
ーの攻撃力を500ダウンさせる」

 「くっ――それでもあたしは、現様の忠実な僕だっ!」

 「……持ってくれよ。僕の身体――笑原は誰の物でもない! 君の未来は君が決
めるんだ……!」


 バトルを宣言した須浦は、攻撃力で上回る疑念に囚われた王へと攻撃を仕掛けよ
うとするが、千夜もこの反撃で決めようと高らかに命令する。


 「僕はジェットインクでシャフリヤールを攻撃――スプレーイング・ディスチャ
ージ……!」

 「不届き者を断罪しろぉ! マラキーヤ・ラアドォォッ……!」


 塗料撃ち続ける塗師は両手の銃から再び大量の塗料を放出するも、疑念に囚われ
た王が放った雷が広がり、巨大な王城を形作っていく。

 そして塔の先端から放たれた黒い雷は、一瞬で塗料を蒸発させて塗師ごと須浦を
貫いた。


 「っ……!?」


 須浦&八千代LP700→100。


 「無謀な攻撃――感電して地に伏せなぁっ……!」


 雷に貫かれた塗師が爆発とともに消滅する中、胸の中央を雷で貫かれた須浦の身体は宙を舞い、地面へと叩きつけられて意識が飛ばされる中、再び起き上がった八千代が駆け寄って来た。


 「起きろ! 須浦君っ……!」


 横たわる須浦の元で、八千代は停止した心臓を再び動かそうと、何度も圧迫を加
えて必死に彼を蘇生させようとする。


 「無駄だよぉ! そいつは今の攻撃で完全に――」


 やがて手を止めた八千代は、涙を流しながら動かない須浦の身体に突っ伏して、
泣き声を上げ始めた。


 「……まだ、やれる――」


 指先がピクリと動き、再び心臓が鼓動を再開したことで意識を取り戻した須浦は
目を開けてゆっくりと起き上がると、彼が復活したことで喜ぶ八千代に支えられな
がら再び立ち上がる。


 「嘘だ――何でお前は立っていられるんだよぉ……!?」

 「だって、そうだろう――笑原は僕の……僕にとって大切な人だから――」


 千夜を救うため、自力で死の淵から蘇った須浦の執念に、元の千夜が瞳の奥から
抵抗を強めた事で、千夜は頭を押さえて苦しみだす。


 「……君になら千夜を任せられる。君も男なら惚れた女の子の1人くらい、見事
救いだして見せろ……!」

 「……言われなくても、既に勝利を描くまでの筆入れは完了した。EXモンスタ
ーゾーンのジェットインクが破壊されたことで、墓地の《スタビリティ・イーゼル
》を除外し、効果発動だ」


 これで最後だ――。と言わんばかりに、疲弊した身体を無理やり奮い立たせ、八
千代に支えられつつも須浦は墓地から罠カードを除外して、効果を発動する。


 「相手によってEXモンスターゾーンの“マスケッチ”が場を離れたため、新た
な“マスケッチ”をEXモンスターゾーンに特殊召喚する!」

 「くっ――無謀な攻撃は、そのカードの発動が狙いなわけぇ……!?」

 「僕が呼ぶのは、水墨で侘び寂びの世界を描き出す黒き芸術家――《ボレーマス
ケッチ・インディアインク》だ……!」


 発動された効果によって、炭を原料とする黒く濁った塗料を銃に詰めた塗師が、
背中のタンクに墨汁を充填させつつ場に現れた。


 インディアインク攻撃力2800。 シャフリヤール攻撃力3600→3700。


 「これが本当の最後……! インディアインクでシャフリヤールを攻撃――」

 「それでも攻撃力では及ばないっ! 次も自滅するだけだ……!」

 「インディアインクがEXモンスターゾーンにいる限り、全ての場のモンスター
は闇属性となり、レベル5以上の闇属性モンスターと戦闘する場合、そのモンスタ
ーの元々の攻撃力を得る……!」


 ボレーマスケッチ・インディアインク
 融合、効果モンスター
 /闇/レベル8/戦士/攻撃力2800。
 属性が異なる「マスケッチ」融合モンスター×3
 (1):「ボレーマスケッチ・インディアインク」は自分フィールドに1体しか表
 側表示で存在できない。
 (2):このカードがEXモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモ
 ンスターの属性は「闇」になる。
 (3):1ターンに1度、このカードがEXモンスターゾーンに存在する場合、こ
 のカードがレベル5以上の闇属性モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動
 できる。このカードの攻撃力はダメージステップ終了時まで、戦闘を行うモンス
 ターの元々の攻撃力分アップする。


 インディアインク攻撃力2800→5400。 シャフリヤール(地→闇)


 「嘘だ――現様から力を頂いたあたしが――」


 放出された墨汁が疑念に囚われた王を飲み込み、背後の瓦礫まで押し流すと、先
程の塗料が浸透したことにより、巨大な瓦礫は強度を失い呆然と立ち尽くす千夜へ
と傾き始めた。


 千夜&織姫LP1400→0。


 「須浦君っ……!?」


 今にも崩れ落ちそうな瓦礫に気付いた須浦は、八千代の腕を振りほどき、最後の
力を振り絞って立ち尽くす織姫に呼びかけつつ、千夜の元へと駆け出した。


 「“自分”を取り戻せ――笑原……!」


 呼び掛けに気付いた織姫が八千代の元へと駆け出したその瞬間、千夜の真上の瓦
礫は轟音を上げて崩落し、彼女へと降りかかろうとする。


 「2人ともっ……!?」

 「――っ……! “千夜”……!」


 初めて彼女を名前で呼び、最後は倒れるように千夜を抱きしめた途端、2人の姿
は直径数メートルはある瓦礫に埋もれていく。

 土煙が舞い上がると、八千代は自我を取り戻した織姫とともに叫び声を上げ、2
人に覆い被さった瓦礫を動かそうとする。


 「……あれっ、あたし――っ……!?」


 自我を取り戻した千夜は、自らの上に覆いかぶさる須浦が後頭部から大量の血を
流し、首から制服の肩まで血で真っ赤に染まった姿に、震えながら涙を流す。


 「嘘――血が……!?」

 「……っ、ごめん。君を守り切れなかった……」


 須浦は薄っすらと目を開けたまま、千夜の左頬からガラス片で切った際の血が流
れているのを目に映す。

 そして頭に穴が開いたかのような激しい痛みと、朦朧とし始めた意識の中、申し
訳なさそうに彼女へと謝った。


 「ううん……全部聞こえてたよ。“藤次君”っ――あたしも大好き……」


 須浦の思いに答えるかのように、千夜が両手で須浦の顔に触ると――自らの顔を
近付けていく。

 そして2人の距離は完全に埋まり、お互いに唇を重ね合わせると、再び2人が離
れるとともに覆っていた瓦礫は取り払われた。


 「2人ともっ! っ……!? 須浦君……!」


 八千代が力を込めて瓦礫を動かし、織姫が2人を引っ張り出すとともに、流れ出
た大量の血で肩まで真っ赤に染めている須浦を見て2人は絶句する。


 「……今度はあたしが、藤次君を助けるんだっ……!」


 起き上がった千夜は、自ら制服のボタンをはずし始め、制服と中に来ていた肌着
を脱ぎ捨て、上半身を下着のみにする。


 「千夜ちゃん……!? 上から羽織って……!」


 白の肌着が血で真っ赤に染まり始めたにもかかわらず、自らの膝の上でうつ伏せ
に寝かした須浦の傷口に、着ていた肌着を押し当て止血しようとする。


 「お願い2人とも! 藤次君を助けるためだからっ……!」

 「……私達の友人を、こんなところで死なせはしない……!」


 2人も千夜に制服のシャツを着させると、彼女に倣って自らの肌着を差し出し、
再び制服を着ると八千代は助けを求めに校舎へと駆け出していく。


 「私――保健の先生を探してくるっ……!」

 「絶対に死なせないからっ……! あたしの“恋人”はっ……!」


 3人分の肌着が血で染まり始めたことすら気にもせず、必死に彼の名前を呼んで
意識を途切れさせないようにする千夜に、須浦は痛みに呻きながらも千夜の膝の上
で何とか意識を保っている。

 やがて八千代が連れてきた数人の教員が駆け付けるとともに、彼を乗せた担架は
保健室へと向かい、中庭を後にするのであった。





八千代「……遂に、あの2人が結ばれたのだな」

織姫「本当に良かったね! ……あ、今回もビナリウス回顧録! 始まるよーっ」


八千代「今回の話では私と須浦君の奮戦により、無事に先輩と千夜を目覚めさせる
ことができた」

織姫「ありがとうね2人とも。千夜ちゃんと須浦君、改めてこれまでの話を見返し
たら、この2人――前々から絡みが多かったんだねぇ……」

八千代「私としては、1章最後の幕間を一押しするよ。千夜もこの時、彼の口から
好きだと伝えられるとは思わなかっただろうな」

織姫「だねーっ。……それにしても、千夜ちゃんを庇って――須浦君大丈夫かな」

八千代「すぐに手当てしたんだ。大丈夫――きっと助かる筈」

織姫「それじゃあ次回、皆を催眠させた元凶である夢枕君を倒すため、日吾君が屋
上へと追い詰めた彼にデュエルを挑むよ」


 『次回――遊戯王Binarius(ビナリウス) -夢を喰らう獏-』


八千代「残る皆が目を覚ますには、日吾先輩が勝利するかにかかっている」

織姫「あれは……!? 千夜ちゃんとのデュエルで出さなかったモンスター!? 
次回、本気の夢枕君が日吾君へと襲い掛かる」
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ジェム貯めナイト
作中初のカップル成立おめでとう。
初期から構想していたのをようやくお披露目できました。 (2023-08-11 18:06)

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