３１Turn　舞い上がる不死鳥の輪舞　作：ジェム貯めナイト

　遂に姿を現したミダースの切り札――《重家禽－アディクピジョン》を前に、サ
バスはおろか配下の社員達とマノンもデュエルの手を止めて、現れた巨大な黄金色
の鳩に見入っていた。


　アディクピジョン攻撃力3000→2700。　ミダースLP6600→6900。


　『これぞ此地の分身――“ユーメイ様”が人々の“心の闇”より生み出した怪物
よ――』


　グルル――。と低く唸る鳩を前に、サバスは“光の精霊の力”を発現し、金色に輝く瞳で黄金色の鳩を見上げる。


　「イーサ様の力とは対極の……“悪意”を根源とする力――」


　虹色に輝く瞳を持ち、全身に散りばめられた虹色の宝石を輝かせる巨大な黄金色
の鳩は、やがてミダースの宣言を受けて翼を羽ばたかせる。


　『此地はプロメテウスを対象に、アディクピジョンの効果発動！　ビリング・イ
ンサルヴェンシィ……！』


　そして原初の炉を持つ機械人形に対して、その場に立っていられないほどの重圧
を発生させた。


　重家禽－アディクピジョン
　効果モンスター
　/地/レベル８/サイバース/攻撃力3000。
　(1)：このカードは、レベル８以下のモンスターとの戦闘では破壊されず、レベ
　ル８以下のモンスターの効果では破壊されない。
　(2)：１ターンに１度、相手フィールドのカード１枚を対象に発動できる。
　相手は自分と相手のＬＰの差の数値分ＬＰを払ってこの効果を無効にできる。
　払わなかった場合、対象のカードを破壊する。


　『この効果により、其地は此地とのＬＰ差分ＬＰを支払わなければ、対象のプロ
メテウスは破壊される』

　「お前とのＬＰ差は５７００――払えるわけがねぇ」

　『だったら潰れろ――プロメテウス……！』


　重圧に押し潰され、プロメテウスが圧壊されて崩壊すると、ミダースがバトルフ
ェイズを宣言するとともに、金色の鳩は宙へと飛び立った。


　『破綻せよ――此地はアディクピジョンでその不死鳥を攻撃！　ペイメント・レ
ピティション……！』


　上空の鳩が吐き戻しを行うことで、素嚢に貯めこんだ虹色に輝くミルクが洪水の
ように噴き出すと、不死鳥が纏う炎は消火され、ミルクの海で溺没する。


　「ぐっ……！？」　サバスLP1200→800。


　　「サバスッ！？　キャッ……！？」


　再びデュエルは再開し、３体目の巨大に成長した卵用鶏が、墓地より蘇ったトナ
カイをその巨体で押し潰す。

　そして発生した“闇のデュエル”による衝撃で、サバスとマノンは吹き飛ばされ
、お互いを隔てるフィールド魔法が発生させた炎の壁へと衝突して横たわった。


　『これが“地”力の差というものよ――其地らの力など、所詮此地ら“秘号”（
エンクレーブ）に遠く及ばない……！』


　呻きながらもサバスは再び起き上がり、ミダースを睨むが立ち上がろうとした瞬間、炎の壁越しにマノンの指先を視界に捉え、振り返ると横たわったまま目を閉じているマノンを瞳に映した。


　「マノン！？　おい！　しっかりしろ……！」

　「…………」


　薄っすらと目を開け、サバスの呼び掛けに気付いたマノンは、それでも起き上が
るそぶりを見せず、再び目を閉じた。

　「立ち上がれ……！　でなければ終わりだぞ……！？」

　『地っ、小娘如きに手こずりおって――しかしそこまでいたぶれば、碌な反撃な
ど出来やしない――』


　倒れたマノンの元へと近づく配下の社員達に気付き、サバスはもう一度大声で彼
女へと呼び掛ける。

　するとマノンは、ハッとして目を開けると、自らを奮い立たすかのように叫び声
を上げながら、ゆっくりと身を起こした。


　「……アタシはっ――まだやれる……！」


　再び立ち上がってＤ・フェースを構え、なおも諦めずに立ち向かおうとするマノ
ンの姿を目にしたサバスは、再び立ち上がって彼女と背中合わせになりつつ、自ら
もＤ・フェースを構えた。


　「……孤児院じゃ、年上の子にからかわれても――嫌な子に陰口叩かれてもっ―
―サバスがいるからアタシは１人でも耐えられたっ……！」

　「お前――」

　「アタシがこんなとこで、弱音を吐くなんて、絶対にありえない……っ」


　圧倒的に不利な状況でも、折れない心で立ち向かう。

　だからこそ期待の新人だと、デッキからカードを引き自らのターンを開始したマ
ノンを目にして、サバスはふと、かつて彼女と交わした“約束”を思い出す。


　「アタシはサバスがいる限り、弱音は吐かない！　あの日の“約束”――忘れる
わけないでしょ……っ」

　「……あんな昔の事――だったらオレも、それに答えねぇとなぁ！」


　ミダースへと手のひらを突き出し、効果の発動を宣言することで、熱された鉄球
を転がす鋼鉄の甲虫は、墓地より再び場に戻って来た。


　「上級以上の“秘炉”が破壊されたことで、墓地のスカラベは復活するぜ。そし
てログボイラーのＬＰを回復する効果は、オレの召喚に対しても有効だ」


　秘炉巡礼者（ヴェリーバー ピルグリム）スカラベ
　効果モンスター
　/炎/レベル３/機械/攻撃力1100。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードが墓地に存在する場合に自分フィールドのレベル５以上の「秘
　炉」モンスターが破壊された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。
　(2)：このカードが「秘炉」カードの効果でリリースされた場合に発動できる。
　デッキの上からカードを３枚めくり、その中から「秘炉」モンスター１体を選ん
　で墓地に送る。


　スカラベ攻撃力1100→1400。　サバスLP800→1100。


　「更にオレのＬＰが回復したため、墓地のフェニックスは死の床より再び羽ばた
く……！」


　フェニックス攻撃力2000→2300。サバスLP1100→1400。


　『……此地はカードを２枚伏せ、ターン終了――』

　「だったらオレのターンだよなぁ！？　ドロー！」

　『だがこの瞬間、永続トラップ《家禽至上－Ｐ２Ｗ》を発動する。よって其地は
３００の倍数ＬＰを支払わなくてはならない』


　家禽至上－Ｐ２Ｗ　永続罠
　(1)：このカードの発動時に相手プレイヤーはＬＰを３００の倍数払う（最大３
　０００まで）。その後自分は相手が払った数値の倍のＬＰを払うことができる。
　このカードが表側表示で存在する限り、お互いのモンスター同士が戦闘を行う場
　合、お互いのモンスターの攻撃力・守備力はこの効果で払った数値分アップする
　。


　「何度要求しようが、最低値しかベットしねぇ」

　『ならば此地はその倍――６００を支払う。よってこのカードがある限り、其地
は攻撃力が３００以上上回らなければ、此地のモンスターは倒せない！』


　サバスLP1400→1100。　ミダースLP6900→6300。


　「だったら、それ以上で上回りゃいいだけだろ？　オレは《秘炉多産（ヴェリー
バー ファティリス）レプス》を召喚だ！」


　液晶盤に新たなカードが置かれると、サバスの場には新たに体内へと炉を秘めし
、長い耳に炎を纏った鋼鉄のウサギが現れると、跳ねるように場を駆け回り始める
。


　秘炉多産（ヴェリーバー ファティリス）レプス
　効果モンスター
　/炎/レベル２/機械/攻撃力700。
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分フィールドの「秘炉」モンスター１体をリリースして発動できる。
　自分の墓地からリリースしたモンスターの攻撃力以下の「秘炉」モンスター１体
　を選んで特殊召喚する。
　(2)：このカードが「秘炉」カードの効果でリリースされた場合に発動できる。
　デッキから自分の墓地の「秘炉」モンスターの種類の数以下のレベルの「秘炉」
　モンスター１体を特殊召喚する。


　レプス攻撃力700→1000。　サバスLP1100→1400。


　「そしてフェニックスをリリースすることで、レプスの効果発動だ！　その攻撃
力２３００より低い攻撃力を持つビジー・ビーを蘇らせ、フレイム・ソサエティの
効果でフェニックスを回収するぜ」


　そして跳ね回る炎の耳を持つウサギが融解して溶け落ち、手札に戻った不死鳥が
再び炎を纏って飛び立つとともに、生命力あふれる火の粉が舞い落ち、サバスのＬＰを回復させる。


　フェニックス攻撃力2000→2300。　サバスLP1400→2100→2400。


　「手札のフェニックスは場の“秘炉”をリリースして特殊召喚でき、リリースし
たレプスの元々の攻撃力分、オレのＬＰを回復させる」

　『着実にＬＰを増やしてきたか。しかしいずれは尽きるだけ』

　「更にリリースされたレプスの効果で、オレの墓地に“秘炉”が５種類いるため
、デッキからその数より低いレベルの《秘炉乳母（ウェットナース）アルカトラズ》を製造する……！　そして最後に永続魔法《甦来の主日》を発動しておくぜ」


　サバスがこれで最後だと、２枚のカードのうち、鋼鉄のペリカンが描かれたカードを液晶盤へと置く。

　そしてもう１枚をＤ・フェースに読み込ませると、宙に現れた真っ赤な色の不死鳥の羽が、その場で静かに回り始める。


　墓地（エンジェル　ビジー・ビー　サラマンダー　プロメテウス　レプス）
　アルカトラズ攻撃力400→700。　サバスLP2400→2700。


　『地っ――だが４体も低級モンスターを並べようが、此地の分身には遠く及ばな
い！』

　「塵積もり築いた山なんざ、不死鳥が放つ炎で一夜城よ！　オレはフェニックス
でアディクピジョンを攻撃！」


　上空で羽ばたく黄金色の鳩の元へと、２羽の鋼鉄の鳥は飛び立ち、黄金色の鳩を
追い越すと上空から鋭い眼光で見下ろして、位置的優位を取った。


　「そしてダメージ計算時、アルカトラズをリリースすることでフェニックスへと
炎が分け与えられ、攻撃力は元々の攻撃力分上昇する……！」


　２羽で並び飛ぶ鳥のうち、鋼鉄のペリカンは胸部の鋼板を開け放ち、内燃する炉
から発した炎が不死鳥が纏う炎の火力を増大させるとともに、不死鳥は甲高い鳴き
声を上げながら速度を上げて降下する。


　フェニックス攻撃力2300→2600（Ｐ２Ｗ）。　アディクピジョン攻撃力2700→3300（Ｐ２Ｗ）。　フェニックス攻撃力2600→4600。


　『させぬ――罠カード《家禽戦線－ランクマッチ》！　このカードで身を焼く鳥
の攻撃は無効となり、その攻撃力分其地はＬＰを支払わなくてはならない』


　家禽戦線－ランクマッチ　通常罠
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分フィールドの地属性・サイバース族モンスターが攻撃対象となった場
　合に発動できる。その攻撃を無効にし、相手はそのモンスターの攻撃力分ＬＰを
　支払う。


　「その支払いは介在される……！　カウンター罠《神々の鋳塊》……！　バトル
フェイズに発動したカード効果を無効にする！」


　巨大な鳩へと降下する不死鳥を阻むように、発動された罠は天上の神々によって
介入され、無効にされるとともに炎纏った不死鳥が巨大な鳩へと覆い被さる。


　『無駄だ！　無駄無駄！　此地ら“秘号”（エンクレーブ）は、凡庸な力の持ち
主に消滅されることはない……！』


　だが不死鳥は振り払われ、燃え移った炎も消火されると、悪意により生まれし虹
色の宝石が散りばめられた巨大な黄金色の鳩は、低く唸るような声を上げてより力
強く羽ばたいた。


　ミダースLP6300→5000。


　「レベル８以下のモンスターでは、破壊できないってか――」

　『其地ら凡人が扱えるモンスターの最高レベルは、精々８が限界。人を超えし此
地ら“秘号”を、完全に消滅させるには至らない』


　分け与えられた炎を消費し、力尽き墜落した不死鳥が墓地へと送られると、既に
リリースされていた鋼鉄のペリカンの効果が発動される。

　そして墓地からデッキに戻す５枚のカードを選択するよう、サバスのＤ・フェー
スは光を点滅させて持ち主へと知らせる。


　「どうすればいい……？　このままじゃ奴を倒せねぇ――」


　Ｄ・フェースを操作し、墓地から５枚の“秘炉”カードをデッキへと戻したサバ
スは、デッキが自動でシャッフルされるとともに、デッキの一番上のカードに手を
掛けた。


　『此地ら“秘号”は、人々の心の闇より生まれし者――人の世がある限り何度で
も蘇る』

　「だとしても、目の前に立ちふさがるお前さんらを見逃す訳にはいかねぇ！　“
光の精霊の力”授かりしオレ達“守護霊の防人”が、この世の平穏を願うイーサ様
に代わってお前さんらを断罪する……！」


　デッキからカードを引き、確認したサバスは思考を巡らせる。

　引いたカードと場に残るカード――更に墓地のカードから、行ける――。とサバ
スは勝利への道筋を確信し、早速引いたカードを発動させた。


　「これなら……！　オレは速攻魔法――《血肉の聖別》により、場のモンスター
１体を聖体化させる！　オレが選ぶのは――」


　ミダースの場で羽ばたく巨大な黄金色の鳩を指差すとともに、新たにカード効果
が付与されたことで、黄金色の鳩は全身をより煌かせる。


　『此地の秘号を選ぶだと……！？　何のつもりだ！』

　「時期に分かるさ。オレはスカラベでアディクピジョンを攻撃するぜ……！」


　折りたたまれた薄い翅を広げ、黄金色の鳩へと突撃する鋼鉄の甲虫だったが、再
び吐き戻された虹色のミルクが甲虫を押し戻し、水没させるとともにサバスへとダ
メージが発生する。


　スカラベ攻撃力1400→1700（Ｐ２Ｗ）。　アディクピジョン攻撃力2700→3300（Ｐ２Ｗ）。
　サバスLP2700→1100。


　『無謀な攻撃――ヤケになったか』

　「ぐっ――スカラベを破壊したことにより、オレが聖体化させたアディクピジョ
ンが得た効果を、オレが対象を選んで発動させる！」


　血肉の聖別　速攻魔法
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：フィールドのモンスター１体を対象に発動できる。そのモンスターはこの
　ターンのエンドフェイズまで以下の効果を得る。
　●このカードが相手モンスターを戦闘で破壊し墓地に送った場合に発動できる。
　自分の墓地からそのモンスターよりレベルの低いモンスター１体を守備表示で特
　殊召喚し、そのモンスターの攻撃力分相手はＬＰを回復する。


　「よって破壊されたスカラベよりレベルが低い、お前さんの墓地にあるガチャボ
ットを蘇生し、その１連毎に勝利を托生して回させてもらうぜ」


　聖体化した黄金色の鳩が唸るような鳴き声を上げることで、ミダースの墓地より
虹色の矮鶏が復活すると、再抽選によりサバスは１連分のＬＰ３００を支払う。


　サバスLP1100→1400→1100。　ミダースLP5000→5300→5600。（除外枚数：１）


　「そして蘇ったガチャボットの攻撃力分のＬＰをオレは得る。そしてＬＰ回復を
トリガーに、墓地のフェニックスは再び灰の中から飛翔する……！」


　サバスLP1100→1400。　フェニックス攻撃力2000→2300。


　「まずは“１枚”――続けてこの不死鳥でガチャボットを攻撃！　破壊したこと
で《甦来の主日》の効果が発動する……！」


　不死鳥の炎が虹色の矮鶏を焼き払うのを合図に、空中で回る薄い鋼鉄の羽が熱を
帯びるとともに、不死鳥が纏う炎は活性化され、続けて黄金色の鳩へと接近してい
く。


　甦来の主日　永続魔法
　(1)：自分の墓地より特殊召喚した「秘炉」モンスターが、相手モンスターと戦
　闘を行ったダメージステップ終了時に発動できる。
　そのモンスターの攻撃力は戦闘した相手モンスターの元々の攻撃力分アップし、
　もう１度続けてモンスターに攻撃できる。


　「よってオレは墓地より蘇ったフェニックスで、次はアディクピジョンを攻撃だ
――ぐっ！？」


　フェニックス攻撃力2300→2600（甦来の主日）→2900（Ｐ２Ｗ）。　アディクピジョン攻撃力2700→3300（Ｐ２Ｗ）。

　サバスLP1400→1000


　『地っ――破壊されたことで先程と同じく、聖体化による効果が発動する――』


　再びサバスがモンスターを玉砕させるとともに、ミダースの墓地から虹色の矮鶏
を蘇生させＬＰを得るとともに、抽選が始まり上級モンスターである不死鳥の破壊とＬＰの回復により、鋼鉄の甲虫と不死鳥はサバスの場へと舞い戻った。


　サバスLP1000→1300→1000→1300→1600。　ミダースLP5600→5900→6200
　。（除外枚数：１）


　『《甦来の主日》と不死鳥の蘇る効果には、１ターン中の制限が無い――まさか
これは……！？』

　「今より１連ごとに１００ＬＰを消費し、繰り返す“ループコンボ”は、オレが
最初に受けるダメージ４００を耐えきれなくなる１２連まで続く」


　ミダースを指差しながら、サバスが不死鳥の突撃を宣言することにより、虹色の
矮鶏が再び破壊され黄金色の鳩へと玉砕するも、蘇った虹色の矮鶏による抽選を得
て、デッキの上１枚が除外されるとともに再び不死鳥は蘇る。


　サバスLP1600→1200→1500→1200→1500。　ミダースLP6200→6500→6800。
　（除外枚数：１）


　「今ので残り１１連だ。お前さんの場にカードは５枚。墓地に８枚。除外状態の
カード１６枚を引いた残りのデッキ枚数も、途切れるまでの回数と同じ１１枚……
！」

　『ぐうぅ――おのれぇぇ……！』

　「教会の財力を甘く見積もるなよ？　不死鳥が繰り返す“輪舞（ロンド）”によ
って、勝利という狙いの景品は“当たるまで回し続け”る……！」


　デュエルモンスターズにおいて、相手のＬＰを０にする以外に勝利条件を満たす
条件――それは相手のデッキからカードが無くなり、ドローフェイズにドローでき
なくなった場合に、対戦相手の勝利が決定される。

　再び不死鳥が虹色の矮鶏を破壊して《甦来の主日》により、黄金色の鳩へと玉砕
すると、鳩に与えられた《血肉の聖別》が虹色の矮鶏を蘇生させ、抽選が行われる
とともに《血肉の聖別》によるＬＰ回復が、灰の中から再び不死鳥を舞い上がらせ
る。


　「アタシも負けていられない！　《C・S・Ë ナティビティ》の発動だよ……！」


　マノンも儀式魔法により、白髭の聖人の儀式召喚に使用していた墓地の《C・S・
Ë エトワール》１体で儀式を執り行うことで、彼女の切り札であるくるみ割り人形
が鞘から剣を抜き、社員達へと切っ先を突き付ける。


　カッス・ノワゼット攻撃力2400。


　「アタシはカッス・ノワゼットの効果発動！　手札から３体の“C・S・Ë”を捨
てて、３体のレスポーンの効果を無効にして攻撃力を０にする！　ペイザージュ
アンネジェ……！」


　手札３枚を墓地に送ることで、くるみ割り人形が呼び寄せた猛吹雪が３体の卵用
鶏へと押し寄せ、翼の先から順に凍り付かせていく。


　レスポーン×３攻撃力6000→0。


　「この効果で３枚墓地に送ったカッス・ノワゼットは、このターン相手に与える
ダメージを１度だけ倍にする！　更に手札から捨てられた《C・S・Ë スレイベル》
が、カッス・ノワゼットに相手モンスター全てへの攻撃を可能にするっ……！」


　C・S・Ë スレイベル
　効果モンスター
　/光/レベル４/天使/攻撃力1400。
(1)：このカードが手札から墓地へ捨てられた場合、自分フィールドの「C・S・Ë
　」儀式モンスター１体を対象に発動できる。このターン、そのモンスターは相手
　モンスター全てに１回ずつ攻撃できる。


　『まさか――地の“秘号”（エンクレーブ）たる此地らが敗北するだと……！？
』


　サバスLP1500→400。　ミダースLP6800→13400。（除外枚数：１１）


　「オレはこれでターン終了。お前さんの敗因は、マノンという“娘”を前にした
“父親”の底力を侮ったことだ――」


　デッキのカード全てを抽選のため、排出し終えたミダースのＬＰは自動的に０と
なり、黄金色の鳩もその姿を消滅させていく。


　「アタシはカッス・ノワゼットで３体のレスポーンを攻撃っ！　アンヴィテ・ペ
イデュ・パティスリー……！」


　次々とお菓子の精が踊りを披露して消えていくと、３体の卵用鶏は一瞬で接近し
てきたくるみ割り人形にそれぞれ両断され、社員達が衝撃で吹き飛ばされる。


　社員達LP6700→0。


　「そっちも終わったか――」


　倒れ込み身動きをしない社員達を見下ろしつつ、息を整えるマノンは、立つのも
やっとの様子でその場に座り込もうとする。


　「……！？　マノンっ……！」


　咄嗟にサバスがマノンの元へと駆け付け、彼女の身体を支えると、２人の目の前
でミダースの身体が朽ちていき、崩れていくのが目に入った。


　『あぁ――身体が崩れ……ユーメイ様……お助けを――』


　やがて先程までミダースが立っていた足元には、滴り落ちたドロドロに溶けた黄
金らしき液体が広がる。

　すると目の前で液状に溶けた黄金が渦巻くと、柱の影より黒いフードに身を包む
老人が現れ、ミダースだった物を手のひらの上に吸い寄せる。


　『……ミダースを退けるとは――イーサの者共を甘く見過ぎたか……』

　「お前さんは……！？」


　２人は精霊の力が発現し、文様が浮かび上がった顔の右半分を抑えると、先程ま
でよりも警戒を深めて目の前の老人を睨む。


　「まさか――お前さんがイーサ様の……」

　「だったら！　今ここで倒さなきゃ――ぁっ……」


　先程のデュエルにより疲労が蓄積し、足を震わせるマノンを支えていた手をサバ
スは離すと、なんとかその場に立つマノンを背に、サバスは自ら前に出て再びＤ・
フェースを構えた。


　「マノン――お前さんは這いつくばってでも逃げろ。……例え万全な状態のオレ
達が同時に相手しても、勝ち目があるとは思えねぇ……」

　『聡明な判断だな。だが天子（われ）と輝公（きこう）らの力量差では、時間稼
ぎにすらなりはしない――』


　しかしフードの老人――ユーメイは、サバス達に背を向けると宙に手をかざし、
目の前に異空間へと繋がる裂け目を生じさせる。


　『今は輝公を潰すより、手駒の処置が優先――ミダースを破ったぐらいで図に乗
るなよ？　未だ輝公らが“脅威を排除できた”わけではないからな――』


　そしてユーメイが裂け目へと入るとともに入り口は閉じて、２人と倒した社員の
みがフリュギア社の最上階――その廊下に取り残される。


　「一度戻るか。ほら――ったく……しょうがない奴だな」


　力を使い果たしその場で寝ころぶマノンへと、サバスは困ったように頭を掻くと
自ら身を屈んで彼女を抱き上げ、２人が戦っている間にすっかり静まりかえった　
下の階へと降りていく。


　「サバスさん……！　無事でよかったッス！」


　マノンを横向きに抱いたままサバスが下の階へと降りると、爆破に巻き込まれた
監査官が応急処置を受けたり、デュエルに敗北した双方の者が横たわる中、降りて
きたサバスに気付いたマルチェッロが駆け寄って来た。


　「ああ――問題ない」

　「マノンちゃん……もしかしてやられたッスか？」

　「いいや、オレが親玉を倒すまで、大勢の敵を足止めしていた」


　サバスの腕の中で眠る彼女の寝顔を覗き込むと、一安心といった様子でマルチェ
ッロは再び現場の指揮を取る男の元に走っていくと、彼と入れ替わりに今度はアル
ベルトとモイラがサバスの元へと訪れた。


　「サバス殿――こちらは大方調べ終えました。囚われた仲間も全員保護が完了し
ております」


　抱き抱えたマノンをモイラに預け、サバスはアルベルトから手渡された資料に一
通り目を通す。

　手渡されたＵＳＢをＤ・フェースへと差し、そこで初めて届いていたメッセージ
に気付いたサバスは、資料をアルベルトに突き返すとすぐさま確認すべく、自らの
Ｄ・フェースを操作する。


　「ヒューゴか――いや、まさか……！」


　届いたメッセージを開くと、そこにはサバス達が出払っている間、境階町に異変
が起きた事を知らせる内容が記されていた。


　「どうされましたか？　サバス様――」

　「奴らめ……！　すぐに境階町まで向かうぞ！　“秘号”が２体も出現しやがっ
た……！」


　メッセージの発信時刻――おそらく脅威を察知した日吾の連絡から、既に３０分
以上経過している。

　こうしている間にも事態は悪化していると、マノンを抱えたモイラとアルベルト
を連れ、サバスは急いでマルチェッロの元へと駆けていく。


　「マルチェッロ！　確かフリュギア社には、自家用ヘリが屋上にあったよな……
！？」

　「どうしたんスか？　……何かあったみたいッスね――」


　サバスの態度から事態の深刻さを察知したマルチェッロは、あの人だと現場で指
揮を執る男を知らせると、サバスの指示通りマノンを抱えたモイラとアルベルトと
ともに、急いで屋上へと向かって行く。

　既にフリュギア社内部の情報を把握していた現場の指揮を執る男から、屋上への
鍵とヘリを動かす鍵を受け取ったサバスは、一言礼を告げて自らも屋上へと足を速
める。


　「あれだ……！」


　鍵を差したままにして、屋上のヘリの元まで駆け寄った４人は、早速操縦席に座
ったマルチェッロが鍵を差し込むとともにエンジンを始動させ、やがて５人を乗せ
たヘリは宙へと浮かび上がる。


　「急いで向かいたいところっスけど、安全第一で運転するッスよ？」

　「構わない。その間オレ達は休息とする」

　「サバスさんは優先して休んでくだせぇ！　あっしらじゃ本丸は落とせないッス
からね――」


　先程の戦いで消耗した体力を回復させようと、サバスはシートに体重を乗せて、
身体を沈め込ませると目を閉じた。


　「ヒューゴ――ユーム達を頼んだ。やられるんじゃないぞ……」





　「オレ、サバスと――」

　「アタシ！　マノンの――」

　『ビナリウス回顧録！』


マノン「サバスのデュエル――モンスターを何度も再生させて、相手のデッキを消
耗し尽してからの勝利は流石だねっ！」

サバス「デッキ枚数だけに留まらず、お互いのＬＰや盤面のカード全てを計算しつ
くした――これまでで最も制作難易度の高そうなデュエルだったな」

マノン「アタシも大勢相手に奮闘したんだからね？　そして決着が着いたアタシ達
の前に現れた全ての元凶――」

サバス「元はイーサ様の父だった“遊明”に憑りついた――“人々の心の闇”をそ
の身に宿す“ユーメイ”……だがオレ達じゃ、まだ奴の力に及ばない……」

マノン「だけど必ず、イーサお爺ちゃんのル ペール（お父さん）は元に戻して
みせる！　そして異変が起きる前に時は遡って、ユーヒとユームが遂に次回、新し
いデッキでデュエルするよっ！」


　『次回！　遊戯王Binarius（ビナリウス）　－巻き上げる関捩－』


サバス「オレと戦った時より、２人とも成長したな。……あれはヒューゴと同じ転
入生――一体何を……！？　次回、境階町は危機を迎える」