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24Turn 決着と新たな予兆 作:ジェム貯めナイト
「その見目形――吾儕こそ吾が友である“遊壱”の――」
遊陽へと向き直った遊無――いや、彼女の元の人格は、旧友と邂逅したかのように遊陽を眺めつつ、生気を失った目を細めて喜びを噛み締めている。
「……吾が寝穢くも闇に伏している間、幾星霜が過ぎ去り、一度灰燼と化したこの集落も様変わったものよ……」
「お前は……遊無じゃない――遊無をどこにやった……!」
見るもの全てが珍しいといった風に、辺りの景色や人を見回す遊無の変わりようを見て、遊陽は拳を握りしめつつ遊無の行方を問いかける。
「此の肉体は元より吾のもの。吾は吾、“遊明”と交わした“責務”に則り、役
目を果たせぬ遊無に代わり再び“遊明の力”の器とならん」
「一体何を言っているんだ……? 俺の「氏子」が破壊されたことで、手札の《ワッショイ・セピアペインター》を、破壊された震天雷鼓と同じ光属性として氷に覆われた海へと辿り着かせる……」
セピアペインター守備力600。属性闇→光
「バトルは終わりだ。遊無ちゃんの様子が気がかりだが、今は次のターンに備えて防備を固める! 墓地のカスタリアを除外して効果発動……!」
墓地からカスタリアを除外したカズは、墓地に沈んだ5体のヤゴをデッキに戻し、カードを1枚ドローすると伽藍の周辺を埋め尽くした16の赤珊瑚から発する光によって、LPを回復させていく。
カズ&留音LP900→5700。
「これだけ収獲できりゃ十分――墓地の《コリオリー・スライド》を除外して、《龍伽藍宮》をデッキに戻し1枚ドロー。カードを3枚伏せターン終了だ」
場に伏せられた3枚のカードと2枚の手札――カズと留音はお互いに顔を見合わせ、考えうる限り最善の防備を整えたと、自信を見せつつターンを終えた。
「器の遊無はこの時代で盟友に恵まれ、自我を強めたことで勤めになおざりとなり、本来の目的を忘れたか……」
「お前――遊無が俺達と関わっちゃいけないのかよ……!」
「吾と遊明が始めた此の地の守護に、吾儕達の介在する余地は無し。さあ、始めようぞ!」
カードを引いた遊無の元の人格は、D・フェースの画面を目で追うと画面を操作し、遊陽の墓地から罠を除外して効果を発動させる。
「吾儕も既に、裔孫の元に――遊陽の墓地より《神輿奉戴》を除外。これにより花火師を吾の山札へと戻し、再び“吾が友”を蘇らせる……!」
人々が思いを乗せ練り歩く神輿が現れるとともに、再びヨリマシが既に佇む祭りの竜の意識を宿らせ、閉じた目を開けると遊無の姿を見るや、予期せぬ事態だと動揺を浮かべる。
――まさか、自力で娘から主導権を取り戻すとは――。
「ワッショイフェスタ! 遊無は一体どうなっちまったんだよ……!?」
遊陽がヨリマシへと詰め寄る中、続けざまに元の遊無が発動した魔法カード《妖言惑衆》により、デッキの上から墓地に残った経凛々、酒呑童子と同じ2枚を墓地に送ると、送られた飯綱と影女のうち、墓地に送られた枚数以下のレベルを持つ影女が場に蘇る。
妖言惑衆 通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の墓地の「幽鬼」モンスターの数だけ自分のデッキの上からカー
ドを墓地に送る。その後この効果で墓地に送った「幽鬼」モンスターの数
と同じレベルを持つ「幽鬼」モンスター1体を墓地から特殊召喚できる。
――我が主“遊明”は、当の昔に肉体の滅びたこの娘の魂より、自らの“繁栄をもたらす力”の新たな受皿となる器を生み出し、その者の奥底に元の記憶を封じた。それが刹那遊無――。
「遊無の存在が――こいつのコピーだと……?」
もう一人の遊無が手札から1体のモンスターを掲げ、セピアペインターと影女が黒い霧に包まれていくのを横目で見る遊陽は、彼女の振る舞いと今までの遊無との相違に困惑し、深刻な表情で思議するヨリマシへと聞き返す。
「じゃあ何で……今になってもう一人の遊無は蘇ったんだ……?」
――刹那遊無は変わった。汝らこの時代に生きる者と関わり、役割を果たすのみの器に自我を宿したのだ。……しかし遊明の力と元の人格に加え、刹那遊無の人格を注いでは、器の許容量を超えてしまう――。
器から制御しきれぬ遊明の力が零れ落ちれば、周囲に良からぬ影響をもたらす。
遊無の主人格が危惧するのも無理からぬこと――と一人頷くヨリマシへと、それじゃ困ると遊陽は食い気味にヨリマシへと問いかけた。
「じゃあもう一人の遊無の言う通り、遊無は消えた方がいいってことかよ……!」
――そうではない。“繁栄を司る”精霊である我が主遊明は、娘の後継と定めた刹那遊無が受け継ぎし、並外れた膨大な霊力をその身に取り込み現界し続けることで、この地を豊かなまま維持して来た。それが娘と遊明が交わした“責務”――。
ヨリマシが遊無の存在意義を語ると同時に、もう一人の遊無はデュエルを進行し、厄が舞い込む“鬼門”よりかつては悪意に満ちた者の手先であった妖狐――玉藻前を呼び出す。
玉藻前攻撃力2400。
――馬鹿な!? 長き時を超え、忌々しき此奴が蘇りおったじゃと……?
「“あの時取り逃がした”妖の狐か――吾はこの玉藻前を招来させた事で《現界の丑寅門》を墓地へと送り、その攻撃力より低い布張りの秋津を破壊する……!」
厄の舞い込む黒き門が崩れ落ちるとともに、封じ込まれていた妖力が瘴気へと変わり、巨大な鬼の顔面を模ると大きく口を開け、布張りの翼持つ秋津を飲み込もうとする。
「させねぇ! 「複翅キ」を対象に取る効果は、手札のサルマキスを捨てることで無効にするぜ……!」
瘴気の集合体である鬼の顔面から布張りの翼持つ秋津が逃れると、炎のように揺らめく玉藻前の九の尾の先が赤黒く発光して、デッキの上から墓地の「幽鬼」と同じ枚数でカードが墓地に送られると、その中の2体と同じ2枚をドローする。
「ならば吾より生まれし“繁栄を司る竜”の力を開放する! 五行に気、陰陽を加えた6の元素を自らに取り込み、発となる8の民が其処許らの僕から力を頂く……!」
もう一人の遊無が上空に佇む祭りの竜を指差すと同時に、祭りの竜の周囲に属性の色ごとに分かれた6色の球が浮かび上がると、やがてそれらは光の帯で繋がり祭りの竜を照らし出すと同時に、カズと留音のモンスターから力を吸収していく。
ワッショイフェスタ攻撃力2500→5500。 ウォッカー・バロン&ホワイトベアー攻撃力2600→1000。 ソルティフィッシュ攻撃力2000→400。
――くっ……! 那由他遊陽よ! 汝に頼みと、伝えねばならぬことがある――。
「頼み……?」
――あの時、焼かれる本殿から“遊明の力”を正式に器たる刹那遊無へと移し、その力で生前の肉体を復活させたとともに我を汝へと託した。“遊明の力”は今、刹那遊無の中にある――。
あの時――スチュパリデスに襲われ、絶体絶命だった2人を遊明の力が癒し、遊無に宿った遊明の力が彼女の宿す霊力と結びつき“繁栄を司る竜”をカードとして生み出したのだと、ヨリマシは口早に伝える。
「更に吾が友がいることで墓地より昇竜鯉の効果発動! 端午の空に再び竜は舞い上がる……!」
――汝の助けが無ければ娘は二度――あの場所で“落命した”だろう。頼む――“遊明の力”を悪用されぬよう、そして遊明との責務に縛られる娘の力に――。
「ワッショイフェスタ――当然だ! 遊無は俺達の仲間、必ず守り抜いてみせる……!」
――済まぬ。遊明に代わり、刹那遊無の事を――。
そこまで言い残すと、祭りの竜を下ろしたヨリマシはアドバンス召喚のためリリースされ、消滅するとともに2枚の布を縫い合わせ織られた鯉が空へと舞い上がる。
「頼むぞ“遊壱”――吾が友を捧げ、天を目指せ! 昇竜鯉……!」
ワッショイ・昇竜鯉
効果モンスター
/風/レベル6/海竜/攻撃力2200。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分の「ワッショイ」モンスターが相手モンスターと戦闘を行ったダ
メージ計算後にこのカードをリリースして発動できる。
そのモンスターと同じレベルの「ワッショイ」モンスター1体をデッキか
ら特殊召喚する。
(2):自分フィールドにレベル1「ワッショイ」魔法使い族モンスターが存
在する場合に発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。
「更に玉藻前を対象に《六道能化》を墓地から除外することで、轆轤首を導き、吾は癒しを得る――」
遊陽&遊無LP100→1100。
「遊無の力に――なあ! もう一人の遊無……!」
遊陽の呼び掛けに、デュエルへと集中していたもう一人の遊無は何事かと遊陽へと向き直ると、生気の感じられない靄のかかった瞳でジッと遊陽を睨む。
「……――」
「お前はもう、一人じゃない! 遊明は俺を信じて、お前と遊無を俺達の元に送り出したんだ……!」
「遊明が……」
「お前と遊明に守られ、この町で育った俺やカズ、塰里や仲間達が、今度はお前を守って見せる! お前が背負うこの町を守る責務は、この時代を生きる俺達が受け継ぐぜ!」
遊陽から思いもしなかった言葉を聞いたもう一人の遊無は、人知れず心血を注ぎ守り抜いて来た努力が報われたのだと、意図せず頬に涙を伝わせながらも、再び手元のカードへと視線を落としつつ応じる。
「戯けめ……吾と遊明が艱難辛苦の末、育んだものをそう易々と――」
「できるさ。だってみんな、生まれ育ったこの町を愛しているからな。そうだろカズ、塰里! みんな……!」
「いきなり何を……まあ俺も、じっちゃんや留音がいるこの町は気に入ってるぜ!」
「私も同じよ。時雨さんや一斗がいるこの町を、嫌いになるわけ無いじゃない……!」
カズと留音が訳の分からぬまま――遊陽に答えるようにこの町は自分達の誇りだと応じると、俺も! あたし達も……! と観客の中から遊陽の仲間達も声を上げつつ、再び4人への声援を送り始めた。
「……吾と遊明の不惜身命は、無駄ではなかったということか。かたじけぬ――遊陽」
「元のお前も遊無と同じで、今まで真面目一直線に突っ走って来たんだな。さあ、カズ達も待ちくたびれただろうし、デュエルを続けようぜ!」
「……よかろう。さあ導かれよ! 吾に仕えし妖達……! 贄を捧げ召喚した時に限り、妖達は魍魎と化して墓地より舞い戻る……!」
再び遊無の主人格が指先から放った炎は宙で円を描き、異界へと通じる道をこじ開けると、2体の妖――飯綱と轆轤首が異界より2人の元へと舞い戻った。
「吾はその赤き秋津に対して飯綱の効果――吾が従える「幽鬼」の数だけ、力を奪取する!」
「それも通さねぇ! 俺の場にレベル7以上の「複翅キ」がいるため、手札から発動! カウンター罠――《複翅キ妨害波(ドラゴニック・ジャミングウェーブ)》……!」
複翅キ妨害波(ドラゴニック・ジャミングウェーブ) カウンター罠
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
自分フィールドにレベル7以上の「複翅キ」モンスターが存在する場合、
このカードの発動は手札からもできる。
(1):フィールドのカード1枚のみを対象とするモンスターの効果・魔法・
罠カードが発動した場合に発動できる。その発動を無効にし破壊する。
「手札からトラップ……!?」
「墓地から罠を連発するお前らが言うか! これによりウォッカー・バロンへの効果を無効にし破壊する!」
二又の狐が甲高い鳴き声とともに撃ち出した怨念を込めし黒い塊を、赤き秋津は急上昇でかわし、翼同士を擦り合わせ発する周波音が狐の耳に酷いノイズを流し込むと、両耳を前足で押さえながら2又の狐は場から消滅する。
「臆するな遊陽! 続けて轆轤首の効果で新たに札を引き、墓地の《伝播の妖絵巻》を除外し効果発動! 轆轤首を山札へと戻す事により、墓地より現れよ! 《鬼幽鬼 酒呑童子》……!」
酒呑童子攻撃力2500。
――てめぇが……女狐が首を切られる寸前、砂粒に化け風に吹かれて逃げ延びたっつう――。
――忌まわしき日の事を持ち出すでない! 貴様こそ“あの武士”に命乞いで時間を稼いだと耳にしたが……?
遊無の霊力を得てこの世界に現界し続ける2体の妖――玉藻前と酒吞童子が目の前で口争いを始めたことに、もう一人の遊無は煩いと言わんばかりに人睨みすると、彼女からの視線に2体は堪らず委縮する。
――なあ女狐、ひょっとしたら俺様達――。
――ああ。あの鳥に仕える方がまだ、伸々やれたかもしれぬな――。
「余程もう一人の遊無が怖いんだな。……しかし毎回、もう一人の遊無って呼ぶのはくどいよな。なあ、お前の“本当の名前”はなんて言うんだ……?」
遊無の名は町の神社に座する精霊――遊明に名付けられた。
遊無の基である彼女にも本名があるはずだと、遊陽は空いたモンスターゾーンに更なる妖を呼び出そうとするもう一人の遊無へと問いかける。
「……諱(いみな)を知られるということは、その者の支配権を得るに等しい。元より遊無は吾自身。吾も遊無と呼んで構わぬ」
「あっ――はい。結局もう一人の遊無と呼ぶしかないか……」
「続けて鎌鼬を蘇生し、其処許らの伏せ札1枚を手札に吹き飛ばす! 陣風斬破……!」
鎌鼬が鎌を振りかざすと同時に発生した衝撃波が、カズが伏せた2枚のうちの右のカードを狙って襲い掛かると、伏せてあった《複翅キ発進》がD・フェースから排出され、カズの手札へと加わる。
「ちっ……」
「《軒轅狐墳》を張り、いざ参らん! 昇竜鯉でその蚊蜻蛉から撃ち落としてくれる……!」
「だが漁獲制限によって、LPを500払わなけりゃ昇竜鯉は破壊され、攻撃力分のダメージを受けるぜ?」
「吾が友の宿りし「氏子」達は、この時に限り効果で破壊されぬ! そしてそれは《祭場連携》の発動により「氏子」と化した「幽鬼」達も授からん……!」
発動している限り味方のモンスター全てを「ワッショイ」モンスター化させる永続トラップにより、祭りの竜は自らの元に下った妖達を歓迎するかのように、空へと昇りゆったりと遊泳する鯉とともに光の粒子を降り注がせる。
「私と一斗を舐めないで! 墓地のラブラドルとクリルを除外して、罠カード《リソース・シェルフ》……! 除外した2体の攻撃力をソルティフィッシュに加えるわ!」
空を泳ぎつつ布張りの翼持つ秋津へと接近する布同士の縫い合わせでできた鯉に、除外した海女の攻撃力の合計2100が布張りの翼持つ秋津へと加算され、地を割って周囲に噴き上がった激流が幟の鯉の行く手を遮る。
ソルティフィッシュ攻撃力400→2500。
「吾も引かぬ……! 場の鎌鼬を墓地に送り、発動せよ《鬼霍騒乱》! 鎌鼬の攻撃力1800をその秋津から削り取る……!」
発動とともに宙を蹴り、幟の鯉の前に割り入った鎌鼬は、噴き上がる激流に向け、交差して構えた両手の鎌で二度切り裂く。
消滅する鎌鼬を追い越し、バツ印に切り裂かれた激流の裂け目へと飛び込んだ幟の鯉は、水の流れに沿って布張りの翼持つ秋津より上空へと舞い上がり、高度から秋津をめがけて襲い掛かる。
ソルティフィッシュ攻撃力2500→700。
「上を取られた……!?」
「蜻蛉が空で溺れようとは――尚武吶喊……!」
布を縫い合わせた筒状の身体を通り抜ける風が、まるで鬨の声のように響き渡ると布張り翼の秋津は突撃する鯉に衝突されて、設計が古く強度が足りないばかりに鋼管の骨組みをグニャリと曲げ、そのまま地面に激突して炎上する。
「ぐあぁっ……!?」 カズ&留音LP5700→4200。
「ぐっ――まだだ! ソルティフィッシュが破壊され墓地に送られたため、罠カード《複翅キ救助(ドラゴニック・シーレスキュー)》……! こいつでソルティフィッシュをレストアし、再び飛び立たせるとともにその攻撃力分LPを回復する!」
カズ&留音LP4200→6700。
「ならば酒吞童子よ! 勇猛なる白き熊を攻撃せよ! この時墓地の影女を山札に戻し、酒呑童子は破壊を免れる。浸せ――」
『神変鬼毒……!』
LPの徴収を断る選択に、発動されている永続罠から発射された光線が酒吞童子へと襲い掛かるも、足元から伸びてきた影が身代わりとなって代わりに消滅する。
そのまま酒呑童子は猛毒を浸した刀を振りかぶり、飛び掛かって来た白熊を切り伏せると白熊は全身を猛毒に蝕まれ、呻きながら猛毒に溶かされて消滅する。
「うぅぅっ……」 カズ&留音LP6700→5200。
「馬鹿な……俺達の切り札が――次々と突破されていく……」
「鯉は激瀧を昇り、その身を竜へと変質させる――」
「昇竜鯉をリリースすることで、もう一人の遊無のデッキから攻撃を終えた酒呑童子と同じレベルの「氏子」を呼び出すぜ! もう一人の遊無が戻したハナビダマジシャンが、俺達の場に現れる……!」
幟の鯉はより高く――コート全体を見下ろせる高度まで到達すると、空中で破裂するとともに次々と空を彩る華景が咲き乱れ、宙へと現れた化合物の魔術師が降って来ると祭りの竜の背に立ち、観客へと向け深々と一礼する。
ハナビダマジシャン攻撃力2500。
「遊陽先輩の祭りの竜に、夜空を賑わす華の魔術師――」
「遊無ちゃんの狐の美女に、血生臭いツギハギお化け――」
『2人の切り札が――全て揃った……!』
フィールドに遊陽と遊無――2人が主力とするモンスターが2体ずつ出揃った事で、須浦や千夜、仲間達は壮観な光景だと感嘆の声を上げる。
「負けてられねぇ――こっちだって再び蘇らせてやる! 「複翅キ」がいるため墓地の大洋七海を除外して、罠カード《複翅キ複製(ドラゴニック・プロダクション)》……! 除外した大洋七海の効果として発動させる……!」
複翅キ複製(ドラゴニック・プロダクション) 通常罠
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドに「複翅キ」モンスターが存在する場合、墓地から通
常魔法カード1枚を除外して発動できる。この効果は、その魔法カードの
発動時の効果と同じになる。
「私のカードを……!? 一斗……!」
「ならば吾も手札より《神出鬼没》を発動! 墓地より貫通効果を付与する唐笠小僧を蘇らせる!」
「貫通効果持ちか……だったら守りなんていらねぇ! 攻撃表示で真っ向勝負だ……! 墓地のホワイトベアーを除外。いくぜ留音! アンガルド、プレット? アレ!」
「――その牙突は岩をも砕く高速の突き……!」
「俺達の希望を乗せて――」
「今ここに浮上しなさい……!」
『特殊召喚! 《深層環姫コーラル・ナーワル》……!』
発動された罠によって再び巨大な泡が流氷の白熊を包んで現れ、2人の息の合った口上が締め括られるとともに泡が弾けて、再び墓地より樹状に枝を伸ばした珊瑚の牙を持つ一角が歓声に迎え入れられる中、泳いで現れると華麗に宙で一回転する。
コーラル・ナーワル攻撃力2200。 唐笠小僧攻撃力1300。
「見事な連携。それでこそ吾と遊陽も、挑み概があるというもの……!」
「私も応えるわ! 墓地の《リソース・シェルフ》を除外して、除外されている5体の「深層環姫」を対象に効果発動! レベルの異なる5体をデッキに戻し、そのレベル合計――2100を私達のLPに加える……!」
これまでに除外されたツシマ、クリル、ラブラドル、マーメイド・ジュゴン、そしてホワイトベアーの5体がD・フェースから排出されると、留音は5枚をデッキに加え、自動でシャッフルされるとともに大陸棚からの恵みが2人のLPを潤していく。
カズ&留音LP5200→7300。
「ならばこの花火師で赤き秋津を攻撃する! そして花火師は先程と同様、秋津を墜としたことで其処許らに対し、彩りの火薬を浴びせる……!」
再び拳に火花を纏い、永続トラップによりLPを500徴収されつつも化合物の魔術師はカズの切り札たる赤き秋津に飛び掛かり、胴体を撃ち抜き2人の目の前に叩きつけると、爆発とともに弾ける火花も合わせて2人のLPを大きく削る。
「ぐぅぅっ……!」 カズ&留音LP7300→5800→3700。 遊陽&遊無LP1100→600。
「続けて玉藻前による攻撃! 《祭場連携》により「氏子」と化し、この時に召喚された玉藻前も効果で破壊されぬ! 更に「幽鬼」の戦闘時《軒轅狐墳》により、玉藻前の力は増大する――」
玉藻前攻撃力2400→3800。
「それだけじゃないぜ! ここで俺は墓地のセピアペインターを除外し、効果発動だ! コーラル・ナーワルの攻撃力を風と水――2体分の2000ダウンさせるぜ……!」
遊陽の墓地から再び現れたイカの水墨画家は、口から黒壇のように黒い墨を一角へと吹きかけることで、一角の身体に纏わりついた墨が力を奪い取っていく。
コーラル・ナーワル攻撃力2200→200。
「だけど《大洋七海(ザ・セブン・シーズ)》の効果で現れたモンスターはそのターンに1度だけ、破壊から守られるわ!」
「その程度で攻撃はいなせん! 息吹け――」
『殺生吐附子……!』
両手に猛毒を纏わせ、巨大な狐の顔に変化させた玉藻前は、もう一人の遊無の合図とともに、猛毒の狐を一角に向け突撃させる。
「ああぁぁっ……!」 カズ&留音LP3700→100。
「LPは100で踏ん張った。しかし――」
「遊陽君達には祭りの竜が控えている。ここまでのようだな」
攻撃が止み息を整えたカズと留音は、全ての属性を宿す6色の球から力を吸収し、開口した口に膨大なエネルギーを収束させる祭りの竜を見据えて、勝敗は決したとうなだれる。
「遊陽――遊壱の血を引く吾儕と、此の地の安寧を見聞きし吾は満足だ」
「もう一人の遊無……」
「この身は再び遊無へと還す。吾儕と遊無――そして吾と遊明が守った此の地を、より“賑やか”す様を見届けさせてもらう――」
祭りの竜が金色の鱗を輝かせ、攻撃宣言とともに放たれたエネルギー波がカズと留音を飲み込もうと襲い来る中、最後に遊陽へと振り返ったもう一人の遊無は、再び彼への笑みを浮かべると目を閉じて立ち尽くす。
「留音っ……!」
攻撃が直撃する寸前、カズが留音を庇うように前に出て遊陽達に背を向け、彼女を抱きしめるとともに、衝撃を受け2人はデュエルスペースの外まで吹き飛ばされた。
カズ&留音LP100→0。 遊陽&遊無LP600→100。
「しょ――勝者、チームビナリウス! よって今大会の優勝者は、那由他 遊陽、刹那 遊無ペア……!」
審判の宣言とともに、息詰まる攻防が終わりを告げ、緊張が和らぐとともに勝敗が決すると、観客からは一斉に喝采が巻き起こった。
「留音! 大丈夫か……!?」
「平気――だって一斗が守ってくれたから……」
再び立ち上がる2人の元に笑原姉妹達が駆け寄る光景を目にして、ようやく現状を把握した遊陽の元へと、元の光を宿した瞳を開いた遊無はうわごとのように口走る。
「勝った……? 私達……ビナリウスの勝――」
そのまま遊無は、彼女が元に戻ったことを確かめた遊陽の目の前で、ゆっくりと膝から崩れ落ちその場でうつ伏せになると、駆け寄って来た遊陽を目に映しつつ再び目を閉じた。
「嘘――」
「おい! 嘘だろ――遊無……!?」
力を使い果たしたのか――遊陽達の呼びかけにも応じることなく意識の途切れた遊無を見て、遊陽は彼女の名前を何度も叫ぶ。
ふらつきつつカズと留音も遊無に駆け寄る中、祭りの竜は消滅しつつも集まった遊陽達を見据えて、空へと舞い上がるとともに咆哮を上げ、完全に消滅するとその粒子が静けさを取り戻したデュエルスペースへと降り注ぐのであった。
「俺と遊無、ビナリウスと――」
「俺と留音、バウンティフルが送る――」
『ビナリウス回顧録!』
留音「はぁ……一斗となら絶対優勝できると思ったのに……」
カズ「ホント惜しかったな。けど良いデュエルだったぜ。だけど遊無ちゃんは大丈夫なのか?」
遊陽「倒れてからすぐ病院まで搬送されたけど、命に別状はないようだ。ただ折角勝ったのに、後味悪い結末になっちまったな」
カズ「そりゃ仕方ねぇよ。しかしもう一人の遊無ちゃん? が言ったこと、俺達にはさっぱりだぜ」
遊陽「遊無に宿る遊明の力――幸福を与える力なんていくらでも悪用できる。遊明とワッショイフェスタに言われるまでもなく、そんな奴らから俺は遊無を守って見せるぞ!」
留音「その思いは私も同じ。遊無ちゃんには指一本触れさせないわ……!」
遊陽「というわけで、24話に渡った遊戯王Binariusは、この後の短編を持って第一章――境界町編を完結とさせて頂きます」
『それでは次章――遊戯王Binarius(ビナリウス) エンクレーブ編でお会いしましょう……!』
ステンドグラス越しに陽の光が差し込む――荘厳な雰囲気が漂う教会で、正面玄関へと続く長い階段を、男は足早に下っていた。
「……パパ様、それにイーサ様まで――」
橙の髪に顔の輪郭に沿ったワインレッドの前髪をした――30代くらいの黒い司祭平服を身に纏う男は、玄関口に立ち男の到着を待っていた2人の人物に声を掛ける。
「発つにあたり、君への迎えも今し方到着したようじゃ」
「彼らの足回りの軽やかさには、常々感謝しております。しかしこの前と言い、ヒノモトで“例の力”に匹敵する霊力が幾度となく、発現するとは……」
男は信じられない。といった素振りで、丸裸の頭頂部に白い口髭と顎髭を蓄えた老人へと語り掛けると、もう一人の白い司祭平服に身を包んだ壮年の男は赤と橙の髪をした男へと歩み寄り、男の肩に手を置くと神妙な面持ちで口を開く。
「このところ“イーサ様”の“精霊の力”による予見は不調を期している。歴史
あるESA(ユーロピアン・スピリット・アドレイション)教会において、長きに渡り2つの世界の平穏を祈ってきたお方が――」
「とはいえ“ベテルギウス”教皇よ。儂も“半精霊”じゃからのう……常々自ら
の予見が正しいと確信してはおらぬ……」
「イーサ様でも見通せない未来――しかし我々の行く先に暗雲が立ち込めていようとも、これまで通り私達“守護霊の防人(ゲニウス・カストゥディーズ)”が、精霊に関わる事象を必ずや、解決へと導いて見せます」
男は行って参ります。と教皇ベテルギウス――そしてESA教会において真の“主”であるイーサに一礼し、背後の微笑む聖母の像を背に、正面玄関から送迎のため停車している黒塗りの高級車に向けて歩き出す。
「君の健闘を祈る――“サバス”……」
内海からの心地よい風を受けながら、サバスは大通りへと続く教会の敷地を歩いていく。
途中教会付属の孤児院の部屋で修道女が孤児達に本を読み聞かせていたり、教会本部に掲げられたESA教を国教と定める都市国家――“マグナ ヌメン”の国旗が風にはためくのを目で追いつつ、車へと乗りこんだサバスはD・フェースを取り出し、通話を掛ける。
「……オレだ。“彼女”とは合流できたか?」
「サバスの旦那! へい! バッチリ拾いましたぜ……!」
通話に応じたウェーブがかかった黒髪に短く顎鬚を生やした青年が答えると、彼の横から教会の修道服に身を包んだ――スカーレットとアイボリーの合わさった長いストレートの少女が、画面を覗き込んできた。
「あっ! サバスッ……! こっちでのお仕事はセ フェッだよーっ!」
「お前さんなら難なくこなしただろうよ。早速だが“マノン”――お前さんも次の任務先まで向かって貰う」
ESA教会において、精霊が関わる事象を解決へと導く治安維持活動を生業とする――“守護霊の防人”の下で働く少女“マノン”は、一仕事終えると同時に舞い込んだ任務を嫌がるかのように、目鼻立ちの整った顔を歪めて怪訝な表情を見せる。
「えぇーっ、アタシのコンジェ ペイエを取り上げないでよ! 不当なトラヴァイユ反対ーっ!」
「何を言おうがこの任務は断る訳にはいかねぇ、イーサ様直々の特命だからな。オレ達は“あの方”の痕跡を辿りに、強大な霊力を観測した“ある地”に向かう。その場所は――」
「ヒノモトの国……“境界町”だ――」
To be continued.
遊陽へと向き直った遊無――いや、彼女の元の人格は、旧友と邂逅したかのように遊陽を眺めつつ、生気を失った目を細めて喜びを噛み締めている。
「……吾が寝穢くも闇に伏している間、幾星霜が過ぎ去り、一度灰燼と化したこの集落も様変わったものよ……」
「お前は……遊無じゃない――遊無をどこにやった……!」
見るもの全てが珍しいといった風に、辺りの景色や人を見回す遊無の変わりようを見て、遊陽は拳を握りしめつつ遊無の行方を問いかける。
「此の肉体は元より吾のもの。吾は吾、“遊明”と交わした“責務”に則り、役
目を果たせぬ遊無に代わり再び“遊明の力”の器とならん」
「一体何を言っているんだ……? 俺の「氏子」が破壊されたことで、手札の《ワッショイ・セピアペインター》を、破壊された震天雷鼓と同じ光属性として氷に覆われた海へと辿り着かせる……」
セピアペインター守備力600。属性闇→光
「バトルは終わりだ。遊無ちゃんの様子が気がかりだが、今は次のターンに備えて防備を固める! 墓地のカスタリアを除外して効果発動……!」
墓地からカスタリアを除外したカズは、墓地に沈んだ5体のヤゴをデッキに戻し、カードを1枚ドローすると伽藍の周辺を埋め尽くした16の赤珊瑚から発する光によって、LPを回復させていく。
カズ&留音LP900→5700。
「これだけ収獲できりゃ十分――墓地の《コリオリー・スライド》を除外して、《龍伽藍宮》をデッキに戻し1枚ドロー。カードを3枚伏せターン終了だ」
場に伏せられた3枚のカードと2枚の手札――カズと留音はお互いに顔を見合わせ、考えうる限り最善の防備を整えたと、自信を見せつつターンを終えた。
「器の遊無はこの時代で盟友に恵まれ、自我を強めたことで勤めになおざりとなり、本来の目的を忘れたか……」
「お前――遊無が俺達と関わっちゃいけないのかよ……!」
「吾と遊明が始めた此の地の守護に、吾儕達の介在する余地は無し。さあ、始めようぞ!」
カードを引いた遊無の元の人格は、D・フェースの画面を目で追うと画面を操作し、遊陽の墓地から罠を除外して効果を発動させる。
「吾儕も既に、裔孫の元に――遊陽の墓地より《神輿奉戴》を除外。これにより花火師を吾の山札へと戻し、再び“吾が友”を蘇らせる……!」
人々が思いを乗せ練り歩く神輿が現れるとともに、再びヨリマシが既に佇む祭りの竜の意識を宿らせ、閉じた目を開けると遊無の姿を見るや、予期せぬ事態だと動揺を浮かべる。
――まさか、自力で娘から主導権を取り戻すとは――。
「ワッショイフェスタ! 遊無は一体どうなっちまったんだよ……!?」
遊陽がヨリマシへと詰め寄る中、続けざまに元の遊無が発動した魔法カード《妖言惑衆》により、デッキの上から墓地に残った経凛々、酒呑童子と同じ2枚を墓地に送ると、送られた飯綱と影女のうち、墓地に送られた枚数以下のレベルを持つ影女が場に蘇る。
妖言惑衆 通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の墓地の「幽鬼」モンスターの数だけ自分のデッキの上からカー
ドを墓地に送る。その後この効果で墓地に送った「幽鬼」モンスターの数
と同じレベルを持つ「幽鬼」モンスター1体を墓地から特殊召喚できる。
――我が主“遊明”は、当の昔に肉体の滅びたこの娘の魂より、自らの“繁栄をもたらす力”の新たな受皿となる器を生み出し、その者の奥底に元の記憶を封じた。それが刹那遊無――。
「遊無の存在が――こいつのコピーだと……?」
もう一人の遊無が手札から1体のモンスターを掲げ、セピアペインターと影女が黒い霧に包まれていくのを横目で見る遊陽は、彼女の振る舞いと今までの遊無との相違に困惑し、深刻な表情で思議するヨリマシへと聞き返す。
「じゃあ何で……今になってもう一人の遊無は蘇ったんだ……?」
――刹那遊無は変わった。汝らこの時代に生きる者と関わり、役割を果たすのみの器に自我を宿したのだ。……しかし遊明の力と元の人格に加え、刹那遊無の人格を注いでは、器の許容量を超えてしまう――。
器から制御しきれぬ遊明の力が零れ落ちれば、周囲に良からぬ影響をもたらす。
遊無の主人格が危惧するのも無理からぬこと――と一人頷くヨリマシへと、それじゃ困ると遊陽は食い気味にヨリマシへと問いかけた。
「じゃあもう一人の遊無の言う通り、遊無は消えた方がいいってことかよ……!」
――そうではない。“繁栄を司る”精霊である我が主遊明は、娘の後継と定めた刹那遊無が受け継ぎし、並外れた膨大な霊力をその身に取り込み現界し続けることで、この地を豊かなまま維持して来た。それが娘と遊明が交わした“責務”――。
ヨリマシが遊無の存在意義を語ると同時に、もう一人の遊無はデュエルを進行し、厄が舞い込む“鬼門”よりかつては悪意に満ちた者の手先であった妖狐――玉藻前を呼び出す。
玉藻前攻撃力2400。
――馬鹿な!? 長き時を超え、忌々しき此奴が蘇りおったじゃと……?
「“あの時取り逃がした”妖の狐か――吾はこの玉藻前を招来させた事で《現界の丑寅門》を墓地へと送り、その攻撃力より低い布張りの秋津を破壊する……!」
厄の舞い込む黒き門が崩れ落ちるとともに、封じ込まれていた妖力が瘴気へと変わり、巨大な鬼の顔面を模ると大きく口を開け、布張りの翼持つ秋津を飲み込もうとする。
「させねぇ! 「複翅キ」を対象に取る効果は、手札のサルマキスを捨てることで無効にするぜ……!」
瘴気の集合体である鬼の顔面から布張りの翼持つ秋津が逃れると、炎のように揺らめく玉藻前の九の尾の先が赤黒く発光して、デッキの上から墓地の「幽鬼」と同じ枚数でカードが墓地に送られると、その中の2体と同じ2枚をドローする。
「ならば吾より生まれし“繁栄を司る竜”の力を開放する! 五行に気、陰陽を加えた6の元素を自らに取り込み、発となる8の民が其処許らの僕から力を頂く……!」
もう一人の遊無が上空に佇む祭りの竜を指差すと同時に、祭りの竜の周囲に属性の色ごとに分かれた6色の球が浮かび上がると、やがてそれらは光の帯で繋がり祭りの竜を照らし出すと同時に、カズと留音のモンスターから力を吸収していく。
ワッショイフェスタ攻撃力2500→5500。 ウォッカー・バロン&ホワイトベアー攻撃力2600→1000。 ソルティフィッシュ攻撃力2000→400。
――くっ……! 那由他遊陽よ! 汝に頼みと、伝えねばならぬことがある――。
「頼み……?」
――あの時、焼かれる本殿から“遊明の力”を正式に器たる刹那遊無へと移し、その力で生前の肉体を復活させたとともに我を汝へと託した。“遊明の力”は今、刹那遊無の中にある――。
あの時――スチュパリデスに襲われ、絶体絶命だった2人を遊明の力が癒し、遊無に宿った遊明の力が彼女の宿す霊力と結びつき“繁栄を司る竜”をカードとして生み出したのだと、ヨリマシは口早に伝える。
「更に吾が友がいることで墓地より昇竜鯉の効果発動! 端午の空に再び竜は舞い上がる……!」
――汝の助けが無ければ娘は二度――あの場所で“落命した”だろう。頼む――“遊明の力”を悪用されぬよう、そして遊明との責務に縛られる娘の力に――。
「ワッショイフェスタ――当然だ! 遊無は俺達の仲間、必ず守り抜いてみせる……!」
――済まぬ。遊明に代わり、刹那遊無の事を――。
そこまで言い残すと、祭りの竜を下ろしたヨリマシはアドバンス召喚のためリリースされ、消滅するとともに2枚の布を縫い合わせ織られた鯉が空へと舞い上がる。
「頼むぞ“遊壱”――吾が友を捧げ、天を目指せ! 昇竜鯉……!」
ワッショイ・昇竜鯉
効果モンスター
/風/レベル6/海竜/攻撃力2200。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分の「ワッショイ」モンスターが相手モンスターと戦闘を行ったダ
メージ計算後にこのカードをリリースして発動できる。
そのモンスターと同じレベルの「ワッショイ」モンスター1体をデッキか
ら特殊召喚する。
(2):自分フィールドにレベル1「ワッショイ」魔法使い族モンスターが存
在する場合に発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。
「更に玉藻前を対象に《六道能化》を墓地から除外することで、轆轤首を導き、吾は癒しを得る――」
遊陽&遊無LP100→1100。
「遊無の力に――なあ! もう一人の遊無……!」
遊陽の呼び掛けに、デュエルへと集中していたもう一人の遊無は何事かと遊陽へと向き直ると、生気の感じられない靄のかかった瞳でジッと遊陽を睨む。
「……――」
「お前はもう、一人じゃない! 遊明は俺を信じて、お前と遊無を俺達の元に送り出したんだ……!」
「遊明が……」
「お前と遊明に守られ、この町で育った俺やカズ、塰里や仲間達が、今度はお前を守って見せる! お前が背負うこの町を守る責務は、この時代を生きる俺達が受け継ぐぜ!」
遊陽から思いもしなかった言葉を聞いたもう一人の遊無は、人知れず心血を注ぎ守り抜いて来た努力が報われたのだと、意図せず頬に涙を伝わせながらも、再び手元のカードへと視線を落としつつ応じる。
「戯けめ……吾と遊明が艱難辛苦の末、育んだものをそう易々と――」
「できるさ。だってみんな、生まれ育ったこの町を愛しているからな。そうだろカズ、塰里! みんな……!」
「いきなり何を……まあ俺も、じっちゃんや留音がいるこの町は気に入ってるぜ!」
「私も同じよ。時雨さんや一斗がいるこの町を、嫌いになるわけ無いじゃない……!」
カズと留音が訳の分からぬまま――遊陽に答えるようにこの町は自分達の誇りだと応じると、俺も! あたし達も……! と観客の中から遊陽の仲間達も声を上げつつ、再び4人への声援を送り始めた。
「……吾と遊明の不惜身命は、無駄ではなかったということか。かたじけぬ――遊陽」
「元のお前も遊無と同じで、今まで真面目一直線に突っ走って来たんだな。さあ、カズ達も待ちくたびれただろうし、デュエルを続けようぜ!」
「……よかろう。さあ導かれよ! 吾に仕えし妖達……! 贄を捧げ召喚した時に限り、妖達は魍魎と化して墓地より舞い戻る……!」
再び遊無の主人格が指先から放った炎は宙で円を描き、異界へと通じる道をこじ開けると、2体の妖――飯綱と轆轤首が異界より2人の元へと舞い戻った。
「吾はその赤き秋津に対して飯綱の効果――吾が従える「幽鬼」の数だけ、力を奪取する!」
「それも通さねぇ! 俺の場にレベル7以上の「複翅キ」がいるため、手札から発動! カウンター罠――《複翅キ妨害波(ドラゴニック・ジャミングウェーブ)》……!」
複翅キ妨害波(ドラゴニック・ジャミングウェーブ) カウンター罠
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
自分フィールドにレベル7以上の「複翅キ」モンスターが存在する場合、
このカードの発動は手札からもできる。
(1):フィールドのカード1枚のみを対象とするモンスターの効果・魔法・
罠カードが発動した場合に発動できる。その発動を無効にし破壊する。
「手札からトラップ……!?」
「墓地から罠を連発するお前らが言うか! これによりウォッカー・バロンへの効果を無効にし破壊する!」
二又の狐が甲高い鳴き声とともに撃ち出した怨念を込めし黒い塊を、赤き秋津は急上昇でかわし、翼同士を擦り合わせ発する周波音が狐の耳に酷いノイズを流し込むと、両耳を前足で押さえながら2又の狐は場から消滅する。
「臆するな遊陽! 続けて轆轤首の効果で新たに札を引き、墓地の《伝播の妖絵巻》を除外し効果発動! 轆轤首を山札へと戻す事により、墓地より現れよ! 《鬼幽鬼 酒呑童子》……!」
酒呑童子攻撃力2500。
――てめぇが……女狐が首を切られる寸前、砂粒に化け風に吹かれて逃げ延びたっつう――。
――忌まわしき日の事を持ち出すでない! 貴様こそ“あの武士”に命乞いで時間を稼いだと耳にしたが……?
遊無の霊力を得てこの世界に現界し続ける2体の妖――玉藻前と酒吞童子が目の前で口争いを始めたことに、もう一人の遊無は煩いと言わんばかりに人睨みすると、彼女からの視線に2体は堪らず委縮する。
――なあ女狐、ひょっとしたら俺様達――。
――ああ。あの鳥に仕える方がまだ、伸々やれたかもしれぬな――。
「余程もう一人の遊無が怖いんだな。……しかし毎回、もう一人の遊無って呼ぶのはくどいよな。なあ、お前の“本当の名前”はなんて言うんだ……?」
遊無の名は町の神社に座する精霊――遊明に名付けられた。
遊無の基である彼女にも本名があるはずだと、遊陽は空いたモンスターゾーンに更なる妖を呼び出そうとするもう一人の遊無へと問いかける。
「……諱(いみな)を知られるということは、その者の支配権を得るに等しい。元より遊無は吾自身。吾も遊無と呼んで構わぬ」
「あっ――はい。結局もう一人の遊無と呼ぶしかないか……」
「続けて鎌鼬を蘇生し、其処許らの伏せ札1枚を手札に吹き飛ばす! 陣風斬破……!」
鎌鼬が鎌を振りかざすと同時に発生した衝撃波が、カズが伏せた2枚のうちの右のカードを狙って襲い掛かると、伏せてあった《複翅キ発進》がD・フェースから排出され、カズの手札へと加わる。
「ちっ……」
「《軒轅狐墳》を張り、いざ参らん! 昇竜鯉でその蚊蜻蛉から撃ち落としてくれる……!」
「だが漁獲制限によって、LPを500払わなけりゃ昇竜鯉は破壊され、攻撃力分のダメージを受けるぜ?」
「吾が友の宿りし「氏子」達は、この時に限り効果で破壊されぬ! そしてそれは《祭場連携》の発動により「氏子」と化した「幽鬼」達も授からん……!」
発動している限り味方のモンスター全てを「ワッショイ」モンスター化させる永続トラップにより、祭りの竜は自らの元に下った妖達を歓迎するかのように、空へと昇りゆったりと遊泳する鯉とともに光の粒子を降り注がせる。
「私と一斗を舐めないで! 墓地のラブラドルとクリルを除外して、罠カード《リソース・シェルフ》……! 除外した2体の攻撃力をソルティフィッシュに加えるわ!」
空を泳ぎつつ布張りの翼持つ秋津へと接近する布同士の縫い合わせでできた鯉に、除外した海女の攻撃力の合計2100が布張りの翼持つ秋津へと加算され、地を割って周囲に噴き上がった激流が幟の鯉の行く手を遮る。
ソルティフィッシュ攻撃力400→2500。
「吾も引かぬ……! 場の鎌鼬を墓地に送り、発動せよ《鬼霍騒乱》! 鎌鼬の攻撃力1800をその秋津から削り取る……!」
発動とともに宙を蹴り、幟の鯉の前に割り入った鎌鼬は、噴き上がる激流に向け、交差して構えた両手の鎌で二度切り裂く。
消滅する鎌鼬を追い越し、バツ印に切り裂かれた激流の裂け目へと飛び込んだ幟の鯉は、水の流れに沿って布張りの翼持つ秋津より上空へと舞い上がり、高度から秋津をめがけて襲い掛かる。
ソルティフィッシュ攻撃力2500→700。
「上を取られた……!?」
「蜻蛉が空で溺れようとは――尚武吶喊……!」
布を縫い合わせた筒状の身体を通り抜ける風が、まるで鬨の声のように響き渡ると布張り翼の秋津は突撃する鯉に衝突されて、設計が古く強度が足りないばかりに鋼管の骨組みをグニャリと曲げ、そのまま地面に激突して炎上する。
「ぐあぁっ……!?」 カズ&留音LP5700→4200。
「ぐっ――まだだ! ソルティフィッシュが破壊され墓地に送られたため、罠カード《複翅キ救助(ドラゴニック・シーレスキュー)》……! こいつでソルティフィッシュをレストアし、再び飛び立たせるとともにその攻撃力分LPを回復する!」
カズ&留音LP4200→6700。
「ならば酒吞童子よ! 勇猛なる白き熊を攻撃せよ! この時墓地の影女を山札に戻し、酒呑童子は破壊を免れる。浸せ――」
『神変鬼毒……!』
LPの徴収を断る選択に、発動されている永続罠から発射された光線が酒吞童子へと襲い掛かるも、足元から伸びてきた影が身代わりとなって代わりに消滅する。
そのまま酒呑童子は猛毒を浸した刀を振りかぶり、飛び掛かって来た白熊を切り伏せると白熊は全身を猛毒に蝕まれ、呻きながら猛毒に溶かされて消滅する。
「うぅぅっ……」 カズ&留音LP6700→5200。
「馬鹿な……俺達の切り札が――次々と突破されていく……」
「鯉は激瀧を昇り、その身を竜へと変質させる――」
「昇竜鯉をリリースすることで、もう一人の遊無のデッキから攻撃を終えた酒呑童子と同じレベルの「氏子」を呼び出すぜ! もう一人の遊無が戻したハナビダマジシャンが、俺達の場に現れる……!」
幟の鯉はより高く――コート全体を見下ろせる高度まで到達すると、空中で破裂するとともに次々と空を彩る華景が咲き乱れ、宙へと現れた化合物の魔術師が降って来ると祭りの竜の背に立ち、観客へと向け深々と一礼する。
ハナビダマジシャン攻撃力2500。
「遊陽先輩の祭りの竜に、夜空を賑わす華の魔術師――」
「遊無ちゃんの狐の美女に、血生臭いツギハギお化け――」
『2人の切り札が――全て揃った……!』
フィールドに遊陽と遊無――2人が主力とするモンスターが2体ずつ出揃った事で、須浦や千夜、仲間達は壮観な光景だと感嘆の声を上げる。
「負けてられねぇ――こっちだって再び蘇らせてやる! 「複翅キ」がいるため墓地の大洋七海を除外して、罠カード《複翅キ複製(ドラゴニック・プロダクション)》……! 除外した大洋七海の効果として発動させる……!」
複翅キ複製(ドラゴニック・プロダクション) 通常罠
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドに「複翅キ」モンスターが存在する場合、墓地から通
常魔法カード1枚を除外して発動できる。この効果は、その魔法カードの
発動時の効果と同じになる。
「私のカードを……!? 一斗……!」
「ならば吾も手札より《神出鬼没》を発動! 墓地より貫通効果を付与する唐笠小僧を蘇らせる!」
「貫通効果持ちか……だったら守りなんていらねぇ! 攻撃表示で真っ向勝負だ……! 墓地のホワイトベアーを除外。いくぜ留音! アンガルド、プレット? アレ!」
「――その牙突は岩をも砕く高速の突き……!」
「俺達の希望を乗せて――」
「今ここに浮上しなさい……!」
『特殊召喚! 《深層環姫コーラル・ナーワル》……!』
発動された罠によって再び巨大な泡が流氷の白熊を包んで現れ、2人の息の合った口上が締め括られるとともに泡が弾けて、再び墓地より樹状に枝を伸ばした珊瑚の牙を持つ一角が歓声に迎え入れられる中、泳いで現れると華麗に宙で一回転する。
コーラル・ナーワル攻撃力2200。 唐笠小僧攻撃力1300。
「見事な連携。それでこそ吾と遊陽も、挑み概があるというもの……!」
「私も応えるわ! 墓地の《リソース・シェルフ》を除外して、除外されている5体の「深層環姫」を対象に効果発動! レベルの異なる5体をデッキに戻し、そのレベル合計――2100を私達のLPに加える……!」
これまでに除外されたツシマ、クリル、ラブラドル、マーメイド・ジュゴン、そしてホワイトベアーの5体がD・フェースから排出されると、留音は5枚をデッキに加え、自動でシャッフルされるとともに大陸棚からの恵みが2人のLPを潤していく。
カズ&留音LP5200→7300。
「ならばこの花火師で赤き秋津を攻撃する! そして花火師は先程と同様、秋津を墜としたことで其処許らに対し、彩りの火薬を浴びせる……!」
再び拳に火花を纏い、永続トラップによりLPを500徴収されつつも化合物の魔術師はカズの切り札たる赤き秋津に飛び掛かり、胴体を撃ち抜き2人の目の前に叩きつけると、爆発とともに弾ける火花も合わせて2人のLPを大きく削る。
「ぐぅぅっ……!」 カズ&留音LP7300→5800→3700。 遊陽&遊無LP1100→600。
「続けて玉藻前による攻撃! 《祭場連携》により「氏子」と化し、この時に召喚された玉藻前も効果で破壊されぬ! 更に「幽鬼」の戦闘時《軒轅狐墳》により、玉藻前の力は増大する――」
玉藻前攻撃力2400→3800。
「それだけじゃないぜ! ここで俺は墓地のセピアペインターを除外し、効果発動だ! コーラル・ナーワルの攻撃力を風と水――2体分の2000ダウンさせるぜ……!」
遊陽の墓地から再び現れたイカの水墨画家は、口から黒壇のように黒い墨を一角へと吹きかけることで、一角の身体に纏わりついた墨が力を奪い取っていく。
コーラル・ナーワル攻撃力2200→200。
「だけど《大洋七海(ザ・セブン・シーズ)》の効果で現れたモンスターはそのターンに1度だけ、破壊から守られるわ!」
「その程度で攻撃はいなせん! 息吹け――」
『殺生吐附子……!』
両手に猛毒を纏わせ、巨大な狐の顔に変化させた玉藻前は、もう一人の遊無の合図とともに、猛毒の狐を一角に向け突撃させる。
「ああぁぁっ……!」 カズ&留音LP3700→100。
「LPは100で踏ん張った。しかし――」
「遊陽君達には祭りの竜が控えている。ここまでのようだな」
攻撃が止み息を整えたカズと留音は、全ての属性を宿す6色の球から力を吸収し、開口した口に膨大なエネルギーを収束させる祭りの竜を見据えて、勝敗は決したとうなだれる。
「遊陽――遊壱の血を引く吾儕と、此の地の安寧を見聞きし吾は満足だ」
「もう一人の遊無……」
「この身は再び遊無へと還す。吾儕と遊無――そして吾と遊明が守った此の地を、より“賑やか”す様を見届けさせてもらう――」
祭りの竜が金色の鱗を輝かせ、攻撃宣言とともに放たれたエネルギー波がカズと留音を飲み込もうと襲い来る中、最後に遊陽へと振り返ったもう一人の遊無は、再び彼への笑みを浮かべると目を閉じて立ち尽くす。
「留音っ……!」
攻撃が直撃する寸前、カズが留音を庇うように前に出て遊陽達に背を向け、彼女を抱きしめるとともに、衝撃を受け2人はデュエルスペースの外まで吹き飛ばされた。
カズ&留音LP100→0。 遊陽&遊無LP600→100。
「しょ――勝者、チームビナリウス! よって今大会の優勝者は、那由他 遊陽、刹那 遊無ペア……!」
審判の宣言とともに、息詰まる攻防が終わりを告げ、緊張が和らぐとともに勝敗が決すると、観客からは一斉に喝采が巻き起こった。
「留音! 大丈夫か……!?」
「平気――だって一斗が守ってくれたから……」
再び立ち上がる2人の元に笑原姉妹達が駆け寄る光景を目にして、ようやく現状を把握した遊陽の元へと、元の光を宿した瞳を開いた遊無はうわごとのように口走る。
「勝った……? 私達……ビナリウスの勝――」
そのまま遊無は、彼女が元に戻ったことを確かめた遊陽の目の前で、ゆっくりと膝から崩れ落ちその場でうつ伏せになると、駆け寄って来た遊陽を目に映しつつ再び目を閉じた。
「嘘――」
「おい! 嘘だろ――遊無……!?」
力を使い果たしたのか――遊陽達の呼びかけにも応じることなく意識の途切れた遊無を見て、遊陽は彼女の名前を何度も叫ぶ。
ふらつきつつカズと留音も遊無に駆け寄る中、祭りの竜は消滅しつつも集まった遊陽達を見据えて、空へと舞い上がるとともに咆哮を上げ、完全に消滅するとその粒子が静けさを取り戻したデュエルスペースへと降り注ぐのであった。
「俺と遊無、ビナリウスと――」
「俺と留音、バウンティフルが送る――」
『ビナリウス回顧録!』
留音「はぁ……一斗となら絶対優勝できると思ったのに……」
カズ「ホント惜しかったな。けど良いデュエルだったぜ。だけど遊無ちゃんは大丈夫なのか?」
遊陽「倒れてからすぐ病院まで搬送されたけど、命に別状はないようだ。ただ折角勝ったのに、後味悪い結末になっちまったな」
カズ「そりゃ仕方ねぇよ。しかしもう一人の遊無ちゃん? が言ったこと、俺達にはさっぱりだぜ」
遊陽「遊無に宿る遊明の力――幸福を与える力なんていくらでも悪用できる。遊明とワッショイフェスタに言われるまでもなく、そんな奴らから俺は遊無を守って見せるぞ!」
留音「その思いは私も同じ。遊無ちゃんには指一本触れさせないわ……!」
遊陽「というわけで、24話に渡った遊戯王Binariusは、この後の短編を持って第一章――境界町編を完結とさせて頂きます」
『それでは次章――遊戯王Binarius(ビナリウス) エンクレーブ編でお会いしましょう……!』
ステンドグラス越しに陽の光が差し込む――荘厳な雰囲気が漂う教会で、正面玄関へと続く長い階段を、男は足早に下っていた。
「……パパ様、それにイーサ様まで――」
橙の髪に顔の輪郭に沿ったワインレッドの前髪をした――30代くらいの黒い司祭平服を身に纏う男は、玄関口に立ち男の到着を待っていた2人の人物に声を掛ける。
「発つにあたり、君への迎えも今し方到着したようじゃ」
「彼らの足回りの軽やかさには、常々感謝しております。しかしこの前と言い、ヒノモトで“例の力”に匹敵する霊力が幾度となく、発現するとは……」
男は信じられない。といった素振りで、丸裸の頭頂部に白い口髭と顎髭を蓄えた老人へと語り掛けると、もう一人の白い司祭平服に身を包んだ壮年の男は赤と橙の髪をした男へと歩み寄り、男の肩に手を置くと神妙な面持ちで口を開く。
「このところ“イーサ様”の“精霊の力”による予見は不調を期している。歴史
あるESA(ユーロピアン・スピリット・アドレイション)教会において、長きに渡り2つの世界の平穏を祈ってきたお方が――」
「とはいえ“ベテルギウス”教皇よ。儂も“半精霊”じゃからのう……常々自ら
の予見が正しいと確信してはおらぬ……」
「イーサ様でも見通せない未来――しかし我々の行く先に暗雲が立ち込めていようとも、これまで通り私達“守護霊の防人(ゲニウス・カストゥディーズ)”が、精霊に関わる事象を必ずや、解決へと導いて見せます」
男は行って参ります。と教皇ベテルギウス――そしてESA教会において真の“主”であるイーサに一礼し、背後の微笑む聖母の像を背に、正面玄関から送迎のため停車している黒塗りの高級車に向けて歩き出す。
「君の健闘を祈る――“サバス”……」
内海からの心地よい風を受けながら、サバスは大通りへと続く教会の敷地を歩いていく。
途中教会付属の孤児院の部屋で修道女が孤児達に本を読み聞かせていたり、教会本部に掲げられたESA教を国教と定める都市国家――“マグナ ヌメン”の国旗が風にはためくのを目で追いつつ、車へと乗りこんだサバスはD・フェースを取り出し、通話を掛ける。
「……オレだ。“彼女”とは合流できたか?」
「サバスの旦那! へい! バッチリ拾いましたぜ……!」
通話に応じたウェーブがかかった黒髪に短く顎鬚を生やした青年が答えると、彼の横から教会の修道服に身を包んだ――スカーレットとアイボリーの合わさった長いストレートの少女が、画面を覗き込んできた。
「あっ! サバスッ……! こっちでのお仕事はセ フェッだよーっ!」
「お前さんなら難なくこなしただろうよ。早速だが“マノン”――お前さんも次の任務先まで向かって貰う」
ESA教会において、精霊が関わる事象を解決へと導く治安維持活動を生業とする――“守護霊の防人”の下で働く少女“マノン”は、一仕事終えると同時に舞い込んだ任務を嫌がるかのように、目鼻立ちの整った顔を歪めて怪訝な表情を見せる。
「えぇーっ、アタシのコンジェ ペイエを取り上げないでよ! 不当なトラヴァイユ反対ーっ!」
「何を言おうがこの任務は断る訳にはいかねぇ、イーサ様直々の特命だからな。オレ達は“あの方”の痕跡を辿りに、強大な霊力を観測した“ある地”に向かう。その場所は――」
「ヒノモトの国……“境界町”だ――」
To be continued.
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同シリーズ作品
イイネ | タイトル | 閲覧数 | コメ数 | 投稿日 | 操作 | |
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63 | 1Turn 幽明を賑わす者 | 686 | 0 | 2022-11-11 | - | |
60 | 2Turn 掛け声響く祭りの竜 | 597 | 2 | 2022-11-12 | - | |
59 | 幕間 亡国の斜狐 | 512 | 0 | 2022-11-13 | - | |
62 | 3Turn 幽“零”少女 | 533 | 0 | 2022-11-18 | - | |
58 | 4Turn 複翅キ テイクオフ! | 422 | 0 | 2022-11-19 | - | |
49 | 5Turn 竜舞う花伝 | 370 | 0 | 2022-11-20 | - | |
55 | 6Turn 還流の海人 | 482 | 0 | 2022-11-25 | - | |
51 | 7Turn 繋がる異界 | 537 | 1 | 2022-11-26 | - | |
60 | 幕間 遊楽の休日 | 527 | 0 | 2022-11-27 | - | |
59 | 8Turn 境階の学び舎 | 466 | 0 | 2022-12-01 | - | |
56 | 第一章 キャラクター紹介 | 438 | 0 | 2022-12-02 | - | |
56 | 9Turn 開幕! 影鬼劇場! | 438 | 0 | 2022-12-03 | - | |
69 | 10Turn 花形役者と斜国の悪狐 | 497 | 0 | 2022-12-04 | - | |
45 | 11Turn 陶酔へと誘う酒処 | 389 | 0 | 2022-12-09 | - | |
58 | 12Turn 特別への自覚 | 394 | 0 | 2022-12-10 | - | |
47 | 13Turn 波間に揺らめく波止場 | 404 | 0 | 2022-12-16 | - | |
46 | 14Turn 命育む赤き血汐 | 468 | 0 | 2022-12-17 | - | |
62 | 幕間 遊無 落第の瀬戸際 | 443 | 1 | 2022-12-24 | - | |
53 | 15Turn 供養と円寂の儀 | 474 | 0 | 2023-01-14 | - | |
72 | 16Turn 石の塔が崩れる時 | 366 | 0 | 2023-01-27 | - | |
54 | 17Turn 盤上のアーティスト | 508 | 0 | 2023-02-12 | - | |
48 | 18Turn 夜空に咲く“賑やか”なる華 | 451 | 0 | 2023-02-21 | - | |
57 | 19Turn タッグデュエル大会 開幕! | 542 | 0 | 2023-03-09 | - | |
46 | 20Turn ウフトカビラ&サギラ | 450 | 1 | 2023-03-15 | - | |
55 | 21Turn 岡と浪花 花よりたい焼き | 386 | 0 | 2023-03-21 | - | |
66 | 22Turn 徹頭徹尾の覚悟 | 493 | 1 | 2023-03-24 | - | |
51 | 23Turn ビナリウス対バウンティフル | 407 | 0 | 2023-04-12 | - | |
51 | 24Turn 決着と新たな予兆 | 402 | 1 | 2023-04-13 | - | |
65 | 今までの話が丸分かり! 第一章のあらすじ | 461 | 0 | 2023-04-14 | - | |
46 | 25Turn 異国からの訪問者 | 385 | 0 | 2023-05-26 | - | |
41 | 26Turn 天上の採火 | 291 | 0 | 2023-06-02 | - | |
52 | 幕間 3人の交流生 | 360 | 0 | 2023-06-04 | - | |
78 | 27Turn 魘夢の魔族 | 352 | 0 | 2023-06-10 | - | |
42 | 28Turn 羅漢の竜王 | 295 | 0 | 2023-06-21 | - | |
47 | 29Turn 聖夜のマノン | 377 | 0 | 2023-06-25 | - | |
43 | 幕間 もう一人の遊無 | 320 | 2 | 2023-06-28 | - | |
44 | 第二章 キャラクター紹介 | 355 | 1 | 2023-07-01 | - | |
73 | 幕間 闘諍の予兆 | 384 | 0 | 2023-07-06 | - | |
48 | 30Turn 狂課金(ミダース) | 324 | 0 | 2023-07-10 | - | |
71 | 31Turn 舞い上がる不死鳥の輪舞 | 443 | 0 | 2023-07-14 | - | |
56 | 32Turn 巻き上げる関捩 | 357 | 1 | 2023-07-17 | - | |
49 | 33Turn 夢に堕ちる仲間 | 415 | 0 | 2023-07-22 | - | |
39 | 34Turn 友を取り戻せ! | 307 | 0 | 2023-07-30 | - | |
39 | 35Turn 堕ちた雷と涙雨の天河 | 347 | 0 | 2023-08-03 | - | |
39 | 36Turn 伝えたい言葉 | 332 | 1 | 2023-08-11 | - | |
38 | 37Turn 夢を喰らう獏 | 309 | 0 | 2023-08-26 | - | |
36 | 38Turn 深淵のトモカヅキ | 264 | 0 | 2023-09-03 | - | |
90 | 39Turn 最遠のパズズ | 359 | 0 | 2023-09-11 | - | |
33 | 40Turn 所縁が結ぶ絆 | 257 | 0 | 2023-09-18 | - | |
32 | 41Turn 活火激発の鍛人(かぬち) | 270 | 0 | 2023-09-22 | - | |
36 | 42Turn 巣林一枝のブルーバード | 217 | 0 | 2023-09-23 | - | |
38 | 今までの話が丸分かり! 第二章のあらすじ | 318 | 1 | 2023-09-24 | - | |
34 | 43Turn 次の関係(ステップ)へ | 286 | 0 | 2023-10-20 | - | |
46 | 44Turn 竜の駒 大洋を統べる | 372 | 0 | 2023-10-22 | - | |
40 | 45Turn マグナ ヌメンへの往訪 | 249 | 0 | 2023-10-26 | - | |
38 | 46Turn 跳躍-精霊世界へ | 275 | 0 | 2023-10-29 | - | |
49 | 幕間 強化訓練と異界の住人 | 307 | 0 | 2023-11-02 | - | |
49 | 47Turn 精霊世界 マースの森で | 265 | 0 | 2023-11-05 | - | |
40 | 祝一周年! 今後の展望など | 333 | 0 | 2023-11-11 | - | |
37 | 48Turn 精霊長アラウン | 213 | 0 | 2023-11-15 | - | |
39 | 第三章 キャラクター紹介 | 277 | 1 | 2023-11-16 | - | |
46 | 49Turn 下される審判 | 291 | 0 | 2023-11-20 | - | |
28 | 50Turn 猟犬従えし灰の王 | 268 | 0 | 2023-11-28 | - | |
35 | 幕間 精霊世界の平生 | 322 | 0 | 2023-12-07 | - | |
32 | 51Turn 最善の選択 | 236 | 0 | 2023-12-18 | - | |
35 | 52Turn 立ちはだかる使者達 | 274 | 0 | 2023-12-28 | - | |
31 | 53Turn 怨嗟積り秘号と成す | 240 | 0 | 2023-12-30 | - | |
34 | 54Turn 遊明の力 | 259 | 0 | 2024-01-02 | - | |
36 | 今までの話が丸分かり! 第三章のあらすじ | 311 | 0 | 2024-01-03 | - | |
27 | お久しぶりです。 | 122 | 0 | 2024-11-10 | - | |
18 | お知らせ。 | 142 | 0 | 2024-11-20 | - | |
24 | 55Turn 史都洛皇 霊祖常盤家 | 87 | 0 | 2024-12-20 | - | |
14 | 56Turn 定の竜 風生の虎 | 57 | 0 | 2025-01-11 | - |
更新情報 - NEW -
- 2024/12/21 新商品 PREMIUM PACK 2025 カードリスト追加。
- 01/15 20:16 評価 10点 《応戦するG》「古代エジプトにおいて、Gは《死者蘇生》のために…
- 01/15 18:51 デッキ トリシュトリシュエンプラ…
- 01/15 18:43 評価 10点 《封印の黄金櫃》「墓堀りグール「自分からデュエルで使えなくす…
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- 01/15 18:13 評価 8点 《サイコウィールダー》「LV3が場に居ると手札から出せるモンスタ…
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- 01/15 15:46 評価 9点 《闇と消滅の竜》「メインデッキのモンスターに戻れた《光と昇華の…
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- 01/15 15:00 評価 2点 《ヴェノム・スネーク》「今見ると《捕食植物》の元になったと思わ…
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- 01/15 09:50 評価 3点 《ヴェノム・コブラ》「メインデッキに入る《ヴェノム》では唯一の…
Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
新たな登場人物も現れ、第二章もこれまで以上に盛り上げていきます!
ここまでご覧頂きありがとうございました。第二章まではより一層のクオリティアップのため、時間を取らせて頂きます。 (2023-04-13 17:50)