２１Turn　岡と浪花 花よりたい焼き　作：ジェム貯めナイト

　カズと留音が笑原姉妹とデュエルを開始したのと同時刻――遊陽と遊無のチームビナリウスも、２人の先輩――チーム花よりたい焼きの個性的な先輩達とのデュエルを開始した。


　『デュエル――』


　遊陽＆遊無LP4000。　岡＆浪花LP4000。


　「最近好調の遊陽君と、優れたデュエルの腕を持つ遊無さんの２人が相手だろうが――俺と岡も期“タイ”のタッグだってこと、思い知らせてやる！」


　髪が尋常でなく早く伸びる特異体質を持つ岡と、常に焼き立てのたい焼きを持ち歩く浪花の２人はＤ・フェースを構え、それぞれ身体の前で拳を握りしめながら遊陽と遊無に向け、力強く言い放つ。


　「俺と遊無は２人で一組――ビナリウスの名の通り、先輩達を最高のコンビネーションで倒してやりますよ！　俺は手札の《ワッショイ・ニナイテ》を墓地に送り、《ワッショイ・散華飛天》を手札から特殊召喚……！」


　手札から伝統を受け継ぎ、次世代の担い手として祭りを“賑やか”す氏子を墓地に送ると、上空に発生した雲の隙間から花を散らしつつ、楽を奏じる天人が優雅に場へと舞い降りた。


　ワッショイ・散華飛天
　効果モンスター
　/光/レベル２/天使/攻撃力600。
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：手札から他の「ワッショイ」モンスター１体を墓地へ送って発動でき
　る。このカードを手札から特殊召喚する。その後、デッキから墓地に送っ
　たモンスターとは属性の異なる「ワッショイ」モンスター１体を手札に加
　える。


　ワッショイ・ニナイテ
　効果モンスター
　/地/レベル３/戦士/攻撃力1400。
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードが「ワッショイ」モンスターの効果によって手札から墓地
　に送られた場合に発動できる。自分はデッキから２枚ドローし、その後手
　札を１枚選んで捨てる。


　「散華飛天が舞い降りたことによって、墓地に送ったニナイテとは属性が異なる《ワッショイ・グージ》をデッキから加え、手札から墓地に送られたニナイテの効果発動だ……！」


　氏神が依り付いた神輿を掛け声とともに、氏子が高々と持ち上げると、雲を裂き天から降り注ぐ光が遊陽のデッキを照らし、カードを２枚引いた遊陽は手札から氏子の稚児を墓地に送った。


　「そして散華飛天をリリース、政を為すは人にあり、氏神の名の下に祭りを“賑やか”せ！　“アドバンス召喚”だ！　《ワッショイ・グージ》……！」


　手札のモンスターを液晶盤へと置いたことにより、琵琶をかき鳴らす天人は上空の雲とともに消滅して、晴れ渡る空から光差す道を通り、祭事を司る装束をした青年が降りてきた。


　ワッショイ・グージ　攻撃力2300。


　「……早速グ－ジを出してきたか」

　「そして効果発動！　デッキの上から３枚をめくり、新たな「氏子」を呼び出すぜ。現れろ！　彩り鮮やかな羽毛の雛――《ワッショイ・カラードメスチック》を特殊召喚……！」


　光の道を神職者に続いて降りてきたピヨピヨと鳴く黄色い雛は、遊陽が手札から捨てたモンスターの色に合わせ、緑色のカラースプレーを浴びて羽毛を緑に染めていく。


　「こいつが場に現れた時、手札１枚を引き直し捨てた氏子の色に染まる。カードを１枚伏せてターン終了」

　「……それじゃ僕も、君達の勝機を“断ち切ら”せるため、やりますかね。フィールド魔法《髪結い床－理髪工房》の営業開始とともに、君達の頭を丸める鋏――《霊髪の天牛 直刃》を手札に加えるよ」


　岡がＤ・フェースにカードを読み込ませると、辺りは壁面に等身大の丸鏡が張られ、同じ数のスタイリングチェアが置かれた理髪店に様変わりする。


　髪結い床－理髪工房　フィールド魔法
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードの発動時の効果処理として、デッキからレベル４以下の
　「霊髪」モンスター１体を手札に加える。
　(2)：自分フィールドのレベル７「霊髪」モンスターが戦闘以外の方法で相
　手によってフィールドから離れた場合に発動できる。そのモンスターの
　元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。


　「ここは……留音さんに教えて貰った、岡さんの家族が経営する美容室に似ていますね」

　「塰里さん共々、贔屓にしてくれてありがとう。更に魔法カード《髪鋏の研磨》によって、理容師の更なる道具２つを調達し、消耗した鋏と取り換え準備を整える」


　髪鋏の研磨　通常魔法
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：手札の「霊髪」モンスター１枚を相手に見せて発動する。デッキから
　「霊髪」モンスター２体を手札に加える。（同名カードは１枚まで）。
　その後、見せたカードをデッキに戻す。


　「……さあ、お客様の来店だ。手元に３本の髪鋏――《霊髪の天牛 直刃》《霊髪の天牛 柳刃》《霊髪の天牛 梳刃》を揃えたことによって、本日ご予約済みの当店をご贔屓する常連客――《霊髪の人形 市松》の接客を開始いたしましょう……！」


　手札から髪鋏を模した触覚を持つ――３匹のカミキリムシが羽音を立てて飛び回り始めると、両手にカミキリムシの鋏を握りしめた岡の目の前に、椅子に座り鏡の前へと向き合った――黒く艶のある足元まで届く長さの髪をした和装の少女が現れた。


　霊髪の天牛 直刃
　効果モンスター
　/闇/レベル３/悪魔/攻撃力500。
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分フィールドにレベル７「霊髪」モンスターが存在し、相手フィー
　ルドのモンスターが効果を発動した場合、手札のこのカードを捨てて発動
　できる。その効果を無効にする。


　霊髪の天牛 柳刃
　効果モンスター
　/闇/レベル３/悪魔/攻撃力500。
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分フィールドのレベル７「霊髪」モンスターを対象に、手札のこの
　カードを捨てて発動できる。ターン終了まで対象のモンスターは戦闘・カ
　ード効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。


　霊髪の天牛 梳刃
　効果モンスター
　/闇/レベル３/悪魔/攻撃力500。
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分メインフェイズに自分フィールドのレベル７「霊髪」モンスター
　１体を対象に、手札のこのカードを墓地に捨てて発動できる。このターン
　対象のモンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔
　法・罠カードを発動できない。


　霊髪の人形 市松
　効果モンスター
　/闇/レベル７/悪魔/攻撃力2400。
　(1)：このカード名の(1)の方法による特殊召喚は１ターンに１度しかでき
　ず、(2)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカード以外の手札の「霊髪」モンスター３種類を相手に見せて発
　動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
　(2)：自分・相手ターン終了時にこのターン墓地に送られた「霊髪」モンス
　ター１体を対象に発動できる。そのカードを手札に加え、このカードの攻
　撃力を６００ダウンする。


　「岡さん、早速切り札を出してきましたか……」

　「カードを１枚伏せ、入れ替わりのため僕の接客は一旦終了。次は遊無さんのターンだ」


　岡の手を離れ、和装の少女の周りを羽音を立て飛び回る髪鋏のカミキリムシが、変わる代わる少女の長い黒髪を整える光景を目にすると、遊無が見せたカードの中から経文の描かれた巻物を全身に巻き付けた――嘴を覗かせる正体不明の妖が現れる。


　「私のターン！　手札の《文幽鬼 経凛々》を捨てて効果発動です！　これによりデッキの上３枚をめくり、《伸幽鬼 轆轤首》を墓地に送り込みます」


　文幽鬼 経凛々
　効果モンスター
　/闇/レベル２/アンデット/攻撃力400。
　このカード名の(1)(2)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードを手札から捨てて発動できる。デッキの上からカードを３
　枚めくり、その中から「幽鬼」モンスター１体を墓地に送る。
　(2)：「幽鬼」モンスターをアドバンス召喚したターンに発動できる。
　墓地のこのカードを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚
　したこのカードがフィールドを離れる場合、デッキの一番下に戻る。


　「遊無ちゃんお得意の――妖怪を墓地に“タイ”機させる戦術だな！」

　「更に速攻魔法《神出鬼没》によって、墓地より経凛々を蘇らせ新たな「幽鬼」の贄とします！　経凛々をリリースして“アドバンス召喚”！　愚男を篭絡する血塗られし糸――《絡幽鬼 絡新婦》……！」


　開きかけの２本の巻物を翼のように羽ばたかせ、空中を旋回する鳥の姿に似た全身に経文を巻いた妖は、黒い霧に飲まれ消滅するとともに簪を挿したような２本の角を額から生やし、背中から生やした蜘蛛の足を観音のように広げた麗しい女性が場に姿を現した。


　神出鬼没　速攻魔法
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分の墓地のレベル４以下の「幽鬼」モンスター１体を対象に発動す
　る。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
　この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主のデッキの
　一番下に戻る。


　絡新婦攻撃力2100。


　「……アドバンス召喚したということは――」

　「でっけぇ“タイ”風が来るぞ！　備えろ岡……！」


　学園で遊無が見せたデュエルを思い出し、岡と浪花が身構える中、遊無が指先に宿した鬼火を宙に放つと、円を描いて異界との間に道を繋ぐ。


　「私の下級「幽鬼」達は、上級の妖がアドバンス召喚したターン中、妖を導く異界回廊より現世へと現れるのです！　　さあ――百鬼夜行と成りてひしめき歩け！　墓地より蘇って！　経凛々、轆轤首……！」


　遊無の宣言とともに異空間を通過し、幽世から巻物を巻き付けた妖が舞い戻り、同時に現れた簪を挿した花魁風の妖が首を胴体から伸ばしていく。


　経凛々守備力200。轆轤首守備力500。


　「そして私はアドバンス召喚した「幽鬼」がいることで、カードを１枚ドローする轆轤首の効果を発動させます！」

　「……整髪中に、頭を動かされると困るんだよね。相手の場にいるモンスターが効果を発動した場合、市松が場にいるため手札の直刃を捨てて効果発動。その効果は“断ち切ら”せてもらうよ――」
　

　煙管から煙を吸い込み首を伸ばそうとする花魁風の美女に対して、選ばれた髪鋏が和装の少女の黒髪を飛び回りながら整えていき、後頭部で２つに分けた黒髪が意思を持ったかのように伸びると、花魁風の美女を縛り上げ指先一つ動けなくする。


　「くっ……そのための鋏という訳ですか」

　「岡の腕前は美容師を勤められる位優秀でね。男女問わず髪を整えられるこいつの腕は、デュエルでもいかんなく発揮されるんだぜ！」


　遊無がカードを１枚伏せターンを終えると、切り揃えた少女の黒髪が魔力を帯びるとともに、髪鋏を入れる前の状態へと一瞬で元通りとなった。


　「遊無さんのターン終了に合わせて“悪魔に取り憑かれた少女”の魔力は暴走する！　自らの魔力を発散し、このターン切り揃えた髪が伸びるのに合わせて使用した髪鋏――直刃を再利用させてもらうよ？」


　市松攻撃力2400→1800。


　「岡美容室は盛況だねぇ……だが和菓子屋を営む俺んちだって、塰里さんとか常連も多いんだぜ！」


　浪花は自らの手札から１枚のカードを発動するとともに、養殖物のたい焼きを焼き上げられる調理機器を場に設置した。


　「俺はまず、火の通った魚族を焼き上げる永続魔法――《ベイクド・グリドル》を設置して、生地を注入するぜ！　デッキからまずは１匹――《レッドビーン・ベイクドブリーム》の焼き上がりだ……！」


　焼き機を閉じ、しばらくすると香ばしい香りが立ち昇るとともに開かれた焼き機の中から、鯛の姿を模った和菓子が勢いよく場に飛び出した。


　ベイクド・グリドル　永続魔法
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分メインフェイズに発動できる。デッキからレベル１炎属性・魚族
　モンスター１体を特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分は炎属
　性・魚族モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
　(2)：自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドのレベル１炎属
　性・魚族モンスターの数×５００ＬＰを回復する。


　レッドビーン・ベイクドブリーム
　効果モンスター
　/炎/レベル１/魚/攻撃力500。
　このカードの効果を発動するターン、自分は炎属性・魚族モンスターしか
　召喚・特殊召喚できない。
　(1)：１ターンに１度、このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動でき
　る。デッキから「レッドビーン・ベイクドブリーム」を２体まで特殊召喚
　する。


　「……見ての通り、浪花先輩のデッキはたい焼きデッキだ」

　「香ばしい香りが食欲をそそります。守備表示のたい焼きを対象に絡新婦の効果――幻糸誘縛！　私にも味合わせて貰いましょう」


　遊無と同様に甘い香りに釣られ、背中から生やした蜘蛛の足から麗しい女性が同時に糸を伸ばして、焼き立てのたい焼きを頂こうとするも伸びてきた少女の髪により糸と髪――それぞれ絡み合ったところで、カミキリムシにバッサリと切られ髪の束がはらりと落ちる。


　「……君達、お行儀悪いよ。再び直刃によってその効果は断ち切らせて貰う」

　「サンキュー岡！　そんなに食べたいなら先に代金を頂こうか？」


　食べようと伸ばした糸が届かなかったことに、蜘蛛の足を曲げ悔しがるそぶりを見せる女性へと、浪花は挑発するかのように返答した。


　「そう言ってる間にレッドビーンの効果によって、１ターンに１度デッキから同じ具のたい焼きが、２匹追加で焼き上がったぜ！」


　再び焼き機に注入された具に火が通り、パリッとした皮にたっぷりの餡を詰めた――２匹のたい焼きが新たに焼き上げられた。


　「そして俺はレッドビーン２体をテイクアウトし、こいつを“アドバンス召喚”だ！　毎日鉄板の上で焼かれ、やっぱり君はたい焼きさ！　ゴクリとつばを飲み込んで、たい焼きうまそに食べちゃいな！」


　２匹のたい焼きが紙袋に包まれ場から消えると、特注の巨大な焼き機によって焼き上がった皮に餡をたっぷりと充填し、その量で目の部分が膨れ上がった常連客用の特製たい焼きが焼き器から飛び跳ね、宙をゆったりと泳ぎ始めた。


　「……毎回毎回、口上が長いよ浪花」

　「簡素な口上じゃ“タイ”屈だろ？　丁度焼き上がった《ポッピングアイズ・ベイクドブリーム》の、目で“タイ”食レポと致しましょう……！」


　ポッピングアイズ・ベイクドブリーム
　効果モンスター
　/炎/レベル７/魚/攻撃力0。
　(1)：この攻撃力・守備力は、自分ＬＰの半分アップする。
　(2)：自分フィールドにこのカード以外の炎属性・魚族モンスターが召喚・
　特殊召喚された場合に発動できる。そのモンスターの攻撃力分ＬＰを回復
　する。


　「攻撃力０か――手間を掛けて出したってことは、余程のリターンがあるということか？」

　「そりゃ勿論――目出“タイ”たい焼きは自らの効果により、俺達のＬＰ半分を攻撃力に加えるぜ！」


　ポッピングアイズ・ベイクドブリーム攻撃力0→2000。


　「それだけじゃない――少ない手間で大きな利益を上げるのをなんと言う？　魔法カード《シュリンプ・オア・フィッシング》だ！　レッドビーンを対象に、客からの要望で同じたい焼きを２匹まで再度焼き上げる……！」


　目でタイたい焼きは自ら焼き機の鉄板に向かい、口からたっぷり詰まった餡を焼き上げ中の生地に注ぎ込んで混ぜると、焼き上がった２匹のたい焼きが鉄板を飛び跳ね、目でタイたい焼きと並んで泳ぎ出す。


　シュリンプ・オア・フィッシング　通常魔法
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分フィールドのレベル１炎属性・魚族モンスターを対象に発動でき
　る。墓地からそのモンスターの同名モンスターを２体まで選んで特殊召喚
　する。その後この効果で特殊召喚したモンスターの数×５００ＬＰを回復
　する。


　「そして１匹に付きＬＰを５００回復する。更にこの時、新たにたい焼きが焼かれたことで目出タイたい焼きの効果発動！　その攻撃力分だけＬＰを回復し、《ベイクド・グリトル》の効果で小粒のたい焼き１匹に付き更にＬＰを５００回復だ！」


　焼き上がった小粒の３匹を含め４匹のたい焼き達が、浪花の元に集まると口から支払われた代金を吐き出し、２人のＬＰにその売り上げが加わった。


　岡＆浪花LP4000→5000→6000→7500。


　「一気にＬＰが回復しました……！」

　「売り上げを勘定し、餡の大盤振る舞いで利益を増した目出タイたい焼きの攻撃力も、鯛だけど鰻登りだぜ……！」


　ポッピングアイズ・ベイクドブリーム攻撃力2000→3750。


　「カードを１枚伏せ、本日の売り上げは３５００となります。ご来店ありがとうございました！」

　「僕も再び市松の攻撃力を６００ダウンさせて、使った道具を手入れし再び手元に収めるよ」


　市松攻撃力1800→1200。


　再び黒髪を生やし整える前の状態に戻した市松と、効果を断ち切る髪鋏のカミキリムシに、非常に厄介だと苦々しい表情をしつつ、遊陽はカードをドローする。


　「――これならいける！　魔法カード《トラフィック・ブロケード・エリア》……！　これにより神輿の巡行ルートには規制線が張られ、俺の「氏子」達への妨害を未然に防ぐ！」


　発動とともにカードに描かれてる通り、遊陽と遊無の場には規制線が張られ、警らが不審者がいないか見張ることにより、髪鋏からの妨害は封じられた。


　トラフィック・ブロケード・エリア　通常魔法
　(1)：このターン自分の「ワッショイ」モンスターの召喚・特殊召喚成功時
　に相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できず、効果の発動に対して
　相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。


　「くっ――営業許可証を持っていない僕達は、屋台に参入できない……」

　「次は……遊無！　少しばかり“人出”を借してくれないか？」


　遊陽の申し入れを遊無が頷き了承するとともに、巻物の翼を羽ばたかせて飛ぶ妖は粒子となり消滅し、突風が吹き蹄を打ち鳴らす音が聞こえてきた。


　「俺は経凛々をリリース！　身に着けた武技による神頭の矢で、時代を切り開く嚆矢となれ！　“アドバンス召喚”だ！　駆け抜けろ――《ワッショイ・騎射三物 流鏑馬》……！」


　蹄で地を蹴り、砂を舞い上げながら騎馬に跨った騎手が、弓を構え助走しながら場に駆け付けた。


　騎射三物 流鏑馬攻撃力2200→2700。


　「……今のうちに使っておこうか。手札の柳刃を捨てて効果発動！　このターン市松の髪にカールをかけ、あらゆる破壊から身を守る」


　和装の少女の黒髪を先程までとは別の鋏が整えていき、ふんわりと波打ったウェーブヘアを交差させつつ絡ませ、籠のように自身を包み込み防御の体制をとる。


　「果たしてそれは――正しい選択でしょうか？　バトル開始と同時に騎射三物 流鏑馬の効果発動！　出馬時に見物する客層に応じて、攻撃回数を増加する！」

　「流鏑馬を除く場の種族は５種類。市松との攻撃力差は１５００――」

　「……５回の攻撃を市松に向ければ、丁度５射目で僕達のＬＰは０となるか……」


　跨る馬が嘶きとともに駆け出し、前後に揺さぶられながらも馬上の弓士は矢をつがえて、憑りつく悪魔の魔力で髪がすぐ伸びる和装の少女へと狙いを定める。


　「いけ騎射三物 流鏑馬！　市松を５回連続攻撃！　射貫け、鏑矢一筋――５連射……！」


　安定する姿勢を維持しながら、遊陽の攻撃宣言を受け、馬上の弓士は次々と矢を放ち、和装の少女の四肢に命中させその傍らを追い越していく。


　『ぐあぁぁっ……！？』　岡＆浪花LP7500→6000→4500→3000→1500。


　「凄い――次の矢で決まりですね！」

　「――これで最後だ！　鏑矢一筋――第５射……！」


　コートのラインギリギリで方向転換し、遊陽達の元に戻って来た弓士が狙いを定め、最後に放った矢が和装の少女の胴体に直撃すると、衝撃で巻き起こった砂埃が岡達の姿を隠していく。


　「やったか？　――何っ……！？」


　「うっ――ぐっ……」　岡＆浪花LP1500→3000→1500。


　「矢が届く直前に、罠カード《ナシワリ・ブリーム》を発動したんだよ！　これにより３匹のレッドビーンを提供し、ＬＰを１５００回復させたって訳さ」


　ナシワリ・ブリーム　通常罠
　(1)：自分フィールドのレベル１炎属性・魚族モンスターを全てリリースし
　て発動する。この効果でリリースしたモンスターの攻撃力の合計分ＬＰを
　回復する。
　(2)：自分フィールドにレベル７以上の炎属性・魚族モンスターが存在する
　場合に発動できる。
　自分フィールドの表側表示のカード１枚を墓地に送り、デッキから「ナシ
　ワリ・ブリーム」１枚を選んで自分の魔法＆罠ゾーンにセットする。


　「先輩達も、早々に勝利を譲ってくれないか……」


　怒涛の連続攻撃に肩で疲労をしながらも、耐えきった２人は息を整え、遊陽がバトルを終えるとともに岡が伏せていたカードを発動させる。


　「バトルが終わる時に、罠カード《間一髪》を発動するよ。このターン市松が戦闘した回数分、カードをドローする」


　間一髪　通常罠
　このカード名のカードは１ターンに１度しか発動できない。
　(1)：自分のレベル７「霊髪」モンスターが戦闘したバトルフェイズ終了時
　に発動できる。このターンレベル７「霊髪」モンスターが戦闘した回数
　分、デッキからカードをドローする。


　「遊陽君が流鏑馬による連続攻撃を仕掛けたおかげで、５枚もの手札を増強できた。感謝するよ」

　「一本取られたな――悪い遊無……」

　「問題ありません。次のターンに取り返せば済むことです」


　遊陽がそのままターンを終えると、和装の少女の髪は再び生え変わり、羽を広げた髪鋏のカミキリムシが飛来するとともに、岡はカードを引いた。


　市松攻撃力1200→600。


　「僕の担当に戻ったところで、早速続きに取り掛かろう。装備魔法《市松添え髪》を市松に装着し、下がった攻撃力を元の数値へと戻すよ」


　髪型のレパートリーを増やすべく髪の根元に装着された添え髪により、ボリュームの増した和装の少女の髪は、毛先まで浸透させた魔力によって、意志を持ったかのように波打ち始める。


　市松添え髪　装備魔法
　レベル７「霊髪」モンスターにのみ装備可能。
　(1)：装備モンスターの攻撃力が元々の攻撃力より低い場合に発動できる。
　装備モンスターの攻撃力をその差の数値分アップする。この効果はこのカ
　ードが装備されている限り１度しか使用できない。


　市松攻撃力600→2400。


　「更に速攻魔法《髪梳き》により、悪魔族である市松の髪を手札の梳刃とともに梳いて効果発動だ！　市松の攻撃力は１２００上昇し、更にこのターン市松の攻撃を魔法、トラップで妨害することはできない！」


　髪梳き　速攻魔法
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分フィールドの悪魔族モンスター１体を対象として発動できる。
　そのモンスターの攻撃力は１２００アップする。


　市松攻撃力2400→3600。


　「着々とあのお人形さんを着飾っていますね……」

　「そしてこれが市松を引き立てる最後の魔法カード――《乱れ髪》だ！　君達の流鏑馬と同じくこのターン市松でしか攻撃できないかわりに、その攻撃は全ての相手モンスターに拡散する……！」


　続けざまに発動した３枚のカードにより、髪を梳き毛量を調整したことでより滑らかな動きを始めた和装の少女の髪は、遊陽達の場のモンスターに合わせ髪をヒトデのように５つの束に分けると、それぞれの束が丸まり毛先を拳の形にする。


　乱れ髪　通常魔法
　(1)：自分のレベル７「霊髪」モンスター１体を対象に発動する。
　このターン対象のモンスターは相手モンスター全てに１回ずつ攻撃でき
　る。この効果を発動するターン、この効果の対象としたモンスター以外の
　モンスターは攻撃できない。
　(2)：このカードが墓地に存在する場合、自分ドローフェイズのドロー前に
　発動できる。このターン通常のドローを行う代わりに、このカードを手札
　に加える。


　「次は君達にやり返させてもらうよ？　バトル！　市松で相手モンスター全てに５連続攻撃！　決殺――毛弧硬爬山……！」


　岡の手のひらを突き出す動作に合わせ、５つに分かれた髪がそれぞれ弧を描きつつ、遊陽達のモンスターに迫って来た。


　「だったら――このバトルフェイズに、墓地の《ワッショイ・諷経風車》をカラードメスチックをリリースすることで、墓地から蘇らせるぜ……」

　「……最初のターン、墓地に送った奴か」

　「この効果で蘇った諷経風車は攻撃対象にならない――」


　羽毛を緑に染めた雛が伸びてきた髪の束から更に分かれ、相手を拘束する細い髪から逃れて消滅すると、経を詠む風車が襲い来る髪の拳を吹き流す突風でいなすが、残るモンスター達は細い髪に身体を拘束され繰り出された掌底を受けて消滅する。


　『ぐっ……！』　遊陽＆遊無LP4000→2500→1200→300。


　「風車は残ったものの、轆轤首と絡新婦――更に遊陽君のグージと騎射三物 流鏑馬を葬れたのは大きいぜ！」

　「ＬＰも残り３００まで減らした。カードを２枚伏せ、お得意様の髪を整えたところで本日の営業はおしまいとしよう」


　ターンを終えるとともに、再び和装の少女は元の髪へと戻り、使用した梳刃の髪鋏を手札に戻した岡を見て、彼のスタイリング技術に遊陽はキリがない。と繰り返される和装の少女を中心とした戦術に恐れを抱く。


　市松攻撃力3600→3000。


　「マジで市松を何とかしなければ、延々と邪魔されるな。俺はこのターンが終わる時、罠カード《玉屋鍵屋》を発動だ！　デッキの上５枚の中から《ワッショイ華景・マムフラワー》を打ち上げるぜ」


　めくったカードの中から遊陽が１枚のカードを液晶盤に置き場に呼び出すと、菊状に広がる鮮やかな閃光が咲き誇り、火花を散らせながら花火玉の姿をしたモンスターが上空へと打ち上がる。


　「ＬＰ回復に手札から飛んでくる妨害と、手堅い守りのコンビだな。遊無！　さっきの借りに俺の残したカード、遠慮なく使ってくれ！」

　「そう仰るのであれば、遠慮なく活用させてもらいます。私のターン！」


　カードを引いた遊無は、遊陽が直前に残したカードの効果をＤ・フェースに表示された自分の墓地の状況を見て確認すると、早速液晶盤を操作し効果を発動させる。


　「私は墓地の《玉屋鍵屋》を除外して、マムフラワーを墓地に送ることで効果発動――更にカードを２枚ドロー！　そして引き当てた魔法カード《施餓鬼供与》により、お互いに手札のモンスターを捨て、カードを２枚ドローするかを選択します」

　「今回はタッグデュエルだから、その権利は先輩達も含めた全員が選択可能となりますよ？」

　「……引かなければ相手が引いた枚数分、１０００のＬＰ回復か。僕は引かないよ。浪花はどうする……？」

　「俺も引かねぇ。俺にとっては臨時収入でホクホクの気分だぜ！」


　　遊陽と遊無がカードを２枚引くと同時に、お供え物の果実が沢山詰められた籠が現れると、岡と浪花にそれぞれ２０００――合計４０００もの施しが与えられ、ＬＰを回復する。


　岡＆浪花LP1500→5500。


　「私と遊陽さんは２枚をドロー！　これなら――更に魔法カード《怪鬼遭逢》によって相手モンスターが２体以上存在することを条件に、手札から「幽鬼」１体を呼び出します！　鳴り響く雷鳴とともに天へと登り、雷を纏いて降雷せよ！　《鳴幽鬼 雷獣》……！」


　遊無がＤ・フェースへと１体のモンスターを呼び出すと、突如鳴り響く雷鳴とともに空に浮く雲へと四足歩行の獣が高速で駆け登り、場に落雷が落ちるとともにムジナに似た妖が帯電した雷で全身の毛を逆立たせ、低く唸りながら現れた。


　雷獣攻撃力1800。


　「雷獣の効果により、このターン中「幽鬼」の出現を邪魔されず、召喚時に発動する効果を確実に通すことができます！」


　続けざまに遊無が呼び出した雷獣と遊陽の風車が黒い霧に包まれると、風になびく裾引きの裾から素足を覗かせ、前結びの帯を締め前後の襟を肩から豊かな胸元まで大きく開いた――色鮮やかな着物を身に纏う“斜国の妖狐”が目を閉じたまま両手を広げ、黒い霧の中から宙へと浮かび上がる。


　「くっ……直刃で召喚時の効果を止められない――」

　「スタンバってたらスタンしたってか……？」


　岡が発動しようとした手元の髪鋏から指を離すと、目を開けた遊無の切り札は眼前の岡と浪花を鋭い眼光で見下ろし、腰より下の位置から揺らめく炎を９本の尾に形どると、足を組んで優雅に宙を漂う。


　――フン。わらわが来たからにはこやつら如き、早々に片付けてくれる――。

　「妖を統べる貴女の力、お借りさせて頂きます。さあ――ここからが私達ビナリウスの反撃開始です！　妖の妙技で敵を惑わし、九の尾で襲い来る者を薙ぎ払え！　《妖幽鬼 玉藻前》……！」





　「遊陽と――」

　「遊無の――」

　『二人はビナリウス！』


遊陽「俺と遊無もカズ達に続いて決勝に進むため、今回は岡先輩と浪花先輩のタッグ相手にデュエルを繰り広げたぜ」

遊無「先輩達はＬＰ回復と手札から飛んでくる天牛――カミキリムシでの妨害で相手を消耗させつつ、隙を見て攻勢に転じる戦い方で勝ち上がってきた強敵ですね」

遊陽「特に岡先輩の市松人形を切り札に据えた「霊髪」は、手っ取り早く場にレベル７の「霊髪」モンスターを呼び出して、戦線を維持する厄介な相手だ」

遊無「岡さんも浪花さんもそれぞれ切り札を呼び出し、下級モンスターを交えて戦線を支える戦術の使い手ですね」

遊陽「浪花先輩もひたすらＬＰを回復させて、稼いだＬＰを切り札である“目でタイたい焼き”の攻撃力に変換させ、隙あらば叩きこんでくる。高攻撃力の一撃は何とか凌がないとな」

遊無「まだまだ続く私達ビナリウスと、先輩方の花よりたい焼きのデュエル――更にＬＰを回復させて優位に立つ先輩達に対して、私が残した１枚の伏せカードから大幅に稼がれた相手ＬＰを削り切るべく、攻勢に転じます」


　『次回！　遊戯王Binarius（ビナリウス）　－徹頭徹尾の覚悟－　お楽しみに！』