２０Turn　ウフトカビラ＆サギラ　作：ジェム貯めナイト

　シェヘラザードとフライング・カルゼット――御伽噺を語る王妃とカササギ達の合作である空飛ぶ絨毯の切り札２体を揃えた千夜と織姫に対して、カズと留音は姉妹が次に繰り出す戦術に備えて身構える。


　「フライング・カルゼットの飛来に呼応して、アートピケープの効果発動！　フライング・カルゼットとの間２ヶ所と同じレベル――レベル２の《ウィーブ・マグパイ・ヘリンボレロ》を手札に加える！」


　ウィーブ・マグパイ ヘリンボレロ
　効果モンスター
　/風/レベル２/鳥獣/攻撃力400。
　このカード名の(1)の方法による特殊召喚は１ターンに１度しかできず、(2)の効果
　は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分フィールドに「ウィーブ・マグパイ」モンスターが存在する場合、この
　カードは手札から特殊召喚できる。
　(2)：自分フィールドにこのカード以外の「ウィーブ・マグパイ」モンスターが召
　喚、特殊召喚された場合に発動できる。
　ターン終了時まで自分フィールドの「ウィーブ・マグパイ」モンスターの攻撃力
　はそのモンスターとこのカードの間に存在するモンスターゾーンの数×５００アッ
　プする。


　「そして千夜ちゃんのシェヘラザードの効果発動！　あたしが選ぶのはマルジャーナだよ！」

　「今宵聞かせるは、またまた女使用人の盗賊退治！　カーナ ヤー マカーン！」


　再び大鍋を背負った女使用人が空いている左から２番目の位置に現れると、織姫はバトルフェイズに移行し語り手の王妃で２人へと攻撃を仕掛ける。


　「あたしはガラ空きの２人に攻撃！」

　『今宵も語るは――アルフ・ライラ・ワ・ライラ……！』

　「通さない！　その物語は、海流に乗って世界を駆け巡る。墓地のツシマとケルプ・シーオッターを除外して、罠カード《スクランブル・ボトル》発動よ……！」


　Ｄ・フェースを操作し、留音が発動させたトラップから、４人の足首が浸かるほどの海水が場に放出される。


　スクランブル・ボトル　通常罠
　このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
　(1)：自分の墓地から「深層環姫」モンスターを２体まで除外して発動できる。
　デッキの上から除外したモンスターのレベル合計分だけカードをめくり、その中
　から除外した枚数と同じ数まで「深層環姫」モンスターを選んで特殊召喚する。


　「この効果で除外したモンスターのレベル分だけ海を巡り、その中で出会った「深層環姫」を２体まで呼び寄せる！　８回の航海中出会ったのは《深層環姫マーメイド・ジュゴン》と――強固な城壁すら打ち砕く高速の牙突！　《深層環姫コーラル・ナーワル》……！」


　やがて海水が引くと同時に２本の瓶が残されて、コルク栓が空くと中に詰められた書簡がカードに変わり、瓶の口から鼻を鳴らして歌うジュゴンと、珊瑚の牙を持つ一角が実体を得て召喚された。


　マーメイド・ジュゴン攻撃力1900→2700。　コーラル・ナーワル攻撃力2200→3000。


　「ありゃりゃ、バトルは中断せざるを得ないみたいだねぇ。でも“その位置”でよかったのかな……？」

　「あっ……！？　留音！　“その位置”はマズイ……！」


　現れた一角が着地した場所を見てニヤリと笑った織姫と、慌てふためくカズの姿に留音はＤ・フェースの液晶盤中央に置かれたジュゴンと、その隣に置かれた一角を確認し、疑問を浮かべる。


　「えっ……？　ルールは守っているはずよ？」

　「すぐに後悔することになるよ！　あたしはフライング・カルゼットの効果発動！　絹綾架橋……！」


　織姫の宣言により、カズが察した最悪の予想は現実となった。


　「アートピケープとの間を飛行し、位置を入れ替えるとともにお互いの交差する間と正面に存在する全てのモンスターは除外されるわ……！」


　カササギ達は御伽噺の住人２体を挟んで高速で飛び交い、その速さに遅れて現れた残像がまるで乳白色の橋のように空中に漂うと、その往路に存在する女使用人とランプの魔神、そして正面にいる一角は生み出された橋に吸い込まれて消滅する。


　ウィーブ・マグパイ フライング・カルゼット
　効果モンスター
　/風/レベル７/鳥獣/攻撃力2500。
　(1)：１ターンに１度、自分・相手のメインフェイズに発動できる。
　自分のメインモンスターゾーンの「ウィーブ・マグパイ」モンスター２体を選
　び、その位置を入れ替える。
　その後その２体の間及びその正面に存在するモンスターを全て除外する。


　「そんな――私のコーラル・ナーワルが……！」


　切り札を除外され取り乱す留音だが、カード効果の連鎖は終わらない。


　「除外されたマルジャーナと、御伽噺の住人が除外されたことで砂丘王城の効果発動だよ！　マーメイド・ジュゴンの攻撃力は合計１０００ダウンして、更にマルジャーナの効果で王女様より攻撃力が下回ったマーメイド・ジュゴンは破壊される……！」


　御伽噺の住人の消滅に呼応して、砂丘に吹く砂嵐がジュゴンを襲い、咳き込むジュゴンへと煮え滾った油が撒かれて降りかかり、全身が焼けただれたジュゴンは苦しそうな鳴き声を上げて消滅する。


　「やられた――これこそが織姫先輩と千夜ちゃんの連携技だよ……」

　「そういえばカササギ達が交差する斜線上に出すなって、あたし留音ちゃんには言わなかったよね？　これでいい勉強になったでしょ？」


　留音が呼び出した２体の大型海獣が、千夜と織姫のカード効果を組み合わせたコンボによって消滅したことに、観客からも驚きの声が上がる。


　「うっとぅ笑原の王妃が呼び出すマルジャーナを、ねぇねぇの先輩がカササギ２体で除外して――」

　「砂丘王城で弱った相手をマルジャーナで正面のモンスターもろともぶっ飛ばす。毎ターン繰り出せるモンスター全滅コンボかよ」

　「フフン！　あたしが“千夜”に渡る御伽噺を語り――」

　「あたしが天の川に彦星と“織姫”を繋ぐ橋を架ける。あたしと千夜ちゃんの真骨頂――ウフトカビラ＆サギラが誇る連携技だよっ……！」


　光希と歩も目を見張る中、残ったランプの魔神の効果でデッキの一番上のカードをめくった千夜は、残念そうにそのカードを墓地に送る。


　「おまけに除外されたイフリートの効果――は外れたけど、それでもあたし達の優位は崩れないから！」

　「あたしは更に戻したジャガードレスを左から２番目に特殊召喚して、カードを１枚伏せる」


　織姫が手札から再びカササギを呼び出し、カードを１枚伏せると続けざまに千夜が再び御伽噺を収納する保管庫の効果を発動する。


　「カズ先輩にターンが回る前に、王妃様がいることで《テンポラリ・ストレージ》２つめの効果発動だよっ！　今宵引き出すは七つの海をまたにかける大冒険！　シンドバードを真ん中に登場させる……！」


　出現した端末が保存領域に納めた御伽噺の住人――航海の果てに莫大な富を手にした船乗りを画面の中から引き出し、収納される直前に船乗りがポケットから取り出したダイヤが輝き、千夜のデッキを光らせる。


　「そして除外されたシンドバードの効果で、千夜ちゃんはデッキから御伽噺に関係するカード１枚を除外して――」

　「次にあたしのターンが来たら手に入るよ！　あたしは《ハディース・デジタイゼーション》を除外。積み重ねた記録は途切れさせない――“伝記”は大切にね！」


　デッキから選んだカードを右手の親指と人差し指で挟み、宙に向けて親指を勢いよく上げ弾き出すと、稲妻を纏ったカードは空を裂いて現れた裂け目へと吸い込まれていき、空間が閉じるとともにカズへとターンを渡す。


　「俺のターン！　俺達だって先輩達と同じく、築き上げてきた信頼があるぜ！　俺達２人なら今度こそ、先輩達の連携に届くってな……！」

　「一斗――」

　「へぇーっ、カズ君も中々ロマンチックなセリフ言うじゃない」

　「……でも先輩？　そんな惚気噺程度じゃ、あたしとお姉ちゃんの姉妹愛には届きさえしないよっ！」

　「だったら押し上げるまでだ！　俺達の場にモンスターがいないため、俺は墓地の《複翅キ発進（ドラゴニック・スクランブル）》を除外し、デッキの上５枚の中から「複翅キ」を場に呼び出すぜ！　現れろ！　《複翅キシルバトロス》……！」


　引いたカードを確認すると、カズは墓地から発動させた罠の効果により、デッキの上５枚の中から銀色に鈍く光る秋津のカードを選び出し、場に発進させる。


　シルバトロス攻撃力2200。


　「だったら再びシェヘラザードの効果発動！　カーナ ヤー マカーン！　マルジャーナを真ん中に登場させる！　そして女使用人が登場したことで《テンポラリ・ストレージ》の効果発動！　そのトンボも昆虫図鑑に加えて、保管庫の数ある一冊にしてあげるっ！」


　再び電子端末の画面内でページがめくられていき、表示された白紙のページへと離陸したばかりの銀色の秋津は吸い込まれようとする。


　「そいつはどうかな？　速攻魔法《複翅キ転換（ドラゴニック・コンバージョン）》を発動だ！」


　複翅キ転換（ドラゴニック・コンバージョン）　速攻魔法
　このカード名のカードは１ターンに１度しか発動できない。
　(1)：自分フィールドの「複翅キ」モンスター１体を対象に発動できる。そのモン
　スターをデッキに戻し、デッキからそのモンスターとはカード名が異なるレベル
　７以下の「複翅キ」モンスター１体を特殊召喚する。


「こいつで千夜ちゃんの迎撃を振り切って、来い！　猩々と男爵交わりし秋津――《三翅キ(ドライゴニック）ウォッカー・バロン》……！」


　発動したカードによって銀色の秋津は、端末に取り込もうとする引力から辛くも逃れて緊急着陸し、入れ替わりに機体を赤く染めた空の王者たる秋津が風切り音を立てて場に飛来した。


　ウォッカー・バロン攻撃力2600。


　「ちゃんと警戒して、正面を避けて主力戦闘機を出してきたね。だったらもう一度フライング・カルゼットの効果――絹綾架橋で、ジャガードレスとの位置を入れ替えてマルジャーナを除外！」

　「これでまたお姉ちゃんとの必殺コンボが炸裂するよ！　そんなトンボなんて撃ち落としちゃうからっ……！」


　再び千夜と織姫――２人のカードが発動した効果が連鎖して、空にカササギが飛び交い生まれた乳白色の橋が架かり、砂嵐が吹き荒れるとともに機体を激しく揺さぶられる赤き秋津へと、煮え滾った油が降りかかろうとする。


　「ここが使いどころ――受け取って一斗！　罠カード《リソース・シェルフ》……！」


　姉妹の連携技に苦虫を噛み潰したようなカズの表情を覗き込んだ留音は、彼の役に立つべく温存していた罠を発動させた。

　すると大陸周縁の浅く平らな海底が描かれたカードから、天まで届くほどの養分に富んだ海水が赤き秋津を囲むように放出されて、降りかかる油は海水に冷やされ赤き秋津は養分を吸収して奮い立つ。


　リソース・シェルフ　通常罠
　このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分フィールドのモンスター１体を対象に発動できる。
　そのモンスターのレベルと同じになるよう墓地の「深層環姫」モンスターを任意
　の数だけ除外して、対象のモンスターの攻撃力はターン終了時まで除外したモン
　スターの攻撃力分アップする。
　(2)：墓地のこのカードを除外して発動できる。除外されているレベルの異なる
　「深層環姫」モンスターを任意の数だけ選んでデッキに戻し、そのレベルの合計×
　１００ＬＰを回復する。


　「この好漁場たる大陸棚は、ウォッカー・バロンと同じレベルになるよう墓地のクロシオとクリルを除外することで、その攻撃力の合計分恵みをもたらすわ！」


　ウォッカー・バロン攻撃力2600→2100→4300。


　『あたし達の必殺コンボが……！？』

　「助かったぜ留音！　俺は更に格納庫の効果により、デッキからウォッカー・バロンに《複翅キ銃装（ドラゴニック・ガンポッド）》を装備！」

　「このままじゃ――墓地の《ウィーブリッジ》を除外して効果発動！　両端のうち左のアートピケープを手札に戻すわ」


　バトルに備え織姫が低攻撃力のカササギを手札に戻すとともに、カズがバトルフェイズを宣言すると、赤き秋津の機体下部に増設された機関砲が御伽噺を語る王妃へと狙いを定める。


　「攻撃の際にガンポッドを解除することで、ウォッカー・バロンは貫通能力を得る！　喰らえ！　ロートバッフェ・バラージュ……！」

　「倒させない！　永続トラップ《クロッシング・キャラバン》……！　右端にいるシェヘラザードの位置を反対側の左端に移動して、２つ目の効果でモンスターゾーンを移動したモンスターはこのターン戦闘では破壊されないわ！」


　クロッシング・キャラバン　永続罠
　このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：自分・相手のバトルフェイズに発動できる。自分のメインモンスターゾーン
　の右端と左端のモンスターを２体まで選び、その位置を入れ替えるか反対の端の
　ゾーンに移動する。
　(2)：自分フィールドのモンスターが他のモンスターゾーンに移動した場合、この
　ターンそのモンスターは戦闘では破壊されない。


　「だが跳弾は受けてもらうぜ！」


　機関砲が猛烈な弾幕の雨を王妃に浴びせかけるが、乳白色の道を行き交う隊商が王妃を護衛し、幾ばくかの犠牲を出しつつも赤き秋津の襲撃を凌ぎ切って、王妃は反対の端へと避難する。


　『きゃあっ……！？』　笑原姉妹LP4000→2100。


　「更に解除したガンポッドの効果で、ウォッカー・バロンは続けて攻撃できる！」

　「ジャガードレスを攻撃すれば、与えるダメージは３７００！　決めちゃって一斗……！」

　「これで決まりだ！　ジャガードレスを攻撃！　ロートバッフェ・ビッグバイト……！」


　追加武装を外し身軽になった赤き秋津が退避するカササギを追跡し、照準を合わせると機銃による掃射がカササギへと降り注ぐ。


　「あたしと千夜ちゃんがっ――貴方達に負けるなんて認めないっ！　罠カード《フロックオブ・シャトル》……！」


　この攻撃が通れば負ける――敗北を目前に織姫が拒否するかのように声を荒げながら、伏せていたトラップを発動するとともに星間を行き来する杼が現れると、カササギは杼に掴まり銃弾から逃れて別のモンスターゾーンへと避難する。


　フロックオブ・シャトル　通常罠
　(1)：自分フィールドの「ウィーブ・マグパイ」モンスターが相手モンスターの攻
　撃、効果の対象となった場合発動できる。
　その攻撃、効果を無効にし、そのモンスターを他の自分のメインモンスターゾー
　ンに移動する。
　この効果でそのモンスターが左端か右端に移動した場合、そのモンスターを手札
　に戻すことができる。


　「ここまでしてまだ、妨害の手数が残っていたか――」

　「このトラップでカササギ達への攻撃を無効にし、右端へと移動する！　……あたし達がここまで追い込まれるなんて、カズ君達中々やるじゃない！　でも勝つのはあたしと千夜ちゃんだよっ……！」


　そのままカズがターンを終えると、織姫から向けられた期待の視線に気付いた千夜は、最愛の姉に応えるべくカードをドローする。


　「後は任せてお姉ちゃん、このターンで決めちゃうから！　まずは前のターン除外したカードを手札に加える――」


　言い終えないうちに千夜は走りだし、再び開いた空間の裂け目から飛び出してきたカードを逃さず空中で掴み取ると、そのまま一回転して手札を持ち替え、新たにカードを置くとともに着地する。


　「そしてお姉ちゃんのジャガードレスをリリース！　イフリートを“アドバンス召喚”でもう一度呼び出すよ！」


　千夜の仕草に合わせて織姫が自らのカササギのカードを墓地に送ると、巻き起こった塵がカササギの姿を隠し、土煙が晴れると落雷が実体を持ち、蓄えた口髭を撫でつつ周囲の空気を振るわせてランプの魔神は現れた。


　イフリート攻撃力1800。


　「カササギの効果は狙わず、一気に決着を着けに来るか……！」

　「そしてシェヘラザードの効果で御伽噺の住人を呼び出すよ！　今宵聞かせるはまたまたランプを巡る魔法使いとの知恵比べ！　カーナ ヤー マカーン……！」


　続いて千夜が胸の前で握った拳を手のひらがカズ達に見えるよう開くと、物語の商人が再び現れるとともに発動している電子の保管庫の効果も発動し、今度こそ赤き秋津は電子端末が発する引力により、ページの中に取り込まれた。


　「ストレージの中に先輩のトンボをインストール！　これで先輩達の場はガラ空き！　さあ、２人纏めてビリビリ痺れさせちゃうよ……！」


　バトルとともに、絨毯を織るカササギ達が上空を旋回しながら２人に狙いを定め、王妃とともにランプの魔神とその主は指先から威嚇するように稲妻を放電する。


　「まずはイフリートで直接攻撃！　アズィーム・サーイカ……！」


　千夜がカズと留音を指差すと、ランプの魔神が両手を天に上げるとともに巨大な雨雲が発生して、火を伴った落雷が２人に直撃すると、轟音とともに周囲の地面へと焦げ跡を残す。


　『うっ――あぁっ……！』　カズ＆留音ＬＰ2900→1100。


　「続けてアラァ・アディーンの攻撃！　これで終わり――な訳ないでしょ……？」

　「当ったり前だろ！　墓地からメンテーの効果発動！　直接攻撃時に墓地から蘇り俺達を守れ！」


　水飛沫を上げて浮上したヤゴが２人を守るように立ちはだかると、商人が差し向けたランプの注ぎ口から発する電撃がヤゴを貫き、感電したヤゴは崩れ落ちる。


　「だったらお姉ちゃんの切り札で決めちゃうよ！　フライング・カルゼットの攻撃――」

　『天に架けて！　乞巧逢瀬 橋渡……！』


　千夜と織姫が歩み寄ると両手のひらを合わせ、同時にカズと留音を指差すと絨毯を共同で織るカササギ達は２人に向けて急降下を始め、絨毯をほぐし乳白色の蚕糸で縛り上げようとする。


　「“伝記”は水気に弱いのよ！　罠カード《ブレア・ブリージング》……！」

　「俺が水属性のメンテーを墓地から蘇生したことで、発動条件を満たしたこのカードにより、留音の墓地からマーメイド・ジュゴンが息継ぎのため浮上してくるぜ」


　地面から顔を出したジュゴンが鼻を鳴らし呼吸を響かせると、呼び寄せられた２体の海女――《深層環姫モンスーン》とアリューシャンが留音のデッキから墓地へと潜水する。

　しかしジュゴンは絨毯を織るカササギ達が放った蚕糸に絡めとられ、締め上げられるとともに苦し気な鳴き声を上げて消滅した。


　「じゃあ最後は王妃様で締め括っちゃうよ！　このデュエルは佳境に入っても、御伽噺とは違って次のターンには繋がらない！　これが“千夜”目の――アルフ・ライラ・ワ・ライラ……！」


　高らかに攻撃を宣言し、織姫と背中合わせに並んだ千夜が姉とともに振り上げた指で２人を差すと、再び王妃は御伽噺の住人達と同時に複数の稲光を発生させて、轟音とともに降り注ぐ雷撃で２人の姿はバチバチと弾ける火花に包まれる。


　「やった！　先輩達に勝っ――」


　『くっ……まだだ！』　カズ＆留音ＬＰ1100→2600→200。


　『この猛攻が――防がれた……！？』


　雷撃により散った火花が止み、辛うじて持ち堪えた２人の姿を視界に捉えると、姉妹はありえない。と言わんばかりに愕然とする。


　「……私は墓地から《リソース・シェルフ》を除外して、除外されたレベルの異なる３体の海女とケルプ・シーオッターをデッキに戻すことにより、そのレベルの合計――１５００ＬＰを回復したわ」

　「やっぱ俺が誘っただけあって、先輩達の想像を超えるくらい留音は凄ぇんだよ！」


　確信していた勝利が遠のいたことと、このターン中魅せた演劇部仕込みの演技による疲労がドッと押し寄せ、千夜と織姫は肩で息をしながらカードを１枚伏せてターンを終えた。

　そして“千夜”目の夜が更けるとともに、商人は手に持つランプをこすると再び御伽噺の端末へと戻り、煙とともにデッキから３体目のランプの魔神が現れる。


　「千の夜を超えて、再び暁を背にウォッカー・バロンは離陸するぜ。留音！　織姫先輩に回されたら耐えきれねぇ！　このターンで決めてくれ！」


　自らの切り札を託しつつ、姉妹が勝利を掴めず動転している今が好機だと――カズの期待に応えるため、留音はデッキに手を掛けカードを引く。


　「一斗の期待……託されたわ！　このターンで決めてみせる――まずは速攻魔法《グレイシャル・ユースタシー》……！」


　発動させたカードの効果で、留音は恐る恐るデッキの上３枚のカードをめくり確認する。

　その中から１体の海女を選び出し、よし。と小さく呟いて墓地に送るとともに、氷河の縮小で生じた海面の上昇による大洪水が砂丘の城を飲み込み、御伽噺の保管庫とともに積み重ねられた記録は海中へと没していく。


　「あぁっ！？　“千夜”に渡る御伽噺が……たった一夜で歴史から消えちゃう――」

　「めくった中から《深層環姫ラブラドル》を潜らせることで、海面の上昇により砂丘王城と保管庫の２枚を水没させるわ！　更に《深層湧昇流》を墓地に送り効果発動！　除外されている残った「深層環姫」を手札に加える」


　留音が手札に加えた“彼女の切り札”に姉妹が足元を覆う海の中へと警戒を高める中、更に浮上してきた海女へと深き海の底をも見通すメガネを装着させ、再び漁へと赴かせる。


　「視界は常に明々白々――装備魔法《シーサイティッド・グラス》によって、これ以上の邪魔はさせないわ！」

　「あの磯メガネは海女に装着されて墓地に沈むと、そのターンのバトル中、海女達にあたし達の場で発動する効果を避ける効果を付与させるわ」

　「だったらここで《ハディース・デジタイゼーション》発動だよっ！　片方のイフリートとウォッカー・バロンには、手札に戻ってもらうからっ！」


　海中から没したはずの端末が浮かび上がると、最後の余力で起動した端末の中に場のランプの魔神１体と赤き秋津は吸い込まれ、最後のページへと刻まれる。


　「磯メガネを身に付け潜ったアリューシャンが仲間の海女を引き連れて浮上したのち、このターン通常召喚を行っていないため、ラブラドルとともにリリースするわ！」


　留音が浮上してきた海女２体を再び潜らせると、足元に渦潮が巻き起こり彼女を象徴する樹状に広がった珊瑚の牙を持つ一角が、水飛沫を上げて再び場に飛び出した。


　「アンガルド、プレット？　アレ！　その牙突は岩をも砕く高速の突き！　浮上しなさい！　《深層環姫コーラル・ナーワル》……！」


　コーラル・ナーワル攻撃力2200。


　「一斗……このエピローグの締め括りは、私に言わせて貰えるかしら？」

　「ああ――お前に託すぜ」


　カズと留音はお互いに了承すると、一角の珊瑚で構成された牙が雲一つないコート上空の太陽光に照らされて、みるみるうちに成長させていく。


　「攻撃態勢に入ったコーラル・ナーワルは、墓地のマーメイド・ジュゴンを参照に、その攻撃力をこのターン自らの糧とするわ！　フラグ・フォトシンセシス！　そしてシェヘラザードに攻撃……！」


　コーラル・ナーワル攻撃力2200→4100。


　「この攻撃さえ凌げば！　お姉ちゃんっ……！」

　「《クロッシング・キャラバン》によって、左端のシェヘラザードを右端へと移動させるっ！　あたしじゃなく千夜ちゃんを狙ったのが運の尽き！　ＬＰさえ残れば次のターンには留音ちゃん達を倒しにかかれるわ……！」

　「……残念だけど、既に風穴は貫かれたのよ――」

　『えっ……？』


　留音がポツリと漏らした言葉に、姉妹は疑問を浮かべるとその意味を問いかける。


　「ラブラドルが浮上したターン、「深層環姫」が相手モンスターに与えるダメージは倍になる。この戦闘で発生するダメージの倍は３４００――」


　深層環姫ラブラドル
　効果モンスター
　/水/レベル４/水/攻撃力１１００。
　このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
　(1)：このカードが他のカードの効果で特殊召喚した場合、墓地に送られる。
　(2)：このカードが(1)の効果で墓地に送られたターンのバトルフェイズ開始時に発
　動できる。墓地のこのカードを自分フィールドに特殊召喚する。
　(3)：このカードが(2)の効果で特殊召喚した場合に発動できる。このターン「深層
　環姫」モンスターが相手モンスターに与える戦闘ダメージは倍になる。


　「あたし達のＬＰは２１００――」

　「嘘……倍にされたら耐えきれない――」

　「決まりだな。俺達バウンティフルは俺が受け、留音が攻める――」

　「それが私達よ！　この御噺はおしまいだけど、また新たな御噺は生まれ、後世まで語り継がれるわ。穿て！　トゥシュ・セフィニ……！」


　一角が螺旋を描くように王妃へと突進し、勢いの衰えないまま巨大な珊瑚の牙を突き立てると、発生した衝撃が呆然と立ちすくむ姉妹を襲い、２人は互いの顔を見合わせつつ吹き飛ばされるのであった。


　『っ――あぁぁっ……！』　笑原姉妹LP2100→0。





　「前回の優勝チームが――負けた……？」


　大番狂わせとなったデュエルの結末に、光希と歩でさえも驚きを隠せない中、戦い終えた４人はコートから出ると先程までの戦いが嘘のように、会話を弾ませていた。


　「悔しいぃぃ……！　あたしとお姉ちゃんの最強タッグが――」

　「へっ――俺と留音が上だって、分からせちまったな。でも織姫先輩と千夜ちゃんの連携も凄かったぜ」

　「そういうカズ君こそ、隅に置けないなぁ……いつの間に留音ちゃんとそこまで親密な仲に……？」

　「お――織姫先輩！　私と一斗は“まだ”幼馴染なだけだからっ……！」

　「へぇーっ？　“まだ”ってことは、これから進展しちゃったりぃー？」


　姉妹からの追及を受けて、カズと留音は一瞬お互いの表情を窺うも、視線が合うとすぐに目を逸らし、千夜にからかわれつつも改めて次の戦いへの意気込みを燃やす。


　「次は決勝――浪花君達か遊無ちゃん達のどっちかが相手だね」

　「あたしとお姉ちゃんに勝ったんだから、絶対優勝しなさいよねっ！」

　「言われなくても――今の俺達は無敵！　誰が相手だろうが勝ってみせるぜ！」


　千夜と織姫と別れ、予定されている決勝戦のコートへと向かうカズと留音は、激戦を繰り広げている“親友”の姿を眺めつつ、お互いにデッキから１枚のカードを取り出して見せ合う。


　「結局決勝まで――ようやく手に入れた“新しい切り札”の出番はなかったな」

　「私の新しい“深層環姫の切り札”も同じよ。でも流石に出し惜しみしていられないようね」


　遊陽達の方はというと、３年の先輩――岡と浪花に対して遊陽が“祭りの竜”を呼び寄せ決着が近づいて来た事に、雌雄を決する時が近づいて来たと２人はカードをしまい、時期に相まみえる“相手”の様子を眺めるのであった。





「あたし、千夜と――」

「あたし、織姫の――」

『二人はウフトカビラ＆サギラ！』


織姫「とゆーわけで、あたし達姉妹（ウフトカビラ＆サギラ）とカズ君達バウンティフルの対決は、残念だけどカズ君達の勝ちだねぇ」

千夜「ホント悔しい――今回負けるまでは毎回優勝を搔っ攫っていたのにっ……！」

織姫「まあ、そんな日もあるよね。それじゃあ今回はあたしの“カササギ”達について教えるね」

千夜「あたし達姉妹の東方担当なお姉ちゃんの“ウィーブ・マグパイ”は、モンスターの位置を移動することが得意な“織姫”と彦星を繋ぐカササギなんだよ？」

織姫「主にトップスを織る――場にいる仲間との位置を参照するカササギに、切り札の大掛かりな敷物を織るカルゼ織りのカーペット――フライング・カルゼットが星空に乳白色の絹の橋を架けるわ」

千夜「あたしの“アル＝ナジェム”との相性もバッチリ！　効果の連携で相手モンスターは場に留まれず、片っ端から消滅するよ！」

織姫「カササギの織るトップスに織りの道具のシャトルと、自由に飛び回るカササギ達が架けるブリッジが勝利への飛翔を果たすわ！」

千夜「って訳で次回は、あたし達が先輩２人とデュエってるころ、遊無ちゃんと遊陽先輩はロン毛とたい焼きの先輩と決勝への進出を賭けて、激戦を繰り広げるよ！」


　『次回！　遊戯王Binarius（ビナリウス）　－岡と浪花 花よりたい焼き－！』

織姫「……ところで千代ちゃんの最後のターン、すっごく動き回ってたよね？」

千夜「あっ、あれはね――地を蹴り宙を舞うことで高まったエモーションが立体映像の緊迫感を増やしてチョー気持ち良いんだよ！」

織姫「あまりはしゃいで怪我しないでね？　という訳で次回もよろしくお願いしますね」