番外編2-13　服と感性と（pt.2）　作：Ales

　「デート……ねぇ。で、あたしが勝ったら何してくれるんだ？」

　講義自体が比較的早く終わったこともあってまだ陽は高く、２，３時間程度の所用なら充分に時間がある。

　「それは……和那さんが考えてください。で、して頂けるんですか？」
　「まあ、構わないけど……」

　和那のデッキは、前回の制限改訂の煽りを受けて大幅に弱体化した。その穴を埋めきらぬままであり、さりとて入学－つまりデュエルを始めてから今まで使用してきたデッキを変えることも出来ず、夏休みの前半をデッキに触れずに過ごしてきたのだ。

　「では早速……」
　「おーっと、待った。残念ながら、あたしはデッキを寮の自室に置いたままだ。それにうちの校則だと校庭ではデュエル禁止ってことになってるから、どっちにしろ場所を変える必要がある。」

　デュエルモンスターズのモンスターの中には、耐性のない者に嫌悪感を与えるものもある。専門に学ぶ学校が出来るほどに大衆に認知されたカートゲームとはいえ、知らぬ者あるいは興味のない者から見れば、それらは不快である。また、京都市内は装飾や建造物の高さまで条例で定められており、町並み全体が落ち着いた色合いとなっている。そんな中に派手な演出でその雰囲気を台無しにするのも問題を巻き起こすのと同義である、といった理由からここデュエルアカデミア・ウエスト校では、交流会の予選などどうしても大人数が同時にデュエルする状況でない限り校庭でのデュエルを禁じているのだ。





　「…………まあ、何とかなるかな。」

　寮の自室に戻り、自身のデッキを取り出して上から数枚を捲りつつ、和那は小さく呟いた。そこには以前まで３枚入っていた《炎舞－天璣》は１枚しか入っていない。昨今の獣戦士族モンスターの台頭により制限カードに指定され、思わぬところで和那の駆る【武神】までもが弱体化してしまったのだ。元々それほど強いデッキではなかったのだが、サーチ手段が1/3になってしまったのだから相当な弱体化になる。とりあえず構築は変えたが、それでもどうしようもなく１体のモンスターに依存するのがこの【武神】というデッキである。

　（おかげでギミックのほとんどは壊滅、ソウコは倉庫行き、戦闘に持ち込めなきゃ負けだな。何とかなると思いたいが……相手が悪いかもな。）

　講師役を買って出た手前、負けるにしてもせめてプレイングミス以外の要素で負けたいし、善戦と呼べる程度には良い勝負にしたい。そんな思いを抱きながら、和那は表に待たせている遊姫の元へと向かった。





　「はぁ。そんでこない暑いところで待ってはるんかいな。甲斐甲斐しいいことですなぁ。」

　一方その頃、遊姫は一瞬だけ顔見知った女子生徒に声を掛けられていた。

　「そない遠慮せんと、中入って待っとったらどうどす？」
　「あ、いえ、その……ワタシは…………」

　前回保健室前で出会った時の体操着とは違い、彼女は私服であった。夏ということもあって薄着なのは仕方ないにしても、どういう訳か身体の距離が近いのだ。

　「ほな、一名様ご案内～」
　「あ～れ～……」

　九十九遊姫は、生物学的には男である。故に女子寮に入ることは女装をして仮に女性に見えたとしても憚られることであり、そのため女子寮の前で待機していたのだ。だがこの女子生徒はそれを知って知らずか、遊姫を引き摺って寮の中へと足を進めたのだ。



　女子寮が花園というのは健全な男性諸氏のお花畑ワールド内の話である。実際にはゴリラ……もとい、普通の男性よりも筋量が多く見えるようなアスリート体型の女性や、モラルも何もあったものではないといった体の、それは服なのかと問いたくなるような格好で寮内を歩く者もいる、

　「ワタシハナニモミテイナイ……ワタシハナニモミテイナイ……」

　謎の笑顔を京都弁の持ち主に引き摺られながら、遊姫は目を閉じて呟いていた。

　「ワタシハナニモミテイナイ……ワタシハナニモミテイナイ……」
　「觀自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」
　「照見五蘊皆空度一切苦厄……って、それ般若心経じゃないですか！」
　「あら、知ってはるんどすか。色不異空空不異色色卽是空空卽是色言いますさかい、あんさんは何も見とりませんえ。」
　「っていうか聞かれてたんですかー！」


　遊ばれていると遊姫が気付くまでに、そう時間はかからなかった。

　「ここ、和那はんのお部屋どす。隣は……ああ、朱理はんどすさかい、入ってもええん違います？」
　「いえ、待ってます！ここで待ちます！」
　「えぇ～？そんなおもろない……」
　「別におもしろさを求めてるわけじゃないんで……」


　そんなことを言い合っていると、内側からドアが開いた。

　「あ？お前、随分せっかちだな。わざわざここまで来るなんて……」

　案の定というか、出てきたのは和那である。

　「あ、えっと……その、この人に連れてこられて……」

　つい今し方件の女子生徒が居た方を向く。が。

　「お前、誰に連れてこられたって……？」
　「え？あれ？」

　そこには誰もいなかった。





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　「寮の中にまでデュエルスペースがあるんですね……」

　デュエルアカデミア・ウエスト校の寮は広い。男子寮を含めて勘案すれば、ともすれば全校舎より広いのではないかと思わせる規模である。中には２人１組の部屋に食堂、トレーニングジムなど、最大限の施設が中級以上の設備で揃っているのだ。そしてデュエルをする学校だけあって、学校にあるそれよりは数段小さいものの、充分な規模のデュエルスペースも用意されているのだ。

　「ま、こんな学校だからな。それより、さっさとやるぞ。」
　「はい！」

　何か大事なことを忘れているような気もする遊姫であるが、デュエルディスクを構える頃には忘れてしまっていた。



「「デュエル！」」



1st.Turn
　TP：和那

和那　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15　V：0
　F：None
遊姫　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15　V：0
　F：None


　「あたしのターン、まずは《武神－アスラダ》を召喚。更に速攻魔法《烏合無象》を発動。アスラダを墓地に送って、エクストラデッキから《十二獣タイグリス》を特殊召喚。エクストラデッキの《十二獣ブルホーン》の効果、このモンスターは１ターンに１度「十二支」エクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる。そしてブルホーンの効果、オーバーレイ・ユニットを１つ消費してデッキから《武神－ヤマト》をサーチ。エクストラデッキの《十二獣ドランシア》の効果、こいつをブルホーンに重ねてエクシーズ召喚。」
　「うぅ、【武神】ですか……」

　《武神－アスラダ》や《武神－ヤマト》はまず【武神】以外で見ることのないカードのため、遊姫にしてみればデッキの特定は容易であった。しかし問題はその内容であり、戦闘を主体とする、自身の【ダイナミスト】とは相性が悪いのだ。同じ戦闘主体でも【武神】が攻撃力の増減を活かして一気に攻め込む速攻型なのに対し、【ダイナミスト】は徐々にアドバンテージを取るタイプである。長期戦志向といえば聞こえは良いが、残念ながらそうは問屋が卸さないのが【武神】の超火力なのである。

　「ああ、デュエルを始めた時からのあたしの相棒だ。どんだけ規制されても心中する……というか、他のデッキをうまく回せる自信がないんでな。次、永続魔法《炎舞－天枢》を発動、獣戦士族モンスターに限り２度目の召喚権を得る。ヤマトを召喚してエンドフェイズに移行。デッキから《武神器－ハバキリ》を手札に加え、そのまま墓地に送る。あたしはこれでターンエンド。さ、見せてもらうぜ。」



2nd.Turn
　TP：遊姫

遊姫　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15　V：0
　F：None

和那　LP：8000　D：33　H：2　G：4　Ex：12　V：0
　F：《十二獣ドランシア（ORU：１）》《武神－ヤマト》
　　《炎舞－天枢》


（確かに【武神】はヤマトとかスサノオに依存してるし、天璣が規制されちゃって結構辛い立場だけど……「十二獣」が登場して逆に厄介になってるような……《烏合無象》がサーチと除去に早変わりなんて。）

　獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかを墓地に送り、同じ属性のモンスターをエクストラデッキから特殊召喚できる効果を持つ《烏合無象》であるが、この効果で相互に重ねてエクシーズ召喚しあえる「十二獣」を用いてキーカードをサーチし、更には除去手段まで用意する。本来であれば「十二獣」の方がキーカードであろうが、和那はあくまで【武神】に拘っているのだ。

　（でも、そういうのって……ちょっと、いいかも。）
　「ワタシのターン、ドロー！よし、まずはこれからいきます！」

　メインフェイズへの進行を宣言すると、遊姫は１枚のカードをフィールドに置いた。




---《？次回予告？》---


遊姫　「最大出力、いっけー！」

和那　「あ、オネストで」


なお、和那の最新デッキにオネストは居ない模様。