番外編2-8　因縁と銃弾と一瞬の隙・２　作：Ales

---《まえがき》---

　うちのマーヤがご迷惑（奇行）をおかけしております。おかげさまで全くデュエルが進行しません。




---《ほんぺん》---


　「一応、確認しますね。」

　間の抜けた発声から今度は２秒、秋良が口を開いた。

　「はい？」
　「ええっと、《マジカルシルクハット》の効果でセットしたのは《おジャマジック》２枚……ですよね。」
　「ええ、そうですわ。《瑚之龍》と共にセットしております。」
　「おジャマジックの効果って、「フィールドまたはデッキから墓地に送られた時にデッキから「おジャマ」モンスター３体を手札に加える、で合ってますよね？」
　「その事でしたら、《マジカルシルクハット》の効果でセットしたこのカードが結果として墓地に送られた場合でも、サーチ効果は発動できますわ。」
　「…………ですよね。」

　秋良の説明通り、《おジャマジック》は墓地の送られた際に特定のモンスター３体をサーチする効果である。マーヤの説明にあったように、これは《マジカルシルクハット》の効果でセットされた当該カードが戦闘および効果で破壊された際にも使用可能である。つまり現状、これらのカードをバウンスまたは除外しない限りマーヤは一気に６枚のサーチを確定しているのである。

　（それとあの《近代兵士－ミニットマン》……手札１枚と引き替えに無制限に特殊召喚できるモンスター。単純計算で攻撃を６回防ぐことができるのか。）

　デュエルモンスターズにおいて攻撃を６回防ぐのはかなり優秀なカードである。６回も防いだら、デッキ全体の火力にもよるが大抵の場合カタを付けられる。

　「うん、じゃあバトル続行。《凍氷帝メビウス》で《近代兵士－火縄銃》を攻撃。」


《凍氷帝メビウス》　ATK：2800　　DEF：0　《近代兵士－火縄銃》


　「続いて《天帝アイテール》で《セットモンスター》を攻撃。えっと……右側、かな。」


《天帝アイテール》　ATK：2800　　DEF：0　《おジャマジック》


　「おジャマジックの効果発動、デッキから《おジャマ・イエロー》《おジャマ・グリーン》《おジャマ・ブラック》の３枚を手札に加えますわ。」
　「……《イビリチュア・ガストクラーケ》で右側の《セットモンスター》を攻撃。」


《イビリチュア・ガストクラーケ》　ATK：2300　　DEF：500　《瑚之龍》


　「シンクロ召喚に成功した《瑚之龍》が墓地に送られたので効果を発動します。デッキから１枚ドロー。」
　「バトルフェイズ終了、メインフェイズ２に移行します。」
　「この時、《マジカルシルクハット》の効果により特殊召喚された《おジャマジック》が破壊されますわ。そして効果を発動、３体の「おジャマ」を手札に加えます。」





　「何なんだ一体……？」

　フランツがそう漏らしたのも無理はない。第２ターン開始時には２枚だった手札は現在８枚にまで膨れ上がり、ことごとく戦闘には負けたが勝負には勝った様相を呈しているのである。

　「これでミニットマンのコストは賄えるが……いや、ミニットマンってさ、レベル５だったよな……？」
　「ああ、そうだな。それが何か？」

　征の問いかけに、タブレットを確認しながらフランツが返した。

　「どうしたじゃねぇよ……あんたの彼女、とんでもない戦略立てて来やがったぜ。」
　「は？手札８枚のうち６枚は出すのも憚られるバニラだぞ？」

　フランツが怪訝そうな顔をするが、征は顎に手を当てて考え込んでいた。



　（不味いな。あいつの得意な儀式召喚が出来ねぇかも知れないぞ……）





　「メインフェイズ２、墓地の《リチュアの儀水鏡》の効果発動、このカードをデッキに戻し、墓地の《イビリチュア・ソウルオーガ》を手札に加えます。僕はこれでターンエンド。エンドフェイズに《天帝アイテール》の効果で特殊召喚した《凍氷帝メビウス》は手札に戻ります。」

　征の考えも知って知らずか、秋良はセオリー通りの展開を行った。彼の思考になくて、征の胸中にあったもの。それはすぐに姿を現すこととなる。



3rd.Turn
　TP：マーヤ

マーヤ　LP：8000　D：28　H：8　G：4　Ex：14　V：0
　F：None

秋良　LP：8000　D：22　H：3　G：13　Ex：15　V：0
　F：《イビリチュア・ガストクラーケ》《天帝アイテール》


　「わたくしのターン、ドロー！」

　既に溢れんばかりの手札を持っていたマーヤのそれは更に増え、９枚を数えている。現状は見かけ倒しに見えるかも知れないそれらだが、それでも威圧感のある分厚さであった。

　「メインフェイズ、手札を１枚捨て、《近代兵士－ミニットマン》を墓地から特殊召喚します。そして魔法カード《寡兵》を発動、デッキから《近代兵士－火縄銃》を手札に加ますわ。」


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《募兵（かへい）/I WANT YOU》
通常魔法
「募兵」の（１）の効果は１ターンに１度しか使用できない。
（１）：デッキから「モダン・ソルジャー」モンスター１体を手札に加える。
（２）：このターン終了時にこのカードの（１）の効果で手札に加えたモンスターが手札に存在する場合、そのカードを除外する。

*小ネタ：英語名として設定している《I WANT YOU》は、世界大戦時にアメリカ軍が寡兵した際のポスターの文句から。
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　「墓地のマスケットの効果、フィールドに「モダン・ソルジャー」が存在する場合に、墓地から特殊召喚できます。そしてマスケットをリリースして手札の火縄銃を特殊召喚、効果を発動します。では、今回も右側のそれを墓地に送って頂きます。」
　「わかりました……」

　秋良は少々苦々しげに手札１枚を墓地へ捨てた。

　「《凍氷帝メビウス》……危ないところでしたわ。さて、ここからがこのデッキの本領発揮ですわ！」

　災い転じてなんとやら、マーヤはエクストラデッキから一枚のカードを取り出してその召喚を宣言した。


　「レベル５の《近代兵士－ミニットマン》と《近代兵士－火縄銃》をオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚、ランク５！《アーティファクト・デュランダル》！」


　そう、これこそがマーヤの結論である。

　「デュランダル……あ。」

　秋良がようやく何かを察したように呟いた。

　「ふふっ、このコンボ、案外馬鹿に出来ないでしょう？」
　「そうですね……」

　《アーティファクト・デュランダル》は、特定のカードの効果を変更する意外にもうひとつ効果を持っている。



　‘‘このカードのエクシーズ素材を１つ取り除いて発動できる。お互いの手札を全て持ち主のデッキに戻してシャッフルする。その後、それぞれデッキに戻した枚数分だけドローする。’’



　そう、お互いに《リロード》と同じ効果を受けるのだ。そしてこの効果は秋良にとって非常に厄介なものである。どれだけサーチを駆使して儀式魔法を発動しても、それにチェーンしてこの効果を使用されれば儀式召喚できなくなる可能性が非常に高い。他方マーヤは現状、手札のうち過半が使いどころのないカードであり、それらをデッキに戻してしまうことで事故状態を回避し、更なる展開に持ち込めるのだ。彼女にしてみれば儀式召喚メタはおまけに過ぎないが、秋良にとってはデッキの一部が機能不全に陥ったのは痛手である。

　（打点では《天帝アイテール》の方が上だけど……まあ、流石に越えてくるか。）
　「デュランダルの効果発動、お互いの手札を全てデッキに戻し、シャッフルした後同じ数だけドローしますわ。」

　マーヤの７枚は純粋なる強化であるが、秋良の２枚はサーチしたカードを崩された結果である。数でも質でも明暗の分かれる交換となった。

　「あら……カードを２枚セットしてターンエンド。」
　「え？」

　マーヤは意外にも、デュランダルよりも攻撃力の低い《イビリチュア・ガストクラーケ》を攻撃せず、カードをセットするのみでターンを終えた。


4th.Turn
　TP：秋良

マーヤ　LP：8000　D：27　H：4　G：5　Ex：13　V：0
　F：《アーティファクト・デュランダル（ORU：１）》
　　《セットカード》×２

秋良　LP：8000　D：22　H：2　G：14　Ex：15　V：0
　F：《イビリチュア・ガストクラーケ》《天帝アイテール》


　（また何か……狙ってる？でも、だからといって……）

　不可解な事の多いデュエルであるが、秋良からすれば攻め続ける以外の選択肢はない。

　「僕のターン、ドロー。メインフェイズ、《ライトロード・アサシン　ライデン》を召喚して効果発動。デッキの上から２枚墓地に送ります。」
　「ええ、どうぞ。」

　ライデンの効果は墓地送りの他、その中に「ライトロード」モンスターがあった場合に攻撃力を上げる効果を持っている。しかし２枚の中にそれはなく、ライデンの攻撃力は已然1700である。

　「バトルフェイズ、《天帝アイテール》で……」
　「お待ちくださいまし。メインフェイズ終了時に《アーティファクト・デュランダル》の効果をもう一度使用しますわ。お互いに手札をデッキに戻し、その数だけどローします。」
　「このタイミングで……？」

　全く意図が読めないマーヤの行動に、秋良は何か薄ら寒いものを感じていた。




---《？次回予告？》---

Ｑ：《マジカルシルクハット》の効果でモンスターカードゾーンにセットされた《スーペルヴィス》が攻撃を受けて戦闘で破壊され墓地へ送られた時、特殊召喚効果は発動しますか？
Ａ：はい、セットされた状態で戦闘で破壊され墓地へ送られた時でも発動します。
（遊戯王カードWikiより）