94　鉛と金と　作：Ales

2nd.Turn
　TP：和那

和那　LP：8000　D：35　H：5　G：0　Ex：15　V：0
　F：None

利香　LP：8000　D：50　H：0　G：0　Ex：15　V：0
　F：《セットモンスター》
　　《セットカード》×４


　「あたしのターン、ドロー。スタンバイ、メイン入ります。」
　「はい、どうぞ。」
　「まずは永続魔法《炎舞－「天璣」》を発動、発動時の処理でデッキからレベル４以下の獣戦士族モンスターを手札に加えますけど……チェーンは？」

　和那にしてみれば‘‘いつもの’’手である。モンスターを召喚し、強化して殴る。シンプルかつ王道のデッキが、和那の繰る【武神】である。

　「そうですね……」

　利香は一瞬悩む素振りを見せた。

　「いえ、ここは通します。」
　「ではデッキから《武神－ヤマト》を手札に、そのまま召喚します。バトル、《武神－ヤマト》でセットモンスターを攻撃。」

　ヤマトの攻撃に併せて、ビジョン上のセットカードが表向き、そこからモンスターが現れた。

　「なっ……！」

　その姿を認めた和那が、驚きの声を上げる。


《武神－ヤマト》　ATK：1900　　DEF：500　《マシュマロン》


　「《マシュマロン》は戦闘で破壊されません。更に、裏側表示のこのカードが攻撃された場合、相手に1000のダメージを与えます。」


和那　LP：8000　→　7000


　和那にしてみれば、戦闘破壊耐性は最悪の相手である。ビートダウン一辺倒の【武神】は、戦闘破壊を前提としてデッキを構築している。しかし眼前の《マシュマロン》のように破壊耐性を持たれていると、魔法・罠での除去が出来るまで攻撃の手が止まってしまうのだ。

　「それで、あたしとやりたかったってのか……？」

　和那が【武神】使いである事は昨年から変わっておらず、当然ながら同じ学校で学ぶ利香も把握している。そして当てつけのように耐性持ちをセットされれば、どうしても嫌がらせ目的としか思えないのだ。

　「いえ、目的はそうではありません。私は、‘‘このデッキで’’和那さんと戦う事に意味があると思っています。」
　「……まあ、そこまで言うのならただの【武神】メタじゃないって事でしょうけど。メイン2、カードを2枚セットしてエンドフェイズに移行。デッキから《武神器－ツムガリ》を手札に加え、そのまま墓地へ。これでターンエンド。」



3rd.Turn
　TP：利香

和那　LP：7000　D：32　H：3　G：2　Ex：15　V：0
　F：《武神－ヤマト》
　　《炎舞－「天璣」》《セットカード》×２

利香　LP：8000　D：50　H：0　G：0　Ex：15　V：0
　F：《マシュマロン》
　　《セットカード》×４



　「私のターン、ドロー！っと、早速このデッキの本領発揮といきましょう！」





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　「ってな訳で、あの部長が発動したカードが……」
　「《バージェストマ・ピカイア》かしら？」

　デッキ55枚、マシュマロン。その情報だけで、朱理はデッキの特定に至った。いや、朱理はそのデッキを知っているのだ。

　「やっぱり本人はわかるか。そう、あいつが使ってたの、あんたのデッキだったんだよ。」
　「なるほどねぇ……だからあの時、わざわざ電話してまでデッキの内容を聞き出していたのね。」

　電車内で呟くように語ったデッキの内容はどうやら、朱理がいなくなってモチベーションが下がっているであろう和那とのデュエルのために必要だったらしい。

　「ばっかだよなぁ……あの部長、朱理の代わりがしたかったらしいけどさ。その為にほぼ徹夜して、しかも舞を付き合わせたらしいぜ。あたしが舞の立場だったら、多分１回ぐらいは殴ってるね。」
　「あら、１回で済むのかしら？」
　「いや、１日に１回かもな。それでさ、朱理。ひとつ訊いて良いか？」
　「どうぞ。ひとつと言わずにいくつでも。」

　和那との会話中、朱理は本から目を離さない。これはいつもの事であるが、そもそも朱理は和那との会話中、本を読んでいないのだ。ページが全く捲られていないのがその証左である。

　「何でわざわざあんなデッキにしたんだ？あんたの事だし、もっと普通の……去年までみたいなデッキでも勝てただろ？」
　「ああ、そのこと。」

　朱理は本を閉じ、鞄からデュエルディスクを取りだして机の上に置いた。そしてそこからデッキを出し、同じように机の上に置く。

　「私が勝ちたかったのは、何もあなたのためだけじゃないわ。私自身も、勝ちたい人がいた。それだけよ。」
　「勝ちたい人？」
　「ええ。だって私は勝たないといけないもの。勝ち続けて、最後にあなたと本気で勝負をする。だから、他の相手にも負ける訳にはいかない。そう考えて出した結論が、この【連鎖バージェストマ】よ。和那の言う通り、ブラッシュアップは可能だと思っているけれど。」

　（ああ、あいつの事か……名前なんだっけ？東の《次元の裂け目》使い……）

　和那とは正反対の、不健康な色白が目立つ１学年上のデュエリスト。昨年冬の雪辱を晴らすべく、朱理は‘‘モンスター’’を極力採用しないデッキを選択したのだろう。そしてそれは奇しくも、和那に対するメタにもなったのだ。





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　「メインフェイズ、通常罠《バージェストマ・ピカイア》を発動。手札の《バージェストマ・ディノミスクス》を捨てて、デッキから２枚ドロー。そして手札の《名推理》を発動します！」
　「ここで《名推理》を引き当てるか……」

　目下無制限である《隣の芝刈り》とは異なり制限カードである《名推理》は、前者と並ぶデッキ圧縮を実現するため、枚数の多いデッキでは必須と言える。だが、枚数が多ければ当然、それを引く確率も低下する。

　「ええ、引いちゃいました。さて、チェーンはありますか？」
　「いえ、別に。」
　「では私の方から。チェーン２、《おジャマトリオ》を発動。罠カードが発動されたので、墓地の《バージェストマ・ピカイア》の効果をチェーン。更にチェーン４以降に発動できる罠カード、《積み上げる幸福》を発動。そして罠カードが発動されたので、墓地の《バージェストマ・ディノミスクス》の効果を発動。ここまでですが、何かありますか？」
　「…………いえ、通します。」


Chain5：《バージェストマ・ディノミスクス》
Chain4：《積み上げる幸福》
Chain3：《バージェストマ・ピカイア》
Chain2：《おジャマトリオ》
Chain1：《名推理》


　「では逆順処理で、まずはディノミスクスを特殊召喚。《積み上げる幸福》の効果で２枚ドローし、ピカイアを特殊召喚して和那さんのフィールドに《おジャマトークン》３体を特殊召喚。そして《名推理》の効果で……」
　「もしそれが朱理のだったら……正解は‘‘６’’ですね。果たしてそれが正解と言えるのかどうかは怪しいところですが。」

　相手が宣言したレベル以外の通常召喚可能なモンスターをめくった場合、特殊召喚できる《名推理》であるが、逆に相手に当てられれば特殊召喚できない。つまり相手方がデッキ内の通常召喚可能なモンスターを把握していれば、特殊召喚はし辛いのだ。

　「まあ、あなたならわかりますよね。そしてそれが正解でない事も。いきますよ……いちまい、にーまい…………」

　次々とめくっては墓地に送られるカード。例に漏れず、紫色の枠ばかりなのだが、ようやく１１枚目にそのカードがめくられた。

　「１１枚目……《Ｄ－ＨＥＲＯディアボリックガイ》はレベル６です。よって特殊召喚されず、このカードは墓地に送られます。」
　「けど、効果で特殊召喚できる。で、その後出てくるのが……」
　「おおっと、そう慌てないで下さい。まずはこちらからです。レベル２の《バージェストマ・ピカイア》と《バージェストマ・ディノミスクス》をオーバーレイ。２体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚！《餅カエル》！」
　「やっぱり出てくるか……」

　朱理曰く「最強の露払い」が、この《餅カエル》である。あらゆる効果を無効にする上、発動したカードを奪う事まで出来るこのカードを出すメリットは牽制以外にもうひとつ、「バージェストマ」共通の効果を打ち消す事である。
　「バージェストマ」は罠カードであり、モンスターとしてフィールドに出すには一度墓地を経由し、自身の効果で特殊召喚せねばならない。しかしこの効果で特殊召喚された「バージェストマ」は、フィールドから離れた場合に除外される。除外されればチェーンに絡める事が出来ず、【チェーンバーン】に「バージェストマ」を採用した意義が失われる。抜け穴的に用意されたルールであるが、エクシーズ素材となった場合にその制約は破棄されるため、ステータスの低い「バージェストマ」を守るという意味合いにおいてもこのモンスターは有用なのである。

　「では次、墓地のディアボリックガイの効果を発動、墓地のこのカードを除外してデッキから同名モンスターを特殊召喚します。手札から《幽鬼うさぎ》と通常召喚、更にディアボリックガイとうさぎと《マシュマロン》をリリースし、《Ｄ－ＨＥＲＯドグマガイ》を特殊召喚します。」
　「やっぱりドグマガイか……」

　「バージェストマ」モンスターを絡める事で通常では実現不可能な大連鎖を起こし《連鎖爆撃》の威力を高める。更に火力不足と戦線維持を同時に補完できるモンスターとして、特殊召喚に成功すればほぼ確実に相手のライフを半分に出来るドグマガイを採用したのが、朱理の【連鎖バージェストマ】であった。
　ここで利香が先に出した《餅カエル》が活きてくるのである。ドグマガイのライフ半減効果は次の相手ターン、つまり次の和那のターンのスタンバイフェイズ。それまでにこの効果を打ち消すには、このターン或いは次のターンのドローフェイズしかない。

　（最悪じゃねぇか……）

　和那が伏せていたカードのうち、相手の妨害になりうるのは《蠱惑の落とし穴》のみであった。相手モンスターの効果を無効にしそのモンスターを破壊できるのだが、そのモンスターが特殊召喚されたターンに限られている。よってドグマガイには使用できず、《餅カエル》に対しても対応手がない。

　「私はこれでターンエンドです。」

　墓地のツムガリや《オネスト》を警戒しての事か、或いは既にバーンダメージの目処が立っているのか。利香はメインフェイズ１からそのままターン終了を宣言した。



4th.Turn
　TP：和那

和那　LP：7000　D：32　H：3　G：2　Ex：15　V：0
　F：《武神－ヤマト》《おジャマトークン》×３
　　《炎舞－「天璣」》《セットカード》×２

利香　LP：8000　D：33　H：1　G：12　Ex：14　V：0
　F：《Ｄ－ＨＥＲＯドグマガイ》《餅カエル（ORU：２）》
　　《セットカード》



　「あたしのターン、ドロー！」

　（これじゃない……いや、これでも良いんだけどさ…………）

　ドローしたカードを見て、和那はそんな感想を抱いた。現状勝つために必要なのは、相手にバーンされる前に【武神】特有の高火力で一気にカタを付ける事だが、その為に必要なカードではなかったのだ。

　「スタンバイ、ドグマガイの効果でライフが半分になります……」


和那　LP：7000　→　3500


　「メインフェイズ、《炎舞－「天枢」》を発動。獣戦士族モンスターに限り、２度目の通常召喚が可能になります。」

　とはいえモンスターゾーンは《おジャマトークン》で埋められているため、これを処理しない事には２度目の通常召喚も何もあったものではない。しかし、相手が相手だけに、充分に準備された状態で迂闊にチェーンを作ってしまうと、一気にゲームエンドに持って行かれる可能性もあるのだ。
　今、利香のセットカードは１枚のみ。もし《連鎖爆撃》だったとしても、可能なチェーンは天枢、餅カエル、そして《連鎖爆撃》の３つのみであり、バーンダメージは1200。裏を返せば、このターンに打つ手を撃っておかねばジリ貧になってしまう。次のターンに更なるバーンカードを引かれれば、それこそ終了だ。

　（流石に、3500は……キッツいな。でも、やるしかない。）

　悪い方に傾きつつある思考を遮断するため、一度息を吐ききって丹田に軽く力を入れる。

　（よし、決めた。）

　息を吸い、１枚のカードをディスクに置いた。

　「《ライトロード・アサシン　ライデン》を召喚、効果を発動。チェーンは？」

　無差別故のランダム要素の強い「ライトロード」の墓地送り効果であるが、デッキ圧縮・墓地肥やしどちらも有用に働く為【武神】でもそれなりに効力を発揮する。とりわけこのライデンは、光属性・レベル４のチューナーであり、《オネスト》の共有、シンクロ・エクシーズ双方の素材としても活用できる為、戦略に自由度ができる。召喚権が足りないのは【武神】の常であるためあまり気にならない、と割り切ればの話であるが。

　「チューナー……ちょっと考えさせて下さい。」

　発動できるカードがあるとすれば《餅カエル》であるが、さてどうしたものか、と利香は思案するのだった。




---《？次回予告？》---

朱理　「まあ、そういう事もあるわよ。」

次回、「激闘！ダメージレース」
　僅かなターンを見つけてダメージ。