75　革命と終端　作：Ales

　「墓地の《メタフィジカ・ドラゴン－プルヴィア》の効果発動、《ＲＲ－ネスト》をターン終了時まで除外します……」

　長考の末、遊貴はここでプルヴィアの効果を使用することにした。相手の攻め手を封じ、ついでにソピアの出番も奪っておく。

　「わかりました。では、墓地の《ＲＵＭ－スキップ・フォース》の効果を発動します。墓地のこのカードを「ＲＲ」モンスターを除外することで、墓地から「ＲＲ」エクシーズモンスター１体を特殊召喚します。《ＲＲ－シンギング・レイニアス》を除外、再び舞い上がりなさい、《ＲＲ－フォース・ストリクス》！」
　「え？そっち？」

　利香の墓地には３体のエクシーズモンスターが存在していた。うち１体は蘇生制限を満たしていないので、この効果では呼び戻せない。となればランク４のフォース・ストリクスか、ゲーム屈指の強カードである《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》のどちらかとなる。しかし利香は、アルティメット・ファルコンを捨て、あえてステータスで劣るフォース・ストリクスを特殊召喚したのだ。

　「ええ、今アルティメット・ファルコンを蘇生したところで、突破口は開けませんから。さて、私の手札の最後の１枚はこれです！２枚目の《ＲＵＭ－スキップ・フォース》を発動！」
　「ＲＵＭ……っ！そうか……」

　攻撃力4000のモンスターは、攻撃力3500のモンスターをいくら並べても勝てない。しかし効果によっては、それよりも低いステータスでも打ち破ることが出来る。



　ましてや今は、その効果を発揮するのにまたとないチャンスである。



　「これが私の……‘‘革命’’です！来なさい！《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》！！」





　「むぅ…………」

　もう１体の隼は、攻撃力2000かつ耐性こそ持たないものの、戦闘に関してはアルティメット・ファルコンをも凌ぐポテンシャルを秘めている。

　「まずはレヴォリューション・ファルコンの効果を発動します。このカードが「ＲＲ」モンスターをオーバーレイ・ユニットとしている場合に、１ターンに１度相手モンスター１体を破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与えます！選択するのは当然《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》です！‘‘レヴォリューション・ブレイズ’’！！」
　（後は、任せたぞ…………）

　砲弾と硝煙の中に、デミウルゴスの小さな声が聞こえた。


遊貴　LP：7000　→　5000


　「《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》の効果発動、このカードが破壊されて墓地に送られた場合、墓地またはエクストラデッキから《創星神　ＳｏｐｈｉａΩ》をエクシーズ召喚扱いで特殊召喚し、このカードをオーバーレイ・ユニットとします。その後、自分の墓地のモンスターを全て除外……むぅ…………」

　《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》の特殊召喚効果は強制効果であり、ダメージがあってもタイミングを逃さない。それ故、ソピアは特殊召喚せねばならないしモンスターも全て除外せねばならない。そしてこれが一番厄介なのだが、「メタフィジカ」得意の大量展開を見事に阻害されてしまうのだ。

　「また新しいモンスターですね……確認させて頂きますよ。」


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《創星神　ＳｏｐｈｉａΩ/Sophia Omega, Goddes of Rebirth》
エクシーズ・効果モンスター
星１１/光属性/天使族/攻4000/守3000
レベル１１モンスター×４
このカードの特殊召喚は無効化されない。また、このカードは自分フィールド上の「創星神　Ｓｏｐｈｉａ」または「壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ」の上に重ねてＸ召喚することもできる。
（１）：このカードのＸ素材を１つ取り除いて発動する。相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力を０にし、効果を無効にする。この効果を発動したターン、このカード以外のモンスターは攻撃できない。
（２）：このカードが破壊され墓地に送られたターン終了時に発動できる。墓地またはエクストラデッキから「壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ」１体をＳ召喚扱いで特殊召喚する。その後、「壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ」以外の自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。
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　「うわぁ……これは不味いですね。」

　《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》に引けを取らないソピアの効果を見て、利香は思わず呟いた。しかし、これもまた想定の範囲内である。

　「まあ仕方ありませんね。《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》のもうひとつの効果を発動、このターン相手フィールド上の全てのモンスターに攻撃可能になります。バトル、まずは《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》で《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》を攻撃！‘‘クラスター・フルバースト’’！！」


《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》　ATK：2000　　ATK：0　《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》

遊貴　LP：5000　→　3000


　「むぅ…………」
　「まだです！続いて《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》で《創星神　ＳｏｐｈｉａΩ》を攻撃！《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》は、特殊召喚されたモンスターを相手にする時に、その攻撃力を０にして戦闘を行います！‘‘クラスター・フルバースト・セカンドウィエブ’’！！」


《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》　ATK：2000　　ATK：4000　→　0　《創星神　ＳｏｐｈｉａΩ》

遊貴　LP：3000　→　1000


　（フン……！被造物風情が、小癪な……！）

　ソピアもまた、砲弾の嵐の中で呟く。焦土と化した戦場に、彼女の姿は残っていない。

　「メイン２は……出来ることがないのでターンエンド。ターン終了時に、《メタフィジカ・ドラゴン－プルヴィア》の効果で除外されていた《ＲＲ－トリビュート・レイニアス》と《ＲＲ－ネスト》がフィールドに戻ります。」
　「私の方も……破壊された《創星神　ＳｏｐｈｉａΩ》の効果発動、《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》を特殊召喚します。」

　再びデミウルゴスが出てくるが、状況的には厳しい。何とかして《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》を除去しないことには、攻撃も防御もままならない。まともに攻撃表示でモンスターを放置すれば即ゲームエンドになる残りライフである。



5th.Turn
　TP：遊貴

遊貴　LP：1000　D：25　H：3　G：4　Ex：11
　F：《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》
利香　LP：4000　D：31　H：0　G：8　Ex：11
　F：《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》《ＲＲ－トリビュート・レイニアス》
　　《ＲＲ－ネスト》



　「私のターン……ドロー。あっ。」

　苦戦必至と思っていた遊貴だが、あっさりと意中のカードを引き当ててしまった。もっとも、墓地にたった１体残った《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》のおかげで、その幅はかなり広いのだが。

　「その様子ですと……どうやら、私に勝ちの目はなさそうですね。まあ折角なので、どう動くか見させてもらいますよ。」

　遊貴の仕草から逆転の一手を察したのか、利香はあっさりとした口調で肩を竦め、フェイズの進行を促した。

　「まあ、本当に紙一重だったんですけど……《メタフィジカ・ドラゴン－プロセラ》を召喚、「メタフィジカ」の召喚に成功したので墓地の《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》の効果発動、自身をレベル２のチューナーとして特殊召喚します。レベル４の《メタフィジカ・ドラゴン－プロセラ》に、レベル２となった《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》をチューニング……シンクロ召喚、《メタフィジカ・ドラゴン－イグニス》！イグニスの効果発動、このカードのシンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター１体を破壊します。」
　「はい、通しますよ。しかし遊貴さん……」

　突如声を掛けられて顔を上げてみると、かつてない笑顔の利香がいた。

　「あなた、可愛い顔してえげつないことしますね。まあ、そこが可愛いんですけど。」




　意味がわからない。しかも、笑顔で告げるのはそれだけらしい。




　「選択するのは《ＲＲ－レヴォリューション・ファルコン》、そのままバトルフェイズに入ります。《メタフィジカ・ドラゴン－イグニス》で《ＲＲ－トリビュート・レイニアス》を攻撃。」


《メタフィジカ・ドラゴン－イグニス》　ATK：2100　　ATK：1800　《ＲＲ－トリビュート・レイニアス》

利香　LP：4000　→　3700


　「…………もう少し、だったんですけれどねぇ。」

　残り1000のライフポイントを削り切れていたら、勝てていた。

　（この1000のライフポイントの差が、きっと私と遊貴さんの差なのでしょう。）

　間違いなく、宮戸遊貴は強い。自分のベストを尽くしても、相手の才覚がそれを越えていくならば自分に勝ちの目はない。



　「《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》でダイレクトアタック……」

　でも、もう少し。





　「もう少しだけ、やらないといけないことがあるんですよねぇ…………」


《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》　ATK：4000

利香　LP：3700　→　0



Win：遊貴





　「ありがとうございました。」

　いつものようにぴょこりと頭を下げて、遊貴はステージを降りるために階段へと向かった。

　「ええ、ありがとうございました。おかげで負けて後悔しない状況になりました。」
　「……？」

　利香の妙な表現が引っかかり、遊貴は首を傾げた。しかし利香の顔を見ると、笑って手を振るのみである。

　「…………」

　とりあえずお辞儀をして、段下に控えていた芹野舞のところへ向かった。



　「お疲れ様でした。この分だと、何とか突破は出来そうですね。部長は……まあ、何とかなるでしょう。」

　確かに、あれだけ自分のデッキをデッキを扱う技量は最上級生の名に相応しいものであった。

　「そうですね……またいつか、対戦したいです。」
　「そうですかそうですか。それはそれで嬉しいですね。真夏のビーチで朱理さんの水着を眺めながらというのはいかがでしょうか？」
　「えぇ……！？」

　先程までデュエルフィールドで聞いていた声が背後から聞こえ、思わず振り返ると全く同じ笑顔の利香が真後ろに立っていた。

　「あ、あの……」
　「ほら、朱理さんってあれでかなりスタイルいいですし、噂によるとおみあしが素晴らしいとのことですから……見てみたくないですか？」

　そう言われても、あの気怠げインドア派の籐篠朱理が、ビーチに行こうものなら翌日どころか浜辺に着いた瞬間に雨が降りそうである。

　「それ、どこ情報ですか？確かに朱理さんスタイルいいですし、インドア派で細くて色白ですから足のラインも綺麗だとは思いますけれど……」

　呆れたように問いかける舞に対し、利香はさらりと答えるのだった。

　「企業秘密です。さて、私はこれで。あ、遊貴さん。」
　「はい？」
　「私はあと半年ちょっとで卒業ですから、デュエルと取材のお申し込みはそれまでにお願いしますね。とは言っても、取材の方はあと数日で引退ですけど。」

　そう言ってお辞儀で完璧な45°を作ると、利香は背を向けて悠々と歩き出した。




　「色々……個性的ですよね、遠山先輩。」

　言いたいことだけ言って、果たして何を話したかったのかいまいちわからない利香に対する、遊貴の評価は以上であった。

　「そうですね。でも、あれだけ大雑把に見えてもちゃんと部長ですから。実は真面目というか几帳面というか……いえ、そんなことはなかったですね。あの部長、雑用は全部誰かに押しつけて自分は取材だなんだで飛び回ってましたし。」

　その割を一番食っていたのは私でしたけれど、と呆れ口調で舞は語るのだった。





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　「はぁ……やっぱりここにいましたか。」

　遊貴との対戦後、利香は滝沢和那の元を訪れていた。

　「…………どうも、何か用ですか？」

　一応身体を起こして応対する和那に対し、利香は左手のものを差し出した。

　「まあ、まずはこちらをどうぞ。お昼ご飯、食べていないんでしょう？」
　「そうですけど……随分と準備が良いですね。っていうか何のようですか。」

　左手にあるメロンパンを無視し、和那は話を促す。

　「いえ、何の用って……そりゃあ、あなたが時間になってもデュエルに来ないですから、心配で見に来たんですよ。その様子ですと身体は大丈夫そうですけれど、どうなんですか？」
　「…………先輩には、関係ないですよ。」

　暫く間があって、ようやく和那はそう絞り出した。

　「そうですね。私には関係ありませんでした。あ、このメロンパンは食べちゃってください。私、甘いパンってどうも苦手で……では、私は失礼します。」

　そう言って机の上にパンを置くと、利香はドアの方へと向かった。


　「あっ、そうだ。和那さん。」


　ドアノブに手を触れたと同時に、何かを思い出したように利香が声を掛けた。

　「……なんですか？」

　和那は面倒そうに彼女の背中を見ながら訊ねた。


　「…………」


　小さく呟かれた言葉は、はっきりとは聞き取り辛かった。聞き返そうとしたが、その時には既にその背中はドアの向こうへ消えていた。





　「…………知ってるさ、そんなことは。」

　和那が聞き取った利香の言葉。



　－朱理さんだって、頑張っているんですよ。



　「……わかんねぇよ。あたしには。」

　自分が親友と慕う籐篠朱理が何を考えているのか。

　「わかってるんだよ、お前が学校を抜ける時は実家の用事だってのはさ……」

　滝沢和那にはわからない。



　（いつまでもそうやっている訳にもいかないってのになぁ……）

　無意識にか、机の上に座ってメロンパンを手に取っていた。




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《？次回予告？》

和那　「もう、やめて下さい……」

次回、「Soldier’s Ballad　-追憶：滝沢和那編-」
　それは、未来を夢見た少女の話。