56　コピーとオリジナルとコピー　中編　作：Ales

　「さて、私が特殊召喚するのは《堕天使スペルビア》だ。何かあるかい？」
　「…………いえ、通します。」

　予想はしていた事だが、やはり天使族は打点が高い。《神の居城－ヴァルハラ》から展開されるモンスターは、あっさりと《星騎士　デルタテロス》の攻撃力を超えてくる。

　「では《堕天使スペルビア》を特殊召喚、そのままバトルフェイズに入る。《堕天使スペルビア》で《星騎士　デルタテロス》を攻撃！’’アログランス・イービル’’！」



《堕天使スペルビア》　ATK：2900　　ATK：2500　《星騎士　デルタテロス》
　琉枝　LP：8000　→　7600



　「むむっ、デルタテロスがこうもあっさりと……やっぱり、ヴァルハラは厄介ですね。」

　琉枝にしてみれば３枚の手札を消費して出したデルタテロスであるが、慧は実質２枚でこれを除去した事になる。デルタテロスの効果で《神の居城－ヴァルハラ》を破壊していれば多少は展開も変わっただろうが、その場合攻撃力3100の《アイツ》の除去法を考えねばならなかったので微妙なところである。

　「使ってみると以外と良いものだな、こういうデッキも。さて、私はこれでターンエンドだ。」



4th.turn
　TP：琉枝

琉枝　LP：7600　D：34　H：2　G：4　EX：14
　F：《セットカード》

慧　　LP：5500　D：33　H：1　G：3　EX：15
　F：《堕天使スペルビア》
　　《神の居城－ヴァルハラ》《セットカード》



　「私のターン、ドロー……っと。そろそろこちらも本領発揮といきますか。」
　「ほう、という事は、ようやくお出ましか。」

　まるで全てを知っているかのような口ぶりで、新田慧は呟く。


　「えーっと……これ、切り札登場宣言、ってことでいいんですかねぇ……？何かわからんが期待してみるぞっと。」


　「ええ、ようやくよ。いつもはこんなに引き悪くないのだけれど。さあ、いくわよ！手札から《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》を召喚！」





　「あー、やっぱり……」

　控え室で観戦していた遊貴は、琉枝の「切り札」を見てそんな感想を漏らした。

　「ビクトリー・バイパー……アイツ……なるほど、そういう事でしたか。」

　隣にいた舞も気付いたようだ。

　「偶然にしては出来すぎてますから、どこかで打ち合わせしたんでしょうね……」
　「うん、多分……」

　《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》は、言わずと知れた名作シューティングゲーム『グラディウス』シリーズに登場する開発機である。他方《アイツ》は、そのグラディウスのパロディである『パロディウス』に登場する自機だ。つまりこのデュエルは、脱線は多いものの【グラディウス】対【パロディウス】である。

　「でも、絶対わからない……」
　「ですよね……」

　モニタの端に見える観衆は、どう反応して良いのかわからぬ様子である。

　「更に装備魔法、《月鏡の盾》を《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》に装備、バトルフェイズに入ります！」

　とにもかくにも、戦闘破壊せねば効果を発揮できない【グラディウス】と《月鏡の盾》の相性は、実はそれほど良いとは言えない。特にこの《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》においては、高攻撃力の《オプショントークン》を出す事が目的となるため、常時攻撃力を上昇させる効果を持たない《月鏡の盾》との相性は悪いのだ。
　にもかかわらず琉枝がこのカードを採用した理由は、元々の攻撃力の低さにある。例えば相手が「帝」モンスターであると仮定した場合、その攻撃力は2400である。【グラディウス】の戦闘機群は攻撃力1200なので、攻撃力を倍以上にしなければ効果を発動できず、しかもトークン生成効果となると相打ちでは発動できない。しかし【グラディウス】で戦うと決めた以上、どうしてもこの貧弱な自機達を活躍させねばならない。そう考えて採用したのが、この《月鏡の盾》である。先に説明した通り高攻撃力は出せないが、その他の効果であれば発揮できる。

　「《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》で《堕天使スペルビア》に攻撃！この時に、《月鏡の盾》の効果で装備モンスターの攻撃力を攻撃対象モンスターの攻撃力または守備力のうち高い方＋１００にします！’’ライドック・スーパーカノン、全弾発射’’！」

　バレルロールと共に相手に急接近した戦闘機が、迎撃もものとせずに機関砲をばら撒いた。



《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》　ATK：3000　　ATK：2900　《堕天使スペルビア》
　慧　LP：5500　→　5400



　「戦闘破壊に成功したので、《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》の効果を発動、フィールド上に表側表示で存在する《神の居城－ヴァルハラ》を破壊します。’’タグバード超長距離巡航ミサイル’’標準合わせ、発射！」

　ドッグファイトから離脱し、遙か上空を飛んでいた戦闘機が再び相手の方を向くと、ミサイルを１発発射した。それは一気に亜光速まで加速し、目標であった城門のような扉を突き破って瓦礫の山に変えた。

　「私はこれでターンエンドです。さて、どうしますか？元プロ。」

　形勢逆転、とまでは行かないものの、何とか押し切られない程度には立ち回った。《月鏡の盾》が装備されている限り《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》は戦闘破壊されない。《邪神アバター》でも出されれば別だが、ただでさえ重い【パロディウス】に特殊召喚不可能な上にシナジーもないアバターを採用するのは困難である。

　「ははっ、参ったな……ヴァルハラもスペルビアも除去してくるか。」

　カードゲーム、いや戦略ゲーム全般に言える事は、如何に少ないリソースで相手の戦力を削ぐかが鍵である。自分のリソースを補充する効果は相対的に相手のリソースを削ぐ事と同義である。そうやって削り合いをした上で、生じた隙を逃さずに本命を叩き込む。モタモタしていると相手もリソースを回復するし、それが元でこちらの優位を失う事もある。そういう意味では、琉枝の攻勢は中途半端である。


　「んー、何か今のところは琉枝さんが押してるっぽいけど……いやー、このふたりってこんなデッキでいいのか？」


　「久実さん、実況が実況じゃなくなってきていますね……」

　元々山崎久実は、とりあえず声が通るからという理由からこの実況を任されており、技術面や知識面に関しては自身のアイドルとしての実績ほど高くない。ましてやデュエルと関係のないレトロゲームをモチーフにしたデッキ同士の対戦だと、どうしても実況し辛いものがある。



5th.turn
　TP：慧

慧　　LP：4500　D：33　H：1　G：5　EX：15
　F：《セットカード》

琉枝　LP：7600　D：33　H：1　G：4　EX：14
　F：《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》
　　《月鏡の盾》《セットカード》



　（《月鏡の盾》か。全く、思い切ったカードを採用したものだ。確かに打ち合わせの時に「単体除去カードはつまらないから不採用」とは言ったが、ビクトリー・バイパーと月鏡の組み合わせは、ヴァルハラに依存するこのデッキには刺さるな。）

　【グラディウス】における自機達は、本家グラディウスである《超時空戦闘機ビッグ・バイパー》を除いて、戦闘破壊達成時に強力な効果を発揮する。《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》であれば先のように表側表示の魔法・罠カードの破壊であり、また《ロードブリティッシュ》であればセットカ－ドの除去である。《ファルシオンβ》は墓地肥やしと蘇生の両方を担い、全２機の効果をより良いタイミングで発揮できるようになるのだ。

　（それに比べると……【パロディウス】の自機達は、ユニオンのくせにあまり連帯感がないな。まあ、今は戦闘破壊以外でビクトリー・バイパーを除去する方法を考えねば。何はともあれ、ドローだな。）

　「私のターン、ドロー。っと、ここでこれをドローするか……」

　新田慧は暫し考える。
　もし仮にこのターン、特に何もせずに終えた場合、攻撃力の低い【グラディウス】で、残り4500のライフポイントを削り切られるだろうか。《月鏡の盾》はモンスターとの戦闘時にこそ強力無比な装備魔法だが、直接攻撃時には何の恩恵もない。仮に金銀ガジェットを展開されても攻撃力の総計値は4400であり、一応ギリギリのところで耐えられる計算だ。とはいえこれはあくまで願望であり、《リミッター解除》でも打たれればゲームエンドである。非公式戦で、しかもお互いファンデッキという事もあって勝利に拘りはないが、棒立ちでやられるのは気にくわない。

　「モンスターをセット、更にカードを１枚セットしてターンエンドだ。」

　《月鏡の盾》は攻撃力の低いモンスターに装備してこそ真価を発揮するが、あくまでそれはモンスターとの戦闘時である。おおよそ全てのモンスターを戦闘破壊できるが、与ダメージの少なさを考えればほとんど破壊するだけである。



6th.turn
　TP：琉枝

琉枝　LP：7600　D：33　H：1　G：4　EX：14
　F：《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》
　　《月鏡の盾》《セットカード》

慧　　LP：4500　D：32　H：0　G：5　EX：15
　F：《セットモンスター》
　　《セットカード》×２



　「私、お互いのテーマについて詳しくないから何とも言えないんだけど、これ今明らかに琉枝さんが押してるよね。あ、資料どうも……じゃなーい、ちょっと待って、今電波受信した！んんっ、いやぁ、びっくりです。【グラディウス】対【パロディウス】は、現状本家グラディウスが優勢ですね。これがコピーとオリジナルの違いというやつでしょーか！…………ところで、グラディウスって何？え？シューティングゲーム？いや興味ないからわかんないし。グラディウスのパロディだからパロディウスなんだよね。それはここに書いて……電波拾ったからわかるけど、これどんなゲームなのよ？一応私もサブカルの道は避けて通れない身だからさ、こういうのも把握した方がいいのかな？」

　最早実況ですらないが、それでも観客は楽しんでいる様子である。


　（さて、セットモンスターが気になるわね……）

　《月鏡の盾》のおかげで戦闘破壊は確実なのだが、戦闘後の対応まではしてくれない。効果で除去される危険性は付きまとうし、容易に召喚できるモンスター群とはいえ除去されるのは辛い。なお《月鏡の盾》デッキバウンスは強制効果なので500ライフは残っている限り支払わねばならない。そう考えると、今のライフポイントは7100と考えられる。

　（まだ余力は充分だけど、スペルビアが墓地にいるし、ヴァルハラも１枚しか見えてないし……）

　《堕天使スペルビア》の効果は、墓地からの特殊召喚に成功した時に同名モンスター以外の天使族モンスター１体を特殊召喚できる効果である。１ターンに１度、自身以外の天使族モンスターをリリースする事で墓地の天使族を蘇生する《アテナ》との相性は抜群で、まだ見えてはいないものの《大天使クリスティア》を絡められたら非常に面倒である。《アイツ》を蘇生して《ゲットライド！》で《コイツ》を装備させ、高攻撃力と貫通効果を活かす事もできるため、おそらく《アテナ》は採用されているだろう。そうでなくても、低ステータスのモンスターや通常モンスターは蘇生も展開もサポートが多い。そう考えれば、現状が有利とは言えないのだ。

　「私のターン、ドロー！へぇ……ここでこれを引くか……」

　琉枝は暫し思案した後、メインフェイズへの移行を宣言した。

　「手札から《ライトロード・アサシン　ライデン》を召喚、一応効果発動ね。デッキの上から２枚墓地に送る……まあ、当然だけど「ライトロード」モンスターはいないわ。」


　「んー、これでチューナーと非チューナーが揃った訳だけど……まさか、【グラディウス】のエース、《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》を踏み台にする気じゃ……」

　久実の予想は果たして、現実のものとなった。


　「レベル４の《ビクトリー・バイパー　ＸＸ０３》に、レベル４の《ライトロード・アサシン　ライデン》をチューニング……シンクロ召喚、《クリムゾン・ブレーダー》！」
　「何……！？ピンポイントでメタを張ってきたか！」

　見慣れぬカードだが、《クリムゾン・ブレーダー》は戦闘でモンスターを破壊した場合、次の相手ターンに相手のレベル５以上のモンスターの展開を禁止する効果を持っている。《アイツ》《コイツ》のユニオンをはじめとし、高レベルのモンスターが多い《天使族》には、この効果は非常に刺さるのだ。レベル４以下の展開が防げないなどの問題はあるものの、高レベルモンスターを多く採用した【征竜】メタとなるため、一時期採用率が上がった事もあるカードだ。もっとも、その【征竜】で非常に簡単にシンクロ召喚できたため、ミラーマッチ対策となった歴史もあるのだが。

　「《月鏡の盾》の効果、フィールドから墓地に送られたので500ライフ払って……そうね、デッキの一番下に戻すわ。」


琉枝　LP：7600　→　7100


　「バトルフェイズ、《クリムゾン・ブレーダー》で《セットモンスター》を攻撃！’’レッドマーダー’’！」


《クリムゾン・ブレーダー》ATK：2800　　DEF：800　《シャインエンジェル》


　「うげっ、リクルーター……」

　琉枝の表情が、苦虫を数匹噛み潰したようなものへと変化した。

　「《クリムゾン・ブレーダー》の効果は次の私のターンに適用されるのだったね？では《シャインエンジェル》の効果発動、このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時に、デッキから攻撃力1500以下の天使族モンスター１体を攻撃表示で特殊召喚する。２体目の《アイツ》を特殊召喚するよ。」

　再び紙飛行機に乗った赤い棒人間が現れた。

　「…………不覚でした。私はこれでターンエンド。」

　リクルーターから《アイツ》を出された時点で、《ゲットライド！》を警戒して攻撃の手が止まる。今回は攻撃可能なモンスターがいないので仕方のない事だが、それでも伏せカードは攻撃を躊躇させるに充分である。

　（さて、そろそろ反撃といかないとまずいぞ……）

　他方、新田慧もまた、自身の状況の危うさをはっきりと自覚していた。








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《？次回予告？》

琉枝　「本当にありがとうございました」
慧　「礼には及ばないさ」


次回、多分決着。