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第七十二話「不死者は少年を好く」 作:イクス
第七十二話「不死者(イモータル)は少年を好く」
いろいろとハチャメチャだったリトルバードとのデート? は、アオイとヒカリの二人が仕事で離脱したことによって、空中分解した。
最後に菊姫の乱入があったが、そんなことも軽くいなし、帰ってきた知多。
「あ~、今日はなんかすごかったじゃん。リトルバードの二人とデート……? して、そしたらみんな集まっちゃって、最後に菊姫が乱入してきたり……いろいろあったじゃん……」
「でも、あのアオイちゃんも、かなりのデュエルタクティクスだったじゃん……ついでに可愛いし。やっぱ、あの子俺好きじゃん……痛っ!」
アオイへの好意ともとれる発言をした瞬間、首筋に痛みを感じる知多。
「な、なんか……最近リトルバードの二人にかわいいとかそういうこと言うと、なんか首筋が痛むじゃん……。首の傷も、まだ治ってないし……塗り薬も効き目ないし……最近、なんか変じゃん……」
痛む首筋をさすりながら、ベッドに横たわる知多。
「そーいや、最初に首が痛くなった時は、帝国みたいな危機的状況だったじゃん。そしたら、首から血が出て……あのカードが……」
デッキケースからカードを取り出す。そのカードは、シンクロモンスターの『吸血竜-ノワール・ヴァンプドラゴン』であった。
「その時は、誰かの声がして……女の子の声だったかな? どこかで会ったような……っ!?」
その考えに至った時、背筋がゾクッとするような寒気に襲われる。どこからか、鋭い視線も感じる。
「なに、なにじゃん……? うあっ」
知多の目に、普通なら見えないものが見える。爬虫類のような細い瞳孔に、血のように紅い虹彩。普通なら、部屋に知多以外誰もいないのに。目を閉じても、はっきり見える。
「な、に……」
「私っていう女の子がいるのに、他の子にデレデレしちゃって……」
「え、え……?」
「あなたは私のモノ。首につけた傷跡がその証。だから、私以外になびくことなんて許さない。これから、それをあなたの心に刻みつけてあげるわ」
「え、え……?」
その言葉が聞こえた時、知多の意識は途切れた。
「ん、うう……?」
やっと意識を取り戻した知多だったが、そこは見慣れぬ場所。あたり一面に白い霧が立ちこめ、自分の周りしか見えない。
「ここ、ドコじゃん?」
「やっとお目覚めかしら? 知多君?」
「き、君は……」
霧の中より現れたのは、知多がよく知っている人物。金髪の長い髪、透き通るような白い肌、赤い瞳。この特徴を持つ人物は……。
「しぇ、シェリルちゃん!?」
「よかった。このまま目覚めないかと思ってたから」
白い霧に、白いドレスとつば広帽子、そして白い肌は霧と同化しよく見えない。
「あ、あの……ここはドコで、なんで俺はこんな所にいるじゃん?」
「ここは霧の大地。この土地は日中、常に深い霧が立ちこめ、太陽の光は一切届かない。霧が晴れるのは夜だけ。だから、人間はここを訪れないし、住処ともしない。だから、私たちイモータルはこの土地を気に入っている」
「い、イモータル……? この間、シェリルちゃんのお父さんが言ってた、不死者……? シェリルちゃんは、それなのかじゃん!?」
「そうよ。私はイモータル、普通の人間は私のことを吸血鬼とかヴァンパイアとか呼ぶわね。人の生き血を啜り、日の光に嫌われた者たち」
「そうだったのかじゃん……!? 道理で太陽アレルギーな訳じゃん……。そ、そんなことより! 俺はなんでここにいるじゃん!?」
「その説明は、私の城でするわ。私の両手をつかんで」
「……?」
「じゃあ、飛ぶわよ」
「!?」
シェリルのその言葉、背中から生えた巨大なコウモリの翼。イモータルというのは本当だった!
「ちょ、ちょっと……!」
「手を離したら、落ちて死んじゃうわよ!」
「ああああ!」
シェリルと知多の体が、宙に浮かぶ。何もかもが真っ白の中飛ぶのは、非常に恐ろしく感じる知多。今どれぐらい高く飛んでいるのか、どこまで進んでいるのかわからないが、ともかく手を離したら命を失うことだけはわかっていた。
(イモータル、不死者……!? シェリルちゃんは、とんでもない女の子だったじゃん……)
そうしてたどり着いた、巨大な扉。やっと地に足がついてホッとしたのもつかの間、何もしていないのに勝手に扉が開く。
「え……」
「さ、入って」
背中の羽根をしまって、中に入るシェリル。知多も、少しびびりながら入る。
中に入れば、またしても勝手に着く火の明かり。赤い絨毯に大理石の手すり。そして石像やシャンデリアと、普通の金持ちでもまずやりそうにない装飾がしてあった。
「城……?」
「ここからは私と一緒に手をつなぎましょう? 迷ったりしたら、大変だもの」
「あ、うん……」
シェリルの手を握る。その手は、まるで氷のように冷たく、人肌の温度を感じなかった。
「……」
そうして、案内された一室。大きな部屋に、白いシーツがかけられた長い机。その机と、細かな細工をされた椅子。
「ちょっと時代がかっているのはごめんね。私たち、貴族趣味っていうか、懐古趣味だから……」
「あ、いいじゃん別に……」
椅子に座り、おいてあったベルを鳴らす。すると、どこからともなく黒い人型が現れた。
「紅茶とケーキを用意して」
黒い人型は、お辞儀をして消える。
「君の、その力は……」
「ええ、魔法とか暗黒物質の力よ。私たちは日の光に嫌われている代わりに、普通の人間には使えない力を持っているわ」
「ああ、そ……」
「とにかく、まずは私たちの説明をしないとね」
またいきなり現れた黒い人型。その手には、トレイに乗せられたティーポットとショートケーキ。それを置き、またしても消えた。
「私たちの概要は、すでにお父さんから聞いているわよね?」
「うん……ヴァンデミエールさんから聞いた、生きることを拒み、死ぬことを拒否した、特別な力でないと死なない生き物。それが、イモータル……」
「具体的には太陽の光とか、聖なる銀の刃とか、そんなトコね」
「十字架とか、白木の杭とかは?」
「ああアレ? あんなんじゃ私たちは死なないわよ。アレは私たちを嫌った教会や宗教家がこじつけでつけたヤツ。アイツら、人を襲うとか、人をグールに変えるとか、適当なことぬかしくさって……」
「そうじゃないの?」
「人は変えられない。人形とかはグールに変えられるけど、人の墓からはやらない。それに私たちは、人の血は飲むけど人を食ったりはしないわよ」
「しないの?」
「食べられるけど、女王様は人を食ってはいけないと言っているの。それに、契約した人間からしか血を飲んではいけないことになっているの」
「ふーん」
「でもね、例外もあるのよ」
「何?」
「あなたの首筋……遊園地に連れて行ってくれた時、私の牙でちょっとした印をつけたの。それは血の刻印。あなたは私のモノという証。知多君は私にとってお気に入り。だから、私は首に印をつけたの。あなたに悪い虫がつかないようにね。その人からは血を吸ってもいいことになってるの」
「いいのか……」
「ついでに、あなたの行動を逐一見ることもできるのよ」
「ああ……時々首が痛くなるのはシェリルちゃんのせいだったのかじゃん……」
「私がいるのに、あんな女の子にデレデレしてたから」
「せめて俺の意思確認をしてくれじゃん……」
「でも、私がいなかったら、あの時知多君やられてたわよ? 帝国の時」
「これが無かったら、やられてたかもしれなかったじゃん……」
懐から取り出した、ノワール・ヴァンプのカード。
「それは、私のカードよ。私の力によって、生み出されたカードみたいなものかしら」
「で……俺はこれから、君とずっと一緒にならなくちゃいけないのかじゃん?」
「ゆくゆくはね。けれど、その前にやってもらわなきゃいけないことがたくさんあるの」
「なーに?」
「帝国の一件、プラクサスにおいてのダークネスカード事件……もうすぐ、この世界を飲み込もうとする悪しきモノがやってくるのよ」
「ええ……!?」
「近々、世界を巻き込んだ大きな災いが起こるわ……それにより、この世界も奴らは飲み込もうとしている」
「な、なるほど……それで、俺に何をしてほしいのじゃん?」
「私たちを、イモータルに平穏な生活をこれからもさせて……」
「平穏な、生活……」
「私たちは、昔からこの霧の大地で人間から隠れながら住んできたの。一部の人間以外、誰からも恐れられ、忌み嫌われた不死の化け物。それに、私たちの血を利用しようとする人間もいっぱいいたしね……だから私たちは、人目につかないところで暮らすことにしたの。この霧の大地で、誰にも知られず、おとぎ話のような存在として語られるまで……」
「そんな、君たちは……」
「でも、あんな奴らが来たら、私たちはまた人目についてしまう。人間に、恐れられる……そして退治しようとかのたまう連中に、あることないこと勝手に言われて……そんなことが言われるのは、200年前で終わりにしてたのに……」
「200……? 君、一体いくつじゃん?」
「少なくとも、200年は生きているつもりよ?」
「え~……」
「でも、あなたは私の正体を知っても、こうして普通に接してくれてるわよね」
「だって、シェリルちゃんは良い子じゃん……僕は、知っているじゃん……」
「ありがとう……あなたのお仲間たちには、精霊とかいろいろいるけど、あなたには私たちがいる。いざとなったら、お姉様や妹たちに、お父様や女王様、他の子たちももいろいろ手伝ってくれるから、安心してね」
「ロールに、ヴァリンに、ネイル。それにヴァンデミエールさんも?」
「ヘル様もね……」
「ヘル……」
「まずはお手伝いの手始めとして、これを……」
懐から取り出され、机に置かれたのは、デュエルモンスターズのデッキ。
「これは……」
「私たちの力が込められたデッキよ。私たちの血が塗り込まれた命のカード。これであいつらとも対等にやりあえるんじゃない?」
「ひょっとして、このノワール・ヴァンプも……」
「ええ、私の血が入っているわよ?」
「愛が……愛が重いじゃん……」
「だからこそよ。私は、あなたを愛しているから……お願いね?」
「まあ、こうなった以上、仕方ないじゃん……とりあえず、結婚の心配とかはしなくて済んだじゃん……」
「うふふ。とりあえずは、私たちの思いを……頼むわね。知多君」
「あ、でも……俺、ここからどうやって帰れば良いじゃん?」
「大丈夫よ、あなたはすぐに帰れる。でも、忘れないで。あなたにはいつも、私がそばにいるってことを……」
その瞬間、またしても知多の意識はブラックアウトする。
そして、目が覚めた時には、自分の部屋に戻っていた。
「あっ、シェリルちゃん……なんかよく、わかんないけど……遊太たちが戦っていた相手は、シェリルちゃんたちにとっても悪しきモノなのか……」
机においてあるデッキを、再び見てみる。そのモンスターたちは、『イモータル』と名付けられていた。
「これで俺も、遊太たちと一緒になったってことかじゃん……? でも、いつもそばにいるって……ちょっとストーカーっぽいじゃん……」
「まあでも、任された以上やるしかないじゃん……!」
翌日。遊太たちは集まって知多の話を聞いていた。
「ということがあったじゃん」
「ウッソだろお前……化け物と一緒になってデッキを託されたってーのかよ」
「まあ、菊姫が信じられないのもわかるじゃん。俺だってまだ夢を見ているみたいな感覚じゃん」
「でもこれで、知多君も遊太君と同じような立ち位置に立つことができたってことですよね」
「僕と同じ、謎の軍勢と戦う準備はできたってことだね。精霊と同じ力……」
(うむ、理由はなんであろうと、我々の世界を襲った連中と戦うなら、協力してもらえるのはありがたい)
(そだね~)
遊太の『イクスロードナイト』や、真薄のグレイマターもうなずく。
「これで精霊持ちとイモータルの加護を受けたヤツが一緒にってことか……ということは、アタシもそんな奴らが現れたりするのか!?」
「いや~……菊姫は多分無いと思うじゃん……」
「なんでぇ!?」
「僕も多分、そう思う……」
「くっそー! そう言うなら、それらが無くてもアタシはお前らより上に行ってやるー!」
菊姫は意気込んでいるが、遊太は『イクスロードナイト』と話をする。
(にしても……そのシェリルちゃんが言ってた大いなる災いって、なんだろう……? 気になるね……)
(ああ、我々とて予測がつかぬ。だがしかし、何かよからぬことが起ころうとしているのはわかる。なら……行くしかあるまい)
(大丈夫。僕にはみんなもいるし、ロベルトさんや烏間さんもいる。それに……)
「何デスか? 遊太サン。それよりも、知多さんの話……何か恐ろしいデスね……」
(ユイの不思議な力……あんまり当てにする訳にはいかないけど、この力も……)
第七十二話。終わり。
いろいろとハチャメチャだったリトルバードとのデート? は、アオイとヒカリの二人が仕事で離脱したことによって、空中分解した。
最後に菊姫の乱入があったが、そんなことも軽くいなし、帰ってきた知多。
「あ~、今日はなんかすごかったじゃん。リトルバードの二人とデート……? して、そしたらみんな集まっちゃって、最後に菊姫が乱入してきたり……いろいろあったじゃん……」
「でも、あのアオイちゃんも、かなりのデュエルタクティクスだったじゃん……ついでに可愛いし。やっぱ、あの子俺好きじゃん……痛っ!」
アオイへの好意ともとれる発言をした瞬間、首筋に痛みを感じる知多。
「な、なんか……最近リトルバードの二人にかわいいとかそういうこと言うと、なんか首筋が痛むじゃん……。首の傷も、まだ治ってないし……塗り薬も効き目ないし……最近、なんか変じゃん……」
痛む首筋をさすりながら、ベッドに横たわる知多。
「そーいや、最初に首が痛くなった時は、帝国みたいな危機的状況だったじゃん。そしたら、首から血が出て……あのカードが……」
デッキケースからカードを取り出す。そのカードは、シンクロモンスターの『吸血竜-ノワール・ヴァンプドラゴン』であった。
「その時は、誰かの声がして……女の子の声だったかな? どこかで会ったような……っ!?」
その考えに至った時、背筋がゾクッとするような寒気に襲われる。どこからか、鋭い視線も感じる。
「なに、なにじゃん……? うあっ」
知多の目に、普通なら見えないものが見える。爬虫類のような細い瞳孔に、血のように紅い虹彩。普通なら、部屋に知多以外誰もいないのに。目を閉じても、はっきり見える。
「な、に……」
「私っていう女の子がいるのに、他の子にデレデレしちゃって……」
「え、え……?」
「あなたは私のモノ。首につけた傷跡がその証。だから、私以外になびくことなんて許さない。これから、それをあなたの心に刻みつけてあげるわ」
「え、え……?」
その言葉が聞こえた時、知多の意識は途切れた。
「ん、うう……?」
やっと意識を取り戻した知多だったが、そこは見慣れぬ場所。あたり一面に白い霧が立ちこめ、自分の周りしか見えない。
「ここ、ドコじゃん?」
「やっとお目覚めかしら? 知多君?」
「き、君は……」
霧の中より現れたのは、知多がよく知っている人物。金髪の長い髪、透き通るような白い肌、赤い瞳。この特徴を持つ人物は……。
「しぇ、シェリルちゃん!?」
「よかった。このまま目覚めないかと思ってたから」
白い霧に、白いドレスとつば広帽子、そして白い肌は霧と同化しよく見えない。
「あ、あの……ここはドコで、なんで俺はこんな所にいるじゃん?」
「ここは霧の大地。この土地は日中、常に深い霧が立ちこめ、太陽の光は一切届かない。霧が晴れるのは夜だけ。だから、人間はここを訪れないし、住処ともしない。だから、私たちイモータルはこの土地を気に入っている」
「い、イモータル……? この間、シェリルちゃんのお父さんが言ってた、不死者……? シェリルちゃんは、それなのかじゃん!?」
「そうよ。私はイモータル、普通の人間は私のことを吸血鬼とかヴァンパイアとか呼ぶわね。人の生き血を啜り、日の光に嫌われた者たち」
「そうだったのかじゃん……!? 道理で太陽アレルギーな訳じゃん……。そ、そんなことより! 俺はなんでここにいるじゃん!?」
「その説明は、私の城でするわ。私の両手をつかんで」
「……?」
「じゃあ、飛ぶわよ」
「!?」
シェリルのその言葉、背中から生えた巨大なコウモリの翼。イモータルというのは本当だった!
「ちょ、ちょっと……!」
「手を離したら、落ちて死んじゃうわよ!」
「ああああ!」
シェリルと知多の体が、宙に浮かぶ。何もかもが真っ白の中飛ぶのは、非常に恐ろしく感じる知多。今どれぐらい高く飛んでいるのか、どこまで進んでいるのかわからないが、ともかく手を離したら命を失うことだけはわかっていた。
(イモータル、不死者……!? シェリルちゃんは、とんでもない女の子だったじゃん……)
そうしてたどり着いた、巨大な扉。やっと地に足がついてホッとしたのもつかの間、何もしていないのに勝手に扉が開く。
「え……」
「さ、入って」
背中の羽根をしまって、中に入るシェリル。知多も、少しびびりながら入る。
中に入れば、またしても勝手に着く火の明かり。赤い絨毯に大理石の手すり。そして石像やシャンデリアと、普通の金持ちでもまずやりそうにない装飾がしてあった。
「城……?」
「ここからは私と一緒に手をつなぎましょう? 迷ったりしたら、大変だもの」
「あ、うん……」
シェリルの手を握る。その手は、まるで氷のように冷たく、人肌の温度を感じなかった。
「……」
そうして、案内された一室。大きな部屋に、白いシーツがかけられた長い机。その机と、細かな細工をされた椅子。
「ちょっと時代がかっているのはごめんね。私たち、貴族趣味っていうか、懐古趣味だから……」
「あ、いいじゃん別に……」
椅子に座り、おいてあったベルを鳴らす。すると、どこからともなく黒い人型が現れた。
「紅茶とケーキを用意して」
黒い人型は、お辞儀をして消える。
「君の、その力は……」
「ええ、魔法とか暗黒物質の力よ。私たちは日の光に嫌われている代わりに、普通の人間には使えない力を持っているわ」
「ああ、そ……」
「とにかく、まずは私たちの説明をしないとね」
またいきなり現れた黒い人型。その手には、トレイに乗せられたティーポットとショートケーキ。それを置き、またしても消えた。
「私たちの概要は、すでにお父さんから聞いているわよね?」
「うん……ヴァンデミエールさんから聞いた、生きることを拒み、死ぬことを拒否した、特別な力でないと死なない生き物。それが、イモータル……」
「具体的には太陽の光とか、聖なる銀の刃とか、そんなトコね」
「十字架とか、白木の杭とかは?」
「ああアレ? あんなんじゃ私たちは死なないわよ。アレは私たちを嫌った教会や宗教家がこじつけでつけたヤツ。アイツら、人を襲うとか、人をグールに変えるとか、適当なことぬかしくさって……」
「そうじゃないの?」
「人は変えられない。人形とかはグールに変えられるけど、人の墓からはやらない。それに私たちは、人の血は飲むけど人を食ったりはしないわよ」
「しないの?」
「食べられるけど、女王様は人を食ってはいけないと言っているの。それに、契約した人間からしか血を飲んではいけないことになっているの」
「ふーん」
「でもね、例外もあるのよ」
「何?」
「あなたの首筋……遊園地に連れて行ってくれた時、私の牙でちょっとした印をつけたの。それは血の刻印。あなたは私のモノという証。知多君は私にとってお気に入り。だから、私は首に印をつけたの。あなたに悪い虫がつかないようにね。その人からは血を吸ってもいいことになってるの」
「いいのか……」
「ついでに、あなたの行動を逐一見ることもできるのよ」
「ああ……時々首が痛くなるのはシェリルちゃんのせいだったのかじゃん……」
「私がいるのに、あんな女の子にデレデレしてたから」
「せめて俺の意思確認をしてくれじゃん……」
「でも、私がいなかったら、あの時知多君やられてたわよ? 帝国の時」
「これが無かったら、やられてたかもしれなかったじゃん……」
懐から取り出した、ノワール・ヴァンプのカード。
「それは、私のカードよ。私の力によって、生み出されたカードみたいなものかしら」
「で……俺はこれから、君とずっと一緒にならなくちゃいけないのかじゃん?」
「ゆくゆくはね。けれど、その前にやってもらわなきゃいけないことがたくさんあるの」
「なーに?」
「帝国の一件、プラクサスにおいてのダークネスカード事件……もうすぐ、この世界を飲み込もうとする悪しきモノがやってくるのよ」
「ええ……!?」
「近々、世界を巻き込んだ大きな災いが起こるわ……それにより、この世界も奴らは飲み込もうとしている」
「な、なるほど……それで、俺に何をしてほしいのじゃん?」
「私たちを、イモータルに平穏な生活をこれからもさせて……」
「平穏な、生活……」
「私たちは、昔からこの霧の大地で人間から隠れながら住んできたの。一部の人間以外、誰からも恐れられ、忌み嫌われた不死の化け物。それに、私たちの血を利用しようとする人間もいっぱいいたしね……だから私たちは、人目につかないところで暮らすことにしたの。この霧の大地で、誰にも知られず、おとぎ話のような存在として語られるまで……」
「そんな、君たちは……」
「でも、あんな奴らが来たら、私たちはまた人目についてしまう。人間に、恐れられる……そして退治しようとかのたまう連中に、あることないこと勝手に言われて……そんなことが言われるのは、200年前で終わりにしてたのに……」
「200……? 君、一体いくつじゃん?」
「少なくとも、200年は生きているつもりよ?」
「え~……」
「でも、あなたは私の正体を知っても、こうして普通に接してくれてるわよね」
「だって、シェリルちゃんは良い子じゃん……僕は、知っているじゃん……」
「ありがとう……あなたのお仲間たちには、精霊とかいろいろいるけど、あなたには私たちがいる。いざとなったら、お姉様や妹たちに、お父様や女王様、他の子たちももいろいろ手伝ってくれるから、安心してね」
「ロールに、ヴァリンに、ネイル。それにヴァンデミエールさんも?」
「ヘル様もね……」
「ヘル……」
「まずはお手伝いの手始めとして、これを……」
懐から取り出され、机に置かれたのは、デュエルモンスターズのデッキ。
「これは……」
「私たちの力が込められたデッキよ。私たちの血が塗り込まれた命のカード。これであいつらとも対等にやりあえるんじゃない?」
「ひょっとして、このノワール・ヴァンプも……」
「ええ、私の血が入っているわよ?」
「愛が……愛が重いじゃん……」
「だからこそよ。私は、あなたを愛しているから……お願いね?」
「まあ、こうなった以上、仕方ないじゃん……とりあえず、結婚の心配とかはしなくて済んだじゃん……」
「うふふ。とりあえずは、私たちの思いを……頼むわね。知多君」
「あ、でも……俺、ここからどうやって帰れば良いじゃん?」
「大丈夫よ、あなたはすぐに帰れる。でも、忘れないで。あなたにはいつも、私がそばにいるってことを……」
その瞬間、またしても知多の意識はブラックアウトする。
そして、目が覚めた時には、自分の部屋に戻っていた。
「あっ、シェリルちゃん……なんかよく、わかんないけど……遊太たちが戦っていた相手は、シェリルちゃんたちにとっても悪しきモノなのか……」
机においてあるデッキを、再び見てみる。そのモンスターたちは、『イモータル』と名付けられていた。
「これで俺も、遊太たちと一緒になったってことかじゃん……? でも、いつもそばにいるって……ちょっとストーカーっぽいじゃん……」
「まあでも、任された以上やるしかないじゃん……!」
翌日。遊太たちは集まって知多の話を聞いていた。
「ということがあったじゃん」
「ウッソだろお前……化け物と一緒になってデッキを託されたってーのかよ」
「まあ、菊姫が信じられないのもわかるじゃん。俺だってまだ夢を見ているみたいな感覚じゃん」
「でもこれで、知多君も遊太君と同じような立ち位置に立つことができたってことですよね」
「僕と同じ、謎の軍勢と戦う準備はできたってことだね。精霊と同じ力……」
(うむ、理由はなんであろうと、我々の世界を襲った連中と戦うなら、協力してもらえるのはありがたい)
(そだね~)
遊太の『イクスロードナイト』や、真薄のグレイマターもうなずく。
「これで精霊持ちとイモータルの加護を受けたヤツが一緒にってことか……ということは、アタシもそんな奴らが現れたりするのか!?」
「いや~……菊姫は多分無いと思うじゃん……」
「なんでぇ!?」
「僕も多分、そう思う……」
「くっそー! そう言うなら、それらが無くてもアタシはお前らより上に行ってやるー!」
菊姫は意気込んでいるが、遊太は『イクスロードナイト』と話をする。
(にしても……そのシェリルちゃんが言ってた大いなる災いって、なんだろう……? 気になるね……)
(ああ、我々とて予測がつかぬ。だがしかし、何かよからぬことが起ころうとしているのはわかる。なら……行くしかあるまい)
(大丈夫。僕にはみんなもいるし、ロベルトさんや烏間さんもいる。それに……)
「何デスか? 遊太サン。それよりも、知多さんの話……何か恐ろしいデスね……」
(ユイの不思議な力……あんまり当てにする訳にはいかないけど、この力も……)
第七十二話。終わり。
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86 | 第二話「六道遊太、デュエルスタンバイ!」 | 1319 | 3 | 2018-01-30 | - | |
137 | 第三話「ロードナイトVSC・HERO」 | 1167 | 1 | 2018-02-05 | - | |
72 | 第四話「大会にて」 | 961 | 1 | 2018-02-11 | - | |
120 | 第五話「カリンとカードの精霊の話」 | 1028 | 1 | 2018-02-14 | - | |
113 | 第六話「戦いの幕開け」 | 946 | 1 | 2018-02-18 | - | |
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79 | 第二十五話「真の究極竜と、カオスMAX」 | 995 | 2 | 2018-05-16 | - | |
131 | 第二十六話「決着、そして……!」 | 992 | 2 | 2018-05-18 | - | |
64 | 第二十七話「ロードナイトの話」 | 898 | 0 | 2018-05-26 | - | |
87 | 第二十八話「カリンと遊太」 | 956 | 2 | 2018-05-28 | - | |
84 | 第二十九話「日傘の女の子」 | 830 | 0 | 2018-06-07 | - | |
151 | 第三十話「ヒーローショーを見に行こう!」 | 913 | 0 | 2018-06-11 | - | |
117 | 第三十一話「忍び寄る侵略の影」 | 861 | 0 | 2018-06-23 | - | |
101 | 第三十二話「侵略の一手」 | 793 | 0 | 2018-06-24 | - | |
154 | 第三十三話「帝国への招待状」 | 949 | 0 | 2018-07-03 | - | |
116 | 第三十四話「いざ、帝国へ!」 | 893 | 0 | 2018-07-12 | - | |
218 | 遊戯王EXSキャラ紹介 その1 | 1291 | 2 | 2018-07-14 | - | |
120 | 第三十五話「GAME START」 | 832 | 0 | 2018-07-22 | - | |
75 | 決闘者の帝国における、特殊ルール | 811 | 2 | 2018-07-22 | - | |
155 | 第三十六話「まずは一つ」 | 994 | 0 | 2018-07-29 | - | |
80 | 第三十七話「菊姫とアキラ」 | 899 | 0 | 2018-08-05 | - | |
88 | 第三十八話「実力勝負!」 | 876 | 0 | 2018-08-12 | - | |
124 | 第三十九話「エンジョイデュエル!」 | 977 | 0 | 2018-08-23 | - | |
79 | 第四十話「プレイヤーキラー、動く!」 | 793 | 0 | 2018-09-07 | - | |
68 | 第四十一話「闇を打ち砕け、遊太!」 | 859 | 0 | 2018-09-15 | - | |
104 | 第四十二話「ユニオンロボ&宇宙のヒーロー | 807 | 0 | 2018-09-29 | - | |
77 | 第四十三話「侵攻するワーム」 | 877 | 0 | 2018-10-06 | - | |
123 | 第四十四話「ヒーロー覚醒!?」 | 863 | 2 | 2018-10-14 | - | |
199 | 第四十五話「血の刻印」 | 1022 | 2 | 2018-10-27 | - | |
61 | 第四十六話「二つの竜」 | 769 | 2 | 2018-11-08 | - | |
156 | 第四十七話「共鳴、そして目醒め」 | 950 | 2 | 2018-11-19 | - | |
125 | 第四十八話「思わぬ敵」 | 866 | 2 | 2018-12-02 | - | |
86 | 第四十九話「救いと絶望」 | 830 | 0 | 2018-12-09 | - | |
137 | 第五十話「ロベルトを救う者」 | 894 | 0 | 2018-12-17 | - | |
122 | 第五十一話「決戦! 闇の王と遊太」 | 887 | 0 | 2019-01-17 | - | |
92 | 作者よりお知らせ | 785 | 0 | 2019-01-27 | - | |
70 | 第五十二話「突き抜ける意志」 | 722 | 0 | 2019-02-05 | - | |
85 | 第五十三話「神帝現る」 | 868 | 0 | 2019-02-12 | - | |
85 | 第五十四話「帝国の終焉」 | 741 | 0 | 2019-02-22 | - | |
105 | 特別編『超次元! 世界を越えた絆』1 | 935 | 0 | 2019-03-07 | - | |
131 | 特別編『超次元! 世界を越えた絆』2 | 827 | 0 | 2019-03-14 | - | |
80 | 特別編『超次元! 世界を越えた絆』3 | 844 | 0 | 2019-03-22 | - | |
70 | 第五十五話「休息の時」 | 745 | 0 | 2019-04-07 | - | |
70 | 第五十六話「彼女との再会」 | 694 | 0 | 2019-04-20 | - | |
90 | 第五十七話「マダムの危ない罠」 | 700 | 0 | 2019-05-01 | - | |
60 | 第五十八話「ストアブレーカー」 | 689 | 0 | 2019-05-19 | - | |
65 | 第五十九話「闇のカード」 | 778 | 0 | 2019-06-04 | - | |
99 | 第六十話「変わり始める生活」 | 737 | 0 | 2019-07-18 | - | |
55 | 第六十一話「ユイのデュエル」 | 663 | 0 | 2019-08-04 | - | |
66 | 作者よりお知らせ2 | 655 | 0 | 2019-08-11 | - | |
80 | 第六十二話「プラクサスの怪人」 | 667 | 0 | 2019-09-11 | - | |
55 | お詫びとお知らせ | 447 | 0 | 2020-02-19 | - | |
137 | 第六十三話「暴走! 怪人クロウリー」 | 664 | 0 | 2020-02-19 | - | |
68 | 特別編『ブルーアイズVSブルーアイズ』 | 750 | 0 | 2020-02-22 | - | |
74 | 第六十四話「闇に落ちる小鳥」 | 670 | 0 | 2020-03-22 | - | |
62 | 第六十五話「鳥人を食う邪竜」 | 621 | 0 | 2020-04-18 | - | |
77 | 第六十六話「ダークヒーロー!ヴェンデット | 592 | 0 | 2020-05-09 | - | |
74 | 第六十七話「堕ちたヒーロー」 | 610 | 0 | 2020-05-23 | - | |
65 | 第六十八話「視える未来(ビジョン)」 | 775 | 0 | 2020-05-30 | - | |
85 | 第六十九話「突入、アポカリプトのアジト」 | 696 | 0 | 2020-06-12 | - | |
53 | 第七十話「登場! 世界チャンピオン!」 | 633 | 0 | 2020-06-14 | - | |
51 | 第七十一話「デートじゃん!」 | 618 | 0 | 2020-06-27 | - | |
67 | 第七十二話「不死者は少年を好く」 | 709 | 0 | 2020-06-28 | - | |
56 | 第七十三話「最強デュエリストのいとこ」 | 606 | 0 | 2020-07-07 | - | |
63 | 第七十四話「D1グランプリ、開催決定!」 | 572 | 0 | 2020-07-13 | - | |
66 | 遊戯王EXS キャラ紹介その2 | 661 | 0 | 2020-07-13 | - | |
65 | 特別編「VSサイコ・ショッカー!?」 | 550 | 0 | 2020-07-26 | - | |
77 | 第七十五話「D1グランプリへの道しるべ」 | 629 | 0 | 2020-08-06 | - | |
48 | 第七十六話「不死と再生、イモータル」 | 579 | 0 | 2020-08-15 | - | |
47 | 第七十七話「雨が降れば蛙が鳴く」 | 505 | 0 | 2020-08-30 | - | |
57 | 第七十八話「噴火寸前のヴォルケーノ」 | 612 | 0 | 2020-09-13 | - | |
59 | 第七十九話「燃えろ遊太!」 | 531 | 0 | 2020-09-27 | - | |
85 | 作者よりお知らせ3 | 528 | 0 | 2020-10-02 | - | |
61 | 第八十話「燃えるデュエル!」 | 505 | 0 | 2020-10-18 | - | |
63 | 特別編「乙女の対決、ブラマジガール!」 | 625 | 0 | 2020-11-05 | - | |
59 | 第八十一話「高き壁」 | 575 | 0 | 2020-11-22 | - | |
63 | 第八十二話「強き者」 | 604 | 0 | 2020-12-05 | - | |
45 | 第八十三話「エキシビションマッチ」 | 571 | 0 | 2021-01-01 | - | |
65 | 第八十四話「二次予選開始!」 | 636 | 0 | 2021-01-11 | - | |
49 | 第八十五話「タッグメイクデュエル」 | 462 | 0 | 2021-02-20 | - | |
55 | 第八十六話「タッグメイクデュエル②」 | 429 | 0 | 2021-04-04 | - | |
57 | 第八十七話「タッグメイクデュエル③」 | 373 | 0 | 2021-04-25 | - | |
55 | 第八十八話「タッグメイクデュエル④」 | 494 | 0 | 2021-05-04 | - | |
42 | 第八十九話「チーム結成!」 | 453 | 0 | 2021-05-08 | - | |
50 | 第九十話「J4の実力 輝く竜の星」 | 382 | 0 | 2021-06-02 | - | |
48 | 第九十一話「超弩級のパワー」 | 497 | 0 | 2021-06-12 | - | |
60 | 第九十二話「空飛ぶケモノたち」 | 386 | 0 | 2021-07-08 | - | |
56 | 第九十三話「雷と未来」 | 372 | 0 | 2021-07-18 | - | |
57 | 第九十四話「大トリ、明石慎之介」 | 576 | 0 | 2021-09-04 | - | |
43 | 作者からお知らせ4 | 354 | 0 | 2021-09-17 | - | |
64 | 特別編「冥界の王(ファラオ)と決闘!?」 | 471 | 2 | 2021-10-17 | - | |
46 | 第九十五話「最終予選1 友達VS友達」 | 408 | 0 | 2021-12-18 | - | |
52 | 第九十六話「最終予選2 竜姫神と青眼」 | 406 | 0 | 2022-01-04 | - | |
56 | 第九十七話『最終予選3 約束のために』 | 499 | 0 | 2022-01-10 | - | |
51 | 第九十八話「最終予選4 VSJ4最強」 | 532 | 0 | 2022-02-01 | - | |
37 | 第九十九話「異変」 | 416 | 0 | 2022-02-27 | - | |
59 | 第百話「D1グランプリ、本戦開始!」 | 306 | 0 | 2022-04-09 | - | |
64 | 第百一話「プロの実力」 | 371 | 0 | 2022-05-07 | - | |
52 | 第百二話「デストーイ・デコレーション」 | 409 | 0 | 2022-06-04 | - | |
33 | 第百三話「アマゾネスの首領」 | 314 | 0 | 2022-07-10 | - | |
27 | 第百四話「プロ辞めます!」 | 306 | 0 | 2022-08-28 | - | |
26 | 第百五話「強襲! 梁山泊デュエル!」 | 265 | 0 | 2022-10-16 | - | |
34 | 第百六話「鉄屑と星屑」 | 463 | 0 | 2022-11-27 | - |
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