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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第七十二話「不死者は少年を好く」

第七十二話「不死者は少年を好く」 作:イクス

第七十二話「不死者(イモータル)は少年を好く」


いろいろとハチャメチャだったリトルバードとのデート? は、アオイとヒカリの二人が仕事で離脱したことによって、空中分解した。
最後に菊姫の乱入があったが、そんなことも軽くいなし、帰ってきた知多。
「あ~、今日はなんかすごかったじゃん。リトルバードの二人とデート……? して、そしたらみんな集まっちゃって、最後に菊姫が乱入してきたり……いろいろあったじゃん……」
「でも、あのアオイちゃんも、かなりのデュエルタクティクスだったじゃん……ついでに可愛いし。やっぱ、あの子俺好きじゃん……痛っ!」
アオイへの好意ともとれる発言をした瞬間、首筋に痛みを感じる知多。
「な、なんか……最近リトルバードの二人にかわいいとかそういうこと言うと、なんか首筋が痛むじゃん……。首の傷も、まだ治ってないし……塗り薬も効き目ないし……最近、なんか変じゃん……」
痛む首筋をさすりながら、ベッドに横たわる知多。
「そーいや、最初に首が痛くなった時は、帝国みたいな危機的状況だったじゃん。そしたら、首から血が出て……あのカードが……」
デッキケースからカードを取り出す。そのカードは、シンクロモンスターの『吸血竜-ノワール・ヴァンプドラゴン』であった。
「その時は、誰かの声がして……女の子の声だったかな? どこかで会ったような……っ!?」
その考えに至った時、背筋がゾクッとするような寒気に襲われる。どこからか、鋭い視線も感じる。
「なに、なにじゃん……? うあっ」
知多の目に、普通なら見えないものが見える。爬虫類のような細い瞳孔に、血のように紅い虹彩。普通なら、部屋に知多以外誰もいないのに。目を閉じても、はっきり見える。
「な、に……」
「私っていう女の子がいるのに、他の子にデレデレしちゃって……」
「え、え……?」
「あなたは私のモノ。首につけた傷跡がその証。だから、私以外になびくことなんて許さない。これから、それをあなたの心に刻みつけてあげるわ」
「え、え……?」
その言葉が聞こえた時、知多の意識は途切れた。


「ん、うう……?」
やっと意識を取り戻した知多だったが、そこは見慣れぬ場所。あたり一面に白い霧が立ちこめ、自分の周りしか見えない。
「ここ、ドコじゃん?」
「やっとお目覚めかしら? 知多君?」
「き、君は……」
霧の中より現れたのは、知多がよく知っている人物。金髪の長い髪、透き通るような白い肌、赤い瞳。この特徴を持つ人物は……。
「しぇ、シェリルちゃん!?」
「よかった。このまま目覚めないかと思ってたから」
白い霧に、白いドレスとつば広帽子、そして白い肌は霧と同化しよく見えない。
「あ、あの……ここはドコで、なんで俺はこんな所にいるじゃん?」
「ここは霧の大地。この土地は日中、常に深い霧が立ちこめ、太陽の光は一切届かない。霧が晴れるのは夜だけ。だから、人間はここを訪れないし、住処ともしない。だから、私たちイモータルはこの土地を気に入っている」
「い、イモータル……? この間、シェリルちゃんのお父さんが言ってた、不死者……? シェリルちゃんは、それなのかじゃん!?」
「そうよ。私はイモータル、普通の人間は私のことを吸血鬼とかヴァンパイアとか呼ぶわね。人の生き血を啜り、日の光に嫌われた者たち」
「そうだったのかじゃん……!? 道理で太陽アレルギーな訳じゃん……。そ、そんなことより! 俺はなんでここにいるじゃん!?」
「その説明は、私の城でするわ。私の両手をつかんで」
「……?」
「じゃあ、飛ぶわよ」
「!?」
シェリルのその言葉、背中から生えた巨大なコウモリの翼。イモータルというのは本当だった! 
「ちょ、ちょっと……!」
「手を離したら、落ちて死んじゃうわよ!」
「ああああ!」
シェリルと知多の体が、宙に浮かぶ。何もかもが真っ白の中飛ぶのは、非常に恐ろしく感じる知多。今どれぐらい高く飛んでいるのか、どこまで進んでいるのかわからないが、ともかく手を離したら命を失うことだけはわかっていた。
(イモータル、不死者……!? シェリルちゃんは、とんでもない女の子だったじゃん……)
そうしてたどり着いた、巨大な扉。やっと地に足がついてホッとしたのもつかの間、何もしていないのに勝手に扉が開く。
「え……」
「さ、入って」
背中の羽根をしまって、中に入るシェリル。知多も、少しびびりながら入る。
中に入れば、またしても勝手に着く火の明かり。赤い絨毯に大理石の手すり。そして石像やシャンデリアと、普通の金持ちでもまずやりそうにない装飾がしてあった。
「城……?」
「ここからは私と一緒に手をつなぎましょう? 迷ったりしたら、大変だもの」
「あ、うん……」
シェリルの手を握る。その手は、まるで氷のように冷たく、人肌の温度を感じなかった。
「……」
そうして、案内された一室。大きな部屋に、白いシーツがかけられた長い机。その机と、細かな細工をされた椅子。
「ちょっと時代がかっているのはごめんね。私たち、貴族趣味っていうか、懐古趣味だから……」
「あ、いいじゃん別に……」
椅子に座り、おいてあったベルを鳴らす。すると、どこからともなく黒い人型が現れた。
「紅茶とケーキを用意して」
黒い人型は、お辞儀をして消える。
「君の、その力は……」
「ええ、魔法とか暗黒物質の力よ。私たちは日の光に嫌われている代わりに、普通の人間には使えない力を持っているわ」
「ああ、そ……」
「とにかく、まずは私たちの説明をしないとね」
またいきなり現れた黒い人型。その手には、トレイに乗せられたティーポットとショートケーキ。それを置き、またしても消えた。
「私たちの概要は、すでにお父さんから聞いているわよね?」
「うん……ヴァンデミエールさんから聞いた、生きることを拒み、死ぬことを拒否した、特別な力でないと死なない生き物。それが、イモータル……」
「具体的には太陽の光とか、聖なる銀の刃とか、そんなトコね」
「十字架とか、白木の杭とかは?」
「ああアレ? あんなんじゃ私たちは死なないわよ。アレは私たちを嫌った教会や宗教家がこじつけでつけたヤツ。アイツら、人を襲うとか、人をグールに変えるとか、適当なことぬかしくさって……」
「そうじゃないの?」
「人は変えられない。人形とかはグールに変えられるけど、人の墓からはやらない。それに私たちは、人の血は飲むけど人を食ったりはしないわよ」
「しないの?」
「食べられるけど、女王様は人を食ってはいけないと言っているの。それに、契約した人間からしか血を飲んではいけないことになっているの」
「ふーん」
「でもね、例外もあるのよ」
「何?」
「あなたの首筋……遊園地に連れて行ってくれた時、私の牙でちょっとした印をつけたの。それは血の刻印。あなたは私のモノという証。知多君は私にとってお気に入り。だから、私は首に印をつけたの。あなたに悪い虫がつかないようにね。その人からは血を吸ってもいいことになってるの」
「いいのか……」
「ついでに、あなたの行動を逐一見ることもできるのよ」
「ああ……時々首が痛くなるのはシェリルちゃんのせいだったのかじゃん……」
「私がいるのに、あんな女の子にデレデレしてたから」
「せめて俺の意思確認をしてくれじゃん……」
「でも、私がいなかったら、あの時知多君やられてたわよ? 帝国の時」
「これが無かったら、やられてたかもしれなかったじゃん……」
懐から取り出した、ノワール・ヴァンプのカード。
「それは、私のカードよ。私の力によって、生み出されたカードみたいなものかしら」
「で……俺はこれから、君とずっと一緒にならなくちゃいけないのかじゃん?」
「ゆくゆくはね。けれど、その前にやってもらわなきゃいけないことがたくさんあるの」
「なーに?」
「帝国の一件、プラクサスにおいてのダークネスカード事件……もうすぐ、この世界を飲み込もうとする悪しきモノがやってくるのよ」
「ええ……!?」
「近々、世界を巻き込んだ大きな災いが起こるわ……それにより、この世界も奴らは飲み込もうとしている」
「な、なるほど……それで、俺に何をしてほしいのじゃん?」
「私たちを、イモータルに平穏な生活をこれからもさせて……」
「平穏な、生活……」
「私たちは、昔からこの霧の大地で人間から隠れながら住んできたの。一部の人間以外、誰からも恐れられ、忌み嫌われた不死の化け物。それに、私たちの血を利用しようとする人間もいっぱいいたしね……だから私たちは、人目につかないところで暮らすことにしたの。この霧の大地で、誰にも知られず、おとぎ話のような存在として語られるまで……」
「そんな、君たちは……」
「でも、あんな奴らが来たら、私たちはまた人目についてしまう。人間に、恐れられる……そして退治しようとかのたまう連中に、あることないこと勝手に言われて……そんなことが言われるのは、200年前で終わりにしてたのに……」
「200……? 君、一体いくつじゃん?」
「少なくとも、200年は生きているつもりよ?」
「え~……」
「でも、あなたは私の正体を知っても、こうして普通に接してくれてるわよね」
「だって、シェリルちゃんは良い子じゃん……僕は、知っているじゃん……」
「ありがとう……あなたのお仲間たちには、精霊とかいろいろいるけど、あなたには私たちがいる。いざとなったら、お姉様や妹たちに、お父様や女王様、他の子たちももいろいろ手伝ってくれるから、安心してね」
「ロールに、ヴァリンに、ネイル。それにヴァンデミエールさんも?」
「ヘル様もね……」
「ヘル……」
「まずはお手伝いの手始めとして、これを……」
懐から取り出され、机に置かれたのは、デュエルモンスターズのデッキ。
「これは……」
「私たちの力が込められたデッキよ。私たちの血が塗り込まれた命のカード。これであいつらとも対等にやりあえるんじゃない?」
「ひょっとして、このノワール・ヴァンプも……」
「ええ、私の血が入っているわよ?」
「愛が……愛が重いじゃん……」
「だからこそよ。私は、あなたを愛しているから……お願いね?」
「まあ、こうなった以上、仕方ないじゃん……とりあえず、結婚の心配とかはしなくて済んだじゃん……」
「うふふ。とりあえずは、私たちの思いを……頼むわね。知多君」
「あ、でも……俺、ここからどうやって帰れば良いじゃん?」
「大丈夫よ、あなたはすぐに帰れる。でも、忘れないで。あなたにはいつも、私がそばにいるってことを……」
その瞬間、またしても知多の意識はブラックアウトする。


そして、目が覚めた時には、自分の部屋に戻っていた。
「あっ、シェリルちゃん……なんかよく、わかんないけど……遊太たちが戦っていた相手は、シェリルちゃんたちにとっても悪しきモノなのか……」
机においてあるデッキを、再び見てみる。そのモンスターたちは、『イモータル』と名付けられていた。
「これで俺も、遊太たちと一緒になったってことかじゃん……? でも、いつもそばにいるって……ちょっとストーカーっぽいじゃん……」
「まあでも、任された以上やるしかないじゃん……!」


翌日。遊太たちは集まって知多の話を聞いていた。
「ということがあったじゃん」
「ウッソだろお前……化け物と一緒になってデッキを託されたってーのかよ」
「まあ、菊姫が信じられないのもわかるじゃん。俺だってまだ夢を見ているみたいな感覚じゃん」
「でもこれで、知多君も遊太君と同じような立ち位置に立つことができたってことですよね」
「僕と同じ、謎の軍勢と戦う準備はできたってことだね。精霊と同じ力……」
(うむ、理由はなんであろうと、我々の世界を襲った連中と戦うなら、協力してもらえるのはありがたい)
(そだね~)
遊太の『イクスロードナイト』や、真薄のグレイマターもうなずく。
「これで精霊持ちとイモータルの加護を受けたヤツが一緒にってことか……ということは、アタシもそんな奴らが現れたりするのか!?」
「いや~……菊姫は多分無いと思うじゃん……」
「なんでぇ!?」
「僕も多分、そう思う……」
「くっそー! そう言うなら、それらが無くてもアタシはお前らより上に行ってやるー!」
菊姫は意気込んでいるが、遊太は『イクスロードナイト』と話をする。
(にしても……そのシェリルちゃんが言ってた大いなる災いって、なんだろう……? 気になるね……)
(ああ、我々とて予測がつかぬ。だがしかし、何かよからぬことが起ころうとしているのはわかる。なら……行くしかあるまい)
(大丈夫。僕にはみんなもいるし、ロベルトさんや烏間さんもいる。それに……)
「何デスか? 遊太サン。それよりも、知多さんの話……何か恐ろしいデスね……」
(ユイの不思議な力……あんまり当てにする訳にはいかないけど、この力も……)


第七十二話。終わり。

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