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第七十四話「D1グランプリ、開催決定!」 作:イクス

第七十四話「D1グランプリ、開催決定!」


夏休みが本格的に始まり、プラクサスでの休みが始まろうとしていた。
しかし……。
「えっ、ロベルトさんが明日、プラクサスアリーナに来いって?」
「おー。なんでも、真薄や知多、カリンにアキラにもその話をしたって話だから、遊太にも伝えろってさ」
「そうは言っても菊姫……内容も告げずに来いって……なんかあるの?」
「さあ? わざわざ電話で話すんだから、なんかあるのは確かだろ。少なくとも、アタシら全員集めるんだから」
「あー、うん……わかった。じゃあ、明日ね」
電話を切り、自分の部屋に戻る遊太。その後をつけて、部屋に入るユイ。
「遊太サン、誰と電話してたのデスか……?」
「あー、菊姫と。なんでも明日、用事があるから来てくれってさ」
「アノ……ワタシも一緒について言っても良いデスか?」
「え? まあ別に良いけど、なんでまた急に?」
「いや、ちょっと……なんとなく、デス」
「なんとなく……ねえ。ま、良いんじゃない? ユイがついて行くぐらい許容範囲でしょ」
「は、ハイ!」
そう言って、部屋を出ようとするユイ。だったが、
「あ、あのさ……ユイ」
「ハイ、なんデスか?」
「あ、いや……ホント、なんとなくなんだけどさ……ユイって、ホントに記憶喪失なんだよね?」
「ハイ……今もこうして遊太サンのオタクにお世話になっているっていうのに、まだ全然記憶が戻らないンデス……それに、記憶が飛ぶ時もありマスし……」
(あの時、ダークネスカードの事件の時に見せた、厳かな言葉の時だな……)
「デモ、ワタシはこれデモかまわないと思ってマス! 皆サン、とても優しいデスし……デュエルも好きデスし……お父サンもお母サンも……」
「記憶……かあ」
遊太はユイと出会ってから、すでに一ヶ月が立とうとしていた。それなのに、ユイのことは全然知らないし、ユイも自分のことを全然知ろうともしない。
もし、自分の記憶が無かったら、自分は自分のことを知ろうと努力するだろうか? それほどまでに、自分のことは大事なのだろうか? そう思ったりもする。
ユイは、自分のことなどどうでも良いと言うのだろうか? 本当は、思い出したくないのか? 何か、記憶の奥底で感じているだろうか? 遊太は考えていた。
(でも、考えたってユイのことを調べられる訳でもないし……それは今じゃないのかな……)
「ユイ……」
「ワタシ……何かお気に触ることしちゃいマシたか?」
「大丈夫。それより明日だよね」
「ハイ……」


翌日。プラクサスアリーナに来た遊太たち。
「ここに来るのも久々だね~。前来たのは確か……ロベルトさんに言われて、大会に出ろって言われた時……」
「遊太サンにとっては、思い出深い所なのデスか?」
「いろんな意味でね。よーっす! みんな!」
「おー、来たか遊太。けれど……なんでユイまで来てるんだ?」
「えっ!? ワタシ、お邪魔だったデショウか?」
「いや、別にいーんだけどさ」
「むしろ、俺たちメンバーの中では唯一の紅一点じゃん? いないと華が無いじゃん?」
「僕らより圧倒的に年上ですからねえ……それに、きわどい服も着てますから」
「ハイ?」
小学生の中に混じる、大人の女性。黒髪に入った緑のメッシュ、胸元がはだけた革ジャケットとスパッツ。明らかに異質といえる女性。
傍から見れば、弟に付き合っている姉にしか見えないのだろう。
「ま、そんなことはどうでもいいさ。それよりも、今日はロベルトさんに言われて来たんだろ? 早く行こうぜ」
「そうッスよ! 今日はそれを目的に来たッスよね?」
「だぜー!」
「そうだね、中に入ろうか」
「ホッホー! ボクもお姉ちゃんと一緒だぞ!」
「コジロー君、この間菊姫にウソつかれたんじゃなかったけ? どうしてそんなに上機嫌なの?」
「うん、アメくれたんだぞ!」
「アメ……ね」
アリーナに入った遊太たち。そこには多くの人々がおり、大人子供、男女もなく入り乱れていた。床にも、観客席にもたくさんいた。しかし、ステージには人っ子一人いなかった。
「おー、人がいっぱいだな……」
「何があるっていうんでしょうか?」
「遊太サン……」
「何?」
「……いえ、何デモありマセン」
「……?」
そうして、突然会場のライトが落ちる。すると、ステージにスクリーンが展開され、ステージ脇からロベルト・フランシスが出てきた。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。ミナコ社のカードデザイナー、ロベルト・フランシスです。本日この場を借りて、皆さんにお伝えしたいことがあります。皆さん、スクリーンに注目してください」
すると、スクリーンに人が映った。その人は、遊太たちにとって見覚えのある人だった。四角眼鏡と黒のスーツ、その人は……! 
「あ、アレ、世界チャンピオンのオグマ・ナロクさんか!?」
「なんでですか!?」
「えー、皆さん。オグマ・ナロクです。今日は皆様デュエリストに対し、伝えたいことがあってこの映像を全世界に放映しております」
「全世界だって!?」
「日本でのことじゃねえのか!?」
「今や全世界で大人気となっているデュエルモンスターズ。私はそのプロであり、10年世界の頂点に立っていることは、デュエリストの皆さんは知っているでしょう。私は知りたくなった。真に強いデュエリストとは、何なのか? 何者なのか? そしてそれは、どこにいるのか? 私はただひたすらに、それが知りたい。だからこそ、私は企画した」


「明日より、全世界のデュエリストを対象とした大会『D1グランプリ』を開催の宣言をします!」


「オオオォォォッ!!!」
その言葉を聞いた途端、会場が熱気の渦に包まれた。無論、遊太たちも。
「すごい! 世界チャンピオンが協賛する大会だなんて……!」
「すげー! すげー!」
「おぉ……」
「なんたることじゃん!」
「ゆ、ユイも……これ……ゆ、ユイ……?」
遊太が隣にいるユイを見た時、ユイは周りの盛り上がりに対し、うつろな表情を浮かべていた。体は震えていた。
「皆の……盛り上がり、大会……」
「ユイ?」
そして、オグマは続ける。
「この大会の参加条件は、デュエリストであること。デュエリストであれば、プロやアマ関係なく参加することができる。男性女性、大人や子供、老人やお姉さんも関係なく参加できる。デュエリストであれば、この大会に参加できるのです。門戸は広く大きくがこの大会のモットーです」
「しかし、参加条件が緩い代わりに、本戦への出場は限りなく難しいです。仮に1万人参加したとしても、本戦に出場できるのは1パーセントにも満たないでしょう」
「1パーセント以下……!?」
「100人以下ですよ!?」
「この狭き門を勝ち取り、本戦のデュエルを勝ち抜き、頂点に立った人間は、たった1人! その頂点に立った人間には、私への挑戦権と、莫大な賞金、そして全世界のデュエリストの頂点として、永遠にその名が石碑に刻まれます!」
「すげえ! そんじょそこらでやってる大会とは全然違うじゃねーか!」
「明らかに規模が違いすぎるじゃん……!」
「なんか……なんかすごいんだぞ……!」
「私がなぜ、全てのデュエリストを対象としたのかというと、私が求めるデュエリストは、どこにいるかわからないからです。確かに、実力だけならプロの方が高いこともあるでしょう。しかし、そういった頂点の原石は、どこに埋まっているのかわからないものです。わたしはそんな奇跡も見てみたいのです。ですから、門戸は広くしました」
「全世界のデュエリストよ! 猛れ、高ぶれ! 荒ぶれ! そして、目指せ! 全世界の頂点を! 参加したいデュエリストは、ネットと近くのカードショップやゲームショップに、アクセスだ! 合言葉は、D1グランプリだ!」
スクリーンの映像は、それだけ言った後、ぷっつりと切れてしまった。
会場は、もうこれほどには無いくらい熱狂の渦に包まれていた。声が響く。天井に響き、窓に響き、扉にも響く。その震えが、ブルブルと遊太たちの足や腕に響く。まるで、地鳴りがしているのでは無いかと勘違いするほどに。後一歩で、地割れでも起きそうな程に。
菊姫たちや真薄たちも、もはや熱狂の渦にとらわれていた。
「おおおお!」
「じゃ~ん!」
「ですぅぅっ!」
しかし、この熱狂の中で一人雰囲気が違う人間がいた。
「楽しい、大会……みんな、デュエリスト……世界の全て……」
ユイはうわごとのように何かをつぶやいている。それを見て、遊太は心配している。
「ユイ? どうしたの?」
「空に……亀裂? みんなの、魂……? きゃああああ!」 
「どうしたの、ユイ!?」
突然、頭を抱えるユイ。遊太はそのユイに寄り添い、背中をさする。
「大丈夫?」
「何かが……見えマシた……ワタシの知らない、何か……」
「何が見えたの!?」
「人が、多くいマシた……でも、ここにいるような人たちではありませんデシた……異形デシた……」
「……?」
「皆サン、楽しんでいマシた……それなのに、空が割れて、その皆サンが……」
「皆さんがなんだって!?」
「……わかりマセン……でも、いきなり見えたコレはおそらく……ワタシの記憶デス!」
「記憶……!?」
「ワタシ……なんかわかりマシた……おそらくこの大会には、ワタシの記憶を取り戻す何かがあると、思いマス!」
よろよろと立ち上がりながら、決断する。
「ワタシも、この大会に出マス!」
「ええ~!?」
「なんだ、ユイもD1グランプリに出るのかよぉ~!」
「ライバルが一人、増えましたね……!」
「『ライバル・アライバル』じゃ~ん!」
「よっしゃあ! 燃えてきたぜ!」
「今度こそ、お姉ちゃんの最強伝説が始まるんだぞ!」
「と、とりあえず……僕もD1グランプリに出るけど、ユイ……君は一体……」
(前のダークネスカードの一件といい、君は一体何者なんだ? ユイ……!?)
(でも、今回のデュエルは、今までで一番楽しくなりそうかも……! 日本中、世界中のデュエリストが一堂に会するなんて……すっごい! 今までで最高のデュエル大会になりそうだよ!)
なんだかんだ遊太も、この大会を楽しみにしていたのであった。

そんなことがあった日の、深夜のとあるチャット部屋。フレンドのみで行われていた、ネット部屋での会話ログ。


41:「超弩級列車」

なあ聞いたか? D1グランプリの話。


42:「北の流星」

ええ、しかもその大会、出身や年齢、プロもアマも関係なく、デュエルの世界一を決める大会らしいですね……。


43:「空飛ぶケモノ」

し~か~もっ! あの世界チャンピオンオグマ・ナロクさんが協賛しているんだってね! 


44:「漆黒の天使」

なんやおもろいことなっとるなあ、あの子も参加するんかのう? 


45:「北の流星」

プラクサスシティにいきなり現れて、あのアキラを倒しただけではなく、決闘者の帝国も征したという、あの天才少年のことでしょうか? 


46:「漆黒の天使」

せやせや、いきなり現れてアキラを倒したっちゅー話や。友達もゆっとったわ、かなり強いんやで、あの子。


47:「超弩級列車」

あの大会が楽しみだな……。当然みんな出るんだろ? 


48:「空飛ぶケモノ」

もっちろん! あたしのデュエルみせてやるんだから! 


49:「北の流星」

威勢が良いですね。皆さんデュエルはお強いですし、いいとこまで行くでしょうね。


50:「超弩級列車」

プロも出るらしいから一概にはいえないが、俺たちなら大丈夫だろ? 


51:「漆黒の天使」

せやな。だってわいら、J4とか呼ばれとるしな。


第七十四話。終わり。

そして、第七十五話より、第四章『D1グランプリ』編 スタート! 
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