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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第二十九話「日傘の女の子」

第二十九話「日傘の女の子」 作:イクス

第二十九話「日傘の女の子」


遊太がアキラを破り、プラクサスシティのチャンピオンになって以降、遊太を倒して自分が新たなチャンピオンとなろうとする少年少女が後を絶たない。それにより、遊太はその大群に追いかけまわされていた。
そんな遊太を見かねて、友人の菊姫、知多、真薄は遊太に代わって、遊太を追いかけまわす連中と、ゲームショップ烏間でデュエルをしているのであった。
そして、先日200戦ものデュエルを行った結果。
「『ウィンドスター・ドラゴン』で、ダイレクトアタック!」
「『C・HERO ファイヤースワンプ』の効果を発動させます!」
「『古代の機械巨人』で、ダイレクトアタック!」
といった具合に、本日も遊太を追いかけまわす連中とのデュエルで忙しいのだった。
「ま、負けた……」
「よし、次は誰だい?」
「でも、例えあなたたちが全員束になっても」
「俺達には勝てないじゃーん!」
「ひ、ひえぇぇ……」
「こ、これが……遊太と対戦を望んだ200人もの挑戦者に、全て勝ったデュエリストの実力者!」
「バカ野郎逃げるぞ! 一回戦負けや二回戦負けにも勝てないのに、ベスト4に勝てる訳がない!」
といった具合に、性懲りもなく遊太に挑みに来た連中を返り討ちにし、ものの見事に追い払ったのであった。
「ハハハ! ベスト4に入ったアタシに勝てずして、なあにが打倒遊太だ! 笑わせんじゃねーやい!」
「しかし、昨日の200戦はきつかったじゃん? それこそ夢の中でもデュエルするくらいデュエルしてて……それが全員裁き切ったら、こんな具合じゃん?」
「意外と、この実力で遊太君に勝つつもりですか? と言いたくなるような人ばかりで……正直、アレを遊太君が相手にしたら、束になってかかってもワンキルされそうな感じがしますねえ」
「まあなんにせよ、これで少しは落ち着くんじゃねえか? アタシ達はチャンピオン遊太に仕える、三人の強力デュエリストとして、名を馳せて行くんだぜ!」
「でも、菊姫さんはいずれ遊太君もアキラも倒すんでしょう?」
「当たり前だ! アタシはベスト4で満足するタマじゃねえ。いずれアイツら2人も倒して、プラクサスの王者になってやる」
「菊姫って、意外と野心家じゃん? まあ、菊姫はそれくらいじゃないとつまらないじゃん」
そんな具合に、三人で駄弁りながら店長である烏間の所へと戻って来た。
「お疲れ様。昨日もそうだけど、あれだけの人数相手によく奮闘したわね」
「へへっ、やっぱり特訓したから、デュエルも強くなったじゃん?」
「僕も、菊姫さんも特訓の成果が出ていますよね」
「やっぱり、その辺の凡愚なデュエリストと違って、皆はちゃんと強くなっているわ。店長の意見だけどね」
「へへっ、照れるじゃん?」
「さて、この後どうしましょうか?」
真薄がそう言った時、ゲームショップのドアが開いた。
「あっ、いらっしゃあい」
「一体誰が来て……うわあ!?」
「どうしたんですか知多君?」
「あの子……凄く好みじゃん」
ゲームショップのドアから入って来た人は、全身を白のドレスを身に着けており、頭には白い花の飾りをつけたつばの広い白い帽子を被っている少女だった。そして、手には白い日傘を持っている。
「こんにちは、皆さん」
「こんにちは、今日は一体どんな御用で来たの?」
「なんでも、ここに来たらデュエルができると聞いたのだけど……」
「お? 挑戦者か? じゃあ、早速アタシが……」
「はいはいはーい! 俺がやるじゃ~ん! 俺が、君とデュエルするじゃ~ん!」
菊姫がデュエルをしようとした時に、知多がしゃしゃり出てきたのであった。その目は、何処か輝いている。
「あら、あなた? まあ、デュエルができるならなんでもいいわ」
「やろうじゃんやろうじゃん! デュエルしようじゃん!」
といった具合に、白き少女とデュエルデスクに向かって行く知多。すると、外から黒服の男性が大勢入って来た。
「あっ……」
「ちょっとちょっと、一体何事?」
「ゴメン、デュエルはまたの機会に!」
そう言い残し、少女は白い日傘をさして店の外へと出て行ったのであった。それを、黒服達は追いかけていく。
「え、何? 何だったの?」
「あの子……ひょっとして追われて――あっ、菊姫さん! 知多君がいません!」
「何!? まさか、あの子を追いかけて……」
困惑する烏間店長、真薄、菊姫を置いて、少女を追いかける知多。黒服を抜き去り、少女の隣に並ぶ。
「ねえ君、追われているのかじゃん?」
「え、ええ。ちょっとね……」
「だったら、俺が逃がしてやるじゃん? そしたら、デュエルしてくれる?」
「え、ええ良いわよ」
「じゃあ、こっちに来るじゃん!」
そう言って、白い手袋に包まれた手を引っ張って少女を連れて行く知多。その先は……。
「え、ここ……」
「プラクサスデパートじゃん!」
そこは、人でごった返すデパート。親子連れ、子供達、青年淑女、色んな人が来る場所だ。そこへ、迷わず入っていく知多と少女。
「あそこに入っていくぞ! 追え!」
そうして、デパートへと入って行った黒服達だが……。
「き、消えた……」
「ふ、二人は何処へ消えたのだ!?」
「さ、探せー! このデパートを隅々まで探せー!」
といった具合に、デパートの中にいるであろう二人を探すのであった。
しかし、知多と少女はというと。
「へへっ、作戦成功! 実は俺達、デパートの中を通り抜けて向こう側へと行っただけじゃん。それで、俺達を追いかけてきた奴らは俺達がデパートに隠れたと予想する。しかし、俺達はデパートには入っていない。アイツらはデパートを血眼になって探すだろうけど、そこに俺達はいないじゃん!」
「それは……凄いことね。ともかく、ありがとう」
「ま、よかったじゃん? あ、そうだ。名前聞いていなかったじゃん。君の名前は?」
「私? 私の名前は、シェリルと言うわ。よろしくね」
「シェ、シェリルちゃんかあ……あ、俺知多泉」
知多はシェリルをじっと見つめる。その白い衣装はもちろん、紅い瞳と対になるような、白い肌。そして、腰の辺りまで届く金髪と、時折その口から除く、尖った犬歯の八重歯。
その姿に、知多は見惚れていたのであった。
「じゃ、じゃあ。アイツらも追っ払ったし、デュエル……しようかじゃん?」
「その前に……ちょっと良い?」
「なな、何じゃん?」
「私……実はこのプラクサスシティに初めて来たの。それで、この町のことを知りたくて、のんびり観光したいなあと、思って……」
「なるほど……じゃあ、任せるじゃん! 俺が、このプラクサスシティを案内するじゃん!」
「本当? ありがとう! じゃあ、案内よろしくね。知多君」
「う、うん! わかったじゃん!」
そうして、知多とシェリルはハンバーガーショップに来ていたのであった。出されたハンバーガーに対し、シェリルは非常に悩んでいた。
「どうしたの? 食べないのかじゃん?」
「ねえ、これはどうやって食べるの?」
「え、両手で掴んで食べるんだよ……ははーん? さては、シェリルちゃんってファストフード食べた事無いじゃん?」
「……う、うん。ナイフとフォークは出ないのか、食べる時のマナーはどうしたら良いのか、悩んだの」
「心配するなじゃん。おもいきって、ガブっと!」
「……うん! ガブっと!」
その言葉と同時に、ハンバーガーを大口を開けて食べるシェリル。その時八重歯がキラリと光り、ケチャップが顔につく。それを見て、知多は思わず「似合っているなあ」と思ったのであった。
「……ふふっ、おいしい」
「顔にケチャップがついているじゃん? ほら、ふいてあげるじゃん」
そうして、食べた後はというと。
「さあ、次は何処へ行く?」
「よーし、ゲームセンターにでも行こうじゃん! お金を持って、ゲームをするじゃん。お小遣いが少ないから、長くは遊べないと思うけど……」
「あら、お金なら沢山あるわよ、ほら」
そう言って、財布を見せるシェリル。その中には、1万円札が大漁に入っていた。
「え!」
「さあ、行きましょう!」
と言って、知多を引っ張って外へと出る二人。シェリルはその時、日傘をさすのを忘れない。
そうして、ゲームセンターへとやって来た二人は、ゲームで楽しく遊んでいた。
「キャアーッ、ハハハ!」
「あちゃー、また負けちゃったじゃん」
といった具合に遊んでいたのだが、知多の内心はというと……。
(今遊んでいるのって、ほとんどシェリルちゃんのお金なんだよなあ……お金持ちのお嬢様に奢ってもらうなんて、ちょっとなんか……プライドが……)
「どうしたの? 知多君?」
「いや、なんでもないじゃん……」
そんな風に、知多がなんとなく悩みながらも、遊んでいたのであった。
そうして、ゲームセンターのゲームをあらかた遊びつくそうとした時、知多は切り出す。
「なあ、そろそろゲームも飽きてきたし、外へ行こうじゃん?」
「ええそうね、行きましょうか」
そうして、ゲームセンターからも出るシェリルと知多。外は、もう夕方であった。もちろん外に出る時、シェリルは日傘を欠かさない。
「ああ、もう夕方かあ……ゲームのやりすぎも、程々にしなきゃじゃん? あ、そうだ! この時間はあそこが気持ち良いんじゃん! ついてきて!」
「えっ、どこなの?」
「それは、来てのお楽しみじゃん?」
そうして、やって来た場所はただの公園であった。夕日がさす、遊具もそれなりにしかない、何の変哲も無い公園であった。でも。
「風が気持ちいいわね……」
「な? この時間のこのベンチには、凄く気持ちいい風が吹くんじゃん」
「……良い気持ち。知多君、私……今日凄く楽しかった。いつもとは違う時間を、世界を……体験させてもらったから」
「な、なんでそうなのじゃん?」
「……言うわね。私がずっと日傘をしている理由、実は私、太陽アレルギーという病気にかかっていて……日に当たると、焦げちゃう……」
「焦げる!?」
「ああ、言い過ぎた。焦げるんじゃなくて、赤くただれちゃうの。酷い時は、皮がむけて凄く痛い。というか、焼けるように痛い」
「そ、そうなのか……」
「だから、昼間は外に出れないし……出れたとしても、夜ぐらいにしか……」
「それに、私の家は貴族の家系で……勉強をしなければいけなくて、3年先まで予定が入っているような家なの……だからこんな日なんて、もう来ないんじゃないかと思って……」
「……シェリルちゃん」
「外にも簡単に出られないし、毎日勉強と瀟洒な人間になるためのレッスン……正直、抜け出したくなっちゃった……」
「そして、今思うの。楽しいことって、なんですぐ終わっちゃうんだろうって……こんな楽しい日が、もっと続いてくれたらいいなって……」
そうして、押し黙るシェリル。それを見て、知多はシェリルの肩に手を回して言う。
「楽しいことがすぐ終わっちゃうのはたぶん、次の楽しいことが起きるために終わっちゃうんじゃないかじゃん? だから……」
「……うん、わかった。そろそろ、デュエルしようか? 知多君」
「ほえ?」
「だーかーら、デュエルしようって言っているの。デュエル、しよっか。最初の目的だった、デュエル!」
「あ、ああ! デュエル、しようじゃん!」
そう言って、シェリルは知多と一緒にデュエルができる場所に行くのであった。


さっき行っていたゲームセンターに戻った、シェリルと知多。そして、デュエルデスクに向かい合う二人。
「さあ、やりましょうか!」
「ああ、やってやるじゃん!」
「「ルールはマスタールール3! ライフポイントは8000!」」
「「デュエル!」」


1・シェリルのターン

「先攻は私よ! 私は手札から、魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動! 手札から、モンスターカードを1体墓地へ送って、手札・デッキよりレベル1モンスターを特殊召喚するわ。私は手札から『ヴァンパイアの眷属』を墓地へ送って、デッキからレベル1モンスター『ヴァンパイアの使い魔』を特殊召喚!」(シェリル手札5→3)(シェリル墓地0→2)
特殊召喚されたのは、まるでコウモリのような何か。しかしそれは、どことなく不気味な姿をしている。
「特殊召喚された使い魔は、主人を呼び寄せるわ……使い魔が特殊召喚された時、500ポイントライフを支払うことで、デッキから『ヴァンパイア』モンスターを手札に加えられるわ。これにより、私はデッキから『ヴァンパイア・フロイライン』を手札に加えるわ」(シェリル手札3→4)(シェリルライフ8000→7500)
「そして私は、使い魔をリリースして、手札から『ヴァンパイア・グリムゾン』をアドバンス召喚!」(シェリル手札4→3)(シェリル墓地2→3)
使い魔が大勢のコウモリとなって現れたのは……巨大な鎌を持つ吸血鬼。攻撃力は2000程度だが、その口には大きな牙が見られる。
「そして私は、カードを1枚セットしてターンエンド」(シェリル手札3→2)

シェリル

ライフポイント7500
手札枚数2枚
モンスター1体
『ヴァンパイア・グリムゾン』(攻撃表示・攻撃力2000・レベル5・闇属性)
魔法・罠ゾーンのカード1枚
発動しているカード0枚
墓地の枚数3枚
除外されているカード0枚


2・知多のターン

「俺のターン、ドロー!」(知多手札5→6)
「俺は手札より、『ファイアスター・デルタ』を召喚! 効果発動、『ファイアスター・デルタ』は召喚された時、手札から炎属性・レベル4以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 俺は手札から、チューナーモンスター『ファイアスター・フィラ』を特殊召喚する!」(知多手札5→4)
「フィラのモンスター効果を発動。フィラはレベル3だが、1ターンに1度レベルを1上げるか1下げることができる。俺は、レベルを1上げる!」(ファイアスター・フィラレベル3→4)
「そして、レベル3のデルタに、レベル4となっているフィラをチューニング! シンクロ召喚! 現れろ、炎を纏いし紅炎の竜! レベル7『ファイアスター・ドラゴン』!」(知多墓地0→2)
炎の形を象った翼を持つ、紅きドラゴン! 攻撃力は2500だが、恐ろしい効果を持つ。
「ファイアスターの効果、発動! ファイアスターはシンクロ召喚された時、フィールドのカード1枚を破壊できる! さらに、シンクロ召喚に使用したモンスターが全て炎属性だった時、シンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数まで、追加で破壊できる! 俺は、グリムゾンを破壊し、その後伏せカードを破壊する!」
「なら、私は伏せカード発動! 罠カード『ヴァンパイア・アウェイク』! デッキから、ヴァンパイアを特殊召喚できるわ! 私はデッキより、『ヴァンパイアの眷属』を特殊召喚するわ。ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターは、破壊されてしまうの……」(シェリル墓地3→4)
「更に、グリムゾンの効果発動。自分のモンスターが戦闘・相手の効果で破壊される時、代わりに破壊されるモンスター×1000のライフを支払うことで、破壊を免れるわ」(シェリルライフ7500→6500)
「むむ……上手く破壊できなかったじゃん? でも、ファイアスターの効果発動。罠を自身の効果で破壊したため、効果で破壊された時ファイアスターの攻撃力分のダメージを、相手に与えられる!」
「じゃあ、私は眷属の効果を発動。眷属は特殊召喚された時、主人の魔力を増強するの。デッキより、『ヴァンパイア』魔法・罠を手札に加える。それにより、私はデッキから『ヴァンパイアの支配』を手札に加えるわ」(シェリル手札2→3)
「だけど、バトルはできるじゃん? 俺はファイアスターで、『ヴァンパイア・グリムゾン』を攻撃!」
(ファイアスターの攻撃力は2500、グリムゾンは攻撃力2000。破壊を防ぐには1000ライフを支払うことが必要! 破壊を免れるか、そのまま通すか!)
「甘いわね。攻撃宣言時、私は手札から『ヴァンパイア・フロイライン』の効果発動! このモンスターを特殊召喚するわ。表示形式は守備表示」(シェリル手札3→2)
攻撃宣言時と共に現れた、黒装束の日傘をさしたヴァンパイア。その姿には、影が無い……? 守備力は2000。
「いきなり何を……でも、グリムゾンへ攻撃!」
「その効果に、フロイラインの効果発動! 私のアンデット族が戦闘を行う時、ライフを3000まで支払うことで、ダメージ計算時まで払った分攻撃力・守備力が上がる! 私はライフを1000支払い、グリムゾンの攻撃力を1000アップさせるわ!」(シェリルライフ6500→5500)
「何! そんな効果が!?」
「フロイラインは、血を吸うことで仲間に力を与えるわ……グリムゾンは攻撃力が3000になって、返り討ちよ!」
グリムゾンの紅く鋭い鎌が、ファイアスターを破壊する! その差分のダメージが、知多を襲う。
「ぐうっ、やられた……だが、まだファイアスターがやられただけじゃん!」(知多ライフ8000→7500)(知多墓地2→3)
「ふふっ、知多君……これで終わったと思ったの?」
「えっ……」
『ヴァンパイア・グリムゾン』の瞳が、紅く光る。すると、墓地より『ファイアスター・ドラゴン』が起き上がり、シェリルの場に行ってしまう! 
「なにぃ! こ、これは!」
「そう、私の『ヴァンパイア』が戦闘で破壊したモンスターは、バトルフェイズ終了時に私の場に特殊召喚されるの。吸血鬼に血を吸われた者は、その眷属となるのよ……!」
「くぅ~……俺はリバースカードを2枚セットして、ターンエンド!」(知多手札4→2)(知多墓地3→2)
「このターンのエンドフェイズ、『ヴァンパイア・アウェイク』で特殊召喚された『ヴァンパイアの眷属』は破壊されるわ」(シェリル墓地4→5)

知多

ライフポイント7500
手札枚数2枚
モンスター0体
魔法・罠ゾーンのカード2枚
発動しているカード0枚
墓地の枚数2枚
除外されているカード0枚


3・シェリルのターン

「私のターン、ドロー!」(シェリル手札2→3)
「私は、フィールドの『ヴァンパイア・グリムゾン』をリリースすることで、墓地の『ヴァンパイアの使い魔』を特殊召喚するわ! 更に、使い魔は特殊召喚された時、デッキより主人である『ヴァンパイア』モンスターを手札に加えるわ。私が手札に加えるのは、レベル5の『ヴァンパイア・デューク』」(シェリル手札3→4)(シェリルライフ5500→5000)
「そして、使い魔をリリースして、手札から『ヴァンパイア・デューク』をアドバンス召喚! だけど、使い魔は自己再生した時、除外される」(シェリル手札4→3)(シェリル除外0→1)
今回現れたのは、漆黒のマントをはためかせた清廉なり男性の吸血鬼! 攻撃力は2000。
「そして、デュークのモンスター効果発動。デュークは召喚された時、墓地より同族を呼び起こすのよ……私は墓地よりレベル5のグリムゾンを、守備表示で特殊召喚するわ」(シェリル墓地5→4)
(これで、レベル5のモンスターが3体並んだ。ということは!)
「私はレベル5のデュークとグリムゾンで、エクシーズ召喚を行うわ! 現れなさい、深紅の月に照らされし、吸血騎士! ランク5『紅貴士ーヴァンパイア・ブラム』!」
現れ出たのは、漆黒の鎧を身に纏いし吸血騎士! 攻撃力は2500。
「フロイラインが攻撃力を上げる効果を発動できるのは、相手モンスターとの戦闘を行う時のみ……でも、相手のライフを削るのに、躊躇はいらないわ! それに、あなたのモンスターもこっちにいる。どっちに転んでも、私の損にはならないわ! 行くわよ、ヴァンパイア・ブラムで、ダイレクトアタック! スカーレット・ブラッド!」
剣が紅く光り、知多に襲い掛かる。しかし、知多は慌てず騒がず。
「罠カード、発動! 『業炎のバリア ―ファイヤー・フォースー』! 相手の攻撃宣言時、相手の攻撃表示モンスターを、全て破壊! 俺のファイアスターは、返してもらうぜ!」(知多墓地2→4)
「くっ、ブラムが……!」(シェリル墓地4→7)
「更に、ファイヤー・フォースは破壊したモンスターの攻撃力合計の半分のダメージを受ける……今破壊したのは両方2500の2体。合計は5000だから、半分の2500を、俺は受ける! だけど、その後俺が受けたライフ分、きっちりダメージを受けてもらうじゃん?」(知多ライフ7500→5000)
「くっ、ライフを払う効果が、ここでリスクになってくるなんて……!」(シェリルライフ5000→2500)
「へへっ、伏せカードには、ご用心じゃん?」
(でも、守備表示のフロイラインは残った。それに、まだライフは2400も払える。最悪、守備力を4400にして耐え凌ぐことも……できる。それに、手札のこのカードなら、追撃だって防げる!)
「私はカードを2枚セットして、ターンエンド!」(シェリル手札3→1)

シェリル

ライフポイント2500
手札枚数1枚
モンスター1体
『ヴァンパイア・フロイライン』(守備表示・守備力2000・レベル5・闇属性)
魔法・罠ゾーンのカード2枚
発動しているカード0枚
墓地の枚数7枚
除外されているカード1枚


4・知多のターン

「俺のターン、ドローじゃん!」(知多手札2→3)
「このスタンバイフェイズ、相手によって破壊されたヴァンパイア・ブラムは、墓地から守備表示で特殊召喚されるわ!」(シェリル墓地7→6)
墓場より、棺桶が現れたかと思えば、ブラムが中から再び現れる。しかし、守備表示なため守備力は0だ。
「やっぱり、ヴァンパイアはそんな簡単にくたばらないじゃん? でも、問題はないじゃん! 相手フィールドにのみ、モンスターが存在している時、手札から『ウィンドスター・ドラニィ』は特殊召喚できる!」(知多手札3→2)
「更に、ドラニィの効果発動! ドラニィは自身の効果で特殊召喚された時、デッキから『ウィンドスター』モンスターを特殊召喚できる! 俺はチューナーモンスター『ウィンドスター・トルネーディ』を特殊召喚する!」
「行くぜ! レベル3のドラニィと、レベル4のトルネーディをチューニング! シンクロ召喚! その疾風のごとき強さにより、風の速さで敵を討て! レベル7『ウィンドスター・ドラゴン』!」(知多墓地4→6)
今度現れたのは、流線形の如き体を持つ風を擬人化したようなドラゴン。攻撃力は2500。
「『ウィンドスター・ドラゴン』の効果、発動! フィールドのカードを1枚持ち主の手札に戻す! 更に、『ウィンドスター・ドラゴン』のシンクロ素材となったモンスターが全て風属性だった時、チューナー以外の数まで追加でバウンスできる! 俺は、お前のヴァンパイア・ブラムと伏せカードをバウンスする! ウィンドスターはバウンスしたカードによって効果を変える。モンスターだったらその攻撃力をウィンドスターに加え、魔法だったら、ウィンドスターの攻撃宣言時に相手が魔法・罠を発動できない。罠だったら、2回攻撃できる!」
「なるほど、ファイアスターと同じくモンスターをバウンスすることで、追加効果を得られるのね。でも、伏せカードを見逃しているわよ! 自分フィールドに『ヴァンパイア』がいる時、カウンター罠『ヴァンパイアの支配』を発動!」
「『ヴァンパイアの支配』!?」
「モンスター効果・魔法・罠が発動した時、その効果を無効にするわ! さらに、モンスター効果を無効にした時、そのモンスターの攻撃力分ライフポイントを回復するわ! ウィンドスターの効果を無効にして、破壊!」(シェリル墓地6→7)
「ぐ、ぐう~……」(知多墓地6→7)
「そして、ライフポイントをウィンドスターの攻撃力、2500を回復するわ」(シェリルライフ2500→5000)
(まさか、カウンター罠を伏せられていたとはな~……ただ、召喚そのものは無効にされてないから、まだ大丈夫だな)
「俺は手札から、装備魔法『リ・シンクロ』を発動! このカードは、800のライフポイントをコストに、自分の墓地からシンクロモンスターを特殊召喚できる。俺はファイアスターを特殊召喚する」(知多手札2→1)(知多墓地7→6)(知多ライフ5000→4200)
「そして、俺はファイアスターで、ヴァンパイア・ブラムを攻撃! これで破壊!」
「……フロイラインの効果は使わないわ」(シェリル墓地7→8)
「モンスターを1体、リバースでセット! これでターンエンド!」(知多手札1→0)

知多

ライフポイント4200
手札枚数0枚
モンスター2体
『ウィンドスター・ドラゴン』(攻撃表示・攻撃力2500・レベル7・風属性)
(裏守備表示)
魔法・罠ゾーンのカード2枚
発動しているカード1枚
『リ・シンクロ』(装備魔法)
墓地の枚数6枚
除外されているカード0枚


5・シェリルのターン

「私のターン、ドロー!」(シェリル手札1→2)
「このスタンバイフェイズ、ヴァンパイア・ブラムは守備表示で復活するわ!」(シェリル墓地8→7)
「そして、私は場から罠カード『ヴァンパイア・シフト』を発動! 私のフィールドゾーンにカードが無い時、デッキからフィールド魔法『ヴァンパイア帝国』を発動し、自分の墓地から『ヴァンパイア』を特殊召喚するわ! 私は墓地から、『ヴァンパイアの眷属』を特殊召喚するわ!」
シェリルのフィールドが、暗き闇の町となる。しかし、その町は紅き月が昇る、吸血鬼の町だった。
「な、なんか……なんか……なんか……?」
そのフィールドの中に、シェリルがいるのが違和感が無い。何故そんなに違和感が無いのか、知多にもわからない。
しかし、知多はこの時、良からぬことを考えてしまっていた。
「シェリルちゃん……なんか君……吸血鬼みたいじゃん……?」
そんなことも気にされず、シェリルはターンを進める。
「500ポイントライフを支払い、眷属の効果を発動させるわ。デッキより『ヴァンパイア』魔法・罠を手札に加える。私は魔法カード『ヴァンパイア・デザイア』を手札に加えるわ」(シェリルライフ5000→4500)(シェリル手札2→3)
「私は手札から、ヴァンパイア・ブラムをリリースして、レベル6『ヴァンパイア・スカージレット』を攻撃表示でアドバンス召喚!」(シェリル手札3→2)(シェリル墓地7→8)
アドバンス召喚によって、今度は正統派の吸血鬼が現れる。攻撃力は2200。
「スカージレットは、召喚・特殊召喚された時、ライフを1000支払うことで、自分の墓地から『ヴァンパイア』を特殊召喚できる。私は墓地から、『ヴァンパイア・デューク』を特殊召喚するわ」(シェリルライフ4500→3500)(シェリル墓地8→7)
「それにより、デュークのモンスター効果発動。デュークは特殊召喚された時、相手はデッキからモンスター・魔法・罠のどれか1枚を墓地へ送らなくてはいけないわ。さあ、捨ててちょうだい」
「モンスターカードの、『ダークスター・ドラン』を墓地へ送るじゃん?」(知多墓地6→7)
「それにより、フィールド魔法『ヴァンパイア帝国』の効果発動! 相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、相手フィールドのカードを破壊できるわ! コストとして、デッキよりレベル5『ヴァンパイア・ロード』を墓地へ送り、あなたの伏せ守備モンスターを破壊するわ!」(シェリル墓地7→8)
帝国の雷によって、伏せ守備モンスターは破壊されてしまう。そのモンスターは、闇のドラゴン? 
「くっ、防御を固めるつもりが……!」(知多墓地7→8)
「私は、手札より魔法カード『ヴァンパイア・デザイア』を発動! フィールドの『ヴァンパイア』モンスター、眷属を対象にして、効果が適用されるわ。デッキより、レベル6の『カース・オブ・ヴァンパイア』を墓地へ送り、眷属のレベルを6にするわ」(シェリル墓地8→10)
「また、レベルの同じモンスターが2体!」
「行くわよ、レベル6モンスター2体で、エクシーズ召喚! 人間と吸血鬼の狭間に生まれしダンピールよ、今一つの影となりて、現世にその命を蘇らせ! ランク6『交血鬼-ヴァンパイア・シェリダン』!」
コウモリの影が、束になって生まれたのは公爵然としたヴァンパイア! 攻撃力は2600と、並ではない。
「シェリダンの、モンスター効果発動! エクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールドのカードを、1枚墓地へ送る! 私が墓地へ送るのは当然、『ウィンドスター・ドラゴン』!」(シェリル墓地10→11)
深き影に宿るコウモリに連れ去られ、ウィンドスターは、墓地という深き闇に閉じ込められてしまった。
「モンスターが、いなくなった……!」(知多墓地8→9)
「そして、シェリダンは効果をもう一つ持つわ。フィールドのカードが戦闘で破壊、または効果で墓地へ送られた時、このカードのエクシーズ素材を取り除くことで、そのモンスターを特殊召喚できるわ! 素材を1つ取り除き、あなたの墓地へ送られた『ウィンドスター・ドラゴン』を、守備表示で特殊召喚するわ!」(シェリル墓地11→12)
コウモリ達の導きにより、墓地から黒き影を纏って『ウィンドスター・ドラゴン』が特殊召喚されてしまう。
「ま、マジか……!」(知多墓地9→8)
「これだけじゃないわ。手札より速攻魔法『スター・チェンジャー』を発動。これにより、フロイラインのレベルを1上げて、レベル6にする」(シェリル手札1→0)(シェリル墓地11→12)
「そして私は、ウィンドスターとフロイラインで、エクシーズ召喚を行うわ!」
「何!? エクシーズ召喚は、レベルが同じじゃないとエクシーズ召喚できないんじゃないのか!?」
「生憎、シェリダンは元々の持ち主が相手のモンスターを使う時、そのレベルを6として扱える! これにより、ランク6であるヴァンパイア・シェリダンを再び特殊召喚するわ!」
再び、コウモリの影から現れる吸血鬼。そして……。
「シェリダンのモンスター効果。エクシーズ素材を1つ取り除き、貴方のフィールドにある伏せカードを、墓地へ送ってもらうわ!」
「く、くそ……」(知多墓地8→9)
「どう? これで私の場には、あなたのモンスターと攻撃力を合わせて、総合攻撃力5200。これら全ての攻撃を受ければ……知多君、あなたは終わりよ」
「……くっ!」
「行くわよ、私はシェリダンで、ダイレクトアタック! 宵闇のエンド・ナイト! これで、お終いね
シェリダンのマントから、大量のコウモリが現れ、知多を襲う! まともに受ければ、このままゲームエンドとなってしまう、致死量の攻撃! 
しかし、知多は慌てず騒がず。
「墓地から罠カード、発動! 『光の護封霊剣』!」
「『光の護封霊剣』!?」
突如知多の場に現れた、光の剣が盾となって攻撃を防いだ。ダメージも0になる。
「このカードは墓地にある時、除外することで相手のダイレクトアタックを封じる効果をもっているじゃん? これで、ダイレクトアタックは無効じゃん?」(知多墓地9→8)(知多除外0→1)
「あちゃあ……仕留め損なっちゃったわね」
「さあ、次は何かあるのかじゃん?」
「……私はこれで、ターンエンド」

シェリル

ライフポイント3500
手札枚数1枚
モンスター2体
『交血鬼-ヴァンパイア・シェリダン』(攻撃表示・攻撃力2600・ランク6・闇属性)×2
魔法・罠ゾーンのカード0枚
発動しているカード1枚
『ヴァンパイア帝国』(フィールド魔法)
墓地の枚数12枚
除外されているカード1枚


6・知多のターン

「俺のターン、ドロー!」(知多手札0→1)
「……やった! シェリルちゃん、悪いけどこのデュエル、勝たせてもらうじゃん!」
「な、なんですって!?」
「俺は手札から、チューナーモンスター『ダークスター・ドライ』を召喚! モンスター効果、発動! 自分の墓地から、闇属性・ドラゴン族・レベル4以下のモンスターを特殊召喚する! 俺は墓地から、『ダークスター・ドラン』を特殊召喚する」(知多手札1→0)(知多墓地9→8)
「それじゃあ、いくぜえ! レベル4のドランに、レベル3のドライをチューニング! シンクロ召喚! 黒き竜よ、今こそ漆黒の深淵より飛び立て! レベル7『ダークスター・ドラゴン』!」(知多墓地8→10)
現れたのは、黒き竜。しかし、黒光りするその体は、まるで漆黒の星とでも言いたくなるような姿である。攻撃力は2500。
「『ダークスター・ドラゴン』、特殊効果発動! フィールドのカード1枚を除外する! さらに、シンクロ素材が全て闇属性だった時、チューナー以外のモンスターの数まで、追加で除外できる! 俺は、君のフィールドから1体目のシェリダンを除外する! さらに、その後フィールド魔法である『ヴァンパイア帝国』を除外する! ディメンション・ホール!」
「そ、そんな!」(シェリル除外0→2)
ダークスターが作り出したブラックホールによって、フィールドのカードは除外されてしまう。そして、『スター・ドラゴン』特有の効果が適用される! 
「ダークスターは、効果で除外したカードの種類によって、効果を得られる! 除外したカードがモンスターだった時、戦闘を行う時相手モンスターの攻撃力を0にできる。魔法だったら、戦闘を行う時攻撃力は1500上がる。罠だったら、貫通効果を得られる! 除外したのはモンスターと魔法! よって、戦闘を行うモンスターの攻撃力0と、攻撃対象モンスターの半分の攻撃力を得られる効果を得た!」
「そ、そんな……!」
「これで俺の勝ちだ! 『ダークスター・ドラゴン』で、ヴァンパイア・シェリダンを攻撃! 漆黒のエッジクロー! ダークスターの効果で、シェリダンの攻撃力は0。そして、ダークスターの攻撃力が1500上がるから……」
「4000の戦闘ダメージを、私は受ける……!」(シェリルライフ3500→0)
「その通り、これで、俺の勝ちじゃん!」


デュエルを終えた二人は、ゲームセンターの外に出る。すると、辺りはもう夜になっていた。
「あちゃ~、ちょっと楽しみすぎたじゃん? もう夜じゃん。ちょっと遊びすぎたみたいじゃん」
「良かった、日傘をささなくて」
「シェリルちゃん、今日は……楽しかった?」
「ええ、楽しかったわ。今まで一番。一日中遊んだし、デュエルもしたし……最高だったわ! そんな一日を楽しませてくれた知多君には、お礼をしなきゃね」
「お礼なんて……別に良いのに」
「いいの、しなきゃ私の気がすまないから。じゃあ、目を閉じて」
言われるがまま、目を閉じる知多。すると。
「いただきます」
その言葉と共に、ガリッという音が聞こえた。
「……!? !? !??」
「もう目を開けて良いわよ」
「え……」
「それじゃあね、知多君。また会ったら、よろしくね?」
シェリルの後ろに、馬車がやってくる。それに乗り込んで行ったシェリルは、そのまま去っていった。
「……」
知多は、ただただ立ち尽くすだけだった。その後、ボーっとしていたが、フラフラとした足取りで家へと帰って行った。

翌日。プラクサス小学校にて、菊姫が昨日のことを得意そうに語っていた。
「やっぱりこの間の200戦が効いたからなあ、これで遊太に挑もうなんて奴は、そうそう現れねーんじゃねえの?」
「凄いなあ、菊姫。大変だったのに、そこまでやってくれるなんて……」
「ぼ、僕も頑張ったんですよ、遊太君。それに、知多君も……!」
「そうだなあ、知多も随分頑張ってくれた……知多?」
知多は、ボーっとしたまま窓の外を見ている。その後声をかけても、反応が無いので。
「おい! 知多ァ!」
「あ、はい。な、何かじゃん?」
「おめーなー、昨日のことをお前ももうちっと語れよ。頑張ったんだぞ~って、言ってみろよ」
「あ、ゴメン。でも、あんまり覚えてないじゃん?」
「そうだよな~、お前デュエルした後、女の子を追いかけてどっか行っちまったものな~」
「その後、僕達は知りませんしね」
「あ、そう……でもなあ……今は、あの日傘の女の子、シェリルの事しか考えられないじゃん……」
「シェリル~? お前、いつのまにそんな仲良くなったんだよ?」
「……」
再び、知多がボーっとしてしまったことで、会話を止める菊姫。
「あー、駄目だこりゃ。完全にボーっとしてやがる」
「そのシェリルって子のこと、好きになったのかなあ?」
「いや、案外血が足りないだけかもしれねーぞ」
「そんなことないでしょう」
菊姫達がひそひそ話をして、知多はそのまま呆けている。
しかし、知多は気づいていなかった。彼の首筋には、何かを刺されたような傷跡がついていたことに……。


第二十九話。終わり。
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