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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第五十六話「彼女との再会」

第五十六話「彼女との再会」 作:イクス

第五十六話「彼女との再会」


帝国における優勝賞品として、莫大な賞金を得た遊太達は、観光地、サマーズにおける3泊4日旅行に来ていた。
菊姫、知多、真薄、カリン、菊姫の取り巻きといったいつもの面々、そこにロベルトと烏間を加えて、観光地を思いっきり楽しんでいる。
1日目、南の島における海を思いっきり楽しみ、夜は観光地の町を思いっきり楽しんだ。しかし、遊太はなんとこの観光地においてもデュエルを楽しんだ。
それを聞いた菊姫達はというと。
「なんだよ遊太、お前こんなとこ来てもデュエルすんのかよ!?」
「そうですよ遊太君、折角あんなにつらいデュエルを乗り越えて来れたんですから、ここに来たならそのことは一旦忘れて、楽しみましょうよ!」
「うん、そうなんだけど~……どうしても、やりたくなっちゃって!」
「全く、どんだけデュエルが好きなんじゃん?」
「うふふ、それも遊太君らしさだと思いますわ」
「ハハッ、そうだねえ~」
「そういうロベルトも……ね」


2日目。遊太達はホテルの玄関前に集合していた。
「よぉーし! 今日は……個人個人でサマーズを楽しむぞ~! 皆でサマーズを楽しもう!」
「おぉ~!」
「なるべく遅くならないうちに帰ってくるんだよ」
「危ないことには首を突っ込まないようにね」
菊姫のその言葉に対し、同調する遊太達。それを、快く送り出すロベルトと烏間。
町へと繰り出していく遊太達。それにより、各自バラバラになり町を探索することとなったのだが……。
「う~ん。俺が行く所って以外にも、あんまり無いじゃん?」
知多は、町の中央にある噴水に座っていた。以外にも、自分が行くような場所はないとわかっていた。
見渡せば、高級そうな宝石店や、ショッピングモール。酒場やバーといった、大人が行くような所ばかり。故に、自分のような子供が行けるような場所は、そう簡単になかった。
故に、こうして知多は噴水で暇を潰していたのであった。ジリジリと照りつける太陽に、額が汗を書く。
このままどうしようもなく1日を終えるのか? と思った時であった。
「あら……お久しぶりね。知多君」
「えっ……ああっ!?」
知多の目の前に現れたのは、白いドレスに身を包み、白い花のついた白のつば広帽子、そして白の日傘をさしている。そして、腰まで届く金髪と白い肌と対になるような紅い瞳と、鋭い八重歯が特徴的な、知多が以前会ったことのある女の子であった。
「シェリルちゃん!」
「プラクサスで会った時以来ね、知多君」
「シェリルちゃんも、太陽アレルギーなのにこんな太陽がカンカン照りの所に来て大丈夫なのかじゃん?」
「その辺は、まあ……日焼け止めクリーム塗っているから大丈夫っ」
「でも、こんな所に来るってことは、シェリルちゃんもやっぱりお金持ちなのかじゃん?」
「ええ、家はお城みたいに大きいし、召使いも沢山いるわ。それこそ、ウザイくらい……」
「ほえ~」
「あっ、そうだわ! 知多君は前に私にプラクサスの町を案内してくれたから、そのお礼として今日は私の泊まっている別荘を紹介してあげる!」
「え、別荘!? よかった~! 俺これからどこへ行こうか迷ってたから、とっても丁度良かったじゃん!」
「じゃあ、早速行きましょう!」
こうして知多は、シェリルに連れられ彼女の別荘へと行く事になった。


都市部より離れた、港町の船着き場。観光客よりも、漁師の方が多そうな場所である。そんな田舎の風景に、シェリルの格好はかなり浮いている。
「ほへ~、ここはここは……」
「えーと、どこかしら? あっ、いたいた! ちょっとー、渡し守さん!」
シェリルが見つけたたのは、サマーズは酷暑だというのに、全身フードで体を覆った、船の上にいる何者かであった。
「さて、この船ね……じゃ、行きましょうか」
「え、こんな船!?」
そのフードの何者かが乗っているのは、ボートのような木でできた船であり、どう見ても海に漕ぎ出すような船ではなかった。
「さあ乗って、行きましょう」
「え~? 大丈夫なの、コレ?」
「大丈夫、ちゃんと行けるから早く乗って」
「……わかったじゃん」
頼りなさそうな船に乗り、海へと漕ぎ出す。渡し守がオールで漕ぐ、ちょっとの波で転覆しそうな船で。
船の乗り心地は最悪であり、波による揺れが直に襲ってくる上に、サマーズの強い日差しが直に当たる為、船酔いしそうになるわ汗がダラダラ垂れてくるわで、知多は最悪の船旅であった。
「ううっ……」
しかし、シェリルは平然としていた。つばの広い帽子を被り、日傘を指してはいるが、白とはいえ全身を覆うドレスと、見るからに暑そうな格好をしているのに、汗一つかかず平然としている。
(なんでシェリルちゃん、こんな最悪な船旅なのに、そんなに平然としてられるの?)
知多の疑問は、深まっていくばかりであった。

しばらく船が海を進んでいると、島が見えてきた。見るからに小島といった島だが、その島に別荘らしき大きな屋敷があった。その家の前には、黒い服を着た人がいた。それも何人も。
「あ~、ついたついた。ここが別荘よ。さあ、上がって上がって」
船が砂浜に乗り上げ、船頭がシェリルの手を取り、砂浜におろす。知多もそれに続く。
そして、シェリルと共に屋敷の前に立つ。
「「「お帰りなさいませ、シェリル様!」」」
タキシードの黒い男達が、一斉にそう言う。その黒とは、黒人のような黒ではなく、実際に彼らは黒かった。漆黒の黒。
「……? シェリルちゃん、コイツら誰?」
「私の執事達。今日は私のお父様やお姉さま、妹も来ているから、紹介してあげるね。さあ、入って」
「うん……」
シェリルに続いて、屋敷の中へと入る知多。だが、入った瞬間、妙な感覚に襲われる。
「っ……!?」
首筋を通り抜けた、ヒヤリとした感覚。先程まで感じていた、暑さが一瞬で消える。まるで、外とは別の世界に入ってしまったかのように。
「ううっ、冷たっ」
寒いではなく、冷たい。クーラーが効いているような感じではなく、氷を直に触ったような感覚。明らかに、何かが違う。
だが、知多は特に気にする様子も見せず。
「外は暑かったけど、随分冷えているみたいじゃん?」
と、のんきに構えていた。
「うふふ、ありがとう。それじゃあ、お姉さまやお父様を呼んでくるから、イスに座って待っててね。ダークナー、知多君にサイダーを持って来てちょうだい。キンキンに冷えたものをね」
「了解」
タキシードの黒い執事は、どうやらダークナーという名前らしい。それくらいにしか知多は捉えていない。シェリルは、そのまま部屋の奥へと入って行った。
知多は高級なイスに座り、その冷えた感覚にそのままくつろいでいた。そして、出された氷入りのサイダーに舌鼓を打っていた。
「あ~、冷て……やっぱりお金持ちって、凄いじゃん? こんなにも暑いのに、冷たいなんてさ」
知多がそうしてくつろいでいると、ドアからシェリルが現れる。その後ろには、高級そうな服を着た二人の女性と、男性が現れた。その女性達の後ろには、ひょっこりと顔を出している少女がいた。
「あ、シェリルちゃんのお姉ちゃんにお父さん?」
「ええ、紹介するわ。お父様のヴェンデミエール、長女のヴァリンお姉さま、次女のネイルお姉さま、それとネイルお姉さまの後ろにいるのが、私の妹のロールよ」
「お母さんは?」
「実家よ」
「そう」
「さあさあ知多君、皆にご挨拶して」
「あ、うん……」
シェリルが横に退き、知多を家族の前に出す。知多はカチコチに固まりながらも、挨拶をする。
「えー……初めまして。知多泉と申しますじゃ……いや、申します。本日は、お友達のシェリルちゃんに連れて来られて、こちらまで来ました。えと、本日は……」
「ああ、良いんだよ。そんな硬くならなくとも。以前、シェリルがお世話になったそうだね。今日はそのお礼も兼ねて、いろいろしようじゃないか。よろしく」
白い手袋を外しながらその青白い手を伸ばす、シルクハットにタキシードのヴァンデミエール。その手を掴む知多。すると。
(ん……? なんか、ヴァンデミエールさん、手ぇ冷たい……)
ひやりとするヴァンデミエールの手。熱を帯びていない。シェリルと同じような手の冷たさ。
「へえ、この子がシェリルをね~……」
「ちょっと、この子そばかすが凄くキュートじゃない!? シェリルが気に入るだけのことはあるわ~、全く可愛い~! 食べちゃいたいくらい!」
「食べないで欲しいじゃ~ん……」
青いドレスを着た長女ヴァリンと、緑色のコートにモフモフ袖と黒いサングラスを身に着けた次女のネイル。ネイルは知多にほおずりし、ヴァリンは知多の頭をナデナデする。二人とも、肌が白く、赤い瞳をしている。
すると、ネイルの後ろから、紅毛の女の子、四女のロールが出てくる。彼女もまた、赤い瞳をしている。それも、体をすっぽり覆うような黒マントを羽織っている。
彼女は、ナデナデされている知多に対して顔を近づけると。チゥと口づけをした。
「……ほえ?」
「……今は、これだけ」
「おやおや、随分熱烈みたいね~」
「ええ~!?」
こうして、変わった姉妹や父親と共に、知多は一緒に遊ぶことになった。


「これは、ストレートで良いのかな?」
「あっちゃ~! 全く良い手が入っているわね~!」
「これで知多君3連続勝利ですわね~」
しばらくポーカーをして遊んだり……。
「このケーキ、どこのメーカーのじゃん?」
「内緒。少なくとも凄いお金持ちじゃないと買えない代物よ」
「じゃあこの紅茶も?」
「そうなのよ、高級品なのよ~」
ケーキや紅茶を食べたり……。
「皆その糸を紡ぎ、その糸紬の針はきっと永遠の眠りを誘うようで……」
「……」(こっくり)
「あらあら……」
ヴァンデミエールの読む詩集に、皆で聞き入ったり……。(知多は殆ど寝ていた)
そんなことをしていれば、時間はあっという間に過ぎていくものである。
知多がふと時計に眼をやると、時間はもう既にサマーズの夜の時刻を指していた。
「おっと……もう夜の時間じゃん? お楽しみの所悪いけど、もう皆の所に帰らなきゃいけないじゃん」
「え~もう? はこれからだっていうのに!」
「もうすぐ夜だからじゃん。じゃー……そろそろ」
「そうなの……残念ね」
あからさまに残念そうな顔をする四姉妹。それを見て、彼らの父ヴァンデミエールは、パンパンと手を叩いてお開きの合図をする。
「残念ながら、彼とはここまでだ。それじゃあ知多君。今回は私が送っていくよ」
「ああ、ありがとうございますじゃん」
席を立ち、ヴァンデミエールについていく知多。外に出ると、外はもう真っ暗であり、真っ黒に染まった向こう側が見えない。砂浜には、昼に来たはずの渡し守がまだいた。
「じゃあ、行こうか知多君」
「じゃん」
夜になり、ランタンが追加された船に乗ると、行きの時の揺れは殆ど無く、暗闇の中をただひたすら航海するような感じであった。
そんな航海を続けていると、突如ヴァンデミエールが話しかけてきた。
「ねえ、知多君……イモータルという言葉を聞いたことはあるかい?」
「イモータル? それって何じゃん?」
「伝説や都市伝説に伝わる、生きることを拒み、死ぬことを拒否した、特別な力でないと死なない生き物のことさ。不老不死や魔法、それに変身といった特殊な力も持つ、人ならざる者達……」
「その話を、なんで今ここでするじゃん?」
「ひょっとしたら、知多君はこれからそういった者たちに会うんじゃないかと思ってね……」
「ええ~? そんなことありえるのかじゃ~ん? 精霊でもあるまいし」
「けれど、そういったものに会うかもしれない程、君や君の友達が、何かを引き付けるのかもしれないよ?」
「??????」
ヴァンデミーエルのその話に、まったくもってついていけない知多。しかし、ヴァンデミエールは笑っていた。
そうして、サマーズへと戻ってきた知多とヴァンデミエール。
「じゃあね、知多君。また会ったら、シェリルをよろしく頼むよ。シェリルに気に入られた、血の刻印を持つ少年よ……」
「……?」
最後まで、ヴァンデミエールの話の意図がわからなかった知多であった。


屋敷に戻ってきたヴァンデミエール。四姉妹が部屋に戻っているが、シェリルだけが違う格好をしていた。先程の白いドレスではなく、黒いドレスを着ていた。
「シェリル、お前の可愛がっている少年は、中々見込みのあるようだな」
「ええ。あの子はいずれ、渦巻く戦いの中に身を置くことになるわ、お父様。それも、世界を巻き込むような大きな戦い……不干渉を貫く私達イモータルでも、とても無視できないようなもの……」
「そんな戦いをするであろう男の子に、血の刻印を与えちゃうなんて、シェリルってばだいたーん!」
「監視や手助けも兼ねてのソレなんでしょうけど……。全くやってくれるわね」
「ロール、さっきキスしたといっても、血の刻印がある以上、知多君は私のものなんだからね」
「……それでも良い」
「さて、そのうち彼とはまた会うことになりそうだ。イモータルとしての、私達でね」


第五十六話。終わり。
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