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幕間 もう一人の遊無 作:ジェム貯めナイト
「……ようやく着きましたね――」
梅雨明けまであと少しとなり、蒸し暑い季節が訪れた境界町では、遊陽と遊無が日吾からの誘いに乗り、久方ぶりに日が差した休日に日吾達が住む仮住まいへと訪れていた。
「海が一望できるいい場所を選んだな。サバスさん達……」
半袖のシャツに半ズボン姿の遊陽は、坂の上から海沿いの住宅地を見下ろし、続けて眼前に広がる海を眺めると、再び日吾への手土産を持つ遊無へと向き直る。
「……早く入りましょう。遊陽――」
ベージュのバケットハットを被り、涼しげなイエローのワンピースを着た遊無はムシムシとした暑さに息を切らし、頭の後ろで結んだ髪を左右に揺らしつつ、チラリと覗くうなじに汗を滲ませている。
2人はレンガ造りの外壁をした住宅の玄関に移動し、インターホンを鳴らすと中から足音が聞こえてくるとともに、どうぞ――。と玄関の鍵が開く。
「お……お邪魔します」
「ようこそお越しくださりました。那由他遊陽様に、刹那遊無様――」
真鍮製のハンドルを握り、小さな曇りガラスがはめられた木製のドアを開くと、二十代後半から三十代くらいのクラシックなメイド服に身を包む赤い髪色をした女性が、丁寧なお辞儀で2人を出迎えた。
「えっと……常盤日吾君と約束していた――」
「私(わたくし)は教会支部にてメイド長を務めております――モイラと申します。それでは日吾様の元までご案内致しましょう」
靴はそのままで――。と、モイラがその場で屈もうとする2人へと静かな口調で呼び掛けると、2人は姿勢を正し、そのまま彼女とともに長い廊下の奥へと進んでいく。
やがて廊下の左手側にある障子の部屋へと辿り着き、2人が靴箱に靴を収めて障子を開け放つと、部屋の中央で座禅を組む日吾が視界に入り、ビキニ型の水着の上にTシャツを羽織ったマノンが扇風機の前で涼んでいた。
「来たね――遊陽君に遊無さん」
「ああ――ところで、マノンは何故水着なんだ……?」
「だぁってー……今のヒノモト暑すぎでしょ。イル フェ テルモン ショー ク ジェ デュ マル ア ム コンサントレ(とても暑くて集中できないわ)」
日吾より足を崩して扇風機の前に座るマノンは、風を取り入れようとTシャツを捲り上げ、布面積が少なく胸の形がハッキリと分かる水着に遊陽と日吾が目を背ける中、パタパタと風を送ると再び畳の上へと寝転がる。
「遊陽と日吾さんの前で――はしたないから止めなさい」
「……それじゃ改めて。今日2人に来てもらったのは、もう一度“もう一人の遊無”さんに会って、直接話をする事……」
座禅を組んだまま、日吾が3人にも同じ姿勢を取るよう促すと、遊陽と遊無も日吾に倣い、マノンも再び起き上がって足を組み直す。
「僕は常盤家について、遊陽君は“遊壱”さんについて問いただすのだったね」
「……もう一人の遊無は、ヨリマシを俺の先祖だと考えているみたいだ。色々あって聞きそびれていた事を、今一度確かめたい」
「アタシはヒューゴを手伝ったら、グラス(アイス)買ってくれるって――」
「皆さんを受け入れるため、私は何をすればいい? 日吾さん」
遊無が目の前に座る日吾へと問いかけると、日吾は腕を広げ、真横に座る遊陽とマノンに自らと手を繋ぐよう促す。
「遊無さんは僕達を受け入れる時だけ、心を空にして定を保ち続ければいい。このヨーガで心身をリラックスさせ、僕の力で皆の精霊の力を操る事で、2人を遊無さんの心の奥まで送り届けてみせる」
4人は早速遊陽とマノンを遊無の精神世界へと向かわせるため、それぞれ手を繋ぎ目を閉じると日吾の指示通りに呼吸を整え、心を穏やかに保とうとする。
「それじゃ始めるよ? 息を吸って――吐いて――」
日吾の言葉通りに、4人は息を吸い、再び吐くことを繰り返す。
「マノンさん、もっと集中して――心の中で水の注がれた鉢をイメージして――そう、これだけ安定すれば――」
日吾が遊陽とマノンの手を強く握りしめ、自らの精霊の力を流し込むとともに、2人はその場にゆっくりと横たわり、意識を遊無の精神世界へと旅立たせる。
――ここは……?
再び目を開けた遊陽は、光がわずかに差し込む海中のような場所の中で、足元から登って来た気泡が頭上へと上がっていくのを眺める。
――ユーヒ?
遊陽より少し離れた場所にいたマノンも不思議そうにあたりを見回す中、上から何者かが2人のいる世界へと着水し、目の前まで沈んでくる。
――“こちら”ではお初にお目にかかる――。
――えっと、貴方は……?
マノンの元まで泳ぐように腕と足を動かし移動した遊陽は、目の前に現れた藍色の袈裟を纏い、剃った頭と眉間には白毫を付けた若い僧侶へと問いかける。
――2人とも、聞こえているか……?
――日吾! ここが遊無の精神世界なのか……?
頭上から響く声に遊陽が問いかけると、波打つ海面から再び日吾の声が返って来た。
――そうだ。そして彼は精神世界でのムチャリンダの姿――僕はその姿を藍(あい)と呼んでいる――。
――其方達が無事に帰れるよう、拙僧が日吾に代わり、もう一人の遊無様の元までお連れする――。
――そーなの? じゃあアイちゃん、早速もう一人のユームのとこまで案内しちゃって……!
マノンからの要請にうむ――。と藍は頷くと、自らの後を付いてくるよう2人に伝えて逆さまになり、遊無の心の奥へと沈んでいく。
――決して悪い意味ではないが、遊無様の心は日吾に比べ、淀みが大きい――。
――それは、遊無が抱える遊明の力が関係しているからか?
バタ足で藍の後を追いかける遊陽が藍へと聞き返すと、左様――。と藍は泳ぎ続けながら返答する。
――定の境地に住まう拙僧には分かる。器となり永き時を生きるにつれ、遊無様の魂は消耗しておられたと――。
遊無の心の奥へと深く潜るにつれ、周囲には燻る炎が浮かび上がり、徐々にその勢いを増していく。
触れてはいけぬ――。と藍は元の白いコブラの姿へと戻り、2人の身体を七回巻いて降りかかる火の粉から2人の身を守ろうとする。
――なんとなくだけど伝わるよ。これはもう一人のユームが受けた苦しみだって――。
――燃え盛る炎……神社の時と同じだ――あれは――。
やがて周囲の炎が消えさり、遊陽が指差した先に薄っすらと光が灯ると、2人は手と足を動かし、遊無の精神世界の最深部へと向かう。
微かな光の下へ近付くとともに、その中に立つ人物――狩衣と袴を身に纏い、搗色の髪を頭の後ろで結んた“彼女”は、ゆっくりと2人の元へと歩み寄って来た。
――来たか。遊陽、そして遊明の息子の力与えられし娘――。
――遊無と……同じ顔――。
無造作に伸ばした前髪の奥に、血色の瞳を覗かせる遊無と同じ顔をした彼女は泳いできた2人の腕を掴むと、2人はバランスを取り、体を起こしてその場に立つ。
――っとと、もう一人の遊無! お前に聞きたいことがある――。
――承知している。吾儕らを送り出した常盤の子孫も、吾に問いたいのであろう――。
もう一人の遊無は上を見上げ、待機する藍と3人が潜って来た海面を眺めると、再び遊陽へと向き直った。
――お前はヨリマシを俺の先祖だと言った。それは何故――。
――遊壱は、吾にとって初めての友――この精霊の力によって常盤の者を含め、恐れられていた吾が、遊壱を介してこの町に受け入れられたのだ――。
自らの手のひらを見つめ、握り拳を作ったもう一人の遊無は、2人に背を向け再び水面を見上げる。
――吾の大切な友……遊壱には、身に降りかかる災厄を退けるべく、吾が精霊の力で掛けた加護がある。あの狐達を見るに、その力は生まれ変わっても健在だと与えた力が伝わって来た事から確信したのだ――。
――オー モン デュー……(驚いた) そんなに永いこと精霊の力が持つなんて――。
――遊壱もお前も、当の昔に滅んだはずなのに……その力は一体――。
再び振り返ったもう一人の遊無は視線を下げ、吾は――。と手を広げ指折り数えると、再び顔を上げて遊陽とマノンを見据える。
――吾は歴史上、同率2番目だと遊明は言った。稀に精霊世界からの影響を強く受け、精霊の力を宿し生まれた者の中でも、2番目に強い力を宿す人間――。
――もう一人の遊無と同等、更には上の奴が――。
――吾と同格の者――吾儕らもよく知る現代まで精霊の力を受け継ぎし一族、常盤家の始まりの者。そして最も強く精霊世界からの影響を受け、唯一自力で精霊世界へと辿り着けたのが、遊明の妻にして吾儕が崇める者の母――マリア――。
もう一人の遊無は両手を前に突き出すと、彼女が発した精霊の力が突き出した手の間で渦巻いて、光の向こうに元の世界で仰向けに倒れた2人と、目を閉じて壁に寄りかかる遊無が映された。
――最後に常盤家だが、吾は常盤家の者に避けられてた故、子孫が求める情報は持ち合わせていない――。
――それは、日吾の家が残している歴史の通りだと――。
――だが吾も常盤家に身を置いた以上、多少なりとその名は記されている筈。力を制御しきれずにいた吾に、精霊の力の扱いを教授してくださった当主様には、少なからず感謝している――。
再びもう一人の遊無は遊陽とマノンの腕を掴み、現実世界へと通じる目の前の光の中へと押し込むと、次第に離れていくもう一人の遊無の姿を名残惜しそうに眺めながら、2人は遊無の精神世界から消滅するのであった。
「……うっ――」
「お帰り、遊陽――」
目を覚ました2人が身を起こすと、先に目覚めていた遊無が湯呑を持ち、モイラが運んできた煎茶をすする姿を目に映す。
「俺達、戻って来たのか」
「ああ――ムチャリンダも無事脱出したよ」
遊無の側で手土産に持って来た果物のゼリーを食べていた日吾の姿も目に映すと、自分達も一息付こうと遊陽は机に置かれた急須に手を伸ばし、マノンと自身の湯呑に茶を注ぐ。
「メルシッ……まさかもう一人のユームがアタシ達精霊の力を持つ人の中でも、イーサお爺ちゃんのママンに次ぐ程だったなんて……」
「僕の力も、常盤家の初代当主から延々と受け継がれていた物だったのか」
「俺の先祖でもう一人の遊無の友――遊壱はヨリマシへと生まれ変わり、今も俺の側にいる――」
デッキを取り出した遊陽は、カードの中からヨリマシのカードを取り出し眺めると、改めて精神世界での出来事を振り返る。
「……交流期間が終わったら、一度常盤の本家に戻ってみるよ」
もう一人の遊無の痕跡を調べ上げる。日吾が決意を固め今後の方針を決定すると、遊陽と遊無は2人とモイラに見送られ、すっかり日の傾いた境界町を歩いて自宅を目指す。
遊無の精神世界で再びもう一人の遊無と相まみえた遊陽達。明らかとなった数々の情報を2人は頭の中で反芻し、これからの事について思考を巡らせるのであった。
「俺達が送る――」
『ビナリウス回顧録!』
遊陽「日吾から流れてきた力――あれが常盤の一族が宿す精霊の力か」
マノン「グラース ア ヴォートル キャシェ エスプリ ヌ ザリヴォン ア エル エ
スプリ(彼の秘めた力のおかげで、彼女の精神へと到着します)」
日吾「こっちからの制御で、何とか無事に成功したね。……それにしても、もう一人の遊無さんや常盤の初代当主を上回る力の持ち主――マリアさんが、イーサ教会の力の源だったのか」
遊無「常盤のご先祖様と同じく受け継がれた力――どちらも平和のため利用されてよかった」
遊陽「ヨリマシの出所と秘めた力――現代まで続く精霊の力の始まりの者達について明かされたところで、次回もまたまた幕間となる」
マノン「ユーヒとユームがデッキを強化して、アタシ達守護霊の防人は仲間を助けるため、突入作戦を敢行するよーっ!」
『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -幕間 闘諍の予兆-』
日吾「日常はある日突然、悪意ある者達に脅かされる。そしてその先兵はすでに、僕達の日常に介在していた。次回、物語は転機を迎える――」
梅雨明けまであと少しとなり、蒸し暑い季節が訪れた境界町では、遊陽と遊無が日吾からの誘いに乗り、久方ぶりに日が差した休日に日吾達が住む仮住まいへと訪れていた。
「海が一望できるいい場所を選んだな。サバスさん達……」
半袖のシャツに半ズボン姿の遊陽は、坂の上から海沿いの住宅地を見下ろし、続けて眼前に広がる海を眺めると、再び日吾への手土産を持つ遊無へと向き直る。
「……早く入りましょう。遊陽――」
ベージュのバケットハットを被り、涼しげなイエローのワンピースを着た遊無はムシムシとした暑さに息を切らし、頭の後ろで結んだ髪を左右に揺らしつつ、チラリと覗くうなじに汗を滲ませている。
2人はレンガ造りの外壁をした住宅の玄関に移動し、インターホンを鳴らすと中から足音が聞こえてくるとともに、どうぞ――。と玄関の鍵が開く。
「お……お邪魔します」
「ようこそお越しくださりました。那由他遊陽様に、刹那遊無様――」
真鍮製のハンドルを握り、小さな曇りガラスがはめられた木製のドアを開くと、二十代後半から三十代くらいのクラシックなメイド服に身を包む赤い髪色をした女性が、丁寧なお辞儀で2人を出迎えた。
「えっと……常盤日吾君と約束していた――」
「私(わたくし)は教会支部にてメイド長を務めております――モイラと申します。それでは日吾様の元までご案内致しましょう」
靴はそのままで――。と、モイラがその場で屈もうとする2人へと静かな口調で呼び掛けると、2人は姿勢を正し、そのまま彼女とともに長い廊下の奥へと進んでいく。
やがて廊下の左手側にある障子の部屋へと辿り着き、2人が靴箱に靴を収めて障子を開け放つと、部屋の中央で座禅を組む日吾が視界に入り、ビキニ型の水着の上にTシャツを羽織ったマノンが扇風機の前で涼んでいた。
「来たね――遊陽君に遊無さん」
「ああ――ところで、マノンは何故水着なんだ……?」
「だぁってー……今のヒノモト暑すぎでしょ。イル フェ テルモン ショー ク ジェ デュ マル ア ム コンサントレ(とても暑くて集中できないわ)」
日吾より足を崩して扇風機の前に座るマノンは、風を取り入れようとTシャツを捲り上げ、布面積が少なく胸の形がハッキリと分かる水着に遊陽と日吾が目を背ける中、パタパタと風を送ると再び畳の上へと寝転がる。
「遊陽と日吾さんの前で――はしたないから止めなさい」
「……それじゃ改めて。今日2人に来てもらったのは、もう一度“もう一人の遊無”さんに会って、直接話をする事……」
座禅を組んだまま、日吾が3人にも同じ姿勢を取るよう促すと、遊陽と遊無も日吾に倣い、マノンも再び起き上がって足を組み直す。
「僕は常盤家について、遊陽君は“遊壱”さんについて問いただすのだったね」
「……もう一人の遊無は、ヨリマシを俺の先祖だと考えているみたいだ。色々あって聞きそびれていた事を、今一度確かめたい」
「アタシはヒューゴを手伝ったら、グラス(アイス)買ってくれるって――」
「皆さんを受け入れるため、私は何をすればいい? 日吾さん」
遊無が目の前に座る日吾へと問いかけると、日吾は腕を広げ、真横に座る遊陽とマノンに自らと手を繋ぐよう促す。
「遊無さんは僕達を受け入れる時だけ、心を空にして定を保ち続ければいい。このヨーガで心身をリラックスさせ、僕の力で皆の精霊の力を操る事で、2人を遊無さんの心の奥まで送り届けてみせる」
4人は早速遊陽とマノンを遊無の精神世界へと向かわせるため、それぞれ手を繋ぎ目を閉じると日吾の指示通りに呼吸を整え、心を穏やかに保とうとする。
「それじゃ始めるよ? 息を吸って――吐いて――」
日吾の言葉通りに、4人は息を吸い、再び吐くことを繰り返す。
「マノンさん、もっと集中して――心の中で水の注がれた鉢をイメージして――そう、これだけ安定すれば――」
日吾が遊陽とマノンの手を強く握りしめ、自らの精霊の力を流し込むとともに、2人はその場にゆっくりと横たわり、意識を遊無の精神世界へと旅立たせる。
――ここは……?
再び目を開けた遊陽は、光がわずかに差し込む海中のような場所の中で、足元から登って来た気泡が頭上へと上がっていくのを眺める。
――ユーヒ?
遊陽より少し離れた場所にいたマノンも不思議そうにあたりを見回す中、上から何者かが2人のいる世界へと着水し、目の前まで沈んでくる。
――“こちら”ではお初にお目にかかる――。
――えっと、貴方は……?
マノンの元まで泳ぐように腕と足を動かし移動した遊陽は、目の前に現れた藍色の袈裟を纏い、剃った頭と眉間には白毫を付けた若い僧侶へと問いかける。
――2人とも、聞こえているか……?
――日吾! ここが遊無の精神世界なのか……?
頭上から響く声に遊陽が問いかけると、波打つ海面から再び日吾の声が返って来た。
――そうだ。そして彼は精神世界でのムチャリンダの姿――僕はその姿を藍(あい)と呼んでいる――。
――其方達が無事に帰れるよう、拙僧が日吾に代わり、もう一人の遊無様の元までお連れする――。
――そーなの? じゃあアイちゃん、早速もう一人のユームのとこまで案内しちゃって……!
マノンからの要請にうむ――。と藍は頷くと、自らの後を付いてくるよう2人に伝えて逆さまになり、遊無の心の奥へと沈んでいく。
――決して悪い意味ではないが、遊無様の心は日吾に比べ、淀みが大きい――。
――それは、遊無が抱える遊明の力が関係しているからか?
バタ足で藍の後を追いかける遊陽が藍へと聞き返すと、左様――。と藍は泳ぎ続けながら返答する。
――定の境地に住まう拙僧には分かる。器となり永き時を生きるにつれ、遊無様の魂は消耗しておられたと――。
遊無の心の奥へと深く潜るにつれ、周囲には燻る炎が浮かび上がり、徐々にその勢いを増していく。
触れてはいけぬ――。と藍は元の白いコブラの姿へと戻り、2人の身体を七回巻いて降りかかる火の粉から2人の身を守ろうとする。
――なんとなくだけど伝わるよ。これはもう一人のユームが受けた苦しみだって――。
――燃え盛る炎……神社の時と同じだ――あれは――。
やがて周囲の炎が消えさり、遊陽が指差した先に薄っすらと光が灯ると、2人は手と足を動かし、遊無の精神世界の最深部へと向かう。
微かな光の下へ近付くとともに、その中に立つ人物――狩衣と袴を身に纏い、搗色の髪を頭の後ろで結んた“彼女”は、ゆっくりと2人の元へと歩み寄って来た。
――来たか。遊陽、そして遊明の息子の力与えられし娘――。
――遊無と……同じ顔――。
無造作に伸ばした前髪の奥に、血色の瞳を覗かせる遊無と同じ顔をした彼女は泳いできた2人の腕を掴むと、2人はバランスを取り、体を起こしてその場に立つ。
――っとと、もう一人の遊無! お前に聞きたいことがある――。
――承知している。吾儕らを送り出した常盤の子孫も、吾に問いたいのであろう――。
もう一人の遊無は上を見上げ、待機する藍と3人が潜って来た海面を眺めると、再び遊陽へと向き直った。
――お前はヨリマシを俺の先祖だと言った。それは何故――。
――遊壱は、吾にとって初めての友――この精霊の力によって常盤の者を含め、恐れられていた吾が、遊壱を介してこの町に受け入れられたのだ――。
自らの手のひらを見つめ、握り拳を作ったもう一人の遊無は、2人に背を向け再び水面を見上げる。
――吾の大切な友……遊壱には、身に降りかかる災厄を退けるべく、吾が精霊の力で掛けた加護がある。あの狐達を見るに、その力は生まれ変わっても健在だと与えた力が伝わって来た事から確信したのだ――。
――オー モン デュー……(驚いた) そんなに永いこと精霊の力が持つなんて――。
――遊壱もお前も、当の昔に滅んだはずなのに……その力は一体――。
再び振り返ったもう一人の遊無は視線を下げ、吾は――。と手を広げ指折り数えると、再び顔を上げて遊陽とマノンを見据える。
――吾は歴史上、同率2番目だと遊明は言った。稀に精霊世界からの影響を強く受け、精霊の力を宿し生まれた者の中でも、2番目に強い力を宿す人間――。
――もう一人の遊無と同等、更には上の奴が――。
――吾と同格の者――吾儕らもよく知る現代まで精霊の力を受け継ぎし一族、常盤家の始まりの者。そして最も強く精霊世界からの影響を受け、唯一自力で精霊世界へと辿り着けたのが、遊明の妻にして吾儕が崇める者の母――マリア――。
もう一人の遊無は両手を前に突き出すと、彼女が発した精霊の力が突き出した手の間で渦巻いて、光の向こうに元の世界で仰向けに倒れた2人と、目を閉じて壁に寄りかかる遊無が映された。
――最後に常盤家だが、吾は常盤家の者に避けられてた故、子孫が求める情報は持ち合わせていない――。
――それは、日吾の家が残している歴史の通りだと――。
――だが吾も常盤家に身を置いた以上、多少なりとその名は記されている筈。力を制御しきれずにいた吾に、精霊の力の扱いを教授してくださった当主様には、少なからず感謝している――。
再びもう一人の遊無は遊陽とマノンの腕を掴み、現実世界へと通じる目の前の光の中へと押し込むと、次第に離れていくもう一人の遊無の姿を名残惜しそうに眺めながら、2人は遊無の精神世界から消滅するのであった。
「……うっ――」
「お帰り、遊陽――」
目を覚ました2人が身を起こすと、先に目覚めていた遊無が湯呑を持ち、モイラが運んできた煎茶をすする姿を目に映す。
「俺達、戻って来たのか」
「ああ――ムチャリンダも無事脱出したよ」
遊無の側で手土産に持って来た果物のゼリーを食べていた日吾の姿も目に映すと、自分達も一息付こうと遊陽は机に置かれた急須に手を伸ばし、マノンと自身の湯呑に茶を注ぐ。
「メルシッ……まさかもう一人のユームがアタシ達精霊の力を持つ人の中でも、イーサお爺ちゃんのママンに次ぐ程だったなんて……」
「僕の力も、常盤家の初代当主から延々と受け継がれていた物だったのか」
「俺の先祖でもう一人の遊無の友――遊壱はヨリマシへと生まれ変わり、今も俺の側にいる――」
デッキを取り出した遊陽は、カードの中からヨリマシのカードを取り出し眺めると、改めて精神世界での出来事を振り返る。
「……交流期間が終わったら、一度常盤の本家に戻ってみるよ」
もう一人の遊無の痕跡を調べ上げる。日吾が決意を固め今後の方針を決定すると、遊陽と遊無は2人とモイラに見送られ、すっかり日の傾いた境界町を歩いて自宅を目指す。
遊無の精神世界で再びもう一人の遊無と相まみえた遊陽達。明らかとなった数々の情報を2人は頭の中で反芻し、これからの事について思考を巡らせるのであった。
「俺達が送る――」
『ビナリウス回顧録!』
遊陽「日吾から流れてきた力――あれが常盤の一族が宿す精霊の力か」
マノン「グラース ア ヴォートル キャシェ エスプリ ヌ ザリヴォン ア エル エ
スプリ(彼の秘めた力のおかげで、彼女の精神へと到着します)」
日吾「こっちからの制御で、何とか無事に成功したね。……それにしても、もう一人の遊無さんや常盤の初代当主を上回る力の持ち主――マリアさんが、イーサ教会の力の源だったのか」
遊無「常盤のご先祖様と同じく受け継がれた力――どちらも平和のため利用されてよかった」
遊陽「ヨリマシの出所と秘めた力――現代まで続く精霊の力の始まりの者達について明かされたところで、次回もまたまた幕間となる」
マノン「ユーヒとユームがデッキを強化して、アタシ達守護霊の防人は仲間を助けるため、突入作戦を敢行するよーっ!」
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日吾「日常はある日突然、悪意ある者達に脅かされる。そしてその先兵はすでに、僕達の日常に介在していた。次回、物語は転機を迎える――」
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55 | 12Turn 特別への自覚 | 382 | 0 | 2022-12-10 | - | |
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57 | 幕間 遊無 落第の瀬戸際 | 419 | 1 | 2022-12-24 | - | |
51 | 15Turn 供養と円寂の儀 | 462 | 0 | 2023-01-14 | - | |
69 | 16Turn 石の塔が崩れる時 | 352 | 0 | 2023-01-27 | - | |
52 | 17Turn 盤上のアーティスト | 484 | 0 | 2023-02-12 | - | |
45 | 18Turn 夜空に咲く“賑やか”なる華 | 435 | 0 | 2023-02-21 | - | |
54 | 19Turn タッグデュエル大会 開幕! | 522 | 0 | 2023-03-09 | - | |
40 | 20Turn ウフトカビラ&サギラ | 428 | 1 | 2023-03-15 | - | |
50 | 21Turn 岡と浪花 花よりたい焼き | 358 | 0 | 2023-03-21 | - | |
60 | 22Turn 徹頭徹尾の覚悟 | 451 | 1 | 2023-03-24 | - | |
45 | 23Turn ビナリウス対バウンティフル | 384 | 0 | 2023-04-12 | - | |
43 | 24Turn 決着と新たな予兆 | 366 | 1 | 2023-04-13 | - | |
58 | 今までの話が丸分かり! 第一章のあらすじ | 427 | 0 | 2023-04-14 | - | |
42 | 25Turn 異国からの訪問者 | 364 | 0 | 2023-05-26 | - | |
33 | 26Turn 天上の採火 | 252 | 0 | 2023-06-02 | - | |
45 | 幕間 3人の交流生 | 338 | 0 | 2023-06-04 | - | |
72 | 27Turn 魘夢の魔族 | 326 | 0 | 2023-06-10 | - | |
40 | 28Turn 羅漢の竜王 | 282 | 0 | 2023-06-21 | - | |
43 | 29Turn 聖夜のマノン | 354 | 0 | 2023-06-25 | - | |
38 | 幕間 もう一人の遊無 | 297 | 2 | 2023-06-28 | - | |
41 | 第二章 キャラクター紹介 | 335 | 1 | 2023-07-01 | - | |
67 | 幕間 闘諍の予兆 | 362 | 0 | 2023-07-06 | - | |
36 | 30Turn 狂課金(ミダース) | 283 | 0 | 2023-07-10 | - | |
64 | 31Turn 舞い上がる不死鳥の輪舞 | 418 | 0 | 2023-07-14 | - | |
52 | 32Turn 巻き上げる関捩 | 341 | 1 | 2023-07-17 | - | |
46 | 33Turn 夢に堕ちる仲間 | 396 | 0 | 2023-07-22 | - | |
37 | 34Turn 友を取り戻せ! | 294 | 0 | 2023-07-30 | - | |
33 | 35Turn 堕ちた雷と涙雨の天河 | 322 | 0 | 2023-08-03 | - | |
34 | 36Turn 伝えたい言葉 | 308 | 1 | 2023-08-11 | - | |
31 | 37Turn 夢を喰らう獏 | 257 | 0 | 2023-08-26 | - | |
31 | 38Turn 深淵のトモカヅキ | 244 | 0 | 2023-09-03 | - | |
85 | 39Turn 最遠のパズズ | 336 | 0 | 2023-09-11 | - | |
27 | 40Turn 所縁が結ぶ絆 | 235 | 0 | 2023-09-18 | - | |
26 | 41Turn 活火激発の鍛人(かぬち) | 244 | 0 | 2023-09-22 | - | |
27 | 42Turn 巣林一枝のブルーバード | 189 | 0 | 2023-09-23 | - | |
32 | 今までの話が丸分かり! 第二章のあらすじ | 291 | 1 | 2023-09-24 | - | |
28 | 43Turn 次の関係(ステップ)へ | 259 | 0 | 2023-10-20 | - | |
33 | 44Turn 竜の駒 大洋を統べる | 323 | 0 | 2023-10-22 | - | |
38 | 45Turn マグナ ヌメンへの往訪 | 234 | 0 | 2023-10-26 | - | |
31 | 46Turn 跳躍-精霊世界へ | 241 | 0 | 2023-10-29 | - | |
45 | 幕間 強化訓練と異界の住人 | 291 | 0 | 2023-11-02 | - | |
39 | 47Turn 精霊世界 マースの森で | 231 | 0 | 2023-11-05 | - | |
35 | 祝一周年! 今後の展望など | 298 | 0 | 2023-11-11 | - | |
29 | 48Turn 精霊長アラウン | 188 | 0 | 2023-11-15 | - | |
31 | 第三章 キャラクター紹介 | 245 | 1 | 2023-11-16 | - | |
43 | 49Turn 下される審判 | 278 | 0 | 2023-11-20 | - | |
23 | 50Turn 猟犬従えし灰の王 | 241 | 0 | 2023-11-28 | - | |
31 | 幕間 精霊世界の平生 | 302 | 0 | 2023-12-07 | - | |
24 | 51Turn 最善の選択 | 208 | 0 | 2023-12-18 | - | |
28 | 52Turn 立ちはだかる使者達 | 244 | 0 | 2023-12-28 | - | |
27 | 53Turn 怨嗟積り秘号と成す | 218 | 0 | 2023-12-30 | - | |
29 | 54Turn 遊明の力 | 230 | 0 | 2024-01-02 | - | |
27 | 今までの話が丸分かり! 第三章のあらすじ | 278 | 0 | 2024-01-03 | - | |
13 | お久しぶりです。 | 75 | 0 | 2024-11-10 | - | |
5 | お知らせ。 | 50 | 0 | 2024-11-20 | - |
更新情報 - NEW -
- 2024/11/23 新商品 TERMINAL WORLD 2 カードリスト追加。
- 11/23 17:30 評価 10点 《ブラック・ガーデン》「 もはや悪用される為に存在するまであ…
- 11/23 16:59 デッキ トマホークべエルゼftk
- 11/23 14:54 デッキ リチュア
- 11/23 14:42 評価 6点 《狂戦士の魂》「総合評価:《ダーク・ドリアード》を使えばダメー…
- 11/23 13:56 評価 9点 《融合派兵》「融合素材に指定されているモンスターをリクルートす…
- 11/23 13:17 評価 9点 《BF-隠れ蓑のスチーム》「総合評価:トークン生成、自己再生ど…
- 11/23 11:06 デッキ 影霊衣教導
- 11/23 10:04 評価 9点 《PSYフレームギア・δ》「あらゆる魔法カードの発動を無効にし…
- 11/23 09:52 評価 6点 《ジェムナイトレディ・ローズ・ダイヤ》「《天使族》を素材に求む…
- 11/23 04:10 評価 9点 《交響魔人マエストローク》「破壊耐性を付与できる《No.12 機…
- 11/23 02:50 評価 6点 《ハネクリボー LV10》「「ハネクリボー」重視のデッキを作っ…
- 11/23 02:44 掲示板 オリカコンテスト投票所
- 11/23 02:43 評価 7点 《ハネクリボー》「個人としては天使族の中で思いつきやすいカード…
- 11/23 02:40 評価 8点 《混沌の戦士 カオス・ソルジャー》「カオス・ソルジャーデッキや…
- 11/23 02:38 評価 10点 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》「当時はかなりお世話にな…
- 11/23 02:08 掲示板 過度な荒らしに対する削除依頼板
- 11/23 01:41 掲示板 オリカコンテスト投票所
- 11/23 00:26 評価 8点 《BF-突風のオロシ》「総合評価:《黒い旋風》でサーチしてから…
- 11/23 00:10 掲示板 オリカコンテスト投票所
- 11/22 23:56 評価 7点 《CNo.73 激瀧瀑神アビス・スープラ》「総合評価:《ドレイク…
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まずは5000回覧おめでとうございます!
多くの方が、ジェム貯めナイトさんの作品を面白いと思っている証左だと思います!
精神世界にもう一人の遊無と色々と謎が深まっていく展開は見どころがありますね!
謎めいた展開はワクワクします!
それにしても、水着姿のマノンさんは最高ですね!
胸の形が分かる水着を着ていたのがとってもセクシーで魅力的です!
次回も楽しみにしています!応援しています!
質問ですが、マノンさんのスリーサイズやカップ数はいくつくらいでしょうか?
後、もし良かったらマノンさんへのパイタッチが見てみたいです! (2023-06-30 10:53)
この先の新展開を目前に5000に到達したので、その記念とこれまで回覧なさってくださった方達へのお礼を今回述べさせて頂きました。
次は10000を目指してより面白い作品に仕上げたいと思います。
質問ですが、マノンさんのスリーサイズやカップ数はいくつくらいでしょうか?
男の人っていつもそうですね……!(ry
作中の女性キャラは、マノン→玉藻前=経香先生→留音→八千代=歩→ → → → →超えられない壁→ → → → →遊無=千夜=織姫→一嘉 ぐらいかな?(G~A)
日吾の妹(11~2)と同格の3人ぇ…… (2023-06-30 20:59)