74　薄氷　作：Ales

　「《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》で《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブラック・ボディ》を攻撃！’’ファイナル・グロリアス・ブライト’’！！」


《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》　ATK：3500　　ATK：2500　《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブラック・ボディ》


遊貴　LP：8000　→　7000


　「っ……！」

　ダメージ自体は大したものではないが、カード・アドバンテージの面ではかなりの痛手である。《ブラック・ホール》の効果を止めるために手札に１枚しかなかった「メタフィジカ」モンスターを使用してしまった上に、盤面制圧型のブラック・ボディも除去されてしまった。効果によりオーバーレイ・ユニットの残量を気にすることなく制圧できる竜であるが、１ターンに１度しか使用できないのも欠点である。

　（そう考えると……やっぱり、中盤以降に出すのがいいのかな……）

　相手のリソースがあるうちは、除去されても仕方ない。そう割り切れればいいのだが、なかなか上手く割り切れぬものである。

　「えっと、フィールドを離れた《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブラック・ボディ》の効果発動、デッキ・エクストラデッキ・墓地から「メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン」モンスター１体を、召喚条件を無視して特殊召喚します。デッキから《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》を特殊召喚します。」
　「むむっ……ダメージは回避されましたか……」
　「まあ、それもですけど……《幻栄の光》の効果、デッキから「メタフィジカ」モンスターが特殊召喚されたので、デッキまたは墓地から「メタフィジカ」モンスター１体を特殊召喚できます。《メタフィジカ・ドラゴン－ニクス》を特殊召喚して効果発動、デッキから《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》を手札に加えます。」
　「え？何それは……何で戦闘破壊したらモンスターが増えているんですか？」

　確かにブラック・ボディはフィールドを離れた時にモンスターを特殊召喚する効果を持っているし、その効果をトリガーに《幻栄の光》を発動できる。だが、１体倒したらモンスターが２体になっているというのは、些か気分の悪い話である。

　「ま、まあ、とにかく、メイン２に入ります。カードを１枚セットしてターンエンド。ターン終了時にアルティメット・ファルコンの効果発動、遊貴さんのフィールド上のモンスターの攻撃力は1000ダウンします。」


《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》　ATK：1600　→　600
《メタフィジカ・ドラゴン－ニクス》ATK：1600　→　600


　「むぅ……」

　かつてナポレオン・ボナパルトは「兵力とは質×量の２乗」と言ったが、これは質の方が低下していくことを前提として立てた式だ。つまり今この展開のように、質を不変のものとすると完全に嘘になる。攻撃力3500の《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》は攻撃力100のモンスターをいくら並べても打ち破れないし、逆に言えば《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》もまた、攻撃力3500以上のモンスターでなければ倒されない。

　（お前、またつまらんことを考えているのか……）

　さて軍略の小論を頭の中で展開していたところ、ソピアの声が聞こえた。

　（あ、お帰り……）
　（ああ、一応の調べは付いた。で、お前は何を馬鹿なことを考えているんだ？）

　ソピアの声で、少し冷静になった。そう言えば今まで、集中力が散漫になっていた。

　（むぅ……あの先輩、余計なことを…………）
　（敵の心理攻撃に惑わされるとは、まだまだだな。で、どう攻略するかは決まっているのか？）

　「カードの効果を受けない」モンスターであれば、やることはひとつしかない。

　（正面突破、かな。やっぱり。）

　どういう訳か、瞬間火力でも「メタフィジカ」は他のデッキに引けを取らないのである。



3rd.Turn
　TP：遊貴


遊貴　LP：7000　D：28　H：4　G：8　Ex：12
　F：《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》《メタフィジカ・ドラゴン－ニクス》
　　《幻栄の光》
利香　LP：8000　D：32　H：3　G：1　Ex：12
　F：《ＲＲ－アルティメット・ファルコン（ORU：1）》《ＲＲ－フォース・ストリクス（ORU：1）》
　　《ＲＲ－ネスト》《セットカード》


　「私のターン、ドロー。」

　ドローしたカードをちらりと見て、遊貴は暫し、目を閉じる。

　「スタンバイ、メインフェイズ。まずは手札から２枚目の《ハーフ・ライト》を発動します。デッキまたは墓地から、攻撃力・守備力・レベルを半分にしたチューナーとして、「メタフィジカ」モンスターを特殊召喚します。私が選択するのは《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－イエロー・ボディ》です。」

　目を開けて、《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》対策の手を実行する。



　《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》軸の【ＲＲ】の場合、如何に《ＲＲ－アルティメット・ファルコン》の制圧力を活かせるかが鍵となる。アルティメット・ファルコン自体のエクシーズ召喚は難しくないものの、打点を超えられた場合の対策、或いは越えられないための対策。そうやってこの強力なモンスターを維持し続け、相手へのデバフ、あわよくばバーンダメージで優位に立つのが基本となる。

　「イエロー・ボディの特殊召喚に成功したので、《幻栄の光》の効果を発動。デッキから《メタフィジカ・ドラゴン－プルヴィア》を特殊召喚します。更に手札から《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》を召喚、「メタフィジカ」の召喚に成功したことにより、墓地の《メタフィジカ・ドラゴン－グラシエス》の効果を発動、レベル2のチューナーとして特殊召喚します。」

　瞬く間に、遊貴のフィールドは幻竜達で埋め尽くされた。





---





　「んー、これだけ並ぶと壮観ねぇ。」

　不戦勝となった試合を終え、丁度見える位置までたどり着いた螢華が、呟いた。

　（チューナーが２体、そして蘇生制限を満たしていない儀式モンスターと攻守０のモンスター……どうするつもりなのかしら。）

　反魂竜もまた、同じように呟く。「メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン」モンスターが２体いるものの、１体は《ハーフ・ライト》の効果でレベルが半減しているため、今はレベル３のチューナーとなっている。レベル４の「メタフィジカ」モンスターが２体いるものの、肝心の《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブラック・ボディ》は墓地にいるため、エクシーズ召喚できない。



　「どうもちぐはぐですね……《メタフィジカ・ドラゴン－イグニス》で攻略するものとばかり思っていましたが、他の方法でもあるのですか？」



　対戦相手－遠山利香は、確か同学年だったか。さわやかでありながらエネルギーに満ち溢れた、螢華とは対極の存在である。

　「仔猫ちゃん、面白い布陣ね……」

　そう言いながら、観客席の手近な場所に陣取り、ハンドバッグの中からタブレットを取り出し、スリープを解除した。数秒の後、白い指でアイコンをタップする。



　デュエルフィールドと連動したこのアプリは、デュエルアカデミアジャパンの独自技術である。デュエルフィールドに立つデュエリストのデュエルディスクと連携し、そのカード情報を読み取る。タブレットやスマートフォンのアプリと連動し、ＬＡＮの範囲内であれば誰もがそのフィールド情報をカード詳細と共に見られるのだ。また、履歴から過去のデュエルも見ることが出来る。これを利用してデッキのブラッシュアップや対策を練る生徒は多い。螢華はほとんどそういったことはしないのだが、暇潰しによく過去のデータを見ている。イースト校のＬＡＮは寮の自室にも届いているため、暇な時に問題なく利用できるのだ。
　そしてこれを利用すると、墓地やオーバーレイ・ユニットのように見えづらいカードも、問題なく確認できる。もっとも、一番上のカードすら見えるほどの視力を持つものはまずいないだろうが。



　タブレットから目を離し、フィールドに目を向けた時、宮戸遊貴の持つ「神様」が、降臨した。



　「レベル６の《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》に、レベル３となった《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－イエロー・ボディ》とレベル２となった《メタフィジカ・ドラゴン－グラシエス》をチューニング……シンクロ召喚、《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》！」
　（…………）

　漆黒のローブに筋の帯紐というシンプルな出で立ちのそれは、ひとたびフィールドに舞い降りるなり微動だにしない。

　「むむっ、攻撃力4000……一応、効果を確認させて頂きますね。」

　利香はそう言うと、デュエルディスクのボタンに触れた。


---
《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ/Demiurge Alpha, Immoral of Destroy》
シンクロ・効果モンスター
レベル１１/闇属性/天使族/攻4000/守3000
チューナー２体+チューナー以外の融合・儀式・Ｓ・Ｐモンスター１体以上
このカードの特殊召喚は無効化されない。
（１）：１ターンに１度、相手の手札・フィールド・墓地のモンスター１体を選択して発動する。そのカードを除外する。この効果の発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。
（２）：このカードが破壊され墓地に送られた場合、墓地またはエクストラデッキから「創星神　ＳｏｐｈｉａΩ」１体をＸ召喚扱いで特殊召喚し、このカードをＸ素材とする。その後、自分の墓地のモンスターを全て除外する。
---


　「…………はいぃ！？」

　無効化されない特殊召喚といいチェーンを許さない除去といい、またその攻撃力といい、とんでもない効果である。《簡易融合》採用型【ジャンクドッペル】辺りの、新たな主力になりそうである。

　「また、とんでもないモンスターを持ってきましたね……」

　そう言う利香は、それでも余裕を崩さない。いや、表情の僅かな変化が敗北に繋がるかもしれない。それがごく低確率でも、勝率を上げるためにポーカーフェイスが役に立つならそれでいい。もっとも彼女の場合は、仏頂面と言うよりは余裕の笑みなのだが。


　「《壊星神　ＤｅｍｉｕｒｇｅΑ》の効果発動、アルティメット・ファルコンには……効かないから、《ＲＲ－フォース・ストリクス》を対象にします。」
　「……ええ、通します。」

　遊貴の効果発動の声に合わせて、デミウルゴスは右手を上げた。それだけで、対象のモンスターはフィールドから消え去ってしまう。

　（…………）

　言葉ひとつ発せず、気合いを入れる動作もないままに、デミウルゴスは相手を消滅させた。まさに、「星を壊す神」の名に相応しい所作である。





　「うーん……凄い効果ね。チェーンも許さずに相手モンスターを除去、しかも攻撃力4000かぁ。仔猫ちゃん、ああ見えてとんでもないカード持っているのね。」

　人は見かけによらぬと言うが、遊貴の場合は小さく可憐な出で立ちでありながら【Ｕ.Ａ.】を使ったり、《メタフィジカ・ドラゴン－イグニス》で焼き払ったりと、かなり力業で押している。予選の様子は見ていないものの、本戦で遊貴が高攻撃力のモンスターで押す様を、螢華は何度も見ていた。

　（そうね。あの子、凄いものね……でも、あれだけのカードに精霊、負担にならないのかしら……）

　反魂竜の補正があったとはいえ、本気を出した螢華に対して見せた異常な反応を考えると、再戦するにしてもお互い対策が必要である。

　（…………こちらから出来ることは、ないのだけれど。）





　アドバンテージ源とも言えるエクシーズモンスターを失ったにもかかわらず、利香はやはり冷静であった。口ではどうこうと文句を言うものの、表情だけは余裕を隠さないのが彼女のスタイルである。

　「むむっ……でもまあ、仕方ありません。」

　元々《ＲＲ－フォース・ストリクス》は、使い捨て。《カメンレオン》サーチのための《キンググレムリン》。そう考えれば、あまり痛くないものである。

　（問題は……まあ、何とかなるでしょう。）

　打点の高さこそ3500で頭打ちなものの、そこからデバフで相対的に高められる。そう考えれば、今の状況は不利という訳ではなく、五分に近い。

　（戦闘破壊は想定済ですからね。さあ、どんな戦略を取るのですか？）



　あれこれと考えを巡らすのは、非ターンプレイヤーならではの行為だろう。特に今回のように、遊貴も考え込んでしまっている状態では。

　（うーん…………このあと、どうしよう……）

　墓地からチューナーを蘇生するためとはいえ、《メタフィジカ・ドラゴン－イリス》は攻撃力0である。アルティメット・ファルコン自体は蘇生も出来るし、また新たにエクシーズ召喚も出来る。そのアルティメット・ファルコンで攻撃された場合、受けるダメージは当然3500になる。残りライフポイントの半分を奪われるのは、些か気分の悪い話である。《メタフィジカ・ドラゴン－イグニス》を出してもよかったのだが、実質上の破壊耐性を持つデミウルゴスは後々、何かと役に立ちそうだったのでこちらにしたのだ。





---
《？次回予告？》

遊貴　「むぅ…………」

利香　「ええ、私も負けたくないですから。」


次回、「創星の鼓動」
　信じた道、信じた夢。