51　星の扉 part3　作：Ales

終章：『我々はミサイルを誘導し、人類を間違った方向へと導いたのだ』
　　　－マーティン・ルーサー・キング・ジュニア　「汝の敵を愛せよ」より





　「次のターンのお楽しみ」という事は、次のターンに仕掛けてくる、という事だ。わかっていればやりやすいが、さてどうしようにも対処が困難である。しかも困ったことに、まともに機能するモンスターは《カラクリ将軍　無零》のみ、残りは攻守０の《羊トークン》だ。

　「むぅ……ターンエンド。」

　現状、対策はない。手札１枚ではどうしようもなかった。



4th.Turn
　TP：Lolona

Lolona　LP：7900　D：27　H：4　G：10
　F：《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－イエロー・ボディ》
Snow　LP：6700　D：34　H：1　G：8
　F：《カラクリ将軍　無零》《羊トークン》×２



　「私のターン、ドロー。メインフェイズ、《メタフィジカ・ドラゴン－グラシオ》を召喚、墓地の「メタフィジカ」の蘇生効果を使用します。選択するのは《メタフィジカ・ドラゴン－グラシオ》と《メタフィジカ・ドラゴン－ストーノ》の２体です。グラシオの効果にストーノの効果をチェーン、何かありますか？」
　「むぅ……通す……」

　ストーノの効果は案の定《カラクリ将軍　無零》に向けられ、その後ロロナはカードを１枚ドローした。

　「ふっ……ふふふ……」

　ロロナが不気味に、そして邪悪な笑みを浮かべた。

　「…………？」
　「身を滅ぼす手段を敵に与えてしまう、というのはこの事でしょうね。フィールド魔法、《幻栄の光》を発動。」
　「あ……」

　遊貴が敵に与えてしまった武器は、「メタフィジカ」というデッキである。理不尽に没収された訳だが、回った時の怖さは自分が一番よく知っている。そして《幻栄の光》は、「メタフィジカ」の回転役と言っていい。【ＢＦ】で例えるなら《黒い旋風》、【六武衆】で例えるなら《六武の門》だ。

　「さて、レベル４の《メタフィジカ・ドラゴン－グラシオ》に、レベル２となった《メタフィジカ・ドラゴン－ストーノ》をチューニング……シンクロ召喚、《メタフィジカ・ドラゴン－フラーモ》！「メタフィジカ」モンスターの特殊召喚に成功したので、２体目のグラシオのドロー効果発動、それにチェーンして《幻栄の光》の効果、墓地の《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブラック・ボディ》を特殊召喚します。グラシオの効果で１枚ドロー。」


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《メタフィジカ・ドラゴン－フラーモ/Metaphysica Dragon -Flamo》
シンクロ・効果モンスター
星６/闇属性/幻竜族/攻２１００/守１６００
幻竜族チューナー+「メタフィジカ」モンスター１体以上
（１）：このカードのＳ召喚に成功した時に発動できる。フィールド上のモンスター１体を破壊する。この効果に対し、相手はモンスターの効果を使用できない。
（２）：１ターンに１度、手札・墓地の「メタフィジカ」モンスター１体を除外して発動できる。以下の効果から１つを選択する。この効果は相手ターンでも使用できる。
・ターン終了時まで、このカードの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる。
・このカードはこのターン、戦闘によって破壊されない。
（３）：Ｓ召喚によって特殊召喚されたこのカードがフィールドを離れた場合、除外された「メタフィジカ」モンスターを２体まで手札に加える。
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　「むぅ……」

　どこからでも展開し、どこからでも一騎当千のシンクロモンスターが飛び出す。【メタフィジカ】の強みだが、やられると辛い。

　「まだですよ。速攻魔法《幻想の供物》を発動。ブラック・ボディをリリースして《カラクリ将軍　無零》と《羊トークン》を破壊します。フィールドを離れたブラック・ボディの効果、デッキから《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》を召喚条件を無視して特殊召喚します。」
　「あ…………」

　瞬く間に大量展開が始まっていた。自分でもこれほど回ると思ってはいなかった。【メタフィジカ】というデッキに関して、ロロナは私より遙かに上手に操っている。

　「さあ、バトルフェイズに入ります。まずは《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》で《羊トークン》を攻撃。」


《メタフィジカ・ジェネシス・ドラゴン－ブルー・ボディ》　ATK：1600　　DEF：0《羊トークン》


　「更に、《メタフィジカ・ドラゴン－グラシオ》でダイレクトアタック。」


《メタフィジカ・ドラゴン－グラシオ》　ATK：1900
　Snow　LP：6700　→　4800


　「っ……ぐあっ……！」

　氷の礫がまともに身体を打ち、その衝撃で脳が揺れ、足下がふらつく。

　「…………」

　そんな様子を、ロロナは無表情に見下ろし、次の攻撃を指示した。

　「《メタフィジカ・ドラゴン－フラーモ》でダイレクトアタック。このとき、フラーモの効果を発動、墓地の《メタフィジカ・ドラゴン－ストルモ》を除外して、このカードの攻撃力を、ターン終了時まで元々の攻撃力の倍にします。さあ遊貴さん、存分に苦しんで下さい。」


《メタフィジカ・ドラゴン－フラーモ》　ATK：2100　→　4200
　Snow　LP：600


　「っ！」

　火の玉に襲われ、身体が弾き飛ばされた。



　「ぁ……」



　衝撃で後ろの壁に後頭部を打ち、遊貴の意識は急速に遠のいた。





　「…………あら、まだ終わってないですよ。立ってください。」

　反応のない遊貴に近付きつつ、ロロナは嘲るように言った。

　「やれやれ、この程度で終わりですか。まだライフポイントが600も残っていますのに。」

　そう言いつつ、ロロナは遊貴の身体を軽く叩く。それでも反応がないと見るや、ロロナによって身体を持ち上げられた遊貴は、そのまま引き摺られていった。





　聖堂には祭壇があって然るべきものである。と言うのも、特殊な儀式を行う際にどうしても儀礼的に特別な場所というものが必要になるからである。

　「…………ターミナル。」

　さてそんな場所に、神聖さの欠片もない声が響いた。声の主は、言うまでもなくロロナである。



　-Terminal Boot Ready...Done



　-Terminal Version 1.15.304b
　-Enter or Vocalization command:





　そして更に不釣り合いなディスプレイが現れ、文字を映し出した。黒い半透明のパネル状のそれに、白で映し出される無機質な文字である。

　「アカウント・コントロール・センターへアクセス。管理者権限の変更を要請します。」



　-Boot... root:╲Account control center╲Account settings╲Account config.vdc done.
　-Enter Password:



　「パスワード、ねぇ……」

　ロロナがキーボードで文字を入力すると、あっさりと認証が完了した。



　-Enter Password:* * * * * * * * * * * *



　-Access... done.





　-Administer config
　-Input command:
　-*If you need hint, input ’’H’’



　ロロナが再びキー操作をする。



　-Input command:Extend Administration



　-Extend Administration
　-Enter change item:
　-*If you need hint, input ’’H’’



　「やっぱりCUIだけで操作するのは面倒ね……でも、これで目的が……ふふっ。」

　そう言いつつ、ロロナはキーボードを叩く。



　-Enter change item:allow boot .vdc script



　-Change Administration, please wait...





　待つこと数分。ロロナの指定したコマンドは、無事に通過したようである。



　-Change Administration Success.
　-Back Terminal?(Y/N):



　ロロナがYキーを押すと、それまでの全ての文字列が消え、新しく文字が浮かび上がった。



　-Terminal Version 1.15.304b
　-Enter or Vocalization command:



　「やれやれ、やっぱりCUIは肩が凝ります……」

　そう言いながらも、ロロナの顔には笑顔が滲んでいた。

　「…………」

　数秒の間を置いて、ロロナはキーを叩いた。



　-root:╲program╲script╲script settings╲main script╲Abrahamic religions╲Armageddon.vdc



---!!!DENGER!!!---

　-This program will SERIOUS DAMAGE to Server and user(s), REALLY boot this program?(Y/N)
　-Enter:Y



　-Enter Password:* * * * * * * * * * * *



　-Boot Armageddon.vdc...

　-Error:Do not complete conditions.

　-Enter command:
　-*If you want output error code, imput ’’Y’’





　無機質に示されたエラーに対し、ロロナはつとめて冷静であった。

　「まあ、当たり前ですよね……必要な過程をほとんど全て飛ばす訳ですから。」

　ロロナはここでもYキーを押した。黒い背景に再び文字が書き込まれ、エラーコードの解析結果を表示し始めた。

　「これを全部無視するプログラムを差し込んで……いや、終了フラグを挿入する方が早いかしら？」

　暢気に呟くロロナの前に、ようやく最後の１行が表示された。





　「えっ……嘘？どうして……？」

　その１行を見て、ロロナの顔に動揺の色が表れた。





　コンピュータが出力した最後の１行。それによって、ロロナは自身の目的が達せないことを悟った。





　-Error code 666:Shortage Authority





　－権限が不足しています。





　ありえない。
　その為にユーザ設定を行い、「.vdc」プログラム、つまりこの空間の全てのプログラムを実行する許可を得たのだ。

　確かに実行しようとしたプログラムは特殊で、様々なプログラムの終了フラグを経て初めて実行可能となるものである。それらのフラグの偽装は容易に行うことができる。というのも、これらは巧妙に隠され、VDCβのユーザーが知らぬ間に達成していることが往々にしてあるからだ。つまり、簡単に書き換えられるものである。

　しかし、実行の権限はそうもいかない。
　実行の権限は、最後の「実行者」が持っている。この権限だけは、偽装しようにも結局「実行者」としての権限が必要になるので、現状では書き換え不可能なのだ。
　「実行者」と言うと大仰に取られるが、これは破壊者を抑止する者であり、便宜上そう呼んでいるだけである。とにかく、この権限は、宮戸遊貴に与えられたはずなのである。だからロロナは面倒ながらもこの聖堂で遊貴を待ち受け、面倒な会話をし、面倒なデュエルまでしたのだ。

　結果、判ったのは宮戸遊貴だけではプログラムの実行が不可能と言うことである。

　「何故？どうして？私は確かに、鍵を遊貴さんに与えた。そのはずなのに……」




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《？次回予告？》



？？？　「まあ、そういうことだ。わかるな？」



次回、「終末の日に」
多分、決着。