番外編2-4　集結と収束　作：Ales

　午前中の暗号解析講座から打って変わってカードが運び込まれ、しかもそれを利用してのデッキ構築という運びとなった講義であるが、その急展開にどうにも別方向の疑問を持てしまう少女がいるのだった。

　（あの中にないカードは、どこから調達してくるのでしょうか……）

　確かに大量のカードがワゴンによって運び込まれてきたが、7000にも及ぶ種類のカード全てを網羅しているとは到底思えない。となるとその中にないカードはどこからか調達せねばならないのだが、それを実行するとなるとかなりの資金が必要となる。まさかここまで大仰に運び込んでおいて最後の最後に自分で用意という事はないと思うが、そうであるならばカード購入のための資金の出所が気になってしまうのだ。

　「何か、お困りですか？」

　それが浮かない表情にでも見えたのだろうか。整った顔立ちの生真面目そうなサポート役のひとりが声をかけてきた。

　「あっ、いえ……」

　頬に手を当てて首を微かに傾けるという、典型的な思考ポーズを取った少女は、声をかけた少女からはどう見ても悩んでいるように思える。

　「どんな些細なことでも構いませんよ？」

　その為に私たちがいるのですから、と言うその少女に対し、ようやく思い切って放たれた言葉は、彼女－芹野舞には、本当に些細なことに感じられた。



　「あの中にないカードは、どこで用意されるのでしょうか……？」
　「あー…………多分、籐篠さんが用意するんじゃないですか？あの人、凄いお金持ちらしいですから。」
　「ほわぁ……」

　スケールの違う人間というのは、どこにでも存在する。現在は親友と別れ、ゲームセンターで筐体を相手に格闘している星崎美夏がもし、彼女の和服を見たなら一言呟いただろう。

　「あ、それ西陣だ。」

　と。そう、舞に対して質問を投げた少女は和服姿だったのである。しかも日本でも最高級とされる西陣織であり、帯だけで最高額紙幣が十数枚飛んでいくようなスケールなのだが、それに負けず劣らずといった出で立ちなのが籐篠朱理である。

　「あの人、さりげないところでとんでもないお金使ってますから。多分、服飾のお金のかけ方ならあなたに負けていないんじゃないでしょうか。」
　「えぇ……お姉ちゃん達みたいな人って、どこにでもいるんですね。」
　「え？いえ、あなたの……まあ、それはいいでしょう。とにかく、朱理さんはどうにかできないことはしませんから、遠慮なくデッキを組んでしまっていいと思いますよ。」

　競走馬の世界は金額のスケールが一般人のそれとはかけ離れている。例えば先日に開催された宝塚記念であれば一等賞金は1億5000万円であり、３着という結果に終わったとはいえ籐篠家は３着賞金の3800万円のうち－一般的な分配に基づくなら－８割方を馬主として得ているはずなのである。日本の重賞競走の賞金額は世界でも頭ひとつ抜けており、G1レースでなくとも入賞する馬をコンスタントに出せばとんでもない年収になるのである。そんな世界であるからこそ放蕩娘ひとり抱えても何の問題もないし、実家までの飛行機代も気軽に出せるのである。勿論そんなことはこのふたりは全く知らないのだが。

　「あの、えっと……」

　手を胸の前で合わせ、少女は舞を見上げる。

　「はい、まだ何かご質問ですか？」

　この辺りの言葉の端に嫌気が見えない辺りが芹野舞の芹野舞たる所以である。

　「もしお手空きでしたら……お手伝い、願えないでしょうか？」

　何故か緊張した面持ちで話しかけてくる少女に対し、舞は全く別のことを考えていた。


　（こういう時、遠山先輩だったら何の屈託もない笑顔と二つ返事なんでしょうね……）

　芹野舞は、眼前の少女以上に不器用なのである。特に人間関係に対しては生真面目に付き合う以外の選択肢を持ち合わせておらず、相手方がどう絡んでも一々丁寧に付き合うことしかできない性格なのだ。


　「ええ、構いませんよ。私は芹野舞と申します。」
　「あっ……篠原詩音です。よろしくお願いします！」

　不器用な笑顔と共に一礼した舞に対し、詩音もまたつられてお辞儀してしまうのだった。




　「【鍵楽師】、【プラネット・Ｄ】、【ガスタ】ですか……」

　デュエルモンスターズのテーマを見るに、外れはほとんどない。【コアキメイル】のように特殊な運用法から敬遠される、いわば大外れはあっても単に外れというものは当今中々見当たるものではない。


　だがしかし。


　「中々、難しいものですね……」
　「はい、そうなんです。」

　テーマを混載すると、とんでもなく外れることもある。それが篠原詩音の引き当てた３種であった。

　「【鍵楽師】はモンスターのステータスは微妙ですし、サポートカードもカード名指定の追加効果があってはじめてパワーカードと言えるものですし……」
　「【プラネット・Ｄ】は数があってはじめて機能しますし……」



　「「ガスタは専用デッキじゃないとまともに動けないですし……はぁ。」」

　どれも専用に構築しないと動かしづらいという、外れも外れ、大外枠のスタートとなってしまったのだ。


　「っと、とにかく、考えようはあるはずです。レベル３のモンスターは比較的多いですから、ランク３のエクシーズとガスタのチューナーでのシンクロ召喚を主体にすれば形にはなるんじゃないでしょうか。幸い、エクストラデッキのカードは特に指定されておりませんし。」

　エラッタされたものの、《ゴヨウ・ガーディアン》や《氷結界の龍　ブリューナク》が制限カードに復帰したことで、レベル６のシンクロモンスターの層は厚みを取り戻している。「ガスタ」チューナーでは前者はシンクロ召喚できないものの、後者は可能である。

　「あの、ちょっとわからないところがあるんですけれど……」

　舞が手渡したタブレットでカード情報を眺めていた詩音が、呟くように言った。

　「どこですか？」

　同じ画面を覗き込んだ舞が見たものは、確かにわからないものだった。


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《龍姫リリーゼ/Prince of Dragon -Lilize》
チューナー・効果モンスター
星１/火属性/魔法使い族/攻300/守0
このカードはこのデュエル中「Ｃｈｏｒｏｎｏ Ｄｉｖｅｒ」を発動していない場合は召喚・特殊召喚・セットできない。
（１）：自分フィールド上に「鍵楽師」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
（２）：自分フィールド上の「鍵楽師」モンスター１体を選択して発動する。そのモンスターのレベルを７にする。そのモンスターはこのターン、Ｘ召喚及びこのカード以外のカードをＳ素材としたＳ召喚に使用できない。

《Ｃｈｒｏｎｏ　Ｄｉｖｅｒ（クロノダイバー）/Chrono Diver》
魔法カード？
Nexus: Current amd Future
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　「《Ｃｈｏｒｏｎｏ Ｄｉｖｅｒ》の方ですよね。『現在と未来を繋ぐ』……？」

　レベル８のシンクロモンスターに繋げる事のできる効果を持つ《龍姫リリーゼ》だが、意味不明のカードを発動していないとフィールドに出すことができない。しかし意味不明のカードは意味不明であり、そもそもデュエルモンスターズのテキストを成していないのだ。

　「このテーマ、所々意味がわからないところがあるんです。これなんて、カード名はわからないしテキストには『This grief is my bread.』としか書かれていませんし……」
　「訳すと『その嘆きは私の糧』でしょうか……どこかで聞いたことが、いえ、見たことがあるような気がするのですが……」

　ふたりして首を捻るが、とにかくわからないものはわからない。君子危うきに近寄らずとも言う。このデュエルモンスターズのテキストを無視したカード群は放置し、他のカードで構成することをふたりは決定したのだった。



　「さて、【ガスタ】の一部の制約を考えると、【プラネット・Ｄ】も風属性を積極的に採用すべきだと思うのですけれど……」
　「《ガスタの末裔　ピリカ》の効果ですか？確かにそうですけれど、いちデュエル中にピリカを召喚する機会は限られています。あまり気にしたことはありません。」

　かなりマイナーなデッキであったが故にあまり詳しくない舞であったが、確かに１枚のカードのために採用の幅を縮めるのは構築面では悪手であろう。

　「これは……一本取られましたね。確かにその通りです。」
　「はい、取っちゃいました！えへへ……」

　照れたような笑いを見せる詩音の意識をタブレットに向けるのに数分格闘しながら、舞は早くも面倒になりかけていた。

　「で、では……【プラネット・Ｄ】の方は何を採用しますか？」
　「うーん……【ガスタ】も【鍵楽師】も、ステータスの面では心許ないですから……」

　延々とリクルートし続けるガスタは、【リクル特攻】なる自爆コンボデッキの候補にも挙がるほど、後続展開に長けている。後者【鍵楽師】はペンデュラム召喚での同時展開にこそ長けるものの、メインデッキから採用できるモンスターの攻撃力は最大でも2300である。【帝】モンスターにすら苦戦する現状では、確かに高攻撃力モンスターの採用は必須と言えるだろう。幸いコストさえ揃えば「プラネット・Ｄ（ドラゴン）」モンスターは平易な特殊召喚条件であるため、場持ちの問題さえ目を瞑ればアタッカーが務まる。いや、寧ろ他のテーマには無理な仕事であろう。

　「えっと、このカードをこうして……いえ、でもそうすると融合モンスターの展開が。あれ？こっちじゃない……？うぅ、難しいです。」
　「ですね……」

　詩音に聞かれることのないように背を向けて溜息を付いた舞は、彼女の代わりにと試行錯誤の結果をメモに取るのだった。

　「あ、なるほど！そうすれば結果がわかりやすいですね！」

　今まで気付かなかったのだろうか。同じお嬢様でも、随分抜けたのもいたものだと感じる舞であった。





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　さてここに、何の動機があってこの講義に参加したのかすっかり忘れてしまった青年がひとりいる。名は遠野秀行。関西圏の観光の際にふと立ち寄った京都で、これまたふと立ち寄ったデュエルアカデミアの夏季特別講習、オープンキャンパスとでも言うべきものを見付けて立ち寄ったはいいが、講義を聞くにつれ眠気と共に別の感情が増してきたのであった。



　（あの講師、絶対胸でかいぞ。）

　男が大きなお山に憧れるのは本能的なものだとか云々、ホモ・サピエンスという種にそもそも備わっている本能だとか云々、とにかく所謂ロリータコンプレックスやらペドフィリアやらホモセクシュアルやらと呼称される嗜好の持ち主以外は大抵大きなお山が好きなものなのである。



　（ふむふむ……瞳孔は正常、視線は上方約2.4°っと。対象は……おやおや、朱理さんのお山ですか。ふむ。これはこれは、中々お目が高い。）

　女性の場合はどのような思考になるのかはさておき、ある意味自身の本能に忠実に行動するのが、遠山利香である。すなわち取材であり、第１学期をもって引退したはずの新聞部に同行してはターゲットを探してハンティングもとい取材を行っているのである。尚名目上は後進の育成であり、歴代新聞部部長の強引さを他の部員に伝えることで当代部長である芹野舞の胃にダメージを与えているのだ。

　「ああもう、また適当なこと言って！私の代で新聞部終わりました、なんて事になりかねないので大人しくしていて下さい！」

　と舞はいつも言っているのだが、どうやっても新聞部部室の椅子に縛り付けられた例のないのがこの利香なのであった。キーボードだろうがワープロだろうが、タイプライターを前にしようが駄目で、とにかく新聞部の部室に腰を落ち着けて重鎮の真似事をするのはどうもむず痒いのである。


　そんな彼女が今回の標的……もとい取材対象に決定したのが、先に紹介した遠野秀行であった。

　「はぁ……大きなお山はいいなぁ……見ていて癒されるよ。」

　遠山利香が彼の前を通過した丁度その時、秀行がそう呟いたのだった。

　「これはこれはお目が高い。ここだけの話ですが、朱理さんのお山は高いだけじゃありませんよ。あの人服飾品にも相当拘っていますから、布の上からでも触り心地抜群、むにっと指を入れたらそれはもう至福の世界が待っていますよ……多分。」

　足を止め、利香は彼に向かって机越しにそう言った。まるで通販番組の羽毛布団を模したかのような宣伝文句だが、最後にきっちりと多分を付けるのは忘れない利香である。

　「っと！……聞かれてましたか。」

　少しバツが悪そうに、しかし悪びれる様子は見せない秀行は、改めて利香と対面した。勿論、視線は顔ではなくその下方にある。

　「いや、お姉さんも中々……これはいいものですなぁ。」
　「やーもう。恥ずかしいじゃないですかぁ。」

　利香を知るものが聞いたらどこから声を出したのかと問いたくなるような小さくも恥じらった声で呟いた後、利香は秀行の耳元で囁いた。

　「触ってみますか？」



　「え？」

　急すぎる展開に理解が追いついていない。お山お山と言っているがそれは女性にとって大事な器官であり、腕はおろか髪に触れるだけでもハラスメント行為だなんだと騒がれる昨今の社会情勢からすればとんでもない発言であった。

　「じゃ、じゃあ……」

　突然のことで驚きはしたが、念願の機会を逃す秀行ではない。遠慮なく手を伸ばそうとしたところ、満面の笑みの利香は彼の隣に座って言葉を続けた。

　「まあ、ただでというのは面白くありません。というかそれだと私のイメージの問題に関わります。それに……」



　どうせなら、もっと大きい方を目指してみませんか？



　悪戯っぽい目を朱理に向けた利香につられて、秀行もまたそちらを向いた。

　「え？あの人？」
　「はい。あの鉄壁お嬢様のお山に登ってみたくはないですか？さっきも言った通り触り心地抜群、おみあしは血統付きの輝き、遠目にもわかる肌のきめ細やかさは全人類の至宝とも言うべきですよ……多分。」
　「確かに、登るお山は大きい方がいいですけど……どうやって登るんですか？」
　「そりゃあもう、まずは構築を真面目にやって、朱理さんに好印象を与えます。」
　「ふむふむ。」
　「そしたら朱理さんが『素敵！抱いて！』と言います……多分。」
　「ふむふ……む？」
　「そうなればもうルート突入確定です。あとは大人のきのこ○山（自主規制）だろうが大人のたけのこ○里（自主規制）だろうが自由自在、ベッドの上に素肌を晒して潤んだ目を見せる朱理さんはもうあなたしか見ていません……多分。」
　「え？それなんてR-18ゲーム？」
　「と言う訳ですから、まずはフラグ構築のためにもこの課題を頑張りましょう。」



　「いや、そのりくつはおかしい。」
　「なるほど、状況判断能力は問題なし、と……」
　「お姉さん、遊んでます？」
　「遊んではいません。楽しんでます。」
　「いやそれ、どう違うんだ……？」
　「まあまあまあまあ、そういう事ですから。ささ、こちらをどうぞ。」

　強引としか言い様のない利香の誘導であったが、とにかく秀行の視線はタブレットに移った。

　「【魔導】、【インフェルノイド】、【ワーム】ですか……外れもいいところじゃないですか。手の施しようがありませんよ。」
　「そこをなんとか、こう……上手く回転するようなアドバイスをお願いします。お山のお姉さん。」
　「お、お山からは離れて頂けますかね……こほん、まずは【インフェルノイド】と【ワーム】双方に有効である《未来融合－フューチャー・フュージョン》を採用するのは如何でしょうか。成功すればそれだけでフィールドを制圧して押し切れますし、失敗してもまずは相手のカードを浪費させられます。」

　墓地送りのタイミングが１ターン後のスタンバイフェイズになることで制限復帰した《未来融合－フューチャー・フュージョン》は、そもそも禁止された理由がパワーカードであることなのだから効果の使用に成功すれば大きなアドバンテージになることに変わりはない。寧ろ発動することで相手に大きなプレッシャーを与えられるのだから、平時であれば際限なく墓地送りできる２種のモンスターを擁するこのデッキで採用しない理由はない。

　「なるほど。そう考えると、モンスターは重ねるより種類ですかね。ティエラの方は最低３種類でも充分役立つとして、ゼロの方は種類で攻撃力も決定されるから……」
　（ふむ、内面も割と真面目、と……ただの登山家という訳ではないようですね。）

　幸か不幸か、【ワーム】と【インフェルノイド】は共有できるたった１枚のカードに向けて整えられて訳だが、もうひとつのテーマはさてどうしたものかと行き詰まってしまうのだ。

　「【魔導】はどうしますかねぇ……」
　「どうしましょうね。いやーこれは困りますねぇ。」

　言いながら完全に他人事な利香であるが、他人事なので言葉はいつも通り軽い。

　「一応１枚だけ神判入れられるから、いっそジュノンだけ採用して、後は全部魔法でいくか……？神判での手札確保目当てで、いやその手札にしてもまず魔導書が……」
　（いやはや、随分難しいですね……大量展開しても結局シンクロやエクシーズには繋がりそうもないですし、上手いこと２ターン先を読んでゼロかティエラの高火力を叩き込むぐらいしか方法がないようにも思えます。）

　火力にこそ不安のないデッキであるが、その高火力は一瞬で尽きる。軍艦で言うところの巨大な主砲はあるが、それを撃ち尽くした場合の副砲が確保できるかどうかは微妙な線である。


　（あーでも、インフェルノイドって確か再生力ゾンビだったような……）
　（推理ゲートがまともに機能しない以上、どうやって「インフェルノイド」を墓地に落とすかが鍵か……）

　奇しくも、ふたり似たようなことを考えていたのであった。





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　「はい、ではこれで時間となりましたのでデッキの編集は終了して下さい。この後はサポート役の人がカードを選定している間、くじ引きで対戦相手を決めて頂きます。」

　デッキができたのだから、次はデュエルである。妙に効率よくくじを既に作っていた朱理は、聴講者の眼前に６枚の紙切れが入った箱を提示した。

　「ここに紙が入っていますが、それぞれ異なる色のものが２枚ずつ入っています。中を見ずに引いて頂いて、同じ色を取った方とデュエルという事で。時間もありますのでひと組分ずつ見て頂き、感想もお伺いする予定ですのでどうぞよろしくお願いします。」

　面々は緊張した面持ちで箱に手を伸ばす。


　「あかりー！財布借りるぞー！」
　「あっ、ちょっと！……はぁ、まあいいわ。」

　講師陣営の中で総合的に見て最も早いのは和那であるが、そもそも適当に立ち寄っただけなので纏まったカードを購入するだけの資金など持ち合わせていない。となると勝手知ったる何とやら、親友にして大金を持つ朱理の財布を持っていこうとするのである。



　「は？AEのブラック……？」

　財布の中身を確認していた和那が、そう呟いた。


　「中身だけ持って行きなさい！」

　丁度空いた箱が投げられ、和那の後頭部に命中した。



　「AEのブラックって……限度額無制限の？」

　負けず劣らずの資産家の令嬢である詩音が微かに首を傾げ、呟いた。