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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第150話:機械の身体に宿る心

第150話:機械の身体に宿る心 作:光芒




 案内されてやってきた戦士領域は同じ精霊界といっても魔術師領域とはまた違った雰囲気を醸し出していた。魔術師領域は魔術という異能の力を駆使する領域とあって何処か神秘的な雰囲気が漂っていたが、戦士領域は属する戦士の特徴に合わせた建造物が居並ぶなど随分と人間世界に近い印象だった。

「こっちだよ!」
「まるで都市みたいデスネ」

 N(ネオスペーシアン)たちのリーダー、とされるE・HERO ネオスはネオスペーシアンであると同時にE・HEROにも属している。そのため彼らのコミュニティは現代的なHEROたちの世界と一部価値観を共有しており、ネオスペーシアンたちの本拠地はまるで戦隊ヒーローの司令部のような形式となっていた。

「ヒーローたちの戦う舞台は都市だからな。まあ俺たちの故郷は宇宙なんだが」
「僕たちHEROやネオスペーシアンは精霊界に危機があった時に精霊皇の要請を受けて問題解決のために出動するんだ。最も最近は出動はほとんどないし、他種族の子供たちのためにショーをやったりすることもあるけどね」

 世界の平和を願うヒーローが平和な世界の実現によってその力を持て余す、ということになんというか皮肉めいたものを感じてしまう綾香。
 しかし、それは裏を返せば有事の際にはいつでも出動してその問題を解決にあたるということ。精霊界の住人としての価値観に従うのであれば、この世界の住人ではない綾香たちがここにいるということ自体が有事なのではないだろうか。

「ねえエヴァちゃん」
「なんデスカ?」

 綾香はエヴァにそっと耳打ちをする。綾香は見知らぬ世界ということもあって疑心暗鬼になっていた。

「なるほど……ですがブラック・マジシャンの紹介を受けたと言っていますので、信じていいのデハ?」
「エヴァちゃんは純粋ね……私ったら」
「綾香。どうしたの?」
「……ううん。なんでもないわ」

 心配したスターダストが問いかけるが綾香は首を横に振った。仮にこれが精霊たちの罠であったとしても一度足を踏み入れた以上困難に遭うことなど承知済みのことであった。

(何考えているのかしら私。私がここでビビッてどうするのよ)
「着きましたよ。こちらへどうぞ」

 アクア・ドルフィンの案内によって入った部屋の中には筋骨隆々の白い身体をした1体のモンスターがいた。かつてデュエルアカデミアにおいて劣等生から世界を代表するデュエリストへと成長した生徒が生み出し、愛用していたというモンスター、“E・HERO ネオス”の姿がそこにはあった。


※E・HERO ネオス
通常モンスター
星7/光属性/戦士族/攻2500/守2000
ネオスペースからやってきた新たなるE・HERO。ネオスペーシアンとコンタクト融合する事で、未知なる力を発揮する!


「バード、ドルフィン。案内ありがとう。改めまして、俺がネオスペーシアンのリーダー、E・HERO ネオスだ」
「貴様がネオスか。ブラック・マジシャンから話を聞いている、ということは……」
「もちろんあなたについても知っているよ。銀河眼の光子竜」
「やはりか、言っておくがもう私の過去話は勘弁だぞ。耳にタコができている」
「そうか……じゃあ早速だけど本題に入ろうとしようか」

 ネオスはかつてブラック・マジシャンらと共にとあるモンスターによって多くのモンスターが洗脳されて暴れまわった時に共にその鎮圧に尽力していた。それ以来種族の違う彼らであるが戦友であると同時に同じ通常モンスターとして親友の間柄となっていた。
 そのためブラック・マジシャンだけでは対処できないことが発生した場合には種族の異なるバスター・ブレイダーやネオスといった戦士領域のモンスターたちの協力を仰いでいるのだ。

「君たちの親友の女の子が人間界から誘拐されてこの精霊世界へと連れて来られた。そしてその犯人は人間から精霊に転生した変わり種であり、それに力を使ったのが銀河眼の時空竜様ということだね」

 ネオスの言葉からあの性格のブラック・マジシャンの説明だけあって彼に為された説明はやたらアバウトな説明であったようことがわかる。それでも要点を抑えてはいるためネオスたちには状況をよく理解できたようだった。

「うーん、だいたいそんな感じかな……」
「そうか……」

 綾香たちを通して改めて事実関係を確認した上でネオスは小さくため息をつく。その溜息から綾香は何処か嫌な予感を感じた。

「あの、もしかしてなんだけど。もしかしてネオスペーシアンの力でも……」
「……我々の力だけでは君たちを竜領域へと連れていくことはできない」
「やっぱりね」
「何? また移動? いい加減飛んでばっかりも疲れるんだけど」

 ただ飛ぶだけ、ということに関してはスカーライトもさほど苦に感じない。しかし、ここは勝手の知らない精霊界であり、いつどこから敵がやってくるかわからない状況下にあるため、スカーライトたちは周囲に気を払いながら移動しなければいけないのだ。
 そうなれば精神の疲労に合わせて身体の疲労も蓄積されていく。精霊は霊的存在でもあるが、幽霊とは違って命のある生き物でもある。綾香たちはそこを考慮する必要もあるのだ。

「我々が直接力を貸すことはできない。でも当てがないわけじゃないんだ」
「当て……?」
「この精霊界において精霊や物資の運輸や輸送、空路の管理を担当している種族がいる。機械族の精霊たちだ。幸い俺の知り合いが機械族の精霊にいてね。彼らから取り合って貰うんだ」

 戦士族の住まう戦士領域と機械族の住まう機領域は決して近くはない。それでもHEROであるネオスペーシアンたちは有事の際に精霊界の北から南まですぐに駆け付けられるような専用の移動手段を持っているのだ。

「“ネオスペース”!」


※ネオスペース
フィールド魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、
「E・HERO ネオス」及び「E・HERO ネオス」を融合素材とする融合モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。
また、「E・HERO ネオス」を融合素材とする融合モンスターは、エンドフェイズ時にエクストラデッキに戻る効果を発動しなくてもよい。


「ネオスペースってネオスのサポートフィールド魔法デスヨネ? 何故ここで発動するんデスカ?」
「このネオスペースは俺の力を発揮することもそうだが、ワープ装置も兼ねているんだ。これで機領域の入口へと向かう」
「あの……」
「何だい? えーと……」
「スターダスト、です。このネオスペースで……ワープができるのなら機領域を介さずに直接竜領域へ行けば……」
「確かに。そうしたいのは山々なんだけど……我々ネオスペーシアンだけでは戦力が足りない。何せ相手はオーバーハンドレッド・ナンバーズ。時空竜様がその気になればドラゴン族のモンスターを総動員することができるんだ。仮に総力戦となっては数で劣るこちらが不利だ。だから機領域に行くのは味方を増やす意味もあるんだ」

 スターダストはもっともだ、と言わんばかりに頷いた。今のまま竜領域へ行けばこちらの戦力は光子竜、スカーライト、スターダストにネオスとその仲間のネオスペーシアンたち、そしてブラック・マジシャン・ガール。
 精霊としての個々の力は別として精霊の中でも強力なモンスターが多いドラゴン族たちを一手に引き受けるとなるとどうしても分が悪い。仮にそのドラゴンたちとの戦いを潜り抜けたところでその先には遊望と時空竜がいるため、疲弊した状態で臨めばまず勝てる見込みはないだろう。

「さあ行こうか―――機領域へ」











「マジかよ……俺たちが敗れるなんて……」
「信じたくないが、現に敗れた以上そうなんだろうな。俺たちを超える強さをあいつらは持っている」

 綾香たちがネオスらと合流したころ。千夏と詩織に敗れたアリトとギラグは今自分たちがどうするべきかを考えていた。七星将軍はナンバーズの中でもより強い力を持つオーバーハンドレッド・ナンバーズによって組織された集団。そんな自分たちが精霊使いでもない人間相手に不覚を取るということなどあってはいけないことであった。

「ここは一度退却するぞ。背を向けるのは癪だがな」
「クソッタレ……」

 アリトとギラグは人間の姿を解いて元のセスタスとジャイアント・ハンドに戻ろうとした。その瞬間である、彼らの周囲には無数のナイフが現れ、今か今かと刃を向けていた。

「“千本ナイフ”。悪いがあなたたちをここから逃がすわけには行かない」
「……っ!」


※千本ナイフ
通常魔法
(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを破壊する。


 千本ナイフの効果はブラック・マジシャンが存在する場合、相手フィールドのモンスター1体を破壊するカードだ。最もセスタスとジャイアント・ハンドの2体を逃がさないために千本ナイフ2枚分、つまり2000本のナイフが宙に浮いている、そんな状況であった。

「ちょっとやりすぎなのでは……」
「相手は七星将軍だ。やり過ぎという言葉はない。それよりお前たちの方もどうにかした方がいいぞ」
「うん、まあそうなんだけどさ……私たちはどうすればいいの?」

 千夏と詩織は呆れたように後ろを振り返った。デュエルディスクのデュエルモードは既に解除してあるためソリッドビジョンは消えているはずなのだが、彼女たちが目覚めさせたロンゴミアントとダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンの姿はその場にとどまり続けているのだ。

「どうした、我がマスターよ」

 千夏に対してロンゴミアントは不思議そうに問いかけた。デュエル終了後にロンゴミアントは千夏に対してあることを聞いていた。それは千夏が自分にとってどのような存在であるか、ということ。千夏はさほど深く考えずにデュエルのことをあるがままに話した結果、ロンゴミアントは千夏が自分の創造主であると認識してしまったのである。

「いやいや、私別にあんたのマスターってわけじゃないからね?」
「何を言うか。私はあなたによってこの世に生を受けたのであるのだから私にとってはあなたは我が母も同然ではないか」
「言っておくけどあんたのお母さんでもないからね?」
「俺はどうなんだ詩織? 俺を生み出したのもお前なのだろう?」
「そう言ってしまうとそうなのですが……うーん……」
「はっきりとしないな。まあいい、ロンゴミアントよ。今やるべきことが他にあるだろう? ならば先にそれを解決しようじゃないか」

 見た目に反して理知的なダーク・レクイエムによって話が戻される。千夏と詩織は改めてセスタスとジャイアント・ハンドに自分たちの目的を告げた。
 自分たちは精霊界に危害を加える意志はなく、単に遊希を助け出したいだけだということ。そしてもし可能であるならば精霊界の者たちに遊希を助ける手助けをするように要請したい、と。

「……そうか、俺たちにはできないことではないが……」
「何か問題があるの?」
「俺たちは七星将軍であるが、そのうちの2体に過ぎない。仮に俺たちがお前たちの味方に回っても他の七星将軍がお前たちの行動を是としなければお前たちが訴追されることに変わりないんだ」

 七星将軍はその名の通り7体の精霊からなる集団だ。そのためセスタスとジャイアント・ハンドを味方に引き込んでも残り5体のうち2体の同意を得られなければ意味がない。
 七星将軍は名前こそ7つ星のように連携しているように思えるが、種族も属性もバラバラである以上言うほど強い結束があるわけでもない。それは人間や他の精霊に対してもそうであり、他人に対して穏健なグローリアス・ヘイローやラグナ・ゼロのような精霊もいれば、他者に対して排他的なシャイニングもいる。そして時空竜が一連の事件の当事者であることも事態をややこしくしているのだ。

「多数決……民主主義の怖いところですね」
「まあグローリアス・ヘイローやラグナ・ゼロのような穏健派を説得できればまだなんとかなるかもしれないな。最も時空竜が絡んでいるとなればかなり拗れるだろう」
「取り敢えず俺の配下にある戦士領域の奴らには俺から話をつけておいてやるぜ。お前らとのデュエル楽しかったしな!」
「セスタス……」
「右に同じだ。俺の治める岩領域、そしてそれと繋がりの深い恐竜領域も動いてくれるだろう」
「ジャイアント・ハンドさん……」

 この勝利が綾香やエヴァに伝わっているかどうかはわからない。それでも間接的にではあるが2人の役に立てた、そして遊希救出への第一歩となったことに千夏と詩織はほっと胸を撫で下ろす思いだった。

「それにしてもお前ら人間ってみんなこうなのか? 俺たちをデュエルで負かすほど強かったりとか」
「さすがにそれはないと思うわ。私たちだってロンゴミアントやダーク・レクイエムの力が無かったら勝ててなかっただろうし」
「ですが人間と精霊は決して相いれない存在ではない、ということはわかりましたね」
「おうよ、だがそれだけに惜しいよな。人間たちの世界がもうすぐ……」
「セスタス!!」

 セスタスの顔が真っ青になり、ジャイアント・ハンドがその巨体で彼の身体を覆い隠した。そこにはいつもの血気盛んなセスタスも冷静なジャイアント・ハンドの姿もなかった。

「……人間たちの世界がもうすぐ……何があるの?」
「やべっ……ああ今のはなんてってんだ、その言葉のアヤってやつで……」
「セスタス様。このブラック・マジシャン、聴力には自信がある故聞き逃しませんでした。人間たちの世界がもうすぐ……なんですか?」
「……」
「お答えください。やましいことがないのであれば―――」














 魔術師領域が中世の世界、戦士領域が近未来な都市風の世界であったのに対し、機領域は遠くから見てもわかる通り工場や基地のような建物に覆われた世界だった。他の領域との境界線には鋼鉄の城壁が築かれ、そこからサーチライトのようなものが周囲をせわしなく照らしていた。
 
「ここが機領域……」
「私たちの世界よりも発達している感じデスネ」
「この精霊界の近代化を一手に推し進めているのがこの機領域なのよ。まあうちのお師匠様は機械苦手なんだけど……」
「取り敢えず正門へ向かおう。ここの番人とは古い付き合いでね」

 ネオスに案内されて向かった機領域の正門には巨大な2体の機械仕掛けのモンスターが番人代わりとして立ちはだかっていた。

「待つノーネ! ここは機領域の正門ナノーネ!」
「許可なき者を通すわけには行かないのデアール!」

 妙な喋り方で綾香たちを出迎えたのは“古代の機械巨人”と“古代の機械巨竜”の2体の“アンティーク・ギア”たちだった。


※古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)
効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻3000/守3000
このカードは特殊召喚できない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。


※古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)
効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻3000/守2000
(1):このカードの召喚のためにリリースしたモンスターによって以下の効果を得る。
●グリーン・ガジェット:このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
●レッド・ガジェット:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。相手に400ダメージを与える。
●イエロー・ガジェット:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。相手に600ダメージを与える。
(2):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。


「何この変な喋り方? なんかキモいんだけど」
「キモイ!? 無礼千万ナノーネ!」
「スカーライト! 言い過ぎデス! 確かに変デスケド……」
「ちょっと、それフォローになってないわよ……」

 機械巨人が侮辱されたことに怒って地面を踏み鳴らす中、それを止めようとネオスがジャンプして機械巨人の顔の前へと飛び上がった。

「落ち着いてくれ。俺だ、ネオスだよ」
「シニョールネオス! お久しぶりナノーネ。あなたがいるならすぐお開けするノーネ!」
「全く、これだから巨人は。もっとよく見るのデアール」
「うるさいノーネ!」

 スカーライトやスターダストに対しては不審がっていた2体であるが、ネオスが顔を出すや否やすぐに機領域へと続くゲートを開けてしまった。
 こればかりは精霊界での知名度に差があるから仕方ないとはいえ、スカーライトとスターダストはあまりいい思いはしなかった。そんな2体を宥めつつ綾香たちが機領域に足を踏み入れると2体の機械族モンスターが彼女たちを出迎えた。

「ネオスの兄貴!」
「久しいな、ネオスよ」
「久しぶりだな。“サイバー・エンド・ドラゴン”、“スーパービークロイド-ジャンボドリル”」


※サイバー・エンド・ドラゴン
融合・効果モンスター
星10/光属性/機械族/攻4000/守2800
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。


※スーパービークロイド-ジャンボドリル
融合・効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻3000/守2000
「スチームロイド」+「ドリルロイド」+「サブマリンロイド」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


 この2体の機械族モンスターはネオスとは浅からぬ縁で紡がれたモンスターであった。サイバー・エンド・ドラゴンはかつては機械族のリーダー的存在として君臨していたが、“Sin パラレル・ギア”という機領域のマッドサイエンティストによって洗脳されて精霊界を破壊しつくしたという過去があり、それ以降は表立って政務に関わることを避けていた。そんな彼を止めたのが他ならぬネオスであり、彼とは種族を超えた友情を築いていた。
 そんなサイバー・エンド・ドラゴンの親友であるネオスを“兄貴”と呼んで慕うのがスーパービークロイド-ジャンボドリルである。彼はかつて小さく力の弱い機械族モンスターだったのだが、ネオスと共に鍛錬を重ねることでここまでの力を手に入れることができたのである。ネオスが機械領域へとやってきたのもこの2体の精霊との繋がりを求めてのことであった。

「この子たちが人間の世界からやってきたのか。ネオスから話は聞いている。俺たちから機領域を治めるNo.へと取り次がせてもらう」
「こっちについていて欲しいッス!」
「わかった。恩に着る」

 機領域は外面こそ古びた工場地帯のような見た目であったが、中に入ってみるとそれは様々なものとなっていた。
 歯車が音を立てて動く箇所では【ガジェット】や【ギアギア】のモンスターたちがせわしなく動いており、都市を模した箇所では【マシンナーズ】たちが戦闘訓練を行っている。また、空を見上げれば【幻獣機】たちが機領域を哨戒するかのように飛び交っていた。
 人間の世界とは180度異なる各領域の姿に綾香とエヴァは周囲をキョロキョロと見回しながら歩く。そんな彼女たちの様子に興味を持ったのがサイバー・エンド・ドラゴンだった。

「この世界が珍しいか? 人間の少女たちよ」
「えっ……うーん、私たちのいる世界とはやっぱり違うかな、とは思うな。こんなに機械機械していないし」
「私もオーバーハンドレッド・ナンバーズくらいの力があれば人に姿を変えて人間の世界に行ってみたかった。人間の世界でなら精霊の世界では学べないことを学ぶことができる」
「それだけの力を持っているのにまだ上を目指すんスか? サイバー・エンド・ドラゴンさんは完璧に近い力を持っているのに」
「完璧……か。パーフェクトとは一見聞こえがいいがそれはその者の限界を示す言葉でもある。故に私はより高みを目指していきたいと思っていた。最もそれが私の慢心に繋がってしまったのだが」
「そんなことはないさ。俺だってサイバー・エンドだってどこまでも上を目指している。向上心があるからこそここまで来れたんだ。そんなに自分を卑下することは無いさ」

 精霊とは自分たちの人知を超えた存在である、と綾香とエヴァは思っていたが、精霊界に来てからというものの、その考えがどこか違っていると思わせられるばかりだった。
 精霊は確かに人間にはない力を持っている。それでも光子竜のように冷静なのもいればスカーライトのように明るいものもおり、スターダストのようにどこか大人しいのもいる。ブラック・マジシャン・ガールのような人間に近い思考をしているものもいれば、サイバー・エンド・ドラゴンのように自分の在り方に想い悩むものもいる。その姿は人とはかけ離れていたとしても、彼らは皆人間と同じ心を持っていた。

(この精霊たちと私たちは……違うようで似ているのかしら?)
「着いたぞ。ここがこの機領域を治められる方の居城だ」

 サイバー・エンド・ドラゴンとジャンボドリルの案内でやってきたのは巨大な機械仕掛けの城であった。城門の歯車が回り、城の門が轟音を立てて開いた。

―――サイバー・エンド・ドラゴン、スーパービークロイド-ジャンボドリルよ。その者たちが話に聞く客人か?

 扉が開き、城の中に入ると何処からか重低音のような声が響いてきた。

「はっ、この者たちが人間界からの使者でございます」
―――そうか、では玉座まで案内せよ。
「承知仕りました」

 城門から数百メートルほど歩いたあたりで綾香たちは玉座のような部屋へとたどり着いた。しかし、その玉座の間と思われる場所にはライオンのような頭をした人間の銅像があるだけで誰もいなかった。

「……誰もいないじゃない。この領域を治めるNo.はどこにいるの?」
「ここにいるぞ」

 その声と共に玉座に座っていたライオンの頭をした人型のモンスターが立ち上がった。巨大なこのモンスターこそ広大な機領域を治めるNo.の1体である“No.88 ギミック・パペット-デステニー・レオ”である。






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160 第72話:決別の時 1777 3 2016-02-12 -
122 第73話:思いを一つに 1431 3 2016-02-15 -
109 第74話:邪なる同調 1556 2 2016-02-17 -
56 第75話:精霊の奇跡 1450 4 2016-02-19 -
118 第76話:星天の再会 1432 2 2016-02-22 -
120 第77話:ペンデュラムの脅威! 1474 4 2016-02-24 -
127 第78話:渾身のドロー 1702 2 2016-02-26 -
112 1万アクセス突破記念企画開催! 1883 0 2016-02-26 -
63 第79話:覇王黒竜の目覚め 1455 4 2016-02-28 -
54 第80話:進化する銀河龍 1540 2 2016-03-01 -
137 第81話:変わらぬ友情 1507 7 2016-03-03 -
118 第82話:集う決闘者 1758 6 2016-03-04 -
139 第83話:小さくたって決闘者 1738 7 2016-03-05 -
109 第84話:決意を秘めた決闘者 1474 9 2016-03-07 -
80 第85話:歩み始めた決闘者 1555 13 2016-03-08 -
127 第86話:真意を告げた決闘者 1638 7 2016-03-09 -
114 第87話:ポンコツ揃いな決闘者 1659 7 2016-03-10 -
74 第88話:とにかく可愛い決闘者・1 1576 10 2016-03-11 -
101 第89話:とにかく可愛い決闘者・2 1578 8 2016-03-13 -
99 第90話:五人五色な決闘者 1483 6 2016-03-14 -
136 遊希たちが4月改訂を語るようです 1513 8 2016-03-16 -
82 第91話:夕刻迎えし決闘者 1420 6 2016-03-16 -
96 第92話:解き放たれた決闘者 1654 6 2016-03-18 -
78 第93話:秘密を打ち明けた決闘者 1780 7 2016-03-20 -
73 第94話:一計案じる決闘者 1298 8 2016-03-22 -
83 第95話:絆深める決闘者 1472 10 2016-03-23 -
81 第96話:矛を交える決闘者・1 1429 9 2016-03-25 -
127 第97話:矛を交える決闘者・2 1358 6 2016-03-27 -
124 第98話:矛を交える決闘者・3 1479 7 2016-03-29 -
79 第99話:矛を交える決闘者・4 1442 7 2016-03-31 -
94 第100話:熱戦の決闘者・1 1414 6 2016-04-02 -
131 第101話:熱戦の決闘者・2 1450 10 2016-04-05 -
87 第102話:熱戦の決闘者・3 1473 11 2016-04-07 -
80 第103話:熱戦の決闘者・4 1415 6 2016-04-09 -
116 第104話:熱戦の決闘者・5 1558 6 2016-04-11 -
102 第105話:熱戦の決闘者・6 1479 6 2016-04-13 -
70 第106話:決戦に臨む決闘者・1 1436 6 2016-04-15 -
130 第107話:決戦に臨む決闘者・2 1502 11 2016-04-18 -
85 第108話:別れの時を迎える決闘者 1492 10 2016-04-20 -
76 番外編前編について遊希たちが語るようです 1519 6 2016-04-21 -
110 第109話:2通の手紙 1617 11 2016-04-23 -
98 第110話:青き眼のアトラクション 1519 6 2016-04-25 -
130 第111話:新時代のデュエル 1468 6 2016-04-27 -
92 第112話:ドラグーン 1390 6 2016-05-01 -
112 第113話:アクセラレーション! 1482 7 2016-05-03 -
119 第114話:熱気溢れしサーキット 1288 6 2016-05-06 -
141 第115話:新たなるブラックフェザー 1339 5 2016-05-10 -
136 第116話:疾走の果てに 1545 7 2016-05-12 -
57 第117話:ノンストップ・ガールズ 1563 6 2016-05-14 -
81 第118話:夏の終わり 1500 9 2016-05-16 -
123 第119話:謎の美少女 1556 4 2016-05-19 -
90 第120話:真・究極 1425 8 2016-05-21 -
65 第121話:遊希の動揺、遊望の微笑 1388 4 2016-05-23 -
71 第122話:聖夜の悲劇 1345 6 2016-05-25 -
61 30000アクセス記念企画を少々。 1247 5 2016-05-27 -
83 第123話:姉として 1364 3 2016-05-29 -
74 第124話:対峙する竜と龍 1421 3 2016-06-01 -
64 第125話:顕現せし遊望の精霊 1482 5 2016-06-03 -
67 第126話:No.(ナンバーズ) 1485 4 2016-06-06 -
109 第127話:届かぬ言葉 1460 7 2016-06-08 -
78 30000アクセス記念企画 1669 4 2016-06-10 -
72 第128話:白紙のカード 1401 6 2016-06-14 -
125 第129話:青空の下で 1285 3 2016-06-17 -
136 第130話:白いドラゴンとの邂逅 1563 4 2016-06-20 -
78 第131話:試練のデュエル 1397 4 2016-06-23 -
70 第132話:第四の精霊 1342 5 2016-06-26 -
116 第133話:舞い降りる閃珖竜 1456 4 2016-06-29 -
72 第134話:親友に託された力 1378 3 2016-07-02 -
105 第135話:涙の誓い 1366 4 2016-07-06 -
107 第136話:次元転送装置 1320 3 2016-07-09 -
102 第137話:新たなる竜星 1468 5 2016-07-12 -
64 第138話:綾香の忘れたもの 1405 4 2016-07-15 -
138 第139話:決闘者たちの選択 1262 5 2016-07-19 -
111 第140話:2人の真意 1331 7 2016-07-24 -
74 第141話:精霊界への旅立ち 1359 4 2016-07-28 -
74 第142話:黒き魔術師と弟子 1310 3 2016-08-02 -
125 第143話:七星将軍の襲撃 1361 3 2016-08-05 -
94 精霊界 登場キャラクター(9/14更新) 1387 0 2016-08-07 -
78 第144話:英雄と炎拳・1 1331 5 2016-08-10 -
77 第145話:英雄と炎拳・2 1274 4 2016-08-14 -
73 第146話:騎士王の覚醒 1274 6 2016-08-17 -
89 第147話:竜姫神と岩の合成獣・1 1455 3 2016-08-21 -
82 第148話:竜姫神と岩の合成獣・2 1306 2 2016-08-23 -
54 第149話:過去への鎮魂歌 1346 7 2016-08-26 -
96 50000アクセス記念企画~短編集・1~ 1358 3 2016-08-28 -
92 第150話:機械の身体に宿る心 1180 0 2016-08-31 -
63 第151話:空を超えて 1149 0 2016-09-03 -
125 第152話:竜と機械の大会戦 1235 0 2016-09-08 -
64 第153話:竜領域のナンバーズ 1295 0 2016-09-13 -
88 50000アクセス記念企画~短編集・2~ 1532 7 2016-09-17 -
110 遊希たちが10月改訂を語るようです 1321 4 2016-09-19 -
89 第154話:望まぬ戦い 1221 2 2016-09-23 -
74 第155話:正しさと過ち 1197 4 2016-09-27 -
67 第156話:少女の決意 1313 2 2016-10-01 -
125 第157話:遊希に起きた異変 1439 4 2016-10-05 -
119 第158話:未知なるデッキ 玻星光 1369 3 2016-10-08 -
123 第159話:玻璃の如く純粋に 1339 2 2016-10-12 -
113 第160話:限界を超えて 1300 3 2016-10-15 -
137 第161話:決戦 1314 3 2016-10-18 -
106 第162話:精神の成長 1289 2 2016-10-21 -
57 第163話:聖なる珖放つ神の竜 1325 4 2016-10-24 -
51 第164話:絆が紡いだ道 1434 6 2016-10-27 -
74 第165話:戦いの終わり 1353 4 2016-10-30 -
68 番外編 Trick or Treat 1230 5 2016-10-31 -
121 第166話:終わりの始まり 1465 9 2016-11-04 -
114 第167話:最期のワガママ 1494 4 2016-11-07 -
128 第168話:声なき再会の誓い 1357 4 2016-11-10 -
100 番外編:11月11日 1249 5 2016-11-11 -
80 第169話:七皇激突 1182 3 2016-11-15 -
57 第170話:怒りに生まれし竜 1165 3 2016-11-17 -
142 第171話:紅き新星竜 1508 5 2016-11-19 -
87 第172話:未来を賭けた戦い・1 1367 4 2016-11-22 -
128 第173話:未来を賭けた戦い・2 1291 3 2016-11-24 -
135 第174話:未来を賭けた戦い・3 1272 4 2016-11-28 -
141 第175話:神の目覚め(修正済) 1265 5 2016-11-30 -
157 第176話:ゴッド・ナンバーズ 1691 5 2016-12-02 -
110 第177話:次元を越える想い 1528 4 2016-12-05 -
146 第178話:天地創造の龍 1502 3 2016-12-07 -
114 第179話:希望への道 1391 3 2016-12-09 -
141 第180話:別れの時 1294 4 2016-12-11 -
113 第181話:少女たちの帰還 1257 5 2016-12-13 -
67 遊希たちが1月改訂を語るようです 1201 7 2016-12-15 -
130 第182話:バースデイ 1456 3 2016-12-17 -
105 第183話:星龍皇覚醒・1 1289 3 2016-12-19 -
120 第184話:星龍皇覚醒・2 1313 4 2016-12-21 -
89 第185話:星龍皇覚醒・3 1165 4 2016-12-22 -
107 番外編:一番のプレゼント 1255 5 2016-12-25 -
126 第186話:星龍皇覚醒・4(修正済) 1370 3 2016-12-26 -
108 星龍皇 設定・カード紹介 1401 0 2016-12-29 -
73 第187話:星龍皇覚醒・5 1267 4 2016-12-30 -
111 番外編:新年 1254 4 2017-01-01 -
87 第188話:星龍皇覚醒・6 1143 2 2017-01-04 -
124 第189話:星龍皇覚醒・7 1265 3 2017-01-07 -
66 第190話:神星龍皇と課せられた運命 1456 3 2017-01-09 -
137 エピローグ:未来 1718 10 2017-01-13 -
102 番外編:2月3日 1266 4 2017-02-03 -
98 番外編:愛と友情のチョコレート 1068 4 2017-02-14 -
89 番外編:桃(色)の節句 1143 4 2017-03-04 -
133 感謝とお知らせ 1290 2 2017-05-04 -
92 番外編:Gift 1161 2 2017-12-25 -
149 ゴブリンと青眼(ブルーアイズ) 1138 2 2018-01-14 -
122 アフターストーリー:星乃 綾香編・1 1801 2 2018-05-24 -
91 アフターストーリー:星乃 綾香編・2 1035 2 2018-05-28 -
103 アフターストーリー:星乃 綾香編・3 953 2 2018-05-30 -
132 アフターストーリー:星乃 綾香編・4 1124 2 2018-06-03 -
122 アフターストーリー:星乃 綾香編・5 1125 4 2018-06-06 -
63 アフターストーリー:陽川 千夏編・1 881 2 2018-08-14 -
74 アフターストーリー:陽川 千夏編・2 884 3 2018-08-20 -
114 アフターストーリー:陽川 千夏編・3 913 3 2018-08-23 -
76 アフターストーリー:陽川 千夏編・4 927 2 2018-08-25 -
47 アフターストーリー:陽川 千夏編・5 811 3 2018-08-30 -
72 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・1 945 2 2018-09-01 -
212 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・2 1059 3 2018-09-07 -
106 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・3 787 0 2018-09-09 -
71 『雪と光竜と夢幻世界』コラボ・4 886 3 2018-09-12 -
126 番外編:願う幸福 1493 2 2018-12-25 -

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