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第六十六話「ダークヒーロー!ヴェンデット 作:イクス
第六十六話「ダークヒーロー! ヴェンデット」
夜、闇夜に紛れて活動を行うモンスターがいる。一つのそれは、数々の生き物を取り込み、己のものとしていく。死人、野鳥、野犬、多くの依代を得たそれは、人々を一方的に蹂躙していった。
その名は、『ヴェンデット』。人々の悪意や怨念が、彼らを生み出したと、誰かが語っていた。
この男も、例外ではなかった。目の前で愛する者を殺され、心身共に取り込まれるはずだった。
だが、この男は違った。愛する者を、目の前で殺された怒りが、失った悲しみが、奪われた憎悪が、体を蝕まれようとも心までは奪われなかった。
そうして、男は奴らと同じモノでありながら、奴らを殺す存在となった。
彼は俗に、こう呼ばれるようになった。ヴェンデットを殺す者。『リヴェンデット・スレイヤー』と……。
といった具合の漫画を、遊太たちはゲームショップ烏間で読んでいた。
「「カッコイイ~!(じゃん)(デス)」」
「ですよね~!」
「僕も、喜んでもらえてうれしいよ!」
「うん。僕らもいきなり真薄君から紹介された時は驚いたけど、すっごく面白いよヒロシくん!」
「ヒロシ君は、小さい頃からアメリカのコミックを集めていて、中でもヴェンデットシリーズは一番好きなんですよ!」
このヴェンデットシリーズの漫画を紹介したのは、今日いきなり真薄から紹介を受けた桧山ヒロシという、遊太たちと同じ小学校に通う、クラスは違うが同じ学年の子だった。
なんでも、偶然ヒロシのヴェンデットを見た真薄が、それをいたく気に入り、自分のコスモ・ヒーローシリーズを紹介してみたら、意気投合したらしいとのこと。
そして、真薄が今日遊太たちに改めて紹介したのである。
漫画は面白いが、ちょっとした疑問を菊姫は語る。
「しっかしまあ、どうしてこのアメリカのコミック……アメコミってヤツはやけにガタイの良い、というか筋肉ヤロウが多いのかねえ。リヴェンデット・スレイヤーもマッチョとはいかずとも、なかなかすっげえ筋肉だしさあ」
それに対し、ヒロシが。
「リヴェンデット・スレイヤーは、ただの筋肉ヤロウじゃないよ! 愛する者を殺され、復讐のためにヴェンデットに身をやつした男は、周りの人間から化け物と言われようとも、ヴェンデットとなった人間を殺して鬼と言われても、自らのため、愛する者の眠りのため、ヴェンデットを殺していく姿まさに復讐鬼……だが、殺すのはヴェンデットだけという人間としての心も忘れないところがいいんだよ! 人間としての心と、ヴェンデットとしての狂気、そして復讐という憎悪の3つが入り交じった、ダークヒーロー中のダークヒーローなんだよ!」
「そうですよ菊姫さん! この単なる勧善懲悪にはならない、愛憎やいかんともしがたい感情が、ダークヒーローにしか出せない凄みなんですよ~」
「お、おう……(なんだかんだ言って、真薄もすげえ好きになっているじゃねえか)」
「そこらへんは、真薄と同じなんじゃん!」
ひとしきり語り終わると、真薄はヒロシに。
「でもヒロシ君、確かによくよく考えてみると、日本とアメリカのヒーローって違いますよね。日本のはスラッとしてシュッとした、いわばスタイリッシュな造形が多いですよ。いわば、曲線を中心とした、流線形のヒーローが。対してアメリカは、男の強さである筋肉を中心とした、ガッチリとしててムキッとした、肉体美の究極系といった造形が中心。普通とは違いますからね。ほら、たとえばこのブローとか……」
「確かにそうだな……日本は細くて、アメリカは太い。ヒーローの基本が根本から違ってんだよな」
「でも、いくら特殊能力があるとはいえ、日本のはちょっと細すぎると思いませんか? いや、ついている人はついているんでしょうけど、最近のはちょっと痩せすぎヒーローが多いような」
「だよなー。あの筋肉モリモリのジェイドですら、クラッシャーと並ぶと『なんか弱そう……』って見えちゃうのに、日本のはなんかナヨナヨしすぎなんだよなー」
「でも、日本のは全く別人になったり、アーマーつけたりすることが多いですからそこでバランスをとっているのではありませんか?」
「確かに日本のコスチュームは、それじゃなきゃダメだというのがあったり、元の姿とは全然違う姿になるから、そっちでバランスとれているのか?」
「アメリカのは、どっちかというとコスチュームは個人の趣味といった活動するための何かといった感じで、別に無くても良いといった感じがすごいですよね」
「そのせいかしょっちゅう破けたり壊れたりするしな」
「日本のは特別製なのに対して、アメリカのは自分の手作りだったりで、しょっちゅう直したりしてますよね」
「コスチューム一つとっても、日本とアメリカにはここまで差が……」
といった具合に、遊太たちを置き去りにしてヒーローについて語り合う真薄とヒロシ。その姿に、どこか良い物を感じるみんなであった。
「そーいや僕たち、真薄くんとデュエルについて語り合うことはあっても、真薄君の好きなカードヒーローとかについてはあんまり話したことなかったよね。会った当初はあっても」
「なんか嬉しそうなのは、それもあんのかなあ」
「でも、熱心に見てたのは遊太くらいで、俺たちはそんなに……っていった感じじゃん?」
「やっぱり、大好きなものは思いっきり語りたいんだろうねえ。ね、ユイ……ユイ?」
遊太が振り返ると、そこには涙を流していたユイがいた。
「ゆ、ユイ……?」
「感動しマシた……。復讐を遂げたスレイヤーサンが、『終わったよ……』と、言いながら日の光を浴びて死んでいく姿が……やっと、彼が存在する必要が無くなったと言うべき時が来たのを感じて……ウゥッ……」
「ガチ泣き……一気に読んじゃったかぁ……」
「実際、そんななるくらいには人気なのよね~ヴェンデットシリーズ」
「か、烏間さんもですか?」
「最近、ウチでも小規模ながらヴェンデットシリーズをそろえ始めたのよ。アイツに頼んで」
「ほえ~、そうなのかー」
一方、ヒーロー談義を終えたヒロシは、真薄にある提案をする。
「そうだ! 今日、ウチに来ない? 僕が集めたヴェンデットシリーズのアレコレがたくさんあるから!」
「本当ですか!? じゃあ行きましょう! あ、みんなも連れて行って良いですか?」
「もちろん!」
「じゃあ、みんなも行きましょうよ。すごいモノ見せてくれそうですよ!」
「そうだね、特に予定もないし……行ってみようか。みんなも、それで良いよね?」
「まー、ここにいる時点で、暇なのは当然だからな。アタシらも行くかあ!」
そうして、ヒロシの家へとやってきた遊太たちなのであった。
「じゃあ、ゆっくりしてくれよ!」
「す、すっげー!」
「これはこれは……! ヴェンデットがたくさんだぁ……」
ヒロシの部屋に連れてこられた遊太たちは、ヒロシの部屋を見て驚く。ベッドや机以外のいたるところに、ヴェンデットのグッズであふれていた。棚にはフィギュアやコミック、ゲームなどがあった。そして壁にはポスターといった具合に、ヴェンデットまみれであった。
「すげーなコレ……どうやって集めたんだよ?」
「僕のお父さんが海外で仕事をしていることが多いから、それでよく頼んだり自分で買ってきてくれるんだ!」
「確かに、コレとか日本じゃ絶対手に入らないゴールドレアのフィギュアですよね。それとコレ……カード? デュエルモンスターズの?」
「あー! それ最近手に入れたヤツ! 海外で先行発売されて、日本でもやっと発売されたヴェンデットカード!」
「え、ヴェンデットってカードになってたの?」
「うん、アメリカのミナコ社でコラボしてて、それでデュエルのカードにもなっているんだ」
「ほー、カードにもなってたなんてな。で、デュエルしたりすんの?」
「デュエルはしない。カードとして眺めてるだけ」
「えー、なんかもったいねー」
「まあ、トレーディングカードっても言うし、コレクトするだけの人も多いじゃん?」
「僕も以前は、そんな感じでしたし……」
「しっかしまあ、こうもヴェンデットだらけだと、すごいもんだなあ」
「一色はすごすぎだねえ」
「そんなにそうかなあ?」
遊太たちがそう会話していると、部屋のドアが開いた。
「あら、ヒロシのお友達? しかもこんなにつれて来て」
「あ、お母さん。そうなんだよ、今日連れてきたんだ」
「お母さん?」
眼鏡をかけた、そこそこ年の行った女性が現れた。ヒロシの母親のようだ。
「そういえばヒロシ、もう一人お客さんが来てたわよ」
「お客さん? 誰?」
「やあヒロシ、帰ってきたよ」
「あ、お父さん! 今日帰って来たんだー!」
「おいおい親父さんまで来たのかよ」
「僕たち、なーんかちょうど良いタイミングで来ちゃったみたいだねえ」
「ヒロシ、今回もヴェンデットシリーズのヤツ買ってきたんだけど、見てみるかい?」
「えー、何々? 何?」
「ちょっと大きいから、リビングで見ようか」
「えー、何?」
そうして、ヒロシは行ってしまった。そうして、リビングの方から声が聞こえてくる。
「うわー! すっごー! ホントにコレ良いのー!?」
「ああ、お前のためなら問題ナッシングさ!」
これを聞いて、遊太たちも考える。
「……何買ってきたんだろう?」
「少なくとも、あれだけコレクションを持ってるアイツが、すごいという代物だろうな?」
「等身大フィギュアとかでしょうか?」
「イベント限定で発売されたものじゃないかじゃん?」
「何にせよ、凄いモノみたいだけど……ヒロシ君来ないねえ。こっちに」
「なんで? 重いものなのか?」
「しっかしまあ、見れば見るほどすごい量だなこのヴェンデットシリーズ……ほれ、フィギュアだけじゃなく、ガレージキットや塊から作るフィギュアまであるぜ」
「ガレージキット?」
「組み立て式の模型だよ。パーツとか組み合わせて、スプレーとかのり付けしたりして組み立てるんだよ。の、割には箱のまんまなんだなあ」
「塊から作るヤツって何じゃん?」
「ああ、原型はプラスティックの塊で、そこからいろいろ細工して作るヤツなんだよ」
「作れるの?」
「スプレーとか接着剤とか、いろんなヤツ必要だから作れねーなー。少なくとも、勝手に作っちゃ迷惑なんじゃねえか? こーいうのは、箱のまま取っておきたいヤツもいるだろうし」
「ふーん。コレクター魂っていうものなのかな?」
「あー! ソレ開けちゃダメ! 箱のまま取っておこうと思ってたのにー!」
ドアから入って来たのは、ミニサイズの『リヴェンデット・スレイヤー』? だった。
「え、お前ヒロシか!?」
「それって、着ぐるみかなにか? カードのコレとそっくりだけど……」
「あ、うんそうなんだ! コレ、ジュニアサイズの『リヴェンデット・スレイヤー』スーツなんだ。どう? かっこいいでしょ?」
「うん、すごくかっこいいです!」
「ここまでリアルに再現するたあ、さすがアメリカ。やることが違いすぎる」
「すげえじゃん!」
「ここまで再現されているとは、すごいデス!」
そうして、コスプレやアレやコレを見てひとしきりヴェンデットを堪能した遊太たちは、ヒロシの家から帰路につくことにした。
「それじゃあ、また明日ねー」
「うん、今日はウチに来てくれてありがとう! 今日は楽しかったよ!」
「んじゃなー!」
そうして、遊太たちが帰ろうとしたとき、ヒロシが言った。
「あ、あのさあ……真薄君、遊太君!」
「ん? 何?」
「あ、あのさ……また来てくれるよね?」
「当然じゃん。誘われたら行くよ」
「また、ヴェンデットのアレやコレを見せてくれよな」
「じゃ~ん!」
「ワタシも、一緒に来ますデスよ!」
「それじゃあね!」
「あ、うん。そうだよね! んじゃ!」
「うん、それじゃあね~」
そうして、遊太たちは帰って行った。残ったヒロシの両親はというと。
「良い子たちだったわね」
「ヒロシは良い友達を持ったもんだ……」
といった具合に、満足そうであった。ヒロシも同じく。
その夜。
「楽しかったなあ……僕の家に友達があんなに来て、ヴェンデットのことをすごく褒めてくれて!」
自分の部屋で、一人今日のことを思い出していた。
「あんな風に、家に友達呼んだのって今まで初めてのことだったなあ……ちょっと前までは、ずーっと一人で眺めていたから……」
思いにふけりながら、ポスターを見てみる。
「ヴェンデットかあ……」
そう語ると、部屋の隅にかけてある『リヴェンデット・スレイヤー』のスーツを見てみる。
「な、なんか……みんなが良いって言ってくれたアレ、もう一回着てみたいな……」
そうして、遊太たちに見せた時のようにまた、そのスーツを着ることにした。
「イヤアー! やっぱカッコイイーなあ! 闇夜を切り裂き、荒廃した都市を駆けていく、ヴェンデット……」
ポスターをもう一回見て、胸に考えたものがあった。
(闇夜を切り裂きかあ……ヴェンデットは元々夜しか活動できないヤツだけど、夜の町が似合うんだ! ……よし、この格好で外に出てみようかな……ちょっとだけ、ちょっとだけ……見られたらすぐ逃げれば良いし……)
そうして、窓から出て屋根伝いに降りていき、道路に出るヒロシ。そうして、夜の町を駆けていく。……もちろん人に見られないルートで。
これには、ヒロシも結構興奮する。
(な、なんかすごい気分だ……ホントのスレイヤーになった気がする……この感じ、なあんか癖になりそーだな)
そうしてしばらく夜の町を歩いて、公園の近くまで来た。
(は、ハハ……ちょっとだけなはずなのに、こんなところまで来ちゃって……もしかして、本格的にクセになってる? ハハハ……)
すると、目に入ったものがあった。
「オラオラー! テメエなにしてくれちゃってんの!?」
「わかったら出すモン出しなよクソオヤジ」
(えっ!?)
目の前に見えたのは、どうやらチンピラ数名と囲まれているオヤジ。どうやらオヤジ狩りの最中であったようだ。
(ヤバ……オヤジ狩りって……巻き込まれでもしたら、僕まで一環の終わりじゃん……逃げよう……)
だが、目の前のひどい行いを見て、そのまま見過ごすのはいかがなものかとも考えた。だが……。
(……ダメだよね。力もないのに余計なことに首突っ込んじゃ。それに『リヴェンデット・スレイヤー』は、人間には決して手出ししないって話だし……)
そうして、その場から立ち去ろうとしたヒロシだったが。
「そのまま逃げるのは感心しないな、同胞よ」
「えっ!?」
ヒロシの目の前にいたのは、自分と同じ『リヴェンデット・スレイヤー』のコスチュームをした自分よりも大きな人だった。
「だ、誰……? というか同胞って……」
「同じ姿をしているモノなら、同胞だ。悪を目の前にして、逃げ出すとはなっとらんぞ」
「ちょ……どういうこと?」
「ヒーローなら、目の前の悪には容赦なき鉄槌を下すべきなのだ!」
「は!?」
そうして、その人はいきなりオヤジ狩りの人間のところへ割り込んでゆき、とっちめ……。
いや、限りなく一方的な暴力をオヤジ狩りどもに浴びせた。その光景は、ヒロシやオヤジもドン引きするほどであった。
殴られたチンピラは、鼻が手術しなければいけないほど曲がり、もう一方は歯が折れて血がぴゅーっと飛び出すほどであった。
「あ、ああ……」
ヒロシは、ただただ恐れていた。そうして、その男が向かってくる。
「お前も同胞なら、私と同じことをやろう。なあに、最初はためらうかもしれないが、なれれば容赦なくやれるようになるだろう」
「いや、僕は……」
「お前もまた、私と共に戦う運命にあるのだ。……翌日の夜、お前を迎えにいく。共に、悪を滅して行こうではないか」
「あ、ちょっと……」
その男は、言うだけ言うと去って行った。残されたヒロシはというと。
「ど、どうしよう……」
何かとんでもないことに巻き込まれたのだと思い、立ち尽くすだけだった。
第六十六話。終わり。
夜、闇夜に紛れて活動を行うモンスターがいる。一つのそれは、数々の生き物を取り込み、己のものとしていく。死人、野鳥、野犬、多くの依代を得たそれは、人々を一方的に蹂躙していった。
その名は、『ヴェンデット』。人々の悪意や怨念が、彼らを生み出したと、誰かが語っていた。
この男も、例外ではなかった。目の前で愛する者を殺され、心身共に取り込まれるはずだった。
だが、この男は違った。愛する者を、目の前で殺された怒りが、失った悲しみが、奪われた憎悪が、体を蝕まれようとも心までは奪われなかった。
そうして、男は奴らと同じモノでありながら、奴らを殺す存在となった。
彼は俗に、こう呼ばれるようになった。ヴェンデットを殺す者。『リヴェンデット・スレイヤー』と……。
といった具合の漫画を、遊太たちはゲームショップ烏間で読んでいた。
「「カッコイイ~!(じゃん)(デス)」」
「ですよね~!」
「僕も、喜んでもらえてうれしいよ!」
「うん。僕らもいきなり真薄君から紹介された時は驚いたけど、すっごく面白いよヒロシくん!」
「ヒロシ君は、小さい頃からアメリカのコミックを集めていて、中でもヴェンデットシリーズは一番好きなんですよ!」
このヴェンデットシリーズの漫画を紹介したのは、今日いきなり真薄から紹介を受けた桧山ヒロシという、遊太たちと同じ小学校に通う、クラスは違うが同じ学年の子だった。
なんでも、偶然ヒロシのヴェンデットを見た真薄が、それをいたく気に入り、自分のコスモ・ヒーローシリーズを紹介してみたら、意気投合したらしいとのこと。
そして、真薄が今日遊太たちに改めて紹介したのである。
漫画は面白いが、ちょっとした疑問を菊姫は語る。
「しっかしまあ、どうしてこのアメリカのコミック……アメコミってヤツはやけにガタイの良い、というか筋肉ヤロウが多いのかねえ。リヴェンデット・スレイヤーもマッチョとはいかずとも、なかなかすっげえ筋肉だしさあ」
それに対し、ヒロシが。
「リヴェンデット・スレイヤーは、ただの筋肉ヤロウじゃないよ! 愛する者を殺され、復讐のためにヴェンデットに身をやつした男は、周りの人間から化け物と言われようとも、ヴェンデットとなった人間を殺して鬼と言われても、自らのため、愛する者の眠りのため、ヴェンデットを殺していく姿まさに復讐鬼……だが、殺すのはヴェンデットだけという人間としての心も忘れないところがいいんだよ! 人間としての心と、ヴェンデットとしての狂気、そして復讐という憎悪の3つが入り交じった、ダークヒーロー中のダークヒーローなんだよ!」
「そうですよ菊姫さん! この単なる勧善懲悪にはならない、愛憎やいかんともしがたい感情が、ダークヒーローにしか出せない凄みなんですよ~」
「お、おう……(なんだかんだ言って、真薄もすげえ好きになっているじゃねえか)」
「そこらへんは、真薄と同じなんじゃん!」
ひとしきり語り終わると、真薄はヒロシに。
「でもヒロシ君、確かによくよく考えてみると、日本とアメリカのヒーローって違いますよね。日本のはスラッとしてシュッとした、いわばスタイリッシュな造形が多いですよ。いわば、曲線を中心とした、流線形のヒーローが。対してアメリカは、男の強さである筋肉を中心とした、ガッチリとしててムキッとした、肉体美の究極系といった造形が中心。普通とは違いますからね。ほら、たとえばこのブローとか……」
「確かにそうだな……日本は細くて、アメリカは太い。ヒーローの基本が根本から違ってんだよな」
「でも、いくら特殊能力があるとはいえ、日本のはちょっと細すぎると思いませんか? いや、ついている人はついているんでしょうけど、最近のはちょっと痩せすぎヒーローが多いような」
「だよなー。あの筋肉モリモリのジェイドですら、クラッシャーと並ぶと『なんか弱そう……』って見えちゃうのに、日本のはなんかナヨナヨしすぎなんだよなー」
「でも、日本のは全く別人になったり、アーマーつけたりすることが多いですからそこでバランスをとっているのではありませんか?」
「確かに日本のコスチュームは、それじゃなきゃダメだというのがあったり、元の姿とは全然違う姿になるから、そっちでバランスとれているのか?」
「アメリカのは、どっちかというとコスチュームは個人の趣味といった活動するための何かといった感じで、別に無くても良いといった感じがすごいですよね」
「そのせいかしょっちゅう破けたり壊れたりするしな」
「日本のは特別製なのに対して、アメリカのは自分の手作りだったりで、しょっちゅう直したりしてますよね」
「コスチューム一つとっても、日本とアメリカにはここまで差が……」
といった具合に、遊太たちを置き去りにしてヒーローについて語り合う真薄とヒロシ。その姿に、どこか良い物を感じるみんなであった。
「そーいや僕たち、真薄くんとデュエルについて語り合うことはあっても、真薄君の好きなカードヒーローとかについてはあんまり話したことなかったよね。会った当初はあっても」
「なんか嬉しそうなのは、それもあんのかなあ」
「でも、熱心に見てたのは遊太くらいで、俺たちはそんなに……っていった感じじゃん?」
「やっぱり、大好きなものは思いっきり語りたいんだろうねえ。ね、ユイ……ユイ?」
遊太が振り返ると、そこには涙を流していたユイがいた。
「ゆ、ユイ……?」
「感動しマシた……。復讐を遂げたスレイヤーサンが、『終わったよ……』と、言いながら日の光を浴びて死んでいく姿が……やっと、彼が存在する必要が無くなったと言うべき時が来たのを感じて……ウゥッ……」
「ガチ泣き……一気に読んじゃったかぁ……」
「実際、そんななるくらいには人気なのよね~ヴェンデットシリーズ」
「か、烏間さんもですか?」
「最近、ウチでも小規模ながらヴェンデットシリーズをそろえ始めたのよ。アイツに頼んで」
「ほえ~、そうなのかー」
一方、ヒーロー談義を終えたヒロシは、真薄にある提案をする。
「そうだ! 今日、ウチに来ない? 僕が集めたヴェンデットシリーズのアレコレがたくさんあるから!」
「本当ですか!? じゃあ行きましょう! あ、みんなも連れて行って良いですか?」
「もちろん!」
「じゃあ、みんなも行きましょうよ。すごいモノ見せてくれそうですよ!」
「そうだね、特に予定もないし……行ってみようか。みんなも、それで良いよね?」
「まー、ここにいる時点で、暇なのは当然だからな。アタシらも行くかあ!」
そうして、ヒロシの家へとやってきた遊太たちなのであった。
「じゃあ、ゆっくりしてくれよ!」
「す、すっげー!」
「これはこれは……! ヴェンデットがたくさんだぁ……」
ヒロシの部屋に連れてこられた遊太たちは、ヒロシの部屋を見て驚く。ベッドや机以外のいたるところに、ヴェンデットのグッズであふれていた。棚にはフィギュアやコミック、ゲームなどがあった。そして壁にはポスターといった具合に、ヴェンデットまみれであった。
「すげーなコレ……どうやって集めたんだよ?」
「僕のお父さんが海外で仕事をしていることが多いから、それでよく頼んだり自分で買ってきてくれるんだ!」
「確かに、コレとか日本じゃ絶対手に入らないゴールドレアのフィギュアですよね。それとコレ……カード? デュエルモンスターズの?」
「あー! それ最近手に入れたヤツ! 海外で先行発売されて、日本でもやっと発売されたヴェンデットカード!」
「え、ヴェンデットってカードになってたの?」
「うん、アメリカのミナコ社でコラボしてて、それでデュエルのカードにもなっているんだ」
「ほー、カードにもなってたなんてな。で、デュエルしたりすんの?」
「デュエルはしない。カードとして眺めてるだけ」
「えー、なんかもったいねー」
「まあ、トレーディングカードっても言うし、コレクトするだけの人も多いじゃん?」
「僕も以前は、そんな感じでしたし……」
「しっかしまあ、こうもヴェンデットだらけだと、すごいもんだなあ」
「一色はすごすぎだねえ」
「そんなにそうかなあ?」
遊太たちがそう会話していると、部屋のドアが開いた。
「あら、ヒロシのお友達? しかもこんなにつれて来て」
「あ、お母さん。そうなんだよ、今日連れてきたんだ」
「お母さん?」
眼鏡をかけた、そこそこ年の行った女性が現れた。ヒロシの母親のようだ。
「そういえばヒロシ、もう一人お客さんが来てたわよ」
「お客さん? 誰?」
「やあヒロシ、帰ってきたよ」
「あ、お父さん! 今日帰って来たんだー!」
「おいおい親父さんまで来たのかよ」
「僕たち、なーんかちょうど良いタイミングで来ちゃったみたいだねえ」
「ヒロシ、今回もヴェンデットシリーズのヤツ買ってきたんだけど、見てみるかい?」
「えー、何々? 何?」
「ちょっと大きいから、リビングで見ようか」
「えー、何?」
そうして、ヒロシは行ってしまった。そうして、リビングの方から声が聞こえてくる。
「うわー! すっごー! ホントにコレ良いのー!?」
「ああ、お前のためなら問題ナッシングさ!」
これを聞いて、遊太たちも考える。
「……何買ってきたんだろう?」
「少なくとも、あれだけコレクションを持ってるアイツが、すごいという代物だろうな?」
「等身大フィギュアとかでしょうか?」
「イベント限定で発売されたものじゃないかじゃん?」
「何にせよ、凄いモノみたいだけど……ヒロシ君来ないねえ。こっちに」
「なんで? 重いものなのか?」
「しっかしまあ、見れば見るほどすごい量だなこのヴェンデットシリーズ……ほれ、フィギュアだけじゃなく、ガレージキットや塊から作るフィギュアまであるぜ」
「ガレージキット?」
「組み立て式の模型だよ。パーツとか組み合わせて、スプレーとかのり付けしたりして組み立てるんだよ。の、割には箱のまんまなんだなあ」
「塊から作るヤツって何じゃん?」
「ああ、原型はプラスティックの塊で、そこからいろいろ細工して作るヤツなんだよ」
「作れるの?」
「スプレーとか接着剤とか、いろんなヤツ必要だから作れねーなー。少なくとも、勝手に作っちゃ迷惑なんじゃねえか? こーいうのは、箱のまま取っておきたいヤツもいるだろうし」
「ふーん。コレクター魂っていうものなのかな?」
「あー! ソレ開けちゃダメ! 箱のまま取っておこうと思ってたのにー!」
ドアから入って来たのは、ミニサイズの『リヴェンデット・スレイヤー』? だった。
「え、お前ヒロシか!?」
「それって、着ぐるみかなにか? カードのコレとそっくりだけど……」
「あ、うんそうなんだ! コレ、ジュニアサイズの『リヴェンデット・スレイヤー』スーツなんだ。どう? かっこいいでしょ?」
「うん、すごくかっこいいです!」
「ここまでリアルに再現するたあ、さすがアメリカ。やることが違いすぎる」
「すげえじゃん!」
「ここまで再現されているとは、すごいデス!」
そうして、コスプレやアレやコレを見てひとしきりヴェンデットを堪能した遊太たちは、ヒロシの家から帰路につくことにした。
「それじゃあ、また明日ねー」
「うん、今日はウチに来てくれてありがとう! 今日は楽しかったよ!」
「んじゃなー!」
そうして、遊太たちが帰ろうとしたとき、ヒロシが言った。
「あ、あのさあ……真薄君、遊太君!」
「ん? 何?」
「あ、あのさ……また来てくれるよね?」
「当然じゃん。誘われたら行くよ」
「また、ヴェンデットのアレやコレを見せてくれよな」
「じゃ~ん!」
「ワタシも、一緒に来ますデスよ!」
「それじゃあね!」
「あ、うん。そうだよね! んじゃ!」
「うん、それじゃあね~」
そうして、遊太たちは帰って行った。残ったヒロシの両親はというと。
「良い子たちだったわね」
「ヒロシは良い友達を持ったもんだ……」
といった具合に、満足そうであった。ヒロシも同じく。
その夜。
「楽しかったなあ……僕の家に友達があんなに来て、ヴェンデットのことをすごく褒めてくれて!」
自分の部屋で、一人今日のことを思い出していた。
「あんな風に、家に友達呼んだのって今まで初めてのことだったなあ……ちょっと前までは、ずーっと一人で眺めていたから……」
思いにふけりながら、ポスターを見てみる。
「ヴェンデットかあ……」
そう語ると、部屋の隅にかけてある『リヴェンデット・スレイヤー』のスーツを見てみる。
「な、なんか……みんなが良いって言ってくれたアレ、もう一回着てみたいな……」
そうして、遊太たちに見せた時のようにまた、そのスーツを着ることにした。
「イヤアー! やっぱカッコイイーなあ! 闇夜を切り裂き、荒廃した都市を駆けていく、ヴェンデット……」
ポスターをもう一回見て、胸に考えたものがあった。
(闇夜を切り裂きかあ……ヴェンデットは元々夜しか活動できないヤツだけど、夜の町が似合うんだ! ……よし、この格好で外に出てみようかな……ちょっとだけ、ちょっとだけ……見られたらすぐ逃げれば良いし……)
そうして、窓から出て屋根伝いに降りていき、道路に出るヒロシ。そうして、夜の町を駆けていく。……もちろん人に見られないルートで。
これには、ヒロシも結構興奮する。
(な、なんかすごい気分だ……ホントのスレイヤーになった気がする……この感じ、なあんか癖になりそーだな)
そうしてしばらく夜の町を歩いて、公園の近くまで来た。
(は、ハハ……ちょっとだけなはずなのに、こんなところまで来ちゃって……もしかして、本格的にクセになってる? ハハハ……)
すると、目に入ったものがあった。
「オラオラー! テメエなにしてくれちゃってんの!?」
「わかったら出すモン出しなよクソオヤジ」
(えっ!?)
目の前に見えたのは、どうやらチンピラ数名と囲まれているオヤジ。どうやらオヤジ狩りの最中であったようだ。
(ヤバ……オヤジ狩りって……巻き込まれでもしたら、僕まで一環の終わりじゃん……逃げよう……)
だが、目の前のひどい行いを見て、そのまま見過ごすのはいかがなものかとも考えた。だが……。
(……ダメだよね。力もないのに余計なことに首突っ込んじゃ。それに『リヴェンデット・スレイヤー』は、人間には決して手出ししないって話だし……)
そうして、その場から立ち去ろうとしたヒロシだったが。
「そのまま逃げるのは感心しないな、同胞よ」
「えっ!?」
ヒロシの目の前にいたのは、自分と同じ『リヴェンデット・スレイヤー』のコスチュームをした自分よりも大きな人だった。
「だ、誰……? というか同胞って……」
「同じ姿をしているモノなら、同胞だ。悪を目の前にして、逃げ出すとはなっとらんぞ」
「ちょ……どういうこと?」
「ヒーローなら、目の前の悪には容赦なき鉄槌を下すべきなのだ!」
「は!?」
そうして、その人はいきなりオヤジ狩りの人間のところへ割り込んでゆき、とっちめ……。
いや、限りなく一方的な暴力をオヤジ狩りどもに浴びせた。その光景は、ヒロシやオヤジもドン引きするほどであった。
殴られたチンピラは、鼻が手術しなければいけないほど曲がり、もう一方は歯が折れて血がぴゅーっと飛び出すほどであった。
「あ、ああ……」
ヒロシは、ただただ恐れていた。そうして、その男が向かってくる。
「お前も同胞なら、私と同じことをやろう。なあに、最初はためらうかもしれないが、なれれば容赦なくやれるようになるだろう」
「いや、僕は……」
「お前もまた、私と共に戦う運命にあるのだ。……翌日の夜、お前を迎えにいく。共に、悪を滅して行こうではないか」
「あ、ちょっと……」
その男は、言うだけ言うと去って行った。残されたヒロシはというと。
「ど、どうしよう……」
何かとんでもないことに巻き込まれたのだと思い、立ち尽くすだけだった。
第六十六話。終わり。
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137 | 第五話「カリンとカードの精霊の話」 | 1140 | 1 | 2018-02-14 | - | |
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139 | 第三十九話「エンジョイデュエル!」 | 1047 | 0 | 2018-08-23 | - | |
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