第161話　武士の最期　作：ター坊

~ユイ サイド~

遊月と美羽の場にはモンスターが合計３体存在しセットカードもある。それに引き換え柴田の手札は尽き、効果が無効化された状態の大型モンスターが１体のみ。
そんな状態で柴田へとターンが移る。

美羽：LP 5500
遊月：LP 5000
柴田：LP 2600

「我ノ…番！！」
柴田がカードを引いた瞬間のその声は今までに無い不気味さを含んでいた。
「我は魔法札『怨念連鎖』を発動。これにより我は命を半分失う代わりに、墓地より『腐蝕の足軽』と『腐蝕の忍』を特殊召喚！」
柴田から紫色のオーラのような物が滲み、それが地面にもぐると地中から２体の朽ちた屍を呼び寄せた。
「この効果で復活した式霊の星は最も多い星を持つ腐蝕の式霊に合わされる。よって星は八！」
これは…
「これでレベル８が３体…」
遊矢を始め、誰もが思ったであろう。とんでもない物が来ると。

~美羽サイド~

「我は三体の星八で御緒羽阿麗！」
柴田はそう言って腕を掲げると３体のモンスターはドス黒い魂となって天を駆け、１つに混じり合って巨大な黒い球体になる。
「得苦師伊頭召喚！現レヨ！『八極鬼神-陰陽不敗』！」
黒い球体がひび割れるとガラス玉が弾けるように欠片が辺りに飛び散り、エクシーズモンスターが姿を現す。姿形は人間に近いが高さは10m程と大きく、６枚の翼と２本の角、それに阿修羅のように幾つもの手が生え、今までのモンスターとはまた違う恐怖を感じた。
「サァ！我ヲ喰ラエェェ！！」
柴田が咆哮を挙げるとその不気味なモンスターは１本の腕を伸ばし…


グパァアッ！グチョブリュッ！！

「…っ！」
私は思わず吐きそうになるが、なんとか堪えた。柴田を掴んだと思ったら化け物の胸部が口のように開き、その中に放り込まれてしまったのだ。
「一体…何が…」
遊月さんをはじめ、後ろで見ているみんなも唖然としてしまう。しかししばらくすると



「おお…。素晴らしきかな」

その静寂を裂くような不気味な呟き声。その声は遥か上から聞こえた。
「フハハハハ！！これがアヤツの力か！」
ブパッ！
「え！？」
決して錯覚ではなかった。巨大な化け物の額から柴田が生えたのだ。
「分かる、分かるぞ…！この力があれば！あの方を復活できるぅぅ！！」
喜びに打ち震えるように叫んだ後、柴田は私達を見下ろした。
「さて、貴様らには最初の生け贄になってもらおうか」
「生け…贄？」
不審な言葉に少し不安を覚える。
「左様。この『八極鬼神-陰陽不敗』に倒された者は贄としてこの体に吸収され、それが８人になった時！地獄の底より信重様が復活なさるのだ！！」
「な、信重公が…！」
「その最初の生け贄が信重様を討った徳川の姫！貴様とあらば、さぞお喜びになられるであろう！」
そんな…もし負けたらユイ達が一生懸命倒した信重がまた出てきちゃうなんて…。
「さて、お喋りもここまでだ。我は陰陽不敗の効果を発動！御緒羽阿麗湯新斗を一つ使うこと場の式霊を全て墓地に送り、その墓地に送った式霊の攻守で高い方の数値の合計分の損傷を与える！」
「え！」
陰陽不敗の周りを浮遊するオーバーレイユニットがベチャッと地面に落ちるとそれが広がり私達のモンスターを底無し沼のような闇が引きずり込んでいく。私のフィールドのチェーンソー･ヴァンパイアとハングリー･ケルベロスはペンデュラムモンスターだから墓地には送られず、ダメージは受けない。けど遊月さんのモンスターは…。
「ああっ…！」

遊月:LP 5000→2600

闇に引きずり込まれたキュウカイが霊魂となって遊月さんに直撃する。
「遊月さん！」
「美羽様…私は、大丈夫です…」
「遊月姫よ。苦しむのは早いぞ？陰陽不敗はこの効果で引きずり込んだ式霊の数だけ攻撃出来るのだ」
今、私達のフィールドから離れたモンスターは３体。つまり、３回攻撃が出来ると言うことだ。
「さぁ。生け贄の時だ！死 ねえぇ！！徳川のぉ！信重様の仇、そして貴様の命を以て信重様の命を購え！！」

八極鬼神-陰陽不敗 ATK 4000　遊月に直接攻撃

「私は伏せ罠札『水鏡の反魂』を発動！これでキュウカイを蘇生させます！」
「所詮は足掻きよ。陰陽不敗には貫通があるのだ！」

八極鬼神-陰陽不敗 ATK 4000 VS 水鏡の守護獣キュウカイ DEF 2400

「ううっ…」

遊月:LP 2600→1000

「さぁ今度こそ終わりだ！」
もし、この攻撃が通ったら！
「させない！私は墓地の『秘術演目-フラワー・シャワー』の効果発動！これで陰陽不敗を守備表示にしてエクストラデッキからジェイド・ワイバーンを特殊召喚！！」
陰陽不敗の周りに花吹雪が舞い動きを止めた…と思った。
「効かぬ！」
陰陽不敗は幾つもの腕を縦横に振り回して花吹雪をかき消した。
「そんな！どうして！？」
「陰陽不敗は戦の鬼。守備で休まることはない。まぁ、一度攻撃をいなせたのは褒めてやろう」
私の狙いはこのまま守備表示にさせてこのターンを凌ぐだったが、結果は一瞬守備表示にして攻撃を１度止めただけだった。けど、まだ手は…
「じゃあ、ジェイド・ワイバーンの効果で手札に戻す！」
「それも叶わぬことよ」
ジェイド・ワイバーンの起こした風が陰陽不敗にぶつかるが、全く動かない。
「まさか…」
「陰陽不敗は札の効果で場を離れぬ！さぁ、まだ一撃残っているぞ！」
ジェイド・ワイバーンの風を腕を薙いで消した後、遊月さんに再び攻撃が向く。
「私は罠カード『秘術演目-ミラー・ミラクル』を発動！これでジェイド・ワイバーンの姿を写し取ったトークンを特殊召喚する！」
私のフィールドに鏡が現れ、そこからジェイド・ワイバーンがにゅるっと出てくる。
「相手はこの効果で特殊召喚されたミラートークンを攻撃しなければならない！」
「小賢しい真似を」

八極鬼神-陰陽不敗 ATK 4000 VS ミラートークン(幻想麗団-ジェイド・ワイバーン コピー) ATK 1200

「うぅっ！」

美羽:LP 5500→2700

「ミラートークンが破壊された場合、相手に３００のダメージを与える」
せめてもの抵抗。鏡の破片が陰陽不敗に突き刺さる。
「所詮はその場凌ぎ。次で終わりだ。我の番はこれで終いとする」


美羽: LP 2700
遊月:LP 1600
柴田:LP 2300

攻撃力4000の３回攻撃はなんとか避けたものの、正直これ以上防げる自信はなかった。
「私のターン…」
負けたら…あの化け物の一部になって生け贄になる。先程の柴田の言葉が恐怖を煽り、ドローする手が震えてしまう。すぐにでも逃げ出したかった。でも…
「美羽様…」
「遊月さん？」
「私のために…ありがとうございます…」
「ううん。だって…」
嫌だから―。

同じ人を好きになった友達がいなくなるのが―

私を信じて、任せてくれた大好きな人の期待を裏切るのが―

もっと嫌で、恐いから―。

「だって…？」
「ううん。何でもない。遊月さん、絶対勝とう！」
「はい！」
私は自分に言い聞かせるように、自らの心を奮い立たせる。後ろは見ない。今の顔をユイに見せたら不安にさせちゃうから。
「私のターン、ドロー！！私はスケール１の『幻想麗団-テイマー・ボーイ』とスケール５の『幻想麗団-ハングリー・ケルベロス』でペンデュラムスケールをセッティング！！ペンデュラム召喚！カード・ウィッチ、チェーンソー・ヴァンパイア、フレイム・キマイラ！！そして、私はレベル３のチェーンソー・ヴァンパイアとジェイド・ワイバーンにレベル２のカードウィッチをチューニング！！神秘を魅せる者達の長たる漆黒の翼よ、今こそ奇跡を私に見せて！シンクロ召喚！！レベル８『幻想麗団-ミラクルマスター・ルシア』！！」
私のエース、漆黒の翼の天使が私の場に舞い降りる。
「たかが攻撃力二千の秦苦露式霊。何ができるというのだ」
「私達を勝たせてくれるよ！バトル！ルシアで陰陽不敗を攻撃！！」
「バカな！！」

幻想麗団-ミラクルマスター・ルシア ATK 2000 VS 八極鬼神-陰陽不敗 ATK 1500

「ルシアと戦闘を行うモンスターは強制的に攻撃力・守備力が１５００になる！！」
「だが、ここまでだ！陰陽不敗が戦闘によって破壊された場合、相手場の魔法・罠札を全て破壊し、その番を強制的に終わらせる。そして次の我の番で復活するのだ！！」
「え！？」
ルシアが陰陽不敗を倒した瞬間、闇がフィールドを覆って私のペンデュラムスケールや遊月さんのセットカードを吹き飛ばしてしまった。フィールドには不気味に佇む陰陽不敗が残った。
「さて、言うことは？」
「…ターン、エンド」

美羽:LP 2700
遊月:LP 1600
柴田:LP 1800

遊月サイド

「私の番…」
この引きが恐かったのです。私が引いたのは

『水鏡の白鳥 ミナモ』

そう、私の山札は…。
「そうだ、徳川の。貴様の山札には攻撃力を持ち合わせた式霊はおらぬ！よって貴様は何も出来ぬまま死ぬのだ！」
私の傷付けたくないという信念が…初めて恨めしいと思いました。せっかく美羽様が戦ってくれたというのに…私は…！
「遊月さん…」
「美羽様…。申し訳ありません…。柴田殿が言う通り、私にはもう…」
「…確かに一人じゃ無理かもしれない。けど二人なら、ね？」
美羽様の目には絶対に勝てるから、と言う自信の光が満ち溢れていました。その光を見ると私の手が、口が勝利に向かって動く。
「…はい！私は『水鏡の白鳥 ミナモ』を召喚！」
「その時、私は墓地の『秘術演目-ミラー・ミラクル』を除外してルシアを対象にして効果発動！！これでルシアの攻撃力以下のフィールドのモンスターの攻撃力はルシアと同じになる！」
「何！？で、では！？」
「美羽様…ありがとうございます。…鬼柴田！！マスターＤと結託してもののけへと身を堕落させ、魔王･織田信重公を蘇らせんとする企み、今、ここで貴方を討ち、長き織田との戦いの因果と共に終止符を打ちます！」

水鏡の白鳥 ミナモ ATK 2000

ミナモの翼は美羽様のルシアの魔法の光を受けて輝き、鳳凰の如く地に項垂れている陰陽不敗を貫きました。

柴田:LP 1800→0







デュエルが終わり、あまりの疲労のせいか美羽も遊月も思わずその場に座り込んでしまった。ユイ達は慌てて駆け寄る。
「美羽、遊月！大丈夫か！？」
「ユイ…ユイ…」
美羽は張り詰めた恐怖から解放されて安心したのか、少し半泣きになりながらユイに抱き付く。
「恐かったな。だけど、お前もいつの間にか強くなったな」
ユイは遊月を励まし、勝利に導いた美羽の成長した心の芯の強さを称えるように頭を撫でる。
「ユイ様…」
「遊月も良かったな。これで戦国時代の心配の種は全部無くなったんだ。お疲れ様」
「…はい」
ユイは遊月の頭も同様に撫でる。


「う…ぐっ…」
ほんわかと癒されていると呻き声がした。思わず全員身構える。
「あ…うぅ…」
先程の化け物の柴田が嘘のようだった。全身が真っ白に変色し、下半身を失って這いずってズリズリと動いている。腕は筋肉がすっかり抜けて骨と皮のみになり、ちょっとでも動く度に白い粉が舞う。
「うえぇ！ゾンビか！？」
「これが、人間なの…？」
城之内･柚子をはじめ、こういうのが苦手なメンバーは一様にドン引きである。
「……の…ぶ………し……げ……さ………ま……」

サヮァァ

ギリギリ聞き取れるくらいの声で己の主君の名を告げた後、柴田の体は砂のように崩れた。その異様な光景にしばらく沈黙したが、柳生が最初に動いた。
「柳生さん？」
「ユイ殿…。柴田殿を弔っても構わぬか？」
「…ああ。埋めて拝むくらいなら」
「ちょっとユイ！こんな気味悪い奴のためにどうして！」
ミエルは不満げに言う。
「…こいつだって犠牲者だからだ。信重は俺達にとっては許せない相手だけど、こいつにとっては主君…大切な人間だったんだ。そういう大切な人を救いたいと言う気持ちは俺達と変わりないんじゃないか？」
ユイの言葉に一同が黙って聞き入る。
「そんな気持ちをマスターＤに利用されて、化け物の姿にされて…。同情するのは甘いかな」
「いや」
柳生が言葉を続ける。
「鬼柴田も武士として死にたかったであろうに、異形に変えられこんな死に様と相成った…。ならばせめて、最期は人間らしく葬ってやりたい。…ユイ殿、お察し感謝する」



柴田秀長の成れの果ての白い粉は柳生の手で集められ近場の花壇の一角に埋められた。少し土が盛られ石を乗せた程度の簡易すぎる小さい墓は人間のものとしては粗末だが、野晒しよりはマシであろう。全員がその小さい墓に手を合わせた。