第76話　敵となった英雄　作：ター坊

グウゥゥ~


「はっ…/ / /」
「お春さん…。おなか空いてるんですね」
「も、申し訳ありません…/ / /」
「いいえ。…そうだ。小鳥様達が作ってくださったでゅえる飯なるものがあります。これを」
「俺達もずっと階段昇りっぱなしで小腹空いたしな。適当な場所で休んでから帰ろう」
俺達は部屋を出て、同じ階の広間の休憩スペースに移動した。


移動した後、小鳥達が作ってくれたデュエル飯を食べながら自己紹介や今までの経緯を話し合った。
話によると、お春さんは遊月さん達とはぐれた後、マスターDに遊月姫を保護していると言われてついて行き、拘束されてしまったらしい。
「でも本当に無事で良かったわ」
「アキ殿。ありがとうございまする。……ユイ殿、いかがなさいましたか？わたしの顔に何か？」
「えっ？いや別に」
こうして見るとデュエルの時とは別人のようだ。先程まで冷徹な機械のような印象だったが、今は穏やかな口調と表情をで話す優しい女性だ。やはりマスターDが付けたあのデュエルディスクが原因なんだろうか？ということはあの子も…？
「ユイ。紫雲院素良が言っていた拠点の襲撃が気になる。無事だとは思うが油を売ってる暇もあるまい」
「そうだな。もう少し詳しい話は向こうに着いてからでもいいか。お春さんも大丈夫か？」
「はい。わたしのためにどうもありがとうございました。これ以上迷惑にならぬよう努めまする」
俺達はDuelyへと帰ることにした。きっとみんな大丈夫だよな…。





「ただいま~…ん？誰？」
「お前は…アポリアじゃねぇか！」
「アポリア…どうして」
「クロウ、アキさん。お帰りなさい」
「クロウ･ホーガン、十六夜アキ。久し振りだな」
どうやらアキ達の知り合いのようだ。見知らぬ大男は龍可と話してる途中だったがこちらに気付いた。

「本当にアポリアなの？」
「うむ。そうだ」
「でもお前は確かZ-ONEに負けた後に遊星のD･ホイールに力を託して…。まさか化けて出てきたとか…」
「そんなことではない。これも不動遊星のおかげだ」
「遊星が？」
「どういうことだよ？」
「遊星のリミットオーバー･アクセルシンクロが未来を変えたそうなの」
「そうだ。不動遊星がオーバートップ･クリアマインドの境地でリミットオーバー･アクセルシンクロによって『シューティング･クェーサー･ドラゴン』をシンクロ召喚したことでワタシ達の未来は改変され、滅びの未来が回避されたのだ」
「じゃあ…！」
「モーメントの暴走もなく、平和な世界が続いている。ワタシ以外にもZ-ONE、パラドックス、アンチノミーは全員健在で平和の維持のために尽くしている」
「素敵な未来になったのね…」
「でもお前がなんでここに？」
「うむ。そこからが本題となるだろう。出来れば他の者にも話したい。集めてくれないか」


上空から現れたという大男―アポリアの頼みで全員で話を聴くことにした。
「では話そう。ワタシがここに来た理由は新たな次元の調査とチーム5Dsの救出だ」
「新たな次元？」
「融合次元でもシンクロ次元でもないのか！？」
「ある日のことだ。異常なパワーが観測され、ある別次元の世界が歪み、そこから新たな次元が誕生したのだ」
「え？つまり次元から新しい次元が生まれたってこと？」
「そうだ。そしてその新しい次元は周囲の次元を引き寄せているような動きを見せている」
「待つぜよ。頭がこんがらがるぜよ！」
「このノリの話はどうもなぁ…」
「なんだそりゃ！？」
「…馬鹿は放っておいて話を続けろ」
「なっ！黒咲テメェ」
「そしてその新しい次元からシグナーの竜の力も観測されたのだ」
「シグナーの竜…！？」
「アキおねえちゃんたちが持ってるシンクロモンスターのことだよね？」
「まさか…」
「そう。この世界こそが新しい次元だ。Z-ONEはチーム5Dsがこの次元に何らかの原因で迷いこんだものと判断してワタシをこの世界に向かわせたのだ」
「クロウ殿達が帰れる目処が立って喜ばしいことでございますな」　
「いや。それが…」
「アポリア？」
「この次元に来る際にアクシデントに見舞われて通信･転送手段が故障してしまって私自身も帰れぬ身になってしまったのだ。…こんな体たらくですまない」
「そうなんだ」
「でも、アポリアが無事で良かったわ」
「まぁアポリア。お前も同じ状況に立たされたからな。帰れる方法を一緒に探そう」
「そう言う風に言ってくれるとはな…。君の名は？」
「ユイだ。よろしくな」
こうしてアポリアが新たな仲間として加わったのであった。

「それとユイ。お前達がアルカデイア･ムーブメントに行ってる間、とんでもないことになってしまった」
今度は万丈目の話が始まる。
「とんでもないこと？襲撃された話なら知ってるが無事だったんだろ？」
「そうなんだが…。襲撃してきた奴が問題なんだ」
万丈目の話は吹雪さん･クロウ･アキに衝撃を与えた。かつての仲間、しかも中心となる人物が敵になっているとなれば動揺するのは至極当然だ。
「ワタシも先程龍可から聞いて信じられないという心境だ」
「そんな…遊星が……」
「嘘だろ…」
「十代くんもか…。困ったことになったね」
「しかも十代の使ったカード……。見たことのないHEROだったわ」
遊城十代、不動遊星。みんなの今までの話を総合するとかなりの強豪、いや、世界や未来を救うような連中だからそんな枠では収まらない、英雄と言うべき存在だろう。彼らとの激戦もそう遠くないかも知れない。





~夜~

寝る前に涼もうと外に出るとある二人の姿があった。
「あれ？城之内、ゴーシュ？」
「おぉ。ユイか」
「どうしたんだ？」
「いや。昼間の話を考えたらよ」
「もしかしたら遊馬と戦う羽目になるかと思うとな」
「確かにな。向こうは本気で助けたいと思ってる分、単純に返り討ちってやりづらいもんな」
最初のクロウや十代の話を考えると、前回捨てた洗脳説もあながち間違いではないかも知れない。お春さんのこともあるし、マスターDが関わっていると見るべきだろうか？
「やっぱり……戦いたくないか？」
「いや。むしろ俺がやらなきゃならねぇって思ってる」
「え？」
「俺もだ。もし遊馬が十代みたくなっちまったら俺が叩き起こしてやらねぇとな」
「ダチのけじめはダチの俺が付けるさ。だからなユイ。もし遊戯が立ち塞がったら俺にやらせてくれねぇか？」
「俺もだぜ、ユイ」
「あぁ。でも、その時が来ないのが一番だろうけどな」