第14話　PAST　作：ター坊

真夜中-

さっきまでの騒ぎが嘘のようだった。

食事はおジャマイエローにシャッターの隙間を潜らせて棚に残ってたパンやお菓子を取りに行かせ(「泥棒なんじゃ…」と龍可に言われたので2000円くらいレジに置かせた。)、それらで済ませた。そのあとは互いの世界での闘いの話で盛り上がり、気付けばこんな時間となっていた。俺達男性組は宿直室の布団で、女性組は保健室のベッドを今夜の寝床にすることとした。既に二人はイビキをかいて眠っていたが、俺は寝付けれず学生ホールにいた。

静まり返った空間。聞こえてくるのは外の風の音と自動販売機の機械音くらいだ。ここでなら眠れるかとベンチに寝そべるが眠れる気がしない。別に寝つけれないのは同室の二人のせいではない。何だか自然と気分が高揚して眠れないのだ。そんな中、誰かの足音が近付いてくる。
「あら？ユイいたの？」
「アキこそどうしたんだ？」
呼び捨てにしたのはそうして欲しいからとのことだ。
「ちょっと寝つけれなくて」
「アキもか。無理もないだろうけど」
「そうね。なんせ異世界に来ちゃったんだもの……。他のみんなは大丈夫かしら」
「チームのことか？」
アキが言う他のみんなとは『チーム5D`s』のことである。話によるとアキの世界ではライディング･デュエルと呼ばれる乗り物に乗りながらデュエルをするスタイルがあり、『チーム5D`s』とはそのデュエル型式でデュエルを行うチームであるらしい。そのチームで世界大会を優勝したり滅亡の未来を救ったり、色々とやってきたと言う。あの時から言っていた遊星とはそのチームのリーダーでアキにとっては恩人であるらしい。
「えぇ。で、あなたはどうして？」
「俺はその…」
「あら？お邪魔だったかしら？」
「ま、舞さん！」
「舞も眠れなかったのか」
急に割って入ってきた舞も呼び捨てが良いと頼んだので俺はそうすることにしたのだ。
「ちょっとね。でもお邪魔みたいだからアタシはベッドに…」
「べ、別にそんな邪魔だなんて…！」
「あら？そうなの？アキちゃんは遊星くん一筋だもんねぇ」
「そ、そんなことは…///」
「ふーん。じゃあ会ってみたらアタックかけてみようかしらねぇ？」
「それはダメです///」
何だか聞いてるだけで面白いな。
「アッハハハ。…ところでさ、ユイ」
「はい？」
「気になってたんだけど、あの時のアタシとのデュエルが久々に楽しいってどういうことなの？」
「あ、私も。確か懐かしいって…」
「あぁ。あれか。たぶん場をシラケさせると思ったから、さっき言わなかったけど…」

これは昔の話

物心ついたときからカードを手にしていた。その頃から両親がいなく、カードはただのゲームの道具ではなく、友達のような感覚だった。だからこそ、もっと強くなってコイツらを輝かせたいと言う気持ちも出てきた。
しかし、現実は非情だった。俺は確かに強くなったが、それにつれ、周囲の人間がいなくなっていった。同年代の子たちからは「どうせ きみが かつから やらない」と言われ、大人に混じっても「子供のくせに可愛げがない」と疎まれていた。初めての人とデュエルしても「こんなんなら、もうやらん！」と諦める人もいた。自分が大好きなデュエルで他人を傷つけているんだと、幼いながらも感じ取れ、デュエルを控えるようになった。
大きくなって賞金マッチに出場出来るようになると幼少期の戦えなかった鬱憤を晴らすが如く大会に出まくり、賞金を重ねていった。しかし、今度は大好きなデュエルが金稼ぎのための道具に成り下がったようで、あまり楽しくはなく、いつしか淡々とした作業となっていた。
だが、今日は違った。
今日のデュエルは周囲の冷遇も賞金もない。血が騒ぎ心が昂る、俺が求めていたそんなデュエルが今日確かにあった。

「…だからかな。今眠れないのも、それを取り戻したから興奮してるからかも」
「そう…。そんなことがあったのね」
「…ねぇ、ユイ？あの時の続きいつかしない？」
「あぁ。いつか…騒動が一段落したらな」
「えぇ、白黒つけましょうね。…はーあ。なかなか寝付けないからシャワーでも浴びたいけど…ある？」
「あー。それならあっちの角曲がった先にある部活棟で運動部用のシャワールームが」
「そっか。ありがと。あっ！覗かないでよ？」
「しないよ」
「フフフ。じゃあね」
舞は俺が指差した部活棟の方へ行った。
「私も、シャワー浴びようかしら」
「まぁ、ひとつじゃないし、いいんじゃないか？」
「そう。じゃあ私も行ってくるわ」
「そっか。俺は…明日何があるか分からないから、何とか頑張って寝るか」
「そう。なら、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
そう言って俺は宿直室へ、アキは部活棟の方へ歩いた。


~アキ サイド~

角を曲がり廊下を歩くと、灯りが漏れている部屋があり、そこは『女子更衣室/シャワー室』と書かれた部屋だった。中に入ると奥の方から水の流れる音がする。さらに奥の部屋に入るとタイル張りの床が広がり、そこに置かれたバスケットには舞さんが着てた服が入っていた。
「あら？アキちゃんも来たの？」
舞さんが仕切り用のカーテンから顔を覗かせる。
「え、えぇ、まぁ」
私も服を脱ぎ、備え付きのタオルを持って舞さんの隣のシャワールームに入った。
「でさぁ、ユイのことどう思う？」
「え？いきなり何を？」
壁が薄いせいか、流水の中でも声が聞こえる。この人はどうも苦手だ。人をからかうような言動をして私の反応を楽しんでいるのだろう。
「別に、彼はこれから一緒に戦うから頼りになりそうというだけで…そう言う舞さんはどう思ってるんですか？彼のこと」
「アタシ？…そうね…」
急に声のトーンが下がった
「何だか、ほっとけないって気がするわ」
「ほっとけない？」
「そ。あいつ、今までまともな仲間とかいなかったんだと思うわ」
「…確かに」
彼の昔話は謂わば『強すぎるが故の孤独』と言うべきだろう。
「アタシも以前は仲間なんていらないと思ってたけど、一人のバカがいてね。お前は仲間だって言ってくれたのよ。それからは、まぁ悪くないなと…ね」
「…私もそうだったわ」
「アキちゃんも？あーそう言えば」
私はあの時の語らいで遊星の仲間に入った経緯も話したのだ。かつて黒薔薇の魔女として人々を傷つけたこと、それを遊星が救ってくれたこと。
「はい。だからこそ早く仲間として馴染みたいなと」
「そうよね。あいつもまだまだ他人行儀って感じだし」
隣のシャワーの音がキュッと止まる音がした。
「お先」
そう言ってカーテンを開けてペチペチとタイル床を歩いて行った。
今の話を聞いて舞さんを見直した気がした。なんだかんだで他人を見ている、いい加減そうだけど優しい人だと。
私もシャワールームを出て服を取りに…あれ？服を入れたバスケットが無くなってる。
「舞さーーん！！」
前言撤回。やっぱり苦手だ。