第87話　美羽の悪夢　作：ター坊

~ミウ サイド~

私は暗闇の中に立っていたが、すぐにぱっと明るくなった。そこは学校の廊下。すぐ目の前に扉がある。その扉を開けて教室に入る。
「……またか」
私は傷とラクガキまみれの自分の机を見てそう呟いた。

場面は変わって、急に腹部に痛みを感じた。
「ちょっと美羽。アンタふざけてんの？」
「ご、ごめんなさい…。焼きそばパン売り切れてて、同じ値段の物を買ってきたんですけど…」
「アタシさー。焼きそばパンの気分なんだよねー。早く探してきてよ」
「でも、あそこのコンビニ以外だと遠いし…」
「口答えすんなよ！美羽のくせにさー！」
買ってきた菓子パンが顔面に当たる。
「キャハハ♪ナイスシュートじゃん」

またまた場面が変わった。私は河原で写生をしようとしている。
「美羽なんなのこれ？」
私のスケッチブックが取り上げられた。
「何描いてるのこれー？全然分かんないんですけどー？」
それはそうだ。まだ下書き用の粗い線しか描いてないのだから。
「あの…返して下さい……」
「うーん。……いいよ」
そう言ってスケッチブックを地面に叩きつけて
「あー！ごっめーん。手滑っちゃった♪」
その直後、鞄からペットボトルを取り出し、中身のジュースをスケッチブックの上に注がれた。


これが私の日常だった。こんな夢しか見れないなんて…とっとと目を覚ませ、私！それでも私の夢は続く。今度は家の前に立っていた。
「ただいま…」
家に帰ってきても私の声に応えてくれる人は居ない。ママは仕事で家を空けることが多く、基本はひとりぼっちだ。出前を取ってくれと言わんばかりに食卓テーブルには5000円札が1枚置かれている。私はそれを無視して自室に入った。勉強机の引き出しを開けてカードを取り出す。
「ただいま…パパ」
パパはカードデザイナーとして働いていた。このカード達もパパが私のためにデザインしたもので、イラストが綺麗で眺めているだけでも憂鬱な気分は紛れた。けどその大好きなパパはもう居ない。


再び場面は変わった。まだ外に朝日が昇らない薄暗い時だった。玄関から誰かの声が聞こえた。男の人の声…？そう思ったときドタドタと廊下を歩き回る音がし、私の部屋のドアの前で止まった。どうしよう…泥棒だ。殺されるかも知れないと思うとパパのカードを握り締め、ガタガタと震えることしか出来なかった。ドアがガチャリと開いた。
「生き残りか？確保しろ」
防護服みたいなのを着た変な人達が部屋に押し入り、私は訳も分からぬまま連れ去られた。


連れ込まれたのは警察の取り調べ室みたいな狭い部屋だった。変なことされちゃうのかな…そう不安に思っているとドアが開いてある人が入ってきた。
「やぁ。すまないね。手荒な真似をして申し訳ない」
真っ黒なマントに変なお面を付けた優しい声の男性が私の前に立つ。
「あの…貴方は？」
「そうだな…。私のことはマスターDとでも呼んでくれたまえ。君の名前は？」
「…… 桜城 美羽(さくらぎ みう)です…」
この時の私は普段の生活で疲れていたんだと思う。初対面のマスターDに色々話してしまった。
「そうか。辛い思いをしてきたんだね」
「はい…。すみません、変な話をしてしまって」
「いいんだよ。私の仕事は君みたいな子の救済だからね」
そして、あの悪魔の一言を付け足した。
「ところで…復讐したいと思わないかい？」


私は別の部屋に連れて来られた。鉄の扉が開くと科学者っぽい人が入ってきた。
「さぁ。これを付けて」
渡されたのはデッキがセットされたデュエルディスクだった。ディスクのデザインは市販品と違い、黒っぽい色だ。
「あの…これって」
「さぁ。恐がらないで」
促されるままに私はデュエルディスクを腕にはめた。

ゾワッ

何？付けた途端、おかしな感覚が襲う。まるで何十匹もの虫が這い上がってくるような気持ち悪い感覚が装着した腕に走る。けど気持ち悪いと思ったのは最初だけで、次第に気分が高揚し、不思議と力が湧き出すような気がした。どんな奴にも負けない、そんな気が。


「ぐあぁぁ！」
私はマスターDの頼みである人とデュエルした。力試しということだが、こんなの私が望んだ物と違った。禁止カードばかりのデッキで勝っても嬉しくないし、何よりも自分の愚かさに今気付いた。傷つけられる辛さや苦しさは誰よりも知ってるはずなのに…！
「バイバイ。『ファイヤー･ボール』」
心では止めてと思うのに！口が、手が、勝手に動く。私がそのカードをデュエルディスクにセットすると虚空から火球が降り注いで目の前の人達に襲いかかる。
違う！私は…私は……！こんなことをしたくないのに！！ごめんなさい…。ごめんなさい……。







そこで目が覚めた。
悪夢から覚めて首筋はびっしょりと汗で濡れていた。見渡すと私はベッドにいた。まるでホテルみたいな部屋だ。どうしてこんな場所にいるんだろう。確か…アイン博士に薬を貰って、それから眠くなって…。

ガチャ

「あ。ようやく起きたか」
部屋のドアが開いたと同時に男の人が入ってきた。この人は…あの時に私が負かした…さっきの夢にも出た…！
「自己紹介がまだだったな。俺はユイって言うんだ。君は？」