第109話　遠呂智襲来！託された1ターン　作：ター坊

「くっ！デカイ…」
俺達の目の前に現れた八つの頭を持つ邪龍。十六個の血が乾いたような赤い眼が俺達を睨み付ける。
「さぁ遠呂智よ！余を喰らうがよい！」
「何！？」
信重がそう言うと遠呂智の1本の頭の口から長い舌が伸び、信重を絡め取ってそのまま飲み込んでしまった。
「信重公は一体…何を？」
「フ フ フ…。昂ルワ…」
「ん？」
遠呂智の胴体から信重の声が聞こえる。
「フ ハ ハ ハ！全テヲ滅ボシテクレルワ！！」
遠呂智の胴体から信重の上半身が生えてきた。
「なっ！」
モンスターと合体しただと…？
「信重公…。とうとう人からも外れたのですか…！」
遊月は戦慄した。
「これは式霊ではない！化け物、もののけの類いとなったか！」
柳生さんは刀を構え直す。
「これが信重の奥の手ですか…」
明智はきっと信重の部分を睨む。
「行クゾ！五行ノ巫女ヨ！」

キャシャオォォーーン！グラグァアアオオォオ！！

遠呂智の咆哮が城を、空気を震えさせる。
「遠呂智ハ地獄ヲ統ベル邪龍。故二攻撃力ハ葬ラレタ札ノ数ダケ上ガル。墓地ト次元二サマヨウ魂ヨ！遠呂智ノ糧トナレ！！」
「奴はデッキの全てを失ってる…。攻撃力は…」
「式霊決闘では四十枚で山札を構成せねばなりません。つまり…」
「遠呂智ノ攻撃力ハ糧トシタ魂ノ数一枚ニツキ千上ガル。ヨッテ攻撃力守備力ハ四万トナル！」
攻撃力4万…。戦闘ダメージを通せば即死を意味する。
「行ケ遠呂智ヨ！マズハ裏切リ者ノ影政ヲ屠(ホフ)レ！！」
「させません！罠札『水鏡の静寂』によって守備表示に」
「効カヌワァア！」
静寂の効果を振り切って遠呂智の攻撃が明智のシビトモリに迫る。
「罠札『亡霊の幻影』を発動し、攻撃対象をノロイにします！」
これで明智の切り札は守られた…。
「笑止。遠呂智ハ一度ノ戦闘デ八回攻撃デキルノダ！」
「バカな！」

獄界邪龍 遠呂智 ATK 40000 VS 亡霊武者ノロイ DEF 0　亡霊武者ウラミ DEF 0　　呪怨腐龍シビトモリ DEF 0

あっという間に明智のモンスターは全滅した。それにしても攻撃力4万、8回連続攻撃。しかもこっちのカードの効果は一切受け付けない。どうすれば…。
「トドメダ！」
「なんの！拙者は清輝を墓地に送ることでこの番での全ての損傷を零にする！」
「柳生さん！」
柳生さんが清輝を宙に放り投げると、閃光が走る。
「ヌオオ。小賢シイ真似ヲ！ナラバ全テヲ根絶ヤシニスルマデ！」
信重は怒りに任せて俺達のモンスターに攻撃を仕掛けた。

獄界邪龍 遠呂智 ATK 40000 VS 水鏡の神龍アデラノナナタキ DEF 0　闘魂の救世者 ダイブレード DEF 2200　天舞の救世者 アメウズメ DEF 2300

「くっ！ダイブレードまで！」
どうやら遠呂智はバトルする相手モンスターの効果までも無効にするようだ。戦闘耐性があるハズのダイブレードまでやられてしまった。
「所詮ハ無駄ナ足掻キヨ！余ノ番ハ終イジャア！」

ユイ:LP 3400
遊月:LP 5500
柳生:LP 5500
明智:LP 2600 
遠呂智(信重):LP 1900

「…確かに足掻き程度しかできないかもな」
未だかつてない無敵に近いモンスター。これは負けるかも知れないな…。
「だからといって諦める義理もない！どんなにみっともなくても勝負は捨てない。それが俺のデュエルだ！俺のターン、ドロー！モンスターをセットしてターンエンド！」
「ユイ様…。……私もです！たとえ負けるとしても、徳川の娘として、最後まで戦っていきます！私の番、式霊を裏守備で伏せて終わりにします」
「敗ケト承知デ戦ウカ！無価値！」
「無意味ではない！せめて貴様に一矢報いる！！拙者の番！拙者は鎮雪で八百の損傷を与える！ムン！」
柳生さんが遠呂智に斬りかかる。確かにバーンダメージならば多少は信重のライフを削れる。
「無力！」
「何！……グアアァ！」
信重が手をかざすと黒いバリアのようなものが遠呂智全体を包み、柳生さんを跳ね返した。
「遠呂智ガイル限リ、余ハ効果ニヨル損傷ヲ倍ニシテ跳ネ返ス」
くっ！バーンもダメか…。いよいよ勝ち筋がなくなってきたな。
「無念。拙者は一枚伏せて終いにする」

ユイ:LP 3400
遊月:LP 5500
柳生:LP 3900
明智:LP 2600
遠呂智(信重):LP 1900

「拙者の番。…皆さん。あとは頼みました。必ず信重を！」
「明智！何をやる気だ！」
「ユイ殿。御武運を！拙者は『亡霊武者ナゲキ』を召喚！遠呂智に攻撃します！」
何！自爆特攻だと！
「フ ハ ハ ハ！犬死ニトハ裏切リ者ラシイ最期！」
「いいえ。犬死になどではありません。ナゲキが破壊された次の相手の番の戦闘幕を飛ばします。これは遠呂智に与える効果ではないため有効です！」
なんだって！？明智は自爆特攻で次の信重のバトルフェイズをスキップさせるつもりか！
「明智！」
「ユイ殿。拙者を信じてこの謀反に付き合って頂き、ありがとうございました。必ずや信重を！戦闘です！」

亡霊武者ナゲキ ATK 500 VS 獄界邪龍 遠呂智 ATK 40000

「……っ！」
明智は大きく吹き飛ばされ、背面の壁に激突する。
「明智！」
吹き飛ばされた明智を見ると僅かに肩を上下させ、息をしているのが分かった。よかった、生きてる。
「愚カ。遅カレ早カレココハ地獄トナル」
「何？どういうことだ」
「遠呂智ハ地獄ノ支配者。ナラバ遠呂智ノイル場ガ地獄トナル。生者ハ死二絶エル世界二ナルノダ！！」
つまり早くしないとこの世界が地獄になって全員死ぬってことか！ただでさえ苦労してるのに制限時間も付くのかよ！
「余ノ番ハコノママ終エヨウ」
奴には遠呂智以外何もないからな。さてと明智が託してくれたターン。何か逆転の札は…。
「俺のターン、ドロー」

ｼｭﾋﾟ『死者蘇生』

良いカードではあるが、壁を増やすために使うのは賢くないな。
「俺のターンはこのままエンド…」
すまん明智…。厳しいかも知れない。