第13話　仮定から確信へ　作：ター坊

「アキさん…」
龍可がアキさんに声を掛ける。他のみんなのデュエルも決着がついたようだ。
「私ね、舞さんとデュエルして、この人たちは悪い人と思えないの」
「俺もそう思うぜ。こんなノリの良いデュエルする奴、なかなかいないぜ？」
確かゴーシュ…とデュエル前に名乗ってただろうか。彼も龍可に賛同する。
「でも！スターダストはどう説明する気なの？」
「そ…それは…」
アキさんの問いに龍可の言葉が詰まる。んー。どうしたものか。俺も質問してみた。
「ねぇ、アキさん？なぜそんなにスターダストにこだわるんだ？」
「私のブラック･ローズや龍可の『エンシェント･フェアリー･ドラゴン』、『スターダスト･ドラゴン』はシグナーの竜のカードだから、私たち以外が持っているわけがないのよ」
シグナーの竜か…。さっき職員室で龍可もそんなこと言っていたな。しかしその3枚は特別なシナジーがあるわけではない、言わば独立したカードたちだ。カテゴリーがあるわけでもないし、共通点はドラゴン族シンクロモンスターであることくらいだ。しかも、自分たち以外が持っているわけがないとまで言う。…待てよ？
「そうだ。ちょっと見せたいところがあるんだ。ついてきてくれ。なぜ俺が『スターダスト･ドラゴン』を持ってるか、説明がつくハズだ」
俺がそう提案すると龍可は戸惑いの、アキさんはムッとした表情を浮かべる。


カツカツ。カツカツ。カツカツ。


校舎内に響く6人の足音。俺は5人をある場所に連れていった。アキさんは龍可の説得を受けて渋々、万丈目、舞さん、ゴーシュさんは暇潰しにとついてきてくれた。
「ここだ」
俺がつれてきた場所。ここは校舎2階にある購買部の店だ。菓子パンやらシャーペンやら一般的なものも売っているが、学校の特色上、カードも扱っている。学校価格ということか普通のカードショップより1~2割安く販売されている。今日は日曜日で営業はしておらず、格子状のシャッターが降ろされているが、店内のシングル売り用のショーケースを覗くことができる。
「ほら、あのコーナーのところ…」
俺が指差した先にはシンクロモンスターをまとめたショーケースがある。基礎的なカードが揃っており、その中には当然あのカードもある。
「そ、そんな！？」
「『スターダスト･ドラゴン』だけじゃなく、ブラック･ローズやエンシェント･フェアリーも！？」
アキさんと龍可はひどく衝撃を受けたようだ。
-『自分たち以外が持っているわけがない』 この考えを崩すためには 『他人も持てる可能性がある』 という事実を示す証拠が必要だろう。それを示せば『俺がスターダストを持っていることもおかしいことではない』と証明できる。-
これで納得してくれれば良いんだが…。
「あの…ユイさん？」
「なんだ？」
「スターダストのカード、手に取って見せてくれませんか？」
「別に良いけど」
そう言って俺は『スターダスト･ドラゴン』を龍可に渡した。まさか今度は偽物とか言うつもりか？龍可は受け取ったスターダストを持ったまま目を瞑り、黙りこんだ。
「…… …… …」
「何やってるんだ？」
「龍可はカードの声が聞こえるのよ」
アキさんがそう答える。カードの声？んー。テレビでやってる超能力とかそんな感じだろうか？あんまり信じない方だが…
「ん？ユイのダンナ~。アタシを見つめてどうしたの~？」
おジャマイエローが現にいるしなぁ。ここは信じざるを得まい。
「…… ……。ありがとうございます」
そう言って龍可はスターダストを俺に返した。
「龍可、どうだったの？」
「あの『スターダスト･ドラゴン』。やっぱり遊星のじゃなくてユイさんのみたい」
まぁ、何はともあれ信じてもらって何よりだ。
「ユイさん。そのスターダスト、嬉しいって言ってましたよ。一緒に戦ってくれてありがとう、て」
「そ、そうなんだ」
持ち主としては感謝されているとは喜ばしい限りだ。…いや、待てよ？つまり龍可の知ってるシグナーの竜としてのスターダストと俺が持っている量産されたスターダストは違う、ということは…
「え！？なんでここに！？」
「なんだこりゃあ！」
店内を眺めていた舞さんやゴーシュさんがショーケースを見て騒ぎだした。
「どうした？」
「おい、てめぇ。なんでNo.があんな大量にあるんだよ！」
「世界に3枚しかない『青眼の白龍』のカードが30円ってどう言うことよ！」

話をまとめると、知っている珍しいカードが当たり前に陳列されていることが衝撃的なようだ。
だが、これによって俺の中のあの仮定は確信へ変わった。
「そうだなぁ、説明できるとするなら…」
「するなら？」
「結果から言うとお前たち全員、別の世界の人間って言うことだ」
「そんな！」
「嘘だろ！？」
「ねぇ、ユイ？それって昼間話したアレ？」
「そうだ。万丈目と舞さんに話したが、俺も馬鹿げた仮定だと思った。けど今回のスターダストの件ではっきりしたんだ」
「スターダストが？」
「そうだ。龍可たちの言う『スターダスト･ドラゴン』はシグナーの竜と呼ばれる特別なカードだが、俺の『スターダスト･ドラゴン』はああやって売られている。つまり龍可たちにとってあれは別の世界の『スターダスト･ドラゴン』ってことにならないか？」
「別の世界の同じカード…？」　
「ブルーアイズもNo.も同じだ。お前たちはみんな、自分が知ってるカードが違う価値観で存在する別の世界にやって来た、ということだ」
静寂。俺が一通り話した後、それしかない。いきなりこんな話を信じろというのも無理だろう。
「…。いや、別の世界、あり得る」
意外にも最初に納得してくれたのは万丈目だった。
「俺もある事件でデュエルモンスターの世界に飛ばされたことがあるからな」
「だね。アタシもゲームの世界があったわ」
「ウーン…。アストラル世界ってのもあったからなぁ」
「私たちも未来から来たZ-ONEという敵と戦ったことがあるから、なんとなく分かるわ」
「へ、へぇ…」
納得してくれたのは嬉しいが、似た経験をしてることがビックリだ。
「ということは、ここはユイさんが住んでる世界って言うことですか？」
「あぁそうだ、と言いたいところだけど…。何か違う気がするんだ」
「あぁ？どういうことだ？」
「俺が住んでる世界とするなら他の住人がどこに行ったということになる。ゴーシュさんとアキさんは知らないけど、外には謎の集団がいるんだ」
俺はアキさんとゴーシュさんに今までの経緯を話した。


グゥゥ~


不意に俺の腹の虫が鳴る。そう言えば昼飯も半分くらい食べたところで逃げる羽目になったのだ。
グゥ~
「あっ…///」
グゥゥウゥ
「…ハッハハハ！」
アキさんとゴーシュさんの腹の虫も鳴る。
「だ、だって、遊星を探してたから、夕飯がまだで…」
「まぁ、難しいことは置いといてだ。まずは腹ごしらえだな」
…さすが、異世界を経験しているだけあって余裕がある、と言うべきか。


外の全身黒タイツ軍団のこと、消えた住人のこと、雷の謎…。考えるべき問題はまだまだある。だが、こうして互いに和解できたことだけでも、この不可思議な世界において、大きな前進と言えるであろう。