第171話　Ｔｕｋｕｋｕｙ　作：ター坊

「そんな…どうして！？」
そう。確かにユイのユグドランＺの攻撃で１６４００ダメージが入り、残りＬＰ１２２００のディヴァインはひとたまりもなかった筈なのである。しかし現在はどうだろうか。止まる筈のカオスジェネレーションシステムの稼働準備完了までの時間を刻むカウントダウンのタイマーは着々と減っていく。
「フッフッフッ…。知りたいかな？ユイ」
「なんだと？」
爆発の衝撃で上がった煙からディヴァインの不敵な笑い声が聴こえると煙が晴れていく。

ディヴァイン:LP 12200→3800

「何！」
「私は今のバトルでダメージが発生する寸前、手札から『サイコフィール・エルフ』を捨てたのさ」
ディヴァインは墓地からカードを１枚引き抜き、それをユイに見せつける。
「この効果で私に発生する戦闘ダメージは半分になった、というわけだ。まぁこれも武藤遊戯のドローカードで引き当てたものだが」
「くっ…」
「遊戯、気にすることはない。今はあのブレティエルを処理できただけでも良しとしよう」
遊戯は悔しそうにキッとディヴァインを睨むがユイがフォローする。
「さらに『サイコフィール・エルフ』は私の魔法＆罠カードゾーンにカードが存在しない場合、追加の効果としてその戦闘終了後にターンを強制終了させる効果があるのさ」
「なっ！…ターンエンド…」
ユイとしてはなかなか痛い効果であった。バトル終了後のメインフェイズ２で返しのターンに備えるのが定石なのだが、それを封じられたユイは他と比べやや守りが薄い状態にならざる得ないのである。



遊戯:LP 219
十代:LP 438
遊星:LP 94
遊馬:LP 875
遊矢:LP 750
ユイ:LP 47
ディヴァイン:LP 3800


「私のターン、ドロー。…君達に訪れるエンディングは大団円ではなく、絶望の最期だよ。私は墓地のブレティエルを除外し、魔法『終焉の地縛神』を発動」
ディヴァインが謎の魔法カードを発動した瞬間、遊戯達は空気を吸うのが辛いくらいに雰囲気が重苦しく、禍々しくなっていくのを感じていた。
「一体、何が起こるんだ…」
「私はこれによりデッキに眠る全ての地縛神を統合する」
「なんだと！？地縛神を統合！？」
「来い怨念籠りし地縛神達よ！『地縛神 Ｕｒｕ』、『地縛神 Ａｓｌｌａ ｐｉｓｃｕ』、『地縛神 Ｃｕｓｉｌｌｕ』、『地縛神 Ｃｃａｒａｙｈｕａ』、『地縛神 Ｃｃａｐａｃ Ａｐｕ』、『地縛神 Ｃｈａｃｕ Ｃｈａｌｌｈｕａ』、『地縛神 Ｗｉｒａｑｏｃｈａ Ｒａｓｃａ』！！我が血肉、ブレティエルの魂を依り代に１つに交われ。統合召喚！」
デッキから地縛神の魂と思わしき光が７つ飛び出すと全てディヴァインに吸収されていき、半透明な黒い膜に覆われていく。その膜の球体は風船のように膨らんでいく。
「何が…来るんだ」
ユイを始め、全員が固唾を飲む。






バリン！

巨大な黒い球体から何やら細長い蜘蛛のような脚が飛び出す。それを皮切りに球体全体がひび割れ、そこから別な脚や腕、翼などが飛び出す。
そしてソレは現れた。

Ｕｒｕの脚 。Ａｓｌｌａ ｐｉｓｃｕと Ｗｉｒａｑｏｃｈａ Ｒａｓｃａの翼。Ｃｕｓｉｌｌｕの尻尾。Ｃｃａｒａｙｈｕａの頭。 Ｃｃａｐａｃ Ａｐｕの胴体と腕。腹から生えたＣｈａｃｕ Ｃｈａｌｌｈｕａの頭。


「うわっ…気持ちわる…」
ユイがそう言葉を漏らすように完成したソレは醜悪に混ざり合い、禍々しい、まさに神話に登場するような怪物という形容が相応しい姿であった。サイズも規格外で、充分大きい筈のユイのユグドランＺや遊星のシューティング・スターすら片手で握り潰してしまえそうなくらいに大きい。
「フッハッハッハッハッ！」
何処からかディヴァインの高笑いが聞こえた。
「ディヴァイン！何処にいる！？」
「遊戯さん、上です！」
そう言う遊星が指差す先はＣｃａｒａｙｈｕａの頭の上だった。パッと見は小さな角だがよく見れば紛れもなく人の形をしていた。
「これぞ、地縛神の最終形態『地縛超越神 Ｔｕｋｕｋｕｙ（トゥククィー）』！！地縛神の時代の言葉で終わりを意味する名前らしいが…貴様らに相応しいだろう！」
ディヴァインはなんと地縛神と一体となってしまったのだ。
「さぁ行くぞ。Ｔｕｋｕｋｕｙの召喚成功時に相手フィールドのカードを全て破壊し、その枚数１枚につき２０００のダメージを与える」
「させるか！『シューティング・スター・ドラゴン』の効果を発動！１ターンに１度」
「無駄だ」
『シューティング・スター・ドラゴン』が破壊を無効にする効果を発動しようとした瞬間だった。

シュル…ギュッ

床から伸びた黒い触手のような何かがシューティング・スターを始め、遊戯達のモンスター全てを絡めて拘束する。
「何！」
「Ｔｕｋｕｋｕｙのこの効果の発動に対してあらゆる効果は発動できない。またＴｕｋｕｋｕｙが存在する限り、相手フィールドの全てのモンスターの効果は無効になるのだ」
「なんだと！」
「さぁ全員まとめて消え去れ！！」
「フィールドがダメなら手札だ！『護法の救世者-ゴールド・ゴーレム∞』を手札から捨てることで俺のＬＰを８００回復し、このターンに発生する全てのダメージを０にする」

ユイ:LP 47→847

ユイが手札からカードを捨てると黄金の機械仕掛けの巨人が現れ仁王立ちする。
「だが、破壊はさせてもらう」
Ｃｃａｒａｙｈｕａの口から放たれた衝撃波は遊戯達のフィールドを呑み込む。
「くっ…だけどまだだ！俺達はＬＰが残っている限り戦うぜ！！『インスタント・ネオスペース』の効果で、デッキから戻ってこいネオス！」
「十代さんの言う通りだ！俺は破壊されたセットカードの中にあった『リミッター・ブレイク』の効果でデッキから『スピード・ウォリアー』を特殊召喚！」
「俺もだ！『ＺＷ-雷神猛虎剣』の効果でホープは生き残る！！」
「まだ諦めないか…。ならばよかろう。貴様らに残されたモンスターを全て砕いてやる。バトル！！」
Ｔｕｋｕｋｕｙが攻撃態勢に入ると恐ろしいことが起こった。



地縛超越神 Ｔｕｋｕｋｕｙ ATK ∞ VS Ｅ・ＨＥＲＯネオス　スピード・ウォリアー　Ｎｏ.３９希望皇ホープ


「攻撃力が無限大！？」
「そう。バトルフェイズの間、地縛神は攻撃力の上限がなくなり、絶対不敗の邪神となるのだ！消え去れ！！」
Ｔｕｋｕｋｕｙから衝撃波に遊戯達のフィールドのモンスターが包まれていき、その余波で十代･遊星･遊馬が後方に吹っ飛ばされる。
「みんな！」
「…ﾊｧ…ﾊｧ…だ、大丈夫だ…」
「ユイがゴールド・ゴーレムを使ってなかったらヤバかったぜ…」ｾﾞｪｾﾞｪ
ユイの呼び掛けに吹っ飛ばされた３人は立ち上がる。ノーダメージとはいえ、現実の痛みがあるためか遊星は肩で息をしながら、十代も苦笑いしながら立ち上がる。
「ﾊｧ…ﾊｧ…。『ＺＷ-風神雲龍剣』の効果でホープは戦闘では破壊されない！」
衝撃波が止むとフィールドにはホープだけが生き残った。
「これで私はターンエンド。…よかろう。どう足掻くのか、楽しませて貰うぞ」



全員のＬＰが虫の息の場面で現れた攻撃力∞の強敵…。遊戯達はそれでも戦うことを放棄はしなかった。遊戯が先陣を切ってドローする。
「俺のターン、ドロー！！」
「この瞬間、Ｔｕｋｕｋｕｙの効果発動！」

ディヴァイン:LP 3800→7600

「ＬＰが２倍になっただと！？」
「各プレイヤーのターン開始時に私のＬＰが２倍に増えるのさ」
「っ…！俺はモンスターを裏守備表示で出し、カードも２枚伏せてターンエンド」
「フッフッフッ…。さしもの名も無きファラオの魂も打つ手なしか…」
「黙れ！」
「だがそれもここまでのようだな。Ｔｕｋｕｋｕｙの効果発動。ターン終了時、セットカードは除外される」
ディヴァインがそう言うと遊戯のフィールドの床は突然黒く変色し、そこにズブズブ引き込まれるように埋まっていく。
「何！？」
「これで君は死 んだも同然。私のターンが廻った瞬間がお前の最期だ」
「くっ！」
「遊戯さん！俺が絶対に突破してます！！俺のターン、ドロー！！」
「Ｔｕｋｕｋｕｙの効果でＬＰは再び倍になる」

ディヴァイン:LP 7600→15200

「お前自体は倒せないかも知れないが、その邪神なら倒せるかもな！」
「ほう」
「俺は魔法カード『Ｏ-オーバーソウル』を発動してネオスを復活！！そしてバトルだ！！」
「愚かな」
「そいつはどうかな？俺はこの瞬間、手札から『オネスト』の効果発動！！これでネオスの攻撃力も∞になる。行け、ラス・オブ・ネオス！！」

Ｅ・ＨＥＲＯネオス ATK ∞ VS 地縛超越神 Ｔｕｋｕｋｕｙ ATK ∞

ネオスがオネストの光の力を受けたパンチの一撃をＴｕｋｕｋｕｙの腹部に決めるが…



グニュングニュン

ネオスの拳が体に埋まり抜こうとするうちにネオスの体は徐々に黒ずんでいき、とうとう戦闘破壊されてしまった。
「なっ！」
「Ｔｕｋｕｋｕｙは戦闘によっては破壊されない」
「そんな…じゃあ…」
「そう…お前達の行き着く先は破滅でしかないのさ」
「へっ！でも俺にはまだ仲間がいるぜ。…遊星。それに他のみんな」
「はい」
「俺が出来そうなのはここまでだ。後は任せたぜ。ターンエンドだ」
「…はい！俺のターン、ドロー！」
「私のＬＰは再び倍になる！…不動遊星、お前の信じる絆、すぐに壊してやろう」

ディヴァイン:LP 15200→30400

「いいや！絆は砕けない！！俺は手札からモンスターを捨て、チューナーモンスター『クイック・シンクロン』を特殊召喚！続けて『シンクロン・キャリアー』を召喚。『シンクロン・キャリアー』の効果で俺はもう一度シンクロンモンスターを召喚できる。これで俺は『シンクロン・エクスプローラー』を召喚して『ジャンク・シンクロン』を特殊召喚。俺はレベル２の『シンクロン・エクスプローラー』にレベル３『ジャンク・シンクロン』をチューニング！来い、『カタパルト・ウォリアー』！！『シンクロン・キャリアー』の効果でフィールドにシンクロントークン１体を特殊召喚し、レベル１のトークンとレベル２の『シンクロン・キャリアー』にレベル５『クイック・シンクロン』をチューニング！！集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光さす道となれ！シンクロ召喚！粉砕せよ、『ジャンク・デストロイヤー』！」
遊星のフィールドに２体のシンクロモンスターが並び立つ。
「俺は『カタパルト・ウォリアー』の効果で『ジャンク・デストロイヤー』をリリースし、元々の攻撃力の数値、２６００のダメージをお前に与える！急降下射出(ダイブ・カタパルト)！！」
「そうか、戦闘は無理でも効果ダメージなら！考えたな遊星くん」
「よっしゃあ！行け、遊星！！」
一矢報いる事が出来るかも知れないと遊戯と十代が感嘆の声を挙げる。しかし、その僅かな喜びすらディヴァインの無情な一言で引き裂かれることになる。
「この瞬間、Ｔｕｋｕｋｕｙの効果を発動」
「何！？」
「どれだけ効果があるんだよ！」
「相手が私にダメージを与える効果を発動した時、そのダメージを無効にし、その与える筈の数値の倍のダメージを与える。つまり不動遊星、お前に５２００のダメージが入ると言う訳だ」
「な！」
『カタパルト・ウォリアー』が射出したデストロイヤーの弾がＴｕｋｕｋｕｙに当たる寸前で止まり、倍の大きさになって遊星めがけて落ちてきた。その時、動いたのは
「危ない！俺は手札から『ＥＭレインゴート』を捨てることでそのダメージを０にする！！」
遊矢である。遊星の前にナイトブルーの布が広がり、跳ね返された弾と相殺する形で消滅した。
「すまなかった、遊矢君」
「いいえ！それよりも」
「ああ…。あと考えられそうなのは…。だが俺にはこれ以上…すまない、ターンエンドだ…」
「遊星、諦めるな！俺のターン、シャイニングドロー！！」

ディヴァイン:LP 30400→60800

「俺は希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築！カオスエクシーズチェンジ！！」
希望皇ホープが光の渦に吸い込まれ直後、光が溢れだす。
「現れよ、ＣＮｏ３９。混沌を光に変える使者。希望皇ホープレイ！！」
希望皇ホープは黒く変化した新たな姿でフィールドに舞い戻る。
「さらに手札から『ＺＷ-天馬翼剣（ペガサス・ウィングツインブレード）』を攻撃力１５００アップする装備カードとしてホープレイに装備！」
金色に輝くペガサスが変形し、２本の剣としてホープレイの手に握られる。
「俺のＬＰが１０００より少ない場合、天馬翼剣の効果によりホープレイの攻撃力を半分にすることでダイレクトアタックが可能になる！行け！ホープ剣・シャイニングウィング・スラッシュ！！」
変形した２本の剣が黄金の光を放ちながら、羽ばたき立つようにホープレイを高く跳躍させる。

ＣＮｏ.３９ 希望皇ホープレイ ATK 2000　直接攻撃

「ふん」

ディヴァイン:LP 60800→58800

「よし！戦闘ダメージは通る！俺はこれでターンエンド！！」
再び見える僅かな希望。それは後に続く遊矢とユイにも伝わる。
「俺のターン、ドロー！」

ディヴァイン:LP 58800→117600

「俺はスケール６の『ＥＭギタートル』とスケール２の『ＥＭペンデュラム・マジシャン』でペンデュラムスケールをセッティング！ギタートルのペンデュラム効果で１枚ドロー。ペンデュラム召喚！現れろ、俺のモンスター達！『ＥＭブランコブラ』『ＥＭバラクーダ』『ＥＭオッドアイズ・ライトフェニックス』！！ペンデュラム・マジシャンのペンデュラム効果により、フィールドのＥＭモンスターの攻撃力は１０００アップする。さらにブランコブラを対象にし、オッドアイズ・ライトフェニックスをリリースすることで攻撃力を再び１０００アップさせる」
みるみるうちにブランコブラの攻撃力は上がっていく。しかし遊矢の顔は何処か苦しそうである。
「バラクーダの効果でブランコブラの攻撃力が変化した数値分、攻撃力をさらにアップ。そしてブランコブラは相手にダイレクトアタックが可能。行け！ブランコブラ」

ＥＭブランコブラ ATK 4300

「…」

ディヴァイン:LP 117600→113300

「…ターンエンド」
「俺のターン…」
ユイがドローしようとした時だった。
「ユイ…いや、他のデュエリスト諸君も、もう分かっているのだろう？








このデュエルは絶対に勝てないと」

ディヴァインのその言葉が全員の心にグサリと刺さる。
「確かに九十九遊馬や榊遊矢が示したように私に戦闘ダメージは通る。しかしだ。そのダメージも数万単位のＬＰからすれば微々たるもの。君達のターンが何度巡ってきたとしても私のＬＰを０にすることは到底不可能」
ディヴァインの嘲る言葉に誰も反論できない。全員声こそ出さないものの、内心は健闘しても何も救えない悔しさとそれを覆せない己の非力さの嘆きで掻き乱されているだろう。
「伝説も友情も、絆も希望も笑顔も全て私の前では無力ということだ。さぁ大人しくサレンダーしたまえ！歴戦のデュエリスト達よ！！」
一通りディヴァインが喋り終わるとシンと静まる。Ｔｕｋｕｋｕｙの僅かな呼吸音がだだっ広い空間に反響する。
「… … … 確かにそうかもしれないな」
その沈黙を裂いたのはユイであった。
「どう考えてもお前を倒す手段が浮かばないからな。とっとと諦めてサレンダーしろ、…理屈ではお前が正しいだろう」
「ほう。話が早くて助かるな。では」
「だけど、この場にそんな事をする奴はいないだろうさ」
「なんだと」
「たとえ負けることが絶対に避けられない運命だとしても、デュエリストとして、守りたいものがある人間として、全部を諦めるなんてことはしたくない」
「決して勝てないと分かっていてもか？」
「馬鹿だと思えば笑えばいいさ。けど、守りたい存在まで捨てて諦めるよりも、それのために最後の瞬間まで戦うことの方がずっと良いに決まってる！だから俺はサレンダーせず、ドローする！」

ｼｬｷｰﾝ

ディヴァイン:LP 113300→226600

ドローしたカードを見た瞬間、ユイはディヴァインに語りかけた。
「…ディヴァイン」
「なんだ」
「最後に確認したい事が２つある」
「何を今さら。だが、まぁここまで楽しませてくれたせめてもの敬意だ。訊きたまえ」
「まず１つ。お前を倒せたら本当にカオスジェネレーションシステムは止まるか？」
「まぁそうだな。最もそれはもはや叶わない夢物語だがな」
ディヴァインのその答えを聴いてユイの口角が少し上がる。
「そうか…。じゃあ２つ目だ。





俺達６人の中で１人でもＬＰが残っていれば、こっちの勝ちで良いんだよな？」



カオスジェネレーションシステム
稼働準備完了まであと　１８分