第63話　柳生八兵衛、未知との遭遇　作：ター坊

~柳生サイド~

「これでトドメだ！」
「ぬぉお！」

今、拙者はゴーシュ殿に式霊決闘の練習試合をして貰っていた。勝てたものの、まさに紙一重。徳川家決闘指南役ともあろうにここまで苦戦するとは…。この国の決闘者の実力は相当なものと言うことであろう。
「フーッ。いいノリだったぜ、八兵衛！」
「いえいえ。ゴーシュ殿こそ。得苦師伊頭の使いこなし、かなりのものでしたぞ」
ゴーシュ殿を始め、ここにいる大半の決闘者は融合･秦苦露･得苦師伊頭･偏出湯羅武のいずれかを使いこなしておる。しかもそれが女子供にもいるから驚くばかりだ。
されど、それは悲しいという見方もできる。戦の武器である決闘籠手を若者や女子供が付けてまで戦わねばならぬとは…。皆笑顔が溢れているがその裏では悲しみを背負っているに相違ない。
「ん？もうこんな時間か。そろそろ昼飯出来てる頃だろうし、戻るか」
「左様か。確か一階であったな」
拙者とゴーシュ殿は訓練場を出た。





「おう！ユイ。今日の昼飯はなんだ？」
「いや、俺は今日補佐しただけで、メインで作ったのは明日香さんと璃緒だぞ」
「どうぞ召し上がって下さいな」
そう言って璃緒殿と明日香殿は作られた料理を持ってきたが…
「り、璃緒殿…これは一体…」
「え？それはですね…」
何であろうか？今までにない戦慄を覚えた。

焦げ茶色のとろりとした液体


少々見える黄色の膜のようなもの



皿の縁に僅かに付いている血が掠れた跡




何であろう？これがこの国の飯ということであろうか？昨日の夕食と今朝の定食で油断しておった。

ﾋｿﾋｿ「ねぇユイ君。柳生さん、すごく困ってるようだけど…」
ﾋｿﾋｿ「少々、早すぎたのでは？」
ﾋｿﾋｿ「柳生さん達にも洋食を…って思ったが、やっぱそうなるかなぁ？」

はっ！そうだ。これはユイ殿達の心遣い！ここで拒絶すれば皆を悲しませてしまう。姫だけでなく拙者らの命まで助けてくれた御恩、こんなことで無下にはできぬ！

「あ、璃緒さん、明日香さん」
「きょうは璃緒おねえちゃんと明日香おねえちゃんがつくったの？」
「ええ、そうですよ」
「うーん。さすが僕の妹…。いい子だなぁ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ
「ちょっと兄さん、恥ずかしいからやめて/ / /」
そこに現れたのは吹雪殿、龍可殿、アユ殿であった。まずは彼らの様子を見よう。
「いたただきまーす」
はてさて、この飯、なんなのであろうか？

カチャ、カチャ…

なるほど、この鉄の小さな杓文字のような物で掬って食せば良いのか…む！なんだあの血のように赤いものは！？いや、あれは……米だ！それにしても赤飯よりも濃い赤だ…。
「ん？八兵衛おじさんどうしたの？」
「…む！？あ、いや」
まずい、このままでは…。そう言えば姫と又左衛門殿はいずこに…。ここは同志を呼び込もう。
「あー…。時に又左衛門殿と姫はいずこに？」
「有馬のおじいちゃんは梶木さんと権現坂さんと一緒に落とし物を取りに行くって出掛けましたよ」
「遊月姫は舞さん達に連れられて洋服の試着をするって言ってたね。女の子同士、いいものだよね」
「さ、左様か…」
当分、来そうにないか…。
「あの…柳生さん？やっぱり洋食は…抵抗あったかな？」
「いや、ユイ殿！ありがたく頂戴致す！」
言ってしまった！もはや拙者の後ろに退路なし、まさに背水の陣！柳生八兵衛、参る！



小さな鉄の杓文字を手に取り-


焦げ茶色の液体を切り裂き-


血塗られた米と黄色の膜と焦げ茶色の液体を掬い上げ-


口に運ぶ-。

む！




旨い？

「これは…」
旨い！特にこの焦げ茶色の液体！野菜やキノコの甘味、旨味が蕩けて深い味わいがある。それにこの黄色の膜、卵のようだ。ふんわり、そしてとろりとした食感が舌で踊る。そして最も気になった血塗られた米。細かく切られた野菜や魚肉もあり、酸味がそれらを取りまとめる。これら三つを重ねた味わいは
「絶品だ！！」
未だかつてない味わい。まるで今までの味覚の壁を越えたような気分だ！
「おっ！気に入ってくれた！」
一口、また一口と進む。
「美味しそうでなによりね」
「して、これはなんという飯で？」


「オムライスのデミグラスソースですわ」