第86話　それぞれの思い　作：ター坊

あれからメアリーと話し合い、この船で暮らしても良いと言うことになり、俺達は引っ越しを行った。とは言っても船とDuelyは目と鼻の先のため大袈裟なものではなく、生活用品や衣服を移した程度だ。
それにしても仲間の人数が増えるにつれ寝床が狭くなっていた俺達には朗報だった。船内には元クルーの部屋がいくつも存在し、一部屋につき3~4人分のベッドがある。それにクルーの部屋だからと言って粗野な造りではなく、ちょっとしたホテルのような内装で全員が満足した。
俺は今、あの少女をベッドに運び入れた所だった。やはりかつて襲ってきた敵に警戒してるためか、みんなはあまり近寄りたがらなかった様子であったが、俺自身が拾って連れ帰ると言った以上ちゃんと看るつもりだ。それにしてもよく眠っている。

トントン

誰かがドアをノックした。
「どうぞ」
ガチャとドアが開く。
「黒咲か。どうしたんだ？」
「ユイ、一体いつ打って出るつもりだ？」
単刀直入だなぁ。
「打って出るも何も、遊矢達を先導している敵の正体や出現場所が分からない以上、出ようがないだろ」
「しかしいつまでも後手に回る訳には行かないだろう」
「無闇に動いて誰かが拐われたりしたら元も子もないだろ。それにこの子が起きたら、たぶん色々聞き出せると俺は踏んでいる」
「ならばとっとと叩き起こせ」
「無理矢理起こされてお前は質問に答える気はあると思うか？」
「……っ！ならば好きにしろ」
そう言って黒咲は部屋を出ていってしまった。しかし、黒咲の言い分も分かる。最も信頼した仲間が敵となった動揺は広がっている。かつての仲間と戦うことも皆の負担となるだろう。早くこんな辛い戦いに終止符を打たなければな。その為には元敵サイドにいたこの子から情報を聞き出さなければ。
「早く起きて話を聞かせてくれよ？」
俺はベッドで寝息を立てる少女の寝顔を眺めながら独り言のように言った。




~城之内サイド~

俺はベッドに寝転んで天井をボンヤリ眺めていた。あの時の遊戯の顔が離れねぇ。
「城之内。どうしたんだ？」
「ゴーシュか」
部屋割りでゴーシュとは同じ部屋になったんだっけか。
「…自分が情けなくてよ」
あの時、ユイに遊戯と闘らせてくれとか言いつつも俺は何も出来ず吹っ飛ばされただけだ。
「情けねぇ？らしくねぇノリだな」
「確かにそうかもな」
俺が悩むなんて柄じゃない。
「お前だったら馬鹿みたく突っ走っていくんじゃねぇのか？」
「な！ゴーシュ、馬鹿みたくは」
その時、俺はハッとした。いっつもそうしてきたじゃねぇか。正面からぶつかって戦友(ダチ)を振り向かせる。それだけじゃねぇか。
「…なぁ。ゴーシュ。暇か？」
「そうだな」
「ならいっちょデュエルしてくれねぇか？なんかやってないと落ち着かねぇんだ」
「それでこそ城之内らしいノリだぜ！」
俺達はデュエルディスクを持って部屋から飛び出した。




~権現坂サイド~

不動-

不動--
「あ~ら権現坂のダンナ~。こんなところで何してるの？」
「おジャマイエローか」
船のデッキで風に吹かれながら座禅を組んでいるとおジャマイエローがどこからともなくやって来た。
「お前こそどうしてここにいる？万丈目はどうしたのだ？」
「なんだか十代のダンナに会ってから落ち込むようになって側に居づらいってゆーかー」
万丈目もか。俺とて遊矢の変わりように、救い出さねばと思ったが自分に出来るか不安になっていた。
「すまぬが他を当たってくれ。俺も万丈目と同じ気分だからな」
「は~い」
そう言っておジャマイエローはフヨフヨと去って行った。
「遊矢…！どうすればお前を救えるのだ」
少し空を見た後、俺は再び目を閉じ、集中を始めた。