第173話　大団円　作：ター坊

遊戯達は空から爆発後の遊園地を眺めた。正面ゲートの辺りまで焼け、店もアトラクションも燃えカスと屑鉄と化し、火は収まらずあちこちから黒煙が立ち昇る。遊戯達は最初に着陸した駐車場に降り立ち、お互いの無事を確認した。
「遊戯やっt…あ？」
「…」
城之内がハイタッチしようとしたが、遊戯を始め、十代･遊星･遊馬･遊矢の表情は暗く沈んでいた。
「あの…ユイ様…」
「ああ…。ユイは…」
十代は申し訳なさそうに背負ってたユイをそっと降ろす。ユイは目を閉じたまま、呼吸してるかどうかも分からない程、静かに眠っているかのように微動だにしない。
「ユイに…何があったの…？」
「実は…」
遊星がディヴァインとの最終決戦について語り始める。



ブレティエルの猛攻




全員の連携による攻防





新たに現れた地縛超越神




「そしてユイはディヴァインと相討ちの形で…」
「そんな…！」
遊月と美羽はその場に崩れるように座り込み、横たわるユイの手を握る。
「ユイ様…貴方はまた…無茶なことを…」ｳｩ
「ユイ…帰ってくるよね…？何度危ない目に遭っても、笑って戻ってきてたよね？だから…今回も…」ｸﾞｽｯ
二人の声が涙で掠れていく。握ったユイの手にはまだ温もりが残っていたが、いつまで続くのか…。

















~ユイ サイド~

「…ここは」
草の香りで目が覚めた。目を開けると背の高い植物に囲まれた青空が映る。起き上がると何処までも続く向日葵畑。いつも姉さんと会っていた場所だ。
「そうか…」
確か俺はＴｕｋｕｋｕｙと相討ちになってＬＰが０になって…。ディヴァインは命の保証はないと言っていたから、つまり俺は…
「……死んだのか…」
まだ死んだという実感が湧かないせいか、それとも後悔がない死に方ができたせいか、それほど恐怖心は感じなかった。







フゥ

頬を撫でるそよ風。これが天国の感触なのかと思っていると
「ゆう君いらっしゃい」
聞き慣れた声がした。




「お迎えが姉さんとはな。まぁ恐そうな死神よりはいいか…」




「え？何の事かしら」




「ん？だって俺はディヴァインと相討ちになって死んで、ここは天国とかじゃないのか？」









「え？ゆう君はまだ生きてるよ？」
「えっ！？」
鳩が豆鉄砲を食ったようとはまさにこの事。あまりの思い違いに自分でもすっとんきょうな声をあげてしまう。
「え、でも俺のＬＰはあの時０に…」
「それは違うわよ」
姉さんはチッチッチッ甘いわねと言った感じに指を振って俺に１枚のカードを見せる。
「これは…『救世の鎮魂歌』…？これはただのドローソースで…まぁ下にも何か書いてあった気はするけど…」
「それじゃあカードのテキストをよーく読んでみましょう♪」
姉さんは楽しそうに言う。


救世の鎮魂歌
通常罠
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できず、②の効果はデュエル中１度しか発動できない。
①：自分フィールドの表側表示の「救世者」モンスター１体をリリースして発動できる。自分のデッキから２枚ドローする。この効果を発動するためにリリースしたモンスターがレベル７以上またはＸモンスターだった場合、この効果でドローする枚数は３枚になる。
②：自分ＬＰが１００より多く、自分ＬＰ以上の数値の戦闘ダメージを受ける時、そのダメージ計算時に墓地に存在するこのカードを除外して発動する。




『そのダメージを受けても自分ＬＰは１００残る。』

「あっ…」
「分かってくれたかな？」
今までただのドローソース+何かの効果があるくらいの認識のカードだったが…。しかもご丁寧に『する』という強制発動のため相討ちの瞬間、デュエルディスクが勝手に処理したんだろう。
「ゆう君。プロになるんだったら、ちゃんと自分のカードを把握しなきゃダメじゃない」
「…はい」
つまり俺は死を覚悟して相討ちになろうとしたが、うっかり見落としてた効果のおかげで命拾いしたというわけだ。
「何か締まりないなぁ…」
「そう？良いじゃない、結果オーライで」
あの決死の覚悟は何だったのかという徒労感と、相討ち前の大見得切った時を思い返した際に込み上げる恥ずかしさ、それらが混ざった形容し難い感情に顔を曇らせる俺に姉さんは能天気な笑みを浮かべながら励ましてくれた。
「…でも良かった」
「…そうだね」
こんな事もいつかは笑い種として語れる日も来るだろう。今は生きて遊月と美羽の元に帰れることが何よりも嬉しい。
「それと姉さん」
「ん？」





そう、俺はもうひとつ大事なことを思い出したんだ。








「漸く、って感じかな。自分の名前…思い出せたよ」
そう。ディヴァインと相討ちになって爆発と閃光に包まれて吹き飛ばされ、頭を強く打った時、ポンッと飛び込んだように俺の名前が入ってきたのだ。
「そうなんだ♪良かったぁ♪」
姉さんはあまりにも嬉しかったのか、俺の顔を胸に抱き寄せてキャイキャイ喜ぶ。
「ちょっ！姉さん苦しい…」
「あら？ずっと分からなかった自分の名前が言えるって素晴らしいじゃない♪」
「まぁ…みんなに言うつもりはないけど」
「え？そうなの？」
「うん…」
姉さんの胸での拘束が緩んだうちに離れる。
「俺が『ユイ』でいる期間があまりにも長かったから…。今回の騒ぎが終わって全員が元の世界に帰る手前で本当の名前を言ってもしょうがないというか…。一緒に戦い抜いたみんなの記憶の中では『ユイ』のままで良いかなって…」
「でも…」
「俺の本当の名前を言うのは騒ぎが終わってもずっと一緒にいることになる人にだけって思ってるんだ」
まぁ既にその人間には二人目星が付いているが。
「そう…なんだ」
一通り会話が終えると日差しがカッと強くなる。
「…そろそろ行かないと」
「ゆう君」
「？」
「最後に１つだけ良い？」
「何？」
「全部終わって落ち着いた後で良いから、『本当のここ』に来て欲しいの」
「本当の…あっ」
どこまでも続く向日葵畑。この風景、何処か引っ掛かるものがあると思ったら…。
「ああ。夏の頃にでも…」
そう言って俺の意識は戻っていった。
























「実は…ユイさんが最後に二人へ伝えて欲しいってことが…」
遊矢が今まさにあの伝言を言おうとする瞬間だった。
「―はっ！」
俺はガバッと起き上がった。
「っ！？」
全員が息を呑むが真っ先に抱き着く二つの感触があった。






「良かった…ユイ様…。本当に…」
「もう…心配したんだから…」
「ごめんな遊月、美羽…。それと…ただいま」