第64話　お姫様のファッションショー　作：ター坊

~遊月サイド~

「…舞様…。これは？」
「とりあいずこれを着けて貰わないと…ねぇ？」
「でもそれはいきなりレベルが高いような気が…」
「舞さん、そうですよ」

私は舞様、アキ様、小鳥様に連れられてとある部屋にいます。そこには布で作られた物が吊るされていて、とても色鮮やかでした。小鳥様によるとこれらがこの国の召し物だとか。確かに、皆様のお召し物も似た形状をしておりますが…。舞様に手渡された品は明らかに違う形でした。とても小さい黒っぽい物で二つに分かれている。どう着れば良いのでしょう？
「舞さん、シースルーの黒はいくらなんでも…」
「やっぱりもう少し普通の感じが」
「あら？でも遊月ちゃんは大人っぽい見た目だからねぇ」
「あの…これを皆さんはどのように着けていらっしゃるのでしょうか？これの着付けを見せて頂けませんか？」
私がそう言った瞬間、皆様固まりました。
「わ、私は子供だからそういう過激なものは…まだ…/ / /」
「えーっと…その、私もちょっと…」
「そ、それじゃあ早速着けてみる？」
「は、はぁ。…舞様、よろしくお願いします」
私は舞様と一緒に個室に入りました。


外とは大きな布で仕切られた狭い一室。目の前には磨かれた鏡があり、私と舞様をくっきりと映しています。
「じゃあまず、脱ぎましょうか」
「えっ？襦袢も、ですか？」
「そうよ？これは肌に直接着るものだから」
「は、はぁ…」
私は舞様に促され、言われるがままにするり、するりと着物を、襦袢を脱いでいきました。女同士と言えど、こうも密着されると気恥ずかしいものです。けれど、皆様私のためを思ってして下さっていること。私もそれに応えねば。
「それじゃ、まずこれに脚を通して…」
最初に藩手伊(ぱんてぃ)を履いてみました。するりとした着心地はなかなか良いです。それを腰くらいまで引き上げる。
「次はブラだけど…ちょっと難しいわよ」
「はぁ…奉裸？」
そう言って舞様は私の胸に奉裸を当て、後ろで紐先に付いた鍵爪に引っ掛けるように着せてくれました。確かにこれは一人でやるには慣れが必要そうです。
「あの…舞様…。この国の女性のお召し物の下はみなこういう感じなのですか？」
「そうよ。どう着け心地は？キツかったりしない？」
「はい、大丈夫です」
「遊月ちゃん大きいからね。ちゃんと合うサイズがあって良かったわ」
「はぁ…/ / /」
「じゃあ次は服行ってみましょうか。ちょっと待っててね」
そう言って舞様は大布を捲り、部屋を出ていきました。

一人残された私。胸と股以外の肌は晒され、とても恥ずかしい。けれどそれと同時に私もあと少しで皆様と同じような可愛らしい召し物を着れると思うと楽しみでもある。
…お春さんもいれば、もっと楽しいでしょうけど…。
あの大きな雷に巻き込まれ、この国にやって来た日。そこにお春はもういなかった。お春は私が幼少の頃よりいる女中で、早くに母上を亡くした私にとって、母や姉のような存在でした。お春さん…貴女と一緒にまた笑いたいです…。どこかで無事でいますよね…？

「遊月さんお待たせ~。こんな感じの服でどうですか？」
「小鳥様」
「私もお着替え手伝いますよ」
まずは小鳥様が来ました。この国の召し物に慣れない私に着付けを教えながら着せていく。
「最後にこれで止めて、出来上がりです！」
「これは…」
鏡に映ったのは全く別の私です。
「あら？それが小鳥ちゃんのコーデ？」
「上手くまとめたわね」
召し物を抱えて舞様とアキ様も来ました。
「黒とグレーのストライプ柄チュールスカートに、トップスは薄い黄色にしてみました」。
「…少し肩が出てますね。大丈夫でしょうか…」
「そこが可愛いらしいんですよ♪」
「そう…ですか？でも…可愛いのは確かですね」
「エヘヘ。そう言ってもらえると嬉しいです」
肩の露出は恥ずかしい気もしますがきっとこの国の良い文化なのでしょう。

「さぁ次はアタシね」
「はい、よろしくお願いします」
今度は舞様が持ってきてくれた召し物です。御三方の中では年長ですが、どんなものを…？
「さてと、最後にベルトで締めて…っと」
「どう…でしょうか？」
「さぁ？みんなに見てもらいましょ？」
舞様はそう言って部屋の大布を払いました。
「舞さんはデニムにしたんですね」
「トップスは白のシャツでカジュアルな感じにしたのね」
「どう？遊月ちゃん？」
「はい、先程の小鳥様の召し物は可愛いのに対して、舞様のは勇ましいというか…かっこいい感じです。女性は愛らしくすべきと思っていましたが、こういうのも良いですね」
「気に入ってもらったみたいで良かったわ」

「最後は私ね」
「アキ様、よろしくお願いします」
アキ様は私と同い年くらいですけど、どんな召し物を選んで下さったのか？
「これを付けて…良し！」
着付けが終わったのと同時に大布が取り払われる。
「わぁ♪花柄ワンピ可愛い」
「森ガールってところね」
「なんだか遊月さんって神秘的というか…そんな感じがして」
「一輪の花の絵…可愛らしいです。ふんわりしてて…フフッ」
いつもの自分とは違う様々な自分を見て自然と口元が緩む。
「そうだ。じいやや八兵衛にも見せましょう」
「それはいいわね」
「きっと有馬おじいちゃんも八兵衛さんもびっくりしますよ！」
「この時間だと…みんな食事かしら」
「行きましょうか？遊月ちゃん？」
「はい」



私たちが降りてきた時には皆さん食事をしておりました。
「八兵衛~。少しよろしいですか？」
「姫？……！そのお召し物は？」
「アキ様が選んで下さったこの国の召し物です。どうでしょうか？」
「おぉ…。可憐ですな…。その花の絵も美しい…」
「うーん。胸キュンポイント25獲得」
「へぇ。洋服も似合うんだな」
「遊月おねえちゃん、かわいい♪」
「そうですか？」
八兵衛だけでなく他の皆さんも褒めてくださいました。そうだ。あっちも見せましょう。
「遊月ちゃん、ちょっと待った！」
「舞様？」
「あの…遊月さん…？どうして…ワンピースの裾を捲ってるんですか？」
「えっと…藩手伊を見せようと」
「遊月さん…？」
「アキ様、なんでしょうか？」
「下着は見せるものじゃないのよ？」
「えっ？」
「その…自分からパンツを見せるのは…」
「分かりやすく言うと破廉恥…かしらね？」
「へ？そ、そう…なのですか？わ、私ってば…/ / /」
あぁ…。知らぬ事とはいえど姫として、いえ、女としてなんてことを！穴があったら入りたいとはこの事です！
「えっ、えーっと、そ、しょういえば、じ、じいやはどきょでしょうか？」
話を反らそうと話題を変えようとしましたが、恥ずかしさのあまり口が回らない。
「確か有馬さんは落とし物をしたとか言って梶木と権現坂と一緒に出掛けたな」
「そ、そうでしゅか…」
あー。破廉恥なことしようとしたり言葉をかんだり、恥ずかしい……。






~？ ？ ？サイド~

とある城の一室。
「まだ徳川の姫は手に入らぬか。柴田はどうした？」
「はっ。帰ってきた兵達によると地を割るような稲光のあと、神隠しの如く柴田殿と一部の兵、及び追い詰めていた徳川の残党と遊月姫も消えたとのこと」
「神隠し？フンッ！是非もなし！」
「ウキャキャ！殿。お怒りをお鎮めを！」

「よろしければお手伝いしましょうか？」

「な、何奴！？曲者か！ウッキー！」　
「き、貴様、どこから？」
「サル、蘭。控えい！」
「ほう。信重公。私を不審に思わぬ辺り、器量が深いと見える」
「乱波なれば、すでにこの信重の首、獲っておるであろう？名を名乗れ」
「私の名はマスターD…。信重公に策の提案をするためにここに参上しました」