第80話　届かぬ声　作：ター坊

赤い流れ星を追って俺達はペガサス城にやって来た。
「決闘者王国以来じゃねぇかなぁ。懐かしいぜ」
城之内は目を輝かせながら言う。
「ふむぅ。これが南蛮の城か…」
「大きいお城ね。御伽話みたい」
「ホント♪そうですよねー」
「こら、柚子、小鳥。俺達は遊びに来た訳じゃないぞ」
「もう。権現坂ったら」
興味深く眺める柳生さん、浮かれた気分の柚子と小鳥、それを注意する権現坂。
「ユイくん。くじ引きとはいえこんな人選で大丈夫なの？」
「まぁ恒例というかな。ベストメンバーも分からないし、良いじゃないか？」
「それに『あのペガサス城に行けるー♪』ってはしゃいだのはどこの誰だか？」
「それは…。やっぱりペガサス城はデュエリストにとっての聖地みたいなものだし…」
不安がる明日香さんに、イジる凌牙。
「具体的にはどの辺に墜ちたんだ？」
「フム。……座標ではこの建造物のほぼ中央だ」
そしてアポリア。これが今回の探索メンバーだ。







門を潜り、中庭を抜けて城内に入る。壁には絵画や彫刻などが飾ってあり、廊下はピカピカに磨かれている。そんな美しい廊下を進むと開けた場所に出る。
「これは…」
「ここで俺や遊戯が最終トーナメントを戦ったんだぜ」
「ここが伝説の決勝戦の！？」
得意気な城之内の話に明日香さんは興奮ぎみだった。
「ここで決勝戦ねぇ…」
「確かに、ここで伝説となったデュエルが行われたとなると、興奮するのも分からんではないな」
見下ろす形で巨大な機械がある。これが城之内達の世界のソリッドビジョンシステムの前身となった物だろうか。
「みんな、そろそろ落下地点に近いぞ」




よくよく考えれば正体についてよくよく考えていなかった。異常事態ではあるが今までの騒ぎのせいでほぼ当たり前な感じがして、異常事態という実感が沸かないでいる。アポリアのように外部の次元から誰か助けに来たのか？はたまた柴田のような新しい敵か？
「この部屋のようだ。開くぞ」
アポリアが一際大きい扉の前に立ち、扉をバッタンと開ける。その部屋はかなり広く、食堂だろうか。映画や漫画の貴族の屋敷に出てくるような長いテーブルに純白のテーブルクロスが敷かれ、高級そうな食器が整然と並べられている。椅子の造りも凝っていて特に上座の椅子はこの城の主の席だろう、特に豪華だ。上を見るととても大きな肖像画が飾られている。椅子に腰掛けている明るい表情をした美女と怖そうな顔つきをしたターバン姿の男の絵だ。美女は分かるがターバン姿の男ってどういうセンスをしてるんだろうか？
「あれのようだ」
アポリアの指差す方向を見るとなんだろうか？巨大な卵のような物体が部屋の隅っこにゴロンと転がっている。俺達はそれに近づく。
「機械…っぽいな」
「金属みたいね」
「面妖な卵ですな…」
表面は金属製のようで光沢がある。
「アポリア。これ何か分かるか？」
「フム。……む！」
「どうした」
「スキャンしてみたが、どうやら中に人間が入ってるようだ」
な、なんだって！？閉じ込められてるということだろうか？
「大変！」
「どうしよう…」
「ちょっと退いてろ！」
城之内と凌牙が叫ぶと椅子をその金属の球体に叩きつける。
「待つのだ、城之内克也！それでは中の人間にも影響しかねない！」
「あ、そうか」

ﾋﾞｰ!ﾋﾞｰ!ﾋﾞｰ!

「な、なんだ？」
「城之内、お前のせいだろ」
「なんだと！？」
「城之内、凌牙。今は言い争ってる場合じゃあ…ん？」
その金属の球体はサイレンの音と共にカッシャンと開いた。
「どうだ！」
「得意気になるなよ！」
「そんなことより、早く出してあげないと」
明日香さんが開いた球体に近づき中の人間を引きずり出す。
「人間の少女のようだな」
「見て。腕に酷い跡…。注射を何本も刺されたような…」
「ひでぇ…」
「この子、どうしたのかしら？」
「待てよ？こいつは…！」
「明日香さん！離れて下さい！」
「え？小鳥ちゃん？どうしたの？」
「そいつは危険だ！」
「城之内克也。この少女について何か知ってるのか？」
アポリア･凌牙･柚子･明日香さん･柳生さんはキョトンとしてしまった。その少女を見て、俺を始め城之内･小鳥･権現坂はあの日の恐怖を思い出す。
「そう言えばみんなは知らなかったな…。その女の子はな…」
俺はあの日のことを話した。火事によって大広間が焼けたこと、俺の元のデッキの半分近くが消失したこと。そしてその女の子こそ、大惨事を引き起こした張本人であると。
「そんな……。じゃあ敵なのかよ」
「つまりこれは罠か！不覚！！」
しかし、罠にしては不可解な点が多い。まず、この子は何故か眠っている。その寝顔は年相応で、なかなか愛らしいものだ。待ち伏せだとしたらこんな呑気に寝てなどいないだろう。それにすぐ戦うならばデュエルディスクをはめているハズだがそれもない。
「待たれよ。この球体、中にまだ色々入っておるぞ」
柳生さんが取り出したものの一つは肩に掛けるタイプのカバンだ。中身を確認すると水が入ったペットボトルと非常食らしきものが数点、デッキケース、それにUSBメモリーも入っている。
「このデュエルディスクは…」
もう一つはこのデュエルディスクだ。襲撃した時とデザインが違い、俺が元々使っていたデュエルディスクと同じ型の量産品のようだ。……つまりこの子も横浜地区とかに住んでたってことなんだろうか？
「ユイさん…。どうしよう…」
「敵に情けは無用。このまま帰るべきだ！」
「でもこのまま放置も可哀想だわ」
権現坂の意見も柚子の意見も最もだ。どうしたものか。



「ソイツを渡せ」

誰だと振り向くとそこには二人の青年がいた。

「ゆ、遊矢だよね…？」
「どうしたのだ！？遊矢！まさかまた！」
「どういうことだ、権現坂」
「あの雰囲気…。何かに取り憑かれてるような感じだ…。あの時の舞網チャンピオンシップのバトルロワイヤルのように…」

「遊戯！お前、無事だったのかよ！」
「ハァッ！！」
城之内が一人の青年―遊戯に駆け寄ろうとすると、遊戯は手を前に突き出した。
「うわ！」
「きゃ！」
「ぬぉ！」
凌牙以外のみんなが吹き飛ぶ。
「テメェ何者だ？ただの人間って訳じゃ無さそうだな」
「俺の闇の力が効かないのか？」
「へっ。これでもバリアンのリーダーだからな」
闇の力？俺はそんなもの食らって何故無事なんだろう？そんな疑問を考える暇もなく話は続く。
「城之内君！聞いてくれ！」
「柚子と権現坂もだ！」
「城之内君。君は騙されているんだ！そのユイこそ、倒すべき真の敵だ！」
「遊戯さんの言う通りだ！こんな滅茶苦茶な世界になったのはソイツが原因だ！」
「ちょっと待て！それはクロウにも言われたし、十代も言っていたと聞いている。俺が何をしたと言うんだ！」
「黙れ！」
「遊戯！ちょっと待てよ！ユイはそんな奴じゃねぇ！」
「遊矢！この男権現坂、ユイは充分信用に値する男と保証するぞ！」
「私もよ！ユイさん達とはまだそんなに一緒にいないけど、悪い人とは思えないわ！」
「権現坂、柚子…。どうして…」
「城之内君。……待ってろ！ユイを倒して城之内君の、いや、全員の闇を祓う！」
「遊戯さん！俺も力を貸すぞ！」
くっ。コイツらにはかつての仲間の声も届かないのか？やるしかない、そう思った時だった。




「待ちな！」
「僕達が相手だ！」